北奥法律事務所

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いじめ

いじめ問題や学校事故に関する第三者機関と弁護士の役割

数年前、著名ないじめ事件の第三者委員会などに関与された先生の講演、報告などを内容とする勉強会が弁護士会で行われ、参加したことがあります。

私自身はいじめ絡みの問題に業務として関わったことはありませんが、関心の強いテーマでもあり、講師の先生が経験された様々な事柄について興味深く拝聴してきました。

「いじめ防止対策推進法」の制定により、いじめ問題で重大な事態が生じた場合には学校側に調査及び情報提供義務が課されたため(28条)、現在は設置されるのが通例となっているのではと思います。ただ、欲を言えば、重大事態の発生前の進行段階から、関係者のSOSや通報などに基づき、相応の事案では迅速かつ当事者にとって低コストで第三者が介入するような仕組みが設けられるべきではないかと思います。

この点については、講師の一人である仙台の先生から、第三者委員会の委員としての報告のほか、「宮城県内の学校の管理担当者の方々に講演する機会があり、未然防止のための早期介入の必要について提言し、弁護士会との連携などについて理解を得た」とのお話があり、羨ましく感じました。

ところで、いじめに限らず学校を巡って訴訟になるケース(いじめ、体罰、各種スポーツ事故、施設の問題に起因する事故など)は非常に増えており、最近の判例雑誌にも多数掲載され、私が作っている裁判例データベースでも多数の例を勉強し、入力しています。

これらの問題に関する裁判例を広く集めて賠償責任の当否に関する判断要素などを詳細にまとめた書籍も刊行されており、当方でも、例えば、引用の書籍などを購入しています。
青林書院|書籍詳細:学校事故 判例ハンドブック (seirin.co.jp)

著者の坂東先生は損保大手の顧問弁護士として高名な方で、学校を被保険者とする賠償責任保険などの関係で多数の裁判に従事された経験を踏まえて執筆されているのではないかと思われます。

学校を巡っては、生徒側が被害者となるケースだけでなく、教員側が被害者となる事案(生徒集団が起こした学校崩壊に起因するメンタル疾患や教員間のトラブル、いわゆるモンスターペアレント問題など)もあり、様々な論点があるほか、複数の問題・論点が混在してトラブルが一斉に吹き出すケースもあると思います。

そうした事案への対策も含め、学校を取り巻く各当事者が違法不当な取扱いを受けて長期間、苦しむことのないような、被害の未然防止や事後救済の仕組みが構築されるべきだと思いますし、私自身、そうしたものにお手伝いできる機会があればと願っています。

岩手でも滝沢市や矢巾町で残念な事件が生じたことがありますが、弁護士に限らず、教育現場・関係者に対し「一杯一杯の状態にある当事者」をさらに追い詰めたり足を引っ張るのでなく、適切にフォローできるような態様で支援できるようなシステムの構築や機会の増進にご尽力いただければと思っています。

 

裁判所による手続的虐待?の光景とマチ弁の愚痴(後)

前回、表題の内容で仕事の愚痴(家裁で酷い目に遭っている話)を延々と書かせていただきました。

恥ずかしながら、この件をfacebookに投稿したとき、家裁から「こんな事件で、なんでそんなことまで延々と要求されるのか」という理不尽感が積もり積もって軽い適応障害(鬱気味)を起こしており、誰かに話を聞いていただかないと身が持たないと感じ、恥ずかしながら投稿した次第でした。

幸い、ご覧になった方から暖かい反応をいただいたほか、家裁実務に精通されている本職筋の方からも、私が「こうあるべき」と考える方針を概ね支持する(それが家裁の通常の取扱である)とのアドバイスを著名文献の引用付きでいただき、どうにか回復できました。

数十年放置された厄介案件に可能な限り適正な形で決着を付けるため、改めて、理不尽に屈することなく、できる限りのことをするつもりです。

世間ではほとんど知られていませんが、相手方が何ら争っておらず、事件の内実や法の趣旨に照らして実益もないとしか思われない案件で、裁判官が、手続的に非常に重たい作業や理不尽としか言いようのない無理難題を強いてくることがある(しかも、それが、実務の大勢と異なる判断を前提としていたりする)ことは、弁護士等なら多少はご存知かと思います。

