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日弁連廃棄物部会

原発被曝廃棄物の中間貯蔵や最終処分などの実情に関する平成30年福島視察

4年間に日弁連廃棄物部会で福島第一原発の周辺地域(相双地区)を視察した件について、以前にブログで取り上げたことがあります(前編後編)

この視察について、3年前に日弁連・公害対策環境保全委員会が発行している広報(公害環境ニュース)でもレポートしたことがあり、かなり経過してしまいましたが、ブログにも掲載することにしました。

1 はじめに

廃棄物部会では、福島第一原発から放出された放射性物質に被曝したため特別の処理を要する廃棄物のうち、放射能濃度(ベクレル数)の高いものに対する現在の処理などの実情を確認するため、本年6月17日・18日に、福島県双葉町など原発の周辺地域への調査を行いました。

具体的には、①中間貯蔵施設の予定地など、②特定廃棄物(8000~10万ベクレルの焼却灰等)の埋立処分施設(福島エコテック)、③除染土壌の再生利用実証実験施設の3箇所を視察し、関係者の聴取を行いました。

2 中間貯蔵施設の敷地等の視察など

中間貯蔵施設は、双葉・大熊町のうち第一原発を取り囲む総面積1600ヘクタールもの広大な土地に予定され、大半が民有地のため国は平成27年頃から買収などの交渉を行っています。

双葉町役場のご担当の引率で常磐富岡ICから国道6号を北上し双葉町に向かい、最初に役場屋上に赴き、事故直後の対応やその後の経過などの説明を受けました。

そして、中間貯蔵施設の予定地となっている役場近くのエリア(現在はまだ民家や神社などが点在)、すでに民家などが解体され山林の合間に分別・保管等の施設が建設されているエリア、津波被害を強く受けた海岸地帯、原発敷地に接するエリア、町の中心市街地(ゴーストタウン状態)なども見せていただきました。

先祖代々の土地を手放せぬとして強硬に拒否する方々を除き、大半の住民はやむなく用地売却に応じているそうですが、最近まで、そこには穏やかな里山の光景があったはずで、相応の補償がなされるとしても、谷中村やダムに沈められた村々などを見ているような印象が否めませんでした。

ご担当は現在の役場や町民が直面する様々な課題を説明しつつ、「この状況は自分達が望んだことではない、でも、他の人々に迷惑をかけたくないと思って犠牲を引き受けている、その点は全国の人々に知って欲しい。それが一番言いたいことです」と強く述べていました。

3 福島エコテックの視察など

福島エコテックは、8000ベクレルから10万ベクレルまでの廃棄物(高濃度焼却灰など)の埋立のため国が既存の産業廃棄物最終処分場を買収(国有化)して設置した施設であり、埋立可能容量は65万㎥、見通しでは高濃度廃棄物やその他の被災廃棄物の埋立に6年ほど、その他の廃棄物(双葉郡8町村の一般廃棄物の焼却灰等)の埋立に10年ほど使用することを想定しているそうです。

高濃度廃棄物は、事前に大型収納容器に封入しベクレル数を測定した上で搬入し、通常の管理型処分場よりも汚染リスクの防止を強化して埋立を行っており、例えば、溶出しやすい飛灰は事前にセメント固型化し、埋設廃棄物の下部や中間層に土壌層を敷設しセシウム吸着を図るなどの措置が講じられているとのことです。

当日はひっきりなしにダンプが出入りし多数の大型クレーンにより盛んに埋立が行われていました。「地域の理解を得るためにも一般の見学を広く受け入れる準備をしている」とのことでしたが、入口付近には「原発に隣接しない楢葉町に処分場を設けるのは反対だ」などと書かれた反対派住民の看板も設置されていました。

4 土壌再生利用実験施設の視察など

環境省は、除染作業を通じて除去された膨大な量の土壌(最大約2200万㎥と推定)について、汚染廃棄物の最終処分量を低減させるなどの目的で適切な態様での再生利用の促進を企図しており、まずは道路の盛土材や防潮堤などの構造基盤としての活用を実現するため、南相馬市内に安全性調査の実証実験施設を設けています。

実験は最終段階に入っており、対象資材たる土壌(1㎏あたり771ベクレル)の浸出水の放射能濃度が採取開始から現在まで全て検出下限値未満なので、安全性が実証されたのではないかとの説明がありました。

再生利用には現在も様々な議論が続いており、今後も注視していく必要があることは間違いありません。

5 双葉町役場での聴取など

最後にいわき市の双葉町役場事務所にて役場職員の方々と面談し、中間貯蔵施設の受入の経緯や用地取得に関する役場側の対応などについて説明を受けました。

役場の方々は、将来、廃炉後に汚染廃棄物によるリスクだけが現地に残る事態を危惧しており、今後も国や東電などとの折衝に取り組んでいくと共に、多くの方の支援をお願いしたいと述べていました。

6 最後に

原発が作り出した膨大な電力の主な受益者は大都市の住民や企業群などであり、地元住民ではありません。

と同時に、膨大な電力の生産と都市部での電力の浪費は、大量廃棄社会の震源地(最上流部)と言うべきもので、廃棄や浪費を減らすには循環利用もさることながら必要以上の電力は最初から作らないなどの姿勢が求められると思います。

地元民に犠牲を強いるばかりの社会を繰り返さぬよう、皆さんの更なるご尽力が求められているのではないでしょうか。

 

いわゆる「放射性廃棄物」の処理の現在と悲しきウラシマ感(原発編その2)

前回に引き続き、福島第一原発の事故により原発周辺で生じている廃棄物などの問題に関する視察調査の2日目です。

今回の視察では、楢葉町(第二原発の南側にある町)の天神岬という景勝地に設けられた「しおかぜ荘」という温泉地に宿泊させていただきました。

朝は松と大海原を眺めながら露天風呂を堪能できる有り難い温泉で、周囲の雰囲気が浄土ヶ浜の近くにある休暇村陸中宮古に似ています。入口には安倍首相や小池知事の来訪写真もありましたが、双葉郡で宿泊するならここが一番かもしれません。

朝には皆で岬の展望台に立ち寄りましたが、海岸線の北側には北三陸(田野畑村)の鵜の巣断崖を思わせるような崖の連なりがありました。

この名も知らぬ崖を越えたすぐ先に福島第二、そして第一原発があり、可能なら、あの崖の突端まで行き原発の姿を見てみたいものだと思いました。

反対側は原発ではなく広野火力発電所と楢葉町の海岸です。外洋には洋上風力発電の実験施設も設置されており肉眼や望遠鏡で確認できます。

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前日は、双葉町一帯を「中間貯蔵施設」予定地(10万Bq超の被曝汚染廃棄物などを30年保管するための場所。第一原発を取り囲む広大な土地に予定)とされた場所を中心に拝見しましたが、この日は「8000Bq~10万Bqまでの廃棄物の埋立のために設けられた最終処分場」「除染作業時に除去した被曝土壌の再利用に関する実験施設」の2ヶ所を訪ねました。

最終処分場(特定廃棄物埋立処分施設)は南東北から東関東の6県に各県1箇所の設置が予定されていますが、現時点で稼働しているのは福島だけで(既存の管理型処分場を国有化したことで迅速な開設に至ったもの)、他は候補指定地(市町村)の強硬な反対により用地確保の目処すら立っていません。

現地は常磐道の目と鼻の先の場所にあり、車窓からも全容を確認できると思われます。処分場内では、絶え間なく次々と大型ダンプの出入りがあり、運び込まれたフレコンバッグ状の大型の格納容器(高濃度の焼却灰などが格納されているもの)を、巨大なクレーンで持ち上げては所定の場所に埋設するという作業が繰り返されていました。

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再利用実験施設は、南相馬市の最南部、津波で被災した田畑を国が買収して確保した広大な除染廃棄物の仮置場の一角に設けられており、現在は、盛土の作業が終了して、浸出水の安全性を確認するだけの状態になっていました。

