北奥法律事務所

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労働事件

JR福知山線事故の刑事裁判で議論されなかった重大論点と、就労者の尊厳のいま

先日、H17に発生したJR福知山線の車両転覆事故に伴う大惨事について歴代社長が検察審査会により強制起訴され無罪となった最高裁決定(最決H29.6.12)が、判例タイムズ1457号に掲載されているのを見ました。

判決(決定)によれば、刑事裁判では、社長らが本件現場(カーブ地点)に自動停止装置を設置(指示)しなかったことが過失(業務上過失致死傷罪の成立を基礎づける注意義務違反)と言えるかが問われ、最高裁は、社長らには事前に指示すべき義務(刑事責任を問うだけの過失)はなかったと判断しています。

ただ、私はこの事件に不勉強でよく存じませんが、この事故に関する報道が盛んになされていた当時、JR西が運転士ら従業員に対し、日勤教育などと称する心身の健康を害するような抑圧行為を組織的に行っており、本件運転士も本件運転時にそれにより強いストレスを抱えていた(ので無理に遅れを取り戻そうとした)ことが、大幅な速度超過の原因だと言われていたような記憶があります。

決定文や判タ解説を見る限り、その問題が刑事裁判で問われていたようには見えないのですが、どうなんでしょうか。

少しだけWeb検索したところ、本件事故とは別にJRの従業員さん達が日勤教育について慰謝料等を請求した訴訟の記事が出ていましたが、本件で日勤教育などの就労環境上の問題が事故原因として争点となった訴訟等があるのかは見つかりませんでした。

もともと当然に有罪と言える事案ではなく、だからこそ事故の原因となった会社内の様々な問題を社会に問うべき面の大きい裁判だったのでしょうから(被告人の負担云々の議論は措くとして)、どうせなら「運転士の心身不調(による操作ミス)を誘発した(それを阻止すべき義務を怠った)関係者の過失」(体調等を管理すべき直接の上司などのほか、運転士の不調の原因となった悪習?に帰責性のある立場の方々の過失責任)も、民事を含め何らかの形で裁判所の審査の対象としてもよかったのではと思わないでもありません。

この件に限らず「モーレツ企業での末端従業員に対する過酷待遇(組織的なパワハラ行為?)」というのは、社会問題を生じさせた一部の企業を典型に、かつて日本社会で少なからず見られた光景かとは思いますが、そうであればこそ、こうした風習が個人の尊厳への重大な侵害になりうるものであることを裁判所が明確に宣言する機会があればよかったのではと感じています。

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ところで、少し前、伝聞ではありますが、次のような話を聞いたことがあります。

「盛岡市内のA先生の事務所では、職員が、ほとんど毎日、昼の時間に裁判所と弁護士会(サンビル)に赴くことになっている。これは、弁護士会や裁判所に設置されているポスト(書類入れ)に交付書類がないか確認するためというものだが、現在は急いで(その日のうちに)取りに行くべき書類がポストに挿入されることは滅多になく(そもそもポストが空の日の方も多い)、何のために行くのか疑問を感じつつも仕方なく往復している。なお、先生(弁護士)は、裁判所や弁護士会に行っても、自ら書類を取ることはない。」

私自身は、それを聞いて「なんて無意味で不合理なことをさせているのだろう、それって日勤教育とか身分制社会などと言われても仕方ないのでは?」と思わざるを得ませんでした。

ちなみに、当事務所では必要やむを得ない事情がない限り、職員に弁護士会や裁判所に書類を取りに(出しに)行くよう指示するということはしていません。事務所がこの2つの施設から遠い(自転車で10分、歩くと20分以上?)ということもあり、基本的に、私がこれらに行くときに、ついでにポストに寄って取っており、職員に出動を頼むのは、ごく希です(裁判所は私が頻繁に行くのでほとんどありませんが、弁護士会はあまり行く機会がなく、急ぎの用事があるときなどにお願いしています)。

もちろん「そんな無意味なことに時間を使う暇があれば、事務所内にもっとやるべき(やって欲しい)ことがある」という、ごく当たり前?の発想に基づくものですし、私も職員も皆、細々した仕事で相応に一杯一杯で、「しなくてもよい仕事(と称する無駄な行為)」に時間を浪費する暇(させる余裕)はありません。