もともと裁判所には、救済=権力発動を求めてくる人間に対し、あれこれと注文を付け、とことん虐め抜いて、その上で裁判官が満足できた(これ以上、ケチを付けようが無いと判断した)場合に限って、ようやく救済を認めるというような「完璧を期すという名の下の、陰湿ないじめ体質」のようなものがあるように感じています。

その背後にある「司法消極主義」は、もしかすると、司法の謙抑性などという綺麗事ではなく、「江藤新平(司法の頭目)が大久保利通(行政の頭目)に斬首される」という形で、日本の司法部門が発足時に酷い目にあったことなども根底にあるのかもしれません。自分達が虐待されたから国民も・・などと、つまらないことを言いたいわけではありませんが。

もちろん、争いのある本格的な刑事事件の立証責任のように、裁判所が厳しい姿勢で臨むからこそ社会の適正が保たれる場面も多くあることは確かでしょうから、結局は、厳しく対応すべき場面と緩やかに対応するのが望ましい場面を適切に使い分ける姿勢を、もっと裁判所に持っていただきたいという点に尽きるのでしょう。

ともあれ、一部の裁判所・裁判官が、法や制度の趣旨に照らして疑義のある過大・不相当な負担を強いてくる「手続的虐待」とも呼ぶべき光景については、現代社会における司法部門のあり方がそれでよいのかという観点から、もっと広く知られたり、議論があってよいことではないかと思っています。

また、裁判所が行う特定の取扱自体は正しい(やむを得ない)のだとしても、その取扱(考え方)が世間はおろか業界一般にも事前に告知されておらず、従前に認められていた方法で提出したところ、不意打ち的に「そのやり方は認めない」という取扱を裁判所が平然と行ってくることにも、強い疑義を感じます。

まるで、一部の権力者が「現在、通じる手法」の知識ないし決定権を独占し、限られた人間(自身に靡く者?)だけに提供しているような印象すら受けますが、そのような光景は、国民主権や法の支配の理念に悖るものというほかありません。

他ならぬ裁判所で、そうした光景が当たり前のように繰り広げられていることに暗澹たる気持ちを抱かざるを得ませんが、努力と執念で乗り越えていく以外に、そうした実現する方法も存在しないというのが、現実なのかもしれません。

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ところで、私の個人的な趣味である「替え歌」をしばらく投稿していませんが、近日中に、渾身の大作の発表を予定しています。

可能であれば、原著作権者の許諾をお願いし、相応の経費を投じてでも世に問うてみたい(その価値がある)と思っている作品です。

いっそ、弁護士を辞めて、芸能界に打って出てもよいかもしれません(笑)。

ただ、私には、そうした作品を世に送り出すためのノウハウ等が全くありませんので、ご覧になった方で賛同いただける方がありましたら、その際に、業界筋の方にもお声がけいただければ?幸いに思っています。

ともあれ、乞うご期待!?

学校等での不祥事(被害事件の発生)と被害者側への調査報告義務

「学校でいじめが生じて被害者(生徒・児童)が自死に及んだ後、遺族が加害者側や学校に対して賠償請求する例」は、判例雑誌などで時折見かけることがあります。

当事者(加害者)に社会通念上容認しがたい「いじめ行為」があったという具体的な事実が判明すれば、加害者本人はもとより、その親権者や学校側が監督責任としての賠償義務を負うことがあり、裏を返せば、そのような事実が解明できなかった場合には、立証不十分で遺族の請求は棄却される可能性が高いと言えます。

もとより、遺族には事件発生(子の自死)に至るまでの事実関係を解明するのは容易でなく、学校に対し事実の調査、解明を行って欲しいと期待するのは当然やむを得ないことと言えます。

そのため、学校が当初から不誠実な対応に終始するなど、事案の解明や報告に取り組まなかった場合には、いじめ行為への監督云々とは別に、それ自体(調査報告の懈怠)が違法行為(義務違反)に当たるとして、遺族への賠償義務がみとめられることがあります。

例えば、「私立中の生徒が自殺し両親が後になって全容解明を希望し徹底調査を求めたものの学校が拒否したケースで、学校に調査報告義務違反ありとし慰謝料の支払を命じた例」があります(高知地判H24.6.5判タ1384-246)。

