北奥法律事務所

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弁政連

現状では少額しか認容されない長期困難訴訟(セクハラその他)に関する抜本的改善策(弁護士費用保険、短期審判+費用負担命令など)について

プロスポーツ選手(ガールズ競輪)の養成指導者がセクハラ行為をしたとの理由で提訴された訴訟で、450万円の請求に対し、指導者による一定のモラハラ行為が認定され賠償が命じられたものの、認容額が11万円であったとの報道を拝見しました(無料公開された限度でのみ)。

記事の事案そのもの(認容額や認定事実の当否)については具体的なことを何も存じませんので意見を述べる考えはありません。

が、事案から離れた一般論として述べると、11万円の認容額のために膨大な苦労と精神的負担を余儀なくされる訴訟を起こしたいと思う人はいませんし、弁護士も通常は受任できません。

この事件の審理状況などは存じませんが、熾烈な主張立証の応酬と複数の尋問を含むフルコース訴訟なら、弁護士費用保険(日弁連LAC)のタイムチャージ換算で50万円でも大赤字、100万円でトントンになるかどうかというレベルだと思います(当事務所の経費換算では)。

そして、裁判所が現在決めているこの認容額。これらの事情は、この種の相談を受ける都度、すべて私が相談者に説明している事柄であり、そのせいか、私はこの種の相談は時折受けているものの、訴訟を受任したことは一度もありません。

この訴訟の原告代理人がどれだけの費用をいただいているかは存じませんが、ご本人等が富裕層で認容額に関係なくタイムチャージどおり支払ってくれるなどという有り難いお話でなければ、恐らく(私も法テラス系など少なからぬ事件で経験しているように)限られた費用で大赤字に耐えて尽力されたものと思われます(事務所経費の負担があまりない低コスト弁護士さんもいますので、一概に言えないことですが)。

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もちろん、コミュニケーションのトラブルは、往々にして「どっちもどっち(お互いさま)」の要素が絡んでいることが珍しくなく、認容額が少額となっているのも、裁判所がそうした認識に立っていることの表れで、そのこと自体は多少やむを得ない面があると思います。

ただ、「自分は強い辱めを受けた、このままでは終われない、相手に一矢報いたい」という気持ちを抱えて生きることを余儀なくされた人達にとっては、こうした形で「今の社会では諦めるしかないんですよ」と扱われてしまうと、社会に希望を失い、やがて様々な形で社会に復讐することもあるのかもしれません。

そうしたリスクを抱えて人々の不満を抑圧する現在の社会を続けるか、敢えて不満と向き合い決着の場を支援する社会に切り替えるか、我々の選択が求められていると言えます。

結論として、軽微又は本人の非が大きい無理筋事案はさておき、現在の社会通念に照らして看過すべきでない、法廷に持ち込むべき価値のある事案については、弁護士費用保険などを強化して、本人の負担を大幅に軽減する形で真っ当な価格で弁護士に依頼できる仕組みを作るべきだと思います。

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例えば、モラハラ問題に限らず、解雇などを含む業務上のトラブルに関する紛争を対象とする弁護士費用保険を作り、保険料は所得に応じて年間数百円+α程度を源泉徴収しつつ、企業や自治体などが補助を出したり特約で保険料を上乗せすれば、タイムチャージの限度額を超えた対応も得られる(自己負担がなくて済む)、といった制度があれば、依頼する弁護士の費用負担は劇的に解消されるでしょう。

被保険者を同居家族とすれば、学校でのトラブルなども対象にできるかもしれませんし、自治体の援助内容次第で、住民獲得競争などにも影響するのかもしれません。

ただ、モラハラ申告などは交通事故と比べて無理筋相談が頻発せざるを得ないので、保険適用の可否を判断する事前審査が必要であり、その点も含めて保険会社や弁護士業界との協議が必要になると思います。現実には、事前審査で却下される例が多数生じるでしょうから、そこが事実上の第1審になるのかもしれませんが。

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また、弁護士費用以前の問題として、「もともと少額しか認容されない訴訟に膨大な手間や高額な経費が必要となること自体が間違っている=早期・簡易の紛争解決を可能とする仕組みを整備すべきでは、という点があります。

この点は、冒頭で述べた「フルコース訴訟」という展開になる前に、例えば、現在の労働審判のように、早ければ第1回又は第2回期日で裁判官が暫定的な心証を示して和解勧告し、なるべくその内容で和解を成立させる(尋問用陳述書や尋問など膨大な作業を当事者に強いるのを避ける)ことができれば、日弁連LACの基準(タイムチャージ30時間)の範囲内で大半の訴訟を決着できるはずです。