この「処理土壌の実用化の実証実験」は飯舘村でも計画され、村内の園芸栽培用の土壌造成(基本的に根の届かない地下数m部分)への利用が検討されています。

私自身は、廃棄物処理やリサイクルなどを巡る技術的な問題には全く明るくありませんので(本業で携わる機会に全く恵まれません)、率直なところよく分からなかったのですが、翌日の部会の会議では「あのような簡易な方法で実用性が検証できたと言えるのか、仮に土壌の再活用を実施するなら実験の数百倍の規模で行うのだろうから、それによる放射性物質の周辺水域への影響なども検討すべきでは」などと述べる方もいました。

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私は、諸事情から最後の「双葉町役場の方々との懇談」には参加せず中座し南相馬の無人駅から一人で常磐線を北上し帰宅したのですが、7年前が閉じ込められた相双から、あまりにも普段どおりの都会的日常が広がる仙台駅の人混みに降り立つと、強烈なウラシマ感が沸き上がります。

そして、そのウラシマ感は決して心地よいものではなく「(相双という)残念な光景が今も続いているのにそのことが完全に他人事になっている大都市の大量消費・大量廃棄などの光景」、そして私自身も「そちら側の人間であること」への気持ち悪さ、居心地の悪さという形で感じるものでした。

そうした「別世界に来たような、何となく嫌な感じ」は震災直後の4月に所用で花巻から飛行機で東京に行った際も受けたことがありますが、ともあれ、それを体感できるだけでも人々が「相双のいま」を訪れる意味があるのではと思いました。

私は、平成25年頃にも廃棄物部会の視察で南相馬や飯舘に訪れたことがあり、その際に請戸漁港の浜から第一原発方面を見たことがあります。当時は浪江~小高も手つかずの状態で、海岸近くの原野などに漁船や車両などが大量に放置され被災家屋が残存している光景に愕然とした記憶があります。

そうした「取り残され感」を何年も強いられてきた地域そして人々にとって、一番必要なのは「希望」でしょうから、現在、様々な形で復旧・復興や帰還が取り上げられること自体は、今も一定の放射線被害(物質)が残存するのだとしても、前向きに見るべき面は強いのでしょうし、多様な関係者が抱えた様々な事情と現実にも配慮する必要があろうかと思います。

原発事故という事象は一つでも、それにより生じた各人の不幸の形は人の数だけあることは間違いありません。だからこそ、各人が自分の立場で何をできるか、すべきかを、この地は今も問い続けているのだと思います。

追伸 遅まきながら、大阪北部地震で被災された皆様に、お悔やみとお見舞いを申し上げます。

福島県双葉町の止まった時間と変わりゆくもの、そして責任のいま(原発編その1)

6月17日から18日にかけて、福島県双葉町など、福島第一原発の周辺地域に行ってきました。

日弁連廃棄物部会では、ここ数年、福島第一原発の事故で飛散した放射性物質汚染の被害を受けた廃棄物の処理に関する制度や実務のあり方を検討しており、現在は、原発周辺の避難区域(立入・居住の禁止区域)に膨大な面積を買収等して設置が進められている「汚染廃棄物の中間貯蔵施設」などについて、調べたり関係者の方から話を伺うなどしてきました。

そして、現地を確認すべきということになり、主に双葉町の現状を見せていただくことになったものです。

今回は17日の昼にいわき駅で集合し、施設の設置予定地や一定の施工がなされたエリアをはじめとする双葉町内の様々な場所に、町役場のご担当で頭髪に強いベッカム愛を感じるHさんに案内いただき拝見してきました。

まず、常磐富岡ICを下りてすぐの待ち合わせ場所から国道6号を北上して大熊町から双葉町に向かいました。国道は走行が自由にできますが、一帯はすでに帰還困難区域として立入が原則禁止とされ、道路に面する建物には、すべてバリケードが設けられている異様な光景が広がっています。

国道から中心部に向かう道路には柵が設けられてガードマンが立ち、住民や事前に許可を受けた者のみが立入可能となっており、我々も身分証明(免許証)を提示して立入が認められました。

そして、車内でHさんの説明を色々と伺いつつ最初に町役場に到着し、5階建の役場の屋上に行きました。

役場の周辺は灌木の生い茂る原野が広がっていますが、Hさんによればこれらはすべて田圃であり、震災後、一切人の手が入らない状態が続いたため、7年の間に田畑の中に灌木が次々に育ったのだそうです。

刮目せよ、ニッポン!忘れるな、大東京!
これが、あなた方、そして私たちが奪った、誰もいない双葉町の今だ。

人の姿も車の通行も人間の活動がすべて停止した状態にある光景を見ていると、そのように叫びたいものが込み上げてきたように思います。

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そして、引き続いて役場内や町内の名勝・双葉海岸(日本の海岸百選)の「海の家」の施設なども案内いただきました。

役場の時計は地震の発生時を、海の家の時計も津波の到達時を指していました。彼らの時間は、今も、あのときから止まったままです。

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役場には、震災直後に第一原発から役場に提供された様々な情報を掲示板に貼っていたときの状況が、そのまま残されていました(視察の際に、当時の状態を伝えるため、保存しているのだそうです)。

Hさんは「念のため(制御不能の危険がある旨を東電から役場に伝える)」という連絡は、原発の維持管理上はあり得ない、非常に異常な伝達なのだと強く述べていました。

当時の役場の方々にしてみれば、自分達に到底対処困難で誰も予測・準備していなかった極限状況を突如として突きつけられても困惑・狼狽するほかなく、そうした気持ちが、その言葉へのこだわりとなって表れているのではないかと感じました。

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双葉海岸に海の家として設置された施設は、三角の形状が、どことなく陸前高田の道の駅に似ているように感じますが、立入OK(自己責任で?)とのことで、中も案内していただきました。こちらの津波は十数mとのことで、屋上の展望台までは大丈夫だったようです。

また、建物の周囲を見渡すと、陸前高田と異なり松林が若干ながら存在しています。この施設の背後の林は建物のお陰かもしれませんが、Hさんによれば、南側に岬状の崖地があり、津波が南側から来たので崖地に守られたのではないかとのことでした。

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双葉町の中心部にも案内いただきましたが、こちらも倒壊した家屋群が手つかずの状態のまま残っていました。

役場の方針では、双葉駅周辺は、数年内の常磐線の再開に合わせて(すでに線量はかなり低下しているので)町有地化して再開発するが、このエリアは民間の自主努力に委ねるそうです。そのため、多くの人が「今は被災を理由に固定資産税が免除されているが、建物を解体すると、街の再生の構想も描かれていない中で土地の利活用もできないのに固定資産税ばかりが再課税されるのではないか」などの不安があるため、解体・再開発などに尻込みしているとのことでした。

翌日に垣間見た浪江や小高(南相馬南部)などは曲がりなりにも街の再始動が始まっていましたが、この街の「止まった時」が動き出すのはいつの日になるのか、まだまだ難しい状況が続くのかもしれません。

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Hさんは、自宅も実家も中間貯蔵施設の予定地となったとのことで、その周辺を案内していただきました。ご実家の周辺は昔からの居住者が多い小さな集落(里山エリア)で、神社には、先人が心の拠り所として崇めたこの鎮守神を末代まで受け継ぐと書かれた平成28年建立の碑がありました。

ご自宅は、町内で近年に開発された振興住宅地で、Hさんも多額の住宅ローンを抱えた状態で被災しており、中には入居から2週間しか経っていないという方もいたのだそうです。岩手でも、完成後で鍵の引渡未了の状態で自宅建物が被災したケースについて相談を受けたことが震災直後にあったことを思い出しました。

自宅内部も案内していただいたのですが、震災当日の新聞がそのまま置かれており、双葉は6強ということで、割れた食器類なども散乱していました。

突然の避難の後、長期を経て一時帰宅が認められた際もごく僅かな貴重品(一人あたり一袋だけ)しか持ち出すことが認められなかったとのことで、自宅内には当時まだ幼児だったお子さんのオモチャが散乱していました。

