北奥法律事務所

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夫婦(離婚・慰謝料・財産分与など)

「義・支援金が家庭を壊す光景」と養育費不払問題の完全解決策としての「給与分割」提唱の辞

先日、弁政連岩手支部の企画で、年に1回ほど行っている岩手の県議会議員さん方と地元弁護士らとの懇談会に参加してきました。

今年は、例年どおり、震災絡み(被災者・被災地が直面する各種の法律問題)がメインテーマとなったほか、法テラス特例法の延長問題、成年後見制度への行政支援の強化(市町村申立やいわゆる市民後見人の育成など)、離婚等に伴い女性・子供が直面している法律問題の紹介(を通じた議会への支援要請)といったことが取り上げられました。

2年ほど前から釜石の「日弁連ひまわり事務所」に赴任している加藤先生から、被災地の弁護士に多く寄せられている相談・依頼の例に関する紹介があったのですが、その中で、「義援金・支援金の受領に関し、直接の受給者=世帯主が受領金を独占するなどして家族内で不和・紛争が生じている」との紹介がありました。

この問題は、私が震災直後の時期(2年ほど)に最も多く相談を受けた類型で、「いっそ不当利得返還請求訴訟をしたらどうですか(弁護士への依頼が費用対効果的に問題があるなら、本人訴訟用の書面作成くらいならやりますよ)」と説明していたこともあっただけに(残念ながら、結局ご依頼は一度もありませんでしたが)、懐かしく感じて、私も珍しく挙手して補足発言をさせていただきました。

改めて感じたのは、この問題は、誤解を恐れずに言えば「以前から不和の種があった不穏な家庭に役所が不公平な態様でお金を渡すことで、油を蒔いて点火させ、その家庭を役所がぶっ壊した」と言っても過言ではないのではということであり、だからこそ、行政は受給者に広くアンケート調査をして「貰って有り難かった人・家庭」もいれば、「そんなカネが配られたことで、かえって悲惨な事態になった人・家庭」もいるのではないかという現実を、きちんと把握、総括し、そうした「現金給付政策」の当否ないしあり方について検討すべき責任があるのではないかと考えます。

ご承知のとおり、現在の給付制度のあり方(世帯主給付)に対しては、世帯主ではなく個人単位にすべき(世帯主給付にしたいなら全員の同意書を要請し、それが得られなければ個人給付にするとか、世帯主を窓口にするにせよ給付の利益は各人が有する旨を制度で明示するなど)といったことを、日弁連など?が提言しています。

そうしたことの当否を明らかにする意味でも、今こそ(すでに時を失した感はありますが)、被災地住民を対象とする大規模調査が行われるべきではないかと声を大にして述べたいです。

ちなみに、今年の2月の弁政連懇談会について触れたブログでも、この件について取り上げていますので、関心のある方はぜひご覧ください。

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ところで、県議さんとの懇談の際、S先生から養育費の不払問題について詳細な報告がなされていたのですが、それを聞いているうちに、いっそ給与についても、年金分割のように「義務者を介さない受給者への直接給付制度(給与分割制度)」を作るべきでは?と思いました。

すなわち、義務者の勤務先が、「養育費の権利者(親権者又は子の名義)」の口座に直接に支払う制度を作れば、給与の全額を受領した義務者による不払という問題は根本的に解決されることになります。

こんな簡単で抜本的なことを誰も言い出さなかったのだろうかと不思議に思ってネット検索してみても、その種の提言を見つけることはできず、FBで少し聞いてみたところ、給与分割ではないものの、日弁連が「国による養育費の立替(と不払者への国からの求償)」の制度を提言していたとの紹介を受けました(私も過去に読んだ記憶があり、すっかり忘れていました)。

ただ、日弁連意見書の理念に反対する考えはないのですが、「立替制度」だと財源をはじめ導入に必要な作業・工程が多そうですので、給与分割方式の方が手っ取り早く導入できそうな気がします。

さらに言えば、国の立替方式は、実質的には国が育児費用を給付する性質を帯びることから、「子を育てるのは誰か」という家族観ひいては憲法観の問題に関わりそうで、その点でも、議論百出=導入できたとしても時間がかかるのではと感じます(議論そのものは盛んになるべきだと思ってますが)。

私が考える「養育費等の支払のための給与分割制度」は次のようなものです。

①まず、子のいる夫婦の協議離婚については、親権者の指定をするのと同様に、原則として養育費の合意が必要とし(紛糾すれば調停・訴訟により解決)、合意した額を、家庭裁判所の認証(これがないと不相当な額になるため。なお、認証作業は裁判所から指定された弁護士が行う等できるものとすれば業界的にはグッド)のもと、離婚届に記載する(調停離婚等ならその届出時に調書等を添えて養育費の額も役所に申告する)

②その届出を受けた役所が、マイナンバー制度を通じて?義務者の勤務先に通知→勤務先は、義務者の給与から養育費相当額を天引して権利者の指定口座に直接に送金する(但し、分割は義務ではなく、権利者の同意があれば直接送金や供託等の処理も可能とする)、

婚姻費用についても、同意又は審判に基づき定めた額を対象とする給与分割を実施できるものとする(役所に届出→マイナンバー等(社会保険等)を通じて?勤務先への通知)。

これにより養育費等の不払問題は根底から解決するでしょうから、日弁連(子ども関連委員会?)がこれを提唱しないのは怠慢の極みでは?と思わないでもありません。

マイナンバー制度の導入に伴って、離婚等に伴う給与や退職金の分割制度もやろうと思えば確実にできるのではないかと思っているのですが、マイナンバーそのものに否定的?な日弁連に旗振りを期待するのは無理なのかもしれません。

