北奥法律事務所

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自転車のヘルメット未着用に伴う過失相殺の相場観と各人の役割

本日のモーニングショーで、自転車のヘルメット着用の努力義務化が取り上げられており、交通事故に詳しいという弁護士さんの「過失相殺の可能性あり、最大で2割」とのフリップが表示され、玉川さんがそれに同調する形で、ヘルメットは義務化すべきだ!と高らかに仰っていました。

が、膨大な交通事故事案に従事してきた弁護士として、この「弁護士さんのコメント」が一人歩きすることに疑義を感じざるを得ません。

ヘルメットの着用は、要するに、被害者が事故に遭った際に自身に生じる被害を軽減するための措置であり、シートベルト着用に類するものと言えます。

この点、被害者がシートベルト不着用という事案は昔からあり(近時はほとんど聞かなくなりましたが)私が東京時代に経験した例も含め、多くの事案では過失割合を1割とし、特殊な事情があれば増減させるのが通例と認識しています(さきほどWeb検索しましたが、他の弁護士さん達も裁判例を引用するなどして同様の認識を示しています)。

シートベルトの着用は道路交通法上の義務であり、上記の議論も、当時から明確に義務化されていた運転席や助手席の不着用を前提とした議論で間違いないはずです。

よって、法律上の義務を遵守していなかった場合でさえ原則1割の過失相殺とされているのに、現時点で努力義務に止まるヘルメット不着用が、それ(1割)を超える過失相殺を裁判所が認めるはずもなく、一般的な自転車でごく通常の走行態様であったのなら、現時点ではゼロ割とする可能性も高いと思います(せいぜい5%ではないか、というのが私の感覚です)。

というわけで、この番組に便乗して加害者損保から過大な割合を主張された被害者の方は、ぜひ当事務所までご相談下さい(笑?)。

また、任意保険の被保険者であれば、2割(最大4割?)程度までなら、過失相殺部分は人身傷害補償保険で大半がカバーされるはずですので、その点もご留意・ご安心下さい。

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ただ、何年も前から通常とは異なる事故リスクが指摘され現にヘルメット着用が当然視されているツーリング等に用いるスポーツタイプの自転車や、転倒時の被害等が大きくなりやすい電気自動車なら、通常とは異なる防護義務(損害拡大防止義務)が認められるべきとして、1~2割の過失相殺もありうるとは思います。

そもそも、それらの自転車については、現時点で基本的に着用を義務化しても国民から不満の声はあがらないと思いますし。

私は現時点でヘルメット着用の必要性をほとんど感じておらず、少なくとも強制は望ましくないと感じている立場ですが(高齢等になれば必要と感じるのでしょう)、どうしても義務化させたいというのなら、自転車の類型や事故態様・年齢など様々な要素に即して現在の実情(事故リスクや着用の必要性)について実証的な議論を行った上で、国民の判断を求めていただきたいです。

でないと憲法訴訟になるでしょうし、それだけに、権力抑止的なスタンスの?玉川さんが義務ありきと声高に仰るのには少し残念な感じもします。

というわけで、法律が絡む話題を取り上げるときは、さりげなくでも構いませんので実情に即した丁寧な説明をしていただきたいなぁと思いますし、こうした番組展開を見ていると、「ジャニーズ会見の件をワイドショーが無視するのは間違いじゃないか(そちら=性被害問題を真剣に取り上げるべきでは)」という2nnの記事に共感せざるを得ないと思ってしまいます。

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以上の内容をFBで投稿したところ、他の方から「自転車の運転を免許制にして欲しい、危険運転を処罰して欲しい」とのコメントをいただきました。

自転車一律の免許制は難しいと思いますが、走行態様規制などに関しては、処罰云々はさておき、県や市で地域ごとのルールを条例で決めることが、ある程度、自由にできてよいのではと思われます。

有志の皆さんで議論いただき、今度の県市双方の首長選や県市議選などで候補者の方々に働きかけていただければ幸いです。

大雪に伴う交通事故の解決のために

ここ最近、盛岡及び岩手県内は大雪に見舞われ、それに伴い残念な事故も幾つか発生しているものと思われますが、私がここ数年内に扱った案件でも、大雪の影響で生じた交通事故の賠償問題は何件かありました。

例えば、大雪の影響で幅員が通常より狭くなった道路での車両同士のすれ違い時に生じたミラー接触事故で、どちらが悪い(はみ出した)のか争いになり(信号対決ならぬセンターオーバー対決事案)、当方でお引き受けして色々と調べ、先方側のはみ出しと認定される可能性が高い証拠を得たところ、先方が降参して解決した事件もありました。