一時帰宅の際は、自宅内に放射性物質が浸潤しオモチャ自体が被曝しているため持ち出しは断念したのだそうで、私のように「万物に魂が宿る」の感覚の人間が見ると、悲惨な運命を強いられた動物達と同様、オモチャ達も悲鳴を上げているのではないかと思わずにはいられませんでした。

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説明をすっ飛ばしていましたが、中間貯蔵施設とは、10万ベクレル超のため処分場に埋立できない(と特措法で定められた)汚染廃棄物などを30年保管するための場所であり、第一原発が立地している双葉町・大熊町内の原発を取り囲む広大なエリアに設置が予定されています。

Hさんの実家周辺は第一原発から北西3~4㎞程度の距離にあるため周囲にはすでに買収等された土地も多く、高濃度廃棄物の保管や除染土壌の分別・減容などを目的とする施設の整備が進んでいました(地上権設定による賃貸をしている方もいますが大半は売却したとのこと。もちろん頑強に拒否している方もかなりの数に上るようです)。

もちろん「あのとき」まで、そこには過疎なりとはいえのどかな人々、田畑、里山の光景があったわけで、相応の補償がなされたのだとしても、ダムに沈められた村を見ているような印象は否めませんでした。

「ナウシカ」の冒頭で旅の賢者が握った幼女を象った人形が掌で崩れていくシーンがあったと記憶していますが、或いは、この地域(一つの小さな村)は今、人が作り出した腐海に沈もうとしているのかもしれません。

汚染拡散被害には避けて通れない話かもしれませんが、Hさんからも、道路などを挟んで中間処理施設(買収等)の対象になるか否かが分かれたので、隣同士で「お金が払われる人、そうでない人」がいて、人間関係に影を落としたり、土地の買収等に関しても、速やかに手放して県外で生きていく人もいれば、地元には十数代続く家も珍しくなく、先祖代々の土地を自分の代で手放すことはできないとして頑なに拒否する人もおり、そうした個々人の置かれた状況の違いに十分な配慮がなされていないのは残念だ、といった説明がありました。

そして、一番言いたいこととして「このような状況は自分達が望んだことではない、でも、自分達が(中間貯蔵施設などを)引き受けないと他の人々に迷惑がかかると思って、自分達が犠牲を引き受けている、そのことは全国の人々に知って欲しい」と強く述べていました。

私は平成15年から日弁連の廃棄物部会に所属していますが、部会の当時からの一貫したテーマは「大量消費・大量廃棄社会の脱却・克服によるゴミゼロ社会(ゼロエミッション)の実現」でした。

原発は敗戦国ニッポンが米国(GE社)から購入を強要されたものだ、などと言う人もいるようですが、基本的には、大量生産・消費そして廃棄の社会を作った大東京(首都圏)が、その基盤としての電力供給のため作ったものであり、膨大な電力の生産と浪費は「大量廃棄社会の震源地」と言えないこともありません。

そうであればこそ、当時(一時期、日弁連の地球温暖化PTにも所属していました)から、「脱電力社会こそが掲げられるべきでは(とりあえず、日弁連もクーラー付けすぎを止めることから始めよ)」と思っていたのですが、そうした気運が盛り上がることもないまま、震災=原発事故に至り、その後も多少の改善はあったにせよ「再生エネルギー(代替電力)推進」などに比べれば「脱電力」という声はごく僅かなものに止まっています。

出口(廃棄)を減らすには、循環利用もさることながら、自分達が使い切れないものは最初から作らない、作るからには責任をもって(作られたものに感謝して)「モノ」としての命を使い切るべきではないかと思います。

そのような意味で、電力という「命」を無駄遣いし続けたからこそ電力が自然の力を借りて人に復讐をしたのではないか、と思わないでもありません(復讐すべき相手を間違えているのではないかという点はさておき)。

ともあれ、結果としてこの地は今、キジやシカ、イノシシの楽園となっているようです(シカとイノシシは一頭ずつしか見つけることができませんでしたが、キジは町鳥だそうであちこちにいました)。

そんな、生き物たちの手に取り戻されたと言えないこともない光景を、海は静かに見守り続けています。

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加除式書籍の追録執筆は続くよどこまでも

平成18年に、新日本法規出版社から日弁連廃棄物部会(のメインの先生)に「廃棄物処理法の各条文に関する網羅的解説を掲載した加除式書籍を出版したい」とのお話があり、平成15年に加入した私も執筆陣に加えていただき、措置命令の条文などの解説を担当したことがあります。
http://www.sn-hoki.co.jp/shop/product/book/detail_0572_8_0.html?hb=1

加除式書籍は改訂が必要になれば追録を作成しなければならないのですが、廃棄物処理法の性質上、法改正などが頻繁にあり、私が担当した箇所も、2年に1回くらいの頻度で作業の指示がなされています。

で、昨年12月に平成29年改正の追録の要請があり、年末が提出期限だったのですが、今年の年末年始は本業等に加えて私事で厄介事が勃発したこともあり、正月明けになってようやく、一晩で仕上げて提出しました。

今回の追録は重要な新設条文がある一方、それに対する解説書の類は手元に何もありませんので、開き直って、ネットであれこれ調べて大胆な仮説?を交えつつ、無理矢理仕上げたというのが正直なところです。

代表の先生方と出版社との協定で、最初に気持ち程度の報酬を頂戴したあとは、追録の原稿料は一切無しという日々を送らせていただいておりますが、そんなことにもめげずに、本年最初の一首。

新年の最初の徹夜はタダ仕事 今年の計も推して知るべし

と愚痴半分の戯言をFBにも投稿したところ、日弁連の医療観察法の解説書籍などを刊行されているO先生から「委員会活動で執筆したものは、印税=原稿料も含めて全て日弁連の収入になり、執筆者には(実費支給を別とすれば)一円も来ないので、最初の原稿料が入るだけ恵まれているよ」とのコメントをいただきました。

そのようにせざるを得ない合理的な事情(活動費や大勢の合宿など実費類が多いとか、出版元の経費リスクなど)があるのでしょうが、それだけ伺うと、日弁連から「中村修二教授もびっくりのブラック弁連」に改称した方がよいのではというか、いつか裁判する人が出てくるかもなどと、余計なことを考えてしまいます。

まあ、我々の書籍もそうですが、法律書籍の出版は自身の勉強を兼ねてという色合いが非常に強く、研鑽と発表の機会が与えられただけで感謝すべきというほかないという感じはあります。

追録の作業も直近の重要な改正を否応なくフォローできるというメリットは大きく、そうした意味では有り難いお話なのですが、困ったことに私自身が住民・業者・行政いずれの立場でも、未だに本格的な廃棄物紛争の訴訟等を受任したことがなく、せっかく勉強したことを仕事で活かす機会に恵まれていません(自宅建設用に購入した土地から廃棄物の不法埋設が発覚し関係者に責任追及した事案があり、その際は相応に役立ちましたが・・)。

まあ、東京から遠く離れた岩手で「何でも屋のしがない田舎の町弁」として仕事しているせいか、それとも岩手は廃棄物を巡る民事紛争などがほとんどない恵まれた土地柄だからなのか?、その辺は分かりませんが、まだ勉強が足りないから「そうした仕事」にも巡り会わない(選ばれない)のかもしれないと謙虚に受け止め、今後も廃棄物部会の活動を含めて精進していければと思います。

秋田県・小坂町の「千葉の高濃度焼却灰の搬入埋立問題」に関する日弁連調査③住民訴訟の弁護士費用保険、焼却灰の過疎地埋立ほか

前回の投稿の続き(秋田調査の最終回)です。

1 住民訴訟支援のための弁護士費用保険

前回の投稿で、地元住民が現在(或いは過去に)、「本件で誰かに一矢報いるための手段はないのか」という観点から、廃棄物処理法絡みを中心に、訴訟手続について少し検討してみました。

