北奥法律事務所

岩手・盛岡の弁護士 北奥法律事務所 債務整理、離婚、相続、交通事故、企業法務、各種法律相談など。

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相続・遺言など

相続対策セミナーで「中高年のアイドル」を目指す弁護士?

明治安田生命さんのご依頼で、1月中~下旬に県内3箇所(盛岡、水沢、大船渡)にて「相続(争族)対策セミナー」を実施させていただくことになりました。

ここ最近、相続対策(納税や他の相続人への代償金の原資づくり)として、生命保険の活用が注目されており、そのような観点から、「保険が必要となる前提場面としての争族紛争などを知っていただく」という見地から、地元の町弁の私に白羽の矢を立てていただいたようです。

同社にあまり商売っ気がないのか大して期待されていないのか?ネット上では広告なさっていないようなので(営業の方々にお任せしているそうです)、テコ入れも兼ねて?今更ながら、末尾で予定などを告知することにしました。関心のある方は、同社盛岡支社をはじめ開催場所の営業所までお問い合せいただければ幸いです。

恥ずかしながら、私は大勢の方の前で話をするのは苦手なので、毎度ながらレジュメの棒読みのような講義になるかもしれませんが、奮ってご参加いただければ幸いです。

ところで、テーマの性質上、主に中高年の方がおいでになると思いますが、妻と会ったばかりの頃に「綾小路きみまろに似ている」と執拗に言われたことがあります。

そこで、いっそ、それをネタにして「オボマロ」などと称して仮装し「あれから40年、あの頃はあんなに小さかった我が子の手は、今や、相続はまだかまだかと崖の端まで伸びてきて・・」とか、「東京で暮らす子供からの電話は、オレオレに金を取られてないかという話ばかり」などと漫談してみたい誘惑に駆られないこともありません。

ただ、笑いを取るだけの力量はありませんし、講義では、過去に扱った紛争なども例に出して(もちろん守秘義務の範囲内で)、それなりに生々しい話もお伝えするかもしれませんので、ただでさえ似合わない毒舌トークなんぞ試みても、参加者の方に「帰れ!」と言われてしまいそうです。

それはさておき、こうした機会を生かして、レジュメを持ち帰るだけでなく、有益な話が記憶に残るよう、関心をもってテーマを拝聴いただけるような話芸を磨くことができればと思っています。

また、レジュメがA4版で25頁以上という「大作」になってしまったので、後日に今後の宣伝を兼ねて、項立ての中身についても少し投稿したいと思っています(自分で言うのも何ですが、このレジュメを貰いにいらっしゃるだけでも意義があるかもしれません)。

そのまま肉付けすれば、ちょっとした書籍が出来上がりそうなので、出版企画を持ちかけて下さる方がおられば大歓迎なのですが、泡と消える淡い期待で終わってしまいそうです(笑)。

【テーマないし項立て(予定)】

① 相続に直面するにあたって考えておくべきこと
② どのような場合に「争族」になりやすいのか
③  「争族」対策と、節税・納税策(生命保険)との関係
④  紛糾しやすい典型例と、個々の財産に関する一般的な取扱い
⑤ 生前の準備~遺言を中心に~
⑥ 相続の際に問題になりやすい幾つかの事柄と対処
⑦ 弁護士の上手な活用法

【日時・場所】

1月14日 13時半~15時 大船渡
1月19日 10時半~12時 水沢
1月28日 10時半~12時 盛岡

相続と「争族」に関する事前準備

先日ある保険会社さんから相続に関するセミナーを担当してみないかとお声掛けいただき、まだ正式決定ではないものの、来年1~2月頃に県内の数カ所で行うことになりそうです。

まだ時間的余裕はあるものの、色々と考えたことをメモするなどして、それなりに準備を進めています。

そんな事情もあり、先日、相続絡みの本を2冊、立て続けに読みましたので、少しご紹介したいと思います。

以前、平成27年の相続税法改正(増税)に絡んで税務対策などを取り上げた本として、税理士の楢山直樹先生の著作をご紹介したことがありますが、以下の2冊は「法律上の紛争(「争族」に関する論点の具体例)」と「遺品」という、同書では取り上げていないテーマを一般の方むけに分かり易く説明した本ですので、楢山先生の本と併せてご覧になれば、なお良いのではと思います。
ここ1、2年に読んだ本③~様々な法分野・実務など~

