北奥法律事務所

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事故など

企業施設の重大事故における賠償不払リスクの実情と解決策(後編・中三ガス爆発事件)

先般、報道のあった「盛岡市内の託児施設の塩中毒死事件」を題材に、「重大な事故を惹起した者がその責任をとることができず被害者が放置される事案が頻発しており、保険の義務化(施設開設等の許可条件化)が必要ではないか」という趣旨のことを述べた投稿の後編です。

引用した報道があった直後に前回の投稿をfacebookに載せたところ、震災の発生直後(平成23年3月)に盛岡市の中三デパート地下で発生したガス爆発による死亡事故を巡る問題に関心をお持ちの方から「その件でも遺族が賠償を受けられず、気の毒だった」という趣旨のコメントが寄せられました。

私自身はその事件にも全く関与しておらず詳細を存じませんが、中三が民事再生手続をした関係で同社から遺族にはほとんど賠償金が支払われず、そのため、遺族が(中三も)ガス供給を行っていた会社(地元のガス会社)に対し、過失があったと主張し賠償請求をしています。

そして、ガス会社側(の損保)が巨費を投じて強力な反証を行ったせいか、敗訴してしまったため、なおのこと遺族は辛い思いをしたのだと、コメントを寄せた方は憤慨していました(H30.6.8付の岩手日報記事によれば、遺族に対しては450万円の見舞金を支払う趣旨の和解が成立し、中三からガス会社への訴訟は控訴棄却となったとのことです)。

この件についても、施設管理者たる中三の被害者(遺族)に対する賠償責任は争いがないと聞いていますので(工作物責任でしょうか)、もし中三が施設賠償責任保険に加入していれば、民事再生に関係なく遺族には適正な損害賠償の支払がなされたはずです。

その場合、「中三のガス会社への訴訟」はともかく、少なくとも遺族自身は、責任論に熾烈な争いがあり立証や敗訴などのリスクの高い裁判をガス会社に提訴しなければならない負担を免れることも言うまでもありません。

だからこそ、その件で最も罪深いことは、中三が事前に、その被害を対象とする施設賠償責任保険に加入していなかったことだと言うべきだと思います。

そうした意味では、施設側が賠償責任保険に加入することは、事故の被害者(になりうる者)はもちろん、ガス会社など「施設が責任を果たさないことにより賠償請求を受けるリスクのある者」にも必要有益なことであり、ひいては、その会社らの損保にとっても同様だと思います。

そうであればこそ、中三事件は「施設賠償保険の義務化が必要であることを示す典型例」として、被害者・ガス会社・損保会社の3者が、それぞれの立場で保険義務化=商業施設の開設者(営業主)に施設賠償保険への加入を営業許可等の条件として義務づける制度の導入について声を上げていただければと思いますし、今回の塩中毒死事件も、同じリスクに直面しているのであれば、同様のことが言えるのだと思います。

また、このように保険を通じて早急な被害回復を図る制度は、①加害者自身の救済(更生)、②事故そのものの防止につながることの2点からも、必要不可欠なことではないかと考えます。

交通事故の無保険などを例に出すまでもなく、本件(塩中毒死事件)でも、巨額の賠償責任を個人が果たしうるはずもなく、加害者本人はその重すぎる責任と向き合わなければなりません。何らかの私財をお持ちであれば、それはほとんど全て賠償責任の履行にあてる必要があります(破産免責に関しては、故意との認定があれば悪意不法行為を理由に非免責債権となる可能性が相当にありますが、過失認定だと免責の可能性が高いでしょう)。

交通事故を引き合いにするまでもなく、高額な賠償責任を負うリスクのある業務などに従事する者にとっては、賠償責任保険は、自身を破滅させることなく責任の履行(けじめ)を果たす制度であることは言うまでもありません。

そして、保険の義務化を通じて、損保会社等が保険事故(支払)を減らしたい(それにより収益や保険料抑制による顧客の支持を得たい)という正当な動機のもと、事故防止や業界の質の向上のための取組み(適正な審査と契約拒否だけでなく被保険者への相当な監視・監督、交通事故であれば道路状況や車両装置などの改善を含め)を熱心に行う制度や慣行が確立されるのであれば、高額な賠償責任が生じる深刻な被害の発生そのものが確実に減っていくことでしょう。

そうした制度・慣行が作られるまで、あと一体何人が泣けばいいというのか、政治家云々に限らず、様々な関係者の熱意と行動を強くお願いしたいところです。

企業施設の重大事故における賠償不払リスクの実情と解決策(前編・託児所の塩中毒死事件)

平成27年に盛岡市内の認可外保育施設で起きた「飲料に混入させた塩分の過剰投与に起因するとみられる幼児の死亡事件」は、現在、盛岡地裁の法廷で民事・刑事の双方が審理されています。

刑事事件については、加害者本人(施設責任者)が過失を認めたことから、盛岡地検は略式請求したのですが、被害者の強い意向を踏まえて盛岡簡裁が正式裁判を決定したとの報道があり、全国ニュースで大きく取り上げられた電通の自死事件に類する面があります。

その上で、遺族は「過失ではない、故意だ」と強く主張し、刑事事件の結果を待たずに民事訴訟を起こしたとのことであり、先般、第1回口頭弁論期日の記事が県内で一斉に取り上げられていました。
https://www.iwate-np.co.jp/article/2018/6/1/15487

