北奥法律事務所

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弁護士の着服

弁護士の横領に対する予防策としての監査と優良事業者認証の制度

成年後見などで、親族後見人(事件当事者)どころか弁護士等の横領まで生じているということで、日弁連が弁護士の横領事案では被害者に500万円~2000万円程度の見舞金を交付する制度が導入される見込みが濃厚となっています。
http://www.asahi.com/articles/ASJ856QV7J85UTIL04Y.html

ただ、肝心の予防策については、一般会員向けに伝えられている話の限りでは、抜本的なものと言うには遠く及ばない印象です。

この件(弁護士の横領の問題)については、以前に盛岡で生じた事件を題材にブログで詳細な投稿をしたことがあり、「抜本的な解決をしたいのなら、韓国の不法投棄対策に倣って、被害額の全部補填を前提とする共済又は保険制度と組合・保険会社による業務監査制度を検討してはどうか」と書いたことがあります。

それはさておき、こうした制度を導入することで、改めて「不良会員(悪徳弁護士)のため一般の会員が犠牲になるのはおかしい、予防策を強化すべきだ」という声が内部から上がってくることは優に予測されます。

上記の共済や保険制度は過激すぎて無理があるかもしれませんが、次のようなもの(監査法人への収入・資産の報告義務を通じた監視監督システム)なら日弁連などがその気になれば導入できるのではと思い、ちょっと書いてみました。

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①日弁連の主導で各単位会(地元弁護士会)が監査法人と契約し、各会員(弁護士と弁護士法人)は、最低でも毎年1回、確定申告と資産一覧表を、委託先の監査法人に提出する(提出義務の不履行は懲戒処分に直結。以下、原則同じ)

②監査法人は、提出資料から生計を営めない収支が続き、めぼしい資産もない(のに遊興費の疑いのある支出が散見される)などの「横領リスク」の前兆を感じさせる会員があれば、日弁連の嘱託職員(専従弁護士)に通報し調査を開始。場合により、監査法人を通じて会計監査を行う。

③その上で、さらに問題がある(業務を停止させたりトラブル防止の見地から業務のあり方を大きく改善指導する必要があると判断された)場合には、地元会の名において?日弁連の嘱託職員を通じて業務監査を行い、メンタル問題等も含めて、本格的な業務の是正等を行わせる(顔の見える関係にある「地元会員」だけの業務監査は酷ないし監査の実があがらないので、赤の他人=日弁連が関与すべき)。

④そもそも、①の制度などを通じて優良事業者認定制度などを構築し、その認定を受けた者でなければ、高額な預かり金が生じる事案は(少なくとも、裁判所等からは)受任できない仕組みにする(全会員の申告義務が困難であれば、先行して導入する優良事業者認定に申告を絡める形で、事実上、申告者のみ高額事案を受任できる仕組みにする)。

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ここまで徹底すれば、巨額横領の防止には相応の予防力を発揮しそうですが、プライバシー侵害?だとか、たたでさえ先細る一方の弁護士業界が公認会計士にまで搾取されるとか、「町弁向けの粉飾決算支援コンサル」なんて変な奴まで出てくるんじゃないかとか、弁護士自治の崩壊に繋がるだとか、ケチを付けようと思えばいくらでも付けれそうな気もします。

ともあれ、ここに書いた程度のことは、全国の少なからぬ同業者の方々が「将来あるかもしれない道」として危惧しているでしょうから、どのような結末になるにせよ、社会にとって(まじめな業界人にとっても)より少ないコストでより内実のある成果をあげることができるような仕組みと業界文化・慣行を構築していただきたい(私自身も地道な努力を重ねていきたい)と思っています。

地方の弁護士の横領事件に関する弁護士会の後始末と残された課題①

平成24年に岩手県盛岡市で活動する某弁護士が顧客からの預かり金を横領した事件が発覚し、逮捕・起訴されて実刑判決を受け、弁護士会からも除名処分を受けるという報道があったことは、覚えている方も少なくないと思います。

私の知る限り、当時の岩手弁護士会の会長の方の記者会見などの報道を別とすれば、地元の弁護士が、この件でコメント等することはほとんどなかったと思いますし、事件の詳細な調査や検証が行われて対外的に公表されるなどということもなかったはずです。