ですので、「だったら、その先生(事務所)に無用で不合理な仕事を命じるのを改めよ(やりがいのある仕事を命じて欲しい)などと、団交申立など(ついでに記者会見も)をなさってはどうか」と戯言?の一つも言いたくなったのですが、そのあと、「あっ」と思い返したことがありました。

私が司法修習生のときにお世話になったB先生の事務所でも、その事務所の職員(事務員)さんが同じようなことを仰っていた(なさっていた)ことを思い出したのです。

ちなみに、B先生は県内の著名企業の顧問などをなさっている大ベテランのせいか、当時はさほど忙しく仕事をなさっているようには見受けられず、事務員さんも日中はかなり暇を持て余している感じがあり(私も雑談のお相手をするのが大変だった・・という記憶が微かにあります)、上記の「毎日のお使い」を嫌々しているという印象は全くありませんでした。

ただ、私がお世話になっている間は、その事務員さんに代わりに行ってくれる?と言われたことは時々あり、私も(修習生としてさほど起案などを命じられていなかったという負い目?もあって)無為徒食の日々を過ごすくらいなら、その程度のことはしなくてはと思って、昼食のついでもあり、ある意味、喜々として引き受けていたような気もします(他にも個人的な理由があったかもしれませんが・・)。

ですので、完全な想像になりますが、ひょっとしたら、盛岡のベテランの方々(A先生もB先生も、私が修習生になる前から長年仕事をなさっている大ベテランの方々です)には「事務職員に、昼になると裁判所や弁護士会に書類の提出や受取のお使いをさせる文化」が、かなり以前(数十年前)からあったのかもしれません。

そして、A先生は、(少なくとも先生や事務所の主観では)それを今も続けているだけに過ぎない(殊更に、無駄な仕事を強要して就労者の尊厳を害しているという認識は持っていない)のかもしれません。さらに言えば、もしかしたら、冒頭の話に登場したA先生の職員さんも、さほど仕事を抱えているわけでもなく、その「毎日の昼のお使い」があることが事務所で就労する上での存在意義になっている面もある、などという話もあるかもしれません。

そうであれば、「そんなの日勤教育じゃないか」などと一方的に非難することができるのか、という話につながってきそうな気もします。

ただ、「就労対策の一環として、本来は必要がない軽作業をさせている」といった類の話なのであれば、その方が障害を持っているなど相応にやむを得ない事情があれば致し方ないのかもしれませんが、そうでなければ、最近流行りの生産性云々の話を持ち出すまでもなく、「就労者の尊厳」という観点から、そのような光景は決して望ましいものではないのであって、労使双方が真摯に「各人のあるべき仕事のあり方(仕事の創出のあり方)」を考え、実践を積み上げることが求められていると思います。

本当は、そうしたことなども地元の先生方などとお話できる機会があればと思わないでもありませんが、諸々の理由で夢のまた夢、ということになりそうです。

労働災害における安全配慮義務と労使の保険の普及について

先日の県内ニュースで、本年1月から10月末までに労災事故で亡くなった方が計16人、4日以上の休業を余儀なくされた人が968人に上るとの報道がありました。昨年の同じ時期より131人減ったとのことですが、例年、労災事故で10人前後の方が亡くなり、1000人前後の方が一定の休業を要する傷病を負っているということになります。

労災事故では、国の労災保険の給付がありますが、これは、休業損害や後遺障害又は死亡に伴う逸失利益について、保険制度の範囲内で一定額を支払うというもので、慰謝料は給付の対象にならないなど、「被害者の損害の填補」という点では、十分なものではありません。

もちろん、使用者に何らの落ち度もないものであれば、その責任を問うことはできませんが、劣悪な就労環境で労働者を追い込んで事故等を誘発したというのであれば、いわゆる安全配慮義務違反を理由に、労災保険では賄われない損害について、賠償請求するということが考えられます。

残念ながら、私は労災事故絡みの紛争にはほとんどご縁がなく、何度かご相談を受けたことはあるものの、訴訟事件として本格的に争ったということは、労使いずれの立場でも、ほぼありません。

ここ数年続けている判例学習(裁判例のデータベース作り)では、港湾労働者のアスベスト被曝から過労自殺などの問題まで、取り上げられることの多い類型であり、多少は勉強していますので、受任の機会をいただければと思っています。

ただ、労災問題については、交通事故との比較で、色々とハードルの高い面も幾つかあると思われ、それらをどのようにクリアしていくべきかという点は、悩ましいところだと思います。