この記事ですが、岩手日報の紙面では、Webでの表示内容に続けて「被告は弁護士に依頼してない=本人訴訟」と書いてありました。私に限らず、これを読んだ業界人は全員、「この人は無保険なんだ=被害者は回収不能の重大なリスクを負っているのでは」と嘆息したのではないかと思います。

ちなみに、加害者(施設側)が、託児施設内の事故を対象とする賠償責任保険に加入しているのであれば、交通事故一般と同じく、事故直後から損保会社が対応し、訴訟等になれば損保社の費用負担で指定弁護士(特約店のようなもの)が選任され、賠償額も当然ながら損保社から支払われます。

言い換えれば、本人訴訟と書いてある時点で無保険であることが確定したも同然で、しかも、弁護士に依頼していないこと自体、本人の無資力を強く推認させます。

ちなみに、幼児の死亡事故の性質上、賠償義務額は通例で億単位(最低でも5000万円以上)になるはずです。

その上、本件では被害者の方は東京の弁護士さん達に依頼されており、裁判が長期化すれば交通費(と日当)のため、地元の弁護士に依頼するよりさらに数十万円の負担を要することになるはずです。

どのようなご事情かは存じませんが、代表の先生は業界でも相応に著名な方なので、回収可能事案かつ賠償額に争いの余地が大きい事案なら相応の経費を負担してでも第一人者に頼みたい、というのはごく自然なことですが、加害者本人に支払能力がない場合は、さらにお気の毒な事態になりかねません。

私自身はこの事件に何の関わりもなく(当事者双方から相談等を受けたことはありません)、事件報道を最初に目にしたときは「託児施設なんだから施設賠償責任保険くらいは入っているだろう、死亡事故は大変気の毒だが、適正な賠償金の支払がなされるのなら、せめてもの救い」と思っていたのですが、その意味では大変残念な展開になっていると言えます。

もちろん、こうした話は本件に限った事柄ではなく昔から山ほど存在しており、私も残念なご相談を受けたことは山ほどあります。だからこそ、託児施設であれ自動車等であれ、高額な賠償責任を生じる可能性のある仕事等に携わる者には、任意保険の加入を義務化(免許要件)とすべきだというのが、私の昔からの持論です(被害者側の弁護士費用保険の整備も含め)。

私も「名ばかり理事」となっている弁政連岩手支部では、今年になって地元選出の国会議員さんと懇談しようということになり、先日は高橋比奈子議員との懇談会があり、6月には階猛議員との懇談会が予定されています。

私自身は、上記のような「実務で現に発生しているあまりにも不合理な問題とその解決策」を議員さんに陳情すべきではと思っているのですが、キャラの問題か過去のいきさつの問題(会内では「会務をサボるろくでなし」認定されているようです)か、残念ながら内部での意思決定権が与えられておらず自分の会費分の弁当食うだけの穀潰し傍聴人状態が続いています。

内部では「日弁連(のお偉いさん)が取り組んでいる問題を(議員の関心の有無にかかわらず?)宣伝すべき」というのがコンセプトとなっているようで、お偉いさん(や議員さん、世論など)の関心が及ばない限り、今後も残念な構造は放置され、気の毒な事態が繰り返されることになるのかもしれません。

もちろん本件の詳細は存じませんので、何らかの形で適正な賠償責任が果たされることを強く願っています。

私も、かつて県内で発生した保育事故の賠償請求のご依頼を受けたことがあり、本件のような甚大過ぎる被害ではなく、加害者が大企業で支払能力もあったため、適正の範囲内での賠償がなされたとの記憶ですが、ご両親の沈痛な面持ちは今も覚えています。

(H30.9追記)

14日に塩中毒事件で「検察は罰金求刑したが、裁判所は執行猶予付き禁固刑とした」との報道がなされていました。
https://www.nhk.or.jp/lnews/morioka/20180914/6040002031.html

私は、上記のとおり「民事訴訟で本人が弁護士に依頼せず自ら対応しているので、無保険(回収困難)事案ではないか」と考えたのですが、もしそうであれば、これだけ重い結果が生じている事案で、どうして検察庁が罰金求刑にしたのか、不思議に思います。

保険対応で適正賠償額が支払確実な事案であれば、加害者に相応に汲むべき事情があることを前提に、略式請求(罰金)とするのは理解できますし、これに対し、「被害者に過失のない死亡事故を起こして無保険で賠償できないなら正式裁判+実刑」というのが交通事故の通例のはずです。

「検察が略式請求としたが、裁判所が正式裁判とした事案」といえば、電通の過労死事件が思い浮かびますが、その事件の展開がどうであるにせよ、電通に民事訴訟(安全配慮義務違反に基づく賠償請求訴訟)における賠償資力が無いはずはなく、だからこそ、略式請求がなされたという展開は「昔ながら」という意味では了解できる面があります。

それだけに、この事案では「無保険事案らしき光景が見え隠れするのに、検察が罰金求刑に止まっている」ことに、非常に違和感を抱くのですが(被告人に罪責を問いにくい相応の事情があったのでしょうか)、この点について内情などをご存知の方がおられれば、こっそり教えていただければ有り難いです。