ただ、この制度が実現すれば、高金利引下げと同様にまた一つ弁護士の仕事分野(養育費債権回収)が無くなるわけで、町弁の皆さんますます貧困~♪(ラップ調に)と思わないでもありません。

なお、こうした制度に反対する方(養育費の支払確保の必要を前提としつつ給与分割という方法自体に反対する方)がどのような反論をするかと想定した場合、その根拠として、①給与天引制度が作られると、離婚や別居の事実を無関係の第三者(職場関係者)に知られることになる(情報漏れ等を含むプライバシー問題)と、②天引制度を通じて特定人(養育費等の義務者)の諸情報(勤務先から離婚等の事実・養育費等の額まで)を国が一元的に把握・管理することへの不安(ソフトな情報管理・監視社会への恐怖)の2点が挙げられるのではないかと思っています。

①については、天引ありきでなく、権利者が同意すれば(或いは義務者の申立に正当な理由があるとして裁判所の許可を得ることができれば)天引をせずに自主支払とすることができる(のでプライバシーOK)とした上で、不払等の不誠実事由があれば権利者はいつでも天引の導入を役所に要請できる(申立も簡易な手続でOK)とすれば、きちんと履行する真面目な義務者に不利益を課さずに済む(不誠実な義務者に即時の措置を打てる)ので、それで対処可能と考えます。

これに対し、②については、まさに価値判断の問題で、そうした管理社会的な流れを危惧する(ので住基ネットやマイナンバー等に反対する)方の心情も理解できるだけに、悩ましいところだと思います。

ただ、なんと言っても、「自分では権利主張(確保手段を講じること)が困難な子供の権利・利益を守ること」こそが大鉄則であることは明らかでしょうから、それを前提に、ドラスティックな制度の弊害の緩和なども考えながら、世論の喚起や理解を得る努力を図っていくべきなのでは(少なくとも、当然に支払われるべきものに執行の諸負担を負わせるのは絶対に間違っている)というのが、とりあえずの結論です。

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ところで、今回のブログで取り上げた二つのテーマ(義・支援金の内部紛争と養育費等)は、一見すると無関係のように見えますが、家庭の内部紛争という点では同じです(前者は行政から支給されるもの、後者は家庭内の扶養義務者が支払うべきものという違いはありますが)。

日弁連などは、ともすれば公権力に対し社会的弱者に救済のための公金を拠出せよということばかり強調しがちですが、財政難云々で税金から巨額の拠出を求めることのハードルの高さ(時に不適切さ)が強調される昨今では、それ以上に、「税金に頼らずとも「民」の内部で解決できる仕組み」や民間=家庭の内部の意識等の質を高める仕組み、ひいては法やその担い手(弁護士)がそのことに、どのように関わっていくか(役立つか)という視点を中心に、制度のあり方を考えていただくことも必要ではないかと感じています。

そもそも、「国にあれしてくれ、これしてくれ」とばかり主張するに過ぎないのなら、およそ国民主権の精神に反する(国に何かをしてくれと求めるよりも、自分が国・社会・周囲の人々のため何ができるか、すべきかを考え実践するのが主権者のあるべき姿ではないのか)と思いますし。

余談ながら、今回の弁政連の「県議さん達との懇親会(宴会)」も前回と同様、当家は家族の都合が第一ということで、私は帰宅せざるを得ませんでした。

まあ、当方の営業実績は昨年の今頃と同じく試練の真っ只中ですので、金持ちでもないのに交際費を拠出しなくて済んだと思わないでもありませんが、「私の祖父は県議だったんですよ~」と親近感をアピールして県議さん達を相手にヘコヘコと営業活動に勤しむ・・などという野望?はいつになることやらです。

まあ、上記の発言は、「でも、そのせいで実家の商売は潰れかけたので、政治は御法度というのが家訓なんですけどね」というオチがありますので、県議さん達に話しても嫌な顔をされるだけでしょうけど・・

男女間の様々な法的紛争に関するミニ講義とその意義

昨日は、盛岡JCの先輩で、地域のご婦人方のネットワークを構築して様々なイベントなどの事業を行っているTさんのお誘いで、Tさんが主宰するグループの会員である十数名のご婦人方を対象に、男女に関する様々な法律問題(離婚、不貞、その他の男女間紛争、子を巡る問題など)について、「男と女と家族の事件簿」との演題で、お話をさせていただきました。

過去にご相談等を受けた例や業界内で著名な裁判例をもとに「大家族のメンバー全員に、不和や不倫、子の奪い合い、婚姻外の交際破綻など次々に紛争が発生する」という、昼ドラ好きの方々のニーズに合致しそうな?架空の事例を考えて、それをもとに色々と論点をご説明しましたが、盛り沢山すぎて時間が足りず、論点の大半を超特急で済ませてしまいました。

他方、最後のフリートーク(近時の芸能人の事件絡みなど)がやっぱり一番盛り上がったので、いっそ何も準備しないで30分以上のフリートークにした方が良かったかも・・と、少し思いました。

男女や親子、相続など、ご家庭に関するトラブルの解決や紛争の予防のためのご相談、ご依頼は日常的に承っていますので、個別のご相談等だけでなく、こうした形で、町弁の仕事について(守秘義務の範囲内で)気軽にお話を聞いていただく機会を頂戴し、願わくば、それを通じて「法の支配(まっとうなルールによって人と社会をよりよく育てていくこと)」について理解を深めて機会をいただければと思っています。

もちろん、今回のミニ講義でも、最も大事なことは憲法13条と24条=個人の尊厳と両性の本質的平等である、という形でまとめさせていただいています。

などと考えつつ帰路についたところ「会場にコート忘れましたよ」の電話が・・・。実は、2週間前にも二戸支部でコートを忘れており、今期2度目の失態で、公言が憚られる他の忘れ物話も含め、このままでは「物忘れ王」一直線になりかねないと危惧するばかりです。

