北奥法律事務所

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夫婦・男女・親子関係

ラーメンのトッピングには依頼主の笑顔と事件解決を添えて。

昨日は大船渡(法テラス気仙)でしたが、今日は仕事で由利本荘に行きました。色々な難しさを抱えた離婚訴訟の期日でしたが、本日、依頼主が納得できる相当な内容での和解が成立して終了しました。

この件では、今年の3月まで在籍していた辻弁護士が、子の引渡というハードルの高い論点に挑んで、多大な奮闘の末に大きな成果を成し遂げた後、残務処理を私が引き継いだのですが、決裂か和解かの瀬戸際が相当あり、どうにか解決に至ったという案件でした。

11時半に開始した和解協議が2時半過ぎにようやく成立したのですが、裁判所の近くに、3時まで営業している、本荘を代表する?ラーメン店の一つと思われるお店があり、ギリギリセーフということで、大変美味しくいただきました(残念ながら、12月下旬に閉店となるそうです)。

ちなみに、第1希望だった本荘ナンバーワンとされる有名店は、2時半までの営業時間なので泣く泣く諦めました。依頼主はこの話を聞いて苦笑していましたが、裁判官にも和解成立時に同じ話をしたところ、軽口トークに慣れておられないのか、きょとんとしていました。

事案の中身は申せませんが、当方依頼主は、紛争を通じて2年ほど様々な艱難辛苦を余儀なくされており、最初にお会いした頃と比べて、とても強く、逞しくなられたと感じます。

この種の紛争は、弁護士にとっては不採算になることが通例で、この件も時間給ベースなどで見ると経済的には泣きそうな面はありますが、純然たるビジネス上の紛争などでは学びにくい、人間の業や人として生きることの深さを否応なく考えされられることが多いことは確かです。

ロータリーの標語に「最もよく奉仕する者、最も多く報いられる」というものがありますが、この事件も、その言葉を事実の重みをもって考えさせられるものがありました。

業界には「弁護士報酬と書いて、いしゃりょうと読む」という有名な言葉があり、この事件でも、私や辻先生に限らず担当事務局を含め今日までに色々と苦心惨憺がありましたが、今後もこうした事件を手掛けることができるだけの売上をいただけるよう、めげずに頑張っていきたいと思います。

最後に、締めの一句ということで。

その果てに 味わいを知る 和解麺

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無戸籍者問題と親子関係の存否確認などに関する弁護士の役割

弁護士会で、「無戸籍者の支援及び関連業務を行う弁護士の名簿を作るが、搭載には弁護士会の研修の受講が必須」との通知があり、先日、行われた研修に参加してきました。

といっても、日弁連の「子どもの権利委員会」が8月に行った2時半半の講義に関するDVD視聴研修で、講師の方も一方的にまくし立てるような話し方で、音声の問題もあって聞き取りにくく、大半の時間は配布されたレジュメを読んでいたというのが正直なところです。

なお、11日には日弁連主催の相談会が全国一斉に行われたそうです。

「無戸籍児」は、民法772条(離婚後300日の嫡出推定)の関係で、いわゆるDV夫から逃れるようにして離婚した妻が、出生届を機に、前夫に消息を突き止められるのを避けようとして生じるのが最も多いとされ、また、もう一つの典型として、婚姻期間中に他の男性の子を宿した方が、出生した子が前夫の子として取り扱われるのを避けようとして、出生届を出さないことにより生じることも多いとされています。

無戸籍者は、他のレアケース(認知症問題など両親が役所に届け出るだけの意思や能力等を欠く場合)も含め、法務省が把握しているだけで全国に600人以上いるとされ、推定で1万人に達するのではなどという見解もあるようです。

研修でも散々述べられていましたが、弁護士としては、超不採算の可能性の高い類型の仕事だとは思われるものの、「無戸籍」ではない方の親子関係などを巡る法律問題にも応用の利く事柄であり、それなりに関心を持って拝聴しました。

とりわけ、無戸籍の方を実親の戸籍に記載させるための「就籍許可の審判」については、今回はじめて知ったこともあり、色々と勉強になりました。

私自身、数年前に、「実母が、何らかの事情(婚外子?)で自身の戸籍に子を届け出ず、親族の子として届け出させた(との申出が、実母の死後、子からなされた)という事案」で、実母の財産に関する相続手続の必要から、親子関係を証明して相続手続を行いたいとのご依頼を受けたことがあります。