もちろん、実は責任保険が対応する事案だった、というのであれば、それに越したことはないのですが、そうであれば、どうして保険会社が介入せずに本人が訴訟対応しているのか、全く不可解です。

任意団体(権利能力なき社団)が自治体から借りて管理する緑地で生じた事故における法律問題~盛岡北RC卓話から~

私が所属する盛岡北ロータリークラブでは、各会員が年1回、20分ほどの卓話(スピーチ)を担当することとなっており、先日がその担当日でした。

ちょうど、その少し前の役員会で、当クラブが盛岡市から土地を借りて植樹し管理している「どんぐりの森」について話題になったため、万が一のリスクもありますよ、と余計なこと?を言ってみたくなり、以下のとおり「どんぐりの森で大事故が発生した場合のクラブや関係者の賠償責任如何」という設問を作成して、簡単ながら解説しました。

奥入瀬渓流国賠訴訟判決のアレンジという面もありますが、権利能力なき社団たる任意団体で賠償問題が生じた場合に広くあてはまる法的論点について取り上げた面もあり、それなりに参照価値があるかもしれません。

盛岡西北クラブの某大物ロータリアンの方に倣って「似たような話を皆さんのクラブの事業バージョンで聞いてみたい方は、卓話に呼んで下さい」と宣伝してみたい気もしないこともありませんが、「そんな縁起でもない話はイヤだ」とお叱りをうけるのが関の山かもしれません。

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盛岡北RC(以下「当クラブ」という。)が管理している「どんぐりの森」で、次の事態が生じた場合に、被害者は当クラブやその関係者(役員や一般会員など)或いは盛岡市などに賠償請求をはじめとする法的責任を追及したいと考えている。誰がどのような責任を負うか、説明しなさい。

(1) 近所の高校生Aが、当クラブに断りなく敷地内でバーベキューを始めたところ、Aの火の不始末により森が燃え上がり隣接するBの自宅に延焼して全焼し、逃げ遅れたBが死亡した。そのため遺族Cが賠償請求を希望している。

(2) 近所の小学生Dが、当クラブに断りなく「森」を散策中、植栽されていた木(遊歩道状に設置された通路に面するもの)が突如、倒れてDに衝突し、Dは脳挫傷など重大な傷害を負い、治療の終了後(症状固定後)も常時介護を要する全身麻痺(自賠責保険における後遺障害1級相当)などの障害が残存した。

事故後の調査でその立木の根本が遅くとも半年以上前から腐っており、強風や地震など一定の外力が加わるなどすれば倒木のおそれがあったことが判明したが、そのことを調査、指摘するという作業は当クラブ内ではなされていなかった。

(3) 当クラブが「森」の入口に設置している看板が、「100年に一度の大型台風」と報道された異常な強風のため杭から外れて近所のE社の事務所に衝突し、E社の建物を損壊したほか、相当の期間、E社の営業を困難にさせる被害を生じさせた。被害発生後の調査では、特に杭の腐食などの問題は確認されなかった。

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(レジュメの項目)

第1 ロータリークラブが管理する施設で賠償問題が生じた場合の法的主体(誰が義務を負うか)について
 1 ロータリークラブという団体の法的性格と賠償問題が生じた場合の権利義務の主体
 (1) 団体の法的性格
 (2) 団体の債務に関する構成員個人の責任
 (3) 団体の責任者、問題を起こした担当者などの賠償責任
 2 民事上の賠償以外の法的責任(刑事責任)

第2 小問(1) 失火と延焼に関する賠償問題
 1 A及びその親権者のB・Cに対する賠償責任
 2 当クラブのB・Cに対する賠償責任
 3 当クラブの会員個人(会長、担当委員長、一般会員など)のB・Cへの賠償責任
 4 盛岡市のB・Cに対する賠償責任
 5 B・Cの損害について

第3 小問(2) 施設内の立木に起因する被害に関する賠償問題
 1 当クラブのD(及び親権者)に対する賠償責任
 2 会員個人の責任、盛岡市の責任
 3 Dらの損害

第4 小問(3) 施設内の設備に起因する被害に関する賠償問題

第5 まとめ(予防策とおまけ)

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事故で賠償問題が生じた場合の対策ですので、当然ながら損害保険(賠償責任保険)への加入が望ましいという「まとめ」になるため、我ながら損保会社の回し者じゃないかなどと思ってしまいます。

反面、それならそれで、いっそ損保各社におかれては「我が社の保険商品の販売促進のため、その商品の出番になるような事例を作ってミニ講義をして欲しい」とのご依頼があれば、大歓迎という気持ちもないわけではありません。

が、よくよく考えると多くの会社さんが「交通事故などの賠償請求の相手方(当方が被害者代理人)」になっているため、残念ながら利益相反のため断念、という感じになってしまいそうです。

見ず知らずの遠方の弁護士に仕事を頼むリスクと専門性を謳う広告だけによる弁護士選びの怖さ

先般「岩手県内の交通事故の被害で東京のA弁護士に依頼しているが、加害者側損保の言いなりとしか思えないような納得できない対応を受けている」と仰る方の相談を受けました。

要するに、特定の損害の支払を損保側に全面拒否されており、受任弁護士がそれに応じて欲しいという話をしてきたが、それが正しいとは思えないので、私にセカンドオピニオンを聞きたいというものでした。