まず、交通事故のうち人身被害が生じたものであれば、軽微なむち打ち症のみの事故であっても事故直後に警察に申告すれば、自動車運転過失傷害事件として捜査対象になり、交通事故証明書や実況見分調書などで、事故の事実と態様の大半を証明できます。

労災の場合、死亡などの重大事故であれば警察の捜査がなされる可能性が高いとは思いますが、交通事故に比べれば、捜査対象になる程度は遥かに低いのではないかと思われ、事故態様の立証の問題に直面することは多いと思います。とりわけ、単発的な事故ではなく、過労死など様々な事象が積み重なった事例では、「使用者の義務違反」に関する立証の課題はハードルは相応に高くなると思います。

もちろん、労災認定の際に作成された記録などを用いることができれば、相応に役立つのではと思いますが、使用者の安全配慮義務の問題まで踏み込んだものとなっているとは限らないのではないかと思われます。

また、交通事故であれば、大半の加害者が賠償責任保険に加入していますが、小規模な企業や個人事業主などでは、使用者が労災(安全配慮義務違反)の賠償責任保険に加入していない可能性が高くなるでしょうから、支払能力の問題にも直面するかもしれません。

また、現在の自動車保険では、人身傷害補償特約や弁護士費用特約が普及していますので、被害者は、相手方の支払能力や過失相殺などの問題がある場合には、自身が加入している保険会社から人身傷害補償保険の給付を受け、残金について、弁護士費用特約を用いて加害者に賠償請求するという方法をとることができ、かなりのリスク軽減ができることになっています。

そうした意味では、少なくとも、ある程度の危険性を内包する業務に関しては、人身傷害補償特約や弁護士費用特約を備えた「労働者自身のための労働保険」を保険会社が販売して、就職の際にそれに加入するという文化が励行されてもよいのではと思います。

ちょうど、冒頭のニュースと並んで、県内の山林で、作業員の方が伐採した木の下敷きになって亡くなられたとの報道がなされていましたが、以前、被災地の法テラスで、林業に従事する作業員の方が、作業車の転倒で大怪我を負い重い後遺障害を負ったという事案についてご相談を受けたことがあり、色々とハードルがあることをご説明し、誰に依頼するか(地元の先生にするか)も含めてお伝えしたということがありました。

労災は、「純然たる第三者同士」の事故である交通事故と違って、労使という継続的な人間関係が絡んでいるため、訴訟等の対立関係に及ぶのを躊躇する事案も多いかとは思いますが(そうであるがゆえに、逆のパターンもあるでしょうが)、少なくとも、明らかに安全配慮義務違反が認められるような事案では、人間関係が良好であるとしても、賠償の問題は分けて考えた方がよいと思いますし、そのような事案で、対人関係の亀裂を避けて適切な救済やそれに向けた議論を行うためにも、保険の普及が望ましいのではないかと思われます。

震災以後、被災地では復興特需で工事が増えているせいか、労災事故に関するニュースを目にすることが多くなったように思われるものの、訴訟が多く起きているという話は聞いたことがなく、私自身も上記のとおり事件受任の機会に恵まれていません。

そのため、あまり知識がない中で本も読まずに書いていますので、少し見当違いのことも書いているかも知れませんが、その点はご容赦下さい。

病院でのストライキに関する労働者と企業や利用者の利害調整

病院の従事者(看護師など)が組織する労働組合が予告したストライキの差止を求める仮処分を行った病院が、労働組合から不法行為を理由に賠償請求をされ、その訴えが認められた例(津地判H26.2.28判時2235-102)について少し勉強しました。

事案の概要等は次のとおり。

従業員148名の大半が労働組合X1の組合員となっている内科・精神科の病院Yで、非組合員への規定外の手当支給(いわゆるヤミ手当)が発覚した。そこで、X1が上部組織X2と共に団体交渉を要求したところ、Yから納得いく回答が得られないとして、Xらがスト決行を通告した。これに対し、Yがストの差止を求める仮処分の申立をしたところ、無審尋で認容された。そのため、Xらはこれに従いストを中止した上で、Yの仮処分申立が不法行為に該当するとして、計1100万円をYに請求した