あくまで和解勧告ですので、形式的には双方に拒否権を与えますが、裁判所は拒否した当事者に対し、その後の判決等までの審理のために拒否された側が要した弁護士費用の実額(タイムチャージ制を前提とすれば、膨大な額になります)の全部又は大半を負担させる制度を作れば、事実上、勧告拒否に対する極めて強力な抑止力になり、大半の事件が和解勧告で終了することになります。

この種の訴訟は、被害者(請求)側だけでなく加害者(被請求)側も相応の事情があれば(不当・過大請求とか過失と評価できるなど)、弁護士費用保険が利用できるようにすべきだと思いますが、双方とも現行LACの30時間制で運用すべきで、かつ、勧告を拒否した場合は原則として以後の保険利用を不可とすれば、加害者(被請求)側の不当拒否への抑止だけでなく、被害者(請求)側の過大請求への抑止力としても十分に機能するはずです。

もちろん、相手方(敗訴者)負担に慎重な対応をとるべき事案もあるかとは思いますが、大半の事案では適切な運用が図られ、少額事件で膨大な時間と労力を当事者が強いられる(受任弁護士も大赤字を余儀なくされる)ことが大幅に減ると思われます。

その上で、裁判所や行政などが認定基準や慰謝料その他のガイドラインなどを作成・公表すれば、現在の小規模交通事故の大半のように、短期・簡明な解決が大きく促進されると思います。

十数年前、弁護士費用の敗訴者負担制度に関する議論が盛り上がった際には、環境系訴訟など「大企業相手に困難な訴訟に挑む、勝てないが社会的に意義のある訴訟」に従事する方々の猛烈な反対で頓挫したと認識しています。

が、そのような特殊事案には適用しないとの前提で「普通の少額事案を早期・簡明に終わらせるため(勧告拒否へのペナルティ=受諾のインセンティブ)としての「勧告拒否者の弁護士費用負担制度」を考えて良いのではと思っています。

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なお、「そもそも11万円では被害者が報われない」との点については、日本の裁判所が言葉の暴力への対処に冷淡な態度を続けてきたことが根底にあり、非常に根深く難しい問題です。

何より、裁判官は物理的暴力はしませんが(だからこそ、物理的暴力=事故のケガ等には高い慰謝料を命じる)、真綿でジワジワと首を締めるような言葉の暴力は大好きですので(弁護士や検察官も)、言葉の暴力にカネを払えというのは裁判官(法律家)の自己否定につながりかねず、容易に解決できることではありません。

(皆、膨大な勉強を続けて激しい知的対決を要する高ストレスの厳しい世界で生きている方々ですので、知的怠惰を感じた相手に厳しい態度を示すのは職業病としてやむを得ない面はあります。法律家に限らず医師など高学歴系職業に共通の性癖でしょうが)

結局のところ、人間の尊厳とは何か、総論と各論の議論をそれぞれ深めた上で、最終的には法律や各種GLなどで慰謝料増額要素の基準を明確化して裁判所に働きかけていくほかないのかもしれませんし、それは政治=国民に求められる役割だとも言うべきでしょう。

本当は、弁政連岩手支部などでも、地元の県議さんや市議さん達などと、こうした議論(ひいては議会決議などに繋げる)ができればよいのですが、万年窓際会員の身には、雑談や宴会の段取りばかりの光景を黙って拝聴する程度のことしかできず、非力さを嘆くばかりです。

・・・あっ、これも「言葉の暴力」ですかね・・かくて人類は不毛なりき。

 

不動産の登記名義を理由とする課税制度の理不尽と解決策~相続放棄制度との不整合という問題~

先日、知人の司法書士の方が、Web上で表題の件に関する投稿をなさっていました。具体的には、以下のような内容でした。

「相談者A氏は、先般、自身が全く知らない土地甲につき、α市から固定資産税の課税通知を受けた。甲地はAの亡親Zが所有しているが、Aは、事情によりZとは断絶関係にあったが、自身の知らぬところで、相続人の一人として遺産共有の法定相続登記がなされたため、登記名義を理由に固資税の請求が来たものである。

Aは、Zの相続の意思がなく直ちに相続放棄の手続を行いαに固資税は支払えない旨を申し出たが、αは『登記名義人に課税するのが地方税法343条1項で決まっているので、Aの申出には応じられない(請求どおり支払え)』との対応を繰り返すばかりである。

Web上の記事を見ると、役所の取扱は一般的なもので、それを支持した裁決例が多々あるようである。

Zの共同相続人として甲地に登記された他の兄弟姉妹Bらは(Aの調査では)全員死去しており、その子など(第二次相続人)CらがBらの相続をしたのかは不明。

Aは「甲地の競売等には何の異存もないが、以上の理由から自分の個人資産(固有資産)への差押はしないで欲しい」と希望している。

Aは、固資税の負担を免れることができるか、そのための方法如何。」

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税法は(行政法も)実質専門外ですが、それだけに?興味深いと思って少し調べたことを次のとおりご返事しました(文献を調べずに書いていますので、半分は戯言と思って聞いて下さい)。