ただ、そのような訴訟を起こしたいのだとしても、「降って湧いた災難に義憤で立ち向かう」という地域住民(有志)の立場からすれば、これに従事する弁護士の費用は誰も負担したくないでしょうし、(私自身は、その種の訴訟に従事した経験がありませんが)この種の紛争で住民支援に従事する先生方の大半が、そうした実情を理解し、「ゼロではないにせよ時給換算で超不採算」となる金額でやむなく受任しているのが通例ではないかと思います(この種の紛争は、真面目にやるのであれば事実関係から法制度まで膨大な調査、勉強が必要になりますので、採算を確保するのであれば相当な高額になることは必定です)。

そこで、最終処分場や中間処理施設の設置にあたり、適正処理などに関し問題が生じた際に、是正を求める法的手続を希望する地域住民が利用できる弁護士費用保険(保険商品)を作るべきではないかと思います。

そして、その保険契約は、施設側(許可を求める業者)が保険会社と契約し、保険料を施設側が負担とすると共に、そうした保険契約を締結していることを許可の条件の一つとして付け加え、その施設の稼働後、稼働内容に問題があると感じて訴訟提起等を希望する住民が保険会社に保険金利用を申告し、審査を受けるという形をとればよいのではないかと思います。

もちろん、保険会社は住民から申請があれば何でも認めるというのではなく、乱訴防止のため一定の審査をすることが前提になりますし、施設の稼働終了時(或いは埋立終了後の相当な監視期間の終了時)まで問題が生じなければ、保険料の多くが還付されるなど適正処理のインセンティブを高める優遇措置を講じるべきでしょうし、保険商品が複数ある(より住民の権利行使の支援が手厚いものと、そうでないもの)場合、より手厚い保険に加入している方に優良業者としての認証を付するといった考慮もあってよいと思います。

そうした保険制度・保険商品を、日弁連と保険業界が提携して開発し、環境省などに働きかけても良いのでは?と思いました。

もちろん、こうした発想(危険創出のリスクを担っている側が、そのリスクの潜在的被害者のために弁護士費用保険を負担する仕組み)は、廃棄物問題に限らず、有害物質などを扱う事業者(が設置されている地域)一般において応用されてしかるべき事柄だと思います。

そうした観点から弁護士費用保険を育てる観点を、関係各位に検討していただきたいところだと思っています。

また、上記のようなタイプの弁護士費用保険とは別に、住民訴訟一般で利用できるような「住民側が少額の保険料を負担し、訴訟などに相応しい事案で一定の弁護士費用を保険金拠出する保険商品」も、開発、販売して欲しいと思います。とりわけ、住民訴訟の場合、勝訴すれば相当な弁護士費用を行政に請求することも可能であり(地方自治法242条の2第12項)、談合などの巨額賠償が生じる事件では自治体から巨額の弁護士費用を回収する例もありますので、制度としても構築しやすい面があると思います。

そして、そうした動きが、やがては「国に対する住民訴訟(国の公金支出是正訴訟)」の創設に繋がっていけばよいのではというのが、司法手続を適切に利用し行政のあり方を民が是正していくことの必要性を感じている、多くの業界関係者の願いではないかと思います。

2 一般廃棄物(焼却灰)の広域移動(都会の灰が田舎に)という問題

ところで、今回の秋田調査で私が一番関心があったことは、「千葉から焼却灰が持ち込まれていること自体を、秋田の人々(地元民、地元行政、処理業者、県庁)はどのように受け止めているのか、そのこと自体に抵抗感ないし反感はないのか」ということでした。

そもそも、私自身は、今回の秋田調査の話が今年の6月に廃棄物部会に持ち込まれるまで、一般廃棄物(の焼却灰)が他県に広域処理されているなどという話は全く知らず、てっきり自県内(せいぜい関東・東北などの自圏内)で埋め立てられているものと考えていました(これに対して、産業廃棄物は昔から広域移動の問題があり、日弁連(廃棄物部会)の意見書・決議等でも取り上げています)。

それが、6月の廃棄物部会の会合の際に、千葉で廃棄物処理の問題に取り組んでいる方から「秋田の方から本件の相談を受けている、ぜひ日弁連で取り上げて欲しい」とのお話をいただいた際、恥ずかしながら初めて千葉から秋田に灰が搬送されているという話を知り、それが現行法で何ら規制されていないことに些か驚くと共に、「自圏内の生活ゴミ」たる一般廃棄物は、自圏内処理されなくてよいのか(他圏なかんずく過疎地域に搬送するのは、そこに一定の対価が介在するにせよ、「都会の厄介払い(エゴの押しつけ)」という性格を帯びるのではないか)」と感じずにはいられませんでした。

とりわけ、私の場合、「廃棄物問題への関わり」の原点(他の事件に関わったことがありませんので、現在まで実質的に唯一の実体験)になっているのが、「都会の膨大なゴミ(産廃)がまるごと故郷の山奥に不法投棄され、莫大な撤去費用が被害県に押しつけられた」事件である岩手青森県境不法投棄事件であるだけに、余計に、千葉の焼却灰が秋田に埋め立てられているという話を聞いて、同様の「嫌な感じ」を受けた面があります(それが、長年に亘る「東北と中央政権の不幸な歴史」に繋がる話であることは、申すまでもありません)。

そこで、秋田調査に赴く前に廃棄物の広域移動に関して少しネットで調べてみたところ、環境省が廃棄物(一廃・産廃)の広域移動を調査した報告書を取り纏めているのを発見しました。
http://www.env.go.jp/recycle/report/h27-01/index.html

これによれば、一廃については、「関東→北日本(東北・北海道)」のみ膨大な焼却灰が搬入されていることを示す図太い流れがあり、他のエリアは全く広域移動がないという、ある意味、異様とも言える表示がなされています(但し、よく見ると東京は域外搬出がありません。奥多摩方面に大規模な処分場が建設された影響でしょうか)。他方、産廃の場合、東日本は中部以東は北日本、以西は九州・沖縄という太い流れが示されています。

要するに、現在の社会では、「首都圏の生活ゴミ(一廃)は、首都圏で焼却し、その灰を北日本などに埋め立てている」という実情があり、少なくとも、搬入・搬出の双方の住民などが、そのことについて知らなくて(問題意識を持たなくて)よいのかという点は、強調されてよいのではないかと思います。

もちろん、「廃棄物の広域処理の何が悪いのか。管理型処分場(遮水シート)は安全だ(汚染の外部流出は基本的にない)というのが国の説明じゃないか。現在の「廃棄物処理の市場」を前提とする相当な対価も払っているじゃないか。そもそも、廃棄(消費)の前提となった物自体が、都会で生産されたものではなく地方をはじめ全国・全世界で生産されたものなのだから、廃棄物も生産側に戻してよい=消費地を廃棄地とすべき理由もないじゃないか」といった主張も、一定の説得力がないわけではありません。

これに対し、処分場絡みの紛争に取り組んでいる方々は、「遮水シートは耐用年数や破損などの問題があり、万全では全くない。だからこそ、現在の処理費用も原発の電力料金のように破綻リスクを含まない不当廉価というべきだ(だから、排出者側は十分な責任をとってない)」という主張をしており、私自身、どちらの主張が正しいか軽々に判断できる立場にありません。

今回の秋田調査でも、上記に述べたようなことを住民の方に説明した際、問題意識を共有して下さる方もお見受けしましたが、そのような方は多くはなく、秋田県庁の方と話した際にも、「県議会で、そのような観点からの反発はあったようだ。もちろん、ゴミの搬入自体は県民の一人として嬉しい話では全くないが、業者自身(GF小坂)が現行法上は優良業者と評するに足るもので、地元の産業振興の観点(同和鉱業グループ及びこれに依存する地域住民の雇用の存続)からもやむを得ないのでは」といったコメントをいただいており、こうした感覚は、受入側の認識としては典型的なものではないかと思われます。

ただ、少なくとも、千葉県民は「地元のゴミ(焼却灰)を引き取って貰っている」ことについて何らかの謝意を秋田側に示すべきではないかと思いますし、そうしたことも含めて、資源循環システムの全体像のあるべき姿も視野に入れつつ、社会における物の生産、消費、廃棄のあり方などを、多くの方々に検討いただければというのが、何かと犠牲を強いられやすい「流入圏」側の住民の一人としての願いです。