裁判所は、ストライキ実施に至る経緯(Yが義務的団交事項にあたる各問題についてXらとの団交で虚偽の返答を繰り返したと認定)やスト通告の態様(Xらが保安要員の提供を申し出るなど患者の安全確保に相応の配慮を示したこと)を理由に、Yにはストの差止請求権は認められない=仮処分申立は違法と判断しました。その上で、Yの過失が推認される(上記の増額支給問題の追及を封じる目的の申立だと推認)として、計330万円(X1・X2に各165万円)を認容しました(但し、控訴中)。

何年も前ですが、私も医療機関における労働紛争に企業側代理人として関与したことがあり、その事件では、私が介入する数年前に、組合が徹夜に及ぶ団交の紛糾を理由に経営側にストを通告したものの、経営側が組合の要求の多くを受け入れてストが回避されるという出来事があり、その際に高齢の経営陣が多大な心労を負ったという話を伺ったことがありました。

その件では、経営サイドの方は「組合は保安要員の提供を拒否した」と説明しており、これが相違ないのであれば、上記事件と異なり、仮処分の申立をしても違法とは言えないとされるかもしれません。ただ、当方がその件を指摘したところ、組合側は提供拒否はしていないなどと主張して事実関係を争っていたような記憶もあり、その種の問題が生じた事案では、そうした紛争の決め手になった「肝」にあたる問題については、何らかの形で事実経過に関する証拠を残しておくべきということになるでしょう。

本件のように、労使の見解が鋭く対立した結果、本体的な労使紛争に派生して法的紛争が生じることもありますが、労使紛争の態様・経緯など(本体の紛争でどれだけ正当性があるか)が大きく影響することは確かでしょうから、紛争対応を受任する弁護士としては、事実関係の把握と評価に誤りがないよう、心がけていきたいと思います。

トラック運転手の労働時間と事故時の責任

保冷荷物を配送するトラック運転手Xらが雇用主(貨物運送業者)Yに未払割増賃金などを請求した件で、Xらの待機時間が労働基準法上の労働時間に該当するとして、Xらの請求を認めた例(横浜地裁相模原支判H26.4.24判時2233-141)を若干勉強しました。

車両運転に従事する労働者の待機時間の労働時間該当性については、タクシー運転手の待機時間について労働時間性を肯定した例が少し前に掲載されており(福岡地判H25.9.19判時2215-132)、運転者が自由に過ごすことができ労務に服するか否かを自ら判断できるような場合でなければ、使用者の指揮命令下での待機と評価され労働時間との認定を受けるのが通例と思われます。

ところで、私は、「トラック運転手の残業代請求」は携わったことがありませんが(本格的な訴訟としてはIT従事者の方の残業代請求訴訟を行ったことがある程度です)、トラック運転手の方が自損事故を起こし会社所有の車両を大破させたため、勤務先から賠償請求を受けた事件で、運転手の方から依頼を受けたことがあります。

依頼主(運転手)の説明によれば、その件では長時間労働が常態化しており(何年も前なのでよく覚えていませんが、一定の裏付けもあったとの記憶です)、疲労や寝不足などが事故の原因と見られたので、基本的には会社に責任がある事故で、依頼主に一定の責任があったとしても、(私の介入前に)支払済みの金額以上の責任はないと主張しました。

当方依頼主が適法な残業代の支払を受けていたのか、確認したか否かも含め記憶がありませんが、その件では、勤務先も、それ以上の措置(当方依頼主への賠償請求訴訟など)を講じてこなかったので、そのまま終了となりました。

仮に、相手方が訴訟に及んだ場合には、当方依頼主が適法な残業代の支払いを受けていなかったのであれば、反訴として既払金の返還+残業代を請求していたのではないかと思われますが(その件でも待機時間があったはずで、争点になりえたでしょう)、依頼主も自分から提訴することは希望しなかったので、その件では様々な論点が決着しないまま、事実上のゼロ和解となっています。

ともあれ、トラック運転手の超過労働を巡っては、残業代請求のほか、事故絡みも問題も生じやすいことは確かでしょうから、運送等の業務に従事する方は、労使問わず、法令遵守の視点を大切にしていただきたいものです。