あさひ法律事務所「90分で納得!ストーリーでわかる相続AtoZ」経法ビジネス選書(H27.2)

亡父の自宅を同居の子が相続した事例をベースに、トラブルメーカー役の叔父などの若干の登場人物を交えて、相続を巡って法律上問題となるベーシックな論点を、一般の方向けに分かり易く説明した一冊です。

論点として、相続人の範囲・特定、葬儀費用、相続分、相続財産の特定や遺産分割の要否、遺言の有効性、債務の相続、特別受益(生前贈与等)・寄与分などを取り上げ、登場人物を巡るストーリーを述べると共に、法律や裁判所の考え方について解説を加えています。

一般的な家庭の相続に関して生じうる法律上の論点などについて基本的な知識、理解を深めておきたい方には、大いに参考になる一冊だと思います。

木村榮治「遺品整理士という仕事」平凡社新書(H27.3)

遺品整理士の資格認定に関する協会を立ち上げ、遺品整理業務のあるべき姿について指導されている先駆者の方が、遺品整理士という仕事を志した経緯や遺品整理の意義などを説明しています。

遺品整理業務の一般的なあり方(あるべき姿)や問題業者の実情などのほか、特殊な対応が必要となる現場(孤独死、賃借物件、遺族が遠方居住など)、「生前整理」の必要性などにも触れられており、弁護士(紛争)や税理士(税)の業務とも異なる、第3の相続問題としての遺品整理及び関連事項につき、基礎的な知識、知見が得られる本として、大いに参考になる一冊だと思います。

とりわけ、「生前からの被相続人の所持品などの整理や、関連する見守りなどの問題」については、被相続人(ご本人)が、親族などと遠く離れて単身で賃借物件などに居住しているケースでは、福祉や医療などとの連携も含め、強く意識されるべきではないかと思われます。

余談ながら、日経新聞の本年8月30日の記事で、いわゆるIT終活(死後のPCやネット上に残存する各種データ等の処理)が触れられており、これも、現代に特有の「遺されたモノの整理」ということができ、それだけに、相続人側はもとより被相続人も適切な「準備」が必要でしょうし、それらを巡る相互の意思疎通を適切な形で行っていく文化が形成されるべきではないかと感じています。

不在者財産管理人に関する予想外の展開と顛末

昨年、不動産の相続手続が数十年も滞った結果、当事者(相続人)が多数生じた状態で処理を余儀なくされた相続事件(遺産分割)で、当事者の中に所在不明の方がいるため、やむなく不在者財産管理人(民法25条)の申立を行ったことがありました。

そもそも、遺産分割は、相続分の譲渡等の方法で相続権を喪失(遺産分割の手続から離脱)した方を除き、法定相続人の全員が手続に参加しなければ、調停や審判を行うことができないため、所在不明の方がいれば、裁判所が、その方に代わって相続人としての権利行使等を担当する者(財産管理人)を選任して遺産分割を行うべきこととされています。

その事件では、対象不在者たるA氏の住所地(住民票で表示された場所)に手紙を送付しても一向に届かず、A氏のご家族に事情聴取しても所在不明との回答しか得られなかったため、当方が受任している遺産分割を行うために必要な限度で管理人を選任していただきたいという趣旨で、当方から申立を行ったものです。

すると、申立後、かなりしばらくして申立先の裁判所から「A氏が、法務省に照会したところ、法務省の管轄する施設に収容されていることが分かった。所在が判明したので不在者とは言えないから取り下げて欲しい」との連絡がありました。

もちろん、初耳の話でしたが、裁判所の調査である以上、やむを得ず申立は取り下げ、収容先を送達場所として遺産分割の調停を申し立て、最終的に、調停に代わる審判(家事事件手続法284条)により、A氏の出頭等を要しない形で審判を終えることができました。