3 おまけ(隗より始めよ)

私は、家庭都合(兼業主夫業)や資力(最近話題の「弁護士の貧困」に残念ながら当方も無縁ではありません)などの事情から、廃棄物部会の現地調査(全国各地への出張)に参加するのも久方ぶりだったのですが、宿泊先に歯ブラシを持参するのを失念したので、宿の「使い捨てブラシ」を利用し、そのまま持ち帰り、歯磨き粉ともども、最後まで使い切りました(今回のブラシは1回で駄目になるような品質のものでしたが)。

日弁連廃棄物部会が取り組んでいた不法投棄問題などの総括をした平成22年人権大会決議では、「廃棄物の発生抑制」の見地から宿泊施設の使い捨て商品の有料化など(使用抑制)を提言しており(理由第3の1)、そうした観点も含め、私自身の戒め(或いはケチ病)として、なるべく自宅から持参し、失念したときも上記のようにしているのですが、全国の弁護士でそうしたことをきちんと行っている人がどれだけいるのだろうと疑問を感じざるを得ない面もあります。

余談ながら、日弁連(公害環境委員会)の会合のため上京すると、ご自身は地球温暖化防止などと言いつつ、館内はとても寒くて厚着を要する設定温度になっていたり、洋式トイレには「地球温暖化防止のため蓋を閉めよ」と紙が入っているものの、いつも開けっ放しになっていたり(掃除の方がいつもそうしているのでしょうか?だったら、一声かければいいのに・・)、私のように事務所でほとんどエアコンを付けない人間からすれば(事務局エリアからの送風で足りるとしていますが、少し汗ばみます。ですが、それこそが夏というべきでしょう)、残念に感じてしまいます。

上記に限らず、日弁連が社会一般に向けて何らかの意見を出していても、それに即した実践を会員個々に率先して求めるという話を聞いたことがなく、例えば、脱原発を標榜するなら日弁連会館はエアコン禁止(送風のみ)、エレベーターは原則として4階以上の移動のみOK(3フロア分までの移動は階段で歩きなさい)とするなど、「脱電力(浪費)」を率先して会員に強制する姿勢があって然るべきではないかと思います。

震災直後に平成23年4月に東京に行ったときにも似たようなことを思いましたが、日弁連に限らず、夏の東京の建物はどこに行っても岩手より寒い感じで、「おさんぽ怪獣」ことシン・ゴジラに放射能をまき散らして貰わないと「東京(ひいては日本社会)というエゴの塊」は何も変われないのかも知れません。

秋田県・小坂町の「千葉の高濃度焼却灰の搬入埋立問題」に関する日弁連調査②地域住民が執り得る法的手段に関する一考察

前回の投稿の続きです。

秋田県庁で解散した帰路で「このままでは単なるやられっぱなしで納得できない、何か一矢報いたい」という住民団体(米代川流域連絡会)の方の言葉を思い返し、現在、或いは発覚当時、彼らが何をできたのか(すべきだったのか)について少し考えていました。

で、現時点で認容されるかどうかはさておき、本件で地域住民の主要な関心事につき取り得る(取り得た)手段としては、「行政は現場でボーリング調査をすべき(グリーンフィル小坂にさせるべき)」という義務づけ訴訟(行政事件訴訟法)を軸とした手続ということになるのではと思いました。

以下、基礎となる事情や制度を踏まえつつ、想定される訴訟のあり方などを少し検討しましたので、何かの参考になれば幸いです(手控えレベルの文章ですのでさほど正確性の検証をしていないことはご了解ください)。

まず、本件では、1万ベクレル超の焼却灰が発覚した際、行政(小坂町ないし秋田県)が処理業者側に事情説明を求めていますが、そのことは法律上の権限という観点から見れば、廃棄物処理法18条(報告徴収)に関わることだと思います。

その上で、同条に基づく権限行使のあり方としては、

①秋田県庁は、本件一般廃棄物(一廃)処分場の許可権者として、一廃処分場の設置者(たるGF)に対し、法違反となる「放射性物質に汚染された焼却灰の埋立(後日に制定された特措法の基準値も超過しており、発覚時は言うに及ばず、事後的に見ても、埋立時には管理型処分場への埋立が許されない違法な焼却灰)」により施設の維持管理(法8条の3)に関する基準に反する事態が生じた(そのおそれがある)として、適正管理ができるのか報告を求める

②鹿角広域行政組合(管理者・鹿角市長)は、GF小坂の一廃処理業の許可権者として、最終処分業者たるGFに対し、法違反となる焼却灰の処分がなされた経緯や事後防止措置について説明を求める(地方自治法291条の2?広域連合について勉強したことがないので正確には分かりません)

という構図になるのではないかと思います(広域連合が許可権者となる場合、構成団体たる小坂町は当該権限を行使できる立場にないということになるのでしょうか。そうだとすれば、小坂町長によるGFへの関わりは組合の副管理者の立場からということになるのでしょうか。その点は不勉強のため分かりません)。

そうした前提で、次の2つの条件、すなわち

①現地に埋め立てられた焼却灰が、仮に、現在でも1万ベクレルを大きく上回る(ので、かなり先まで8000Bqを下回らない)のであれば、そのような埋立は、汚染対処特措法(事後法)によっても正当化されない=当該焼却灰(の管理型処分場への埋立)」は、生活環境の保全上の支障がある(又はその恐れがある)

②現時点までにGFが行った措置(コンクリートを被せる等)はその支障の除去に不十分である(重大な損害のおそれあり)

の2点を証明できれば、鹿角組合はGFに対し、撤去措置命令(法19条の4)をすべき義務がある(義務づけ訴訟が認容される。或いは、重大な損害のおそれ要件は満たさなくとも、措置命令の要件は満たす)ことになります。

そこで、地域住民としては、鹿角組合はその点を明らかにするために、立入調査権(法19条)の一貫として、ボーリング調査をすべきだとして、調査権発動の義務づけ訴訟の提起と仮の義務付けの申立を行うということになるのかもしれません(住民が原告、組合が被告)。

また、秋田県庁も、措置命令の主体ではないと思われますが(一廃処分業の許可権者ではないから?)、維持管理に関する改善命令(法9条の2)やその前提としての立入調査(法19条)を行う権限(責務)があると言えます。

そこで、住民は県に対しても、上記調査権(裁量)の一貫としてボーリング調査をすべきだとして、義務付けの訴訟提起等をするということができるかもしれません。

その上で、②については、組合や県(GFも補助参加するかもしれません)は、本件で現に行われたコンクリート敷設等の措置につき、「秋田県が、環境省から上記方法での現地封じ込めOKとの回答を得て?(或いは、H23.8.31環廃産発110831001通知2~4頁に基づく適法な処理のあり方として判断をして)、それをGFに伝えて行わせたものである。よって、生活環境上の支障除去の措置としては十分(現時点で撤去命令の必要も義務もない)」と主張するのでしょうから、裁判では、その判断の当否(環境省通知の解釈・当てはめの問題)が問われるのではないかと思います。

この点については、私自身がまだ十分に勉強、検討できているわけではありませんが、上記の環境省通知をざっと見る限りでは、本件事案を前提にコンクリートを被せればよいとは書いていないように見えますが、隔離層を設置する方法での対処に関する記載があるので、県はこれに基づきコンクリートを被せる等すれば十分と判断したものと思われます。

よって、それがダメだというのであれば、最終的には環境省通知そのものを敵に回して「こんなやり方はダメだ」という「放射性物質汚染焼却灰の処分のあり方に関する科学技術論争」が必要になるのかもしれず、そうなれば苦心惨憺の大訴訟を覚悟しなければならないかもしれません。

ただ、上記はあくまで撤去の要否に関する論点のように思われますので、住民団体の方々が最も切望している「現在の埋設物の線量調査(8000ベクレルを下回っているのか、実は数万もあるのか等)」自体の義務づけについては、もっと別な観点から緩やかな基準で認められてもよいのではと思わないでもありません。

