北奥法律事務所

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刑事事件

逮捕された人が弁護人を選ぶ権利は強化されるべきか

先般、当番弁護士で某警察署に赴いたのですが、担当した方から「半年前にも捕まったことがあるが、その際に私選で頼んだ若い弁護士は態度が横柄で、示談こそしてくれたが、釈放後に被害者からも「とても酷い弁護士だった」と言われた。それで、今回はその人に連絡せず当番弁護士の出動要請をした」と聞かされました。

その際の私選費用も聞きましたが、私(私選弁護はLAC単価のタイムチャージ方式)よりも、かなり高い金額を請求しているかもと感じました(その件でお金を使い果たしたのか分かりませんが、現在は資産なしということで、今回はいわゆる私選ではなく、そうした方向けの制度を利用いただくことになりそうです。遠方の署なので赤字必至ですが・・)。

依頼者と受任弁護士とのマッチングは多分に相性の問題もありますので、他の弁護士さんをどうこう述べる趣旨ではないのですが、ネットが多少は発達した娑婆の世界はともかく、身柄を拘束された人にとっては、現在もなお、弁護士の実質的な選択権は整備されていないと感じる面はありました。

その後、思ったのですが、仮に、警察署に「その警察署の管内を対象として営業している、私選弁護人の選任を希望する弁護士のリスト(PR欄や費用等の受任条件欄付き)」を備え置き、捕まった方(で私選弁護人の選任を希望する人)が、それを見て希望する弁護士に当番弁護士として出動を求めることができるような制度があれば、「捕まった人が、自分が希望する(自分に合う)弁護人の選任を求めることができる可能性」が、少なくとも、現在(警察署の地理的云々を別とすれば、基本的には弁護士会や法テラスの登録名簿順でしょう)よりも高くなるというような気はします。

弁護士側の判断もありますので、出動要請の際に、認否その他、一定の属性や情報が記載された(或いは拘束者が任意提供できるような)ペーパーなどを作って送信することも併用すれば、マッチングという点では多少は機能するかもしれません。

もちろん、現在の弁護士会(供給者側)の感覚からすれば、幾らでも批判できそうな荒唐無稽な案だと思いますが、需用者側にとっての合理性(競争原理ないし選択権)はもちろん、供給者側にとっても、現在の町弁供給過多の流れが続き、営業面で困る弁護士が増えれば、そうしたリストへの登録をしてでも依頼獲得を希望する(せざるを得ない)人は、それなりに出てきそうな気がします。

また、弁護士ドットコムの運営者などが(会内で)天下を取れば、弁護士会から警察署等に申し入れるなどという展開も、あり得ない話ではないように思います(ま、その前提自体があり得ない話と言われるのかもしれませんけど)。

ただ、捕まった方々が、地域の弁護士の顔写真入りリストのようなものを眺めている光景を想像すると、さすがに当事者としては目眩を感じないこともありませんので、そんな案は夢想が過ぎるということになりましょうか。

上記の案はさておき、刑事手続を受けた方(弁護人、とりわけ私選弁護人に関わった方)に向けて、上記のような観点からの当事者の意識調査などを大規模に行った統計資料のようなものがあれば(犯罪学の学者さんとマーケティング学者さんなどに手がけていただければ)と思わないでもありません。

事件の当事者を人前で呼び捨てにする人々

この仕事をしていると、事件の当事者について、敬称(さん、氏など)を付して呼ぶ方もいれば、それらを付さずに呼び捨てにする人もいて、特に、刑事被告人等について、人によって分かれることが多いことは皆さんもご存知のとおりです。

そして、そのような光景(発言)に出くわすと、そのいずれ(敬称を付すかどうか)が正しいかというよりも、発言者が、その当事者ないし事件とどのように向き合っているかが何となく感じられる面があります。

刑事事件で、威厳あふれる刑事事件の裁判長や老練なベテラン弁護士さん、糾弾すべき立場にある検察官が呼び捨てにするのであれば、私自身は、違和感を持つことはほとんどありません。まして、深刻な被害を受けた被害者ご本人等であれば、被害感情を表現する趣旨で呼び捨てにするのは当然と言ってもよいのだろうと思います。

