北奥法律事務所

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原発ADR

まちの企業の盛衰と秋の空

近年、企業の管財事件を受任する機会はめっきり減ってしまいましたが、数年前は、論点や作業量が非常に多い事件を受任し、延々と様々な作業に追われ、何年もかけてようやく決着の目処が立つという案件を担当したことが何度かありました。

そのうちの一つで、県北方面の林業関係のA社さんの事件は、これまで取り扱った中でも1、2を争う面倒な管財事件で、配当財団の形成額が大きくないことなどから、報酬額はタイムチャージ換算で大幅な採算割れとなりました。

まあ、毎度ながら、勉強代だと溜息混じりに前向きに考えるようにしていますが。

A社さんは古くから県北のB町では著名企業として知られ、業界内では環境絡みで先進的な取り組みをしたことで県内などでも相応の知名度のある企業でした。

資金繰りなどで長期の苦難があり震災でも大きなダメージを受けたため、倒産のやむなきに至った事案でしたが、直近に一部の債権者との間で面倒なトラブルが生じていたほか、数年来の未処理の論点(しかも、申立書に記載されず後で判明したもの)が非常に多く、沢山の課題が丸ごと私(管財人)に山積みされる形となりました。

幸い、最大の課題であった企業施設(現地工場)の売却問題は、利害関係者である銀行なども含め多数の企業さんと様々な交渉を行った末、東京の会社さんに「従前の事業を承継しつつ設備投資をして発展させる」との方針で購入(落札)いただき、それに伴い元従業員の方々も再雇用を得ることができたと聞いています。

その後も、この事件では、原発ADRやら東京出張やら色々と作業に追われ、追加で現地確認の必要が生じて3年目の10月頃にもドライブがてらで行ってきましたが、その日は、晴れあり雨あり虹ありと、コロコロと天候が変わる秋の空でした。

A社は、先代のC氏が大きくした会社を息子のD氏が引き継ぎ、D氏が様々な悪戦苦闘をしたものの上手くいかなかったもので、終末期に色々と残念な話があり、その処理に私が追われました。

D氏の経営者としての未熟さが倒産の原因と考えるのか、先代のうちに破綻の芽が生じてD氏は割を食わされたと見るのか、一概に言えないと思いますが、私も「田舎の小規模な企業の社長の子」の一人として、A社の方々が辿ってきた様々な歴史や光景に想像を巡らさずにはいられませんでした。

そんなわけで、秋の空に物事の移ろいやすさとそれに翻弄される人々の姿を感じて一首。

ままならぬ人の世を知る秋の空 酸いも甘いも青の彼方に
ふるさとの誇る企業も常ならず 揺れる紅葉に風吠える森

この事件ではA社側がB町の中心部に所有する不動産を町が買い取ることとなり、役場の偉い立場の方が私と協議したいとのことで、来所されました。

これだけ苦労させられた事件ということもあり、いっそ、この事件を円滑に処理したことでどれだけ自分がB町に貢献したかをアピールし、将来の顧問契約を考えてくださいね、などと営業活動に勤しもうと思わないでもありませんでしたが、そんなときに限って前日が徹夜作業を余儀なくされて覇気がなく、淡々と相槌を打つ程度のやりとりに終わってしまいました。

田舎のしがない町弁が欲を出そうとしても、諸行無常の響きには勝てそうにありません。

企業倒産に関しては、年末に経営継続を断念される方が時折あり、昨年は急な要請で2日ほど徹夜作業を余儀なくされ数日で一気に破産申立を行ったこともありましたが、今年は現在のところ、そうしたご依頼はなく、静かな年末になるのかもしれません。

平成27年の取扱実績②交通事故等(賠償)、生活上の問題(消費者・契約)

前回に引き続き、平成27年の業務実績(従事ないし解決した紛争の概要)を守秘義務の範囲内で簡単にまとめました(全3回)。依頼先の弁護士を選定する際に参考にしていただければ幸いです。

(4) 事故等による被害の賠償等の請求や防御に関する支援

本年も、交通事故の被害者側での受任事件が多数あり、そのほとんどの方が、ご自身が加入する任意保険の弁護士費用特約により費用負担なく利用されています。

受任の内容も、過失割合(事故態様を巡る事実関係)が主な争点となる事案、物損の金額が争われる事案、むち打ち症(頚椎捻挫など)に基づく人身被害の賠償額の算定が中心となる事案のほか、過去には死亡事故や重度の後遺障害が生じて多様かつ多額の損害の算定が争われる事案も含め、幅広く取り扱っています。

