北奥法律事務所

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競売

あなたの街の森友学園事件(後編)~全国に潜在する「購入した土地に潜み、いつか誰かが気づく埋設廃棄物」というババ抜き問題と対処策~

森友学園問題を通じて廃棄物処理法制のあり方を考える投稿の後編です。

この事件では一連の報道などを通じて様々な問題が世間に明らかになりましたが、仮に、これらの問題が露見しないまま校舎が建設され、その後、同学園が経営に行き詰まって倒産し、土地が競売となった場合を考えてみて下さい。

森友学園(競売の申立を受けた所有者)が「実は、この土地の地中に大量の埋設物があり撤去に本来は8億円も要するのに、1億円程度の工事しか実施しませんでした。今も7億円を要する廃棄物があります」などと裁判所の執行官(競売手続の主宰者)に申告すると思いますか?

また、旧所有者たる国の担当者が、その競売手続を聞きつけて、「その土地にはかつて大量の廃棄物が埋設されていた。森友はそれを全量撤去したか疑わしいので、きちんと調査して欲しい」などと執行官に通報すると思いますか?

そんなことが期待できるのなら、彼らは売買の際に原状回復をしているはずでしょう。特に後者(国の通報)については、当時の担当者の責任問題に直結する話ですので、自主的な対応が期待できるはずもありません。

かくして、競売手続では埋設の事実が露見しないまま、「不法投棄などの問題がない当たり前の土地の値段」で売却され、買受人が購入後に建物の建設のため土地を掘ってみたところ、あぁぁ、という事態が生じる可能性が十分にあるのです。

私は、昨年まで約2年半ほど、そのような展開を辿り、深刻な紛争に至った事件に携わっていました。

具体的には、10年以上前に大量の廃棄物が埋設された土地を事情を知らずに購入して撤去を余儀なくされたXが、その廃棄物を土地に埋めたと目される旧所有者Yらに賠償請求した訴訟を、X代理人として従事しました。

その件では、10年以上前に対象土地の所有者であったYが既存建物を解体し、Yが土地をAに売却→AがBに転売→Bが倒産して土地が競売→不動産業者Cが競落してXがCから購入→自宅の建築工事を開始したところ、最初に着手した地盤改良工事の際に地中の埋設が発覚→工事業者が調査し、Y側の埋設の疑いが濃厚と判明、という経過を辿りました。

廃棄物処理法の一般原則もさることながら、Xは自宅建築のための土地購入である上、地盤の問題などもありましたので、確認された埋設物(地中2.0~2.5m程度に埋められていました)の全量撤去を余儀なくされ、多額の工事費の負担を負う羽目になりました。

その後の調査で、Y社が建物の撤去を委託した地元の解体業者(既に倒産)が土地に不法投棄しYはそのことを知らずにAに売却したのではないかと推測され(知っていたら大問題ですが)、AもBも埋設の事実を知らず、当然ながら競売記録にも埋設の事実は表示されていませんでした。

以上を前提に、当方(X側)は、「本件埋設物はYが委託した解体業者が解体工事の際に埋設(不法投棄)したものである、Yは、解体業者に不法投棄をさせない監督義務(民法716条)を負っていたのに、それを果たさなかったのだから、不法投棄のためXが負った被害に対し、賠償責任を負う」と主張しました。

なお、埋設からは10年以上も経ていますが、被害者Xに発覚したのは最近ですので、時効(被害及び加害者を知ったときから3年)には該当せず、その点は争点にもなっていません。

Yは「当該埋設物はYの建物ではない(それ以前の所有者が埋設したものだ)」とか「仮にY建物の解体物を業者が埋設したのだとしても自分に賠償責任はない」、「X(が依頼した業者)が見積もった費用も過大だ」などと主張して徹底抗戦したため、様々な事情もあって裁判は長期化し、立証のため苦心惨憺の目に遭いましたが、裁判所から「まずまずの勝訴的和解」の勧告を受けてYも応諾し決着しました。

この件では、不法投棄の原因者(実行者)と目される者が倒産していましたが、委託者Yが大手企業でしたので「責任を負うべき者の全員が倒産し賠償金を回収できない」事態に陥ることは回避できました。