で、その件では特殊な事情が生じているものの、全面拒否は絶対におかしい、このような考え方をすれば、当方の希望額の全額となるかはともかく、相応の額が認められるべきではないか(それが実務一般の考え方に沿うと思われる)と説明しました。

相談者の方は、A弁護士がインターネットでは「交通事故が専門だ」と標榜していた(検索で上位に出てきた)ので頼むことにした(が、その論点に限らず、残念な対応があった)という趣旨のことを述べていました。

少し調べたところ、確かにそのような標榜をしているものの、かなり若い弁護士さんで、Webで確認できる経歴その他に照らしても、その御仁が業界人としての優位性を喧伝するほどの内実が伴っているのか疑問を感じざるを得ない面もありました。

以前にも、似たような話でブログ記事を書いたことがあり、詳細は書けませんが、色々な意味で今回はこの記事に近い話ではないかと感じると共に、我が業界は病院など他業界と比べても、情報開示・品質保証機能をはじめ色々な意味で制度も利用者の認識なども熟度が低く、ミスマッチや消費者被害的な光景が生じているのではないかと残念に感じました。

まあ、私自身が逆の立場であれこれ言われることのないよう努めるほかありませんが・・

最近、東京など遠方の弁護士に電話と郵便のやりとりのみで事件依頼をする方が珍しくないようですが、残念な展開に至ったという話を聞くこともありますし、容易に会いに行けない遠方の弁護士に依頼しなければならない事件は滅多にあるものではありません。

現状では、途中から代理人たる弁護士の仕事に不満を感じるようになったとしても、相当に業務が進行した時点で解任等を求めるのは様々なリスクがあることは確かです。

それだけに、誰に頼むにせよ、最低でも1回は面談して互いの人となりを把握したり、ご自身が特にこだわっている点をきちんと伝えて見通しの説明を受けたり、多少とも不安に感じる(しっくりこない)点があれば、何人かに面談して最も信頼できる(相性も合う)と感じた弁護士に依頼するなど、最初の段階から適切な工夫を考えていただきたいところです。

また、Webサイトやチラシなどで専門性(他の弁護士と比べた優位性)を謳う宣伝があれば、本当に、ご自身を担当する弁護士がその内実を伴っているのか、サイトの内容は言うに及ばず、最初の面談時などに色々と質問をするなどして、きちんと確認することが望ましいと思います。

交通事故の不正被害者?の油断が裁かれる光景

Y運転の自動車に接触して負傷したXが、左膝打撲・左足捻挫等の傷害で病院や整骨院に半年ほど通院し、Yに慰謝料等として143万円強を請求しました。と、そこまでは、交通事故の実務ではごくありふれた話です。

ところが、その事件では、裁判所は「Xは2週間程度で完治した=その後も通院を続けてYに治療費等を支払わせたのは被害者の誠実申告義務(信義則上の義務)違反だ」と判断し、Xの請求は8万円強しか認めなかったばかりか、「2週間以後にY側でXのため支払った治療費等の合計70万円強を返せ(Yに賠償せよ)」と命じました(広島地判H29.2.28判タ1439-185)。

賠償実務に携わる者からすれば驚愕の判決ですが、裁判所は証拠をもとに、Xが、事故翌日や半月後、3ヶ月後などに自身が所属する草野球チームの投手兼打者として出場し、セーフティバントでダッシュし出塁する等の活躍をしたり3月後もランニングをしていることなどを認定したことを主要な根拠としており、それらの事実からは首肯できる話です。

で、昔であれば、Yが探偵に高額な費用を払って素行調査でもしたのか?ということになりそうですが、判決をよく読むと、今どきやっぱりというか、ご本人がfacebookで、ご活躍ぶりを自ら投稿なさっていたようです。

さすがに、私の「友達」の方のFB投稿に関して、そうした光景を拝見したことはありませんが、投稿にせよ行動にせよ、様々な立場の方が見ているという視点は大切にしていただければと思います。

まあ「投稿で墓穴を掘らないか心配な方は、弁護士と顧問契約してチェックしてもらって下さい」などと余計なことを書いても、「お前自身の投稿は大丈夫なのか」と言われてしまいそうですが・・

ロータリー卓話~交通事故を巡る賠償実務の「きほんのき」~

昨年の話ですが、盛岡北RCの幹事さんから、「明日の卓話の担当者が急なキャンセルになった。すまないが、急遽、引き受けて欲しい」との要請があり、交通事故の賠償実務に関する基礎的な説明をしたことがあります。

RCの卓話は、例会場で20~30分弱の「ミニ講話」を行うものですが、私の場合、弁護士業務に関する話題を取り上げるのを通例としています。

過去に担当した卓話では、①相続、②中小企業の法務(同族間の経営権紛争)、③夫婦(不貞・離婚)に関する話題を取り上げたので、今回は、上記3つを含めた町弁の「主要な取扱業務」の一つである、交通事故(に伴う賠償等の問題)を取り上げることにした次第です。

一晩で準備する必要もあり、過去に多く扱ってきた論点、事項を取り上げることとしましたが、抽象的に話してもつまらないでしょうから、幾つかの論点を含む架空の事故を想定し、それをもとに解説しました。

