北奥法律事務所

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保険

空家問題や「お隣さんから降って湧いた災難」の費用保険と行政支援

先日、法テラス気仙のご相談で、「隣の家の木の枝が越境して雨樋に落ち葉が溜まるなどの被害に遭って困っている」とのご相談を受けました。

それなら土地の所有者に切除請求(民法233条)すればいいじゃないかと思ったら、案の定というか、所有者はすでに亡くなり法定相続人は相続放棄したようだとの説明がありました。近時は、こうした「問題が生じているが、解決を申し入れるべき相手が誰であるか判然としない」というご相談は珍しくありません。

そのため、私からは、

①その問題を解決したいのであれば、所有者の相続人の調査(相続放棄したのであれば、申述受理証明書の交付要請を含め)を行い、その上で、相続財産管理人の選任を申し立て、選任された管理人に対し切除請求をするほかないこと、

②相続財産管理人の申立・選任の際は、当該所有者(被相続人)に十分な金融資産があることが判明しているのでなければ、相応の予納金の納付=自己負担が必要となること、また、選任申立も弁護士等に依頼するのであれば、一定の費用を要すること(フルコースで40~50万円前後?)、

③その上で、所有者が無資力(問題となる土地以外には資産がない)とのことであれば、管理人の同意を得る形で、自己負担で切除作業をするほかないこと、

④但し、その土地を売却して十分な現金が形成できるなら(管理人は職責としてそれを行う必要がある)、予納金の自己負担はなく、債権者として切除費用等を回収できる可能性があること、

を説明しました。ただ、毎度ながら、そうした問題を相談してくるのは高齢の方(しかもお一人)というのが通例で、ご自身では手間も費用も負担困難との理由で、そのまま放置(或いは、実害がないので違法を承知で仕方なく無断切除する)という展開もありうるのかもしれないとは感じました。

こうした問題に限らず、近年は「隣地に何らかの問題が生じ、当方の所有地(自宅等)に何らかの被害が生じているが、隣地所有者側にはきちんと対処できる者がいないというケースは、年々増加していると思います(上記のように死亡→全員放棄のほか、所有者が存命なれども「困った人」であるとか、所在不明、要後見状態(かつ後見人等の選定なし)といったパターンもあります)。

無縁社会・人口減少社会などと言われる現代では、そうした現象が生じるのは避けがたい面がありますが、その近所で生活する方にとっては、自身に何ら落ち度がないのに、突如、著しい手間と高額な費用を投入しなければ解決できない問題に直面することを余儀なくされるため、どうして自分が重い負担を強いられなければならないのかと、強い不遇感に苛まれることになると思います。

そこで、例えば、そうした問題に対象できる保険制度があれば、被害を受けている近隣住民は、保険会社に申請すれば、保険会社が代理人(弁護士)を手配して上記①の調査や申立を行い、相続財産管理人の予納金や被相続人が無視力の場合の切除費用も保険で賄うことができ、さしたる労力や出費を要することなく、一挙に解決することができます。

これに対し、そのような都合よい保険制度が簡単に構築できるわけがないじゃないかと言われるかもしれませんが、上記のようなケースでは、不動産の売却して十分な売得金が得られれば、その代金から上記の各費用の大半ないし全部を回収することも不可能ではなく、保険会社の「持ち出し」を抑えることができることができるはずです(保険金支払により債権が保険会社に移転するタイプの保険を想定しています。なお、ご相談の件は無担保でしたし、そうした事案では無担保が珍しくありません。むしろ抵当事案の方が、競売により買受人が対処してくれる期待が持てるとすら言えます)。

よって、保険会社側にもさほどリスクの大きくない保険として早急に導入を検討いただいてもよいのではと思われます。少なくとも、相続財産管理人の申立や管理人として実務を担う弁護士の立場からすれば、当事者が一定の経費と若干の手間さえかけていただければ、概ね確実に解決できると感じるだけに、そうした問題が長期放置されることなく解決に向けて進めることができる仕組みを整備して欲しいと思います。

単独の保険として販売するのはハードルが高いでしょうが、火災保険などに附帯する特約として少額の保険料で販売すれば、相応の加入は得られると思います。そもそも、上記のようなケースでは保険会社の持ち出しも大した額になりませんので、弁護士費用特約のように少額の保険料で十分のはずです。保険の対象範囲を、空家問題だけでなく騒音など生活トラブルに関するものも含めれば、かなりの契約者が見込めるかもしれません。

さらに言えば、そうした保険商品が世に出るまでには相当の年月を要するでしょうから、少なくとも上記のような「相続放棄された土地の売却で概ね債権回収ができる事案」に対しては、行政が当事者に費用支援する(その代わり、支援した費用は債権譲渡等により行政が直接に売得金から回収できるようにする)という制度(行政の事業)が設けられてもよいのではと思います。

相当の債権回収ができる(いわば行政が立替をするに過ぎない)事案なら税負担もさほどのものではありませんし、それが「お試し」的に行われ、保険料を払ってでも利用したいという層が相当にあることが確認されれば、保険制度に引き継ぐ(行政は撤退する)こともできるはずです。