論点1 固資税の課税を争えるか

この点は、残念ながら無理のようです。

紹介記事で引用された大阪地裁昭和51年8月10日判決は、(判例秘書で見たところ)不当利得返還請求という(この種の訴訟としては)不適切な請求原因となっているので、前例価値は疑問です。

が、同種の争点に関する処分取消請求訴訟である横浜地裁平成12年2月21日判決は、このようなケースの課税処分の適法性(名義人が相続放棄をした場合でも、登記名義人である以上は課税を行うべきであること)について、相応の理由を付した説示がなされており(私の勘違いでなければ、控訴・上告も退けられた模様)、恐らく、現在の裁判所がこれを否定する判断をすることは期待し難いと思われます。

論点2 課税を争えない場合の対処手段

相談者A氏は、実体上の所有権者(共有者)Bら(全員死亡とのことですので、その相続人Cら)に登記名義引取請求を行い、任意の対応が得られなければ、判決に基づき名義変更手続を行うほかないでしょう。

また、Aが支払を余儀なくされた固資税は、上記判決が指摘するとおり、B=Cらに求償請求するほかないでしょう(引取請求と併合)。

CらがBらの相続を放棄した場合には、相続財産管理人の選任申立を要するなど、さらに重い負担を要することになるかもしれません。

甲地は、恐らく、そうした費用や労力を投ずる価値の乏しい少額の土地だとお察ししますし、自治体に事情を説明して、A氏の個人資産への差押を保留するよう要請すること自体は、あってしかるべきかとは思います。

が、建前論として、彼らが「はい」と言うことはないでしょう(そのように聞いています)。

杓子定規に仕事をする担当者なら、個人資産への差押に及ぶ危険は否定できないかもしれず、その場合は、「税務の簡便迅速」の旗印のもとにA氏がこのような理不尽を強いられていること(第1)の当否も含めて、マスコミや司法書士政治連盟さんの出番(立法論)かもしれません(弁政連は期待できないので・・以下略)。

論点3 来年以後の固資税

既述のとおり、登記名義人になっている限り、固資税の納税通知(請求)を受けることは避けがたいと思われますが、相続放棄済みであることを資料と共に自治体に説明し、来年からはBらの相続放棄をしていない他の相続人Cらに請求書を送付してもらうことは、交渉次第で、可能ではないでしょうか?CらはAには按分請求できないでしょうし。

(この点は、関わったことがないので、分かりません。期待混じりのコメントです)

これが上手くいけば、今年限りの負担で済むのでしょうし、巨額の不動産で多額の請求を受けているというのでなければ、許容範囲の出費で済むかもしれません。

これが無理なら、あとは、論点2末尾のとおりというほかなく、立法的解決が待たれます。

企業施設の重大事故における賠償不払リスクの実情と解決策(前編・託児所の塩中毒死事件)

平成27年に盛岡市内の認可外保育施設で起きた「飲料に混入させた塩分の過剰投与に起因するとみられる幼児の死亡事件」は、現在、盛岡地裁の法廷で民事・刑事の双方が審理されています。

刑事事件については、加害者本人(施設責任者)が過失を認めたことから、盛岡地検は略式請求したのですが、被害者の強い意向を踏まえて盛岡簡裁が正式裁判を決定したとの報道があり、全国ニュースで大きく取り上げられた電通の自死事件に類する面があります。

その上で、遺族は「過失ではない、故意だ」と強く主張し、刑事事件の結果を待たずに民事訴訟を起こしたとのことであり、先般、第1回口頭弁論期日の記事が県内で一斉に取り上げられていました。
https://www.iwate-np.co.jp/article/2018/6/1/15487

この記事ですが、岩手日報の紙面では、Webでの表示内容に続けて「被告は弁護士に依頼してない=本人訴訟」と書いてありました。私に限らず、これを読んだ業界人は全員、「この人は無保険なんだ=被害者は回収不能の重大なリスクを負っているのでは」と嘆息したのではないかと思います。

ちなみに、加害者(施設側)が、託児施設内の事故を対象とする賠償責任保険に加入しているのであれば、交通事故一般と同じく、事故直後から損保会社が対応し、訴訟等になれば損保社の費用負担で指定弁護士(特約店のようなもの)が選任され、賠償額も当然ながら損保社から支払われます。