「子供の貧困」と弁護士業界が真っ先に取り組むべき対策

5月5日(こどもの日)の各紙の社説が、いずれも近年よく取り上げられている「子供の貧困」や虐待問題などになっていることを紹介するネット記事を見かけました。
http://www.j-cast.com/2016/05/08266168.html

田舎の町弁をしていると、離婚やこれに伴う親権、養育費(及び離婚までの婚姻費用)の請求・申立をはじめ、経済的に厳しい生活を余儀なくされている母子の方との関わりを避けて通れない面があります。それらは大赤字仕事になることも珍しくありませんが、一期一会と思って腹を括って対応しています。

「子供の貧困」は、世間的にはここ2、3年で一挙に取り上げられることが多くなったように思いますが(その点ではLGBTに似ています)、日弁連はそれより何年も前から取り上げており、例えば、平成22年に盛岡で実施された人権擁護大会では、メイン扱いというべき第1分科会でテーマとして取り上げられ、その改善を求める決議(提言)もなされています。

ただ、この日弁連決議を見ると、保育施設の拡充や高校教育の無償化など、様々な貧困救済(公的給付)に関する提言がなされているものの、意地悪い見方をすれば、大新聞の社説などとあまり変わらないというか、弁護士でなくとも提言する(できる)ような内容の項目が多く、「個々の弁護士が実務で現実に見聞した痛々しい問題を集約して、その改善・救済を求める」といった印象はあまり感じられません。

提言内容そのものを批判する趣旨ではありませんが、「法律実務家の意見書」であれば、自身の実務上の経験、知見などを踏まえた事柄に力点を置いた方が、読み手に説得力があるのではと思います。

例えば、子供の貧困の多くは、離婚を典型とする「主たる稼ぎ手(いわゆる世帯主)が子の養育環境から離脱(又は養育放棄)すること」により生じるところ、我が国では、離婚後は非監護親(たる稼ぎ手。通常は父)は監護親(通常は母)に養育費を支払うべきとされていますが、裁判所が採用する養育費の計算方法は、一般的には義務者(非監護親)に手厚く、とりわけ所得が少ない層では子が現実に生存できるだけの額すら算出されないとして問題になっています(その根底には、典型的な世帯構成を前提とする「世帯主」の利益を優先し、他の家族の立場ひいては一人一人の個性ないし実情を軽視する我が国の現在の社会システムの問題があるのではないかとも言われています)。

これに対し、上記決議では、公的給付(役所=税金からの支払)を主眼としているせいか、残念ながら養育費の問題について触れられていないように見受けられます。

「子供の貧困」対策を弁護士会が語るのであれば、公的給付のような、本業との結びつきが弱く弁護士会が特段の政治的影響力などを持っているとも考えにくい事柄よりも、まずは、養育費のような、自身の取扱領域に属する事柄について具体的に問題や改善策を求め、その上で他の事柄も論じるという方が良いのではと感じます。

この点、私のような末端の町弁は、冒頭で述べたように低所得の監護親の方の依頼により法テラスの立替制度に基づき離婚や養育費、婚姻費用の支払等を求める事件を受任することが多くありますが、法テラスは生活保護等の事情がない限り「立替」=総額10~20万円程度(通例)に対し毎月数千円程度の返済を求めています。そのため、滞納せずにきちんと支払をされる方については、それだけ実質的な取得額が目減りする結果になります。

そこで、上記の養育費等に即して言えば、①法テラス受任による養育費・婚姻費用(が主要争点の事件)については、代理人報酬は原則として全額公費負担(本人=監護親の償還義務なし)、②法テラス経由ではない事件も、監護親が低所得等なら同種の公的補助をするなどといった提言と、それを実現するためのロビー運動をする方が、その必要性を支える具体的な事情を多くの弁護士が語ることができるはずですし、関係先にも影響力を発揮しやすいのではと感じます。

中には「弁護士の業界利益の主張だ」と批判する人もいるかもしれませんが、それが導入されて救済されるのは、サービスの利用者=監護親及びその親に養育される子供自身に他なりませんし、弁護士にとっても、自身を頼りにして下さる方々を守るための運動なのですから、それを実現することは業界の信用にも繋がるのではないでしょうか。

だからこそ、それを実現することができれば、社会的影響力を認められ、やがては公的給付のような「本業以外の論点」にも影響力を拡げる道が開けるのでは(それこそが廻り道に見えて近道である)と感じます。

監護親(母親)の代理人として従事している末端の町弁の率直な心情としては、「(この程度の養育費等の額で)報酬をいただくのは誠に心苦しいが、もともと低い報酬なのにタダ働きで事務所を潰すわけにもいかず」と感じながら勤しんでいるという面は否めず、「低額報酬+立替制度」のままでは、関係者が互いに疲弊、消耗を繰り返して、結局は子供にしわ寄せが及ぶという印象は否めません(そのため、この種の業務で恒常的な大赤字に悲しむ身としては、従事者の報酬増額にも取り組んでいただきたいところではあります)。

もちろん、「養育費」は自助の問題であり、自助が不十分だ(社会内で機能していない)から公助(や共助)を拡充すべきだというのが、上記の日弁連決議の根底にあるのでしょうが、順番の問題として、まずは自分達の取扱領域から入り、その上で、「弁護士達が全国で取り組んでいる養育費の額や支払確保に関する負担の問題一つをとっても、自助が社会内で機能していないことは明らかだ、だから公助等を強化すべきだ」という論理を構築した方が、公助を論ずるにしても説得力が増すのではないかと思います。