その件では、親子関係を証明する資料が乏しく(臍の緒はありましたが、DNA鑑定に用いることは無理だと言われました)、正面突破が難しいとのことで、他の方法に依らざるを得ませんでしたが、その際、親子関係の存否証明に関する立証方法について色々と調査、研究したことあり、レジュメにその点について記載があったので、懐かしく感じました。

「無戸籍」に限らず、数十年前の日本では様々な事情から真実の親子関係とは異なる届出がなされたことも多くあり、それが、今になってツケを払えと言わんばかりのように問題になるということは、決して珍しいことではありません。

まして、無戸籍者問題に見られるように、戸籍を巡って何らかの形で子が犠牲になる事態は現在も生じているわけで、そうした問題を放置せず解決に導くことは、少子化云々に触れるまでもなく、現代社会が取り組むべき事柄の一つであることは明らかだと思います。

そうした観点から、地域内で問題を抱えている方について、当事務所にもお役に立てる機会を与えていただければと思っています。

報道によれば、再婚禁止期間(民法733条)と夫婦別姓に関する憲法適合性を判断する最高裁の判決が近いうちになされると見られており、嫡出推定の問題も含む子の利益・権利のあり方という観点も交えて議論が深まってくれれば、なお良いのではと思います。

不倫問題などを巡るミニ講義~盛岡北RC卓話から~

先日も書きましたが、盛岡北RCの例会で卓話を担当することになり、「男女の愛と不倫を巡る法律実務~あるロータリー会員家族(架空)を巡って生じた、起きて欲しくない物語から~」と題して、以下の事例(設問)をもとに主要な論点や実務の考え方(相場観)をご説明しました。

その上で、法律の根底に「両性の本質的平等と個人の尊厳」(憲法24条、13条)があり、慰謝料の発生や算定は、これが損なわれ、踏みにじられていると裁判所が判断するかという点が大事であること、どのような事象がそれらの中核を成すかは時代により移り変わること、だからこそ、男女の関わりという愛や性など様々な欲と業が絡む問題について、「尊厳」を踏まえた上で、人の心の深淵の質を高める叡智と工夫、配慮が必要ではないかということを、まとめとしてお伝えしました。

ただ、「男女の愛と不倫を巡る法律実務」と題したのに、紛争を通じた「愛」のことまでお伝えするだけの時間はなく、その点は残念でした。

ご夫婦の性的な事柄が絡んだ事件で、「愛のカタチ」を考えさせられたことがあったので、そうしたこともお話できる機会があればとは思ったのですが、やっぱり、私の身には余るテーマというべきなのかもしれません。

テーマの性格もあり、私には珍しく笑い(苦笑?)の絶えない卓話になりましたが、離婚や不倫、男女トラブルを巡る法律問題は、田舎の町弁には「スタンダードな業務」の一つで、実務経験を交えてお話できることも多いので、セミナー講師のお誘いなどありましたら、ご遠慮なくお声掛け下さい(笑?)。

なお、不倫など男女トラブルを巡っては、以前にも投稿したことがありますので、関心のある方は参考になさって下さい。

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盛岡市内の某RCの会員であるA氏(60歳)は妻のBさん(58歳)と二人三脚で会社を経営し、市内有数の事業家として大成した。

AB夫妻には、長男C(37歳)、長女D(33歳)、次男E(28歳)の3人の子がおり、A氏の事業を支えるCは、妻F(30歳)との間で2名の子G、Hを授かっている。

Dは、夫I(39歳)と10年前に結婚し、子Jと3人暮らしである。Eは独身だが、K女(23歳)と3年ほど交際している。

(1) Cは、半年ほど前から取引先のL女と情を通じ、出張名目でLと旅行に行くなどしていたことがFに発覚し、Fは、子G、Hを連れて実家に戻り別居した。

FはCに対し、①離婚、慰謝料、財産分与、離婚後の子の親権・養育費の支払を求める調停、②離婚までの生活費(婚姻費用)の支払を求める調停を起こしたが、CはLと不倫をしていないと主張して離婚を拒否し、①の調停は不調に終わった。Fは、Cに対し上記①の各事項、Lにも慰謝料の支払を求めて訴訟提起を予定している。

