北奥法律事務所

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弁護士の専門分野

見ず知らずの遠方の弁護士に仕事を頼むリスクと専門性を謳う広告だけによる弁護士選びの怖さ

先般「岩手県内の交通事故の被害で東京のA弁護士に依頼しているが、加害者側損保の言いなりとしか思えないような納得できない対応を受けている」と仰る方の相談を受けました。

要するに、特定の損害の支払を損保側に全面拒否されており、受任弁護士がそれに応じて欲しいという話をしてきたが、それが正しいとは思えないので、私にセカンドオピニオンを聞きたいというものでした。

で、その件では特殊な事情が生じているものの、全面拒否は絶対におかしい、このような考え方をすれば、当方の希望額の全額となるかはともかく、相応の額が認められるべきではないか(それが実務一般の考え方に沿うと思われる)と説明しました。

相談者の方は、A弁護士がインターネットでは「交通事故が専門だ」と標榜していた(検索で上位に出てきた)ので頼むことにした(が、その論点に限らず、残念な対応があった)という趣旨のことを述べていました。

少し調べたところ、確かにそのような標榜をしているものの、かなり若い弁護士さんで、Webで確認できる経歴その他に照らしても、その御仁が業界人としての優位性を喧伝するほどの内実が伴っているのか疑問を感じざるを得ない面もありました。

以前にも、似たような話でブログ記事を書いたことがあり、詳細は書けませんが、色々な意味で今回はこの記事に近い話ではないかと感じると共に、我が業界は病院など他業界と比べても、情報開示・品質保証機能をはじめ色々な意味で制度も利用者の認識なども熟度が低く、ミスマッチや消費者被害的な光景が生じているのではないかと残念に感じました。

まあ、私自身が逆の立場であれこれ言われることのないよう努めるほかありませんが・・

最近、東京など遠方の弁護士に電話と郵便のやりとりのみで事件依頼をする方が珍しくないようですが、残念な展開に至ったという話を聞くこともありますし、容易に会いに行けない遠方の弁護士に依頼しなければならない事件は滅多にあるものではありません。

現状では、途中から代理人たる弁護士の仕事に不満を感じるようになったとしても、相当に業務が進行した時点で解任等を求めるのは様々なリスクがあることは確かです。

それだけに、誰に頼むにせよ、最低でも1回は面談して互いの人となりを把握したり、ご自身が特にこだわっている点をきちんと伝えて見通しの説明を受けたり、多少とも不安に感じる(しっくりこない)点があれば、何人かに面談して最も信頼できる(相性も合う)と感じた弁護士に依頼するなど、最初の段階から適切な工夫を考えていただきたいところです。

また、Webサイトやチラシなどで専門性(他の弁護士と比べた優位性)を謳う宣伝があれば、本当に、ご自身を担当する弁護士がその内実を伴っているのか、サイトの内容は言うに及ばず、最初の面談時などに色々と質問をするなどして、きちんと確認することが望ましいと思います。

内実の伴わない?「専門」標榜事務所に対する裁判所の認識

先日、ある交通事故(被害が甚大で請求額も大きく、過失相殺なども絡んで争いのある金額が大きかった事件)で、裁判所から概ね当方の主張に沿う内容・金額の和解勧告をいただき、無事に和解が成立して解決しました。

特に、依頼主(被害者)には最も抵抗があった過失相殺の是非の論点で当方の過失をゼロとする勧告(判断)をいただいた点で、満足いただけるものとなったと自負しています。

和解が成立した期日で、裁判官と雑談する時間があり、その際、「東京では、現在、交通事故専門を謳ってCM等で大々的に宣伝している事務所があり、最近、東京地裁でその事務所が被害者代理人として提訴してくる案件が増えている。しかし、現実には、十分なスキルを持たず、裁判所から見れば杜撰な仕事となっている例が散見される。裁判所の指示には大人しく従うので(具体的に明示されませんでしたが、恐らく、裁判所が不合理だと判断した請求・主張の撤回などを指すと思われます)、裁判官としてはやりにくいわけではないが、当事者(被害者)にとって、これでよいのかと思うこともある」という趣旨のコメントをなさっていました。

このブログでは特定の事務所を批判する意図はありませんので具体的な名称等は差し控えますが、この事務所に関しては業界内での評判が芳しくないとの話をよく聞かされていたため、裁判所からも、こうした話が出てくるのだなぁと思わずにはいられませんでした。

それはともかく、この事務所に限らず、内実を必ずしも備えていないのに専門性を標榜ないし強調して顧客の勧誘をしている「看板に偽りあり」的な話は、現在の弁護士業界が抱える問題の1つと言ってよいのではないかと思います。

そもそも、「その仕事を、どのような弁護士に依頼するのが適切か」を決めるにあたって最も重要なことは、「その弁護士が、対象事件(の適正解決のため必要となる法律事務)を遂行するため、法律家として業界水準に照らし一般的以上の実力を備えているか否か」という点(その見極め)だと思いますが、対象事件を「専門」としているか(標榜しているか)は、その見極めにおいて、必ずしも決定的な役割を果たすわけではありません。

前提として「(弁護士の)専門」自体が、極めて曖昧、恣意的に用いられ易い言葉であり、例えば「その弁護士が、現に従事する時間総量の8割以上が、その事件類型に関する処理に占められている」のであれば、その類型を専門としていると評価してよいのではないかとは思います。

ただ、だからといって、様々な高度な論点が含まれ法律家としての総合的な実力が要求される複雑な事件を誰に依頼するかということを考えた場合に、「交通事故以外は一切受任しないと標榜しているが、経験や実績も不足し研鑽の端緒についたばかりの新人の弁護士」と、「交通事故に限らず、高度、複雑な論点を含む様々な事件を手がけて実績を挙げてきた、法律家としての実力の高いベテランの弁護士」とで、どちらが選ばれるかを考えれば、上記の意味での「専門」を問うことにどれだけの意味があるのかということは明らかだと思います。

とりわけ、弁護士(町弁)の業務は、様々な法律問題が背後で繋がっていることが多いなどの事情から、一部の分野を除き「専門」を過度に強調するのは適切ではありませんし、交渉技術など「分野に関係なく必要となる力」も多くあります。

私も、今も昔も、我が業界への知見の詳しくない方から「貴方の専門は何ですか」と聞かれることは多いのですが、「専門」を重視する必要がある事案は実際には限られている(或いは、他にも考慮すべき要素が多々ある)ということは、利用者サイドの健全な認識として、大事にしていただきたいと思います。

結論として、「この分野に経験、知見が深いのか知りたい」というものがあるのでしたら端的にその分野を明示して尋ねる方が賢明だと思います。

そうでなければ、現時点で取扱の多い分野だとか「売り」にしている、又は特に力を入れている分野があるかとか、特に実績や成果を上げた事件・分野としてどのようなものがあるかなどという形で聞いていただければよいのではと思います。