そんなわけで、日弁連(弁政連)の偉い方々も、(このテーマに限らず)本業との結びつきが薄い政策提言や議員さんとの宴会に費やすエネルギーや暇とカネがあるなら、まずは、仕事に端的に関わり、子供の利益にも直結するようなロビー運動をなさっていただきたいと、末端で実務を担う田舎の町弁としては願うばかりです。

なお、日弁連は養育費の算定方法についても意見書を公表していますが、弁護士への依頼費用などにまで踏み込むものにはなっていないようです。

不倫問題などを巡るミニ講義~盛岡北RC卓話から~

先日も書きましたが、盛岡北RCの例会で卓話を担当することになり、「男女の愛と不倫を巡る法律実務~あるロータリー会員家族(架空)を巡って生じた、起きて欲しくない物語から~」と題して、以下の事例(設問)をもとに主要な論点や実務の考え方(相場観)をご説明しました。

その上で、法律の根底に「両性の本質的平等と個人の尊厳」(憲法24条、13条)があり、慰謝料の発生や算定は、これが損なわれ、踏みにじられていると裁判所が判断するかという点が大事であること、どのような事象がそれらの中核を成すかは時代により移り変わること、だからこそ、男女の関わりという愛や性など様々な欲と業が絡む問題について、「尊厳」を踏まえた上で、人の心の深淵の質を高める叡智と工夫、配慮が必要ではないかということを、まとめとしてお伝えしました。

ただ、「男女の愛と不倫を巡る法律実務」と題したのに、紛争を通じた「愛」のことまでお伝えするだけの時間はなく、その点は残念でした。

ご夫婦の性的な事柄が絡んだ事件で、「愛のカタチ」を考えさせられたことがあったので、そうしたこともお話できる機会があればとは思ったのですが、やっぱり、私の身には余るテーマというべきなのかもしれません。

テーマの性格もあり、私には珍しく笑い(苦笑?)の絶えない卓話になりましたが、離婚や不倫、男女トラブルを巡る法律問題は、田舎の町弁には「スタンダードな業務」の一つで、実務経験を交えてお話できることも多いので、セミナー講師のお誘いなどありましたら、ご遠慮なくお声掛け下さい(笑?)。

なお、不倫など男女トラブルを巡っては、以前にも投稿したことがありますので、関心のある方は参考になさって下さい。

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盛岡市内の某RCの会員であるA氏(60歳)は妻のBさん(58歳)と二人三脚で会社を経営し、市内有数の事業家として大成した。

AB夫妻には、長男C(37歳)、長女D(33歳)、次男E(28歳)の3人の子がおり、A氏の事業を支えるCは、妻F(30歳)との間で2名の子G、Hを授かっている。

Dは、夫I(39歳)と10年前に結婚し、子Jと3人暮らしである。Eは独身だが、K女(23歳)と3年ほど交際している。

(1) Cは、半年ほど前から取引先のL女と情を通じ、出張名目でLと旅行に行くなどしていたことがFに発覚し、Fは、子G、Hを連れて実家に戻り別居した。

FはCに対し、①離婚、慰謝料、財産分与、離婚後の子の親権・養育費の支払を求める調停、②離婚までの生活費(婚姻費用)の支払を求める調停を起こしたが、CはLと不倫をしていないと主張して離婚を拒否し、①の調停は不調に終わった。Fは、Cに対し上記①の各事項、Lにも慰謝料の支払を求めて訴訟提起を予定している。

Fの立場で、C及びLへの請求内容や立証を巡り検討すべき点を論じなさい。

(2) 時を同じくして、Dの夫Iにも、先日、同僚のM女と情を交わしたことが発覚した。Iは、不倫は認めた上で、Dとは5年以上前から口論などをきっかけに険悪になり、家庭内別居と性的関係を欠く状態が続いており、婚姻関係は破綻し賠償責任はないと主張し、Mとの再婚を希望してDに離婚を求めてきた(不和については、一方のみに責任があるのではなく「お互い様」というべきもの)。

これらの事実に争いがないことを前提に、I及びMのDに対する慰謝料支払義務の存否や程度(金額)、IのDに対する離婚請求の当否について論じなさい。

(3) 1年前、KにEとの交際に基づく妊娠が発覚し、Kは出産を望んだが、Eの頼みでやむなく中絶したことがあった。Eは、嘆き悲しむKを慰めることもないまま、一方的に連絡を絶ち、他の女性と交際を開始したため、Kとしては、Eに慰謝料の支払を求めたい。Kの請求は認められるか。

(4) Aは、これらの事態がきっかけでBと不和になり、いわゆるクラブに入り浸るようになって、ホステスNと懇意になった。Nは、Aには全く恋愛感情は無かったが、客として頻繁に来店して欲しいという営業目的で、Aからの性的関係の求めに応じ、その際も対価のやりとりをしていたが、不倫旅行などはせず、時折、ラブホテルを利用した関係が続いたのみであった。

数ヶ月後、探偵に調査を依頼しその事実を知ったBは、Aとの離婚は希望しないが放置もできないとして、A及びNに慰謝料と探偵費用などを請求したい。Bの請求は認められるか。

有責配偶者からの離婚請求が長期間の別居等の事情がなくとも認容された例

震災後、不倫が絡んだ法律問題についてご相談を受ける機会が増えましたが、その多くは、慰謝料請求の当否に関するご相談で、「不貞をした配偶者(有責配偶者)が自ら相手方配偶者に対し離婚請求できるか」という論点については、ご相談を受ける機会はさほどありません。