Fの立場で、C及びLへの請求内容や立証を巡り検討すべき点を論じなさい。

(2) 時を同じくして、Dの夫Iにも、先日、同僚のM女と情を交わしたことが発覚した。Iは、不倫は認めた上で、Dとは5年以上前から口論などをきっかけに険悪になり、家庭内別居と性的関係を欠く状態が続いており、婚姻関係は破綻し賠償責任はないと主張し、Mとの再婚を希望してDに離婚を求めてきた(不和については、一方のみに責任があるのではなく「お互い様」というべきもの)。

これらの事実に争いがないことを前提に、I及びMのDに対する慰謝料支払義務の存否や程度(金額)、IのDに対する離婚請求の当否について論じなさい。

(3) 1年前、KにEとの交際に基づく妊娠が発覚し、Kは出産を望んだが、Eの頼みでやむなく中絶したことがあった。Eは、嘆き悲しむKを慰めることもないまま、一方的に連絡を絶ち、他の女性と交際を開始したため、Kとしては、Eに慰謝料の支払を求めたい。Kの請求は認められるか。

(4) Aは、これらの事態がきっかけでBと不和になり、いわゆるクラブに入り浸るようになって、ホステスNと懇意になった。Nは、Aには全く恋愛感情は無かったが、客として頻繁に来店して欲しいという営業目的で、Aからの性的関係の求めに応じ、その際も対価のやりとりをしていたが、不倫旅行などはせず、時折、ラブホテルを利用した関係が続いたのみであった。

数ヶ月後、探偵に調査を依頼しその事実を知ったBは、Aとの離婚は希望しないが放置もできないとして、A及びNに慰謝料と探偵費用などを請求したい。Bの請求は認められるか。

盛岡北RCからの卓話依頼(男女問題など)

次の水曜(18日)の盛岡北ロータリークラブの例会で、急遽、卓話を担当することになり、某会員の方の熱烈なご要望?により「男女の愛と不倫を巡る法律実務」をテーマとすることになりました。当クラブの方は申すに及ばず、市内等の他のRC会員の方におかれても、ご参加いただければ幸いです。

当日は、「あるRC会員の家族(架空)を巡って生じた、起きて欲しくない物語」などと題して、壮年のごきょうだいの各人に、離婚や不倫、交際などを巡ってトラブルが起きたという想定で、代表的な論点や裁判所の一般的な考え方などをご説明したいと思っています。

RCの卓話は実質20分強しかありませんので、当日は論点紹介に止まるでしょうが、1時間とか90分などのバージョンでお話することもできますので、セミナー?などのご要望などがあるようでしたら、ご遠慮なくお声掛け下さい。

ちなみに、前回は、県内でCMソングなどの制作やナレーター等に従事されている菅原直子さんの卓話を拝聴しました。ホームセンター「サンデー」のテーマソングを歌っている方なのだそうで、冒頭でご本人のナマ歌をご披露いただき、ささやかな感動を味わいました。

他にも、世界的な話(ヴェスビオ火山ケーブルカーの件)から県内ネタ(岩手川、ペコ&ペコなどベーシックな話から近時の「焼き冷麺」、ドンドンダウンなど)も交えつつ、コーポレートアイデンティティや商品ポリシーの重要性(それを確立している企業ほど良いCMをすぐに作れる)を伝える内容になっており、大変勉強になりました。

マイノリティとして生きていくということ

ここ1年ほど、LGBT(各種の性的マイノリティ)がメディアに取り上げられる機会が非常に増えたように思います。

3年ほど前、性的マイノリティの方に関する事件を取り扱ったことがあり、その際、依頼主の背景に関する理解を深めるべきと考えて、以下の本を読んだことがあります。併せて、次の投稿をしており。再掲することにしました。

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先日、上川あや「変えてゆく勇気」という岩波新書の本を読みました。

筆者は性同一性障害(MtF)の方であり、まだ、この障害がほとんど社会に認知されていなかった時代に生まれ育ち、様々な辛酸をくぐり抜けた後、区議会議員に立候補して当選し(現在も現職)、性同一性障害性別取扱特例法(特定の条件を満たせば、戸籍上の性別を変更=人格に適合させることができる法律)の制定運動にも携わった方です。

性同一性障害については、人格の一種であって障害と位置づけるのは適切ではないとの見方もあると思われ、本書でも、トランスジェンダーなどの言葉が紹介されており、この障害(人格)について勉強する上で、入門書として大いに参考になります。