あと、その種の訴訟の宿命として、原告適格の有無なども争点となるのかもしれません。

他にも考えられるのは、鹿角組合や秋田県庁に何らかの権限不行使等の違法があり、それにより組合・県が違法に損害を被ったとして、その賠償を責任者に求める住民訴訟かもしれませんが、住民側にしてみれば、小坂町(鹿角組合)も秋田県も共に「被害者仲間」なわけで、仲間内で賠償の訴訟をするのは本意ではないでしょう。

同様に、住民がGFを相手に訴訟することも考えられないわけではないものの、「高濃度焼却灰の搬入(による環境汚染)を知りながら意図的に埋め立てた」などという異常な事実が存在する(立証できる)のでもない限り、現実的には厳しいのではと思われます。

或いは、一部住民の本意としては、「千葉から焼却灰が搬入されること(都会のゴミを埋め立てること)自体を止めさせたい」という思いがあるかもしれませんが、これも現時点では立法論と言わざるを得ない(現行法令そのものから逸脱した処理がなされているなどの特段の事情がない限り訴訟としては成り立たない)と思われます(この点は、次回で少し触れます)。

また、以上は「現時点」での手段(の当否)ということになり、それゆえに様々な点で(特に、すでに覆土が進んでいる点で?)ハードルの高さを感じざるを得ないところがありますが、仮に、発覚時たる平成23年7月=環境省通知の前(せめて直後)に上記訴訟と仮の義務付けの申立を行っていれば、まだ違う展開があり得たのかもしれないとも思われます。

住民による「不作為(発覚時にGFにボーリング調査をさせなかったこと)の違法確認請求」といったものもできないのだろうかと思いましたが、行政事件訴訟法には不作為の違法確認訴訟制度があるものの、処分(調査命令)の申請権のない地域住民が過去の調査の当否を問題とするようなことまでは認められていませんので(法3条4項、37条等)、その点は、立法論でしかない(日弁連が意見書を出すかどうかはさておき)と思います。

そういえば、廃棄物問題に関する日弁連の平成16年意見書や平成22年人権大会決議(これらは、私が作成に大きく関わっているものです)では、住民による行政への権限発動の申立権云々という意見もしていました。(決議理由第4の2)。

とりあえず、「措置命令の当否を明らかにするための調査権発動」という観点から考えてみましたので、間違っている点などがありましたら、ご教示いただければ幸いです。

秋田県・小坂町の「千葉の高濃度焼却灰の搬入埋立問題」に関する日弁連調査①事件と調査の概要

9月上旬に、私が所属している日弁連公害対策環境保全委員会・廃棄物部会の企画で、秋田県小坂町にある廃棄物最終処分場の視察や関係先への聴取を中心とする調査に参加してきました。

この事件は、秋田県小坂町で明治初期から巨大鉱山を営む同和鉱業(現・DOWAホールディングス)の関連会社(グリーンフィル小坂。以下「GF小坂」)が営む廃棄物最終処分場に、1万強Bq/kg(以下「ベクレル」)の焼却灰約40トンが千葉県松戸市から搬入され埋め立てられていたことが判明したため、その対処や再発防止などが問題となったものです。

この処分場は、鉱山の操業停止などに伴い環境関連事業に業態転換を図っている同和鉱業(DOWAグループ)が、平成17年から稼働させ、自社グループの事業で生じた焼却灰(産業廃棄物)のほか、関東圏などの自治体が運営する一般廃棄物(生活ゴミ等)の焼却場(中間処理施設)で生じた焼却灰を受け入れている最終処分場(焼却灰専門の埋立場)です。施設の設置や産廃の処理業は秋田県の許可、一廃の処理業は小坂町と鹿角市により構成される広域事務組合の許可を得て操業しています。
http://www.dowa-eco.co.jp/business/waste/finish/

そして、平成23年7月(震災から間もない時期)、環境省が震災に伴う福島第一原発の事故を踏まえて首都圏などの自治体に対し、埋立(搬出)前の一廃の焼却灰の検査を求めたところ、前記のとおり、松戸市がGF小坂に搬出していた焼却灰から1万ベクレルを超える線量が検出された上、それが松戸市から小坂町に連絡された時点で、すでに40トンの焼却灰が現地で埋め立てられており、それらの事態にどのように対処すべきか(掘り返して搬出するのか埋め立てたままにするのか、前者なら松戸に返すのか(返せるのか)、後者なら汚染拡散対策などをどのようにするのかなど)が問題になりました。

結局、発覚後、一旦は千葉県からの焼却灰の搬入が停止され、GF社や小坂町が秋田県に対応を照会し、秋田県は環境省に対応を照会するという「環境省頼み」の展開になった後、環境省が平成28年8月31日に、8000~10万ベクレルの焼却灰の処分などの方法(推奨)に関する通知を出し、そこでは、雨水浸入の防止措置を講じるのなら管理型処分場でも埋立可とし、防止措置のあり方としては、埋立箇所の上部にコンクリートを敷設するような方法でも構わないという趣旨のことが書かれていました。
https://www.env.go.jp/jishin/attach/no110831001.pdf

そこで、秋田県はGF小坂に対し、上記の方法を講じさえすれば埋立済みの焼却灰の撤去(掘り返し)等は不要と回答し、GFも当該措置を講じたことから、問題となった「高濃度焼却灰」はそのまま現地に残され、その後は、GF側と小坂町との協議で、受入焼却灰の線量上限(4000ベクレル)や線量検査、埋立後の防水措置などの方法について協定がされ、それをもとに関東圏からの搬入も再開され、「問題となった焼却灰」の上に新たな焼却灰の埋立もなされている(ので、地表=現在の処分場の地上部から数十m?の奥深くに眠った状態になっている)という状況になっています。

要するに、「環境省通知に基づく汚染拡散防止対策をした」ので、県や自治体、事業者としては問題なし(解決済み)として焼却灰の受入が再開されているというのが現状ということになります。

こうした展開を辿ったことに対し、放射性物質汚染などを危惧する地域住民の一部は、「本件焼却灰の汚染発覚は、埋立後に松戸市から搬入した焼却灰と同じ場所で焼却された灰から1万強ベクレルの線量が検出されたとの通報があったことで判明したものである。よって、埋設された焼却灰そのものについて線量検査がなされたわけではなく、実際の埋立灰には1万を大きく超える線量があるかもしれないという不安がある。それなのに、県や施設側は、現物の線量検査=ボーリング調査(掘削)をすることなく、コンクリートを敷設しただけで足りるとしてしまった(但し、浸出水の線量検査などは従前から行われており、特段の異常値は出ていない模様)。それでは納得できないので、ボーリング調査を求めたい。」などと反発しています。

そして、本年6月頃に、支援者の方を通じて住民団体から日弁連(当部会)に視察調査の要請があり、当部会も震災から数年間に亘って「放射性物質に汚染された廃棄物の処理問題」を中心テーマとして取り組んでいたことから、すぐにこれに応じるとの方針になりました。

かくして、①住民団体、②小坂町役場、③GF小坂(処理業者)、④秋田県庁から事情聴取することと、併せて処分場など現地の関連施設を視察することとし、関係先に要請して実施してきたという次第です。

といっても、私自身は、日々の仕事と生活に精一杯のためか?放射能問題が絡む廃棄物処理の処理についてさほど知見を深めているわけではありませんので、難しい話は他の先生方にお任せして、小坂町が主要な目的地なので、運転手(盛岡駅から出発し、秋田県庁で解散となりました)兼宿泊先の手配係(大湯温泉に初めて泊まりました)というお気楽な役回りとさせていただきました。

部会では、今後は、本件の「決め手」になった環境省通知の内容や本件での関係者(搬出元たる松戸市、受入主たるGF、監督権者たる鹿角組合=小坂町や秋田県)がとってきた対応の是非などについて意見交換を検討しているとのことです。

