北奥法律事務所

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半藤一利ほか「昭和陸海軍の失敗」

海軍兵学校・陸軍士官学校の失敗と法曹界

以前の日記で触れた、半藤一利ほか「昭和陸海軍の失敗」(文春新書)について、紹介がてら取り上げます。

本書は、昭和史に関する著作で有名な半藤一利氏をはじめ、先の大戦(15年戦争)の研究者として著名な方や自衛隊の幹部を務めた方が、陸海の様々な旧軍指導者の人物像を掘り下げると共に、彼らが戦前や戦中の重用局面でどのような決断をして国家に何をもたらしたかを、対談形式で詳細に論じた本です。

私は少年時代は歴史マンガばかり読んでいた裏返しで、近現代史に疎い面があり、特に、大戦の経過についてはさほど知識がありませんので、色々と勉強になりました。

個人的に興味深く感じたのが、「昭和9年頃までは、海軍兵学校は毎年約130人を採用し、陸軍士官学校のそれは約370人だった」と書いてある部分(129頁)で、これを足すと500人となり、平成2年頃までの旧司法試験の合格者数と合致します(私が合格した平成9年は約750人と聞いています)。

少し調べてみたところ、Web上で流れていた情報では(個人のサイト等ですので保証はできかねますが)、明治末期にはもっと多い人数を採用しており、昭和初期に一旦は上記の人数まで減ったものの、昭和15年頃からは、大戦の影響と思われますが、双方とも採用数が5倍以上に激増していったようです。

そのため、「平和な時代には500人程度しか採っていなかったのに、時代の変化により一気に採用数を増やした」という点で、ここ数年の司法試験の合格者の激増に似た面があると感じました。

もちろん、司法試験の方は、海兵・陸士ほどの激増にはなっていませんし、現在の合格者数など一連の司法改革が、大戦の敗亡の如き凄まじい負の影響を社会に及ぼすなどと安易に決めつけるつもりもないのですが、「先の大戦」と「司法改革(による対外的なものを含めた法律実務家の活動領域の拡大)」を比較する視点も含めて、何らかの意味で、参考になるところはあるのではと思います。

また、上記の「500人の合格者」の「130:370」という比率も、ちょうど、前者(130人)が、当時の裁判官及び検察官の新任採用者の人数と概ね同様と思われ、裏を返せば370人という数字は、500人時代における年間の弁護士の供給(新規登録)人数と概ね合致すると言えます。

このように考えると、日本の法曹界(官=裁判官・検察官と、民=弁護士)も、官界(個々の裁判官・検察官のほか裁判所や検察庁の組織全体を含む)を海兵(海軍)に、民界(個々の弁護士のほか弁護士会を含む)を陸士(陸軍)になぞらえて本書の言葉を見ると、興味深く感じる面が多々あるように感じます。

例えば、次のような言葉を、上記の観点で日本の法曹界に当てはめて考えてみると、どうでしょうか。

海軍は陸軍よりも所帯が小さい分、人間関係が濃密」(129頁)、「海軍は、内部ではやり合うが、外に向かっては庇い合う。一艦一家主義の体質がある」(170頁)

陸軍は、創設当初は、大山厳や児玉源太郎が大戦略を考えてくれたので、参謀は戦術に徹していればよく、陸士・陸大は、少壮参謀用に教育した戦術中心主義を、総力戦時代に突入した昭和に入っても変えなかったので、視野の狭い人材教育しかできなかった(将帥教育ができなかった)」(39~43頁)

「陸軍は兵站を軽視した」(44頁。兵站は、弁護士で言えば、事務所経営にあたるかもしれませんし、弁護士業界がそうしたもの(個々の会員への経営指導やマネジメントの質の向上)を軽視してきたことは確かだと思います)

「陸軍は、陸大教育でも「独断専行」を重視する」(168頁)、「石原莞爾や辻正信のようなアクの強い人物は、海軍からは出てこない」(同)

「陸軍は、悪行の告発合戦、責任のなすりつけ合い、目を覆いたくなるものがある。海軍は、他人の悪口を言わないサイレント・ネイビーだが、裏返せば組織等のあり方について活発な議論がない、そのことが海軍を肝心なときに機能しない組織にしてしまったと言えるのではないか」(169頁)

「(陸士で育った高級将校が)戦争を観念で考え、精神主義に陥った」(123頁。「戦争」を「憲法」に置き換えて、日弁連などの活動を考えたら、どうでしょう)

「陸軍と海軍はある意味、対照的な性格を持っている。徴兵制で広く兵を集める必要があった陸軍は、必然的に民主主義的な性質を持たざるを得ない(東条英機のように維新の敗戦国の出身者の多くが昭和陸軍の指揮官となったのがその到達点)。他方、海軍は、国際的で開かれた環境を舞台とし高度な技術を駆使する関係で、厳しい階級制に基づく一種の貴族主義的なカルチャーが根底にあった。その違いは、両者のルーツ(陸軍=奇兵隊=四民平等の軍隊、海軍=薩摩閥=身分制度による序列意識)に求められる。その結果、海軍は一般の国民から遊離した存在になり、国民全体の運命に無頓着になったと言われている。」(227~228頁)