ところで、私自身は、性に関しては典型的なマジョリティですが、ささやかな障害(左耳の聴力が皆無で左側からの会話が困難)があるほか、人格に関しては衆と交わることができない変わり者の典型という面があり、様々な場面で、自分がマイノリティだなぁと感じて生きているように思います。

本書は、性同一性障害のような重い問題を背負っていなくとも、何らかの生きにくさを抱えマイノリティ意識を感じて生活している方にとっても大いに共感できる本であり、多くの方にご一読をお勧めしたいと思いました。

また、本書は、性同一性障害性別取扱特例法の制定に関するロビー活動(立法支援運動)を詳しく取り上げているため、何らかの法(法律、条例等)を作るための運動をしたいという方にとっても、大いに参考になるように思われます。

本書では、立法を支援したキーマンとなる政治家として南野千恵子議員(元法務大臣)の尽力が紹介されているほか、議会での折衝などが紹介されており、当時の国会で強い影響力を持っていた、青木幹雄・自民党参院会長との面談のシーンは、その象徴的なものと思われます。

また、大前提として、どうしてその法を作りたいのか、そのことによって誰を(或いは自分を)、どのように救いたいのかといったことについて、切実な必要性や深い思索、それを実現しようとする強固な意思がなければ、これまでの社会通念を変えていくような法の創造などというものは到底できないし、できたとしても様々な苦闘や紆余曲折が必要になるのだということも、当事者ならではの言葉として伝わってくるものがあります。

JCなどに絡んで、「まちづくり」的なことに関わっている方から条例などについて尋ねられることもあったのですが、曲がりなりにも法の運用に携わる身としては、様々な方に、社会を活性化させる正しい法の創造に積極果敢に取り組んでいただきたいと思う反面、上記のような重みにも、よく思いを致していただければと思ったりもします。

不貞行為に関する慰謝料請求と会話記録

町弁をしていると不貞行為に関する慰謝料請求訴訟を受任することが何度もありますが、この種の訴訟は、相手方(被告)が否認すると被害者に不貞の内容などを立証しなければなりません。

中には、そうしたことを見越して、長期の不貞の事実が存在するのに、全面否認したり、直近のごく一部の不貞のみを認めて「その時点では夫婦が不和だったから破綻=免責だ」などと主張する不誠実な御仁も少なくないので、具体的な証拠などに基づいて不貞行為の詳細を主張立証せざるを得ないことも少なくありません。

この点、「不貞時の両者の会話記録」を入手できることがあり、時には数ヶ月間に亘る不貞状況の詳細について、膨大な労力(ページ数)を割いて、「二人の逢瀬の物語」を、会話から浮かび上がる当事者の心理描写なども交えて、熱く深く再現するという作業をすることが、何度かありました。

膨大な記録を読み込んで、ちょっとした記載についてネットで裏付けを調べたり、書かれていない関連事実についてもあれこれ調べたりしながら、男女のやりとりを分析しストーリーとして構築することになりますので、膨大な時間と労力を余儀なくされるため、我ながら「何で、こんな三文小説を書いているのだろう」と自分が馬鹿なことをしているように思う面もあります。

他方で、そうした作業を通じて、何らかの自分の暗い衝動を充足させているのだろうかと感じる向きもあり、或いは、道ならぬ情愛や性愛を求めざるを得ない人間の深淵に迫っているような錯覚?を感じる点もありますが、そのように思うこと自体が、ある種の防衛機制なのかもしれません。

所詮は権利義務に関わる事実を述べるものですから、基本的には淡々と事実を書き連ねるのが基本となりますが、その制約の中で、どれだけ人間の心の深淵に迫れるかなどと、事案の結論とは少し離れたところで馬鹿みたいな情熱を燃やすことが、たまにあります。

余談ながら、先日、「営利目的で性交渉に従事した者は、その業務の通常の態様に依っている限り、他方配偶者との関係で賠償義務なし」と判断して話題になった、いわゆる「枕営業判決」が判例タイムズに載っていたので判文を見たのですが(東地判H26.4.14判タ1411-312)、被告女性は本人訴訟で、本人は簡単な認否反論しかしてないようでした。

その一方で、原告側の主張に基づき裁判官が詳細な判断を示しており、議論された事柄の大半は、裁判官が原告代理人に求釈明して原告代理人が反論し、裁判官が判決でそれに再反論したという審理展開を辿ったようで、その点も興味深いと感じました。

