北奥法律事務所

岩手・盛岡の弁護士 北奥法律事務所 債務整理、離婚、相続、交通事故、企業法務、各種法律相談など。

〒020-0021 岩手県盛岡市中央通3-17-7 北星ビル3F

TEL.019-621-1771

老人喰い

安倍首相談話と小沢氏談話から学ぶ、法の支配と民主主義

安倍首相の「戦後70年談話」を巡っては色々と議論もあるようですが、内容についての論評はさておき、文章としての読み応えや読みやすさ、一読了解性という点では、過去の2首相談話よりも遥かに秀逸だと思いますし、それは首相個々の資質の差というより、現在と当時の日本の置かれた状況の違いによる面が大きいのだろうと思っています。

他方、ネット上で流れていた小沢一郎氏の「70年談話」も拝見しましたが、安倍首相の談話に引けを取らず、読み応えのある文章だと思いました。また、双方を読み比べてみると、互いの政治理念の差(ひいては、民主政治のあり方や統治機構に関する憲法観の違い)が見えてくる面があるという点でも、興味深いと感じました。
http://blogos.com/article/128288/

なお、安倍首相談話については、仙台の小松亀一先生のHPに、村山首相・小泉首相の談話と共に掲載されているのが参考になりますので、ご紹介します。
http://www.trkm.co.jp/syumi/15081501.htm

双方の違いとして私が感じたことを少し具体的に述べると、小沢氏の談話では、大日本帝国が草の根の民主主義を軽視し庶民を残酷に取り扱っていた(大戦直前の混乱はその帰結である)ということが強調されており、これは、満州事変以後に大日本帝国が道を誤ったという観点を強調しているように見える安倍首相の談話では、ほとんど指摘されていない視点だと思います。

韓国が「植民地支配を謝罪しろ」と言い続けることに抵抗感を感じる方も多いと思いますし、そのことを安易に批判するつもりもないのですが、帝国内に重いヒエラルキーがあり、朝鮮人であれ日本人であれ、ピラミッドの下の方に属する人にとっては非常に抑圧的な体制があったことは、理解、認識が必要なのだろうと思います。

また、小沢氏が、現在の課題について、「内実ある民主政治の定着」を強調しているのに対し、安倍首相談話が「今後の課題」を列挙した後半部分では、その点(民主主義)はほとんど強調されていません。むしろ、憲法学を勉強した人間からは、「民主主義と緊張関係を持つ原理」としてすぐにピンと来る「法の支配(自由主義)」の言葉が重要なタームとして登場し、女性の人権や自由主義経済体制など、自由主義と親和性のある話題が主に取り上げられているように感じます。

ですので、アンチ安倍首相の人が批判的に談話を解釈すれば、「自由や平和、福祉を強調するが、民主主義(その実現の過程における、民主的な意思決定)を強調していない。これは、国権主義・官僚主義的な政治思想が背後に潜んでいるからではないのか」という見方も出来るのかもしれません。

少なくとも、法の支配=自由主義は、多数決を排斥してでも国の力で一定のルールを守る・守らせるという点で、官僚主義的な側面があることは確かだと思います。また、国権主義云々が、安保法案などを巡って安倍首相が批判されるキーワードであることは、しばしば語られるところだと思います。

裏を返せば、アンチ小沢氏の人が批判的に同氏の談話を解釈すれば、「法の支配=自由主義に関する話題が一切出てこない、金権問題で司法と対決し失脚した小沢氏(ひいては田中角栄系)らしい談話だ」などという見方も出来るのかもしれません。

私は、大学で憲法の勉強を最初に始めたとき、その年に司法試験に合格された大先輩の方から、「憲法学、なかんずく統治機構の本質は、自由主義(法の支配)と民主主義という、相対立する2つの基本原理の対立と調和である。主要な論点では必ずこの問題が出てくるので、常に意識するように」ということを強調されました。

もちろん、どちらの理念を重視するかは、個人の思想良心(主権者としての政治的決断)の問題であり、双方の理念にヒエラルキーを付けるのが憲法学の発想でないことは、申すまでもありません。

安倍首相と小沢氏の双方の談話を読み比べることで、ご自身が、現在、自由主義と民主主義のどちらに重きを置いて社会と向き合っているか考えてみるのも、意義があるのではないかと思います。

