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子を虐待した親が、その子の死亡で巨額賠償を得た判決と立法論

子を虐待した親が、その子の死亡で巨額賠償を得た判決と立法論

子Aが、両親Xらに虐待されている疑いがあるとして、Aの入院先の病院Y1の通告により、一時保護のため児童相談所に入所した後、児相職員のミスでアレルギー物質を含む食べ物を口にした直後に死亡した場合に、両親が児相を運営する市Y2にXの損害等として数千万円の賠償請求を認めた裁判例を少し勉強しました。
横浜地裁平成24年10月30日判決・判タ1388-139です(Y2市が控訴中とのこと)。

事案と判決の概要は次のとおり。

X1・X2の子であり当時3歳のAは、H18.6当時、Y1(独法・国立成育医療研究センター)が開設する病院に入通院して治療を受けていた。

Y1は、XらがAに適切な栄養を与えておらず必要な治療等を受けさせていない(いわゆるネグレクト)として、Y2(横浜市)が設置する児童相談所(以下「児相」)に対し、児童福…祉法25条に基づく通告をした。

児相の長は、7月にAを一時保護する決定(同法33条)をした。
Aは、卵アレルギーを有していたが、保護先の児相職員が約3週間後、Aに対し誤って卵を含むチクワを食べさせてしまい、Aはその日に死亡した。

XらはY1に対し、自分達は虐待していないのにY1が虚偽の通告をしたとして、慰謝料等各275万円を請求した。

また、Xらは、Y2に対し、①本件一時保護決定等が違法であり、Aに面会等させなかったことを理由に慰謝料各150万円、②Aの死亡に関し、死亡の原因が卵アレルギーによるアナフィラキシーショックによるもので、チクワを食べさせた児相職員に過失があるとして、Aの損害約6400万円の相続及びXら固有の慰謝料各500万円などの支払を請求した。

Yらは、Xらに虐待行為があったので、Y1のY2への通告やY1の一時保護等は適法と主張し、Aの死亡についても、アナフィラキシーショックではない他の原因によるものとして、因果関係を争った。

判決は、XらのY2に対する請求は計5000万円強(1人2500万円強)を認容し、Xらの対Y1請求は棄却した。

まず、Y1のY2への通告(が違法か)については、XらがAに必要な栄養を与えておらず、Aにくる病(栄養不足等による乳幼児の骨格異常)を発症させ、適切な時期に必要な治療等を受けさせていなかったと認定し、通告は必要かつ合理的で適法とし、対Y1請求を棄却。

次に、Y2の一時保護決定等についても、上記事実関係やY1の医師がAの検査等をしようとしてもXらが同意せず治療等をさせなかったとして、同様に適法とした。

他方、Aの死亡(卵入りチクワの提供)については、本件では、摂取から発症・死亡までの時間が通常よりも多少の開きがあるが、発症までの時間はアレルギー物質が吸収される時点によっても異なり、本件では吸収が相当程度遅くなった可能性があるとして、Aの死因が当該チクワの摂取によるアナフィラキシーショックによるもので、Y2職員の過失も認められるとして、Y2にXへの賠償責任があるとした。

損害額については、近親者慰謝料(Xら各200万円)を含め、上記の金額の限度で賠償を認めた。

判例タイムズの解説には、一時保護決定に関する議論や学校給食でアレルギー物質を含む食事を採った子が死亡した事案などが紹介されています。

が、反面、「虐待親が、虐待に起因して行われた児童相談所への一時保護の際に生じた事故に基づく賠償金を自ら取得することの当否」については、何ら触れられていません。この裁判の中でも、権利濫用等の主張はなされていないようです。

Xらの相続権について考えてみましたが、ざっと関連条文を見た限りでは、Xら自身がAを殺害したわけでないので、相続欠格事由(民法891①等)にはあたらないと思われます。また、被相続人(A)を相続人(Xら)が虐待した場合には、相続人から廃除することができますが(民892条)、その申立は、被相続人(A)のみができるとされ、本件のような場合にはおよそ実効性がありません。

また、Xらの請求を権利濫用と評価する余地があったとしても、Y2の過失そのものは否定しがたく、これを理由にY2の責任を否定するというのも疑問です(Xらも悪いがY2職員も過失があり、前者を理由に後者を免責すべきではありません)。但し、本件ではY2が死亡原因が他にあるとして因果関係を争っており、それが認められれば、賠償額は大幅に減額されますが。

このように考えると、「自ら悪質な虐待行為をしてAの死亡の遠因を作った本件Xらが、Aの死亡で巨額の賠償金を手にするのは不当だから阻止すべき」という価値判断を実現するには、「親の虐待に起因して子が死亡した場合には、公的機関の請求により、親の相続権を制限できる」といった法律を制定するないのではないかと思われますが、どうなのでしょう。

ちなみに、虐待親の親権を制限する趣旨の法改正が昨年に行われていますが、親権の制限は相続権の剥奪とは関係がないと思われ(相続権にまで手をつけた改正にはなっていないのではないかと思われます)、本件のような例でその改正を活かすことも難しいのではと思われます(但し、24年改正はまだ不勉強なので、そうでないとの話がありましたら、ご教示いただければ幸いです)。

なお、虐待親が自ら子を殺害したのに等しい場合は、全部の相続権を剥奪すべきでしょうが、そこまでに至らない場合や親側にも酌むべき事情がある場合には、全部廃除でなく部分的には相続権を認めてもよいのではと思われ、そうした判断は、家裁の審判に向いていると考えます。

また、虐待親の相続権を制限した場合に、回収された賠償金は、同種事故の防止や虐待児の福祉など使途を特定した基金とすれば良いのではないかと考えます。

もちろん、このような考え方自体が、財産権に対する重大な制約だとして反対する立場の方も、我が業界には相応におられるかもしれませんが。

我ながら価値判断ありきのことを書いている気もしますので、あくまで議論の叩き台になっていただければ十分ですが、お気の毒なお子さんの犠牲を粗末に扱わないためにも、こうした事件から、現行法や実務のあり方などに関心や議論が深まればよいのではないかと思っています。

H26.2.12追記

この件の控訴審は、Aの死因がアナフィラキシーショックによるものと断定できず、Y2が主張する他の死因(右心室に繊維化した異常部位が混在していることに起因する致死的不整脈による突然死)の可能性も否定できないので、本件食物の摂取とAの死亡との間に相当因果関係を認めることができないとして、Y2に対する認容判決を取り消し、Xを全面敗訴させています(判例時報2204号)。

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