この点(有責配偶者の離婚請求)は、昭和62年の最高裁判決が、①夫婦の別居が当事者の年齢や同居期間と対比して相当の長期間であること、②未成熟子がいないこと、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれるなど離婚を認めることが著しく社会正義に反する特段の事情がないことを要件として指摘したため、それらを満たすケースでないと認められないという考え方が根強くありました。

とりわけ、「長期間の別居」については、7~8年程度が相場として挙げられることが多く、実際、熟年者同士の離婚訴訟で、有責配偶者たる夫が、ちょうどそれくらいの別居期間を経た後に提訴したところ、認容されたという判決を見たことがあります。

ただ、上記の最高裁判決が有責配偶者の離婚請求を制限しているのは、「一家の収入を支えている夫が、不貞の挙げ句に、妻子を放逐して経済的に不安定な状態に陥れるのは社会正義に反する」という考え方に基づくので、そうした事情がなく、離婚請求を認めるのが社会正義に反しないと言えるケースであれば、長期間の別居等の事情がなくとも離婚請求を認めてよいとする意見が以前から強く述べられていました。

先日、「妻Xが夫Yと不和になって他の男性と不貞をした後、未成熟子2名を連れて別居し、Yに対し離婚等を請求した件で、Xを有責配偶者と認定しつつ、①Xの人格へのYの無理解が不貞の原因になっていること、②Xは就労しながら子らを適切に監護養育しており、離婚によって子らの福祉が害されないこと、③Yに1000万円弱の年収があり、離婚の認容でYが著しく不利益になると言えないことを挙げ、判決までの別居期間が2年ほどしか経ていなくとも離婚請求を認容し、子らの親権者をXに指定し、養育費を計12万円(1人6万円)とした例」が掲載されていました(東高判H26.6.12判時2237-47)。

Xがフランス国籍という事情があるものの、外国人女性だから特別扱いというわけではないでしょうから、日本人同士の夫婦にも十分にあてはまる話で、現に、こうした類型の紛争では、離婚を成立させる調停や和解で終了することも多いはずです。

もちろん、「専業主婦家庭での夫からの離婚請求」に関しては、従前の枠組みがあてはまることが多いでしょうから、それぞれの夫婦の実情などを詳細に主張立証する工夫が必要になってくると思います。

上記判決の解説には有責配偶者の離婚請求に関する判例や学説などが整理されており、その点でも参考になると思います。

育児家庭に関する婚姻費用請求の整備の必要性

町弁をしていると、離婚をはじめとする夫婦・男女関係の紛争事案は日常的にご相談を受けますが、この種の案件は、コストその他の事情から、当事者間の適正な合意や裁判所への申立による解決等がなされず、問題がそのまま放置されているケースも少なくありません。

特に、見聞する機会が多い問題の1つに、婚姻費用が挙げられるのではないかと思います。

婚姻費用(の分担請求権)とは、別居中の夫婦の一方(収入の少ない側)が、収入の多い側に生活費の支払を求める権利のことで、養育費+配偶者の生活費と考えれば、分かりやすいと言えます(子がいない夫婦でも請求できることは申すまでもありませんが)。

夫婦の一方又は双方が離婚を希望すると、まずは別居から始めるというのが通例ですが、別居が開始された時点で、離婚成立までは収入の多い配偶者は、他方配偶者に対し、相当額の婚姻費用を支払わなければなりません。この種の紛争の典型は「妻が子を連れて夫宅から別居するケース(又は夫が単独で別居するケース)」ですので、通常は、夫が別居中の妻子の生活費として、妻に相当額を支払わなければならないということになります。

ただ、突如、別居された場合などは、妻に対する不満から、夫が支払を拒否する例も珍しくなく、その場合、妻は家庭裁判所に婚姻費用分担の調停申立をし、調停又は審判で定まることになります。具体的な金額は、典型的な家族構成の事案では裁判所の基準表が公開されており、これに夫婦双方の収入等をあてはめて算出することになります。

裁判所の基準表で算出される額は、「支払側の生活費を確保した上で、残金を受給側に支払わせる」というコンセプトで算出されている感があり、収入の低いご家庭では、その金額だけではおよそ生計を立てることができるものではないというのが通例となります。

そのため、現在では、別居中の配偶者(妻)も、パート等の勤務をしながら子育ても行っていることが通例で、お子さんが幼い場合などは、仕事・育児家事に加え、夫との紛争の問題という三重苦を抱えて、本当に大変なことだろうと感じます。

そのような観点から、生活費=生きる糧そのものというべき婚姻費用の支払(分担)に関する裁判所の手続は、なるべく簡明・迅速に行うようにすべきではないかと思うのですが、実際には、受理から相手方(夫)の呼出だけでも1~2ヶ月も要し、夫が色々な主張をして紛糾した場合などは、決着まで数ヶ月以上も要することが珍しくありません。

また、上記のとおり、富裕層などを別とすれば婚姻費用の額はさほど大きくないことや、特殊な論点を抱えた事案を別とすれば、裁判所の算定表で機械的に計算される面が大きいことから、多くの事案では、弁護士に申立を依頼=多額の費用を投入する意義が乏しく、当事者ご自身で手続を行った方が賢明という面が大きいと思います(私も、特殊性の強い事案で離婚などと併せて受任する場合はともかく、婚姻費用単独での受任は経験がありません)。

なお、以上の点は、養育費(離婚後の、配偶者を除いたお子さんの生活費)にも概ね当てはまると言ってよいと思います。

ただ、そうはいうものの、上記のように「仕事、育児家事、配偶者との紛争」という重荷を抱えた方にとっては、上記のような長期の調停の負担など相応の負担がある現在の婚姻費用を巡る実務を前提にすれば、常にご自身でなさってなさって下さいという考え方が適切とも思われません。