既に多くの方が弁護士費用特約付きの任意保険に加入されているかと思いますが、遭遇の確率の高い小規模な事故(大雪の日には生じやすいです)ほど、費用特約に加入していなければ、費用対効果の点で事実上、被害回復を断念(いわゆる泣き寝入り)せざるを得ない事態になりやすいと思います。

未だに費用特約の対応のない任意保険(共済)も存在しているようですが、安全運転もさることながら、ご家族を含む万一の備えに、任意保険と費用特約の加入を各々ぬかりなく対応いただければと思います。

近年では、弁護士費用特約の普及もあり、事故後間もない時点でご相談・ご依頼を受けることが多くなっています。

業務実績欄などに表示のとおり、当方は長期に亘り膨大な数の交通事故事案の解決実績がありますので、万一の際は、当事務所へお問い合わせいただければ幸いです。

また、交通事故(の費用特約・慰謝料など)に限らず、法律実務に関する身近な知識で、事前に知っておけば良かったと後で後悔しやすい話は昔も今も色々とあります。

地域の何らかの会合・団体さんなどで、講師のお話などお声がけいただければ、事故のほか債務整理とか婚姻費用など、ネタを整理してみたいと思いますので、ぜひご検討下さい。

物損事故に関する賠償問題の実情と任意保険の義務化の必要性

半年前の話で恐縮ですが、モーニングショーで、「幹線道路を直進する車両と路外施設から進入した車両との衝突事故における賠償問題」を取り上げおり、この種の事柄は当方も日常的に取り扱っているため、興味深く拝見しました。

で、ドライブレコーダー搭載や弁護士費用特約の加入の必要性が強調されていましたが、見落とされている問題が二つあると思っています。

まず、この事故は加害者も任意保険に加入していたため確定した賠償額の支払が得られたようですが、現実には、加害者が任意保険に加入しておらず賠償金の回収が著しく困難になっている案件が少なくありません。

当方も、様々な手法を駆使して回収に至った案件もありますが、それが奏功せず関係者と困難な訴訟を闘うなどして非常に難儀し、1円の回収の目処すら立っていない案件もあるのが実情です。

人身被害には「せめてもの填補」として人身傷害補償特約がありますが、物損に関しては(自身の保険料増額等を覚悟して)ご自身の車両保険を利用するのでない限り、加害者に回収可能な財産等がなければ、いわゆる「泣き寝入り」になるほかありませんし、それを突き止める手段も、現行法では相当な制約があります(これに関して、現在、塗炭の苦労を強いられているのですが、その件はまたの機会に)。

結論として、自動車(という重大な危険物)を利用する者には、全て任意保険の加入を義務化する立法措置が必要だと思っています。

近年の選挙でも「中身があるのか無いのかよく分からない福祉・ウィルス云々対策」以上に、そうした具体的な被害の回復を抜本的に解決する立法論こそが語られるべきではと思っていますが、そのような議論を全く聞くことがなく、残念です。

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もう一つ、この事例では、様々な交渉の末に「進入車9:直進車1」で決着したとのことですが、番組では「この態様で被害者に過失あるのか?」というものとなっており、裁判所の現在の判断傾向そのものの当否が議論の対象になるのだろうかと一瞬期待しました。

かくいう私自身が、被害者から相談を受けた際、そのように言われることが日常茶飯事だからです。

が、玉川さんが「自分が事故に遭った際、「動いている車同士の事故は(追突などの類型を除き)100:0にはならないと言われた(これは業界で必ず言われる定型文句であり、私も毎回言っています)」と述べたあとは、誰も「被害者がかわいそうだ、裁判所が間違っている、ゼロでいいんじゃないか」などと熱弁を振るう方は誰もいませんでした。

(こうしたときこそ一茂氏の暴走に期待したかったのですが、他局ドラマ好き好き発言だけで終わってしまいました)

交通事故実務における過失割合は、裁判所が公表している基準本が実務を支配しており、これに該当する事故類型はすべてそれに従うことになっていますが、今回の事故のように、「動いている車同士の事故」でも被害者に本当に過失があるのか?と感じる事故は相応にあり、立法論による改善(幹線道路などを走行する直進車の優位性の明文化など?)を含めて、国民的な議論があればと思っています。

本当は、刑事事件より、こうした類型の方が裁判員裁判に馴染むのではとも思わないでもありません(司法委員なる方もおられますが、どこまで実効性があるのかよく分かりません)。

交通事故の保険義務化に関しては、以前に自転車の保険義務化について投稿したことがあり、参考にしていただければ幸いです。

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補足ですが、私の経験上は、任意保険に未加入の方の大半が、年齢層を問わず低所得の方です(だからこそ、岩手には多い)。