なお、調停に代わる審判の形となったのは、膨大な数の相続人が生じていた関係で、A氏の具体的な相続権(評価額)もごく僅かなものであったことが影響しており(また、裁判所も審判前にA氏に手紙を送付しています)、施設収容者であれば常にそのような形になるとは言えませんので、その点はご留意下さい。

ところで、不在者財産管理人の選任の申立は、申立書の起案や添付資料の準備のほか、候補者の選定や報酬等を巡る調整、交渉など、色々と煩瑣な作業を伴いますので、無駄骨を折らされた身としては、正直、申立前に何らかの形で簡易に調査、照会できるシステムがあればと思わずにはいられませんでしたが、センシティブ情報という性質上、なかなか難しいだろうと思います。

もちろん、A氏のご家族がそのことを教えていただければ、弁護士法23条照会の利用もあり得たのだろうと思いますが、ご家族もご存知なかったのか、本当は知っていて教えていただけなかったのか、その点は今も分かりません。

ともあれ、「遺産分割が数十年も遅延し、多数の相続人(当初の相続人からの数次相続人)が生じるケース」では、関係者の方からご協力が得られず苦慮する場合のほか、関係者に様々な特異な事情があることが判明し、それに応じた特別な対応を余儀なくされることがあります。

そうした場合には、狭義の相続法とは別に、法律家としての総合的な実力を試されているような気持ちにさせられ、しんどさもありますが、ある意味、町弁としてのやり甲斐や面白さを感じることも多いように思われます。

 

自筆遺言証書に関するリスクと相談の必要性

自筆遺言証書を作成された方の死後に、ご遺族から相続の手続のご依頼を受けることが増えています。

自筆遺言証書は、大概はご本人が弁護士等に相談せずにご自身の考えに基づいてお書きになっているようですが、中には、言葉や表現に曖昧な要素が含まれるなど、解釈の余地を残すものも見られます。

遺言書の文言が一義的に明確でなく解釈の余地を残すものである場合、遺言者の希望に沿った解釈ができればよいのですが、そうでない場合には、他の解釈に基づいて相続財産が分配されたり、時には文言の意味が不明確だとして裁判所から無効扱いされ、遺言のない状態として法定相続に基づく処理を余儀なくされる場合もあります。

公正証書ではなく、自筆証書で遺言の作成を希望されている方は、そのような事態を防ぐためにも、文案を作成された後、その文言でご希望のとおりの効果が得られるか、確認のため弁護士にご相談いただければと思っています。

遺言を希望される方に関しては、「元気なうちにまずは自筆遺言証書を作成し、ある程度、余命や健康に不安を感じるようになったら、公正証書遺言の手続を行う」というスタンスで臨まれる方もおられるようです。

弁護士は守秘義務を負っていますので、自筆証書遺言の作成後に文言の内容についてご相談いただいたり、場合によっては遺言執行者や公正証書遺言における立会証人などの形で積極的にご活用いただいても良いのではと思われます。

子を虐待した親が、その子の死亡で巨額賠償を得た判決と立法論

子Aが、両親Xらに虐待されている疑いがあるとして、Aの入院先の病院Y1の通告により、一時保護のため児童相談所に入所した後、児相職員のミスでアレルギー物質を含む食べ物を口にした直後に死亡した場合に、両親が児相を運営する市Y2にXの損害等として数千万円の賠償請求を認めた裁判例を少し勉強しました。
横浜地裁平成24年10月30日判決・判タ1388-139です(Y2市が控訴中とのこと)。

事案と判決の概要は次のとおり。

X1・X2の子であり当時3歳のAは、H18.6当時、Y1(独法・国立成育医療研究センター)が開設する病院に入通院して治療を受けていた。

Y1は、XらがAに適切な栄養を与えておらず必要な治療等を受けさせていない(いわゆるネグレクト)として、Y2(横浜市)が設置する児童相談所(以下「児相」)に対し、児童福…祉法25条に基づく通告をした。

