北奥法律事務所

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不動産売買・借地借家など

相続財産管理をめぐる様々な不動産登記と負動産処理の実情

今回は、相続財産管理人の登記業務などに関する宣伝・・・というより愚痴です。

ここ1~2年、相続財産管理人で、通常の弁護士業務では馴染みの無い様々な登記と、登記申請の必要書類の取得のための交渉などを色々としなければならない事案が幾つかありました。

先日終わったⅠ事件では、山間部の別荘地帯にある買い手のつきにくい土地で、ウチならなんとかなるかもと仰る不動産屋さんにお願いして5年以上実を結ばず、受任から10年も経て、ようやく国庫帰属手続で完了したのですが、国への移転登記に先立ち、相続財産法人への名義変更のほか、

α 当該土地に付された根抵当権の抹消登記(休眠権利者企業への訴訟)
β 当該土地に付された買戻特約の抹消登記(登記原因証書の作成その他)

が必要となり、国庫帰属の条件(お約束)で、構図で隣接地所有者らを沢山調べて「引き取っていただけますか」のアンケート調査(当然、拒否か無視)をしなければならず、1円にもならぬ仕事(国庫帰属は対価ありませんので)のため膨大な作業に追われ、他に相続財産の全く無い事案(限られた予納金のみ)ということもあり、タイムチャージ換算で予想どおりの大赤字事案となりました。

また、Ⅱ事件では、被相続人Aの自宅が、いずれも故人である両親BやCの別々の名義の土地や未登記建物などで構成されており、まとめて売却するには、売買契約の許可申立の前に

①解体済みの旧自宅建物・甲1の建物滅失登記(業者滅失証明書は当然無し)
②現自宅建物・乙1の所有権保存登記登記
③現自宅土地・乙2の所有権移転=相続登記(A→C)
④旧自宅敷地・甲1の相続登記その1:B→A・C共同相続
⑤旧自宅敷地・甲2の相続登記その2:A持分のC相続
⑥自宅土地建物と旧自宅敷地の相続財産法人への表示変更登記

を行わなければならず、いずれも、弁護士が通常取り扱う仕事ではないため、法務局のサイトや文献などを色々調べて自分なりに登記申請書案を作成して法務局に相談→あれこれ言われて修正等→再相談→あれこれ、という作業を余儀なくされました。

これまで名義変更登記(や清算人選任など)以外はほとんど行ったことがなく、経験値がかなり上がりましたが、所詮、弁護士は登記の専門家ではありませんので、「俺は登記も分かる弁護士だ」などと叫んで司法書士さんと競争しようなどという発想・能力は微塵もなく、他の多くのレア事件(一生に一度くらいしか出逢わない類型)と同様、資格取得マニアの人のように、他に活かす機会もなく終わってしまいそうな気もします。

他にも、田園地帯の廃屋敷地等しか財産がない(ので相続放棄された)Ⅲ事件で、解体費用超過などを理由に不動産業屋さんに匙を投げられ、ダメもとで多数の近隣所有者を調査し照会したところ、運良く「タダ同然なら引取可」との回答を一人の方からいただき、譲渡に向けた準備を行っているものの、農地(実情は原野)が含まれているので、非農地証明による地目変更登記が必要になり、諸々の交渉の末、先日、地目変更を終えてこれから譲渡の作業に入るところです。

こうした事案に限らず、近時は、膨大な作業をこなさなければならないのに報酬(受任費用)は限られた金額しかいただけない大赤字事案が多く、株高云々で繁栄を謳歌する方々などは遠い世界のように感じるほかありません。

Ⅱ事件だけは、諸般の事情で珍しく黒字の期待が持てるものの、報酬審判は1年以上先なので、それまで滅んでなるものかと、某所で撮影した花火写真で自身を慰めつつ、ぢっと手を見る日々です。

ウイルス禍における賃料問題と廃業支援としての経営者保証ガイドライン

新型ウイルス禍で休業等を余儀なくされる飲食店などが休業期間中も賃料の負担を余儀なくされ廃業等に追い込まれる(ので支援を要する)という問題は、4月下旬頃から都道府県や国レベルで様々な救済策が検討・実施され、今も流動的な状況にあると思われます。