そのため、任意保険の義務化は、低所得者等に一定の条件を付して任意保険の加入費を助成等する制度などが不可欠だと思っており、可能なら、ふるさと納税などを財源として導入する自治体があれば、「事故に遭っても余所よりも被害回復がされやすい、暮らしやすい町」としてアピールできるのでは、と思っています。

そういう意味では、国政(法律による義務化)だけでなく地方自治体の施策の問題でもあると思います。

「田舎は自動車が不可欠」と言われるからこそ、自動車保険に加入するのが容易でない方々も含め、万一の際に全員が適切に責任を取ることができるような仕組みを構築することが、地方の社会には求められていると考えます。

ところで、この話を半年前にFBで投稿したところ、同業の先生から「自己破産の依頼者には、生命保険や医療保険は解約を促し、自動車の任意保険は絶対加入すること(無保険で事故を起こすと再度の破産が必要になるが免責されない可能性があること)を促している」とのコメントをいただきました。

非常に重要なアドバイスですが、恥ずかしながら当方の定型的な注意事項書には盛り込んでおらず、さっそく参考にさせていただこうと思いました。

ただ、従前に保険加入をしていない方だと、弁護士が言ったから加入するのかという問題はあり、いっそ、裁判所が免責加入を強力に勧告したり(加入を同廃の事実上の要件とするとか)、立法?で自動車保有者には加入を免責の要件とすることも検討されるべきなのかもしれません。

 

見ず知らずの遠方の弁護士に仕事を頼むリスクと専門性を謳う広告だけによる弁護士選びの怖さ

先般「岩手県内の交通事故の被害で東京のA弁護士に依頼しているが、加害者側損保の言いなりとしか思えないような納得できない対応を受けている」と仰る方の相談を受けました。

要するに、特定の損害の支払を損保側に全面拒否されており、受任弁護士がそれに応じて欲しいという話をしてきたが、それが正しいとは思えないので、私にセカンドオピニオンを聞きたいというものでした。

で、その件では特殊な事情が生じているものの、全面拒否は絶対におかしい、このような考え方をすれば、当方の希望額の全額となるかはともかく、相応の額が認められるべきではないか(それが実務一般の考え方に沿うと思われる)と説明しました。

相談者の方は、A弁護士がインターネットでは「交通事故が専門だ」と標榜していた(検索で上位に出てきた)ので頼むことにした(が、その論点に限らず、残念な対応があった)という趣旨のことを述べていました。

少し調べたところ、確かにそのような標榜をしているものの、かなり若い弁護士さんで、Webで確認できる経歴その他に照らしても、その御仁が業界人としての優位性を喧伝するほどの内実が伴っているのか疑問を感じざるを得ない面もありました。

以前にも、似たような話でブログ記事を書いたことがあり、詳細は書けませんが、色々な意味で今回はこの記事に近い話ではないかと感じると共に、我が業界は病院など他業界と比べても、情報開示・品質保証機能をはじめ色々な意味で制度も利用者の認識なども熟度が低く、ミスマッチや消費者被害的な光景が生じているのではないかと残念に感じました。

まあ、私自身が逆の立場であれこれ言われることのないよう努めるほかありませんが・・

最近、東京など遠方の弁護士に電話と郵便のやりとりのみで事件依頼をする方が珍しくないようですが、残念な展開に至ったという話を聞くこともありますし、容易に会いに行けない遠方の弁護士に依頼しなければならない事件は滅多にあるものではありません。

現状では、途中から代理人たる弁護士の仕事に不満を感じるようになったとしても、相当に業務が進行した時点で解任等を求めるのは様々なリスクがあることは確かです。

それだけに、誰に頼むにせよ、最低でも1回は面談して互いの人となりを把握したり、ご自身が特にこだわっている点をきちんと伝えて見通しの説明を受けたり、多少とも不安に感じる(しっくりこない)点があれば、何人かに面談して最も信頼できる(相性も合う)と感じた弁護士に依頼するなど、最初の段階から適切な工夫を考えていただきたいところです。

また、Webサイトやチラシなどで専門性(他の弁護士と比べた優位性)を謳う宣伝があれば、本当に、ご自身を担当する弁護士がその内実を伴っているのか、サイトの内容は言うに及ばず、最初の面談時などに色々と質問をするなどして、きちんと確認することが望ましいと思います。

交通事故の不正被害者?の油断が裁かれる光景

Y運転の自動車に接触して負傷したXが、左膝打撲・左足捻挫等の傷害で病院や整骨院に半年ほど通院し、Yに慰謝料等として143万円強を請求しました。と、そこまでは、交通事故の実務ではごくありふれた話です。