既に2年も前の事件として風化している面は否定しがたいとは思いますが、だからこそ、敢えて、この件について少し書いてみたいと思います。

なお、当事者たる元弁護士の方とは、5年以上お会いしていませんが、平成18~20年頃(横領行為より何年も前)には何度か接点があり、面識のあった方ということもありますので、以下では、「A氏」(イニシャルではありません)と表示させていただきます。

今回は大長文なので、先に目次を書いておきます。また、4回に分けて掲載させていただきます。また、以下で「弁護士会」と表示するのは、基本的に岩手弁護士会を指しますので、ご留意下さい。

1 事件に対する岩手弁護士会の取り組みと当事務所の関わり(今回)
2 検証と民事上の責任に関する問題(第2回)
3 予防とそれに関連する問題(第3回)
4 被害補償の問題(第4回)
5 事件の引取等について(第4回)

1 事件に対する岩手弁護士会の取り組みと当事務所の関わり

(1) 岩手弁護士会による「A氏の受任事件」の他弁への引取要請

まず、前提として「A氏の事件」は、要するに、当時、弁護士事務所を経営していたA氏が、事務所経営に行き詰まったことなどから、数千万円にも及ぶ依頼者からの預かり金(報道によれば、遺言執行や破産申立のため預かったもの)を着服(口座から引き出して私的な用途に費消し返還もしなかった)したとして、平成24年に逮捕、起訴され有罪判決を受けた事件です。

なお、A氏は、弁護士としては20年以上の経験年数があるはずで、平成18年頃に東京から岩手に登録替えしています。

私は、当時も今も弁護士会の役職等とは無縁の「末端の万年窓際ヒラ会員」ですので、当時の弁護士会の内部的な協議等については何も存じませんが、少なくとも、岩手弁護士会では、A氏の除名処分のほか、事件発覚と同時にA氏が業務を停止したことに伴い、A氏が携わっていた事件を引き継ぐ弁護士の斡旋等を行っていることは間違いありません。

この点につき少し詳しく書くと、私の記憶もやや曖昧なのですが、被害者が弁護士会に被害相談をして間もなく、A氏が業務を停止した状態になり、弁護士会では、副会長の一人(以下「B先生」といいます。)をこの件の担当者として全体像の把握など幾つかの対応を開始しています。

そして「業務停止(受任業務の放棄)の状態に陥ったA氏が受任している他の事件(横領問題により続行不能を余儀なくされた事件を除いた他の事件)について、弁護士会が後任者を斡旋すること」が決定され、ほどなく、私も後任者の一人としてB先生から連絡(受任要請)がありました。

私が受任した事件は、親族間の紛争に関する事件(1件のみ)で、私に配点(引取要請)がなされた時点で、「調停が不調に終わり、訴訟を提起しなければならないが、訴状の作成などは一切行われていない状態」でした(なお、その件では最終的に2個の訴訟が必要となりました)。

A氏は、その事件の依頼主から着手金として相当の金額を受領しており、調停が1回?で不調になったことから、訴訟の着手金を含む金額として受け取ったものと認められる額でした。

A氏の受領額は、事案や類型に照らせば、相場の範囲の額で、事案のボリュームからはやや安いとっても良い額ですが、引継資料として交付された手控えなどから、A氏は、そのボリューム(事案が抱えている厄介な論点等)を理解していなかったのでは(そのため、その程度の額の請求に止めていたのではないか)とも推測されました。

ともあれ、A氏は事件発覚の時点で無資力とのことで、1円も引継はなく、B先生が、他の事件を含めA氏側(A氏の代理人?)から引き継いだという若干の資料が交付されたのみで、要するに「着手金ゼロ円で、訴状作成段階から(要するに一から)スタートする」という形で、引き継ぎをしたことになります(但し、実費だけは依頼主に拠出いただきました)。

まあ、訴状が変な内容であれば、それを引き継いで尻拭いに負われるより、訴状作成段階から自分で全部を手がける方が楽というべきかもしれません。

なお、B先生が送ってきたFAXの中で、当時、B先生が配点(引継要請)を行った盛岡市内の弁護士全員に送付した文書があり、それには、送信先として10名強の弁護士が表示されていました。