私自身は3月頃には賃料問題は今回の件で特に立法的解決が求められる問題ではないかと思っていましたので、この報道(論点)の行方には強い関心があります。

この種の事件を手がけておらず、込み入った検討はしていませんが、一般論として、ウイルス禍による休業を理由に貸主に賃料を請求する法律上の権利が借主にあるか(現行法上認められるか)と言われれば、貸主から使用停止を求められるなどという特段の事情がない限り、非常に厳しいのではと現時点では思っています。

他の先生のブログで、物件価値の大幅下落を前提とした賃料減額請求が検討されていましたが、その先生も、その場合は鑑定が必要になるなど現実的ではないと仰っていたと記憶しています。

他方、借主が望まぬ休業で契約上予定していた使用収益(による賃料原資の獲得)ができず、塗炭の苦しみを強いられているのに、貸主のみが何のリスクもなく契約どおりの賃料を支払え、というのは社会的公正ないし公平の観点から、相当に違和感があります。

その先生のブログでは、貸主側からの相談で、借主より強硬な減額要請を受け、やむなく応じているとの話を幾つも受けているとの記載があり、実際には貸主も大変な目に遭っている事案も多いのでしょうが、現行法でルールがないため「良心次第・交渉(大声)次第」という歪な状態になり、トータルで不公正な光景も相応に生じているのではと危惧されます。

結論として、疫病などで休業が不可避の状況にある場合は、一定の算式を作成して相応の減免等の請求を簡易に認めると共に、貸主(ひいては、その先にある銀行等)にも、相応の受益的措置(建設費などのローン支払猶予と利息停止や債務減額、固資税などの減免その他)を講じるような法的措置を早急に講じていただければと考えています。

話は少し変わりますが、厳しい経済情勢に伴い全国的には廃業や倒産の報道も増えてきましたが、当方に関しては、現時点でそのようなご相談はまだ全く受けていません。

小規模企業の債務整理に関しては、最後の選択肢である破産と、現状では金額面で利用困難な民事再生のほか、事案次第では利用でき、自宅の維持確保など破産などよりも遙かにメリットの大きい解決になりやすい「経営者保証ガイドライン」という、第3の選択肢があります。

田舎の町弁にはあまり接点のない(ので、岩手でも経験のある弁護士は多くはないはずの)手法なのですが、私は2年ほど前に小規模な福祉施設の店じまいの事案で活用しており、先般も、ウイルス禍が原因ではありませんが、店じまいをせざるを得ないという小さな地元企業さんで、GLで解決できる事案を受任し、現在、各種対応に追われています(2年ぶりで、これが実質2件目なので、試行錯誤的を交えつつではありますが)。

経営者保証ガイドラインは世間ではほとんど知られていない制度で、私が受任した案件でも、ご本人に「本件は、個人再生が無理な事案で、破産も自宅を手放さざるを得ない、GLなら自宅を守ることができるはず」とお伝えすると、そんな制度があるのかと驚き、強い安堵を示しておられました。

それだけに失敗は許されないとの姿勢で臨んでいますが、現下の情勢により店じまいを避けることができなくなった企業の方が、GLによる解決が可能であるのに知識不足や出会いに恵まれないことなどにより、残念な選択に至ってしまうことがなければと、願っているところです。

龍が棲む町の宿命と「相続放置」に関する過疎地の現実

先日、岩泉町の社会福祉協議会が実施する法律相談事業に弁護士会から派遣されて担当してきました。

平成28年8月の「異常な進路を辿った挙げ句に岩手県の一部と北海道の十勝地方を襲った台風10号」によって岩泉町は甚大な被害を受けましたが、私自身は数年ほど岩泉方面に行く機会がなく、台風以来はじめての訪問となりました。

10時から12時まで3件のご相談があり、テーマは賃貸借や成年後見など様々でしたが、いずれの事案も相続が絡んでいる一方、相談者の方も高齢のため、ご自身での対処が難しいと見られるものもありました。

