北奥法律事務所

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プリベント

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~前置編②

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第2回です。今回も、前置き部分(業界の現状説明)なので、業界関係者は読み飛ばしていただいてよいと思います。

2 前置き②弁護士報酬を低額化することの困難さ

弁護士の年間供給数を巡って何年も議論が繰り返されていますが、「弁護士が増えても需要が増えない」と増員反対派の方が主張する根拠として一番強調しているのは、弁護士への委任費用が高額であり、それを負担できる方は限られているから、多少の紛争や相談ごとはあっても、弁護士に依頼しない形で処理・解決を図らざるを得ない方が多く(断念を含め)、社会(国民)の弁護士の利用頻度は、限られたものとならざるを得ない(「二割司法」は克服すべきだとしても、五割以上まで司法が社会生活上のプレゼンスを持つのは費用面で無理)という点ではないかと思います。

また、所得や資産が大きくない方は、法テラスの立替制度を利用でき、かつ、法テラスの報酬基準は弁護士会の報酬会規等よりも低いことが多いのですが、それでも少額とは言えない額ですし、毎月の返済が原則ですので、利用者自身の負担が小さいわけではありません。

他方、受任者側にとっては、多くの手間と労力を要する事案であれば、それに見合う費用なのかという問題に直面せざるを得ず、結局、法テラス案件は、低コスト経営ができている弁護士や、事務局に事務処理の多くを任せることができる事件(事案が単純で定型処理が可能なもの)、或いは低賃金で優秀な職員を擁する事務所などでない限り、他に収入源がないと、持続可能性に不安を感じる部分があることは確かです。

刑事に限らず(刑事以上に)多くの民事手続が「精密司法」(大雑把に言えば、ロクに勉強せずイージーな仕事をしていると、裁判所に色々と難癖を付けられて裁判手続を進めて貰えなかったり、相手方の争い方などにより論点が次々に増えて事務作業が嵩んでいく)という面があります。

もちろん、さほど手間を要しない仕事も無いわけではありませんが(典型は、争いのない競売手続などの特別代理人)、そうしたものは、遥か昔から低コスト(低報酬)化されています。

また、特需期の個人の債務整理のように、ある程度は定型化が可能な業務が一度に大量受注できる事態になれば、事務局を習熟させることで多くの業務を任せることができ、その結果、低コスト化を実現できます。

ただ、債務整理も「よく聞いてみると、意外な問題が潜んでいた」というケースも相応にありますので、それに適切に対応するのであれば(それが弁護士として当たり前ですが)、一人の弁護士が何人も事務員を採用し丸投げするなどということはあり得ず、価格破壊といっても限度があります(尤も、東京などではそうしたモンダイ弁護士も存在し(今も?)、仕事を丸投げして安易に高額報酬を貪っていたなどと言われています)。

ともあれ、上記の理由から、弁護士業務の多くが「短期決戦(お手軽勝利)が難しいオーダーメイド戦争(に従事する傭兵)」という性格を持たざるを得ないため、多大な手間を要する受任業務が中心となる現在の司法制度では、弁護士の受任費用を低額化させるには、かなりの困難が伴います。

3 弁護士費用保険による上記の諸問題の解決

このような事情から、現在、普及している交通事故(自動車保険の特約)に限らず、社会・家庭生活や企業活動の多くの場面・紛争で適用されるような弁護士費用保険が普及すれば、医療保険と同様、高額な費用を薄く広く負担いただくことで、利用者自身の負担軽減による受任者が了解可能な報酬額での利用促進(Win-Win)が可能になります。

これにより、激増した「零細事務所を経営(又は勤務)する町弁」達に「食える仕事」を供給できることはもちろん、利用者にとっても、費用負担からの解放はもちろん、依頼する弁護士に、赤字仕事を嫌々というのではなく、ペイする仕事をやり甲斐を持って引き受けて貰うことが可能になり、良質なリーガルサービスの享受という意味でも、メリットが生じることになります。

少なくとも、現在の交通事故実務では、少額事案(物損のみの過失割合紛争が典型)を、「(大企業向けの先生方には笑われる額かもしれませんが)町弁としてはペイする単価」のタイムチャージ形式で受任することが通例ないし普及しており、私自身を含め、多くの弁護士が、かつてのように「大赤字となる少額の報酬でため息をつきながら仕事をする」ということは、ほとんど無くなっているのではないかと思います(その一方で、高額事案の受任件数も「パイの奪い合い」的な形で減っているわけですが)。

反面、損保会社によれば、現在の弁護士費用保険を巡っては一部に不正請求の疑いがある例がある(大規模な事務所ぐるみで行う例もある?)とのことで、後述のとおり、解決策の構築が待たれると共に、業界のあり方に激変を加える要因になるのではと思っています。

ですので、現在のところあまり大きな声を聞くことがないのですが、弁護士費用保険の発展・普及を一番望んでいるのは、ベテランであれ新人であれ、こうした伝統的な町弁スタイルをとっている弁護士達ではないかと思いますし、そのことは、診療所をはじめ一般の医療機関(お医者さん達)が現在の医療保険制度を支持し、医師会の政治力?(もちろん国民の支持を含め)でこれを維持していることとパラレルではないかと思います。