有責配偶者からの離婚請求が長期間の別居等の事情がなくとも認容された例

震災後、不倫が絡んだ法律問題についてご相談を受ける機会が増えましたが、その多くは、慰謝料請求の当否に関するご相談で、「不貞をした配偶者(有責配偶者)が自ら相手方配偶者に対し離婚請求できるか」という論点については、ご相談を受ける機会はさほどありません。

この点(有責配偶者の離婚請求)は、昭和62年の最高裁判決が、①夫婦の別居が当事者の年齢や同居期間と対比して相当の長期間であること、②未成熟子がいないこと、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれるなど離婚を認めることが著しく社会正義に反する特段の事情がないことを要件として指摘したため、それらを満たすケースでないと認められないという考え方が根強くありました。

とりわけ、「長期間の別居」については、7~8年程度が相場として挙げられることが多く、実際、熟年者同士の離婚訴訟で、有責配偶者たる夫が、ちょうどそれくらいの別居期間を経た後に提訴したところ、認容されたという判決を見たことがあります。

ただ、上記の最高裁判決が有責配偶者の離婚請求を制限しているのは、「一家の収入を支えている夫が、不貞の挙げ句に、妻子を放逐して経済的に不安定な状態に陥れるのは社会正義に反する」という考え方に基づくので、そうした事情がなく、離婚請求を認めるのが社会正義に反しないと言えるケースであれば、長期間の別居等の事情がなくとも離婚請求を認めてよいとする意見が以前から強く述べられていました。

先日、「妻Xが夫Yと不和になって他の男性と不貞をした後、未成熟子2名を連れて別居し、Yに対し離婚等を請求した件で、Xを有責配偶者と認定しつつ、①Xの人格へのYの無理解が不貞の原因になっていること、②Xは就労しながら子らを適切に監護養育しており、離婚によって子らの福祉が害されないこと、③Yに1000万円弱の年収があり、離婚の認容でYが著しく不利益になると言えないことを挙げ、判決までの別居期間が2年ほどしか経ていなくとも離婚請求を認容し、子らの親権者をXに指定し、養育費を計12万円(1人6万円)とした例」が掲載されていました(東高判H26.6.12判時2237-47)。

Xがフランス国籍という事情があるものの、外国人女性だから特別扱いというわけではないでしょうから、日本人同士の夫婦にも十分にあてはまる話で、現に、こうした類型の紛争では、離婚を成立させる調停や和解で終了することも多いはずです。

もちろん、「専業主婦家庭での夫からの離婚請求」に関しては、従前の枠組みがあてはまることが多いでしょうから、それぞれの夫婦の実情などを詳細に主張立証する工夫が必要になってくると思います。

上記判決の解説には有責配偶者の離婚請求に関する判例や学説などが整理されており、その点でも参考になると思います。

「お一人介護」家庭の孤立死と見守り契約

岩手県奥州市で、60代男性が90代の母親を自宅で介護していたところ、男性が病気で急死し、母親も介護者が存在しなくなった影響で、誰にも介護等を受けることができないまま、ほどなく低体温症で死亡してしまったというニュースが報道されていました。
http://mainichi.jp/select/news/20150208k0000e040128000c.html

同じような境遇にある方(高齢の母の介護を同居の熟年の子が一人で担っており、他にも子がいるものの、遠方に居住し日常的には連絡を取り合っていない家族)は、全国に幾らでもあるでしょうから、こうした残念な出来事は、現在ないし今後、全国で多数生じている(生じてくる)のではないかと危惧されます。

また、「介護者が、周囲のインフラに恵まれない状態で、たった一人だけで要介護者の面倒を見ている」という話は、高齢者だけでなく乳幼児や障害者などでも多く生じているでしょうから、そうしたご家族でも、潜在的リスクを大きく抱えている例は多くあると思います。

この点、法律業界(ないし介護業界?)では、何年も前から「見守り契約」という制度(サービス)が提唱されているのですが、私の知る限り、ほとんど普及していないと思われます。

先日、任意後見に関するご相談をお受けする機会があり、任意後見に関する現在の代表的?な実務書を読み返したところ、関連する制度(財産管理契約など)についても概説があり、その中で、見守り契約についても解説がありました。
http://www.sn-hoki.co.jp/shop/product/book/detail_50607_11_0.html?hb=1