高齢者から込み入った事案の相談を受けた場合、残念ながら、様々な論点や幾つかの作業を必要とする旨を繰り返し説明しても、聞き手=相談者が高齢のため自身で作業をこなせないことはもちろん、当方の説明を理解できているかすら心許ないのが通例で、お一人で相談せず、ご家族や支援者と一緒にいらして下さいと説明するほかありません。

医療であれば、(例外があるにせよ)ご自身が当を得た説明ができなくとも、目視であれ諸検査であれ身体を診て病気を確認し、それに対し手術や投薬などの対処ができる=ご本人はそれを受け入れていればよいということが多い(と思われる)のに対し、弁護士への相談事項は、より高度で内実のあるコミュニケーションが構築できないと話を進めることができないものが通例です。

相談の対象が「問題の解決」という性質上、「依頼するか、説明された内容をもとに自分で対処するか」の選択から始まり(もちろん、相談内容や当事者の置かれた状況によりどちらが相応しいかは異なります)、受任業務の多くも、僅かな例外(過払裁判の一部など)を除き、弁護士と依頼者が様々な作業や意思疎通を重ねなければ解決できない事案が少なくありません。

とりわけ初動段階では、弁護士が「これこれの準備をして下さい(それを済ませていただけないと私=法律家が従事する前提を欠きます)」と幾つかの作業をお願いせざるを得ないことが多くあります。

主に、事実関係の説明やご自身の手持ち資料の整理、関係者の内部協議などになりますが、そうしたものについて高齢者の方がお一人で対処することは困難ですので、込み入った事案では、ご家族や相当な支援者のご協力が得られないと、先に進めるのが難しいと言わざるを得ません。

率直なところ、岩手に戻って十数年、高齢の方がお一人で込み入ったご相談を持ち込んできて、そうした残念なやりとりを余儀なくされることが非常に多いというのが実情です。

で、今回のご相談では、例えば、「不動産の貸主が借主の賃料不払等を理由に不動産の明渡を求めたいが、借主は既に亡くなっており、借主側の相続関係も不明である」といったものがあり、その場合には、前提として契約関係の明確化(内容確認)や所有関係など(不動産登記事項証明書)を行いつつ、本題というべき借主側の相続人調査などを行わなければならず、それらの一つ一つをとっても、様々な事務作業が必要となります。

土地の賃貸借であれば、そうした前提をクリアできた上で、最後に建物撤去という悩ましい問題があり、事案に応じたリスクやコストに関し依頼者との間で見通しや覚悟などの共通認識を得た上でなければ、弁護士としては軽々に依頼を受けられない面があります。

残念ながら「借主たる80代くらいの高齢者ご本人」お一人のみでは、そうした面倒な話に対処いただくことは困難で、一通り説明しても「何となくわかったけど、自分一人では何もできない、しない、それでおしまい」という、茶飲み話レベルの展開にしかならず、互いの時間の無駄と言わざるを得ません。

その件でも、同種の説明をして、町内で同様の企画(無料相談会)があれば、お子さんなどに同行していただくか、私への相談を希望されるなら、ご一緒に盛岡にいらして下さいと伝えるのが精一杯でしたが、お子さんは遠方に勤務しているので同行は難しいなどと言われてしまうと、私も何と言葉をかけてよいのやらという感じになってしまいます。

最近は、この種の「本題(賃貸借など)に加えて、前提として相続が絡み、かなり面倒な作業が必要になる可能性が高い(ので、誰もが嫌がって放置し先送りされ、次の世代が結局は迷惑する可能性が高い)事案」が非常に増えているとの印象は否めません。

そのため、建物登記の義務化(放置への不利益処分)、相続時に一定の期間内に遺産分割などがなされなければ暫定的に法定相続分登記の義務づけ(又は職権での実施)、それらの履行が困難な方のための支援などが必要だと感じています。

現状では、相続物件に絡んで利害関係のある第三者に面倒な負担が強いられる一方、その解決に対処した者に報いる面が薄く、放置した場合のペナルティもほとんどないため、とりわけ高齢者が権利義務の主体となっている事案では、先送りばかりが常態化しており、何らかの制度的な手当が急務だと思います。

