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国政選挙

衆院選・岩手1区の公開討論会と前回に垣間見た「保元の乱」

突然に決まった衆院選ですが、週明け(12月1日)に盛岡市内で岩手1区の候補者による公開討論会が、JC(青年会議所)の主催で行われます。
http://www.moriokajc.org/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=444

今回は、現役の理事長の方が司会を務める予定と伺っていますので、選挙の意義を理解されている盛岡圏の方々はもちろん、「理事長に恥をかかせない」という見地から、少なくとも盛岡JCの関係者には積極的に参加いただければと思っています。

私は昨年にJCを卒業していますが、前回=平成24年12月の衆院選や昨年の参院選の公開討論会などを担当する委員会に所属していた上、設営のあり方などを巡って何人かの方と議論をしていたこともあり、私にとっては思い入れのあるイベントです(結局、私の希望は今も反映されていませんが)。

以下に引用する文章は、前回総選挙の公開討論会について書いたもの(旧HPの日記欄に掲載したもの)です。今回は、こうした意味での面白さは無いのかもしれませんが、当時ご覧になっていない方は、ご一読いただき、国民主権意識の涵養のきっかけにしていただければ幸いです。

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平成24年12月3日、JCの主催で岩手1区の公開討論会があり、参加してきました。私も末端のスタッフになっていたのですが、事前準備をサボっていたため、「タイムキーパーの補佐の補佐」という名ばかり役職があてがわれつつ、最前列のど真ん中で他のスタッフの方と肩を寄せながら拝見していました。

6年前に知事選の討論会のお手伝いをした際には、「何もしなくてよいから、終了後に機関誌用のレポートを書け」と命じられ、物議を醸さない程度に言いたいことを書いた記憶があり、今回も悲しい性か色々とメモをとったので、書きたいことが無いわけではありません。

が、ここでは1点に絞って書きたいと思います。もちろん、申すまでもありませんが、私個人のお気楽な私見を綴っているもので、JCとは何の関係もありません。

今回の討論会の最大の目玉は、直前に立候補を表明した、生活党改め未来党の達増知事夫人こと達増陽子氏が、初めて?の公衆向けの場で、どのような振る舞いが見られるかという点であったと思います。そこで、同氏(以下、達増知事との混同を避ける趣旨で、「陽子氏」といいます。)の様子に着目していたのですが、開始早々、非常に興味深い光景を目の当たりにしました。

すなわち、冒頭、司会者(岩手大の政治学の先生)から、各候補者に自己紹介が促され、陽子氏が2番手でスピーチをした後、隣に着席した3番手の階猛氏(民主党現職)がスピーチを始めたのですが、その際の陽子氏の階氏への眼差しが、とても対立候補に向けるとは思えない、慈愛溢れる母が我が子を見つめるようなものであったのです。

この点、報道等に基づく一般的な理解として、階氏(議員)は、小沢氏らが民主党を離党した際、悩み抜いた末に苦渋の選択として民主党に残留したため、今回の選挙では、未来党(当県では「岩手小沢党」とでも表現するのが相当とも感じますが)から対立候補を擁立されることになり、陽子氏に白羽の矢が立てられました。

階氏は、達増知事が6年前に衆院議員から知事に転身した際、後釜として達増知事に抜擢され、達増氏後援会の全面支援のもと対立候補に圧勝し当選を続けており、今回の階氏の選択は傍目には生みの親たる達増知事への重大な裏切り行為にも見え、未来党=小沢氏・達増氏陣営がどのような方を「刺客」として送り込むのか、大いに注目されてきました。

そのような中で、未来党が陽子氏を擁立した趣旨は、①階氏の殲滅を目的に必勝の構えをとったのか、②それを企図しつつも他の適材が得られず仕方なくということなのか、③他の意図があるのか、私のような県内の一般庶民レベルで確立した見解は未だ生じていないと思います。

しかし、少なくとも、冒頭の陽子氏の様子からは、①や②の意図、換言すれば階氏への憎悪的なものは微塵も感じられず、ここ数ヶ月間の達増知事が盛んに再合流の期待を述べていた光景と合致する、階氏への愛着(未練?)を強く印象づけるものでした。

ところで、陽子氏自身については、知事夫人が急遽、出馬となったこと自体を批判する言論も散見されるところですが、私自身は、少なくともスピーチの姿勢(口ぶり或いは未来党のスポークスマンとしての振るまい)等に関しては、堂々とした、見事なものだと感じずにはいられませんでした。

少し考えれば、陽子氏は、元議員であり現職知事である達増氏の妻として、何年間も後援会を取り纏め、ご夫君の代わりに様々な演説等もこなしておられたであろうことは容易に思いつきますので(地元報道でも、関係者の説明としてそのように称されています)、そのこと自体は驚くにはあたらないのだと思います。