ところが、その事件では、裁判所は「Xは2週間程度で完治した=その後も通院を続けてYに治療費等を支払わせたのは被害者の誠実申告義務(信義則上の義務)違反だ」と判断し、Xの請求は8万円強しか認めなかったばかりか、「2週間以後にY側でXのため支払った治療費等の合計70万円強を返せ(Yに賠償せよ)」と命じました(広島地判H29.2.28判タ1439-185)。

賠償実務に携わる者からすれば驚愕の判決ですが、裁判所は証拠をもとに、Xが、事故翌日や半月後、3ヶ月後などに自身が所属する草野球チームの投手兼打者として出場し、セーフティバントでダッシュし出塁する等の活躍をしたり3月後もランニングをしていることなどを認定したことを主要な根拠としており、それらの事実からは首肯できる話です。

で、昔であれば、Yが探偵に高額な費用を払って素行調査でもしたのか?ということになりそうですが、判決をよく読むと、今どきやっぱりというか、ご本人がfacebookで、ご活躍ぶりを自ら投稿なさっていたようです。

さすがに、私の「友達」の方のFB投稿に関して、そうした光景を拝見したことはありませんが、投稿にせよ行動にせよ、様々な立場の方が見ているという視点は大切にしていただければと思います。

まあ「投稿で墓穴を掘らないか心配な方は、弁護士と顧問契約してチェックしてもらって下さい」などと余計なことを書いても、「お前自身の投稿は大丈夫なのか」と言われてしまいそうですが・・

ロータリー卓話~交通事故を巡る賠償実務の「きほんのき」~

昨年の話ですが、盛岡北RCの幹事さんから、「明日の卓話の担当者が急なキャンセルになった。すまないが、急遽、引き受けて欲しい」との要請があり、交通事故の賠償実務に関する基礎的な説明をしたことがあります。

RCの卓話は、例会場で20~30分弱の「ミニ講話」を行うものですが、私の場合、弁護士業務に関する話題を取り上げるのを通例としています。

過去に担当した卓話では、①相続、②中小企業の法務(同族間の経営権紛争)、③夫婦(不貞・離婚)に関する話題を取り上げたので、今回は、上記3つを含めた町弁の「主要な取扱業務」の一つである、交通事故(に伴う賠償等の問題)を取り上げることにした次第です。

一晩で準備する必要もあり、過去に多く扱ってきた論点、事項を取り上げることとしましたが、抽象的に話してもつまらないでしょうから、幾つかの論点を含む架空の事故を想定し、それをもとに解説しました。

ここでは、その際に用いた事例(設問)と、解説の項立てのみご紹介することにします。もし、盛岡市内・岩手県内の方で、「交通事故に関する賠償問題の基本について、30分~1時間程度でセミナー等をして欲しい」とのご要望がありましたら、ご遠慮なくお申し出いただければ幸いです。

ちなみに、この少し後に、某損保さんから代理店の方々に向けて、事故被害者の保護に関する対応の基礎や弁護士費用特約の意義についてミニセミナーをして欲しいとのご依頼をいただき、この事例(設問)をアレンジする形で対応させていただいたこともありました。

(事例)
盛岡市内の某ロータリークラブの会員であるX(50歳。会社勤務)は自車を運転してホテルニューウィング前の交差点から開運橋方面に向かって直進しており、開運橋西袂の交差点を通過し盛南大橋方面に向かうつもりであった。

ところが、第2(右)車線を直進して開運橋西袂の交差点を通過中に、反対方向から進行してきたY運転の高級外国車が突如、交差点内でX車めがけて右折してきたため、X車は交差点内でY車との衝突を余儀なくされた。

この事故で、Xは全身に強い打撲傷を負うなどして盛岡市内の病院に1ヶ月ほど入院し、退院後も7ヶ月ほどの通院を余儀なくされた(退院後の実通院日数120日)。また、頸椎捻挫、腰椎捻挫などによる痛みが完治せず、医師から後遺障害診断書の発行を受けており、後遺障害の認定申請を検討している(レントゲンなどでは異状は確認されていない)。

Xの怪我の治療費については、事故直後からYが加入する任意保険A社が対応して支払等を行っているが、事故から半年ほど経過した時点で担当者が「これ以上の通院の必要はないでしょう。今後は通院を続けても治療費を支払いませんよ。」などと言うようになり、やむなく通院継続を断念したなどの事情も生じ、XはAに不信感を抱いていた。

また、X車(平成18年式の国産大衆車)は大きく破損し修理代の見積は150万円にも達しており、やむなく事故直後に廃車を決断せざるを得なかった。

ところで、X自身は青信号の状態で交差点に進入したとの認識であるが、Yは「自分が右折を開始した時点で、すでに赤信号になっていた(ので、X側信号も赤のはずである)」と主張し、Xにも相応の過失があるとして、Yの損害を賠償するようXに要求するようになった。