言い換えれば、本人訴訟と書いてある時点で無保険であることが確定したも同然で、しかも、弁護士に依頼していないこと自体、本人の無資力を強く推認させます。

ちなみに、幼児の死亡事故の性質上、賠償義務額は通例で億単位(最低でも5000万円以上)になるはずです。

その上、本件では被害者の方は東京の弁護士さん達に依頼されており、裁判が長期化すれば交通費(と日当)のため、地元の弁護士に依頼するよりさらに数十万円の負担を要することになるはずです。

どのようなご事情かは存じませんが、代表の先生は業界でも相応に著名な方なので、回収可能事案かつ賠償額に争いの余地が大きい事案なら相応の経費を負担してでも第一人者に頼みたい、というのはごく自然なことですが、加害者本人に支払能力がない場合は、さらにお気の毒な事態になりかねません。

私自身はこの事件に何の関わりもなく(当事者双方から相談等を受けたことはありません)、事件報道を最初に目にしたときは「託児施設なんだから施設賠償責任保険くらいは入っているだろう、死亡事故は大変気の毒だが、適正な賠償金の支払がなされるのなら、せめてもの救い」と思っていたのですが、その意味では大変残念な展開になっていると言えます。

もちろん、こうした話は本件に限った事柄ではなく昔から山ほど存在しており、私も残念なご相談を受けたことは山ほどあります。だからこそ、託児施設であれ自動車等であれ、高額な賠償責任を生じる可能性のある仕事等に携わる者には、任意保険の加入を義務化(免許要件)とすべきだというのが、私の昔からの持論です(被害者側の弁護士費用保険の整備も含め)。

私も「名ばかり理事」となっている弁政連岩手支部では、今年になって地元選出の国会議員さんと懇談しようということになり、先日は高橋比奈子議員との懇談会があり、6月には階猛議員との懇談会が予定されています。

私自身は、上記のような「実務で現に発生しているあまりにも不合理な問題とその解決策」を議員さんに陳情すべきではと思っているのですが、キャラの問題か過去のいきさつの問題(会内では「会務をサボるろくでなし」認定されているようです)か、残念ながら内部での意思決定権が与えられておらず自分の会費分の弁当食うだけの穀潰し傍聴人状態が続いています。

内部では「日弁連(のお偉いさん)が取り組んでいる問題を(議員の関心の有無にかかわらず?)宣伝すべき」というのがコンセプトとなっているようで、お偉いさん(や議員さん、世論など)の関心が及ばない限り、今後も残念な構造は放置され、気の毒な事態が繰り返されることになるのかもしれません。

もちろん本件の詳細は存じませんので、何らかの形で適正な賠償責任が果たされることを強く願っています。

私も、かつて県内で発生した保育事故の賠償請求のご依頼を受けたことがあり、本件のような甚大過ぎる被害ではなく、加害者が大企業で支払能力もあったため、適正の範囲内での賠償がなされたとの記憶ですが、ご両親の沈痛な面持ちは今も覚えています。

(H30.9追記)

14日に塩中毒事件で「検察は罰金求刑したが、裁判所は執行猶予付き禁固刑とした」との報道がなされていました。
https://www.nhk.or.jp/lnews/morioka/20180914/6040002031.html

私は、上記のとおり「民事訴訟で本人が弁護士に依頼せず自ら対応しているので、無保険(回収困難)事案ではないか」と考えたのですが、もしそうであれば、これだけ重い結果が生じている事案で、どうして検察庁が罰金求刑にしたのか、不思議に思います。

保険対応で適正賠償額が支払確実な事案であれば、加害者に相応に汲むべき事情があることを前提に、略式請求(罰金)とするのは理解できますし、これに対し、「被害者に過失のない死亡事故を起こして無保険で賠償できないなら正式裁判+実刑」というのが交通事故の通例のはずです。

「検察が略式請求としたが、裁判所が正式裁判とした事案」といえば、電通の過労死事件が思い浮かびますが、その事件の展開がどうであるにせよ、電通に民事訴訟(安全配慮義務違反に基づく賠償請求訴訟)における賠償資力が無いはずはなく、だからこそ、略式請求がなされたという展開は「昔ながら」という意味では了解できる面があります。

それだけに、この事案では「無保険事案らしき光景が見え隠れするのに、検察が罰金求刑に止まっている」ことに、非常に違和感を抱くのですが(被告人に罪責を問いにくい相応の事情があったのでしょうか)、この点について内情などをご存知の方がおられれば、こっそり教えていただければ有り難いです。

もちろん、実は責任保険が対応する事案だった、というのであれば、それに越したことはないのですが、そうであれば、どうして保険会社が介入せずに本人が訴訟対応しているのか、全く不可解です。