折しも、安部内閣は「働く女性の支援」を重大なテーマとして掲げているのですから、何らかの形で、婚姻費用や養育費を巡る実務について、当事者の負担軽減を目的とする措置を講じていただきたいところです(自民党は、民主党などと比べて、公助(公的給付)よりも自助=当事者の相互扶助を重視する政党と評されていましたので、自助を行いやすくするための制度の整備は党の精神にも適うと言ってよいのではないでしょうか)。

1つの方法として、まず、婚姻費用等(養育費を含め)は、原則として、申立後、直ちに相手方の呼出(意思確認や資料提出要請)をするなどして、短期間(例えば申立から2週間以内)で結論を出すのを実務の通例とさせるという方向が考えられると思います。適切な資料が提出されない場合などは、暫定的に仮の命令(保全処分など)を行って、後日、金額を調整するなどという方法も、あり得ると思います。

そして、上記の「2週間で給付(支払)を定めるところまで決着させる手続」で完全な解決に至らない紛糾事案や、性質上、弁護士の支援が必要と認められる事案などは、暫定的な給付額を決めた上で、最終的な決着について時間をかけて調停ないし審判を行うこととし、その際には、少なくとも債権者(受給者)側はなるべく法テラス等を利用でき、かつ、費用償還については事案の性質に応じ、免除(国費負担)など(将来的には相手方負担=立替、求償を含め)を弾力的に運用することも考えてよいのではないかと思います。

震災前後から家事関係の事件に従事する機会が増えていますが、家裁の手続は、一般の民事訴訟などと比べても、裁判所本位というか、当事者には非常に使い勝手が悪いと感じることがあります。

倒産・債務整理分野に関しては、私が弁護士になった平成12年頃から、少額管財手続や最高裁の相次ぐ引直計算の判決などを通じて、使い勝手がよくなった面がありますが(但し、法人の同時廃止がほぼ認められなくなり、予納金を調達できない法人が破産できないという問題もあります)、家事手続も、最近話題の父子の面会交流に限らず、全般的に需要が高まっているはずですので、手続の改善について、より善処を図っていただきたいところだと思います。

養育費の裁判所算定表に関する増額論争とユニセフ

未成年者など扶養を要する子を養育中の夫婦が離婚する場合、養育を負担しない側(非親権者)は、養育を負担する側(親権者)に対し、夫婦の協議又は裁判所の審判で、子の養育費を支払わなければなりません。

そして、我が国では、裁判所が何年も前に基準表(父母双方の収支をもとに養育費の額を算定するもの)を公表しており、ほとんどの裁判官は、基準表による算定を原則とし、特段の事情がある場合に修正する取扱をしています。

ただ、この算定表については、算出される養育費が、債務者たる非親権者の収入と比較して低すぎるのではないか(特に、非親権者の収入がさほど多くない場合などでは、非親権者の側の生活費が優先され、子の方に、人として生存可能とは言えない金額しか支払われない方向で算定されてしまっているのではないか)という批判が、かなり以前から強く主張されています。

実際、私が取り扱った事件でも、親権者(お子さん)側の立場で仕事をする場合などで、そのように強く感じた経験もあり、債権回収の問題と含めて、議論の進展が待たれるところだと思っています。

これ関して、昨年12月25日の日経新聞の記事で、「ユニセフ(国連児童基金)等が公表した報告書で、日本は、先進31ヶ国のうち、子供の幸福度が6位となっている。但し、教育や日常生活上のリスクの低さが1位となっているのに対し、物質的豊かさは21位に止まっており、経済面で子供がしわ寄せを受けている実態が浮き彫りになった」と報道されていました。

この記事は、上記の「養育費の算定において、債務者(非親権者)の利益が優先され、子の養育費(利益確保)が蔑ろにされている」という批判とよく合致するもので、裁判所の算定表の増額を目指している方々におかれては、こうした調査結果も、ぜひ活用していただければよいのではと思いました。

養育費算定表を巡る議論に関心をお持ちの方は、こちらの記事(東京弁護士会の会員報)もご参照下さい。

 

不貞行為の相手方の慰謝料

前回(不貞行為を巡る問題)の続きです。

配偶者が第三者と性的な関係(不貞行為)を持った場合、原則として不貞の相手方は、他方配偶者(被害配偶者)に対し慰謝料支払義務を負うことが、実務上認められています。

例外として、①関係を持ったのが夫婦関係の破綻後である場合、②関係を持った相手(加害配偶者)が婚姻中であったことを知らず、かつ知らなかったことに過失がない場合には、慰謝料支払義務を負わないと考えられています(①は違法性ないし利益侵害がなく、②は故意過失がないので、それぞれ不法行為責任の要件を満たさないため)。

「破綻」と言えるかは、前回述べたとおり、相当長期間の別居などある程度限られた事実関係がないと裁判所は認定に慎重だと思われます。

ただ、破綻とまでは言えなくとも、過去の不貞などにより夫婦関係が相当に形骸化していた場合などは、慰謝料も抑制的になる可能性があります。

特に、加害配偶者の過去の不貞で被害配偶者が相当な慰謝料を回収した後、さらに加害配偶者が再度の不貞に及んだという場合には、再度の不貞に高額な慰謝料を認める(さらに、それが繰り返される)のは、社会通念上、相当に疑義があるところです(一種の金儲けになりかねません)。そうした特殊事情があるケースで、慰謝料を抑制した裁判例があり、私自身、それに類する例を取り扱ったことがあります。