そうした意味では、今回の相談は社会福祉協議会を通じて行われたものでしたから、相談者が拒否するのでない限り、担当職員が立ち会うなどして、今後の動線を支援する取組をすべきでは(それが、職員自身の今後のためでもあるのでは)と思わざるを得ませんでした。

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相談会が終わった後、帰路につく前に、大川地区の名所である「大川七滝」を見ていくことにしました。

大川七滝は、大川が階段状に傾斜している場所であり、メジャーな知名度はありませんが、それなりに見応えがあり周辺の雰囲気も良いので、一度は訪れる価値のある場所と言ってよいでしょう。

私自身は、4~5年ほど前に龍泉洞を訪れた帰りに大川七滝に立ち寄り、さらに奥の山深い道を進んで「北上高地の秘境」と言われる櫃取湿原の入口を通過して(日没のため湿原には行けませんでした)、区界高原から盛岡に戻るという休日を過ごしたことがあり、今回も七滝だけでもチラ見していこうと思い、会場となった複合福祉施設を北進しました。

すると、なんということでしょう。

ちょうど七滝のすぐ手前で道路が台風禍の土砂崩れでズタズタに寸断され、現在も復旧未了のままになっていたのです。

DSC05651   DSC05652

そこで、仕方なく少し戻って小さな橋を渡り迂回路を進み、どうにか七滝自体には辿り着くことができました。

私が今回に通った道路で寸断されていたのはこの場所だけでしたが、周辺の細い道にも寸断されたままの状態になっている箇所が多くみられ、1年近くを経た今も台風禍の復旧は十分でないこと、また、川から10m以上の橋に瓦礫が散乱している光景から、当日の岩泉町内にどれほど激しい濁流が押し寄せたのかということが、多少なりとも感じる面はありました。

とりわけ、七滝の手前の道が寸断されたというのは、蛇行する川や七滝の姿が竜の化身のようなものだと考えると、「特別な場所に気軽に来ることができると思うな」と天に告げられているような印象も受けました。

そんなわけで台風禍に翻弄される「龍のまち」岩泉を思って一首。

大川におおかぜ来たりて龍となり 人の非力を現代(いま)に知らしむ

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岩泉の台風禍は、小本川沿いの福祉施設の被害があったとはいえ震災に比べれば人的被害が多くなかったせいか、人々の記憶から風化しつつある面は否めないのかもしれませんが、それだけに、土木工事だけでなく上記のような住民が必要としている人的サポートの拡充も含め、過疎地の復興へのご尽力を願ってやみません。

養子制度から見た空家大国の近未来と震災

先ほど、日本国内に大量の空家が発生して深刻な社会問題になるはずだと述べた藻谷浩介氏の対談記事を拝見しましたが、私も、「遠方の被相続人(両親やきょうだい、叔父等)の死去等により、相続人が廃墟化した空家の対処(解体など)を余儀なくされたり、相続放棄等により第三者がその必要に迫られる事案」のご相談等を多く受けてきましたので、それが今後ますます増えるだろうということも含め、記事には共感できる面があります。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51118

ところで、「人口減少で家を継ぐ人が減って空家が増える」という点については、昔の日本(特に、多産が奨励された大戦前後の時代)なら、養子縁組で家を継ぐ(いわば空家化を防ぐ)ことが多く行われていたようです。

そうした話は去年読んだ「きょうだいリスク」という朝日新書の本に詳しく書かれていたのですが、現代では、そうした風潮ないし社会慣行は廃れたのでしょうし(金持ちが税金対策で養子との話を日経新聞で見かける程度です)、私の知る限り「養子の慣行を再興して空家対策をしよう」などと呼びかけている人がいるなどという話は聞いたことがありません。
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17778

私の存じている同世代の方々も、単身生活を続けている方もいればお子さんが3人という方も相応に多くあり、昔なら養子云々という話になったのではないか、どうして今はそうならないのか、それは社会にとって悪いことなのか良いことなのか、以前と比べて社会の仕組みや人々の意識などの何がどう変化し、それはどのように評価すべきなのだろうなどと、色々と考えさせられる面があります。