これに対し、その事件とは別に何年も前に相談を受けた例で、競売で某建設業者が使用していた土地を取得した一般の方が落札後に地中の調査をしたところ地中に大量の建築廃棄物の埋設があるのが判明したという相談を受けたことがあり、その件では、実行者が倒産していることなどから、上記のように賠償請求をするのは困難ではないかとお伝えしたことがあります。

また、私自身が管財人を担当した土木工事関係の企業で、会社の敷地建物を他社に売却できたものの、敷地内にコンクリート類を埋設していたという話があり、幸い、管財業務中に元従業員の方からその申告を受け、相応の調査を行って買主にも説明し、相当な調整をして売却したということもあります(10年ほど前の話なので記憶が判然としませんが、撤去を実施するなどして売却したはずで、放置した状態で委ねてはいないはずです)。

このような事案は、何も岩手に限った話ではなく、全国に膨大な件数が存在するはずです。その原因は、すでに述べたとおり、廃棄物処理法がかつてザル法と呼ばれ、建設関係や危険物・有害物質などを取り扱う事業者が、自社所有地への埋設をはじめ、かつて多くの不法投棄・不適正処理を行ってきた(それを阻止するだけの法制度ないし実務体制が整備されていなかった)点にこそ求められると思います。

根源的には、大地の尊厳を守るという我国の美点というべき基本的な意識が国民や企業に共有されていなかったことが強調されるべきなのかもしれませんし、それだけに、日本の伝統云々を強調する教育を標榜する学校が、廃棄物の埋設を平然と放置していることは、彼らの本質を言い当てているのではと思わざるを得ません。

以上を踏まえて、冒頭に述べたとおり、仮に、森友学園が校庭?に埋もれた大量の廃棄物について、埋設の事実を伏せて他者に売却した場合とか、撤去しない状態を続けたまま倒産→埋設の事実を報告せずに競売が行われた場合などを想定すれば、その後の取得者が撤去等の負担を不当に強いられることは優に予測されますし、その際に埋設の原因を作出した譲渡人=国が責任を回避できるのかという問題もあります。

とりわけ、前回も述べたとおり廃棄物は処理施設で法の基準に基づき適正処理を行うべきことが廃棄物処理法制により厳しく定められていますので、適正処理を行うべきことを知りながら完遂せずに放置した者は根こそぎ、その責任が問われてもおかしくありません

現在、問題の小学校が大阪府の認可を受けることができるのかという論点が生じているようですが、教育内容云々という点もさることながら、廃棄物の適正処理をしていない場所を教育の場として用いて良いのかという観点から問題提起をしていただければと思っていますし、直近の報道では、そうした理由で不認可などの対応がなされる可能性が高まっているように思われます。

だからこそ、こうした特異な事件で世間が騒いでおしまい、ではなく、前回に述べたような様々な論点を適切に対処したり同様の事態を繰り返さないための法制度が構築されるべきで、その点に関する認識や議論が深まればと願っています。

人が居住する物件の競売に関するリスク

住宅ローンの支払途絶などにより住宅が競売される例は珍しくありませんし、大半は、平穏に立退が実現されることも多いのだとは思いますが、中には、居住者が退去を強硬に拒否し、競落人は難しい対応を迫られることもあります。

私自身は経験がありませんが、修習生の頃に、他の地方で修習していた方から、包丁を振り回すような居住者もいたという趣旨の話を聞いた記憶があります。

また、居住者が将来を悲観して室内で自殺するという事案も考えられますが、このような事態は、任意退去の拒否とは異なるリスクを競落人(買受人)に生じさせることになります。

例えば、他者に賃貸させる目的で、競売に出ているマンションを購入したところ、競落直後に居住者が室内で自殺するという事態が生じた場合、その物件を賃貸する際には、借受希望者にはその旨を説明すべき信義則上の義務が生じ、故意に告げずに契約をさせた場合には、借主に対し賠償義務を負うことになります。

先日の判例時報で、そのように借主の貸主への賠償請求を認めた例(契約の約1年前にそのような事実があったことを知り、解除・退去して賠償を求めたもの。認容額100万円強)が取り上げられていました(大阪高裁平成26年9月18日判決判時2245-22)。

その物件を競落・取得した貸主は、弁護士の方だそうですが、素人が競売に関わることのリスクを、改めて感じさせるものと言えるかもしれません。