北奥法律事務所

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医療事故

医療事故など(各種のリスク事業)への賠償責任保険の義務化の必要性

以前、無痛分娩の施術ミスで母子に生じた重い障害が原因で約3億円の賠償命令を受けた産婦人科の医療法人について、破産手続がなされたとの報道を見たことがあります。
https://www.sankei.com/article/20210721-5RTRAIQZKBOVHDAG226GZ3TUHE/

賠償責任保険への未加入が支払不能の原因と思われますが(交通事故などと同様、保険に加入し保険対応が可能なら、賠償責任自体は保険対応でき、破産の必要はないはずですから)、被害者保護に悖るというほかありません。

病院に限らず、各種の士・師業など一定の割合で賠償問題が生じうる企業は、保険加入を開設等の必須要件とし、その上で、未然防止に資する業務監査などの制度を構築すべきと考えます(不法投棄問題や保育施設についても同様の投稿をしたことがあります)。

交通事故でも、無保険で巨額賠償義務を負った加害者が破産免責を受けて被害回復が全く果たされない例もあり、保険の義務化について社会はもっと関心を持っていただきたいところです。

私(当事務所)も、当然ながら弁護士業務に基づく賠償責任を対象とする保険に加入していますが、幸い、現在のところお世話になったことはありません。

賠償絡みではありませんが、企業間取引や労働問題などに関する請求で、散々苦労して勝訴判決等を得た直後に相手方企業が破産等に及ぶ例を何度か経験しており、そうした被害(貸倒)に対処する保険等の制度も考えていただきたいものです。

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ところで、以前、上記の内容をfacebookに投稿したところ、建設業界の方から、毎年、車両及び工事関係の保険の掛金だけで年間数百万円にもなり、社会保険なども含め、企業としての負担が大きいとのコメントをいただきました。

建設業界などの保険掛金等の実情は存じませんが(車両のように無事故歴等が長いと保険料が大幅に下がる等の仕組みはないのでしょうか)、一般論としては、自社の支払能力を超える巨額の賠償問題が生じうる機械類を扱っておられるのでしょうから、保険加入自体は必須とご理解いただくよう、お願い(お返事)しました。

ただ、良質な業務受注や適切な経費節減に務めておられるのに真っ当な企業経営が困難になるほど掛金負担が重すぎる、というのでしたら、それもまた、保険=被害補償確保=を維持できない本末転倒な話というべきだと思います。

例えば、従業員に劣悪環境を強いて事故=保険金支払を誘発させる一部の問題業者のせいで、業界全体の保険料(掛金)が増大しているなどという事情があるのでしたら、そのような問題業者を、事故発生以前から業界から退場させる仕組みを作るべきだと思います。

そのことで、結果として、保険事故なんて極めて稀にしか起きない世の中になれば、保険料も自ずから安くなるでしょうし、その上で保険会社が儲けすぎ云々の話があれば、掛金の返還などを含め、業界として団交いただくべきでしょう。

また、すでに相当程度なされているのでしょうが、入札資格であれ税制などの類であれ、保険加入社を未加入社よりも優遇する制度・仕組みが励行されるべきでしょうし、保険料に限らず、無事故歴が長いとか防止のための措置を適切に講じている企業などを様々な形で優遇する措置を、盛んにしていただければと思います。

ともあれ、善良な会社さんの企業努力だけで実現できるものではないでしょうから、業界内部で問題提起し改善に繋げていただければ幸いに思っています。

 

医療事故に関するご相談と「専門家セカンドオピニオン保険」の必要

医療過誤がらみの事件には残念ながらご縁が薄く、未だに訴訟として受任したことがないのですが、年に1、2回ほどの頻度でその種のご相談を受けることがあります。

先日、「初診対応したクリニックの転医義務違反の成否」が問題となる例についてご相談があったのですが、その件については、少し前に判例雑誌で勉強した事案によく似ていたので、それをもとに問題の所在など基本的な事柄をお伝えしました。

ただ、医療事故に関する賠償請求の当否は、「ガーゼ取り忘れ」のような素人目にも過失(医療水準違反)が明らかな事案を別とすれば、医師の対応が「医療水準に反すること」の立証が最大の難関になり、専門的知見をもとに水準違反を立証(証言)する協力医を得られるかという厄介な問題に直面します。

そして、私には日常的に医療過誤を取り扱っている方々のような人脈等がないので、「まずは、最寄りのお医者さんに当該問題(対象となった医師の対応など)が現在の業界(医療)の水準に悖ると言えるか聞いて下さい。もし、悖るというお話があれば、意見書その他の協力が得られるか尋ねて下さい」といった対応をするものの、残念ながら、そこで終わってしまうのが通例になっています。

そうした意味では、医療問題について、「ここに聞けば(調べれば)セカンドオピニオンを求める医師の先生がすぐに分かる」的なサイト等(さしずめ、「医療過誤ドットコム」とでもいうべきもの)があれば有り難いとも思うのですが、いずれにせよ、現状では高コストになることが多いと思われます。

この種の事案では、ご本人サイドのエネルギーの濃淡もまちまちで、この種の訴訟等にありがちな高額なコストを負担できない(その話が出ると一気に萎える)方も多いので、保険などを活用した無償・低コストで医療機関から簡易なセカンドオピニオンを得られるような仕組みがあれば、どちらの方針に進むにせよ望ましいのではと感じています。

もし、そのような保険(協力医保険)と弁護士費用保険がセットになって、保険制度を通じて協力医から簡易迅速に「当該医師の対応は医療水準違反だ」との意見書等が得られた場合に賠償請求等を自己負担なく(或いは低廉な負担で)行うことができるようになれば、医療事故などを巡る賠償問題に関する当事者の負担は大きく改善されることは間違いないはずです。

また、水準違反とは言えないという意見が得られて、そのことを患者側が受け入れる場合も含めて、そうした営みを通じて医療側の予防や説明等の仕組み、慣行も前進されるのであれば、社会的な役割も果たすことになると思います。

医療過誤は「専門」が強調される分野の筆頭格と言われますが、医療水準の議論で医師の協力が十分に得られるなど、医療絡みの高度専門的な議論について弁護士が自ら本格対処しなくとも済むのであれば、弁護士が医療自体に詳しくなくとも問題なく対応できることが多いはずですので、そうした仕組みが整備されてくれればというのが正直なところです。