それもまた、現代が良くも悪くも地域や個々人のつながりを分断させる方向にばかり社会インフラの舵を切ってきたことの帰結なのかもしれませんが、養子以外の形も含めて、「跡継ぎ・墓守」などという精神的な負担感を軽減した方法で空家の管理や所有を相応の個人や法人に移譲させる仕組み(空家承継)を検討・試行する機運が高まってくれればと思います。

本日は「震災の日」ですが、数年前に沿岸被災地で多くの方から相談を受けていた頃、養子縁組が絡んだご相談(例えば、遠方在住の養子が弔慰金を受け取ったのに葬儀もお墓の面倒も見ないので憤慨しているといった類のもの)を受ける機会が多くあり、盛岡など内陸部の方からは養子絡みのお話を聞くことがほとんどなかったので、不思議に思ったことがあります。

かつては、沿岸の方が内陸に比べて多産多死(なので養子の必要が生じやすい)社会だったのか、震災のため、そうしたご相談がたまたま多く寄せられただけなのか(実は内陸にも養子は沢山いるのか)、分かりませんが、そうしたことも含めて、学者さんなどに幅広い視野をもって地域社会の実像を解き明かしていただき良質な対策につながってくれればと思っています。

余談ながら、住宅業界に限らず弁護士業界も15年ほど前に、藻谷氏が述べるような「供給を増やせば市場価値も上がるという、市場経済原理とは真逆の、謎の信念」を唱えて増員と法科大学院の導入等を推進(狂奔?)してきた方が多くいましたので、そうした観点からも、現場で様々な苦労や忍耐に直面せざるを得ない身としては、色々と考えさせられる対談だと思います。

まあ、えせ老骨が価値の暴落ばかり嘆いても仕方ありませんので、せめて、それをバネにして「若い人ばかりという現代日本とは真逆の人口構成になっている弁護士業界」が、上記の問題の対策に関する実働なども含め社会に良質な価値をもたらす原動力になってくれればと願わないこともありません。

マンションの管理組合の理事長が集会決議を経ずに業務委託した場合の紛争

ここしばらく、自宅等で勉強している判例などの紹介ができていなかったので(入力等の作業はそれなりに進んでいますが、紹介文まで作る余力等がありませんでした)、表題の件に関し、久しぶりに1件ご紹介します。

建物区分所有法では、マンションの共用部分の管理に関する事項は管理組合の集会の決議で決する(保存行為は各共有者が行使可)とされています(18条)。

甲マンションのY管理組合の理事長A(規約で管理者と指定されている者)が、平成23年5月に、Yの集会決議のないまま、X社に建物の調査診断等を委託しましたが、Yの臨時総会で契約を白紙に戻すと決議しました。

これに対し、Xは受託業務の完了を理由にYに代金150万弱を請求し提訴し、Aの行為は有効(権限あり)だとか、否としても権限ありと信頼した正当な理由があると主張しました。

これに対し、裁判所は、本件調査委託契約が甲の共用部分の管理に関する事項に該当するので集会決議が必要で、これを欠く行為を管理者Aが行う権限なし(管理者は共用部分等の保存、集会決議実行、規約指定行為の権限しかない。法26条)として、契約を無効と判断し(Xは代表理事の権限を定めた一般社団・財団法人法77ⅣⅤの適用を主張しましたが、退けられています)、Aが権限ありと信じたことにXに過失ありとして、表見代理(民法110条)も否定し、Xの請求を全部棄却しています(東京地裁平成27年7月8日判決判時2281-128)。

私自身はマンションの運営などに関する法的問題のご相談を受けたことはほとんどありませんが、近年はマンション絡みの紛争に関する裁判例が雑誌に掲載されることが増えており、盛岡もマンションが林立していますので、今後は、都会で生じたような様々な問題が、盛岡ないし岩手のマンションでも生じてくることは十分見込まれることだと思います。

マンションの居住者で管理組合の集会への参加はご無沙汰になっているという方は少なくないと思いますが、こうした判決なども参考に、出席して集会の様子などもご覧になっていただいてもよいのではと思います。