児相の長は、7月にAを一時保護する決定(同法33条)をした。
Aは、卵アレルギーを有していたが、保護先の児相職員が約3週間後、Aに対し誤って卵を含むチクワを食べさせてしまい、Aはその日に死亡した。

XらはY1に対し、自分達は虐待していないのにY1が虚偽の通告をしたとして、慰謝料等各275万円を請求した。

また、Xらは、Y2に対し、①本件一時保護決定等が違法であり、Aに面会等させなかったことを理由に慰謝料各150万円、②Aの死亡に関し、死亡の原因が卵アレルギーによるアナフィラキシーショックによるもので、チクワを食べさせた児相職員に過失があるとして、Aの損害約6400万円の相続及びXら固有の慰謝料各500万円などの支払を請求した。

Yらは、Xらに虐待行為があったので、Y1のY2への通告やY1の一時保護等は適法と主張し、Aの死亡についても、アナフィラキシーショックではない他の原因によるものとして、因果関係を争った。

判決は、XらのY2に対する請求は計5000万円強(1人2500万円強)を認容し、Xらの対Y1請求は棄却した。

まず、Y1のY2への通告(が違法か)については、XらがAに必要な栄養を与えておらず、Aにくる病(栄養不足等による乳幼児の骨格異常)を発症させ、適切な時期に必要な治療等を受けさせていなかったと認定し、通告は必要かつ合理的で適法とし、対Y1請求を棄却。

次に、Y2の一時保護決定等についても、上記事実関係やY1の医師がAの検査等をしようとしてもXらが同意せず治療等をさせなかったとして、同様に適法とした。

他方、Aの死亡(卵入りチクワの提供)については、本件では、摂取から発症・死亡までの時間が通常よりも多少の開きがあるが、発症までの時間はアレルギー物質が吸収される時点によっても異なり、本件では吸収が相当程度遅くなった可能性があるとして、Aの死因が当該チクワの摂取によるアナフィラキシーショックによるもので、Y2職員の過失も認められるとして、Y2にXへの賠償責任があるとした。

損害額については、近親者慰謝料(Xら各200万円)を含め、上記の金額の限度で賠償を認めた。

判例タイムズの解説には、一時保護決定に関する議論や学校給食でアレルギー物質を含む食事を採った子が死亡した事案などが紹介されています。

が、反面、「虐待親が、虐待に起因して行われた児童相談所への一時保護の際に生じた事故に基づく賠償金を自ら取得することの当否」については、何ら触れられていません。この裁判の中でも、権利濫用等の主張はなされていないようです。

Xらの相続権について考えてみましたが、ざっと関連条文を見た限りでは、Xら自身がAを殺害したわけでないので、相続欠格事由(民法891①等)にはあたらないと思われます。また、被相続人(A)を相続人(Xら)が虐待した場合には、相続人から廃除することができますが(民892条)、その申立は、被相続人(A)のみができるとされ、本件のような場合にはおよそ実効性がありません。

また、Xらの請求を権利濫用と評価する余地があったとしても、Y2の過失そのものは否定しがたく、これを理由にY2の責任を否定するというのも疑問です(Xらも悪いがY2職員も過失があり、前者を理由に後者を免責すべきではありません)。但し、本件ではY2が死亡原因が他にあるとして因果関係を争っており、それが認められれば、賠償額は大幅に減額されますが。

このように考えると、「自ら悪質な虐待行為をしてAの死亡の遠因を作った本件Xらが、Aの死亡で巨額の賠償金を手にするのは不当だから阻止すべき」という価値判断を実現するには、「親の虐待に起因して子が死亡した場合には、公的機関の請求により、親の相続権を制限できる」といった法律を制定するないのではないかと思われますが、どうなのでしょう。

ちなみに、虐待親の親権を制限する趣旨の法改正が昨年に行われていますが、親権の制限は相続権の剥奪とは関係がないと思われ(相続権にまで手をつけた改正にはなっていないのではないかと思われます)、本件のような例でその改正を活かすことも難しいのではと思われます(但し、24年改正はまだ不勉強なので、そうでないとの話がありましたら、ご教示いただければ幸いです)。