ここでは、その際に用いた事例(設問)と、解説の項立てのみご紹介することにします。もし、盛岡市内・岩手県内の方で、「交通事故に関する賠償問題の基本について、30分~1時間程度でセミナー等をして欲しい」とのご要望がありましたら、ご遠慮なくお申し出いただければ幸いです。

ちなみに、この少し後に、某損保さんから代理店の方々に向けて、事故被害者の保護に関する対応の基礎や弁護士費用特約の意義についてミニセミナーをして欲しいとのご依頼をいただき、この事例(設問)をアレンジする形で対応させていただいたこともありました。

(事例)
盛岡市内の某ロータリークラブの会員であるX(50歳。会社勤務)は自車を運転してホテルニューウィング前の交差点から開運橋方面に向かって直進しており、開運橋西袂の交差点を通過し盛南大橋方面に向かうつもりであった。

ところが、第2(右)車線を直進して開運橋西袂の交差点を通過中に、反対方向から進行してきたY運転の高級外国車が突如、交差点内でX車めがけて右折してきたため、X車は交差点内でY車との衝突を余儀なくされた。

この事故で、Xは全身に強い打撲傷を負うなどして盛岡市内の病院に1ヶ月ほど入院し、退院後も7ヶ月ほどの通院を余儀なくされた(退院後の実通院日数120日)。また、頸椎捻挫、腰椎捻挫などによる痛みが完治せず、医師から後遺障害診断書の発行を受けており、後遺障害の認定申請を検討している(レントゲンなどでは異状は確認されていない)。

Xの怪我の治療費については、事故直後からYが加入する任意保険A社が対応して支払等を行っているが、事故から半年ほど経過した時点で担当者が「これ以上の通院の必要はないでしょう。今後は通院を続けても治療費を支払いませんよ。」などと言うようになり、やむなく通院継続を断念したなどの事情も生じ、XはAに不信感を抱いていた。

また、X車(平成18年式の国産大衆車)は大きく破損し修理代の見積は150万円にも達しており、やむなく事故直後に廃車を決断せざるを得なかった。

ところで、X自身は青信号の状態で交差点に進入したとの認識であるが、Yは「自分が右折を開始した時点で、すでに赤信号になっていた(ので、X側信号も赤のはずである)」と主張し、Xにも相応の過失があるとして、Yの損害を賠償するようXに要求するようになった。

Yは事故による怪我はなく、Y車(平成2年式)は左端周辺に破損ができた程度の被害に止まっているが、

この車両は高級車であり、被害部分の板金塗装だけでは、他の部分と色合いが違ってしまう。だから、破損部分の修理とは別に、100万円以上をかけて車体全部の塗装を行う必要がある」とか

この車は市場で手に入らないレアもので、愛好者には2000万円で売れるものだ。事故歴が付くと売値が安くなるので、その損害(評価損)として500万円を支払え」とか

これは自分が10年以上乗りこなしている愛車で、これまで一切の破損等がなかったのに、この事故で傷物になったことで精神的に強いショックを受けて眠れない日々を過ごした。相応の慰謝料を払って欲しい」と主張し、Xの勤務先等に押しかけんばかりの気勢を示している。

以上の状況下でXから相談、依頼を受けた弁護士としては、Xの損害の賠償を請求すると共にYからXに対する賠償請求に対処するため、どのようにXに説明し代理人として行動すべきか。

交通事故の裁判で被害者が加害者に謝罪の認識を尋ねるのは異議の対象になるのか?

交通事故に基づく損害賠償請求の裁判に関する当事者双方の尋問の際のことについて、狭義の法律論とは違ったところで、少し考えさせられたことがありましたので、そのことについて書きたいと思います。

その件は、交差点内の直進車(当方=原告)と右折車(先方=被告)の事故で、先方には人身被害がなく当方は神経症状を中心に大怪我を負ったため、当方が訴訟提起したという事案です。

この種の事故態様の過失割合は「2:8」が原則(基本割合)ですが、特殊な事情から当方は過失ゼロ(0:10)だと主張していました。

そして、私の主張立証の賜物かどうかはさておき、裁判官からも幸いに同様の和解勧告を受けていたのですが、先方(被告代理人ないし被告側損保)が基本割合でないとイヤだと拒否したため、判決のため尋問を行うこととなったものです。

で、先に原告本人の尋問を行い、休憩を挟んで被告本人の尋問を行ったのですが、主尋問や尋問までの休憩時間などの際、被告から原告に対しお詫びの言葉(挨拶)をするやりとりが全くなかった(休憩中も被告は自身の代理人と談笑し続けていた)ので、それでいいのだろうか、何か被害者の気持ちが置き去りにされていないだろうかという気持ちが涌き上がり、最後に、「改めて原告に詫びる考えはないのですか」と質問しました。

原告から「被告と会ったのは事故の10日後の双方立会の実況見分の場のみで、その後に接触はない(謝罪等は受けていない)」と聞いたこと、被告自身の主尋問の様子でも殊更に原告に敵意を持っているわけではなく自身の不注意のみを淡々と述べているに止まっていた(そのため過失相殺の主張も加害者本人でなく損保側の方針に過ぎないと感じられた)ことも、そうした質問をすべきではと感じた理由の一つでした。