なお、上記の制度を構築するにあたっては、現在は「自腹扱い」とされるのが通例となっている相続財産管理人などの申立費用も事務管理などを理由に優先回収を認める扱いにしていただきたいと思っていますし、そのためには、行政・保険業界と司法当局(家裁や最高裁?)との協議などが必要になるのではと思っています。

ここ数年、配偶者や子のない高齢・熟年の方が、自宅不動産+α程度の資産だけを残して亡くなり、親族が相続放棄するため、その物件の管理や権利関係の処理などが問題となる例は多く生じており、私にとっても相続財産管理人の受任事件は、成年後見関係と並んで、ここ数年では最も受任件数が伸びている類型になっています。

特に、冒頭の事案のように、やむを得ない相続放棄などにより管理者不在となっている空家が増え、それが社会問題となっているという現状にあっては、それにより被害を被っている関係者の自主的な努力にのみ委ねるのではなく、負担の公正な分配を確保し、ひいては予防などに繋がるような仕組み作りが問われていると思います。

余談ながら、少し前に、法テラス気仙の相談件数が減少し存続が危ぶまれているという趣旨の投稿を書きましたが、運営者たる法テラスのお偉いさん方も、例えば、今回のように「実際の相談事例をもとに地域社会に注意喚起や問題提起をするような記事」を担当弁護士、司法書士らに作成させ、それを月1、2回の頻度で、自治体の公報や地元の新聞などに掲載させるなどの努力をすれば、かなり違ったんじゃないのかなぁと思います。

少なくとも、私がこんなところでボソボソ呟いていても、社会を変えることは微塵もできないでしょうから・・

この日の気仙の山々は紅葉のピークに入り、里の彩りは11月上旬ころまで続くと思われます。皆さんもぜひ、お出かけになって下さい。

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医療事故に関するご相談と「専門家セカンドオピニオン保険」の必要

医療過誤がらみの事件には残念ながらご縁が薄く、未だに訴訟として受任したことがないのですが、年に1、2回ほどの頻度でその種のご相談を受けることがあります。

先日、「初診対応したクリニックの転医義務違反の成否」が問題となる例についてご相談があったのですが、その件については、少し前に判例雑誌で勉強した事案によく似ていたので、それをもとに問題の所在など基本的な事柄をお伝えしました。

ただ、医療事故に関する賠償請求の当否は、「ガーゼ取り忘れ」のような素人目にも過失(医療水準違反)が明らかな事案を別とすれば、医師の対応が「医療水準に反すること」の立証が最大の難関になり、専門的知見をもとに水準違反を立証(証言)する協力医を得られるかという厄介な問題に直面します。

そして、私には日常的に医療過誤を取り扱っている方々のような人脈等がないので、「まずは、最寄りのお医者さんに当該問題(対象となった医師の対応など)が現在の業界(医療)の水準に悖ると言えるか聞いて下さい。もし、悖るというお話があれば、意見書その他の協力が得られるか尋ねて下さい」といった対応をするものの、残念ながら、そこで終わってしまうのが通例になっています。

そうした意味では、医療問題について、「ここに聞けば(調べれば)セカンドオピニオンを求める医師の先生がすぐに分かる」的なサイト等(さしずめ、「医療過誤ドットコム」とでもいうべきもの)があれば有り難いとも思うのですが、いずれにせよ、現状では高コストになることが多いと思われます。

この種の事案では、ご本人サイドのエネルギーの濃淡もまちまちで、この種の訴訟等にありがちな高額なコストを負担できない(その話が出ると一気に萎える)方も多いので、保険などを活用した無償・低コストで医療機関から簡易なセカンドオピニオンを得られるような仕組みがあれば、どちらの方針に進むにせよ望ましいのではと感じています。

もし、そのような保険(協力医保険)と弁護士費用保険がセットになって、保険制度を通じて協力医から簡易迅速に「当該医師の対応は医療水準違反だ」との意見書等が得られた場合に賠償請求等を自己負担なく(或いは低廉な負担で)行うことができるようになれば、医療事故などを巡る賠償問題に関する当事者の負担は大きく改善されることは間違いないはずです。

また、水準違反とは言えないという意見が得られて、そのことを患者側が受け入れる場合も含めて、そうした営みを通じて医療側の予防や説明等の仕組み、慣行も前進されるのであれば、社会的な役割も果たすことになると思います。

医療過誤は「専門」が強調される分野の筆頭格と言われますが、医療水準の議論で医師の協力が十分に得られるなど、医療絡みの高度専門的な議論について弁護士が自ら本格対処しなくとも済むのであれば、弁護士が医療自体に詳しくなくとも問題なく対応できることが多いはずですので、そうした仕組みが整備されてくれればというのが正直なところです。

重大犯罪被害に関する支援費用と人身傷害補償保険

最近、殺人事件など痛ましい犯罪被害の報道がなされる際、被害者側(遺族など)が、代理人の弁護士を通じてコメントを公表する例が増えているように思います。

日弁連では、数年前から、犯罪被害者や遺族のための報道対応や刑事手続に関する支援活動という分野(業務)をPRしており、刑事手続に被害者等が参加するための法整備も一定程度はなされているため、賠償請求以外の場面でも弁護士の支援を受けることを希望する方が増えつつあるようです。