敢えて弁護士に「見守り」を依頼したいと希望される方は多くはないと思いますが、「要介護者を実質的に一人で介護している家庭」については、介護者に不慮の事態があれば、要介護者も含めて生存の危険に晒されるわけですから、そうした「生活(介護)インフラの弱い家庭」については、社会福祉協議会や地域に根付いた介護業者など信頼のおける事業者と、数日ないし1週間おきに電話や面談などで実情把握をするなどの制度を構築した方がよいのではないかと思います。

もちろん、その上で、当事者の権利関係などに法的な処理が必要になった場合には、必要な範囲で我々にも出番を与えていただければと思います。

冒頭のケースでは、介護者たる長男の方は地域内では知人等も多数いらしたようですが、そうした方でも、日常的・定期的な地域内での交流がない限り、このような事態に陥ってしまうわけで、そうしたインフォーマルなインフラに過度に依存するのではなく、「当事者の安否に直結する緩やかなフォーマルのインフラ(簡易な見守り制度)」を確保しつつ、それを、インフォーマルなインフラ(地域や遠方に居住する親族などの人的つながり)の構築・強化に繋げていくような営みが必要ではないかと思います。

現在も何件かお引き受けしている法定後見はともかく、任意後見など、「裁判所に申立がなされる以前の段階にある方々」からご相談等を受けたり支援が必要な方と接点を持つ機会には滅多に恵まれていません。

こうした報道も踏まえて、弁護士に限らず、様々なインフラの構築のあり方や賢明な利用の仕方などを、多くの方に考えていただければと思っています。

育児家庭に関する婚姻費用請求の整備の必要性

町弁をしていると、離婚をはじめとする夫婦・男女関係の紛争事案は日常的にご相談を受けますが、この種の案件は、コストその他の事情から、当事者間の適正な合意や裁判所への申立による解決等がなされず、問題がそのまま放置されているケースも少なくありません。

特に、見聞する機会が多い問題の1つに、婚姻費用が挙げられるのではないかと思います。

婚姻費用(の分担請求権)とは、別居中の夫婦の一方(収入の少ない側)が、収入の多い側に生活費の支払を求める権利のことで、養育費+配偶者の生活費と考えれば、分かりやすいと言えます(子がいない夫婦でも請求できることは申すまでもありませんが)。

夫婦の一方又は双方が離婚を希望すると、まずは別居から始めるというのが通例ですが、別居が開始された時点で、離婚成立までは収入の多い配偶者は、他方配偶者に対し、相当額の婚姻費用を支払わなければなりません。この種の紛争の典型は「妻が子を連れて夫宅から別居するケース(又は夫が単独で別居するケース)」ですので、通常は、夫が別居中の妻子の生活費として、妻に相当額を支払わなければならないということになります。

ただ、突如、別居された場合などは、妻に対する不満から、夫が支払を拒否する例も珍しくなく、その場合、妻は家庭裁判所に婚姻費用分担の調停申立をし、調停又は審判で定まることになります。具体的な金額は、典型的な家族構成の事案では裁判所の基準表が公開されており、これに夫婦双方の収入等をあてはめて算出することになります。

裁判所の基準表で算出される額は、「支払側の生活費を確保した上で、残金を受給側に支払わせる」というコンセプトで算出されている感があり、収入の低いご家庭では、その金額だけではおよそ生計を立てることができるものではないというのが通例となります。

そのため、現在では、別居中の配偶者(妻)も、パート等の勤務をしながら子育ても行っていることが通例で、お子さんが幼い場合などは、仕事・育児家事に加え、夫との紛争の問題という三重苦を抱えて、本当に大変なことだろうと感じます。

そのような観点から、生活費=生きる糧そのものというべき婚姻費用の支払(分担)に関する裁判所の手続は、なるべく簡明・迅速に行うようにすべきではないかと思うのですが、実際には、受理から相手方(夫)の呼出だけでも1~2ヶ月も要し、夫が色々な主張をして紛糾した場合などは、決着まで数ヶ月以上も要することが珍しくありません。

また、上記のとおり、富裕層などを別とすれば婚姻費用の額はさほど大きくないことや、特殊な論点を抱えた事案を別とすれば、裁判所の算定表で機械的に計算される面が大きいことから、多くの事案では、弁護士に申立を依頼=多額の費用を投入する意義が乏しく、当事者ご自身で手続を行った方が賢明という面が大きいと思います(私も、特殊性の強い事案で離婚などと併せて受任する場合はともかく、婚姻費用単独での受任は経験がありません)。