私自身は、この事件について今年6月に説明を受けるまで、一般廃棄物の焼却灰は地元の(排出=焼却を実施した)自治体ないし都道府県内で埋立がなされているものと思い込んでいましたので、一廃(焼却灰)が首都圏から北東北まで広域移動(広域処理)されているなどという話は今回はじめて知りました。

もちろん、「首都圏の膨大なゴミ(有害性の強いものを含む)が、そのままの状態で山中に大規模不法投棄された」という岩手青森県境不法投棄事件とは異なり、あくまで焼却(中間処理)を実施した上で、現行法・現行実務上は「適法」に搬出・搬入されているものですから、単純に悪者視はできないでしょうけれど、それでも、「都会のゴミが、過疎地たる北東北に持ち込まれている」ことには変わりませんので、受入圏民としては、あまり好ましいこととは思えません。

廃棄物の広域移動については、「災害廃棄物の受入(広域処理)問題」で一時は脚光を浴びましたが、その後は(その前も)全く話題になっていませんので、ネットで少し調べたところ、環境省が廃棄物(一廃・産廃)の広域移動を調査した報告書を取り纏めており、首都圏の焼却灰が東北などに大規模に搬出されていることが分かりました(後日に再度、取り上げます)。
http://www.env.go.jp/recycle/report/h27-01/index.html

そうしたことの当否や、こうした出来事への「反対派(抗議派)」はもちろん、業者側(操業サイド)で働く地元民や、同和鉱業グループという「地域の圧倒的ガリバー企業(の今後の社会での生き残り戦略)」に様々な形で依存し支援せざるを得ない小坂町や秋田県などの難しい立場なども視野に入れつつ、色々なことを考えさせられながら帰途についたという次第です。

余談ながら、解散後に一人さみしく立ち寄った「道の駅協和」でウサギ肉が売っていましたので、土産に買って帰りました。マタギ文化?の関係で販売しているようですが、鶏肉のような味でした。

次回は、本件について「住民が執り得る(執り得た)手段」について幾つか考えましたので、こうした問題に関心のある方はご覧いただければ幸いです。

また、放射性物質に汚染された廃棄物の処理のあり方や、原発敷地からの汚染水対策(最近も話題になっている凍土壁問題)、健康被害対策の問題などに関心のある方は、昨年の日弁連人権大会決議もご覧いただければと思います。

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知られざる増田県政の金字塔と都知事選の本当の争点

巷の話題を席巻している東京都知事選ですが、私たち岩手県民は、都民や他府県民の方とは違った感慨や視点で眺める面があります。

増田県政については、県の借金を二倍にしたなどと批判する報道はよく目にしますが、知事の功績として大きく評価されるべきものがあることは、ほとんど知られていません。

それは、「岩手と青森の県境で生じた巨大不法投棄事件(以下、県境不法投棄事件と言います)で、率先して全量撤去と関係者への責任追及の姿勢を示し、特例法の制定に繋げて曲がりなりにも県民の費用負担を大きく減らす形で地域の環境を回復させたこと」です。

県境不法投棄事件とは、青森県田子町の山中(岩手県二戸市との県境)に産業廃棄物の施設を設置していた業者が、県境の谷間や山林に膨大な量の廃棄物を不法投棄した事件です。

この事件では、主犯格たる青森の業者と首都圏を中心に全国各地から産廃を集めて現地に送り込んだ埼玉の業者が摘発されたものの、発覚時点でほぼ倒産状態にあり、両県併せて最終的に1000億円近くに及ぶ原状回復費用を負担するのは不可能でした。

そのため、巨額負担が当初から予測された青森県は、廃棄物を撤去するか否か明言せず、遮水壁を作って放置(封じ込め)をするのではないかとの疑念が強く寄せられ、地元住民・田子町との間で大きな軋轢が生じていました。

これに対し、岩手県側では、増田知事が非常に早い段階で「有害性が強い物が多数含まれており、必ず全量撤去する」との強い姿勢を表明し、それと共に岩手県独自で処理業者の財産に仮差押を行い2億円以上の確保に成功する快挙を成し遂げています。

県境事件の岩手側は人里から遠く離れていた上、撤去費用に関し国の補助などが得られるのかも不透明でしたが、「首都圏など全国のゴミが違法に持ち込まれて捨てられた」という事件の性質が、岩手が背負う中央政権に虐げられた蝦夷などの歴史と重なり、知事の判断は、県民の強い支持を受けることになりました。

そして、青森県もこの動きに影響を受け、重い腰を上げるような形で全量撤去を表明し、国が費用の約6割を補助する産廃特措法が制定され、約10年かけて両県の撤去作業が行われました。

この法律は、悪質な大規模不法投棄が判明した県境不法投棄事件と香川県豊島の不法投棄事件の2つを主に救済するため制定されたのですが、仮に、増田知事や青森県知事が現地封じ込めの選択肢をとった場合、地元住民は、豊島住民が中坊公平弁護士らの支援のもと香川県を相手に公害調停などを行った事件のように、長く苦しい闘いを強いられる展開になったことは間違いありません。

そのような苦難を地域住民に強いることなく率先して全量撤去を打ち出し、撤去費用に国の多額の補助を確保したことは、増田県政の金字塔と呼んで遜色ないと思います。

実際、両県は、原状回復作業に並行して、産廃業者に委託した全国の事業者の幾つかに、廃棄物処理法上の違反があったとして自社が排出した廃棄物の撤去費用を支払わせるなど、首都圏の排出者側との闘いを地道に続けました。

ただ、増田知事にとって一つ心残りがありました。それは、主犯格たる埼玉の処理業者を指導すべき立場にあった埼玉県の廃棄物行政の責任を問うことができなかったこと、そして、首都圏をはじめ全国各地の排出事業者に対し適正な処理委託をするよう指導する立場にあった排出者側の自治体(東京都など)に、純然たる被害県としての岩手県が強いられた80億円程度の自己負担に対し何らかの形で肩代わり(支援)を求めることができなかったことなのです

要するに、首都圏をはじめとする排出側の行政の責任を問うことが、県境事件ひいては増田知事の大きな宿題として残りました。

私は平成16年前後に日弁連の委員会活動を通じて岩手県職員の方からお話を伺う機会があり、増田知事も解決のため一定の模索をしていたことは間違いありません。

だからこそ、そのときの増田知事を知る岩手県民は、都知事選にあたり「時に、首都圏のエゴの犠牲を強いられた、地方の悲しみ、苦しさを東京の人達に伝えることを忘れないでいただきたい、地方を知る者として、地方と東京がよりよい関係を築くため、東京のあり方を大きく変え、日本全体を改善する姿勢や手法(政策)を強く打ち出していただきたい」と願っていることは確かなのです。

そうした期待を背負っている増田氏に打ち出していただきたい言葉が、小泉首相に倣えば、「(地方の立場から)東京(のエゴ)をぶっ潰す」であることは、申すまでもありません。

この一言を増田候補が絶叫していただければ、全国の多くの地方住民が賛同し、ほどなく、その真意を知った東京都民も、これまでの東京のあり方を問い直し再構築してくれる指導者として増田氏を支持するに至るということも、十分に期待できるのではないでしょうか。

それだけに、ある意味、「ぶっ潰す」対象の一つと感じられないこともない、自民党都連などの勢力が増田氏を担いでいるという構図や、増田氏が上記の思いを今も感じておられるのかあまり伝わってこない選挙報道を眺めていると、岩手県民としては残念というか、寂しいものを感じ、どなたか(ご自身を含め)、増田氏を解き放っていただきたいと感じる面はあります。

また、このように考えれば、都民が小池氏に求めるものも、より鮮明になると思います。

増田氏が「東京的なるものとの対決」を掲げる責任(歴史)を背負っているのだとすれば、小池氏は、現在の都議会(自民党都連)との対決に象徴されるように、政界を渡り歩き、小沢氏や小泉首相など既存の政治の中心勢力と対決する道を選んだ大物に従い、何らかの形で旧勢力と闘ってきた人と言えます。