ただ、その「支援」も、相応の費用を要するとなれば尻込みする(或いは支払困難な)方も少なくないでしょうし、そもそも、犯罪被害に遭わなければ支援なるものも要しなかったわけで、できることなら加害者に支払って欲しいと思うのが人情ではないかと思います。

もちろん、弁護士側も、その種の活動に特殊な使命感等を持ってボランティア的に取り組んでいる方もおられるでしょうし、高額な賠償請求と回収が見込める事案であれば、賠償に関する受任費用で賄う(言うなればセット販売)という発想で、報道対応等については無償で対応するという例もあるのかもしれません。

ただ、基本的には弁護士も、業務(食い扶持)として仕事をしていますので、「支援」とか「寄り添う」などと美名?を称する場合でも、最終的には何らかの形で対価というものを考えざるを得ません。

私はその種の業務(重大犯罪被害者の報道対応や刑事手続参加等の支援業務)のご依頼を受けたことがないので詳細は存じませんが、聞くところでは、経営負担のない若手など一部の弁護士の方が、法テラスなどを通じ僅かな対価で取り組むことが多いようです。

この点に関し、「Y社が経営する学習塾内で塾講師Aが児童Bを殺害したため、両親XらがYに対し、使用者責任に基づき損害賠償請求し、その際に、賠償請求自体に伴う弁護士費用とは別に、遺族として報道や刑事裁判などの支援対応を受けたことによる弁護士費用として100万円を請求したところ、当該請求を裁判所が全面的に認めた例」があり(京都地判H22.3.31判時2091-69)、解説によれば、刑事支援費用の賠償を認めた(論点として扱った)例としては、唯一かもしれないとのことです。

判決によれば、受任した弁護士の方には相応に膨大な従事時間があったようで(但し、細かい立証がなされたわけでもないようですが)、そうしたことも考慮して上記の金額が認容された模様です。

ただ、このケースでは、Y社に十分な資力があるとか、Y社が加入している賠償責任保険が利用できるといった事情があるのであれば、Xや代理人弁護士としては問題ないものの、Y(加害者側)に支払能力がない場合であれば、本体的な損害賠償請求権と同じく、絵に描いた餅にしかなりません。

ここ数年も、ストーカー関連の殺人事件など理不尽で痛ましい重大犯罪被害が幾つも生じていますが、その多くが、加害者(賠償債務者)が無資力ゆえに賠償請求の回収が期待できない事案と目され、こうした問題は長年に亘り指摘されながらも、一向に改善の兆しが見えません。

この点、交通事故に関する自動車保険契約では、人身傷害補償特約が普及しており、加害者が無保険でも、被害者側で契約している任意保険から一定額の補償(保険金)を受けることができ、この特約は、犯罪被害にも対応する(或いは犯罪被害向けの特約も付して販売されている)例も少なくないようです。

そのため、こうした保険(特約)に加入している方であれば、加害者側が無視力でも民事上の被害回復を一定程度、図ることができることは確かだと思います。

ただ、人身傷害補償保険は実損ベースの算定とはされているものの、被害の全部を補償するわけではなく、約款により一定の限度額が設けられている上(私が関与した交通事故事件では、人傷保険金として給付された額が、総損害額の7割前後だったとの記憶です)、時には、「実損」の算定を巡っても保険会社と被害者(契約者)とで争いになることがあります。

そのため、そうした保険会社に請求する場合も含めて、かつ、賠償請求だけでなく上記のような報道対応等の支援に関する弁護士費用なども含む、被害者に生じた被害を全面的に填補する保険商品を販売する保険会社が現れるのを期待したいところです。

また、当然ながら、自動車を保有しない=自動車保険契約をしない世帯向けに、生命保険や損害保険などの特約として同種の保険商品を販売、購入する取り組みが広まって欲しいものです。

そして、究極的には、「掛け捨て」の特質として、保険事故=犯罪が減少すればするほど保険会社にとっては利益があるわけですから、保険会社が保険料を原資に相応の費用を投じて、行政が行き届かない犯罪予防のための様々な取り組みを行うようなことも、なされればよいのではと思います。

弁護士の立場では、「犯罪被害対応支援」は、現在のところ、労働に見合った十分な対価をいただくのが困難な分野と目されているようにも思われ、現状ではそのようにならざるを得ない構造的な制約もあります。

しかし、理不尽な重大犯罪被害のような問題は、追突などの交通事故と同じく、社会が存在する限りは誰かがババを引いてしまう面があるため、全員が広く薄く負担することで被害者に手厚くする仕組みが求められていると思われ、保険商品の設計のあり方なども含め、関係者の熟慮と行動を願うばかりです。

私自身は、この種の業務はタイムチャージとするのが適切と思いますが、事案によっては前記判決のように相当な額になるでしょうし、「過剰支援(要求)」などという問題も生じるでしょうから、保険給付のルールや類型ごとの上限、保険と自己負担の割合なども含めた費用のあり方についても、検討が深まればと思います。