北奥法律事務所

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管財事件

破産管財を巡る都会と岩手の落差と債務整理に関する地方搾取?の光景

先日、弁護士向けの情報交換用FBグループ内で、東京で執務する先生が「岩手では免責調査型の少額管財が原則10万円と聞いて驚いた。この金額ではやっていけない」とコメントされており、東京?の弁護士さん達が、次々と「安すぎる」と声をあげていたのを拝見しました。

前提知識を補足しておくと、少額管財とは自己破産(破産手続)のうち、裁判所が破産管財人の選任が必要だと判断したもの=管財事件の一類型で、企業倒産(通常管財)ほど管財人の作業が重く(多く)はないため通常管財よりも少額の費用(管財人報酬。申立債務者が事前に調達する必要あり)で実施することが予定されている手続です。

免責調査型の少額管財は、破産者(申立債務者)に何らかの免責不許可事由(浪費など)が認められるものの裁判所の裁量で免責相当と判断される見込みが高い場合に、浪費の再発防止や生活の改善などを管財人が調査し裁判所に報告することを目的として運用されています。

東京地裁などでは、少額管財の予納金(事前準備額)は20万円を原則としており、冒頭の先生は東京を本拠とする弁護士法人の経営者で、岩手にも支店があり、裁判所から「10万円で管財人を引き受けて欲しい」と言われたので、それに対する不満を述べたもののようです。

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しかし、貧乏県こと岩手で法テラス案件(所得・資産の少ない方の破産事案)ばかり受任している申立代理人の立場からは、10万円の捻出すら困難な方が多いのが実情で、20万円と裁判所から言われた場合でも、本人の事情をあれこれ述べて10万円に止めて貰うことも珍しくありません。

昔に比べて管財指定される割合が圧倒的に高くなった現在では、指定可能性が高いと思われる案件では、事前に10万円の目処を立てて貰うか、「裁判所は半年以内に予納金を用意しろと言ってくるので、事前に5~6万円は積み立てて下さい。指定されたときは、1ヶ月1万円等のペースで、半年以内に残金を捻出できるよう頑張って下さい」と伝えています。

が、親族援助等のない方は、その準備だけで1年以上を要することも珍しくなく、長期化で代理人側の疲弊も累積するのが現実です。

現在の免責調査型管財人の業務がどの程度なのか存じませんが(ここ何年も裁判所から配点がないので)、10万円で採算がとれる程度の業務を本則とすれば足りるのではと思っています(昔々に配点を受けた際は、下記の事案を除き、10万円で足りる程度の仕事で済んだと記憶しています)。

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債務整理を巡る弁護士の報酬の問題に冠しては、任意整理=リスケジュールを(軽々しく)推奨する東京などのWeb広告弁護士・司法書士が、当事務所の数倍の費用で、実際には督促を止めるだけの作業しかしない光景の方が、遙かに問題だと思っています。

彼らは、(その程度の業務しかしていないという意味で)サービスに比して高額すぎるカネを支払わせた後、債権者との交渉や支払が始まる頃になって、債務者本人から「返済は無理だ」と申告がなされて、弁済すらまともに開始することなく破綻する(もともと無理な計画になっている)例を何度も見てきました。

そして、破産・再生するしかない→高額な委任費用の支払能力ありません→法テラスで地元弁護士=私ほか、というパターンを、5年以上前から何度も拝見しているので、貧乏県の弁護士としては、そちらの方を何とかすべきでは?と日々感じています。

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ただ、それとは別に、私自身も、少額管財人として「10万円じゃ仕事にならないよ」という経験をしたことが無いわけではありません。

10年近く前、免責調査型で管財人の配点を受けた事案で、後日に巨額の返戻金のある生命保険が発覚し、本人や代理人に伝えたところ、「母の名義借りでした」と膨大な資料が提出されたことがありました。

そのため、提出資料や文献を散々検討し名義借り(破産財団不構成=換価しない)を認めるべきとの報告書を提出し、裁判所も認めて不換価で終了したのですが、膨大な労力を費やしたため、10万円では時給換算で余りに不採算でした(このような論点を伴う事件では、予納金は20万円以上とするのが通例と理解しています)。

そこで、裁判所への報告書の末尾に「できれば、(不換価の代償として)本人側から10万円くらいを支払って貰う(事前の10万円と併せて管財人報酬を20万円とする)和解か何かをしたいですぅ~」と泣き言を書いたのですが、裁判官からは無慈悲に無視され、10万円で終わったという経験をしたことがあります。

