北奥法律事務所

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あなたの街の森友学園事件(前編)~埋設廃棄物を含む土地を撤去費用を差し引いて購入した者が撤去せず放置した場合に生じる法的問題と対処策~

本日現在、様々な疑惑や法的問題が噴出し益々ややこしい展開になりそうな森友学園事件ですが、処理費用の見積の適正とか政治家の介入とか教育理念・手法の適否や教育基本法との抵触などといった問題はさておき、廃棄物の処理のあり方という点に関しては、昨年までこれに類似する事件に携わり、悪戦苦闘した経験のある者として、色々と考えさせられる面があります。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170216-00010000-bfj-soci

この事件の発端は、過去の様々な経緯で膨大?な廃棄物が埋設された土地を行政が取得し、そのまま放置していた点であり、廃棄物問題(環境問題)の観点からは、廃棄物が埋設されている土地を処理費用を買主が負担するとの前提で「本来の価格Aから、処理費用として見積もられた額Bを差し引いた金額C」をもって代金とすると合意して売却したのに、買主(森友学園)がこれを全部撤去(原状回復)せず一部(大半?)を放置したまま学校の建築を行ってしまったという点が、最大の問題だということができます。

この点について論点を整理するとすれば、次のようになるかと思います。

①廃棄物が埋設された土地を旧所有者(売主)が自ら適正処理することなく他者に売却して良いのか(代金から控除などという手法を採るくらいなら、その額を納付ないし適正な処理業者に支払わせ廃棄物の全面撤去を見届けてから売却すべきではなかったか)という問題

買主(新所有者)は適正処理をするとの前提で代金から処理費用を控除して購入したのに、直ちに処理をすることなく(売買時に負担すべき「代金」からの控除という観点からは、購入と同時に行うべきではないかと思われるのに)、除去をしないで土地を使用(校舎建築や校庭造成など)させてよいのか(そのような行為を規制=事前に廃棄物除去を義務づけなくてよいのか)という問題

③買主が本来の土地の評価額から控除対象とした「処理業者が作成した撤去費用の見積額」が適正なのかという問題

④仮に、買主が、このまま廃棄物の除去をしないまま倒産など「自ら廃棄物の除去をすることができない状態」に至った場合、土地に埋設された廃棄物は誰が、いつ、どのように除去するのか(費用を誰がどのように負担するのか、撤去はいつどのようにして実現されるのか)という問題

なお、前提として、このような問題を考える上では、その廃棄物がどのような原因で誰により埋設されたのか(誰の廃棄物なのか)という点も明らかにすべきですが、この点は、報道によれば、もとは民家などが建っていた土地を空港騒音対策の一環として買収した土地とのことで、買収時まで対象地を利用していた民間人(民家や工場など)が、何らかの事情で排出した物ではないかと推察されます。
https://www.buzzfeed.com/kotahatachi/what-is-mizuhonokuni3?utm_term=.xj9Jra03m#.lv7RJDweV

或いは、買収の際に、騒音のため活用できない土地だと軽信して当時の所有者(元売主)側で埋設したのかもしれませんし購入側(行政)の委託で買収地の建造物の撤去などを受注した解体業者などが不法投棄したという可能性も考えられます。売主側で撤去する前提で買収がなされたのなら、売主から受注した解体業者が不法投棄したと考えられ、私の経験した事件との比較では、この可能性が最も高いのではと思わないこともありません。

ともあれ、廃棄物処理法では、産業廃棄物(事業活動に伴い生じる廃棄物の大半)であれ一般廃棄物(その他の廃棄物)であれ、廃棄物はすべて法定の基準に基づき処理されるべきものであって、それをせず許可された処分場でもない一般の土地の地下に埋設するのは基本的に不法投棄に他なりませんので、本来は、その状態が「生活環境の保全上の支障(廃棄物処理法19条の4、同5など)」が生じているものとして、一刻も早くその状態を是正(原状回復)する措置が講じられるべきです。

そのような観点からすれば、

①土地所有者たる国が、今回の森友学園への売却にあたり、自ら埋設廃棄物の撤去をせず、又は、買主側で撤去するというのであれば、「買主が全量撤去を終える(適正な原状回復をする)ことを条件とする売却」などという措置を講じることなく、漫然と「撤去工事費用相当額を代金から控除して、実際に撤去するかどうかは買主の対応に委ねた」ことは、廃棄物処理法の理念に悖るというべきですし、

②買主(森友学園)が、撤去工事を自ら行うことを条件に代金の値引を受けて購入したのであれば、特段の事情がない限り、直ちに撤去工事を行った上で土地を利用するとの前提で購入したものと見るべきで、それをせずに廃棄物が埋設された(それどころか埋め戻した?)状態で土地を利用しようなどというのは、廃棄物処理法の理念に悖るというべきですし、

