北奥法律事務所

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不倫問題

不倫問題などを巡るミニ講義~盛岡北RC卓話から~

先日も書きましたが、盛岡北RCの例会で卓話を担当することになり、「男女の愛と不倫を巡る法律実務~あるロータリー会員家族(架空)を巡って生じた、起きて欲しくない物語から~」と題して、以下の事例(設問)をもとに主要な論点や実務の考え方(相場観)をご説明しました。

その上で、法律の根底に「両性の本質的平等と個人の尊厳」(憲法24条、13条)があり、慰謝料の発生や算定は、これが損なわれ、踏みにじられていると裁判所が判断するかという点が大事であること、どのような事象がそれらの中核を成すかは時代により移り変わること、だからこそ、男女の関わりという愛や性など様々な欲と業が絡む問題について、「尊厳」を踏まえた上で、人の心の深淵の質を高める叡智と工夫、配慮が必要ではないかということを、まとめとしてお伝えしました。

ただ、「男女の愛と不倫を巡る法律実務」と題したのに、紛争を通じた「愛」のことまでお伝えするだけの時間はなく、その点は残念でした。

ご夫婦の性的な事柄が絡んだ事件で、「愛のカタチ」を考えさせられたことがあったので、そうしたこともお話できる機会があればとは思ったのですが、やっぱり、私の身には余るテーマというべきなのかもしれません。

テーマの性格もあり、私には珍しく笑い(苦笑?)の絶えない卓話になりましたが、離婚や不倫、男女トラブルを巡る法律問題は、田舎の町弁には「スタンダードな業務」の一つで、実務経験を交えてお話できることも多いので、セミナー講師のお誘いなどありましたら、ご遠慮なくお声掛け下さい(笑?)。

なお、不倫など男女トラブルを巡っては、以前にも投稿したことがありますので、関心のある方は参考になさって下さい。

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盛岡市内の某RCの会員であるA氏(60歳)は妻のBさん(58歳)と二人三脚で会社を経営し、市内有数の事業家として大成した。

AB夫妻には、長男C(37歳)、長女D(33歳)、次男E(28歳)の3人の子がおり、A氏の事業を支えるCは、妻F(30歳)との間で2名の子G、Hを授かっている。

Dは、夫I(39歳)と10年前に結婚し、子Jと3人暮らしである。Eは独身だが、K女(23歳)と3年ほど交際している。

(1) Cは、半年ほど前から取引先のL女と情を通じ、出張名目でLと旅行に行くなどしていたことがFに発覚し、Fは、子G、Hを連れて実家に戻り別居した。

FはCに対し、①離婚、慰謝料、財産分与、離婚後の子の親権・養育費の支払を求める調停、②離婚までの生活費(婚姻費用)の支払を求める調停を起こしたが、CはLと不倫をしていないと主張して離婚を拒否し、①の調停は不調に終わった。Fは、Cに対し上記①の各事項、Lにも慰謝料の支払を求めて訴訟提起を予定している。

Fの立場で、C及びLへの請求内容や立証を巡り検討すべき点を論じなさい。

(2) 時を同じくして、Dの夫Iにも、先日、同僚のM女と情を交わしたことが発覚した。Iは、不倫は認めた上で、Dとは5年以上前から口論などをきっかけに険悪になり、家庭内別居と性的関係を欠く状態が続いており、婚姻関係は破綻し賠償責任はないと主張し、Mとの再婚を希望してDに離婚を求めてきた(不和については、一方のみに責任があるのではなく「お互い様」というべきもの)。

これらの事実に争いがないことを前提に、I及びMのDに対する慰謝料支払義務の存否や程度(金額)、IのDに対する離婚請求の当否について論じなさい。

(3) 1年前、KにEとの交際に基づく妊娠が発覚し、Kは出産を望んだが、Eの頼みでやむなく中絶したことがあった。Eは、嘆き悲しむKを慰めることもないまま、一方的に連絡を絶ち、他の女性と交際を開始したため、Kとしては、Eに慰謝料の支払を求めたい。Kの請求は認められるか。

(4) Aは、これらの事態がきっかけでBと不和になり、いわゆるクラブに入り浸るようになって、ホステスNと懇意になった。Nは、Aには全く恋愛感情は無かったが、客として頻繁に来店して欲しいという営業目的で、Aからの性的関係の求めに応じ、その際も対価のやりとりをしていたが、不倫旅行などはせず、時折、ラブホテルを利用した関係が続いたのみであった。

数ヶ月後、探偵に調査を依頼しその事実を知ったBは、Aとの離婚は希望しないが放置もできないとして、A及びNに慰謝料と探偵費用などを請求したい。Bの請求は認められるか。

不貞行為に関する慰謝料請求と会話記録

町弁をしていると不貞行為に関する慰謝料請求訴訟を受任することが何度もありますが、この種の訴訟は、相手方(被告)が否認すると被害者に不貞の内容などを立証しなければなりません。

中には、そうしたことを見越して、長期の不貞の事実が存在するのに、全面否認したり、直近のごく一部の不貞のみを認めて「その時点では夫婦が不和だったから破綻=免責だ」などと主張する不誠実な御仁も少なくないので、具体的な証拠などに基づいて不貞行為の詳細を主張立証せざるを得ないことも少なくありません。

この点、「不貞時の両者の会話記録」を入手できることがあり、時には数ヶ月間に亘る不貞状況の詳細について、膨大な労力(ページ数)を割いて、「二人の逢瀬の物語」を、会話から浮かび上がる当事者の心理描写なども交えて、熱く深く再現するという作業をすることが、何度かありました。

膨大な記録を読み込んで、ちょっとした記載についてネットで裏付けを調べたり、書かれていない関連事実についてもあれこれ調べたりしながら、男女のやりとりを分析しストーリーとして構築することになりますので、膨大な時間と労力を余儀なくされるため、我ながら「何で、こんな三文小説を書いているのだろう」と自分が馬鹿なことをしているように思う面もあります。

他方で、そうした作業を通じて、何らかの自分の暗い衝動を充足させているのだろうかと感じる向きもあり、或いは、道ならぬ情愛や性愛を求めざるを得ない人間の深淵に迫っているような錯覚?を感じる点もありますが、そのように思うこと自体が、ある種の防衛機制なのかもしれません。

所詮は権利義務に関わる事実を述べるものですから、基本的には淡々と事実を書き連ねるのが基本となりますが、その制約の中で、どれだけ人間の心の深淵に迫れるかなどと、事案の結論とは少し離れたところで馬鹿みたいな情熱を燃やすことが、たまにあります。

余談ながら、先日、「営利目的で性交渉に従事した者は、その業務の通常の態様に依っている限り、他方配偶者との関係で賠償義務なし」と判断して話題になった、いわゆる「枕営業判決」が判例タイムズに載っていたので判文を見たのですが(東地判H26.4.14判タ1411-312)、被告女性は本人訴訟で、本人は簡単な認否反論しかしてないようでした。

その一方で、原告側の主張に基づき裁判官が詳細な判断を示しており、議論された事柄の大半は、裁判官が原告代理人に求釈明して原告代理人が反論し、裁判官が判決でそれに再反論したという審理展開を辿ったようで、その点も興味深いと感じました。