ですので、そうした事案に限っては、「安すぎる!そんな価格でやってられるか」との声を全国の弁護士さん達から裁判所にお伝えいただければ幸いです。

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冒頭の先生によれば、県内の他の支部から少額管財の打診があったものの、裁判所への往復だけで3時間を要するため、さすがにそれで10万円は採算が合わないと感じた、というもので、その支部の管内の弁護士さん達が断ったので、(遠方にある)その先生の事務所に打診があったとのことでした。

詳細は分かりませんが、申立代理人は、地元の弁護士さんではなく、東京の「債務整理専門」を掲げて大々的に広告する弁護士等で、当事務所の通常価格(岩手の弁護士の相場)よりも遙かに高額な代理人費用を本人に支払わせて申立をしているとのことでした。

そのため、「こちら(管財人)に10万円で大赤字仕事を強いているのだから、代理人報酬に対し否認権を行使して、一部を(代理人弁護士から)取り上げてしまいたい」と息巻いていました。

当事務所は、債務整理のWeb広告等が咲き乱れるようになった10年ほど前から、通常価格での自己破産の依頼が来なくなり、近年の自己破産の受任は法テラス基準内の収入しか存しない方ばかりとなりました。

恐らく、債務整理需用者の大半がWeb広告に誘導され、支払能力のある方は高額な(恐らく東京等の)弁護士等に依頼し、そうでない方は、彼らの「ウチではやらないよ」等を経由して地元弁護士(法テラス、無料相談会等)に流れてくるのかな・・と感じています。

というわけで、高額な受任費用で申し立ててきた代理人には、冒頭の先生のような強者の弁護士さんからゲシゲシ報酬否認をして管財人報酬を稼いでいただくと共に、10万円じゃやりたくないという恵まれた弁護士さんばかりの支部の方々は、書記官に「小保内、管財人やるってよ」とお伝えいただければ、当方にてお引き取りさせていただきます(笑?)。

ちょうど、つい先日も、管内の司法書士・弁護士が全員辞退したという成年後見の関係で、記録閲覧や関係者との協議のため、往復3時間以上をかけて、某市に行ってきたばかりでした、というのが、同業者が逃げた?案件ばかり拾い続けてどうにか生き残ってきた、当方のお恥ずかしい現実です。

ともあれ、隣の芝生ばかり羨んでも仕方ありませんので、まずは手持ちの仕事を地味にこなし続けたいと思います。

 

企業の再建と倒産の狭間に揺れる「いのち」達と弁護士

前回に引き続き、旧ブログで中小企業家同友会の行事に参加した際の感想等を述べたものについて、あと1回、再掲することにしました。

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平成24年11月8日に、企業再建で有名な村松謙一弁護士の講演会が岩手県中小企業家同友会の主催で行われ、参加してきました。

田舎の町弁をしていると、企業の破産については申立代理人であれ破産管財人であれ、大小様々な案件を取り扱っていますが、企業の民事再生については様々なハードルのためか申し立てられる件数が少なく、私の場合、何年も前に申立代理人と監督委員を各1度だけ経験できたのみで、なかなかご縁がない状態が続いています。

まして、法的手段(民事再生)に依らざる企業再生、なかんずく金融機関等への救済融資などを求める交渉は、田舎の弁護士には滅多にご相談を受ける機会がなく、必然的にノウハウを培う機会にも恵まれません。

そこで、そうした論点に関する実務上の工夫などを少しでも伺うことができればと淡い期待を抱いて参加したのですが、NHKで既に2回くらい見ていた「プロフェッショナル」の番組が講演中にノーカット?で放映された上、番組で取り上げられていた企業の方に関するエピソードや倒産・再建実務を巡る理念的なお話が中心で、残念ながら、そうしたノウハウ的なことは取り上げられなかったように思われます。

まあ、弁護士向けの講義ではなく中小企業の経営者の方々向けの講演でしたので、どうしても理念的、総論的な話が中心となるのは致し方ないことなのかもしれませんが。

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それはさておき、村松先生が、企業倒産を巡る現場では、経営者が自死に身を委ねてしまう場面が非常に多いことを、ご自身の経験をもとに具体的に語られ、それだけは絶対にいけないのだと強調されていたことが、講演では最も印象に残りました。