なお、虐待親が自ら子を殺害したのに等しい場合は、全部の相続権を剥奪すべきでしょうが、そこまでに至らない場合や親側にも酌むべき事情がある場合には、全部廃除でなく部分的には相続権を認めてもよいのではと思われ、そうした判断は、家裁の審判に向いていると考えます。

また、虐待親の相続権を制限した場合に、回収された賠償金は、同種事故の防止や虐待児の福祉など使途を特定した基金とすれば良いのではないかと考えます。

もちろん、このような考え方自体が、財産権に対する重大な制約だとして反対する立場の方も、我が業界には相応におられるかもしれませんが。

我ながら価値判断ありきのことを書いている気もしますので、あくまで議論の叩き台になっていただければ十分ですが、お気の毒なお子さんの犠牲を粗末に扱わないためにも、こうした事件から、現行法や実務のあり方などに関心や議論が深まればよいのではないかと思っています。

H26.2.12追記

この件の控訴審は、Aの死因がアナフィラキシーショックによるものと断定できず、Y2が主張する他の死因(右心室に繊維化した異常部位が混在していることに起因する致死的不整脈による突然死)の可能性も否定できないので、本件食物の摂取とAの死亡との間に相当因果関係を認めることができないとして、Y2に対する認容判決を取り消し、Xを全面敗訴させています(判例時報2204号)。

産院の取り違えから兄を救った弟と、兄を排除し損なった弟

本日、産院の取り違えに関し、取り違えられ肉親ではない女性に不遇な環境で育てられた子が産院を訴えて、3800万円の賠償が認められた判決のニュースが流れていました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131126-00000147-jij-soci

ニュースによれば、被害者Aさんの実の弟達3人が産院でAさんが取り違えられたことを突き止めたとあり、文脈からすれば、Aさんではなく弟さん達の方が、Aさんを兄として発見し、迎えるために動いていたように思われます。

Aさんの実の両親は既に亡くなられているとのことで、両親の遺産分割をこの4兄弟がどうなさるのか(やり直すのか等)、興味深いところですが、弟さん達は、そうしたリスクも承知の上で、Aさんと「そして兄弟になる」道を選んだと理解すべきなのかもしれません。

ところで、数日前、「産院の取り違えが生じた事件で、別の両親と50年以上、良好な関係を築いたBさんが、戸籍上の弟達と不和になり、弟達が、Bさんは実の兄(両親の子)ではないと主張しDNA鑑定で立証し遺産分割から排除しようとしたが、裁判所がその主張を権利濫用だとして排斥し、Bさんの相続権を認めた例」を勉強しました。

詳しくは、こちらの投稿(「取り違えから50年後に『そして親子になった』事件」)をご覧いただければ幸いです。
http://www.hokuolaw.com/2013/11/21/産院取り違えから50年後に「そして親子になった」/

何十年も経て取り違えが判明したという点では共通しているのに、一方は、弟の尽力で兄弟が円満に絆を取り戻し、他方は兄弟(血のつながりの有無はさておき)の諍いの果てに、血縁の不存在を利用して兄を相続から排除しようとした弟が退けられ、結果として、Bさんと育ての親という血の繋がらない者同士が特殊な形で親子として法的にも認められたという点で、全く逆の帰結を辿っているように見えます。

産院の罪深さはいずれも同じですが、その後どのような人間関係が形作られていくかについては、人の数だけ物語が異なってるというべきなのかもしれません。

●追記(11/27)

この日の報道番組で、前者(産院への賠償請求)について取り上げており、両家の家族(兄弟姉妹)の構成や発覚の経緯などについて少し触れていましたが、ひょっとしたら、後者(親子関係不存在確認請求訴訟が権利濫用で棄却された例)は、前者との関係で「取り違えられた、もう一方の家」ではないかという印象を受けました。

仮に、そうだとすれば、「α家に生まれながら、取り違えでβ家で育てられたAさんが産院に請求し認容された賠償額」というのは、Bさんがα家から相続した遺産と同等の額(及び慰謝料)なのかもしれません。