すると、被告代理人が、間髪入れずに「意見を求める質問だからダメだ」と猛然と異議を述べてきました(尋問のルールを知らない方は民事訴訟規則115条を参照)。

私が「現在の謝罪姿勢の有無も慰謝料の斟酌事由にはなるでしょう」と実務家としては今イチな反論を述べると「そんなことはない」などと強烈に抵抗し、こちらも納得いかないので代理人同士はギャーギャー言い合う非常に険悪な雰囲気になったのですが、裁判官が「言いたくなければ言わなくてもいい」と答えたところ、ごく一般的な(悪く言えば通り一遍の)お詫びの言葉があり、私もそれ以上の質問はせず、そこで終了となりました。

結局、結審後に当方が退席する際も被告が当方を呼び止めて挨拶するということはなく、1年半以上を経て再会した加害者が被害者に対しお詫びの言葉を向けるというやりとりは、その一言だけとなりました。

被告代理人が猛然と異議を述べてきた理由は、被告側が過失相殺を主張しているため、「本人が詫びる=当方の無過失を認めたことになる」というイメージがあったのかもしれません(それとも、単純に異議が好きだとか、私個人に含むところがあったのか等、他の理由の有無は分かりません)。

ただ、被告がその場で原告に対し通り一遍のお詫びの言葉を述べたからといって、そのことで過失の有無や程度が定まるわけではなく、争点との関係では、自分で言うのもなんですが、慰謝料額も含めて判決の結果には影響しない、ほとんど意味の無い質問だと思います(だからこそ、相手方代理人はこの種の尋問は放置するのが通例でしょう)。

それでも質問せずにはいられないと思ったのは、1年半以上を経て久しぶりに会った加害者が、長期の入通院などの相応に深刻な損害を与えた被害者に対し、一言のお詫びもする場のないまま法廷(参集の機会)が終わって良いのか、それは、裁判云々以前に人として間違っているのではないか?という気持ちが昂ぶったからでした。

もちろん、私も殊更に被告を糾弾したかったわけではなく、たとえ通り一遍のものでもお詫びの言葉があれば、それだけで被害者としては救われた気持ちになるのではないか(そうした質問を被告や原告の代理人が行って謝罪の場を設けるのは、地味ながらも一種の修復的司法の営みというべきではないのか)という考えに基づくものです。

とりわけ、少なくとも刑事法廷であれば、(通常は被害者が在廷していませんが)加害者=被告人が被害者への謝罪を述べるでしょうから、なおのこと被害者が在廷する場で加害者が一切のお詫びを述べないというのは異様としか思えません(私が加害者代理人なら主尋問の最後に謝罪の認識を簡潔に求める質問をすると思います)。

だからこそ、「謝る気持ちはないのですか(その気持ちがあれば、簡単でも構わないので一言述べて欲しい)」という質問に被告代理人が最初から強硬に拒否的態度を示してきたことに、私としては、加害者代理人が加害者本人に謝るなと言いたいのか?それって人として間違っていないか?と、思わざるを得ませんでした。

もちろん、そうした事柄で糾弾ありきの執拗な質問になった場合は異議の対象になることは当然だと思いますが、私の質問がそのようなものでなかったことは前述のとおりです。

被告代理人としては、ご自身の立場・職責を全うしたということになるのかもしれませんが、東京の修業時代に加害者代理人(某共済の顧問事務所)として多くの事案に携わっていた際、尊敬する先輩に「被害者救済と適正な損害算定のあるべき姿を踏まえて、よりよい負け方をするのが加害者代理人の仕事の仕方だ」と教えられて育った身としては、本件のような「当事者同士は敵対的・感情的な姿勢は示しておらず損保の立場などからこじれたタイプの事件」で被告代理人から上記のような対応があったことに、いささか残念な思いを禁じ得ませんでした。

ともあれ、華々しい法廷技術は優れた弁護士さんに及ばないかもしれませんが、今後も、代理人としての職責をわきまえつつ、そうした地味なところで当事者や事件のあるべき解決の姿について気遣いのできる実務家でありたいと思っています。

ちなみに、その裁判(1審)では尋問後も被告側が和解案を拒否して判決となり、和解案と同じく当方の過失をゼロとし認容額も和解勧告より若干の上乗せになっていました。

主婦の年収に関する裁判実務(交通事故など)の考え方とその将来

「専業主婦の妥当な年収が幾らか」というアンケート記事がネットで取り上げられており、男性の回答の1位が「ゼロ円」などという、兼業主夫として激務に勤しむ私に言わせれば、情けないと言いたくなる結果が取り上げられていました。
http://woman.mynavi.jp/article/160513-6/

この問いに対する答えは、個人の信条のほかご家庭の状況等に応じて様々な考え方があるでしょうが、裁判実務では「専業主婦が事故の被害者になった場合の休業損害や逸失利益の算定の基礎」としての「年収」は、賃金センサスの女子労働者の全年齢平均の賃金額(産業計・企業規模計・学歴計)とするのが通例(多数派)とされ、平成26年の統計では364万円強となっています(交通事故で弁護士が用いる算定表に記載された数値です)。

なお、平成26年の男性は480万円弱であり、平成21年比で女性は約15万円、男性は約10万円増加しています。

ちなみに、賃金センサス(平均賃金)に満たない少額の収入のある「兼業主婦」も賃金センサスで計算し、「専業主夫」も女子の賃金センサスで計算するのが通例とされています。