なお、現在の自動車保険に関する弁護士費用特約は、非常に大雑把な作りになっており、また、利用者の自己負担がないなど、医療保険とは立て付けが大きくことなり、その弊害も様々な形で噴出しており、早晩、一定の変容を余儀なくされると思います。

この点=現在の交通事故の弁護士費用特約を巡る諸論点と改善策も、書きたいことは山ほどありますが、今回は省略します。少なくとも、事案の性質に応じ一定の自己負担が必要となる設計の保険でなければ普及しないでしょうし、その場合には、保険給付の程度(勝訴の見込みの程度など)を審査する能力を有する第三者(弁護士等)が必要になるのではと考えています。

また、数年前に、丸山議員(弁護士)が広告塔をなさっていることで有名な「交通事故以外にも広く適用される弁護士費用保険」が、プリベント社という会社さんから発売されています。

私はこの保険の契約者の方から事件受任をした経験がないので、詳細(保険商品として適切に設計されているかなど)を存じないのですが、少なくとも、交通事故以外の紛争(特に、事故被害をはじめ、自身の努力のみでは防ぎにくい被害の賠償問題など)の代理人費用を給付する保険については、同社に限らず、速やかに同種の保険を普及させていただければと思っています。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~前置編①

弁護士業界の近未来(業界が変容する姿の予測)に関し、少し前に投稿した2つの文章の延長線で、次のような光景を考えてみました。

要約すると、「現在の弁護士供給数でも町弁業界が健全性を維持できるようにするには、弁護士費用保険の普及が必要不可欠だが、その場合、費用拠出者である保険会社(ひいては監督官庁)が、弁護士の業務態勢や経営面などに広範に関与(監視・監督)することが不可避である。また、その点で保険会社を補佐する「弁護士業界に精通した組織」が必要になるところ、それは日弁連とは異なる存在が担うことになる(現在のところ、弁護士ドットコムがその最有力候補になる)のではないか」というのが論旨となります。

また、長くなってしまったので、計6回に分けました。業界状況をご存知の方は、第3回(本題編)からご覧いただければ十分でしょうから、適宜、読み飛ばして下さい。

1 前置き①町弁業界の大競争時代(と零落?)

約20年前まで、我が国の司法試験合格者の数は、年間500人に絞られていましたが、司法制度改革により、約10年前に1000人になり、数年前に2000人まで増えました。その中で裁判官・検察官となる(採用される)方は今も昔も年間150人(~200人弱)程度に絞られていますので、弁護士の年間供給数は、昔なら350人、今では1850人程度(昔の5倍以上)ということになります。

ただ、町弁業界の不況のため、(企業や役所などに就職する方はさておき)新人弁護士の一般的な路線=既存の弁護士の事務所(大半は零細企業規模)に就職することが困難である(新人全員を受け入れるだけの勤務弁護士≒従業員としての求人がない)ことなどから、新人の就職難やこれに伴う業界全体の混乱を回避する見地から、当面、1500人に減員することになりました。

ちなみに、業界の「不況」については、債務整理特需(俗にいう過払バブル。実需としての性格はありますので、バブルという表現は適切ではなく、特需と表現するのが正しいです)の終焉に加え、裁判所の統計によれば訴訟手続全般の新受件数も低落傾向にあること、企業倒産も史上有数の減少傾向が続いていることなどが要因(内訳)となっており、田舎の町弁の一人である私の実感も、概ねこれに沿うものとなっています。

他方、町弁が暇を持て余しているかといえば、必ずしもそうではなく、家事事件(主に、法テラス経由)を中心に、業界人の感覚では、業務量に比して報酬が大きくない、言い換えれば、相応の報酬はいただくものの、次から次へと細々した事務処理が必要になるため、時給換算で赤字計算になる仕事が多くなっている(それでも、仕事を選り好みする贅沢ができないので、研鑽の機会も兼ねて、受任して処理していかざるを得ない)のではないかと思います。

建設業の倒産が多かった時代(小泉内閣の頃)に私が管財人として携わった事件の記録(代表者の陳述書)に、破産に至る経緯として「不況なので採算割れする仕事も次々に受注し、ますます経営が悪化した」などと書いてあるのをよく見かけましたが、今や我が業界が、その様相を呈しつつあるのではと感じるところがあります。

もちろん、今は、町弁業界でも多人数のパートナー形式など僅かな経費負担で事務所経営をする若い弁護士さんも多く、私のようにイソ弁もいないのに一人で町弁2人分の運転資金を抱えるなどという人間は少数でしょうが、全体として、町弁(特に、若い世代)の所得水準が大幅に低下していることは間違いないと思います。

そんなわけで、私も、何年も前から、事務所の存続のため、若干でも経費を負担いただけるパートナーの加入を切望しているのですが、運の悪さか人徳の無さか、そうした出逢いに恵まれず、現在に至っています。平成20年前後には、新人を容易に雇用できるだけの売上があったので、その頃に良い出会いがあれば、今頃はパートナーに昇格して支えていただくという道もあったのでしょうが、様々な理由から人材獲得の努力をせず運を天に任せてしまいましたので、幸運の女神に後ろ髪はないというほかないのでしょう。なお、その頃の収益は、税金と住宅ローンの前倒し返済に消えました。

(以下、次号)