北奥法律事務所

岩手・盛岡の弁護士 北奥法律事務所 債務整理、離婚、相続、交通事故、企業法務、各種法律相談など。

〒020-0021 岩手県盛岡市中央通3-17-7 北星ビル3F

TEL.019-621-1771

行政代執行

ご近所の「ゴミ屋敷」に困り果てる方のための法的手段

かなり前の話ですが、朝のワイドショーで「愛知県豊橋市の市街地で、所有地上にゴミを放置している人がいて隣接企業や周辺住民が迷惑しているのに行政が何も対処してくれず、役所担当者は『ゴミ屋敷条例がないから無理だ』と回答するのみとなっている」という事例の紹介がなされていました。

事案の詳細は存じませんが、自己の所有地であっても、社会通念に照らし著しく不適切なゴミの放置をして周囲に迷惑をかけているのであれば、不法投棄ないしそれに準ずる行為(措置命令等の対象となる行為)に当たることは間違いありません(数十年前に産廃について散々に議論されたことですが、一般廃棄物にも当然にあてはまるべきものです)。

よって、行政は投棄者(放置者)に対し、屋敷条例云々がなくともゴミの撤去を命令することができ(廃掃法19条の4。措置命令)、投棄者がこれを行う資力がない場合であっても、自ら撤去(代執行)し、投棄者に費用の支払を求めることも可能です(同19条の7)。

土地所有者が投棄しているのであれば、当該土地を競売して回収することもできないわけではありません(銀行等の担保権があれば難しいでしょうが)。

一般的には、この件であれば、隣接企業や周辺住民は、放置者に対し、自身の権利侵害を理由に撤去等を求めることが可能でしょうし、豊橋市に対し、行政事件訴訟法に基づき措置命令の義務付け訴訟(と仮の義務付け申立)や代執行を余儀なくされた場合の放置者(所有者?)に対する費用求償の義務付け訴訟を起こすことができるはずです。

そして、これらは決して難解な法律論ではなく、一定以上の知見のある弁護士ならスラスラと言えるはずのことですので(現に、グーグル検索すると、弁護士の方が作成した文章が散見されます)、それを紹介ないし検討するところまで踏み込んだ放送内容にしていただければと思わずにいられませんでした。

もちろん、こうした問題に自治体(市町村)の腰が重いことは間違いないのでしょうから、自治体を現実に動かすという点からは、条例が設けられた方が望ましいことは間違いなく、法改正なども含め、未制定の自治体の住民の方は、関心をもって働きかけを行っていただければと思います(というか、盛岡市もゴミ屋敷条例は未制定でしょうから、私自身が、そうした努力をすべきなのでしょうが・・)

ともあれ、昨年から日弁連公害対策環境保全委員会・廃棄物部会長(名ばかり部会長なので、実態は雑用係)を拝命していますが(任期は来年5月まで)、本業では廃棄物処理法の知見を生かす機会に全く恵まれず、どうしたものやらです。

東北油化の倒産と周辺環境の原状回復

先月頃から、奥州市江刺区にある東北油化という家畜の死骸処理を行う会社が周辺に悪臭等を生じさせたとして行政処分を受け、程なく自己破産申立をしたとの報道がなされています。
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20141012_3

私自身は(少なくとも現時点で)この事件には全く関わっていませんので、報道されている以上の事実関係は知りませんが、岩手県から水濁法や条例に基づき汚水や悪臭の是正措置を命じられていた中で破産申立がなされたということは、一般論としては、法令に適合する是正措置を講ずるだけの資力がないのではと危惧されます。

当然、破産したからといって会社に是正措置を講ずべき義務が無くなるわけではありませんし、会社施設の原状回復(特に、周辺環境に著しい悪影響を生じさせるような有害物質等の除去)は、破産手続=管財人の業務上も優先性の高い事務とされています。

ただ、破産手続は、換価・回収可能な会社財産(破産財団)の範囲内で会社の財産の管理や配当を行う手続ですので、もし、同社が当該措置(水質などの原状回復工事)を行うに足る金融資産等を有するのなら、管財人が早急に当該措置に着手するでしょうが、それを賄うに足る資産がない場合は、管財人としては手の施しようがありません。

この場合、有害性の強い物質が拡散するなど周辺環境への悪影響が看過できないもので、税金を投入してでも原状回復をすべきだと判断されるときは、岩手県知事は、行政代執行により一定の除去工事を行う可能性があります(廃棄物処理法19条の8)。

仮に、上記の事情が認められるのに県が代執行を行わない場合には、住民は、豊島事件のように公害調停を申し立てることで、県に代執行を行うよう働きかけることが、方法としては考えられます(行政代執行の義務づけ訴訟という手段も考え得るかもしれませんが、ハードルはかなり高いと思われます)。

ただ、岩手県庁(環境部局)は、県境不法投棄で全量撤去を早期決定するなどの前例がありますので、現在の制度上、代執行の必要性が高い案件であれば、そのような手続を経ずとも、率先して一定の除去工事を行うことは期待できるのではないかと思われます。

なお、管財人(破産財団)が自ら実施できるにせよ、税金を投入(代執行)せざるを得ないにせよ、債権者や納税者の犠牲のもとに高額な原状回復工事を余儀なくされる場合には、そうした事態を招いた会社役員など主要関係者の個人責任を厳しく追及すべきではないかという問題があるかと思います。

水濁法は仕事上関わったことがないため詳しくは存じませんが、事案次第では、廃棄物処理法を含め、何らかの刑事罰の適用がありうるかもしれません。また、刑事罰に至らなくとも、会社等に対する民事上の賠償責任(特に会社法に基づく役員の賠償責任)は十分にありうるところです。

この事件が、そうしたスケールの大きい事件なのか、さほど除去工事に費用を要せず管財人が簡単に実施できるレベルなのか分かりませんが、周辺環境に禍根を残すような形にはならないよう、住民や報道関係者などは、今後も成り行きを注視していただければと思います。

また、報道によれば、同社は県内で牛の死骸の処理ができる唯一の施設で、県内の畜産農家への影響が懸念されるとのことですが、そのような企業であれば、経営破綻になる前に、行政が経営の健全性を何らかの形で調査したり、経営困難な事情が生じた場合には、破綻になる前に事業譲渡など混乱回避の措置を講じる仕組みづくりが必要ではないかと思われます。

そうしたことも含めて、一連の経過を検証し今後に繋げるような取り組みがなされることを期待しています。