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損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編③

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編③


「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第5回です。全5回の予定でしたが、今回の文章(いわば本題部分)が長くなりすぎたので、あと1回(明日)で完結とさせていただきます。

9 損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日

ここまで、弁護士費用保険が普及すれば、顧客への品質保証などの観点から保険会社と町弁側を繋ぐ役割を担う企業が、業界内で大きな機能を果たし、影響力を増していくのではないか、それに伴って、弁護士業界も大きく変容していくのではないか、という趣旨のことを述べてきました。

自動車保険契約に関して弁護士費用特約が広く普及し、恐らく、特約を利用しない方が少数派と言ってよい状況になってきた現在、損保会社としては、単に、弁護士費用保険を事業(収支)として成り立たせるというだけでなく、この保険(を通じて弁護士が広く利用される現象が生じること)が、社会にどのような影響を及ぼしうるか、そして、そのことに、保険会社がどのような役割(アドバンテージ)を果たしうるかということを、研究しているのではないかと思います。

そもそも、弁護士費用保険が一般化することで、保険商品を開発、提供する企業(保険会社)は、契約者(依頼者)との関係では、法的サービスを供給する窓口としての役割を果たし、受任者(保険の利用に基づき保険会社から受任費用の支払を受ける弁護士)との関係では、仕事の実質的な供給者としての役割を果たすことになります。これが進化ないし深化していけば、保険会社は、法的サービスの需要と供給の双方をコントロールできる立場、いわば、サービスの上流と下流の人とカネの流れを制する立場になりうると評しても過言ではありません。

その点で、損保大手の本社担当者などは、弁護士費用保険の適用事案を大量に収集して分析したり、顧問弁護士や学者などとの共同研究を通じて、弁護士費用保険の普及により社会内に生じる影響や、そのことを見越した次の一手について、既に研究を始めているのではないかと推測せずにはいられません(私が社長であれば、そうした研究の指令を出したいところです)。

とりわけ、損保大手各社は、自動車事故の賠償問題を通じて、自社(加害者)側代理人の全国規模の広範なネットワークを有することはもちろん、相手方(被害者側代理人)についても、その気になれば十分な規模のデータを収集することができる立場にあり(恐らく、現在のプリベント社は言うに及ばず、生保各社も、そのようなインフラは持っていないと思います)、それを生かした形での弁護士費用保険の戦略的活用という発想を持つことは、至極自然なことのように思えます。

また、町弁の立場からすれば、報酬水準が抑えられている(また、各種書面の提出や審査などの使い勝手の悪さもある)法テラスより、(そのような制約が少ないとの前提で)弁護士費用保険が普及する方を期待するのではないかと思います。

もちろん、だからといって、弁護士も保険会社(損保業界)も、互いに依存、干渉の関係が深まるのを避けようとするとは思いますが、「弁護士費用保険が、町弁にとっての主要な受任ルート」という文化が形成された場合、保険会社(損保各社)と町弁(業界)の関係は、いわば「財務省と各省庁」とでも言うべき状態になりますので、顧客やカネの供給を通じて弁護士側に対し様々なコントロールを行うことができる立場になることは、確かなのだろうと思います。

そのような意味で、保険会社が町弁に対する仕事・カネなどの供給に関する基幹部分を担うことになった場合、日弁連そのものということはないせよ、それまで弁護士会が担っていた役割の一部(仕事等の供給機能、ひいては、その適正の確保のための監督機能なども?)を実質的に担うことになるとの展開は、十分にありうることと言わなければならないと思います。

また、保険業界にはそのような役割は無理又は不適切ということで、上記のように、弁護士の品質確保機能を担う別のアクターが登場したり、或いは、保険業界の上から行政が監督機能の出番を虎視眈々と、ということも、十分ありうることでしょう。

いずれにせよ、弁護士費用保険の広範な普及は、弁護士にとっての「カネ」のコントロールを保険会社(保険制度の設営者)が広く担うことになり、必然的に、個々の弁護士が、誰の顔を(どちらの方を)向いて仕事をするのかという点に大きな影響を生じさせることは、否定し難いと思います。

このような展開(可能性)を見据えると、単なる費用填補に止まらない内容(品質保証=斡旋等の機能)を備えた弁護士費用保険(保険商品)の販売を保険会社の側から大々的に行うというのは、弁護士会(業界側)から無用の不信、警戒心を招きますので、行うとすれば、一定数の規模を備えた事務所ないし弁護士グループが損保と提携するという流れをとるのかもしれません。少なくとも、そのような形を取るのであれば、日弁連等の側から阻止するのは困難と思われます(さらに言えば、ただでさえまとまり(統制力)のない業界だけに、「抜け駆け」が生じることで雪崩を打ってという展開も期待できるでしょう)。

この場合、現実的には、すでに損保各社と長年に亘り顧問等の関係を築き上げている全国各地の法律事務所(大物、中堅弁護士さん達)が提携先となるのでは(その形なら、既に相当に出来ているのでは)とも思います。

ただ、この形だと、各法律事務所間には横の繋がりはあまり(又はほとんど)ないと思いますし、それ以上に、その事務所同士が損保側の主導で経営統合などをするというのはまず考えにくいと思います(小規模な合併等ならありそうですが)。また、それらの事務所(先生方)は、業界環境の激変を好まない方のほうが圧倒的でしょうし、利用者サイドから見ても、「顧客が、地域内(時に地域外)の弁護士から自分が頼みたい人を広く選ぶことができるようにする」という弁護士費用保険(弁護士依頼保険)の理想型にはほど遠い展開になるため、面白みを欠くというか、それがゴールではないのではという感じがします。

この点に関し、いわゆる過払大手と呼ばれる事務所が、現在、交通事故業務にシフトしているものの、費用請求の適正を巡って損保会社と多くの紛争が生じているとの話を聞くことがありますが、場合によっては、このような紛争を経て、むしろ、過払大手が損保側の意向に沿う形で損保との結びつきを強めようとする展開もありうるのではと思います。

例えば、過払大手が経営難に陥ることがあれば、創業者を排除するなどして、損保会社や銀行等の主導で、損保側のコントロールが利き易い弁護士ないし法律事務所による救済・吸収合併のような措置を講じることも、あり得るかも知れません(それは、あたかも一代で巨大企業を築き上げた創業者が退場し、メインバンクが再生コンサルなどと組んで経営権を取得するような展開に似ています)。

もちろん、前回までに詳述したように、個々の法律事務所よりも、弁護士ドットコムのような、「弁護士の斡旋事業を営む(営みたい)企業」こそ、現在の弁護士費用保険に欠けている「品質保証機能」、さらには将来には価格コントロール(相場形成)機能なども含めて担う存在として、保険会社との結びつきを強めたがっているのではと感じます。

そして、損保会社としても、それなりに一世を風靡し社会的信用が認められている弁護士ドットコムであれば、提携相手として遜色ないと判断するのではないかと思いますし(経営者の方が国会議員となった場合の影響などは、私には分かりかねますが)、そうしたニーズを見越して、相当数の事業者の参入など新たな展開がありうるのではないかと思います。

(以下、次号)

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