すなわち、Aさんは産院に対し、「β家に生まれながらα家で育てられたBさんが、上記判決によって資産家であるα家の両親から相続人の一人として多額の遺産を相続したため、本来であればその相続を受けられたはずのAさんが、取り違えのせいで相続=取得できなかった」として、Bさんが相続した財産に相当する金員の賠償(と慰謝料)を請求したというものであるのかもしれません。

もちろん、仮にそのような形でAさんが産院から逸失した相続分相当の賠償を受けることができれば、Aさんの実の兄弟達も、ある意味、損(Aさんが相続人として追加されることによる、割付を受ける相続財産の減少という意味で)をしなくとも済むという面が出てきます。

後者の事件では戸籍上の兄(Bさん?)と血の繋がらない弟達との間には不和が生じており、仮に、そうしたことが、弟さん達がAさんの発見に動いた背景にあるのだとすれば、この事件に対する見方にも、単なる美談だけではない人間臭さを感じることができるのかもしれません。

前者も、おって判例雑誌に掲載される可能性が高いでしょうから、この事件に関心のある方(とりわけ「取り違えれた、もう一人の男性」について知りたい方)は、双方の判決を照らし合わせて、この2つの事件が繋がっているのか、そうでないのか確認してみてもよいかもしれません。

産院取り違えから50年後に「そして親子になった」事件

産院での子の取り違えを、6年後に告げられた2組の親子の物語を描いた「そして父になる」という映画は、多くの方がご存知だと思います。

残念ながら、まだ拝見する機会に恵まれていないのですが、ちょうど、産院での子の取り違えが生じて後日に訴訟になった例を見つけました。

といっても、6年後に病院から告げられたのではなく、約50年ほど実の親子と同然の関係を築いた後、戸籍上の両親が亡くなり、その両親の実の子である「戸籍上の弟達」と相続紛争になったところ、どのような経緯かはよく分かりませんが、その時点になって初めて、弟側が、「兄は実の子でないから相続権は認められない」と主張し、親子関係不存在確認訴訟を提起してきたという事案です。

1審は弟の主張を認めたのですが、2審は「長期間、実の親子同然の関係があったのに、遺産争いを直接の契機として訴訟を提起したという性質や現時点で親子関係を否定することで生じる弊害など諸々の事情に照らし、権利濫用だ」として弟の請求を退けています(東京高判H22.9.6判タ1340-227)。

裁判長は業界では著名な方で、独特な説示をして、当事者の協議による相続問題の解決を促して判決を締めくくっています。

長期間、実の親子同然の関係を築いた場合、その関係そのものを法的に保護しようとする例は他にもあり、そのような前例を踏まえての判断であったと思われます。

また、「戸籍上の親子関係と実際の親子関係とが齟齬する場合に、権利濫用を理由に当事者の利害の調整をした例」としては、妻が夫に対し、「夫と法律上の親子関係があるが、婚姻中に夫以外の男性との間にもうけた子」の養育費を請求したケースで、その子も夫にとっては嫡出子なので原則として支払義務ありとしつつ、そのケースでは権利濫用にあたるとした例(最判H23.3.18)もあります。

いずれも事例判断なので、権利濫用と評価できるに足る事実関係を、どれだけ説得的に積み上げることができるか、更に言えば、そうした実質判断を重視する裁判官に巡り会えるかが勝負の分かれ目ということになるかもしれません。

非嫡出子違憲判決を巡る2つの小話

9月に最高裁が長年の懸案であった非嫡出子の相続差別規定(民法900条4号但書前段)を違憲としたことは、皆さんご存知のことと思いますが、岩手でも、同じ争点の事件で違憲判決が出たとの報道がありました。

この件で小ネタを1つ発見したので、さらに思いついたもう一つの話と共に少し書いてみたいと思います。

1 2年前に、違憲判決の一歩手前で自ら判決を貰い損ねた人物

先ほど、判例雑誌を読んでいたところ、2年前に、同じ事件で違憲判決の一歩手前まで行ったのに、当事者が自ら特異な形で事件を終了させて、違憲判決を貰い損ねたように見えるという判例を見つけました。