「義・支援金が家庭を壊す光景」と養育費不払問題の完全解決策としての「給与分割」提唱の辞

先日、弁政連岩手支部の企画で、年に1回ほど行っている岩手の県議会議員さん方と地元弁護士らとの懇談会に参加してきました。

今年は、例年どおり、震災絡み(被災者・被災地が直面する各種の法律問題)がメインテーマとなったほか、法テラス特例法の延長問題、成年後見制度への行政支援の強化(市町村申立やいわゆる市民後見人の育成など)、離婚等に伴い女性・子供が直面している法律問題の紹介(を通じた議会への支援要請)といったことが取り上げられました。

2年ほど前から釜石の「日弁連ひまわり事務所」に赴任している加藤先生から、被災地の弁護士に多く寄せられている相談・依頼の例に関する紹介があったのですが、その中で、「義援金・支援金の受領に関し、直接の受給者=世帯主が受領金を独占するなどして家族内で不和・紛争が生じている」との紹介がありました。

この問題は、私が震災直後の時期(2年ほど)に最も多く相談を受けた類型で、「いっそ不当利得返還請求訴訟をしたらどうですか(弁護士への依頼が費用対効果的に問題があるなら、本人訴訟用の書面作成くらいならやりますよ)」と説明していたこともあっただけに(残念ながら、結局ご依頼は一度もありませんでしたが)、懐かしく感じて、私も珍しく挙手して補足発言をさせていただきました。

改めて感じたのは、この問題は、誤解を恐れずに言えば「以前から不和の種があった不穏な家庭に役所が不公平な態様でお金を渡すことで、油を蒔いて点火させ、その家庭を役所がぶっ壊した」と言っても過言ではないのではということであり、だからこそ、行政は受給者に広くアンケート調査をして「貰って有り難かった人・家庭」もいれば、「そんなカネが配られたことで、かえって悲惨な事態になった人・家庭」もいるのではないかという現実を、きちんと把握、総括し、そうした「現金給付政策」の当否ないしあり方について検討すべき責任があるのではないかと考えます。

ご承知のとおり、現在の給付制度のあり方(世帯主給付)に対しては、世帯主ではなく個人単位にすべき(世帯主給付にしたいなら全員の同意書を要請し、それが得られなければ個人給付にするとか、世帯主を窓口にするにせよ給付の利益は各人が有する旨を制度で明示するなど)といったことを、日弁連など?が提言しています。

そうしたことの当否を明らかにする意味でも、今こそ(すでに時を失した感はありますが)、被災地住民を対象とする大規模調査が行われるべきではないかと声を大にして述べたいです。

ちなみに、今年の2月の弁政連懇談会について触れたブログでも、この件について取り上げていますので、関心のある方はぜひご覧ください。

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ところで、県議さんとの懇談の際、S先生から養育費の不払問題について詳細な報告がなされていたのですが、それを聞いているうちに、いっそ給与についても、年金分割のように「義務者を介さない受給者への直接給付制度(給与分割制度)」を作るべきでは?と思いました。

すなわち、義務者の勤務先が、「養育費の権利者(親権者又は子の名義)」の口座に直接に支払う制度を作れば、給与の全額を受領した義務者による不払という問題は根本的に解決されることになります。

こんな簡単で抜本的なことを誰も言い出さなかったのだろうかと不思議に思ってネット検索してみても、その種の提言を見つけることはできず、FBで少し聞いてみたところ、給与分割ではないものの、日弁連が「国による養育費の立替(と不払者への国からの求償)」の制度を提言していたとの紹介を受けました(私も過去に読んだ記憶があり、すっかり忘れていました)。

ただ、日弁連意見書の理念に反対する考えはないのですが、「立替制度」だと財源をはじめ導入に必要な作業・工程が多そうですので、給与分割方式の方が手っ取り早く導入できそうな気がします。

さらに言えば、国の立替方式は、実質的には国が育児費用を給付する性質を帯びることから、「子を育てるのは誰か」という家族観ひいては憲法観の問題に関わりそうで、その点でも、議論百出=導入できたとしても時間がかかるのではと感じます(議論そのものは盛んになるべきだと思ってますが)。

私が考える「養育費等の支払のための給与分割制度」は次のようなものです。

①まず、子のいる夫婦の協議離婚については、親権者の指定をするのと同様に、原則として養育費の合意が必要とし(紛糾すれば調停・訴訟により解決)、合意した額を、家庭裁判所の認証(これがないと不相当な額になるため。なお、認証作業は裁判所から指定された弁護士が行う等できるものとすれば業界的にはグッド)のもと、離婚届に記載する(調停離婚等ならその届出時に調書等を添えて養育費の額も役所に申告する)

②その届出を受けた役所が、マイナンバー制度を通じて?義務者の勤務先に通知→勤務先は、義務者の給与から養育費相当額を天引して権利者の指定口座に直接に送金する(但し、分割は義務ではなく、権利者の同意があれば直接送金や供託等の処理も可能とする)、