小池氏を支持する方々は、政治を壟断している(自分達の影響力の確保を優先させて社会に閉塞感を与えている)と感じる旧勢力と同氏が闘うのを期待しているでしょうし、そうであればこそ、小池氏には「大物都議や自民党都連との対決」という対人的な話に矮小化させず、日本の都道府県議会制度そのものについて「問題の本質」を指摘し、変革を呼びかけることが求められており、それは、兵庫県議会の事件に象徴されるように国民全体が期待していることと言えるでしょう。

橋下市長や維新の会が一定の成功を納めたのは、行政機構(ひいては住民に不信感を抱かれていた行政の実情など)の変革を旗印にして、それに取り組んだことが庶民の喝采を浴びたからだと思います。

小池氏が都庁や都議会の改変に取り組んで成果を挙げ、官庁や国会の変革も促す動きも見せるなら、裾野の広い政治勢力を構築し、小池氏が全盛期の小沢氏や小泉首相の後継者のような地位を獲得していくことも、不可能ではありません。

先日の参院選で自民党を大勝させた民意は、「憲法改正(立法や行政の見直し)に向けた議論は期待するが、自民の改憲案(人権規定の改変)は支持しない」ものであることは、多くの国民が感じているところだと思います。

だからこそ、その民意に応える形で、小池氏には「東京から日本(の閉塞的な政治文化)をぶっ壊す」と叫んでいただければと感じています。

増田氏か小池氏かという選択は、地方との関係性を重視した東京の変革か、国家との関係性(自民党など国側への影響)を重視した東京の変革か、どちらを志向するかという見方ができ、そうした観点から議論が深まればと願っています。

日弁連人権擁護大会と不法投棄事件のいま

現在、今年の10月に千葉県で開催される、日弁連の人権擁護大会・第3分科会の実行委員をつとめており、その関係で、先日、久々に東京に行ってきました。

日弁連の人権大会は、年1回、特定の都道府県を会場にして行っているもので、平成22年に盛岡で開催された際には、不法投棄対策をテーマとする分科会が行われ、私も実行委員会の事務局次長という肩書で、色々とお手伝いをしたことがあります(当事務所サイトの「公益活動」欄に付記しています)。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2010/2010_3.html

今年の第3分科会も、「放射能とたたかう~健康被害・汚染水・汚染廃棄物~」と題して、公害対策環境保全委員会の3つの部会の方々を中心に準備が行われており、表題のとおり、福島第一原発の事故に伴う諸問題のうち、千葉県でも比較的関心が高い論点とされている、健康面、汚染水対策、汚染廃棄物対策に焦点を絞って取り上げるものとされています。
http://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/organization/event/gyoji_jinken2015.html

私は、東北弁連枠の任期切れに伴い委員の資格を失ったものの、廃棄物部会の関係者ということで、実行委員会には加えていただいています。

とはいうものの、部会から離れて久しいことや原発関連については岩手では盛り上がりに欠けることなど諸般の理由で、恥ずかしながらあまり参加することができない状態が続いてました。

ただ、先日の会合では、従前の部会の取り組みが、「放射性物質汚染対処特措法」をはじめとする現在の汚染廃棄物(一定量以上の放射性物質が付着した廃棄物)の処理スキームの問題点の指摘が中心となっていたのに対し、それ以外の問題、例えば汚染廃棄物の不法投棄等事案の問題や対策などについても提言すべきではないかという話題が出ました。

具体的には、滋賀県高島市などで発覚した「汚染廃棄物(多量の放射性物質が付着し再利用不可能な木くず)の不法投棄事件」の解決(未然防止を含め)のあり方などにも触れるべきではないかということです。

それであれば、平成22年の人権大会の成果(不法投棄等対策)を生かした形で提言等できる点が多々あるのではないかと思われ、そのような趣旨の発言をしたところ、飛んで火にいるといった体で、そのまま、基調報告書の該当部分を作成して提出せよと言われてしまいました。

私自身、今回の人権大会が廃棄物問題を含むものであるのに平成22年大会の内容を振り返る面が希薄ではないかと、その限りでは今回の取り組みに残念な印象を受けていたこともあったので、私の担当箇所では、平成22年の決議や基調報告書を紹介して、当時の議論を知らない(又は忘れた)方に再発見を促すような文章にしたいと思っています。

また、高島市事件に関する滋賀県の報告書を拝見しましたが、汚染廃棄物の特殊性として、同県内の処理施設が受入(中間処理等)を拒否しており、県が費用負担して行政代執行による撤去をしたくても、県から中間処理を受託する業者がいないので、代執行すらできない状況にある、という点が触れられており、広域的に汚染廃棄物が不法投棄等された場合の弊害の一つとして、特に留意されてよいのではと感じました。

ともあれ、10月1日は私も参加予定のつもりでいますので、千葉や東京の方に限らず、この種の問題に関心のある方々には、奮ってご参加いただければ幸いです。

県境不法投棄事件における県民負担と果たされぬ総括

日本最大規模の不法投棄事件と言われた、岩手青森県境不法投棄事件(平成11年発覚)について、ようやく現場の廃棄物の撤去作業が終了したという報道がなされていました。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/iwate/news/20140326-OYT8T00737.htm

報道によれば、撤去等のため両県併せて708億程度の費用を要した一方、岩手県が回収できたのは8億程度に止まるとされています。

私の記憶では、撤去計画が承認された平成16年頃の時点で、青森県の見積が440億、岩手県の見積が220億程度(大雑把に言えば、青森:岩手が2:1)となっていましたので、岩手県については、最終的な費用は236億円程度になったと思われます。

そして、産廃特措法により、国が費用の6割を補助するはずなので、単純計算で県の負担額は94.4億円となり、上記の回収額を全額、県が補填できるのであれば、最終的な岩手県=県民の負担額は、86.4億円となります。

岩手県の現在の人口が130万弱だそうなので、単純計算で、子供も含む一人あたりの負担額が6646円強、4人家族なら2万6600円ほどの費用負担を、首都圏など全国各地から運ばれてきたゴミの撤去のため、県民が強いられたという計算になります。

もちろん、100億円弱もの巨額の資金があれば、震災復興であれ県北その他の振興や福祉であれ、地域のため相応に有効活用できたはずです。

県境事件は、今やすっかり風化し単なる公共事業のように思われているのかもしれませんが、上記の機会を県民から奪ったものだと県民には受け止めていただきたいと思います。

ところで、この事件の顕著な特徴は、主犯格の2つの産廃処理業者が青森と埼玉で営業する業者であり、被害拡大に関しては、青森県と埼玉県の監督不行届が大きかったのではないかと指摘されている(そのため、岩手県は当初から、被害県だとアピールしていた)点とされています。

結局、現行制度の限界として、この点(青森県と埼玉県の監督責任)を法的な手続により問う機会は得られぬまま、この事件は幕引きを迎えてしまったのですが、果たしてそれでよいのかという点は、皆さんにも考えていただきたいところです。

この点に関し、平成22年の日弁連人権大会では、「A県の許可を受けた業者がB県で不法投棄事件を引き起こした場合、事情に応じてA県もB県が要した撤去費用の一部を負担する制度を設けるべき」という趣旨の提言をしています。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2010/2010_3.html

残念ながら、このような制度は未だ実現していないことはもちろん、公の場で議論の俎上にすら載せられていないでしょうが、少なくとも、岩手県民は、そのような制度がないことによって、上記の負担を強いられているのだという現実は、認識していただきたいところです。

もちろん、岩手以上に高額な負担を余儀なくされた青森県はもちろん、古くから産廃問題に苦しんできた埼玉県にとっても、有り難くない話だとは思いますが、そうした制度の存在が、行政の担当者に緊張感を与え(言うまでもありませんが、そのような形で自治体=住民に生じた負担については、事実関係によっては自治体の担当者や首長などが住民訴訟の形で責任を問われる可能性があります)、結果として早期の監督権の行使=被害の防止に資するという見方はできるのではないかと思います。

撤去完了により事件の幕引きが見えてきたという現状を踏まえ、岩手・青森両県の住民の手で、改めて、事件の総括を考える機会があってもよいのではと感じています。