Yは事故による怪我はなく、Y車(平成2年式)は左端周辺に破損ができた程度の被害に止まっているが、

この車両は高級車であり、被害部分の板金塗装だけでは、他の部分と色合いが違ってしまう。だから、破損部分の修理とは別に、100万円以上をかけて車体全部の塗装を行う必要がある」とか

この車は市場で手に入らないレアもので、愛好者には2000万円で売れるものだ。事故歴が付くと売値が安くなるので、その損害(評価損)として500万円を支払え」とか

これは自分が10年以上乗りこなしている愛車で、これまで一切の破損等がなかったのに、この事故で傷物になったことで精神的に強いショックを受けて眠れない日々を過ごした。相応の慰謝料を払って欲しい」と主張し、Xの勤務先等に押しかけんばかりの気勢を示している。

以上の状況下でXから相談、依頼を受けた弁護士としては、Xの損害の賠償を請求すると共にYからXに対する賠償請求に対処するため、どのようにXに説明し代理人として行動すべきか。

交通事故の裁判で被害者が加害者に謝罪の認識を尋ねるのは異議の対象になるのか?

交通事故に基づく損害賠償請求の裁判に関する当事者双方の尋問の際のことについて、狭義の法律論とは違ったところで、少し考えさせられたことがありましたので、そのことについて書きたいと思います。

その件は、交差点内の直進車(当方=原告)と右折車(先方=被告)の事故で、先方には人身被害がなく当方は神経症状を中心に大怪我を負ったため、当方が訴訟提起したという事案です。

この種の事故態様の過失割合は「2:8」が原則(基本割合)ですが、特殊な事情から当方は過失ゼロ(0:10)だと主張していました。

そして、私の主張立証の賜物かどうかはさておき、裁判官からも幸いに同様の和解勧告を受けていたのですが、先方(被告代理人ないし被告側損保)が基本割合でないとイヤだと拒否したため、判決のため尋問を行うこととなったものです。

で、先に原告本人の尋問を行い、休憩を挟んで被告本人の尋問を行ったのですが、主尋問や尋問までの休憩時間などの際、被告から原告に対しお詫びの言葉(挨拶)をするやりとりが全くなかった(休憩中も被告は自身の代理人と談笑し続けていた)ので、それでいいのだろうか、何か被害者の気持ちが置き去りにされていないだろうかという気持ちが涌き上がり、最後に、「改めて原告に詫びる考えはないのですか」と質問しました。

原告から「被告と会ったのは事故の10日後の双方立会の実況見分の場のみで、その後に接触はない(謝罪等は受けていない)」と聞いたこと、被告自身の主尋問の様子でも殊更に原告に敵意を持っているわけではなく自身の不注意のみを淡々と述べているに止まっていた(そのため過失相殺の主張も加害者本人でなく損保側の方針に過ぎないと感じられた)ことも、そうした質問をすべきではと感じた理由の一つでした。

すると、被告代理人が、間髪入れずに「意見を求める質問だからダメだ」と猛然と異議を述べてきました(尋問のルールを知らない方は民事訴訟規則115条を参照)。

私が「現在の謝罪姿勢の有無も慰謝料の斟酌事由にはなるでしょう」と実務家としては今イチな反論を述べると「そんなことはない」などと強烈に抵抗し、こちらも納得いかないので代理人同士はギャーギャー言い合う非常に険悪な雰囲気になったのですが、裁判官が「言いたくなければ言わなくてもいい」と答えたところ、ごく一般的な(悪く言えば通り一遍の)お詫びの言葉があり、私もそれ以上の質問はせず、そこで終了となりました。

結局、結審後に当方が退席する際も被告が当方を呼び止めて挨拶するということはなく、1年半以上を経て再会した加害者が被害者に対しお詫びの言葉を向けるというやりとりは、その一言だけとなりました。

被告代理人が猛然と異議を述べてきた理由は、被告側が過失相殺を主張しているため、「本人が詫びる=当方の無過失を認めたことになる」というイメージがあったのかもしれません(それとも、単純に異議が好きだとか、私個人に含むところがあったのか等、他の理由の有無は分かりません)。

ただ、被告がその場で原告に対し通り一遍のお詫びの言葉を述べたからといって、そのことで過失の有無や程度が定まるわけではなく、争点との関係では、自分で言うのもなんですが、慰謝料額も含めて判決の結果には影響しない、ほとんど意味の無い質問だと思います(だからこそ、相手方代理人はこの種の尋問は放置するのが通例でしょう)。

それでも質問せずにはいられないと思ったのは、1年半以上を経て久しぶりに会った加害者が、長期の入通院などの相応に深刻な損害を与えた被害者に対し、一言のお詫びもする場のないまま法廷(参集の機会)が終わって良いのか、それは、裁判云々以前に人として間違っているのではないか?という気持ちが昂ぶったからでした。