ハラスメントに関する法対策と5W1Hとバランス感覚

先日、労働上のハラスメントに関する法的問題を対象とする東北弁連主催の講習会があり、勉強のため参加してきました。

私は労働紛争を多く受任するタイプ(いわゆる労働事件専門)の弁護士ではありませんが、パワハラ絡みのトラブルを理由とする賠償等の問題について、労働者、使用者それぞれの立場で相談や労働審判の依頼などを受けたことがあるなど、多少は手掛けています。基礎的な勉強はしているつもりですが、ハラスメント問題に限らず、労働事件は今後も多く手がけていきたい類型であり、知見を深めることができればと考え参加した次第です。

講習会は、ハラスメント問題では東北の第一人者とされる仙台の先生の講義がメインとなっており、ここで詳細は述べませんが、例えば、セクハラ事案は、密室で行為や言動がなされるため、行為の事実の存否が争われることが多いのに対し、パワハラ事案は、ほとんどの行為や言動は衆人環視の職場内で行われ、他の従業員等の放置を含めた様々な事実の総合的評価が問題となるので、個々の周辺的事実の存否はあまり争われない(評価ないしそれを基礎付ける決定的な事実などが争われやすい)などという説明がありました。

また、その上で、パワハラを理由とする賠償訴訟で、裁判所が、事実の総合評価という手法に安易に頼らずに、個々の事実に関し賠償請求を基礎付ける違法有責な行為があったかを細かく審理した例があるとの説明もありました。

そのことを聞いて、パワハラ問題は、岩手に戻ったばかりの10年近く前に2回ほど手がけた先物取引被害の賠償問題に、似た面があるのかもしれないと思いました。

先物取引被害は、要するに、先物取引という特殊な取引に対する高度な知見又は独自の勘がなければおよそ手がけることができない、ハイリスク・ハイリターンな取引を手がけるのに相応しくない方(その種の経験のない定年後の高齢者など)が、先物会社の従業員の勧誘に安易に応じて多額の証拠金を預けることから始まり、最初は多少の利益が出たりするのですが、程なく、支払済みの証拠金では補填できない額の損失(いわゆる「追い証」状態)が生じ、損を取り返そうとして、担当者が進めるがまま延々かつ頻繁に取引を繰り返し、半年~1年ほどで巨額の損失が生じて終了となるというパターンを取ることが多いとされています(私が関わった事案は、必ずこのパターンでした)。

このような経過のため、個々の行為(勧誘、契約時の説明、証拠金の授受、個別の先物取引(買建、売建や決済)の勧奨、追い証発生時の説明など)については、それ自体のみをもって裁判所が不法行為性を認定させるのが容易でなく、勧誘から取引終了時までの様々な事実経過を詳細に説明し、被害者の取引適性のなさや取引内容の異常性(過度に取引を繰り返し、顧客の損失が増大する一方で、先物会社の手数料収入ばかりが増えていることなど)を説明し、総合的に見て顧客の犠牲のもとで先物会社の利益を図っている不法行為であると評価すべきだと主張するのが通例で、そのような判断をする例も多くあります。

ただ、私が手がけた訴訟では、主張等を尽くした後で行われた和解協議の中で、裁判官から、「個々の建玉の取引について、その取引自体の不法行為性を主張立証できなければ、賠償責任ないし賠償額の判断が厳しくなるかもしれない」と言われたことがあり、文献や多数の裁判例の考え方と違うじゃないかと驚き、対処に悩んだことがあります。

幸い?その件では事案に照らし相場の範囲と言える和解金の提示(回答)が先物会社側からなされたので、ご本人が了解し和解で終了となりましたが、裁判官が求める観点から主張を構成するためには、どのように取引を分析したり個々の取引の経過等を調査すべきか、参考となる裁判例等がほとんど見つからなかった上、依頼主が高齢者であるなど細かい事実の確認が困難と思われる方であったため、悩んだことをよく覚えています。

ともあれ、不法行為責任をどのような法的構成で認めうるかという問題は措くとしても、先物のようなハイリスク取引のトラブルであれパワハラであれ、長期間の様々な行為(人間関係等)に起因する問題、出来事の総合的な違法評価を理由とする賠償請求をするには、違法の評価に結びつく要素にあたる事情について、事実関係(いわば、5W1H)を詳細に主張立証しなければなりませんので、その種の問題を弁護士に相談なさる際には、ぜひ、時系列表を作成するなどして、事実関係の適切な整理と把握を通じ、第三者(弁護士)への適切な伝達ができるよう、賢明な準備をお願いしたいところです。