「平成22年に同じ論点で最高裁に特別抗告していた非嫡出子X氏が、最高裁の係属中に、代理人弁護士に無断で相手方(嫡出子Y氏)と和解して代償金の支払を受けたので、最高裁が審理の続行の必要なしとして抗告を却下した例」です(最高裁平成23年3月9日決定判タ1345-126)。

判決を読むと、X氏は、早期解決を希望するとの理由で、抗告審を依頼していた自身の代理人弁護士を通さずに、自らY氏と接触し、2審までに認定されていた代償金(Y氏が目的不動産を相続する代わりにX氏に支払うべきとされた金員で相続分に基づき算定されるもの)を2割程度、増額した金額をY氏から受け取るのと引換に事件を終了する趣旨の合意をし、その支払を受けました。

が、どういうわけかX氏はその事実を代理人に一切説明せず(独断専行をしたのに後ろめたさがあったのか、その必要すら感じなかったのか、その辺は不明です)、その後も最高裁の審理が続き、最高裁は、X氏の代理人に、事件を大法廷で扱う旨の連絡をしました。

そして、代理人がX氏にそのことを伝えたところ、X氏が、実は、ということで、和解の話が最高裁に伝わりました。

で、通常なら、そのままX氏の側から訴えの取下がなされて裁判が終了となるはずなのですが、どういうわけか(後記参照)取下書が提出されなかったので、最高裁は、審理続行の必要なしとして抗告を却下し、終了となりました。

断言はできないものの、今回の判決結果や「大法廷に回付」という事実(最高裁の裁判官全員による重大な判断が予定されている)から、仮に、X氏がY氏と裁判外の和解をせずに判決に至っていれば、今回の判決よりも先に、X氏こそが、違憲判決を勝ち取った当事者として、社会の脚光を浴びた身になったかもしれません。

X氏が、違憲判決を勝ち取ること自体と経済的利益その他のどちらに重きを置いていたのか等は分かりませんが、経済的利益に関しては、違憲判決となっていれば、Y氏がX氏に支払うべき代償金は上記(2割増)を上回っていたはずで(単純に言えば、代償金は倍額になるはず)、その限りでは、X氏は「賭けに負けた」ような面はあると思います。

もちろん、非嫡出子相続差別規定は、最高裁が長年に亘って合憲判断を維持してきた(近年は、規定そのものを批判しつつも最高裁による違憲判断は避けたいとして、立法による解決を促していた)ため、平成22年の時点で、絶対に違憲=X氏が勝訴する見通しが立っていたわけではありません。

ですので、和解そのものは、勝敗リスクに関する一つの判断として、尊重されるべきだとは思います。

ただ、この件では、X氏は、自身が頼んでいる弁護士に無断でY氏と和解をしたとのことなので、判決等では全く触れていませんが、代理人との間が、何らかの形でこじれていると思われ、訴え取下書が最高裁に提出されなかったという話も、その延長線上にあると推測されます。

形式的に言えば、代理人に事件処理を依頼している当事者の方が、代理人に無断で相手方と協議して話をまとめてしまうというのは、代理人との委任契約に違反する疑いが強い事柄で、場合によっては代理人に対して賠償等の義務が生じかねないリスクを負っています。

ですので、よほどの事情がない限り、弁護士としては「よい子の皆さんは、絶対に真似しないで下さいね」と申すほかありません。

具体的な事情が分かりませんので、X氏の行動そのものに論評はしかねるものの、業界人から見れば、「長年の課題を勝ち取った栄誉ある地位」を手にし損ねた上に、代理人との間もこじれたのではないかと思われる後味の悪い結果になったという印象を受けてしまいます。

違憲判決報道のときの当事者の記者会見は、私は新聞でしか拝見していませんが、そのコメントなどを思い返すと、天は、大きな判決を勝ち取る人についても、ある種の選別をしているのかもしれません。

