北奥法律事務所

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地方自治法232条の2

補助金の支出を巡る地元自治体の光景と田舎の町弁の意地

進行中の仕事なのであまり具体的なことは書けませんが、奇縁により、2、3年前に県内等を震撼させた「震災絡みの補助金の巨額不正使用などが問題となった事件」に1年半ほど前から関わっています。

私が担当しているのは事件全体の中では脇役というべき方なのですが、後始末の民事訴訟などでは要に位置する方なので、山のような訴訟手続が必要になっています。勉強にはなるのですが、経済的には「事務所を潰す気か」と天に吠えたい気持ちを抱えつつ、毎度泣きそうになりながら関わっています。

その事件では、舞台となったA町などの補助金の支出のあり方に大いに問題があると巷間では言われており、私も同様に感じるのですが、誰も住民訴訟等を起こす人がなく、訴訟上は不問に付された状態が続いています。

先日、訴訟関係者が集まった場でも、どなたがとは言えませんが、出席者の方々が「この点が置き去りにされてるよね」という趣旨のことを仰っており、改めて、その点は残念に思いました。

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で、どうして今こんな話を書いたかというと、A町ではなく以前からお世話になっている県内のB町(仮称)さんから、先日、上記とは全然関係のない件で補助金の支出に関するご相談を受けました。

そこで、事務所の書籍などで、補助金(地方自治法232条の2)の支出の適否に関する判断基準などをまとめた文献などを調べて、ご相談の件のお返事をしたのですが、読めば読むほど、B町さんの件(問題ないと思われる例)よりも、A町事件の方を考えずにはいられないという感じがしてしまいました。

ちなみに、自治体(地方公共団体)による補助金の支出は、「公益上の必要」の存在が必要とされていますが、具体的な判断基準は法律では定められておらず、裁判所の解釈に委ねられており、同条や地方自治を取り巻く諸制度、憲法89条の趣旨なども勘案して、判断することになります。

仮に、住民が「その支出は違法(地自法232条の2違反)だ」と主張して、支出を行った首長などや支出を受けた関係者などに賠償等の請求をしたい(自治体にさせたい)場合には、同法242の2第1項4号に基づく住民訴訟(や前提としての住民監査請求)を行い、「自治体は、支出に関与・容認した首長等や、受領した団体側に、賠償等請求せよ」という趣旨の請求をすることになります。

そして、これに対し、訴訟の被告となった側は、①当該補助金の支出は地自法232条の2に反しない、②仮に違反したのだとしても、故意や過失がない、などと、反論し、それらの主張の当否が問われることになります。

で、本題というべき、法232条の2違反の当否ですが、補助金の支出の判断については、様々な行政目的を斟酌した政策的な考慮が求められるため、社会通念上不合理な点がある場合や特に不公正な点がある場合でない限り、これを尊重することが必要で、そのような観点から首長などの裁量権の逸脱・濫用があると認められる場合に限って、違法になるとされています(最判H17.10.28等)。

その上で、「公益上の必要」に関する具体的な判断基準(要素)については、判例分析をした書籍によれば、

①補助金の目的、趣旨、効用、経緯
②補助の対象となる事業の目的、性質、状況
③当該自治体の財政の規模、状況、
④議会の対応、地方財政に係る諸規定の事情

などを総合的に判断するとされています。

例えば、支出目的が適正であるか、当該補助が当該「公益」の目的達成のため適切かつ有効な手段と言えるか、受給者たる団体や金額、使途等が、「公益」との関係で、社会通念に照らし、適切な支給先・使途と言えるか、支出手続や事後の検査体制、流用のリスクなどといったことが、具体的事情や政治的な事柄を含む事案の経緯なども勘案して、問われることになります。

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余談ながら、A町事件は、県内等を震撼させた大事件であるにもかかわらず岩手の弁護士さんがほとんど関わっていません(少なくとも、民事事件で関与しているのは、現在は私だけです)。

あまり具体的なことは書けませんが(事件が終わった後に、守秘義務などの範囲で、少し書いてみたいとは思っていますが)、その事件では、東京方面を中心に非常に多くの弁護士さんが関わっており、訴訟期日では、東京などの弁護士さん達に囲まれつつ仕事をしているという状態になっています(蛇足ながら、ほとんどの先生が、私ほどではないにせよ?経済的に割に合わない仕事をしている面があるように見えます)。

だから何だというわけではないのですが、この事件が世間の耳目を集めていた当時、地元で発生した大事件なのに、岩手の弁護士が関与しないのは残念なことだ、と思っていました。

それが、色々な偶然ないし行きがかり上、私が関わることになってしまったのですが、ある意味、(ご自分の迂闊さもあったとはいえ)とてつもない不運に巻き込まれてしまった依頼主(当事者ご本人)の心情と、私自身の、「とてつもなく不採算のリスクの高い仕事ではあるが、地元の町弁の意地?を示したい」との思いが重なる面もあり、ある程度の限界があるとはいえ、できる限りのことはやりたいと思っています。