ところで、セクハラは話になりませんが、パワハラ紛争については、「労働者の適切な権利行使を妨害する言動」の類は話にならないものの、労働者が、その企業が想定している基本的な業務を適切に遂行することができない状態が続く場合に、指導・叱責が昂じて過激な言動に及ぶという例も見られるところで、このようなケース(相性的なものも含め)では、人材のミスマッチという面が否めず、使用者(上司)側を一方的に悪者にすることもできない例も見られるのだと思います(中には、労働者=部下の側に不誠実な行動が見られる例もあるでしょう)。

そのような例では、組合せの不幸(端的に言えば、離婚のように、離れた方がよい)の問題があり、相応の規模の職場であれば、配転等により解決すべきでしょうが、小規模な職場であれば、なるべく小康状態(引き延ばし?)を図りつつも、いずれはどちらかの離職等を視野に入れた解決を考えざるを得ないと思われます。

そうした意味では、(殊更に経済界が推進する解雇規制緩和に賛同するものではありませんが)健全な意味で、ミスマッチを克服し難い職場があれば、自分に合う企業を求めて短期間で適切な転職ができるよう、失業率が低く人材流動性(意識面を含む)の高い社会の構築(個人の起業促進なども含め)も求められているのではないかと思います。

余談ながら、レジュメで「ハラスメント判例一覧」が添付されていましたが、私が判例雑誌をもとに作成している判例データベースに入力したセクハラ等に関する裁判例(セクハラ被害に関する企業の調査内容(被害者の申告)の信用性を認め、加害従業員からの解雇無効請求を棄却し、さらに不当訴訟を理由とする企業から加害従業員への賠償請求も認容した例など)が挙げられていなかったので、その点は少し残念というか、「これも追加して下さい」と余計なことを言いたくなる衝動にかられました。

復興特需に伴う労災の多発と安全配慮義務

岩手では、半年ほど前から、震災復興の関係で沿岸各地で大規模かつ大量に行われている各種の土木、建設関係の工事などで、労災事故が多発しているとの報道をよく見かけるようになりました。

ご紹介の記事にもあるように、沢山の工事が同時進行で行われているため、人手不足や工期などがタイトになり、その結果、個々の従事者が、過重労働を余儀なくされていることなどが、原因として挙げられているようです。
http://www.morioka-times.com/news/2014/1406/19/14061901.htm

ところで、労災=業務上の負傷、疾病等に該当すれば、労災保険から治療費や休業損害が支給されますが、労災に起因する損害の全てを填補するわけではなく、例えば、労災保険からは慰謝料が支給されることはありません。

しかし、雇用主等に何の落ち度もないというのであればまだしも、企業側が、労災を必然的に招かざるを得ないような過酷な労働環境を強いるなどという事情があれば、労災保険とは別に、企業側の責任を問うことができます。

すなわち、そのような事情がある場合には、雇用主等に、従業員に基本的な安全を確保した労働環境を提供する義務(安全配慮義務)の違反があるとして、労災保険では対象外である慰謝料なども含めて、賠償請求をすることができます。

ただ、少なくとも私に関しては、震災復興に関する業務の従事について労災保険の適用や企業への賠償責任の問題が生じたというご相談を受けたことは、まだありません。

この種のニュースは見落とさないようにしているつもりですが、報道でも、その種の訴訟が起きたという話は(少なくとも岩手県内では)聞いたことがありません。また、主に若手の先生が従事している沿岸部での無料相談事業について、弁護士会のMLで相談内容(テーマ)の情報が流れてくるのですが、そこでも、この種の相談を目にした記憶がありません。

この種の労災(安全配慮義務違反)の問題は、工事に関する事故に限らず、人手不足や被災地対応の高ストレスに伴う精神疾患や過労死、過労自殺などについても当てはまる話であり、以前に、沿岸部の自治体に派遣されていた公務員の方に関する痛ましいニュースもあったと思いますが、それらの問題で労災保険や安全配慮義務違反(雇用主側の賠償責任)を巡って県内で裁判等が生じたという話も、聞いた記憶がありません。

もちろん、訴訟等に至る以前に、適切に被害補償を受けるなどして解決されているというのであれば、特に申し上げることもないのですが、果たして、本当にそうなのか、疑問がないわけではありません。