婚姻費用についても、同意又は審判に基づき定めた額を対象とする給与分割を実施できるものとする(役所に届出→マイナンバー等(社会保険等)を通じて?勤務先への通知)。

これにより養育費等の不払問題は根底から解決するでしょうから、日弁連(子ども関連委員会?)がこれを提唱しないのは怠慢の極みでは?と思わないでもありません。

マイナンバー制度の導入に伴って、離婚等に伴う給与や退職金の分割制度もやろうと思えば確実にできるのではないかと思っているのですが、マイナンバーそのものに否定的?な日弁連に旗振りを期待するのは無理なのかもしれません。

ただ、この制度が実現すれば、高金利引下げと同様にまた一つ弁護士の仕事分野(養育費債権回収)が無くなるわけで、町弁の皆さんますます貧困~♪(ラップ調に)と思わないでもありません。

なお、こうした制度に反対する方(養育費の支払確保の必要を前提としつつ給与分割という方法自体に反対する方)がどのような反論をするかと想定した場合、その根拠として、①給与天引制度が作られると、離婚や別居の事実を無関係の第三者(職場関係者)に知られることになる(情報漏れ等を含むプライバシー問題)と、②天引制度を通じて特定人(養育費等の義務者)の諸情報(勤務先から離婚等の事実・養育費等の額まで)を国が一元的に把握・管理することへの不安(ソフトな情報管理・監視社会への恐怖)の2点が挙げられるのではないかと思っています。

①については、天引ありきでなく、権利者が同意すれば(或いは義務者の申立に正当な理由があるとして裁判所の許可を得ることができれば)天引をせずに自主支払とすることができる(のでプライバシーOK)とした上で、不払等の不誠実事由があれば権利者はいつでも天引の導入を役所に要請できる(申立も簡易な手続でOK)とすれば、きちんと履行する真面目な義務者に不利益を課さずに済む(不誠実な義務者に即時の措置を打てる)ので、それで対処可能と考えます。

これに対し、②については、まさに価値判断の問題で、そうした管理社会的な流れを危惧する(ので住基ネットやマイナンバー等に反対する)方の心情も理解できるだけに、悩ましいところだと思います。

ただ、なんと言っても、「自分では権利主張(確保手段を講じること)が困難な子供の権利・利益を守ること」こそが大鉄則であることは明らかでしょうから、それを前提に、ドラスティックな制度の弊害の緩和なども考えながら、世論の喚起や理解を得る努力を図っていくべきなのでは(少なくとも、当然に支払われるべきものに執行の諸負担を負わせるのは絶対に間違っている)というのが、とりあえずの結論です。

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ところで、今回のブログで取り上げた二つのテーマ(義・支援金の内部紛争と養育費等)は、一見すると無関係のように見えますが、家庭の内部紛争という点では同じです(前者は行政から支給されるもの、後者は家庭内の扶養義務者が支払うべきものという違いはありますが)。

日弁連などは、ともすれば公権力に対し社会的弱者に救済のための公金を拠出せよということばかり強調しがちですが、財政難云々で税金から巨額の拠出を求めることのハードルの高さ(時に不適切さ)が強調される昨今では、それ以上に、「税金に頼らずとも「民」の内部で解決できる仕組み」や民間=家庭の内部の意識等の質を高める仕組み、ひいては法やその担い手(弁護士)がそのことに、どのように関わっていくか(役立つか)という視点を中心に、制度のあり方を考えていただくことも必要ではないかと感じています。

そもそも、「国にあれしてくれ、これしてくれ」とばかり主張するに過ぎないのなら、およそ国民主権の精神に反する(国に何かをしてくれと求めるよりも、自分が国・社会・周囲の人々のため何ができるか、すべきかを考え実践するのが主権者のあるべき姿ではないのか)と思いますし。

余談ながら、今回の弁政連の「県議さん達との懇親会(宴会)」も前回と同様、当家は家族の都合が第一ということで、私は帰宅せざるを得ませんでした。

まあ、当方の営業実績は昨年の今頃と同じく試練の真っ只中ですので、金持ちでもないのに交際費を拠出しなくて済んだと思わないでもありませんが、「私の祖父は県議だったんですよ~」と親近感をアピールして県議さん達を相手にヘコヘコと営業活動に勤しむ・・などという野望?はいつになることやらです。

まあ、上記の発言は、「でも、そのせいで実家の商売は潰れかけたので、政治は御法度というのが家訓なんですけどね」というオチがありますので、県議さん達に話しても嫌な顔をされるだけでしょうけど・・