ですので、仮に、これが「A氏の引継先の全員」で、かつ、1人あたり1件の配点に止まっていたのであれば(この点は誰にも聞いておらず存じません)、A氏について引き継ぎがなされた事件(=A氏が業務停止した時点でA氏が受任しており、他の弁護士に引き継ぐことができる又は引き継ぐべき状態にあった事件)は、僅か10件強程度に止まっていたということになります。

当時、当事務所では、数十件(恐らくトータルで50件~100件程度)の受任事件があり、内訳は、私が作業の大半を行うプロパー案件(本格訴訟など)が概算で30件前後、それ以外に、私が大枠の方針等を依頼主と協議して事務作業の大半を事務局が担うもの(主に個人の債務整理)が数十件(事務局が一人あたり手持ち事件で常時10件以上)程度はありました(余談ながら、平成20年前後は債務整理特需のピーク期+弁護士過疎の影響で、これよりも遙かに多くの手持ち案件がありました。残念ながら、今は、高利金融問題の終焉+倒産の劇的減少+弁護士の大増員+首都圏の弁護士の宣伝攻勢などに起因して、債務整理の受任はごく僅かになりましたが)。

そのため、仮に、A氏の破綻当時の受任件数が十数件程度だったとすれば、およそ事務所経営は困難ではないかと感じたのを覚えています。

(2) 当事務所の引継事件の対応と採算

ともあれ、当事務所では、B先生から引継要請(ご紹介)のあった方について訴訟提起し、1年半以上の期間をかけ(着手金ゼロで、2つの訴訟と2回の尋問を行いました)、最終的には、裁判所の和解勧告をベースにした和解で解決(終了)しました。

当方の主張が概ね容れられた論点もあれば退けられた論点もあり、依頼主にとって全面的に満足できるものではなかったかもしれませんが、膨大な労力を投入したこともあり、私の仕事にはご満足いただけたようです。

ちなみに、「着手金ゼロ」ですが成果報酬はゼロではありませんので、事案の内容など諸般の事情を斟酌し、その種の紛争に一般的(相場的)な成果報酬を頂戴しています。もちろん「着手金部分の上乗せ」はしていませんので、その分、採算性の悪い仕事をしたことになります。

余談ついでに言えば、私は、採算性の確認のため、プロパー案件はタイムチャージ事案でなくとも時間簿を作成しているのですが、その仕事は、上記の事情や和解条項の詰めなど様々な対応を余儀なくされ、当事務所の採算ライン(私の時給2万円)を大幅に下回るものとなりました。

この点は、依頼主が希望していた難しい論点で勝利し、それに基づく高額な金員を相手方から回収できれば、労働に見合った報酬を頂戴できたかもしれませんが、その点が叶わなかったことによる面が大きいため、A氏には関係ない話ではありますが。

私としては、依頼主が「最初に頼んだ弁護士が、(別の方との関係とはいえ)横領事件を起こして逮捕等され、着手金を支払った直後に業務停止に陥った(実費も二重払させられた)」というマイナス状態からスタートしていた上、私も「着手金ゼロだから手抜き仕事をしているのでは」などとは思われたくなかったこと、事件自体に法的検討を要する論点が多数あった(その点で、熱意を喚起された面があった)ことから、上記のような経過を辿ったという次第です。

ちなみに、私の知る限り、B先生とは事件の配点と資料等の引継ぎだけの関わりで、その後、事件処理等に関して照会等を受けたことはなく、恐らく、引継ぎ後の個々の弁護士の対応までは弁護士会としては関知しない(個々の弁護士の一般の受任事件と同じ)という対応をとったものと思われます。

ですので、私以外の方が引き継いだ事件がどのような内容で、どのように処理・解決されたかということは、私は一切存じません。

ひょっとしたら、筋の悪い(敗訴必至の)事件で、かつ訴状すら作成されていないという訴訟を配点され、全面敗訴で完全タダ働きをした方もおられるかもしれませんが、事実関係を一切把握していませんので不明です。

(以下、次号)