加害配偶者と不貞相手がそれぞれ被害配偶者に負担する慰謝料等の賠償義務は、原則として連帯債務(不真正連帯債務)とするのが現在の裁判所の主流です。そのため、例えば、夫Y1の不倫を理由に妻Xが夫と不倫相手Y2に慰謝料請求する場合、「Y1は300万円、Y2は200万円の慰謝料義務。但し、200万円の範囲で両名は連帯債務」という趣旨の判決をするのが一般的と言えます(もちろん、金額の算定は事案次第)。

この場合に、Y2がXに200万円を支払った場合、Y2はY1に対し「200万円の一部は、貴方が負担すべきなのだから、私に払いなさい」と請求(求償)することが考えられます。この場合、双方の関係の内容(帰責性の程度など)により求償の金額が定められることになり、例えば、終始、対等な関係であったなら50%ずつとか、Y1の方が積極的に持ちかけてY2がやむなく応じたような場合であればY1の方が負担割合が大きいなどといった判断があり得ると思われます。

ただ、この点に関しては、上記の「現在の実務の主流派」とは別に、「不貞相手の慰謝料義務を、加害配偶者との連帯責任とはせず、金額も抑制的に算定する立場」もあります。上記の例で言えば、夫Y1はXに250万円、Y2は50万円の債務に止めるとか、Y1だけは50万円の範囲でY2と連帯責任とする(Y1に対する認容額は300万円とする)という判決がなされることがあります。

この点は、学説上の対立があり、裁判所の考え方も統一されていないようですが、私が以前に調べた範囲では、伝統的には連帯責任(冒頭のパターン)とする方が主流派で、個別責任(少額賠償)は少数派ではないかと感じます。

ただ、この点も、事案によりけりという面があり、例えば、配偶者男性が知人女性と強姦まがいのように関係を持ち、その後も男性側が支配的、抑圧的な態度で女性と関係を続け、女性はそれにあらがうことが困難だった、というようなケースであれば、主流派の立場でも、妻がその女性に請求しうる慰謝料を相当に抑制する(場合によってはゼロ又はほとんど認めない)ということになるはずです(当然、そのような裁判例があります)。

不貞行為を理由とする離婚や慰謝料については、被害側・加害側いずれの立場からも多数のご相談・ご依頼を受けてきましたが、とりわけ震災から1、2年ほどは、不思議なほどこの種の事件のご依頼が多くありました(私だけではなかったようで、ネットでも弁護士の方の同種の発言を見かけたことがあります)。

当時、「震災で家族の絆が深まった」などと美談的な報道をよく見かけたような気もするのですが、良くも悪くも、震災を機に「自分の気持ち(或いは欲望?)に正直に生きたい」という人が増えているのかと思ったりしたものです。また、震災は、いわゆる高利金融問題の収束(高金利貸付の廃止=18%化の定着期)とほぼ重なっており、高金利で苦しめられることのない社会の到来と共に、そうした出来事が新たに増えてくるのだろうかと思わないでもありませんでした。

最近は、「夫からのハラスメント(嫌がらせ的な対応)」を理由とする(主張する)案件が増えていて、不貞を理由とするものと半々といった印象があります。

男女系の紛争に携わる弁護士としては、基本となる事実関係(離婚や慰謝料の評価の核となる事実関係)については、なるべく争いのない状態にしていただき、周縁的な事情にはあまりこだわらず、法的な主張をしっかり行って、法的な判断(弁護士のアドバイス又は裁判所の勧告等)を踏まえて、大人としての賢明な対応を、関係者それぞれにとっていただければと思っています。

不貞行為と離婚及び慰謝料について

離婚に関する紛争で弁護士が関わるものとして最も多い類型(離婚原因)は、不貞行為(不倫)が絡むものではないかと思われます。

不貞の有無は、時に争われることもありますので、その点について慎重を期したい方は、交際の状況を調査して証拠化(尾行写真や報告書)することが望ましいと言えますが、ご自身で行うのは難儀でしょうし、探偵に依頼すると非常に高額な費用を要しますので、この点(立証準備)をどこまでやるかは、常に悩ましさが伴います。

探偵費用については、私が依頼者の方から伺った話では、調査期間が長期に及んで三ケタ(100万円以上)になったという例もありますが、それを相手方(配偶者や不貞相手)に請求できるかという問題がありますので、非常に高額な費用を用いることには慎重な姿勢が求められるのではないかと思われます。

ちなみに、「探偵に配偶者の不倫調査を依頼したところ、その探偵から、不倫相手に慰謝料請求を行うことまで持ちかけられ、これに応じたところ、探偵が不倫相手に不相当に高額な慰謝料を要求し、それが原因で事態が紛糾した例」に接したことがあります。

今はあまり聞かなくなりましたが、かつては、探偵が不倫相手を脅して一般相場を大きく上回る高額な慰謝料を支払わせ、自身も高額な報酬を得ようとする例が報道されたことがあり(「別れさせ屋」などと呼ばれています)、弁護士法72条違反等はもちろん、事案によっては、配偶者自身が、恐喝その他の共犯という扱いにされかねませんので、「調査」以上のことを探偵に求めることのないよう、ご注意いただきたいものです(仮に、そのようなことを提案された場合、それだけで違法行為に手を染めている業者である疑いがあると考えた方がよいと思います)。

不貞行為に関しては、発覚時などに念書を提出させる例もよく見かけます。その際には、具体的な時期、頻度、当事者の特定情報(氏名、住所等)はもちろん、交際の詳細、不貞の場所など、なるべく事実関係の詳細な記載を求める(場合により、後日に裏付け調査ができる程度に事実の特定を求める)のが賢明かもしれません。

ご夫婦が破綻状態にある場合には、その後に異性と性的関係を持っても「違法な不貞行為」とは見なされず、賠償責任の対象にならず、この点が訴訟の争点となることはしばしば見られます。