震災を巡っては、闇雲に法律相談事業を立ち上げる一方で、本当に弁護士のフォローが必要な事柄に、ちっとも手が届いていない(その結果、復興予算の無駄遣い等が放置されるなどの問題が生じた)という話を色々と聞くこともあり、そうしたチグハグさを解消し、真に支援が必要な人々のために弁護士がお役に立てる機会が、もっと設けられて欲しいと感じています。

例えば、この種の問題について弁護士会が自治体や業界団体?などと提携し広報活動をしてもよいのではと思うのですが、万年窓際会員の身分では、何の影響力もなく、お恥ずかしい限りです。

外国人の研修生・技能実習生に関する労働問題

現在、生産年齢人口の減少などに起因して、外国人労働者の受入を促進すべきだという議論が活発化しており、最近では、安部首相が「外国人女性の家事労働への進出促進を」と述べた(で、批判された?)などという報道も見かけました。

外国人労働者を巡っては、何年も前から、研修制度の形で実質的には労働者と変わらない待遇で就労に従事させているという話があり、中には、工場で劣悪な条件で就労させているのではないかとして、問題になったケースも幾つかあったと記憶しています。

この点に関し、先般、「技能実習生(中国人女性)Xら5名が研修先のA社で就労していた件で、A社の役員がXらを劣悪な環境で就労させて様々な違法行為を行ったとして、A社及び役員のほか、A社を監督すべき立場にあった協同組合とその役員、Xら(実習生)のサポートを担当していた企業とその役員にも賠償責任を認めた例」を見かけました(長崎地判H25.3.4判時2207-99)。

中国人女性Xらは、H21出管法改正前の外国人研修・技能実習制度に基づき入国し、第一次受入機関たる雲仙アパレル協同組合Y3の傘下企業(第二次受入機関)であるA社で研修(縫製作業)をしていました。

が、Xらは、「A社(役員)は、長時間残業など労基法違反の環境でXらを就労させ、旅券・通帳等を違法に管理し、セクハラ・暴行をしており、その上、最低賃金法の定めを下回る賃金しか支払っていない」と主張して、関係者に賠償請求する趣旨の訴訟を起こしました。

法律構成としては、①A社役員Y1・Y2に対し、民法709条・同719条(共同不法行為)・会社法429条等(A社は審理中に破産)、②Y3と役員Y4に対し、民法719条・中小企業協同組合法38条の3(役員の賠償責任)・一般社団・財団法人法78条(法人の賠償責任)、③来日実習生のサポートを担当するY5社と役員Y6に対し、719・会社法429条(役員の賠償責任)・上記法人法78条、④公益財団法人国際研修協力機構Y7に対し、719条(調査義務違反)を理由に賠償請求しています。

裁判所は、Y7に対する請求のみ棄却し(Y7に義務違反にあたる事実なし)、他はすべて一部認容しており、金額はXら5名につき、一人あたり170~225万円ほどになっています。

判決では、Xらを労基法9条・最低賃金法の適用対象たる「労働者」と認め、Xら主張のY1・Y2による違法行為に加え、Y4・Y6がこれを幇助していたとの事実関係を認めたようです。また、破産手続済のY1に対する請求権は「悪意で加えた不法行為に基づく請求権」(破産法253条1項2号)に該当する非免責債権と認定しています。

この事件は長崎県の縫製工場を舞台としたもののようですが、岩手県北エリアも縫製工場が多いそうで(高級衣類を担当する質の高い縫製で評判らしいです)、現在と異なり企業倒産が非常に多かった10年近く前には、沿岸北部の縫製工場が倒産し、私が破産管財人を担当したことがあります。

幸い、その企業に関しては、上記のような問題を耳にすることはありませんでしたが(未払賃金があったものの、労働者健康福祉機構による立替払+財団債権としての配当により、大部分をお支払いしたはずです。反面、それで原資が尽き、一般債権者には一切配当できませんでしたが)、申立以前に外国人の方(実習生?)も従事していたという話を聞いたような記憶があり、当時すでにこの問題が話題になっていたことから、そのような問題がなければと思ったことを覚えています。

好むと好まざるとに関わらず、被災地などの労働者(生産人口)不足に伴い、外国人労働者等の何らかの形での受入の増大は高まらざるを得ないのではと思われます。

このような事件が起こらないよう、また、職場でのトラブル等があれば、大事になる前に企業外部を含む関係者が早期に適切な対処ができるよう、このような判例などをもとに勉強したり、弁護士等のサポートを受けていただければと思っています。