で、その延長線上で考えれば、陽子氏が階氏に暖かい眼差しを向けている理由も、よく理解できます。

恐らくは、達増氏後援会の全面支援により政治家の世界に飛び込んだ階氏にとって、後援会を取り纏めてきた陽子氏は、政治の世界での母も同然で、陽子氏にとっても、階氏は我が子も同然という関係にあるのではないかと思われます(もちろん、私は内部事情は何も存じませんので、あくまで報道と討論会の光景のみに基づく推測です)。

であるがゆえに、色々と込み入ったご事情があるのだとしても、階氏が小沢氏や達増夫妻の庇護を離れ、「独り立ち」を始めた姿は、陽子氏にとっては、我が子の巣立ちを見るような感慨があり、それが、上記の光景となって現れたのではないかと感じた次第です。

さすがに、その自己紹介シーンの後は、陽子氏が慈母の如き眼差しで階氏を見つめるような光景は見られず、基本的にはキリッと前を見据えてご自身の主張を述べておられたように思います。

階氏に関しては、お二人がマイクを交わす際に笑顔が見られた程度で、基本的にはいつも?の厳しい面持ちを続けていましたが、陽子氏に含むところがあるというのではなく、真っ当な緊張感を保っていたに過ぎないと理解しています。

公式見解で語ることはできないのでしょうが、階氏にとっても、恩義ある方々に弓を引くことに心苦しい思いを重ねておられると推察されます(階氏に関しては、一応は同業ということもあり何度かご挨拶したことがありますが、非常に誠実な方と理解しているつもりです)。

もちろん、お二人とも馴れ合いの選挙戦をしているわけではなく、公式(対外的?)には真剣勝負をなさっているのでしょうから、このような思いを抱きながら親子同然の関係にある者同士が戦を余儀なくされるというのは、保元の乱における源為義らvs源義朝の姿に重なるところがあるのではないかと思わずにはいられませんでした。

周辺の構図という点で考えても、以前ほどの勢いがなく、凋落が噂される本来の主君(小沢氏)への忠節を全うせんとする達増夫妻と、それと袂を分かち天下の権を掌握した者(小沢氏の失速後に政権を担った現・民主党)のもとで生きる道を選んだ階氏という構図は、小沢氏を摂関家の氏の長者たる藤原忠実・頼長に、現・民主党を後白河天皇や信西に置き換えれば、あながち強引とも言えないように思います。

そのように考えていくと、未来党が陽子氏を抜擢したのも、人材難だとか階氏と信頼関係のある人(陽子氏)の方が後腐れがなく将来の再合流がし易いなどといった面白味のない理由(だけ)ではなく、親子対決であることを承知の上で、「どちらかが斃れても、片方が生き残れば、我が一族(階氏を含む広義の達増ファミリー)は残る。だから、敵同士に分かれても悔いなく戦おう」といった悲壮なメッセージを含むものかもしれないなどと、妄想を膨らませることができそうな気もします。

少なくとも、討論会で「小沢首相を期待していたのに民主党に裏切られた」などと、小沢氏への忠誠を熱く語る陽子氏と、小沢氏について何も語らない階氏(時間の制約も大きいとは思いますが)を見ていると、以前、弁護士会の会合などで、階氏が司法系の話題以上に小沢氏への支持を熱く語っていた姿を垣間見ていた私には、時の流れというか、大河ドラマ的な光景を感じずにはいられませんでした。

まあ、自民党その他の勢力を(その後に他の勢力を一掃して天下を掌握した)平氏などに見立てたり、関係者の選挙後の姿を保元・平治の乱に近づけて考えるのは無理があるでしょうから、これをネタに「カノッサの屈辱」のシナリオ作りを目論むことはできないでしょうが、少なくとも、権力闘争に身を投ずる方々の大変さと、その方々が現に血を流さずに済む現代の有り難さを実感せずにはいられない面もあり、それらを感じただけでも意義があったと思われます。

公開討論会自体は、候補者に互いの見解への批判を避けよなどと「討論会」の看板とはおよそかけ離れたルールを設営側が定めているため、政見発表会の域をほとんど出ておらず、「政策論争」なるものがどこまで期待できるかという問題はありますが、上記のような光景を目の当たりにし、候補者の方々にある種の畏敬を感じたり、民主政治なるものへの参加意識を涵養する機会になるとは言えるのだと思います。

ということで、今回はパスした方も、次の機会にはご来場いただければ幸いです。

余談ながら、可能なら、今回、司会をなさった岩手大の丸山先生のような方には、学生さんに命じて、岩手の政治家の方々の後援会組織などを社会学的・政治学的見地から実地研究してレポートを公表していただければ、今回のような出来事が生じた場合に、それをもとに深みのある考察ができるのではないかと思ったりもしました。