ただ、破綻というためには、長期の別居など、ある程度の客観的な事実が必要で、「仲が悪かったが同居はしていた(家庭内別居)」というのでは、裁判所は破綻性の認定には消極的です。

余談ですが、何年も前、ある相談会の担当日に「夫が、行きつけの飲み屋の女性と懇意になった」と相談されてきた同世代のご婦人がいて、配偶者のお名前を伺ったところ、少し前に、ある機会に知り合った方だったということが判明し、仰天したことがあります。

その際は、配偶者の方とまたお会いする可能性が相当にあったので、相手方の立場での受任は差し控えさせていただきましたが、とても感じのよい奥様で、ご主人も基本的には立派な方と認識していましたので、このような方を悲しませるのはけしからんということで、この種の問題に熱心に取り組むであろう何人かの先生のお名前をお伝えして、私からは終了とさせていただきました(結局、その後、ご主人ともお会いする機会がなく、ご夫婦がどうなかったのか全くわかりません)。

現在のところ、面識のある方について、この種のご相談に接したのは、後にも先にもこの一度だけですが、知り合いの方でこのようなご相談を受けると、心底滅入ってしまいますので(とりわけ男女系の紛争は、相談を受ける側も、色々な割り切りをしないと気持ちが持たない面があります)、二度となければというのが正直なところです。

次回は、不貞行為の相手方の慰謝料について、少し補足して書いてみたいと思います。

離婚訴訟における慰謝料

ご夫婦の一方又は他方が離婚を希望するものの自主的な協議で合意できない場合、最初は家裁に離婚の調停を申請しなければならず、調停の場でも協議が決裂する場合には、一方(離婚を希望する側)が他方(希望しない側)に対し訴訟提起し、裁判所の判断を求めなければなりません。

この点、不貞や暴力行為等(典型的な帰責事由)があれば、慰謝料の請求が含まれるのが通常であり、事実関係の骨子に争いがない又は十分な立証がなされた(と裁判官が判断した)場合には、相当額の慰謝料が認められることになります。

金額については、帰責事由の内容・程度や夫婦関係の程度(同居期間=実質的・良好な夫婦関係の期間が長いほど金額が高くなりやすいとされています)など諸般の事情を総合的に考慮しますが、300万円くらいが中央値(最も多い)と思われます。なお、私が代理人として関わった範囲では、不貞行為が認定されている事件で判決が命じた離婚慰謝料は、最高額が500万円、最低額が150万円との記憶です。

ただ、私が取り扱ったものでも、これを大幅に上回る金額で和解した(相手方から支払を受けた)こともありますので、交通事故の慰謝料などと異なり、予測がつきにくい面が大きいと言えます。

なお、上記の事案は、判決ではなく和解であった上、養育費の変動要素を考慮して加算したという面もあり、特殊性の強い例というべきかもしれません。交通事故など一般の不法行為との最大の違いとして、夫婦の生活水準の程度を考慮すべきとの見解もあり、これを重視すれば、裕福なご夫婦ほど慰謝料が高額になりやすいことになりますが、個人的にはこれを強調することには些か疑問を感じます。

ところで、不貞や暴力行為等のような典型的な帰責事由がない場合でも慰謝料が認められる場合があります。例えば、酒癖が悪く酔って配偶者に面倒をかけることが多々あった場合に、典型事由ほどではないものの、一定の金額(例えば、50万円~100万円程度)の慰謝料が認められる例があります。

暴力行為(傷害を負わせる行為)には至らなくとも、暴言等を含め、家庭の雰囲気を非常に悪化させる不当行為であると社会通念上評価されるようなものがあれば、一定額の慰謝料を認めることがありますので、そのような事案で請求を希望される場合には、証拠の保全等を考えていただいた方が良いのかもしれません。

先日、「肉体関係(狭義ないし厳密な意味での不貞行為)がなくとも、精神的には情を通わせた関係にあった(それにより家庭ないし配偶者を蔑ろにしていた)として、一定額(肉体関係がある場合よりも低額)の慰謝料を命じた例」の報道がありましたが、「典型的帰責事由に準ずる信頼関係破壊行為」という点で、類似する面があるのかもしれません。

私見としては、過去数十年の日本社会の主流派とされてきた「夫の収入で家計を営み、妻が専業主婦としてこれを全面的、献身的に支えてきた夫婦」では、離婚により妻が直面する境遇に厳しいものがある(再就職や再婚などの困難さをはじめとする社会の冷遇等)ことから、高額な離婚慰謝料が認められてしかるべきだと思いますが、今後、そうした社会の仕組みが変動し離婚後も再就職・再婚等にさほどのハンディがないと言えるようになれば、この点は変容していくかもしれないと感じています。

ただ、その場合でも、育児が伴う場合で監護者(親権者)の収入が高くなく、かつ裁判所が算定する養育費も高いとは言えないケース(夫側の収入も低いなど)であれば、僅かな原資で単独で育児を担う苦労を慰謝料算定において斟酌すべきではないかとも思われます。

なお、相手方配偶者が不倫に及んだ場合に他方配偶者(被害配偶者)が相手方配偶者(加害配偶者)に詰めより、一般的な相場観(社会通念)とかけ離れた額の金額を支払わせる旨の念書を作成する例があります。

しかし、かかる事例(妻の不倫で夫が妻に2000万円の念書を書かせた)で、念書を無効(夫の請求を棄却)した判決仙台地判H21.2.26判タ1312-288)があり、そのような行為については無効とされるリスクが濃厚です。

当事者間の合意がすべて無効とされるわけではありませんが、離婚に限らず、社会通念からかけ離れた利益を得ようとすれば、結果的に通常得られる程度の利益も得られないリスクが生じることは、十分に認識しておくべきだと思います。