弁政連岩手支部と県内の議員さん方との懇談会

2月20日に弁護士政治連盟(弁政連)岩手支部と県内の議員さん方との懇談会があり、参加してきました。

弁政連とは、事実上、弁護士会が作った政治運動?的な組織であり、同種のものは弁護士に限らず各士業で作られているものですが、他士業が自分達の職域拡大のため熱心に活動しているのに比べ、弁政連はそうした活動に積極的ではなく地元の議員さんとたまに懇談をする程度の活動に止まっている例が多いようで、岩手もその典型という感じではあります。

今回は、まず、総会の時間を利用し弁政連の会員でもある階猛議員から現在の国政に関する報告と題して階議員が取り組んでいる幾つかの事柄(憲法改正や財政、特定秘密法など)について、同議員の見解表明を含む問題意識に関する説明がありました。

続いて、各党の国会議員や県議会議員の方々が15名ほど出席された形で懇談会が始まり、震災問題が最重要テーマとして取り上げられ、陸前高田で活動する在間文康弁護士が、再建支援金(住宅)、援護資金貸付、各種給付金、災害公営住宅、災害関連死、被災ローン、造成地の瑕疵など、様々な話題についてご自身が取り扱った相談・受任事件などに基づく詳細な報告を行い、それに対し議員の方々が質問や意見を述べるというやりとりがあり、これで予定時間の大半を使った形になりました。

私自身は、在間先生が赴任される以前は陸前高田に当時あった相談センターなどに月1回以上のペースで赴いていたのですが、当時は他の被災地も含め、最も相談を受けていたものが「義援金等の受領者(世帯の代表者)が家族に配布せず独り占めしている」という内部紛争的なものでした。

そのため、当時から、立法?問題として世帯主に給付する形式はやめるべきで、内部的にも分配ルール等を定めるべき(不当な独り占めは不当利得返還請求等もできるものと明言されるべき)と感じていましたが、どういうわけか当時も今もこの話を問題にする方が誰もおらず、その点は今も不思議に感じています。

ただ、懇談の中で議員さん側から「賃貸アパートの貸主として生計を立てている人は、借主が支援金を受給するのに、自分は何も貰えず建築ローンのみが残って立ちゆかなくなった」という発言がありましたが、これは私も震災直後に宮古市などに赴いた際に何度か聞いた記憶があり、懐かしく感じました。

その際は、「多くの人が問題意識を共有しているので、何らかの制度が定まるまで待ってみては」とお伝えしていたのですが、結局、私的整理ガイドライン(いわゆる被災ローン減免制度)による銀行債務の一部免除以外にはさしたる制度ができていないように思われ、その点は残念に感じています。

他に、法曹養成制度(主に修習生の困窮)について弁護士側から議員さんに改善への後押しを求める陳情的な説明がなされていましたが、そこで時間切れとなり、私が準備段階の会合で取り上げて欲しいとお願いしていた「包括外部監査人など、政治部門(行政・議会)への地域の弁護士の関与の機会の拡大」というテーマには触れていただけませんでした。

以前にも書きましたが、私は「大雪りばぁねっと事件」に関する一連の民事訴訟に関わっている唯一の「岩手の弁護士」で、要のポジションにある方の代理人をしていることもあって、事後処理絡みを中心に様々な「残念な事情」を把握しています。

それだけに、できれば、守秘義務の範囲内でそうした話も交えつつ未然防止に関する制度改善や地域の弁護士の活用などの必要性を説明することができればと思っていただけに、残念に思いました。

そもそも、私が弁政連に加入したのは、狭義の政治運動(反政府闘争の類や業界権益絡みなど)に関わりたいからではなく、町弁業界が新人弁護士激増の受け皿となる「活動領域の拡大」(ペイに長期戦が必要なものを含む広義の「仕事」の増大)ひいては、それを通じた「地域社会への法の支配(法の正義を中心とする日本国憲法の理念を生かした社会形成)の浸透」について地道な努力をする必要に迫られており、地元の政治関係者への支援要請はそれに対する真っ当な方策ですので、そうした営みに汗をかきたいという理由からでした。

ですので、震災絡みであれ他の事項であれ、地域の様々な社会課題を取り上げ、かつ、「望ましい解決のあり方」を提言するというだけでなく、その解決の過程に「地域の弁護士を、このような形で活用してほしい」との提言、陳情を含むのでなければ、弁政連がそれを行う意義は乏しく、私が関わる必要もないと感じています。

そうした意味では、今回の懇談会が、上記の包括外部監査人のような「地元弁護士の仕事を増やすための陳情」よりも、修習生の窮状云々の説明という「業界への予算を増やしてほしいとか、弁護士の数を減らすべきという主張に親和性のある陳情」を優先させたことは、その文脈に照らしても残念な感じがしてしまいます。

また、この種の会合には常のことではありますが、様々な方が多様な論点や問題意識につき意見を仰るものの、百家争鳴して話は全く進まずという感は否めず、その点も残念に感じました。