これに対し、若い修習生や弁護士、記者などが、横柄な態度で当事者を呼び捨てにしているのを聞かされると、そうした姿勢は、あなた自身への刃となって返ってくるのではありませんか、と感じるところが往々にしてあります。

先日、ある事件で、裁判所の門前で記者さん達に囲まれ、事件の進行状況等についてコメントしたことがあり、その際、私が終始一貫、関係当事者らを「●●氏」と呼んでいるのに対し、事件の当事者から何某かの迷惑行為を受けたわけでもないのであろう若い記者さん達の何人かが、そうでない呼び方(や態度)を示しているのを聞いていると、そんなことを感じたりします。

少なくとも、相対的に第三者性が強い立場の方が、事件の当事者に表立って乱暴な言葉遣いをしているのを見ると、どうしても、「威を借る」的な臭いがして、何だかなぁと思ってしまいます。

上記のケースでは、若い記者の何人かが、刑事手続を受けていない方も含め、事件の関係者を当たり前のように呼び捨てにしていたのですが、この記者さん達がそのような話し方をしているのには、どのような背景(マスメディアの社内・業界内の環境=取材対象者への向き合い方に関する文化)あるのだろうと考えずにはいられないものあがります。

もとより、記者の方が取材対象者に怒りを持ったのなら、乱暴な言葉遣いや態度で虚勢を張るのではなく、自らの努力で取材対象者を糾弾できる根拠となる事実を発掘する姿勢を身につけていただきたいと思いますが、私が記者の方と接点を持った数少ない経験の範囲では、そうしたものを感じたことはほとんどありません。

そのような姿勢を学ぶ機会を持たないまま社内で影響力を持ってしまう人もそれなりにいるのだろうかと思うと、残念に感じてしまいます。

私もそうでしたが、若い業界人(修習生や駆け出し期)だと、検察修習等の影響が残っているのかな(或いは、未熟さ・自信のなさが、かえって虚勢的なものにすがらせやすいのかな)と思いますし、そうしたものは、弁護士として叩き上げの経験を持てば、ほどなく解消されるのが通常ではないかと思っています。

記者さんも、個人差があるのでしょうが、中堅の方の方が、そうした(対外的な)言葉遣いが丁寧かなと感じたりしますので、法律家と同様?に、経験を積んで、事件や人に対し、相応の謙虚さを持っていただければと思います。

 

刑事弁護とタイムチャージ

近年、私選で刑事事件を受任させていただく機会が増えています。被疑者国選の導入により、そのような機会が減少するかとも思ったのですが、被疑者国選を利用できない50万円以上の預貯金のある方や、ご本人が対象となる場合でも、ご家族からご依頼いただき受任しています。

私は、数年前から、私選の刑事事件は、原則として1時間2万円(税別)を基準額とするタイムチャージを基本とする方式(準時間報酬制)で受任する取扱とさせていただいています。ちなみに、この単価は交通事故の弁護士費用保険(日弁連LACの少額事件基準)と同じ額で、一般的な町弁にとっては、「儲からないが事務所の経費くらいは賄える程度の額」です。

米国などと異なり我が国の町弁業界ではタイムチャージは普及していないため、恐らく地方では非常に珍しく、タイムチャージで刑事事件を扱う弁護士は、もしかすると岩手では唯一なのかもしれません。

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過去の経験からすれば、とりわけ、捜査段階で決着できる(起訴されずに済む)事件では、濃密な対応が必要とされる特殊事例を別とすれば、10~30万円(5~15時間の従事)の範囲で収まることがほとんどです。頻繁に接見したり関係各所への連絡など様々な対応が要求される事件を別とすれば、国選事件と大差ない金額に止まることも珍しくありません。

実際、被疑者国選も、1回の接見に対し、1~2万円程度の報酬を算定しているようです。但し、遠方の警察署への移動時間や関係者への連絡、裁判所や検察庁への申立、申入れなど接見以外の作業については原則として報酬がありませんので、その種の作業が多い事件では、赤字リスクが高くなります。

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刑事事件は、民事訴訟で賠償や金銭等の請求をするような「特定の経済的利益の実現」を目的とするものではなく、犯罪の成否(有罪か無罪か)を巡って厳しく対立するタイプの事件も滅多にありませんので、成功報酬というものに馴染みにくい面があります。