また、学校で生じた生徒間の事故に伴う賠償事件など交通事故以外の人身被害に基づく賠償事件に従事する機会もありました。

他にも、福島第一原発の事故に基づく東京電力に対する賠償請求(県内の企業が受けた被害の賠償を求めるもの)を手掛ける機会あり、先般、原子力紛争解決センターに対するADRの申立を行っています。

現在のところ弁護士費用特約は保険料も低廉でご自身が被害を受けたときに弁護士への依頼の円滑さを確保する点で絶大な力を発揮しますので、必ず、この特約が付された任意保険に加入いただくよう、お願いいたします

(5) 個人(消費者)が交わす契約や社会生活を巡る法的問題の解決

不動産の賃貸借(契約終了時の貸主の目的物返還請求、借主の保証金返還請求など)や金銭貸借に関する紛争、不動産の登記に関する訴訟に関する紛争などを取り扱う機会がありました。

また、後述の震災無料相談制度を通じ多数の方々にご来所いただき、各種の消費者被害近隣トラブル労働事件など日常的に生活上の様々なトラブルに関するご相談に応じています。

本格訴訟としては、自宅建築目的で購入した土地で過去の所有者による不法投棄が判明し、証拠上、投棄への関与や監督責任があると認められる企業に賠償請求した事案を取り扱っています。相手企業側が強く争うことから投棄行為の立証のため様々な資料の提出を余儀なくされており、2年以上も続く難事件となっています。

その他にも、貸主側(貸主の相続人)の代理人として借主の賃料不払を理由に賃借物件の明渡請求をしたところ、借主側から、被相続人との間でその物件を購入する合意をしたとの反論があり、当否(売買契約の成否)が争われた事案(1審勝訴で相手方が控訴中)、数十年前に売買がなされた土地で、法務局に備え付けられている公図の表示などに問題があり、現在の登記などの状況では売却が困難であるため、当時の土地の使用状況や名義人の相続状況などを詳細に調査して取得時効による解決(移転登記請求)を図った事案(1審勝訴で完了)などを取り扱っています。

他にも、対人トラブルに起因する名誉毀損絡みの訴訟に関するご依頼もありました。

(以下、次号)

当事者として申し立てる、はじめての原発ADR

先般、当方が破産管財人をお引き受けしている企業さんについて、福島原発事故に基づく被害があるものの賠償問題が未解決ということで、一旦は東電に請求したものの芳しい対応が得られなかったので、現在、原発ADR(損害賠償紛争解決センター)の申立を準備している案件があります。

単なる賠償に止まらない色々な論点がある一方で、会社のご担当がご年配とか他の問題でそれどころでなかった等の事情で、当方の関与時まであまり話を進めることができないまま今年に至ったようです。

平成25年春頃、岩手県の企業も風評被害の賠償請求ができるという第三次追補が出されたことや弁護士会の公害環境委員会が相談窓口を仰せつかったことをきっかけに、当時、県内の事業者の方などから多くのご相談をいただいたのですが、ADR等の手続を私に依頼したいという方には残念ながらお会いする機会がなく、その後は、岩手でも被害対策弁護団が立ち上がり、運営を他の先生方にお任せしたことなどもあって、原発被害問題からはすっかり遠ざかってしまいました(この点は、今年の1月に書いた別の投稿もご覧いただければ幸いです)。

そのため、福島からの避難者の方なども含め、この手続にご縁がない状態が続いていたのですが、まさかこんな形で原発賠償問題にご縁ができ、当時収集した資料に出番がくるとはということで、不思議に思っています。

さきほど、センターの和解解決例を久々に見たところ、当時ご相談を受けた会社さんが申立人と思われる事案を見つけ(ご相談の内容に特徴があり、すぐ分かりました)、ご相談の際に仰っていた希望も採用されたという趣旨の解説が付されていました。

その件の注釈を見ると弁護士費用の計上がされていないので、恐らく(私がイヤで他の先生に頼んだという類ではなく)ご担当の方が自ら作成して申立をなさったのだと思いますし、お会いした際のご担当の方の事務処理能力が高かったことも覚えていますので、その件ではそれがベストの対応だったのだと思います。

ただ、企業さんによっては、自ら申立書を作成するのが困難であるとか、作成はしたものの内容について確認を受けた方が望ましいという例もあるでしょうから、そうした方々は、適宜、原発被害向けの無料相談制度などをご利用いただければと思います(個人も企業も利用可能です)。