もちろん、私も殊更に被告を糾弾したかったわけではなく、たとえ通り一遍のものでもお詫びの言葉があれば、それだけで被害者としては救われた気持ちになるのではないか(そうした質問を被告や原告の代理人が行って謝罪の場を設けるのは、地味ながらも一種の修復的司法の営みというべきではないのか)という考えに基づくものです。

とりわけ、少なくとも刑事法廷であれば、(通常は被害者が在廷していませんが)加害者=被告人が被害者への謝罪を述べるでしょうから、なおのこと被害者が在廷する場で加害者が一切のお詫びを述べないというのは異様としか思えません(私が加害者代理人なら主尋問の最後に謝罪の認識を簡潔に求める質問をすると思います)。

だからこそ、「謝る気持ちはないのですか(その気持ちがあれば、簡単でも構わないので一言述べて欲しい)」という質問に被告代理人が最初から強硬に拒否的態度を示してきたことに、私としては、加害者代理人が加害者本人に謝るなと言いたいのか?それって人として間違っていないか?と、思わざるを得ませんでした。

もちろん、そうした事柄で糾弾ありきの執拗な質問になった場合は異議の対象になることは当然だと思いますが、私の質問がそのようなものでなかったことは前述のとおりです。

被告代理人としては、ご自身の立場・職責を全うしたということになるのかもしれませんが、東京の修業時代に加害者代理人(某共済の顧問事務所)として多くの事案に携わっていた際、尊敬する先輩に「被害者救済と適正な損害算定のあるべき姿を踏まえて、よりよい負け方をするのが加害者代理人の仕事の仕方だ」と教えられて育った身としては、本件のような「当事者同士は敵対的・感情的な姿勢は示しておらず損保の立場などからこじれたタイプの事件」で被告代理人から上記のような対応があったことに、いささか残念な思いを禁じ得ませんでした。

ともあれ、華々しい法廷技術は優れた弁護士さんに及ばないかもしれませんが、今後も、代理人としての職責をわきまえつつ、そうした地味なところで当事者や事件のあるべき解決の姿について気遣いのできる実務家でありたいと思っています。

ちなみに、その裁判(1審)では尋問後も被告側が和解案を拒否して判決となり、和解案と同じく当方の過失をゼロとし認容額も和解勧告より若干の上乗せになっていました。

主婦の年収に関する裁判実務(交通事故など)の考え方とその将来

「専業主婦の妥当な年収が幾らか」というアンケート記事がネットで取り上げられており、男性の回答の1位が「ゼロ円」などという、兼業主夫として激務に勤しむ私に言わせれば、情けないと言いたくなる結果が取り上げられていました。
http://woman.mynavi.jp/article/160513-6/

この問いに対する答えは、個人の信条のほかご家庭の状況等に応じて様々な考え方があるでしょうが、裁判実務では「専業主婦が事故の被害者になった場合の休業損害や逸失利益の算定の基礎」としての「年収」は、賃金センサスの女子労働者の全年齢平均の賃金額(産業計・企業規模計・学歴計)とするのが通例(多数派)とされ、平成26年の統計では364万円強となっています(交通事故で弁護士が用いる算定表に記載された数値です)。

なお、平成26年の男性は480万円弱であり、平成21年比で女性は約15万円、男性は約10万円増加しています。

ちなみに、賃金センサス(平均賃金)に満たない少額の収入のある「兼業主婦」も賃金センサスで計算し、「専業主夫」も女子の賃金センサスで計算するのが通例とされています。

このように賠償額算定における基礎収入の場面で「主婦=平均賃金」とする考え方は、昭和49年や50年の最高裁の判決に基づくとされています。

他の従事者(賃金労働者・自営業者など)が、賃金センサスを下回る年収しか得ていない場合には、その実収入により休業損害等を計算するのが通例ですので(実収入がある人は、それに基づき算出するのが本則とされ、賃金センサスを考慮する方が例外的と言えます)、それとの比較で言えば、主婦(夫)ひいては被害者たる主婦(夫)のいる世帯を優遇する考え方という面があると言えます。

そうした意味では、税制における配偶者控除と少し似ているのかもしれません。

ただ、一億層中流社会と言われ、「企業勤務の夫と専業主婦の妻、子供は概ね2人の核家族」が当たり前とされた、これまでの日本社会では、「主婦」を一括りにして賃金センサスで計算することについて違和感なく受け止められてきたと思いますが、専業主婦の割合が低下し共働きが当たり前になっているほか非婚者も激増し、さらには一億層中流幻想が崩壊し格差が広がる一方と目されている現代の社会で、裁判所がこの考え方を今後も維持していくのか、やがて何らかの形で変容されることがあるのか、興味深く感じます(民法だけでなく憲法のセンスも関わる問題だと思います)。