また、民主党全盛の当時を含め、小沢氏の主張を見ていると、三権分立の中でも議会の影響力を優先(優位)に考える発想の強い方(「国権の最高機関」に関する統括権能機関説。憲法41条参照)と認識しており、三権を同格に考える通説的見解(政治的美称説)とは一線を画しています。

こうした、当否ないし支持の是非はどうあれ、「憲法学も視野に入れた政治哲学を感じさせる国会議員さん」は、残念ながら我が国には実に少ないように感じており、小沢氏の引退が視野に入ってきている現在、そうした「憲法=国家統治などのあり方を巡る視野の大きい議論」ができる人材を国政の場に送り出すことができているのかという点で、今こそ、国民に問題意識が広く共有されるべきではと感じています。

余談ながら、先日、オレオレ詐欺に従事する若者達の内幕などを論じた「老人喰い」という本を読んだのですが、小沢氏談話に登場する青年将校のテロと同一視するのは行き過ぎであるにせよ、主として貧困層出身の若者によるテロ行為という面で、通じるものがあるように感じました。
http://president.jp/articles/-/15501

岩手県知事選の顛末と安易になぞらえるつもりはありませんが、仮に、現在の自民党政権が、民主政の過程を軽視する側面があるのだとしたら、或いは、格調高い安倍首相談話をあざ笑うような事態が、水面下で進むということも危惧されるのかもしれません。

オレオレ詐欺と「彼を知り、己を知れば」

先日、「中央大学法学部政治学科のOBの方向けに、三菱地所系のワンルームマンションの営業をしてます」という電話が自宅にかかってきました。

私の学歴は事務所HP等で誰でも知りうる状態になっていますが、自宅の電話番号は現在では名簿などに載せないようにしていますので、どのようなルートで上記の情報を入手したのか、少し不思議に思いました。

そこで、自宅内にある大学時の所属団体(いわゆる受験サークル)の古い名簿を見たところ、有り難くないことに、自宅の電話番号等が書いていたため、これが元ネタの可能性があるのかもしれません。

先日、オレオレ詐欺の業界の実情などを詳細に述べた新書を読んだのですが、その中で、「現在のオレオレ業界では、入手した名簿を直ちに詐欺の電話に使うのではなく、不動産の営業などを装って、詳細に個人情報を聞き出し、それを、将来(相手の判断能力が鈍ってきた頃)或いは近親者への詐欺電話の素材(話に説得性を持たせるためのシナリオの材料)として活用し、そうした「磨かれた質の高い名簿」が高値取引されたりする」といったことが書かれていました。
http://president.jp/articles/-/15501

電話口の相手の声が、かなりの若年男性という感じもあり、営業電話は遠慮してますと言ったら、向こうから挨拶もせずガチャンと切ってしまいましたので、そうした類の御仁だったのかもしれません(本気で営業する気があるなら食い下がるでしょうし)。

私も、暇とエネルギーがあれば、根気強く先方の話にお付き合いして、言葉巧みに先方の正体等を突き止めるべく努力すべきだったのかもしれませんが・・

引用の書籍は、オレオレ詐欺プレーヤーの育成・誕生を描写した部分が、物語としてなかなか読ませるものがありますし、世代間などの格差ないし社会の閉塞の問題を考える上でも、参考になる点は大きい(筆者も私と同い年の方のせいか、感覚的に読みやすい)と思います。

今や、全国どこにでも、誰にでも入り込んでくる可能性のある人達ですから、敵方(詐欺業界)のことを知る上でも、それを踏まえて、こうした詐欺を生み出すもとになった、自分達の社会が抱えた様々な問題を考える上でも、ご一読をお勧めしたい一冊です。

余談ながら、著者の方が、私が大学で大変お世話になった同級生の方の高校等の親しい後輩なのだそうで、「鈴木氏に岩手まで講演にお越しいただきたい」という方がおられれば、お役に立てるかもしれません。

私自身は「オレオレ詐欺」は1、2回、被害者の方からご相談を受けた程度の関わりしかなく、まして、加害者側と関わったことは皆無なので(ヤミ金絡みの刑事事件なら弁護人を担当したことがありますが)、当事者の取材に基づくルポについては、色々と学ぶところがありました。

また、被害報道は県内でも繰り返し聞きますが、被害者側の「その後」については、ほとんど聞くことがないため、被害後に被害者側に大きな問題が生じた例であれ、そうでない例であれ、考えさせられる事案などを取材されているようでしたら、そうしたものについてもお話を伺うことができればと思っています。