私も、事件当事者のご家族にそうしたご不幸があったというお話を伺ったことが何度かありましたので、そのことを思い返してみましたが、私の場合、これまで実際にお話を伺ったのが3回で、いずれも従業員10~20名前後の小規模な企業の倒産が関わっている事件でした。

1件は、破産管財人を務めた県内の企業で、資金繰りに苦しむ状況の中で、高齢の社長の後継者で実務を担当していた息子さん(常務)が自死し、生命保険金の大半を運転資金に用いたものの、すぐに行き詰まり破産申立に至った事件。

1件は、同様に破産管財人を務めた県内の企業で、同様の状況下で熟年の社長さんが自死し、同じような経過で破産申立に至った事件。

1件は、申立代理人を務めた県内の企業で、数年前に創業者である社長(お父さん)が自死し、その際の生命保険金などで資金繰りを凌いできたものの、万策尽きて破産申立に至った事件。

私は平成12年から弁護士をしていますが、過労自殺など自死が関わる他の類型のご依頼を受けた経験がないこともあり、携わった事件に関連して当事者の方に自死があったというのは、この3件だけではないかと記憶しています。

その経験だけで一般化することはできませんが、企業経営に携わっている方々が、自死という問題に晒されるストレスやリスクを少なからず背負っていることは、もっと知られてよいことではないかと思います。

また、自死ではありませんが、「創業者(父)が亡くなった後、経営を引き継いだ兄が、資金繰りに困って、精神障害者(成年被後見人)である弟の預金(数千万円)を横領して運転資金に宛てたため摘発された事件」を扱ったこともあります。その事件では、横領したお金で取引先や従業員への支払を完済したそうですが、兄はあまりにも大きい代償(1審実刑判決)を払うことになりました。

敢えて尋ねませんでしたが、倒産を余儀なくされた場合でも、少なくとも労働者の賃金については8割相当の立替払制度がありますので、もし、その制度の利用で最低限の納得が関係者から得られるのであれば、倒産処理の途を選んでいただくべきではなかったかと悔やまれます。

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企業の経営者は、様々な責任感に押し潰されそうになる思いを余儀なくされることが多々あると思いますが、ご家族などを悲しませる行動にだけは及ぶことのないよう、孤独の淵に沈むことなく賢明に対処していただきたいと思わずにはいられません。

経営者にとって企業はご自身の子供のようなものだというお気持ちは、私も零細企業の経営者の端くれとして多少とも存じているつもりですが、そうであればこそ、「お子さん」が自らの力で生き続けることができないほど症状が悪化した場合には、終末期医療や葬儀を担当する弁護士という存在を適切にご活用いただき、最後を看取っていただくべきと考えます。

少なくとも、ご自身を投げ打ち「お子さん」の命を救おうとしても、残念ながら無理心中にしかならない可能性が高いという現実は、ご理解いただく必要はあると思います。

もちろん、投薬や手術で治療が可能な場合には、そうした面でも、弁護士を活用いただくと共に、再建関連法制の様々な使い勝手の悪い部分の改善にご協力いただければと思っています。

余談ながら、先日、士業向けに「中小企業経営力強化支援法に基づく経営革新等支援機関認定制度」が導入され、私は、(当時は)岩手県で認定を受けた恐らく唯一の弁護士ということになっています(といっても、興味を抱いて申請を出したのが私だけだったという程度の話で、特別の選抜をされたなどという類の話ではありません)。

どれだけ意味があるかよく分かりませんが、そうしたものも活かした形でお役に立てればと思います。

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ところで、上記の3つの自死事件は、いずれも死亡後に会社に生命保険金が支払われているようです。

10年以上前に、会社が従業員を被保険者として生命保険を契約し従業員が不慮の死を遂げた際に高額な保険金を受領することが社会問題視されたことがあったと記憶していますが、会社役員について同様の事態が生じた場合の当否については、議論があるのか存じません。

思いつきレベルで恐縮ですが、役員を被保険者、会社を受取人とする生命保険は上記のような弊害が大きいので、原則的には禁止すべきではないかとも思われます。

少なくとも、自死の場合でも保険金を受領できる契約にあっては、ご家族のみを受取人とするなど、弊害防止のための措置が講じられるべきではないかと思いますが、現在の保険実務はどのようになっているのか、ご存知の方はご教示いただければ幸いです。