そのような意味では、引用の記事に対して「賃金センサスのことに触れないなんて不勉強だ」などと軽々に批判することもできないのかもしれません。

近時の交通事故事件に関する取扱や実績と営業活動の今昔

ここしばらく普段取り扱う仕事に関する投稿をしていませんでしたので、たまには触れてみたいと思います。

債務整理のご依頼がめっきり少なくなる一方で、今もコンスタントに一定のご依頼をいただいている分野の筆頭格が交通事故であり、基本的には被害者側でお引き受けするのが中心となっています(お世話になっている損保会社さんがあるため、加害者側での受任も若干はあります)。

5年以上前に比べてご依頼の件数が多くなっているのは、ネットでアクセスいただく方が年に何人かおられるということもありますが、弁護士費用特約の普及という面が大きいことは確かだと思います。

私の場合、平成12年に東京で就職した事務所が、タクシー共済(タクシーの事故の賠償問題に対応する共済)の顧問事務所だったので、独立までの4年半は概ね常時10件前後の事件に従事していたほか、岩手での開業後は主に被害者側の立場で様々な交通事故の事件を扱ってきました。

ですので、交通事故なら自分が岩手で一番などと虚偽?の吹聴をすることはできませんが、様々な事案・類型の取扱経験の質量という点では、この世代の弁護士としては有数といって良いのではと自負しているつもりです。

以前は、死亡事故や後遺症認定1~3級などの重度障害に関する事案も何度か取り扱いましたが、ここ1、2年はご縁がなく、神経症状が中心で治癒又は後遺障害が非該当のものや物損のみの事故が多く、14級や12級の事案が幾つか存するという程度です。

それでも、人身事故に関しては、加害者側の損保会社が最初に提示した額の倍以上(時に3倍くらい)で解決(示談又は訴訟上の和解)する例が珍しくありません。後遺障害が関係すると、その差は数百万円にも上ることがあり、昨年末に裁判所で和解勧告がなされた例や、先週に示談(訴訟前の交渉)で決着した事案なども、そのような形で解決しています。

どの段階で弁護士に依頼するのが賢明かは一概には言えず、損保側の提示が出た段階で十分という例も多いとは感じていますが、やはり、提示がなされた段階で、一旦は、相応に交通事故実務の知見等を有する弁護士に相談なさった方がよいと思います。

特に、介護問題が伴う重度事案などでは、損害項目が多様・複雑になりやすいので、ご自身でも今後どのような出費等(損害)が生じるかご検討の上、相談先の弁護士がそれに応えるだけの十分な知見を有するかも見極めて、依頼先を選定いただくのが賢明でないかと思います。

その意味では、最近は事故直後からご依頼を希望されるケースも増えてきてはいるのですが、損保の提示がなされた時点で、複数の弁護士に損害の見積と説明を求めた上で依頼先を決めるというのも賢明な対応ではないかと考えています。

交通事故は、重篤後遺障害の事案でなくとも、被害者にとっては「鉄の塊に激しく衝突され、あと少し違っていれば、もっと深刻な被害があり得た」という強い被害者意識(トラウマ)を持ちやすく、加害者や損保会社に対して、強い不満感を抱いたり、相手方に邪悪な加害的意図があるかのように感じてしまう例も時にみられます。

そのように「強い不信感を抱かざるを得ないので加害者側と接点を持つことが気持ちの問題として苦しい」という方が、事故後間もない段階からご依頼を希望するというケースが多いように感じています。

この点は、相手に迎合する必要はないにせよ、相手の「立場」を見極めた方が賢明な場合があります。加害者本人は「高い保険料を払って任意保険を契約しているのだから、こうしたときこそ保険会社にきちんと対応して欲しい」と思うことが多いでしょうし、加害者の損保側も「少しでも賠償金を減額させ、そのことで自社の収益もさることながら加入者全体の保険料を抑制させたい」という立場的な事情に基づいて交渉しているのでしょうから、「先方は先方なりの立場がある」と割り切った上で、感情的にならず先方の対応に誤りがあれば淡々と正すような姿勢を大事にしていただければと思っています。

一般論として、弁護士が代理人として前面に登場した時点で、相手方が身構える(一種の戦闘モードになり警戒レベルが格段に上がる)面はありますし、ご本人が強く申し入れることで、時に法律上はあり得ない有利な条件が示されることもあるように感じますので、ある程度の段階までは弁護士が相談等の形で後方支援し、「ご本人が相対しているからこそ得られる譲歩や情報」が概ね得られた時点で代理人が登場するというのも時には賢明なやり方ではないかと感じることもあります。