このように賠償額算定における基礎収入の場面で「主婦=平均賃金」とする考え方は、昭和49年や50年の最高裁の判決に基づくとされています。

他の従事者(賃金労働者・自営業者など)が、賃金センサスを下回る年収しか得ていない場合には、その実収入により休業損害等を計算するのが通例ですので(実収入がある人は、それに基づき算出するのが本則とされ、賃金センサスを考慮する方が例外的と言えます)、それとの比較で言えば、主婦(夫)ひいては被害者たる主婦(夫)のいる世帯を優遇する考え方という面があると言えます。

そうした意味では、税制における配偶者控除と少し似ているのかもしれません。

ただ、一億層中流社会と言われ、「企業勤務の夫と専業主婦の妻、子供は概ね2人の核家族」が当たり前とされた、これまでの日本社会では、「主婦」を一括りにして賃金センサスで計算することについて違和感なく受け止められてきたと思いますが、専業主婦の割合が低下し共働きが当たり前になっているほか非婚者も激増し、さらには一億層中流幻想が崩壊し格差が広がる一方と目されている現代の社会で、裁判所がこの考え方を今後も維持していくのか、やがて何らかの形で変容されることがあるのか、興味深く感じます(民法だけでなく憲法のセンスも関わる問題だと思います)。

そのような意味では、引用の記事に対して「賃金センサスのことに触れないなんて不勉強だ」などと軽々に批判することもできないのかもしれません。

医療事故に関するご相談と「専門家セカンドオピニオン保険」の必要

医療過誤がらみの事件には残念ながらご縁が薄く、未だに訴訟として受任したことがないのですが、年に1、2回ほどの頻度でその種のご相談を受けることがあります。

先日、「初診対応したクリニックの転医義務違反の成否」が問題となる例についてご相談があったのですが、その件については、少し前に判例雑誌で勉強した事案によく似ていたので、それをもとに問題の所在など基本的な事柄をお伝えしました。

ただ、医療事故に関する賠償請求の当否は、「ガーゼ取り忘れ」のような素人目にも過失(医療水準違反)が明らかな事案を別とすれば、医師の対応が「医療水準に反すること」の立証が最大の難関になり、専門的知見をもとに水準違反を立証(証言)する協力医を得られるかという厄介な問題に直面します。

そして、私には日常的に医療過誤を取り扱っている方々のような人脈等がないので、「まずは、最寄りのお医者さんに当該問題(対象となった医師の対応など)が現在の業界(医療)の水準に悖ると言えるか聞いて下さい。もし、悖るというお話があれば、意見書その他の協力が得られるか尋ねて下さい」といった対応をするものの、残念ながら、そこで終わってしまうのが通例になっています。

そうした意味では、医療問題について、「ここに聞けば(調べれば)セカンドオピニオンを求める医師の先生がすぐに分かる」的なサイト等(さしずめ、「医療過誤ドットコム」とでもいうべきもの)があれば有り難いとも思うのですが、いずれにせよ、現状では高コストになることが多いと思われます。

この種の事案では、ご本人サイドのエネルギーの濃淡もまちまちで、この種の訴訟等にありがちな高額なコストを負担できない(その話が出ると一気に萎える)方も多いので、保険などを活用した無償・低コストで医療機関から簡易なセカンドオピニオンを得られるような仕組みがあれば、どちらの方針に進むにせよ望ましいのではと感じています。

もし、そのような保険(協力医保険)と弁護士費用保険がセットになって、保険制度を通じて協力医から簡易迅速に「当該医師の対応は医療水準違反だ」との意見書等が得られた場合に賠償請求等を自己負担なく(或いは低廉な負担で)行うことができるようになれば、医療事故などを巡る賠償問題に関する当事者の負担は大きく改善されることは間違いないはずです。

また、水準違反とは言えないという意見が得られて、そのことを患者側が受け入れる場合も含めて、そうした営みを通じて医療側の予防や説明等の仕組み、慣行も前進されるのであれば、社会的な役割も果たすことになると思います。

医療過誤は「専門」が強調される分野の筆頭格と言われますが、医療水準の議論で医師の協力が十分に得られるなど、医療絡みの高度専門的な議論について弁護士が自ら本格対処しなくとも済むのであれば、弁護士が医療自体に詳しくなくとも問題なく対応できることが多いはずですので、そうした仕組みが整備されてくれればというのが正直なところです。

近時の交通事故事件に関する取扱や実績と営業活動の今昔

ここしばらく普段取り扱う仕事についての投稿をしていませんでしたので、たまには触れてみたいと思います。

債務整理のご依頼がめっきり少なくなる一方で、今もコンスタントに一定のご依頼をいただいている分野の筆頭格が交通事故であり、基本的には被害者側でお引き受けするのが中心となっています(お世話になっている損保会社さんがあるため、加害者側での受任も若干はあります)。

5年以上前に比べてご依頼の件数が多くなっているのは、ネットでアクセスいただく方が年に何人かおられるということもありますが、弁護士費用特約の普及という面が大きいことは確かだと思います。

私の場合、平成12年に東京で就職した事務所が、タクシー共済(タクシーの事故の賠償問題に対応する共済)の顧問事務所だったので、独立までの4年半は概ね常時10件前後の事件に従事していたほか、岩手での開業後は主に被害者側の立場で様々な交通事故の事件を扱ってきました。