さすがに事故(震災)から4年以上を過ぎて、少なくとも「風評」に関しては通常であれば新たな被害は考えにくそうですし、私自身、ご縁がないまま終わると思っていた矢先に、こうした事案の配点を受けて驚いているというのが正直なところですが、冒頭の会社さんのように、何らかの事情で先送りの状態が続いている方もおられるかもしれませんので、そうした方には、上記の制度などをお伝えいただければ幸いです。

その事件は、損害賠償以外にも岩手でその問題に詳しいのは私を含めごく少数という特別な論点(詳細は差し控えますが、地域や公の利害にも関わります)が潜んでいる事案ということもあり、久々に「呼ばれた」という感覚を禁じ得ませんでしたが、ADRを成功させないと先に進むこともできませんので、まずは優しい仲介委員や調査官の方に配点していただけるよう、精一杯お祈りしようと思います。

原発賠償問題に対する岩手の弁護士の関与状況

24日に、福島第一原発の事故に基づく賠償問題に関し、新潟で被害救済弁護団の中心を担っている二宮淳悟弁護士による講義が弁護士会で行われ、参加してきました。

講義では、福島県内で帰還困難区域等の外の地域(福島市、郡山市など)からの避難者の方が原子力紛争解決センターの申立を行う例を中心に、現在の原紛センターの和解基準に基づいた賠償請求や手続の方法、区域外避難者に関し現在問題となっている論点などについての基礎的かつ実践的な解説があり、そのような方からご依頼があれば、参加した岩手の弁護士の面々にもすぐにでも申立ができそうな印象を受けました。

原発被害に関しては、岩手の場合、大きく分けて、①福島等からの避難者の損害、②県内の企業等の損害(主に風評被害)の2つに区分されますが、私が経験した限りでは、残念ながら、3年以上に亘り双方ともご相談等を受けることは滅多にない状態が続いています。

岩手弁護士会では、震災直後から、原発関係の問題は公害対策環境保全委員会で対応して欲しいとの会内での要請があり、私もメイン担当の1人となっていたので、相談や依頼があれば適宜応じるとのスタンスでいたのですが、ほとんど相談等がない状態が続きました。平成24年中に1度、相談会を開催したのですが、非常に低調だったことを覚えています(但し、私は担当していませんが、沿岸で有名な企業さんが風評被害の相談をされたこともあったようです)。

その後、平成25年1月に原賠審から県内事業者向けの風評被害関係の第三次追補が公表された後、風評被害を巡る賠償請求が活発になるのではないかとの観測があり、同年中には、要請に応じて大船渡で出張相談会をしたこともありました。他にも原賠支援機構の無料相談に関する問い合わせ(県内事業者による風評被害相談)が弁護士会にあり、担当していましたが、結論として、原紛センターや訴訟などの依頼を受けることはありませんでした。

当時、一関の農業者の方が訴訟を行ったとの新聞報道等があったほか、県内の小売業者の方から原紛センターのADR申立依頼を受けた方が1件あったとのお話を伺いましたが、岩手の弁護士に事件依頼がなされる例自体がほとんどない状態が続いたことは間違いないと思われます。

もちろん、我々(弁護士会の担当者)が受任拒否をしていたわけではなく、PR不足のほか、直接請求で一応の解決をされている方が多かったり、そもそも福島から岩手への避難者数が他地域(南東北・関東・新潟)に比べて多くないといった事情があるのではないかとは思います。

ともあれ、そのような開店休業のような状態が続いたところ、昨年上半期に、弁護士会の震災対策の中心メンバーの方々が、懇意にしている他県の弁護団の先生などの支援も受けて、岩手で弁護団を作ることになり、以後、岩手での窓口は弁護団の方々が主に担うことになりました。私も弁護団には入っていますが、若手の方々に担当させるとの方針のせいか、私には声がかからず、出番のないまま引退しているような有様です。

ただ、弁護団のMLで流れている情報を見る限りでは、相談会を開催してもほとんど相談がなかったという報告を見ることがあり、弁護団の方々も、広報(相談や依頼の集客)には苦労しているようです。

そんなわけで、私に限らず、岩手の若手・中堅の面々も原発賠償問題の取扱いを希望しているものの、携わる機会のない状態が続いている感は否めず、残念に思います。

現在も福島の隣県などではADR等の手続が進んでいるようですから、岩手県内にお住まいの避難者の方や風評被害などの問題を抱えたまま適正な被害回復を受けることができていない(のではないかと疑問を感じている)県内企業の方々は、今からでもご相談・ご利用を検討いただければと思います。