北奥法律事務所

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アピールすべき弁護士像

日弁連CM問題と、今こそアピールすべき弁護士像を考える

私はTVで視たことがありませんが、日弁連が全国的に放映しているCMがあるのだそうで、業界内では何かと話題になっています。http://www.youtube.com/watch?v=8bVRpp18zAg

ネットで流布されている噂話?では、このCMに5000万円もの会費が使われているのだそうで、私に限らず、若い世代を中心に、いよいよ厳冬期に突入し始めた弁護士業界では、「金(会費)返せ」と怨嗟の声が巻き起こっているようです。

それはさておき、私は弁護士の本質は傭兵だと思っていますので、このような「フレンドリー路線」で弁護士という商品を売りだそうという考え方には、どうしてもついていけないものを感じてしまいます。

私自身は、弁護士の典型ないし理想像は、権力者はもちろん大衆にも媚を売ることなく叩き上げのスキルと専門家の根性で黙々と自分のやるべきことを孤独かつ無愛想にこなしていく「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」のようなものだと思っています。

なので、仮に、私がCM制作に携わる立場なら、今回の日弁連CMとは真逆の作品を作ろうとすると思います。例えば、こんな感じです。

①最初に、人々が無惨に殺される戦争や昔の酷い暴力などのシーン。

②場面が変わり、スーツ姿の弁護士が「異議あり!」などと宣言し、厳しい論調で相手方を問いつめ、誤りを認めさせる(堺雅人氏を起用?)。

③そして、「私達の社会は武器を捨てた。しかし、理不尽な仕打ちが社会からなくなったわけではない。それと闘うために、法と弁護士があります」などといった趣旨の言葉をナレーション。

④場面が変わって、現代の、理不尽な目に遭わされている弱者を大きくクローズアップするシーンを出す(例えば、夫に蹴飛ばされる妻(或いは上司と部下)とか?逆の方が今どきかもしれませんが)

⑤最後に、「理不尽に負けるな!私達は、貴方と正義のために闘います」との文字を表示してCM終わり。

ニコニコするだけなら、他士業でも、それ以外の人でも、誰にでもできます。しかし、依頼者の権利と法の正義のためにどこまでも闘うことは、我々にしかできません。

弁護士は敷居が高い、と言う人はこれまで沢山いました。このようなCMが出てくる背景にも、そうした主張があるのかもしれません。

しかし、「弁護士が敷居が高い」との主張は、正しい事実を描いたものとは言えません。

多くの日本人にとって本当に敷居が高かったのは、弁護士という職業ではなく、まして個々の弁護士そのもの(例えばこの男、小保内義和)でもありません(目つきの悪いベテラン方が沢山いるとの話はさておき)。

敷居が高かったのは、闘うことそのものだと思います。

これまでは、自分の権利、自分の正義を守るため、闘うことには躊躇する人、或いは、そこまで追い詰められていない(と感じる)人の方が圧倒的に多かったと思います。だから、傭兵である弁護士と関わることに、得体の知れぬ異形の文化と接するような違和感を持っていたのであり、それと「保険のないオーダーメイド傭兵」ゆえの費用の高さなども相俟って、「敷居が高い」と形容していたに過ぎません。

今、その前提自体が、様々な面(闘うための法制度の整備、コスト、闘争を余儀なくされる場面の増加、そして人々の気質等)で、着実に変わりつつあると思います。

だからこそ、人々が、他者と利害が衝突したとき、自身の正しさを世に問うことを諦め衝突現場から退くことを是とするのではなく、自己の正しさを主張し闘うことを鼓舞すること、そして、弁護士の数が大量に増えた今こそ、それを適切に補佐する専門職として、これまで以上にその役割が果たせるのだと喧伝することが「日弁連の広告」に求められているものではないかと思うのですが、いかがでしょう。

ちなみに、この点は、日弁連評論家で有名な小林正啓先生のブログを参考にしています。 http://hanamizukilaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-76f3.html

このような、ある意味、「和の国」に相応しくない存在として弁護士を考えていく観点からは、キャッチコピーだって、あんな「ニコニコしまくり」みたいな雰囲気とは、真逆のものを用いるべきだと思います。

例えば、こんなものはどうでしょう。

“貴方に嫌われたっていい。貴方の役に立ったのであれば。”
“社会に嫌われたっていい。明日の社会を守ったのであれば。”

それこそ、弁護士が依頼者に色々と面倒な準備作業を要求するものの、それが奏功して裁判官が良い心証を示すような「妙薬は口に苦しバージョンのCM」もいいのではと思います。

さらに言ってしまえば、「ニコニコのアピールをしようとする弁護士(ガッキー氏?)が最初に出てきて、それを『そんなのはダメだ』と押しのけて、闘うことをアピールする弁護士(堺雅人氏?)が出てくるようなCM」というのも、話題性という点では面白いかもしれません。

とまあ、いつも誰かに嫌われている?僻み根性たっぷりの私としては、ニコニコだらけのCMを見ていると、このようなことしか考えつかないのでした。

ま、ここに書いている程度のことは、日弁連のお偉いさん方や優秀な広告代理店の方なら重々承知のはずで、それでも深慮遠謀があって、今回のようなCMを作っているのだろうと解釈しています。例えば、社会が、揺り戻しの時代に向かっているからこそ、弁護士という、ある意味では西洋的近代化を象徴する側面のある存在が社会から排撃されないよう、慎重な対応をとっているという見方もあるのかもしれません。

ですので、このCMの反響も含め、この種の「フレンドリー路線」がどのような帰結をもたらすか、片隅で見守っていこうと思っています。