結局は、当事者(被害者・加害者・損保担当者)の個性や被害の状況などに応じて異なってくるはずで、一義的な正解がないことが多いでしょうから、今後も悩みながらご相談やご依頼に誠実に相対していきたいと思っています。

余談ながら、先日、あるベテランの先生とお話をしていた際、「昔、交通事故の記事が出ると、記事に表示されていた住所をもとに手紙を送って自分への依頼を働きかけていた弁護士がいた。今も登録しているが老齢のため現在もそのようなことをしているかは分からない」とのお話を伺いました。

私の認識では、事故で被害を受けた方に弁護士がダイレクトメールを送付して勧誘するのは、いわゆる「アンビュランスチェイサー」として昔から弁護士倫理(弁護士職務基本規程)で禁止されている(規程10条、日弁連解説書21頁)と考えていますが、その「年配の弁護士の方」がそうしたことを本当に行っていたのか、行っていたとして、弁護士会などは知っていたのか(黙認していたのか)等、あれこれ考えてしまうところはあります。

詰まるところ、弁護士が少なく司法サービスが県民に行き届いていなかった時代では、そうしたことも黙認されていたのかもしれませんが、現時点ではアウトとして懲戒などの対象になる可能性が高いとは思います。

「岩手日報に重大な被害記事が出た途端に、県内どころか全国の弁護士達からDMが殺到する」などという類の事態は論外というべきですが、被害者の方が適切な形で弁護士のサービスにアクセスでき合理的な選択権も行使できるような実務慣行・文化も形成されるべきことは申すまでもありません。

現在ネットで氾濫する在京弁護士や実体も明らかでない団体等の宣伝サイトの類ではなく、法教育的なことも含め、より良質な「リーガルサービスに関する情報提供のあり方」について関係者の尽力を期待したいものです。

保険金請求訴訟とモラルリスク

お世話になっている損保会社さんから、事故に伴う保険金請求の相談を受けている事案で、「故意による事故(自殺・自死など)の疑いがあるので、調査会社が調べた事実関係などを分析して、保険金請求の当否について意見書を提出して欲しい」と要請され、作成して提出したことがあります。

保険金請求を巡っては、被保険者・契約者・受取人などが意図的に保険金支払事由となる事故を生じさせた疑いがある事案(モラルリスク事案)の発生が避けられず、その主張立証責任に関する争いなども含めて、多数の判例等が生じています。

この点については、昨年に判例タイムズ1397号などに掲載された「保険金請求をめぐる諸問題(上・下)」が大いに参考になります。

この論考では、①傷害保険、②生命保険、③火災保険、④自動車保険の4類型について、最高裁判例などに基づく主張立証責任の構造が明らかにされた上で、多数の裁判例などをもとに、保険金請求の当否に関する考慮要素及びそれらに関する裁判所の考え方などが述べられ、現在のところ、基本文献と言ってよいのではないかと思います。

少し具体的に述べると、傷害保険については、偶然性など(偶然な外来の事故)について、保険金の請求者に主張立証責任があるとされ(但し、立証責任の軽減の問題はあります)、それ以外の保険類型では、請求者は保険事故の存在等を明らかにすれば良く、保険会社側が、故意重過失などの免責事由を主張立証しなければならないとされています。

傷害保険に関しては、自動車保険契約に付帯する人身傷害補償特約の保険金給付の当否を巡って問題となった裁判例が幾つか公表されています。

そして、「偶然性」や「故意・重過失」など、モラルリスク事案における保険金請求の当否に関する判断は、次の4項目を総合的に検討し判断すべきものとされています。

①事故の客観的状況(運転方法の異常性をはじめ事故態様などに偶発性を疑わせるだけの要素がどれだけ備わっているか、自殺の手段として合理性があるか、自殺以外の事故原因が指摘・説明できるか等)、

②被保険者等の動機、属性等(借金などの経済状態、疾病、精神状態、家庭状況など)、

③被保険者等の事故前後の言動等(事故直前の普段と異なる不審な行動や事故現場への不自然な接触、自殺等を仄めかす言動の有無等)、

④保険契約に関する事情(締結の経緯、時期や契約内容等にに関する不自然な事情の有無)

保険金を請求する側であれ、される側(保険会社)であれ、保険金請求の当否が問題となっている事案では、詳細な事実関係の調査がなされることを前提に、弁護士が過去の裁判例などを踏まえた適切な分析をすることで、よりよい解決を図ることができるケースが多数あるのではないかと思われます。

膨大な事実関係を丹念に検討するのが「地味で地道な仕事ぶりだけが取り柄?の町弁の持ち味」だと思っていますので、そうした事案に直面した方は、どちらの立場であれ当事務所にご相談いただければ幸いです。