契約書によって相手方に弁護士費用を負担させることは可能か

裁判のご依頼や相談を受ける際に、「自分が勝った場合に、自分が(私=受任弁護士に)支払う弁護士費用を、相手方に負担させることができないのか」という趣旨の質問を受けることが珍しくありません。これとは逆に、自分が負けた場合に、相手方が依頼した代理人(弁護士)の費用を自分が負担しなければならないのかという質問もしばしば受けます。

業界人にとっては常識ですが、現在の法制度には「弁護士費用の敗訴者負担制度」が存在しませんので、勝った側も負けた側も、ご自身が依頼する代理人(弁護士)の費用は自己負担というのが原則です。

ただ、不法行為(等)に基づく損害賠償請求については、他の損害(慰謝料、逸失利益など)の合計額の概ね1割相当の額を、加害者が負担すべき弁護士費用として被害者への賠償を命じるのが実務(判決)の通例ですので、その点は、全面的負担ではないとはいえ、一応の例外ということになります。

そのため、契約上のトラブル、例えば、売掛金の請求に関し、不払を続ける債務者に支払を求めるケースなどでは、自己負担を余儀なくされるわけですが、仮に、最初の契約時に、特約で「期限どおりに支払わない場合に、債権回収のため依頼した弁護士費用は、債務者が全面的に負担する」という趣旨の条項を契約書内に設けておけば、債権者は債務者に請求できるのではないかという話が出てくるのではないかと思われます。

この点は、私の知る限り、議論が深まっていない論点で、判例等もほとんど聞いたことがありません。ネットで少し検索しても、「敗訴者負担反対運動」が盛り上がった時期に、一部の弁護士会が、そのような定めを契約書に盛り込むべきでないなどと書いた意見書を公表した話が出てくる程度で、現在の実務の指針になるような解説を見つけることができませんでした。

ただ、先日、マンションの管理組合が管理費等を滞納した区分所有者に請求するにあたり、「弁護士費用を滞納者が負担する」との規約があることを理由に、滞納管理費とは別に、管理組合が依頼した代理人(弁護士)の委任費用を請求し、裁判所がこれを全面的に認めた例というのが掲載されていました(東京高判H26.4.16判時2226-26)。

この件では、未払管理費が約460万円、確定遅損金が約130万円で、それとは別に、管理組合の代理人費用(着手金・報酬金の合計)として100万円強を請求しており、1審は、代理人費用を50万円のみ認めましたが、控訴審は100万円強の全額を認めています。

判決は、規約に基づく「違約金としての弁護士費用」の法的性格について、区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているに過ぎないから、組合側が債権回収にあたり弁護士費用等の自己負担を余儀なくされるのは衡平の観点から問題であり、不払を自ら招いた滞納者が全部負担するのが相当だとして、違約金の性格は違約罰と解し、組合が余儀なくされた費用の全額を滞納者が負担すべきだとしています。

解説によれば、標準管理規約(マンションに関し国交省が作成しているもの)に同趣旨の条項が設けられているとのことですので、この判決の理に従えば、同じ規約を用いている分譲マンションに居住している方は、管理費を滞納した場合、特段の事由がない限り、同様に、管理組合側の代理人費用まで負担しなければならないということになるかもしれません。

特に、この判決をなさった方が、弁護士費用をはじめ弁護士を巡る法律問題の泰斗とされている加藤新太郎判事なので、業界内での影響がありそうな気がします。

ところで、このように、規約に定めていれば弁護士費用を請求できるという判決が存在する以上、これはマンション限定と解釈しなければならない理由はなく、売買や請負(業務委託)、賃貸借など、他の契約でも、同様の特約を設けておけば、同様に契約に基づく代金や賃料等の支払を怠った側に請求をする際、弁護士費用を付して請求することができる可能性は十分にありうると思われます(判決はもちろん解説でも触れられていませんが)。

ただ、上記のように、「当然の義務を履行しない者のため、債権者が経費負担を余儀なくされるのが不当だという当事者の衡平」を重視するのであれば、議論の余地のない債務(一般的な賃料や、売掛金等の債権内容に争いがない場合)なら、債務者に負担させる特約が有効になりそうですが、相応の理由があって支払拒否に及ぶ場合などは、債務者に負担させることができないと判断される可能性があるかもしれません。