なお、以上の点は、養育費(離婚後の、配偶者を除いたお子さんの生活費)にも概ね当てはまると言ってよいと思います。

ただ、そうはいうものの、上記のように「仕事、育児家事、配偶者との紛争」という重荷を抱えた方にとっては、上記のような長期の調停の負担など相応の負担がある現在の婚姻費用を巡る実務を前提にすれば、常にご自身でなさってなさって下さいという考え方が適切とも思われません。

折しも、安部内閣は「働く女性の支援」を重大なテーマとして掲げているのですから、何らかの形で、婚姻費用や養育費を巡る実務について、当事者の負担軽減を目的とする措置を講じていただきたいところです(自民党は、民主党などと比べて、公助(公的給付)よりも自助=当事者の相互扶助を重視する政党と評されていましたので、自助を行いやすくするための制度の整備は党の精神にも適うと言ってよいのではないでしょうか)。

1つの方法として、まず、婚姻費用等(養育費を含め)は、原則として、申立後、直ちに相手方の呼出(意思確認や資料提出要請)をするなどして、短期間(例えば申立から2週間以内)で結論を出すのを実務の通例とさせるという方向が考えられると思います。適切な資料が提出されない場合などは、暫定的に仮の命令(保全処分など)を行って、後日、金額を調整するなどという方法も、あり得ると思います。

そして、上記の「2週間で給付(支払)を定めるところまで決着させる手続」で完全な解決に至らない紛糾事案や、性質上、弁護士の支援が必要と認められる事案などは、暫定的な給付額を決めた上で、最終的な決着について時間をかけて調停ないし審判を行うこととし、その際には、少なくとも債権者(受給者)側はなるべく法テラス等を利用でき、かつ、費用償還については事案の性質に応じ、免除(国費負担)など(将来的には相手方負担=立替、求償を含め)を弾力的に運用することも考えてよいのではないかと思います。

震災前後から家事関係の事件に従事する機会が増えていますが、家裁の手続は、一般の民事訴訟などと比べても、裁判所本位というか、当事者には非常に使い勝手が悪いと感じることがあります。

倒産・債務整理分野に関しては、私が弁護士になった平成12年頃から、少額管財手続や最高裁の相次ぐ引直計算の判決などを通じて、使い勝手がよくなった面がありますが(但し、法人の同時廃止がほぼ認められなくなり、予納金を調達できない法人が破産できないという問題もあります)、家事手続も、最近話題の父子の面会交流に限らず、全般的に需要が高まっているはずですので、手続の改善について、より善処を図っていただきたいところだと思います。

養育費の裁判所算定表に関する増額論争とユニセフ

未成年者など扶養を要する子を養育中の夫婦が離婚する場合、養育を負担しない側(非親権者)は、養育を負担する側(親権者)に対し、夫婦の協議又は裁判所の審判で、子の養育費を支払わなければなりません。

そして、我が国では、裁判所が何年も前に基準表(父母双方の収支をもとに養育費の額を算定するもの)を公表しており、ほとんどの裁判官は、基準表による算定を原則とし、特段の事情がある場合に修正する取扱をしています。

ただ、この算定表については、算出される養育費が、債務者たる非親権者の収入と比較して低すぎるのではないか(特に、非親権者の収入がさほど多くない場合などでは、非親権者の側の生活費が優先され、子の方に、人として生存可能とは言えない金額しか支払われない方向で算定されてしまっているのではないか)という批判が、かなり以前から強く主張されています。

実際、私が取り扱った事件でも、親権者(お子さん)側の立場で仕事をする場合などで、そのように強く感じた経験もあり、債権回収の問題と含めて、議論の進展が待たれるところだと思っています。

これ関して、昨年12月25日の日経新聞の記事で、「ユニセフ(国連児童基金)等が公表した報告書で、日本は、先進31ヶ国のうち、子供の幸福度が6位となっている。但し、教育や日常生活上のリスクの低さが1位となっているのに対し、物質的豊かさは21位に止まっており、経済面で子供がしわ寄せを受けている実態が浮き彫りになった」と報道されていました。

この記事は、上記の「養育費の算定において、債務者(非親権者)の利益が優先され、子の養育費(利益確保)が蔑ろにされている」という批判とよく合致するもので、裁判所の算定表の増額を目指している方々におかれては、こうした調査結果も、ぜひ活用していただければよいのではと思いました。

養育費算定表を巡る議論に関心をお持ちの方は、こちらの記事(東京弁護士会の会員報)もご参照下さい。