事案と判旨は次のとおりです。

『Y1学園が経営する私立中の1年生Aが自殺した。両親Xらは当初、自殺の事実を伏せたいと考え、Y1もそれに沿う対応をしていたが、後日、Aがクラブ内・教室内でいじめ・嫌がらせを受けていた事実が判明したため、XらがY1に徹底調査を求めた。

ところが、Y1は、一部の者のみの簡易な聴き取りのみを行いXが求めた全校調査等を拒否したため、Xらは、「Y1は自殺の原因を調査しXらに報告すべき義務あるのに怠った」と主張し、クラス担任Y2及びクラブの顧問Y3を含め、総額800万円(Y1にX1・X2各250万円、Y1・Y2連帯でXら各100万円、Y1・Y3連帯でXら各50万円)を請求した。

判決は、Y1にXらに各80万円、Y1・Y2に連帯でXらに各15万円の支払を命じ、Y3への請求は棄却(総額190万円を認容)。

裁判所は、Y1が、本件自殺が学校生活上の問題に起因する疑いがあることを真摯に受け止め原因が構内にあるか調査しXらに報告すべき必要性は相当程度高かったのに、消極的な姿勢でその調査等を行わなかったと判断し、自殺から2年以上が経過した判決時には当該解明は事実上不可能になってしまったことなどを重視し、義務違反を認めた。但し、Yに有利となる事情も斟酌し、賠償は上記の金額に止めた。』

また、「いじめ」以外でも、小学5年生の児童が自死した件で、遺族が担任の指導(学校内での接し方)に問題がある(児童へのパワハラ的な行為があった)と主張し、学校に調査、報告を求めたのに、学校がこれを怠ったとして賠償請求した件で、担任の指導に違法な点はなかったものの、学校に調査、報告義務違反があるとして、その点を理由とする賠償請求が認容(総額110万円)された例もあります(札幌地判H25.6.3判時2202-82)。

このように、「生徒・児童に深刻な被害が生じた場合に、学校生活にその原因となる事情が存すると疑われる相当な理由がある場合には、本人・家族の求めにより学校が相当な調査、報告をする義務を負い、これを果たさないと賠償の対象となる」ということは、裁判所の一般的な認識として、認められているということができるのではないかと思います。

そして、このような考え方は、一定の応用が利くのではないかとも思われます。すなわち、企業に勤務している方に深刻な被害(例えば過労や職場内のいじめ等による自死など)が生じた場合に、その原因が企業での勤務状況にあると疑われる相当な理由がある場合には、本人・家族の求めにより勤務先が相当な調査・報告をする義務を負い、これを果たさないと賠償の対象となる(被害そのものに責任がなかったとしても、判明後の対応の不備を理由に慰謝料等を賠償しなければならない場合がある)」と考えることができるのではないでしょうか。

また、こうした話は、労働契約に限らず、介護施設を利用している方に関し自死や重大な事故が生じた場合(入院中の事故など医療機関を含む)など、様々な形で応用範囲が広がってくる可能性があります。

この点、上記の札幌地裁判決では、調査・報告義務の根拠を就学契約に求めているとのことで、生徒・児童の「利用者」という面を強調するのであれば、労働契約のような場合には応用の範囲は限られてくるかもしれませんが、それでも、こうした視点を持っておくことは、利用者(従事者)等と企業側の双方にとって、重要なことではないかと考えます。

とりわけ「見える化」などという言葉が広く用いられるなど、説明義務的な発想を広く認め、そのことにより社会の透明性や様々な意識(職業意識や規範意識など)の向上を図っていくことが現在の社会の潮流になってきていると思われ、そうした面も意識する必要があると考えます。

ただ、上記の「調査報告義務違反」で認められる金額は大きなものではなく、それのためだけに裁判を行うというのは、受任する弁護士に相当な費用を要する可能性が高い(その種の事案の性質上、膨大な作業を必要とする可能性が高いため)ことに照らせば、被害者側の権利行使の機会(利益)の保護という面からは、なお不十分という印象は否めません。

そのため、こうした問題を射程に入れた弁護士費用保険の開発や普及(適切な運用や審査制度等も含め)が求められるところだと思っています。