また、とりわけ事業者と消費者との契約に関しては、現時点では、そのような特約が消費者契約法違反として無効となる可能性は少なくないのではないかとも思われます。

ともあれ、経験上、支払義務に争いのない売掛金(特に、中小企業間の取引)について正当な理由のない支払拒否についてのご相談も多く接していますので、そうしたものについては、上記の判決の考え方からすれば、回収のため依頼した弁護士の費用を相手方(債務者)に請求する特約が有効と認められる可能性は大きいのではと思われます。

ですので、とりわけ、取引先からの売掛金の回収に日々苦労なさっている中小企業の方々などにおかれては、受注段階で適切な契約書を作成すると共に、正当な理由のない支払拒否のため弁護士への依頼を余儀なくされた場合には、その経費は債務者が負担する旨の特約を盛り込んでおくことを、強くお勧めしたいところです。

また、現在の我が国では非現実的かもしれませんが、将来的には、婚姻時に、「不貞など有責行為をしたため離婚を余儀なくされた場合には、財産分与その他の関連手続を含め、弁護士費用はすべて有責配偶者の負担とする」などという契約を締結し、離婚時に、その有効性や射程距離を法廷で争うようなご夫婦も登場するかもしれません。

ともあれ、この論点(契約に基づく弁護士費用の債務者負担やその程度)に関する議論(ひいては論点の知名度)がもっと深まってくれればと感じています。

 

不動産売買における説明義務、情報提供義務(論文紹介)

判例タイムズ1395号に掲載されている裁判官による論文です。

不動産の売買に関して、購入後に不測の損害を被った買主が、売主や仲介業者に対し、「買主に不利益となる情報について説明すべき義務があったのに、それを説明しない義務違反行為がある」と主張し損害賠償や契約解除を求めるなどして紛争になった様々な事案を紹介しており、それを通じて、裁判所の判断の傾向を明らかにすることを目的とした内容となっています。

紛争の類型に関しては、例えば、眺望系(マンション購入後に期待した眺望が得られなかった例)、不法投棄・土壌汚染系(購入地の地下に不法投棄等が判明した例)、土地の利用に様々な制限があることが判明し購入目的(特定の建物の建築等)が実現できなくなった例など、多岐に亘っています。

判例を紛争類型ごとに整理すれば、この種の論点に関し相当に知識、理解が深まることは間違いなく、この種の問題に直面し易い地元の不動産業者の方向けの勉強会の講師などをお引き受けする機会でもあれば、そうした作業をする意欲も湧きますので、どなたかお声をかけていただければ幸いです。

 

区画整理の対象となった土地の売買に関し瑕疵担保責任の成否が問われた判例

区画整理事業施行地区内の土地を購入した買主が、売買当時には賦課金の支払義務がなかったのに、売買後に組合から賦課金を課された場合に、当該義務の可能性を伴うことが土地の「瑕疵」にあたると主張し売主に賠償請求したものの、瑕疵とは言えないとして、請求を棄却した例(最判H25.3.22判タ1389-91)です。

判決では、区画整理組合の総代会が賦課金を課す決議をしたのは、本件売買後に開始された保留地の分譲が芳しくなかったためで、売買当時に組合において組合員に賦課金を課すことが具体的に予定されていたとは全く窺われないこと、決議が売買から数年も経過後であることから、売買当時に賦課金が課される可能性は一般的・抽象的なものに止まっており、それは当該土地の売買には常に存在していることに照らし、「売買当時、賦課金を課される可能性があったこと」は、土地の「瑕疵」にあたらないとしています。

私の知る限り、岩手の被災地では、まだ区画整理に絡んで訴訟が起きておらず、被災地以外の土地でも区画整理に関する訴訟というものをほとんど聞くことがありませんが、少なくとも被災地絡みでは、今後の成り行き次第で紛争が多発する可能性もあり、その際に改めて参照する必要が生じるかもしれません。

解説では、不動産の購入後に隣地に生活環境を悪化させる施設が建設された場合の瑕疵担保責任の当否に関する前例などが紹介されており、その点でも参考になりそうです。