ここ1、2年に読んだ本④~歴史系~

前回の投稿に引き続くプチ書評シリーズの第4回です。

【歴史系・歴史小説など】

司馬遼太郎「播磨灘物語1~4」講談社文庫

言わずと知れた、大河ドラマ「軍師官兵衛」の原作的な位置づけというべき作品であり(相違点は幾つかあります)、とても読み応えのある本です。恥ずかしながら、大河ドラマは「徳川家康」以降の8割ほどの作品を見ているのですが、原作を読んだことがほとんどなく、下手をするとこれが初めてかもしれません。

ちょうど、ドラマの放映初期の頃に読んでいましたので、小説とドラマの違いなども楽しみながら拝読しました。また、小説の最後も、官兵衛と家康の統治者としての路線の違い(商業的合理主義=ゼニ(商人・流通)の経済と、土着的な封建体制=コメ(農民・土地)の経済)と、それぞれが時代にどのように選ばれたか(戦国の混乱を終結させる力として前者が必要とされ、長い平和の時代を迎える際に後者が必要とされたこと)を印象づける内容となっており、現代に応用する上でも、色々と考えさせられるものがあったように思います。

また、3巻で、「戦では敵によい最後を飾らせよ」という記載があるのですが、この部分などは、勝ち筋の事件を受任した代理人にとって要諦の一つのように思われ(敗北する運命にある相手方に、尋問では裁判官の面前で言いたいことをそれなりに言わせるなど、ある程度、華を持たせるようなことをして和解などの逃げ道も作った上で、それすら拒否した場合に、やむなく判決で結果を徹底的に知らしめる、といった類です)、そうした観点からも参考になるところが、司馬遼本の魅力だろうと感じています。

余談ながら、この本も、学生時代に古本屋で買い込み、約20年も積ん読状態を続けてきたもので、配偶者の度重なる「捨てろコール」を無視し続けて良かったと思いました(笑)。

呉善花「韓国併合への道 完全版」文春新書

幕末から日露戦争後に生じた韓国併合までの朝鮮史を、激動の時代に国家と民族を守ることができなかった李氏朝鮮の国家や政府、社会全体への批判的な視点を交えて説明した作品です。

併合後の日本の統治や従軍慰安婦を巡る議論など近時の問題についても触れており、筆者のスタンス(韓国の出身の方ですが、敢えて自国に厳しい視線を向けています)への留意も必要かもしれませんが、「隣国・日本は欧米列強と肩を並べることができたのに、どうして朝鮮は国際社会の渦に呑み込まれてしまったのか」を知る上で、また、「国家の存立を米国の軍事力に依存している」という点で、当時の朝鮮に近い面がないとは言い切れない現代の日本であれ他の国であれ、同じ轍を踏まないようにするには何に留意すべきかという点について、色々と参考になる一冊だと思います。

半藤一利ほか「昭和陸海軍の失敗」文春新書

この本については、長くなりましたので、稿を改めてご紹介します。

磯田道史「天災から日本を読みなおす」中公新書

映画化された「武士の家計簿」(私は本も映画も未見ですが)の原作者である歴史学者の方による著作で、古代や中世に我が国で生じた大きな災害(大地震、噴火、津波など)が当時の社会にどのような影響を及ぼし、人々がどのように行動したか、資料などに基づき興味深く論じている一冊です。

秀吉政権の倒壊や佐賀藩の軍事大国化に天災が影響していることなど、歴史上の大きな出来事に災害が強い影響を及ぼしているという説明には、関心をそそられずにはいられない面がありますし、津波に関して詳細に述べられている最後の2章は、震災を経験した岩手県民には、色々と考えさせられる箇所が多々あると思います。

「富士山が噴火すれば火山灰が何日も降り注ぐので、ゴーグルは必須」という下りは、岩手山の場合、私をはじめ多くの人がスキー道具を持っているので大丈夫ですが、関東・東海(富士)や鹿児島(桜島)などの方は、留意しておいた方がよいかもしれません。先日、桜島を巡って緊迫感のある報道がありましたが、その際、「ゴーグルを買い占めて現地で売れば儲かるのでは?」と思わずにいられないものがありましたが。
上記のほか、井沢元彦氏の「逆説の日本史」シリーズも、大学3年頃に初めて読んで、語り口の見事さもさることながら、それまで放置していた歴史系の関心を掘り起こしてくれたことなどから、今も最新刊が出版されるたびに、購入して読んでいます。

このシリーズは、私の周囲にも「実は愛読者」という方が何人かおられるようで、先日、盛岡北RCの飲み会で、Kさんが「歴史上戸」と化して、「逆説」や高橋克彦氏の著作などにつき熱く熱く語っておられました。

余談ながら、ここで取り上げた4冊を見ると、「播磨灘」が安土桃山、「韓国併合」が明治~戦前、「昭和陸海軍」が大戦期、「天災から」が古代や江戸期(と現代)などを主に取り上げており、偶然の産物だと思いますが、我ながら、日本史に関しては、各時代をまんべんなくフォローするバランスの良い?読書生活を送っているような気がしてしまいます(自画自賛)。