ですので、交通事故なら自分が岩手で一番などと虚偽?の吹聴をすることはできませんが、様々な事案・類型の取扱経験の質量という点では、この世代の弁護士としては有数といって良いのではと自負しているつもりです。

以前は、死亡事故や後遺症認定1~3級などの重度障害に関する事案も何度か取り扱いましたが、ここ1、2年はご縁がなく、神経症状が中心で治癒又は後遺障害が非該当のものや物損のみの事故が多く、14級や12級の事案が幾つか存するという程度です。

それでも、人身事故に関しては、加害者側の損保会社が最初に提示した額の倍以上(時に3倍くらい)で解決(示談又は訴訟上の和解)する例が珍しくありません。後遺障害が関係すると、その差は数百万円にも上ることがあり、昨年末に裁判所で和解勧告がなされた例や、先週に示談(訴訟前の交渉)で決着した事案なども、そのような形で解決しています。

どの段階で弁護士に依頼するのが賢明かは一概には言えず、損保側の提示が出た段階で十分という例も多いとは感じていますが、やはり、提示がなされた段階で、一旦は、相応に交通事故実務の知見等を有する弁護士に相談なさった方がよいと思います。

特に、介護問題が伴う重度事案などでは、損害項目が多様・複雑になりやすいので、ご自身でも今後どのような出費等(損害)が生じるかご検討の上、相談先の弁護士がそれに応えるだけの十分な知見を有するかも見極めて、依頼先を選定いただくのが賢明でないかと思います。

その意味では、最近は事故直後からご依頼を希望されるケースも増えてきてはいるのですが、損保の提示がなされた時点で、複数の弁護士に損害の見積と説明を求めた上で依頼先を決めるというのも賢明な対応ではないかと考えています。

交通事故は、重篤後遺障害の事案でなくとも、被害者にとっては「鉄の塊に激しく衝突され、あと少し違っていれば、もっと深刻な被害があり得た」という強い被害者意識(トラウマ)を持ちやすく、加害者や損保会社に対して、強い不満感を抱いたり、相手方に邪悪な加害的意図があるかのように感じてしまう例も時にみられます。

そのように「強い不信感を抱かざるを得ないので加害者側と接点を持つことが気持ちの問題として苦しい」という方が、事故後間もない段階からご依頼を希望するというケースが多いように感じています。

この点は、相手に迎合する必要はないにせよ、相手の「立場」を見極めた方が賢明な場合があります。加害者本人は「高い保険料を払って任意保険を契約しているのだから、こうしたときこそ保険会社にきちんと対応して欲しい」と思うことが多いでしょうし、加害者の損保側も「少しでも賠償金を減額させ、そのことで自社の収益もさることながら加入者全体の保険料を抑制させたい」という立場的な事情に基づいて交渉しているのでしょうから、「先方は先方なりの立場がある」と割り切った上で、感情的にならず先方の対応に誤りがあれば淡々と正すような姿勢を大事にしていただければと思っています。

一般論として、弁護士が代理人として前面に登場した時点で、相手方が身構える(一種の戦闘モードになり警戒レベルが格段に上がる)面はありますし、ご本人が強く申し入れることで、時に法律上はあり得ない有利な条件が示されることもあるように感じますので、ある程度の段階までは弁護士が相談等の形で後方支援し、「ご本人が相対しているからこそ得られる譲歩や情報」が概ね得られた時点で代理人が登場するというのも時には賢明なやり方ではないかと感じることもあります。

結局は、当事者(被害者・加害者・損保担当者)の個性や被害の状況などに応じて異なってくるはずで、一義的な正解がないことが多いでしょうから、今後も悩みながらご相談やご依頼に誠実に相対していきたいと思っています。

余談ながら、先日、あるベテランの先生とお話をしていた際、「昔、交通事故の記事が出ると、記事に表示されていた住所をもとに手紙を送って自分への依頼を働きかけていた弁護士がいた。今も登録しているが老齢のため現在もそのようなことをしているかは分からない」とのお話を伺いました。

私の認識では、事故で被害を受けた方に弁護士がダイレクトメールを送付して勧誘するのは、いわゆる「アンビュランスチェイサー」として昔から弁護士倫理(弁護士職務基本規程)で禁止されている(規程10条、日弁連解説書21頁)と考えていますが、その「年配の弁護士の方」がそうしたことを本当に行っていたのか、行っていたとして、弁護士会などは知っていたのか(黙認していたのか)等、あれこれ考えてしまうところはあります。

詰まるところ、弁護士が少なく司法サービスが県民に行き届いていなかった時代では、そうしたことも黙認されていたのかもしれませんが、現時点ではアウトとして懲戒などの対象になる可能性が高いとは思います。

「岩手日報に重大な被害記事が出た途端に、県内どころか全国の弁護士達からDMが殺到する」などという類の事態は論外というべきですが、被害者の方が適切な形で弁護士のサービスにアクセスでき合理的な選択権も行使できるような実務慣行・文化も形成されるべきことは申すまでもありません。

現在ネットで氾濫する在京弁護士や実体も明らかでない団体等の宣伝サイトの類ではなく、法教育的なことも含め、より良質な「リーガルサービスに関する情報提供のあり方」について関係者の尽力を期待したいものです。