また、刑事事件では、事件ごとで必要な作業のばらつきも大きく、「働いた分だけ報酬をいただく」というのに馴染みやすい面があると思っています。

少なくとも、弁護士が大したことをしなくとも、検察庁の取扱基準の問題として公判請求を免れる場合は珍しくありません。そのような場合に、実務の実情に詳しくない依頼主に、あたかも自分の功であるかのように吹聴して高額な成功報酬なるものを請求する弁護士がいれば、それは詐欺とか消費者被害とか言うべきものだと思います。

もちろん、弁護人の努力で一定の成果が生じた場合には、成果報酬的要素が加味されてよいとは思いますし、高度な知見を必要とする特殊な弁護活動をして相応の成果を挙げたり、献身的な努力で早期釈放を実現するなどした場合には、相当の加算がなされるべきと思います。ただ、その場合でも、時間給換算で極端な高給になるのは疑問ですが。

聞くところでは、米国では、刑事弁護(私選)はタイムチャージとするのが通例であり、また、(上記のような成功報酬に馴染む事件を別とすれば)弁護人が成功報酬の名目で高額な金員を請求するのは間違っているという考えが強いのだそうです。

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幾つかの事務所(とりわけ「刑事専門」を謳うものなど)のサイトでは、1件あたり一律に数十万円の報酬を掲げるものが少なくありません。

もちろん、無罪を獲得するため膨大な弁護活動に明け暮れるような事件では、そのような金額で問題ない(やむを得ない)と思います。タイムチャージでも、まさにそのようなタイプの事件では、原則として、相当に高額な報酬をご負担いただく点は変わりありません。

しかし、「事実を争っておらず、大がかりな被害弁償等も要せず、接見やご家族等との連絡調整の頻度も高くないため、全部で10時間に満たない仕事しかしない」程度の事件でも、何十万円もの報酬を当事者に負担させているのであれば、同業者の目で見ても暴利と感じます。

上記のようなケースでも、何か問題が生じたときにきちんと動いて貰えるよう、念のため私選弁護人を選任しておきたいとの申出を受けることはあり、その場合、危惧された事態が生じず限られた従事時間で終了した場合には、それに相応しい低額の報酬に止めるべきだと思います。

タイムチャージでなく、弁護士の裁量で決めている方々も、その点はわきまえを持って対応されているのではないかと思いますが、少なくとも時間簿を作成しておけば、算定に変に頭を悩ませることもなく、依頼主にも安心して説明できる面があると思います。

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もちろん、刑事事件に限らず、「依頼主のご予算に限りがあるものの、事件の性質上、正しい解決を得るため無理をしてでも弁護士が奮起して励まなければならないケース」は多々あります。

そのような場合には、(一部の弁護士或いは事案等を別とすれば)弁護士が、上限を超えた部分の請求は差し控えるという形で、経済的には泣きを見ざるを得ないことが珍しくなく、その点は、タイムチャージ形式でも代わりありません。

だからこそ、短時間で相当な経済的成果など適正な利益を依頼主にもたらした場合には、少なくともタイムチャージ単価を控え目な額に設定しているのであれば、相応の成果加算がされるべきだと思いますし、それは、結局は、依頼主との信頼関係を前提とした弁護士の裁量判断を尊重していただかざるを得ない面があります。

結局、タイムチャージ(を基本とする準時間報酬制)という試みは、これまでドンブリ勘定で行っていた報酬算定に関する作業を、より合理的、客観的にしようとする様々な営みの一つという位置づけになるのだと思います。

少なくとも、「1回の手術と1週間の入院で済んだ人」と「半年以上の入院をして何度も難しい手術を受けた人」が、「手術を要した」というだけの理由で同一の金額を請求されるというのであれば、それは明らかに違和感があり、前者に過大な請求をして、後者の赤字を補填しようとしているのではという疑念を禁じ得ません。

弁護士業界における費用の算定は、これまでそのような傾向がなきにしもあらずで、弁護士費用を巡る価値観の違いなどの問題もあって、それを完全に克服することは困難だとは思います。

タイムチャージに限らず、費用に関する議論をもっとオープンにすることで、合理的な費用のあり方について、理解や実践が深まっていけばと思っています。