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会社の後継経営者の選定問題に端を発する兄弟一族間の支配権紛争

会社の後継経営者の選定問題に端を発する兄弟一族間の支配権紛争


先日、盛岡北ロータリークラブの卓話(ミニ講義)を担当することになり、標記のテーマで、同族企業内で数年間に亘り多数の訴訟闘争が起きた実際の事案についてご紹介しました(もちろん、守秘義務の範囲内ですが)。

卓話後にクラブ広報に載せる原稿も作成して欲しいとのご指示があったので下記の文章を作成したのですが、ご了解をいただき、こちらにも掲載させていただきます。

今回は、20分しか時間がないこともあり、駆け足の事案紹介だけで終わってしまいましたが、もともと、10年近く前に岩手大学で講師を務めた際の講義のため作成したものであり、1~2時間程度をいただければ、紛争の内容に関する本格的なお話もできるかと思います。

県内の中小企業さんの経営者団体などで、こうした話を聞いてみたいという方がおられれば、一声お掛けいただければ幸いです。

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今回は「父が創業した会社を引き継いだ兄弟が、互いに協力して大規模な企業を育て上げたものの、どちらの子を後継者とするかに端を発して不和になり、従業員取締役の支持を得て主導権を握った弟側が兄側を経営陣から追放したため泥沼の紛争が生じ、多数の訴訟が起きた事例」をご紹介しました。

本稿では、当日の卓話を踏まえつつ、お伝えできなかったことなどを含めて記載します。

当日は、次の項立てで、私が平成13年頃に東京で従事した事件の内容を抽象化してお伝えしましたので(それでも、事案説明だけで数頁になります)、欠席された方でレジュメをご覧になりたい方がおられれば、私までご連絡下さい。

第0 株式会社などの支配権確保や意思決定に関する基本的ルール
第1 事案の概要
第2 会社の支配権の当否を巡る裁判(会社法上の訴訟)
第3 経営から放逐された側から放逐した側に対する賠償請求
第4 関連して生じた紛争について
第5 教訓ないし内部紛争の予防に関する視点

紙面の都合上、事案の詳細(若干の脚色等をしています)は省略しますが、要するに、特殊な製品を取り扱う甲社をはじめ企業グループ4社(従業員数百名規模)を作り上げた兄X1(社長)と弟Y1(専務)は、対等に経営する見地から同一比率で株式を保有し(但し、X1・Y1のほか、甲社の株式の一部を乙社が持ち、乙社の株式の一部を丙社が持つなどしています)、両者の合意がないと企業グループ全体を経営できない仕組みを作ってきました。

両名は、昭和62年に、互いの子X2・Y2を中核企業の甲社に入社させ、数年内に取締役、その後に二人とも代表取締役としてX1・Y1と交代する旨を合意しました。

そして、社長もY1に交代し、X2・Y2も入社しましたが、数年後、甲乙各社の従業員取締役がY1支持の姿勢を示したため、Y1は約束を反故にして、平成9年頃から甲社・乙社の株主総会でX1とX2の取締役再任を拒否し、X側を甲社らの経営から追放してしまいます。

これに対し、X側は、合意違反を理由に、株主総会決議の取消等やY1に対する巨額の損害賠償を求める訴訟を提起すると共に、対抗措置として、株式持ち合いの根幹に位置する丁社の取締役会で、特殊な手法によりY1を解任する決議をしました。これに対し、Y1はその決議が無効だと主張しX側に訴訟提起しています。

また、これに関連して、Y側が、乙社が有する甲社の株式をY1の知人に譲渡する出来事があり、X側が、当該譲渡は無効だなどと主張する訴訟や株主代表訴訟も起こしました。

レジュメで省略した訴訟や仮処分なども含め、10件以上の泥沼の訴訟闘争を数年間に亘り繰り広げたのです。

この事件では、結局、X側が起こした訴訟は全て退けられ、丁社に関してX側が行った決議も法律違反だとして無効となり、Y側の全面勝訴という展開になりました。

中心となる訴訟の最中には、XY間で企業分割などの協議も行われたものの不調に終わり、私が関与していた期間(平成15年頃まで)は、従前の株式の持ち合い状態のまま、従業員サイドの支持を受けたY1がX側を排除して甲社らの経営権を保持する状態が一貫して続いていました。

そのため、X2は甲社グループとは別に、一部の元役員の方と共に同種企業を他に設立し、現在も活動を続けています。

他方、Y2はY1の社長職を承継せず平成15年頃には経営陣から姿を消し、現在は別の方が社長となっています。

正確な理由は分かりませんが(訴訟内では、Y側の方針として同族経営を止めたいとの発言はありました)、XY双方とも自身の子に経営を託すことができない事態になったわけです。

精緻な持ち合い構造を作っても泥沼の対立劇が生じることや、株主間合意だけによる経営権確保の限界、従業員取締役の支持が死命を制することになったことなど、企業経営に携わる方には学ぶところが大変多い事案です。本来は、裁判所の考え方を含め、2時間以上かけてお伝えすべき事柄ですので、もし、他団体の会合などで改めて話を聞きたいとのご要望がありましたら、お声をお掛けいただければ幸いです。

最後になりますが、こんな日に限って?メイクアップで出席された吉田瑞彦先生(盛岡西RC前会長。日頃より大変お世話になっております)から、机を叩いて「異議あり!」コールを受けたらどうしようと恐怖していましたが、暖かく見守っていただき、安堵しております(笑)。

 

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