2 非嫡出子差別違憲判決と自民党憲法草案

恥ずかしながら、憲法学と縁遠くなっていることもあり、上記違憲判決をまだ真面目に読んでいませんが、引用した上記記事にあるように、違憲判決の理由として、①家族の多様化、②国民の意識の変化、③諸外国の婚外子差別撤廃の流れなどが挙げられていたと記憶しています。

ただ、①と②は、どこまで統計を取ったのかよく分かりませんが、相手方(嫡出子側)が、報道へのコメントで自分達の方こそが国民の意識を代表しているはずだと述べていたように、なかなか認定の難しい事柄と思われますので、③の諸外国の動向が、違憲判断の大きな要素として重視されたのではないかとも思われます。

ところで、「諸外国の動向を重視する」というのは、最高裁のオリジナルな判断ではなく、日本国憲法に明確な根拠があります。

同業者の皆さんは当然ご存知のことですが、前文です。

そのことは、①諸外国=国際社会の動向を尊重する趣旨の規定は、憲法の本文にはほとんど(全く?)なく、前文だけにある(前文には、そのことが明確に謳われている)こと、②とりわけ、今回の違憲判決の直接の根拠である憲法14条には、「国際社会の動向=外国人の人権との均衡(平等)を斟酌する」などという定めは一切ないことから、裏付けられると思います。

前文は、私が司法試験受験生だった当時は、それ自体が裁判規範として表立って出てくるものではないとされており、真面目に勉強した記憶もありませんが、こうした形で憲法解釈に影響を及ぼす規定なのだと感じさせられる面があります。

で、何のためにこんな話を書いたかと言えば、昨年頃に自民党が提案した憲法改正案の前文を改めて読んでみたのですが、やはりというか、現行憲法の前文にあるような国際協調主義、言い換えれば国際社会の潮流を尊重していこういう趣旨の文言は見られません。

それ以外の人権規定の部分にも、平等原則を含む人権の解釈に国際社会の潮流を斟酌することを伺わせる趣旨の規定を見出すことができません。
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf

最高裁は、裁判官が自分達の価値判断で勝手に物事を決めているのではなく、あくまで現在の日本国憲法の規定や趣旨などを考えて憲法適合性の判断をしていますので、仮に、現時点で自民党憲法が採用されていたとすれば、裁判官にとって、「国際社会の潮流」を憲法解釈(権力行使)の根拠にはできませんので、今回の違憲判決は恐らくは生じなかったのではないかと思われます。

私自身は、左右双方の立場(各論)に賛否をモザイク的に感じる蝙蝠型の人間なので、嫡出子側の心情にも同情する面を感じたり(事案の実情に応じて遺言その他の方法で解決するほかないのでしょうが)、自民党憲法草案にも、多くの同業者の方々ほど明快な反対姿勢を持つこともできず、「だから自民党案は駄目だ」などと、声高に主張するつもりはありません。

ただ、少なくとも、「自民憲法なら今回の違憲判決は生じなかった可能性が高い」という法論理的な帰結については、いずれの立場の方も認識しておいてよい(それを前提に、各人の価値判断=憲法観、政治観に基づき、当否を決めていけばよい)と思います。

また、最高裁は、過去の合憲判決の際に、議員定数不均衡問題と同様に、是正の必要性を述べつつも、立法による解決を期待し強権発動(違憲無効)するのを避けたいとのスタンスを表明しており、国民一般の目から見ても、さほど大きな反対論もなかった(自民党の一部の議員さんが強硬に反対しているという話は聞いたことがありますが)と思います。

それにもかかわらず、国会(官ではなく民の側)で改正を実現できなかったこと(或いは、その結論を出すための健全な議論を喚起できなかったこと)も、我が国の民主主義の実情ないし課題を示す象徴的な事柄として認識する必要があるのではないかと思います。

社会の片隅で細々と生き残りの努力に追われる生活を続ける身には、色々な意味で、代表者(政治家)に限らず、「民」を担う立場の方々に、官にお株(憲法の価値の実現や健全な対案などの努力)を奪われないよう、ご尽力をお願いしたいと思わずにはいられないところがあります。