③現在の売主・買主の責任を問う以前に、廃棄物の埋設を行った張本人や、そのことに監督責任がある者は、特段の事情がない限り、その廃棄物を撤去すべき責任があるというべきで、本来は、土地所有者たる国や、廃棄物処理に対する監督責任のある行政(大阪府など)が、その点に関する事実関係を明らかにして現時点でも何らかの形で投棄行為者の責任を問うたり自主撤去などの任意の対応が得られないか検討、交渉することができないか検討することが、廃棄物処理法の理念(ひいては措置命令など諸規定)から求められているというべきだと思います。

特に、③については、行為者(本来の加害者)などに責任を問うことができなければ、売主=国=税金の負担で撤去(又は今回のように撤去費用を控除した売却)せざるを得ないのですから、なおのこと、この問題を軽視、放置するのは適切ではありません。

また、仮に、森友学園が学校不認可などの事情で倒産に至った場合、地中の廃棄物を誰がどのように除去するのか(してくれるのか)という問題が生じますが、その点(所有者の倒産後の所有地に埋設等された廃棄物の撤去等の確保という問題)についても、現行の廃棄物処理法は十分な制度を設けているわけではありません。

だからこそ、世論には、政治家の関与云々とか処理費用の見積の適正などの不正の有無、森友学園の教育手法の問題などといった点に限らず、「廃棄物まみれの土地を、どのように適正に原状回復するか、その費用は誰がどのように負担するのが適切なのか」、さらには、「こうした問題を再発させないため、廃棄物処理法をどのように改善すべきなのか」という問題についても、真剣に考えていただきたいと思います。

上記に即して言えば、

①自己の所有地に廃棄物が埋設されていることを知った者は、土地の売却時に、少なくとも売得金の限度で当該廃棄物を撤去すべき義務を負い、それを優先的に実施する(買主にさせる)ことなく売却できないものとする。

②廃棄物が埋設等されている土地を購入しようとする者は当該廃棄物を除去して原状回復した上でなければ、土地を利用することができない。除去に要する費用については代金からの控除を求める(そのような意味で売主負担とする)ことができるが、除去費用が土地の対価を上回る場合は、一定の条件のもと、廃棄物処理センター(廃棄物処理法15条の5)などが運営する基金制度から相当な支援を受けることができるものとする。

③廃棄物の埋設などを行った者は、原状回復に関する私法上及び廃棄物処理法上の責任を永久に負うものとし、売買時に瑕疵担保責任の免除などの合意(豊洲新市場でも話題になってますが)をしても特段の事情がない限り無効とする。但し、埋設等の際にこれを正当化せざるを得ない特段の事情があれば、内容に応じて減免することができる。

④廃棄物行政と法務局が連携し、土地に埋設された廃棄物等についての情報を収集して登記事項に掲載し、除去がなされない限り埋設情報を抹消してはならないものとする。なお、所有者等が埋設情報を把握した場合は、所定の方法で行政に申告すべき義務を負う。

といった制度を設けるべきではないかと思います。

少なくとも、現行法上は、土地の性状(汚染や埋設物等の有無)の公示制度(所有者への調査義務などを含め)がありませんので、土地を購入する者は、購入した土地が不法投棄や汚染等の問題があるかどうか必ずしも知ることはできませんし、取得した土地に埋設等が発覚した場合に、所有者に原状回復を義務づける制度も十分ではありません。

だからこそ、本来なら率先して撤去をすべき国自身が、このように廃棄物の埋設(不法投棄)を継続させたまま他者に土地を譲渡して撤去の有無を無責任的に(売主側が責任を持つことなく)委ねてしまうという出鱈目な事態がまかり通ってしまい、国政の混乱と共に怪しげな出来事や税金や政治資源の浪費などを招いています。

廃棄物処理法は、かつて「ザル法の典型」と呼ばれ、平成以後は全国で頻発した大規模不法投棄事件なども踏まえて強化の一途を辿りましたが、現在も様々な「法の隙間ないし狭間」が存在しています。

だからこそ皆さんにも廃棄物処理法制や実務のあり方に関心を深めていただきたいと思わざるを得ません。

また、森友学園の一連の問題が現時点で露見せず、後日に埋設が発覚した場合を考えると、さらに厄介な問題が生じる可能性があります。そして、そのような問題(人知れず廃棄物の不適切な埋設=不法投棄が潜在している土地)は、実は、我が国には現在、潜在的には大量に存在しているのです(先日の築地市場を巡る報道も、そうした現実を示すものでしょう)

そのことは、私が現に扱った事件などを踏まえて次回に触れますので、次回もぜひご覧下さい。