根本的には、上述のような「弁政連(岩手支部)とは何をする組織なのか」という定義付けの問題があるのですが、多くの団体や支持者などと関わりを持たなければならないという意味で、時間が限られているであろう議員さん方との懇談の機会を持つにあたっては、個別実務に関する問題意識を説明するだけでなく、その改善を具体的に実現するための法律や条例などの案(改正を含む)や現行規定の具体的な運用案のような形(それを議員さんがそのまま議会等に持って行き、立法活動や議会からの行政への要望という形で伝達できる)で提言し、実現過程の協議まで繋げるような工夫が必要ではと思いました。

もちろん、問題意識そのものが浸透していない論点では意識喚起の説明だけで精一杯にならざるを得ないでしょうが、震災絡みの論点の多くは問題意識そのものは異論なしという話も多いでしょうから、なるべく各論(改善案)の話を進めていただければと感じています。

ところで、弁政連(岩手支部)は「不偏不党」という政治運動と真っ向から矛盾するような?スローガンを掲げていることもあり、開催にあたっては県内の国会議員と県会議員の全員の方々に参加依頼をしており、出席予定者に関しては、概ね各党の方々が参加を表明されていたのですが、どういうわけか、自民党系の県議さん(予定者3名)が当日は全員欠席となり、高橋ひなこ議員は参加されていたもののすぐに所用?で退席されてしまったので、結果として、階議員をはじめとする民主系と主濱議員をはじめとする小沢氏ないし達増知事系、旧地域政党いわて系列(いわて県民クラブ。平野議員は欠席でした)、あとは共産党と公明党と無所属の県議さんのみという出席者構成になっていました。

私は弁政連の立ち上げのときから参加しており(力のない窓際会員ですが)、私の記憶でも、議員さんとの懇談会は例年とも民主系列など(国政野党)の方は割と多く参加されるのに対し、自民系列の方の参加はいつも少ないという印象が強く、弁政連側のポリシー(特定政党に偏する支持はしていない)という点に照らしても、残念に感じています。

階議員の本来の職業が弁護士(しかも岩手会所属)であることや、その関係で弁政連側も階議員(や系列の民主県議の方)と懇意にされている方が割と多いように見える(逆に、自民系の国会議員さんや県議さんと親しくしている方は私の知る限りではあまりおられない?)ことも、そうした背景にあるのかもしれません。

ただ、旧地域政党いわて系の方々も例年よく参加されているように感じますので(平野議員も今回はたまたま急用とのことでした)、その点はよく分かりません(単純に、自民系の県議さん達は地元の弁護士は相手にしていないということなのでしょうか?)。

40年も前の話で恐縮ですが、私の祖父は自民系列の県議(二戸選挙区)として1期を務めており、残念ながら2期目で落選して引退になったのですが、どこまで本当かよく分からないものの、福岡工業高校を誘致したのは祖父だとか政治に手を出したせいで家業が倒産寸前まで追い込まれたとか、子供の頃は、そうしたことで色々な話を聞いたことがあります(なので父は政治に関わることを強く嫌っていました)。

それだけに、私自身が選挙と関わることはないでしょうけど(人気投票には適性なさすぎですし)、地域のニュートラル(やや保守系のノンポリ無党派層)な法律実務家として、与野党を問わず地域の課題抽出や立法過程などに汗をかいて欲しいと求められれば、お役に立ちたいとの思いを募らせつつ、そうした機会に恵まれないまま鬱屈した日々を過ごしているというのが正直なところです。

今回の懇談会も引き続き議員さん方との懇親会があり、上記の観点から地元の県議さんで私を必要として下さる方にお会いすることができればと思っていたのですが、妻が外せない飲み会があるということで、残念ながら弁護士側では私だけが不参加となり、この種の話がある際の通例として夕食は近所のスーパーで家族の割引弁当を買いに行くというトホホな夜になりました。

兼業主夫の宿命なのか高校進学時の呪いなのか分かりませんが、弁護士会であれJCであれ議員さん方であれ、もっと盛岡や岩手の方々と距離を縮める機会があればと思いながら、どういうわけか私には引力よりも引き離そうとする力のほうが強く働いてくるような感じがあり、そういう星の下に生まれたのだろうかと時に悲哀を感じながらも、まずは自分にできることを地道に模索し続けたいと思います。

ともあれ、弁政連関係者の一人として、ご参加いただいた議員の皆様に御礼申し上げます。

廃れゆく第三者検証と田舎弁護士

「大雪りばぁねっと」事件では、岩手県が山田町に多額の補助金(税金)を支出した(のに回収不能となった)関係で、補助金の支出に関わった県の対応に違法不当な面がなかったか検証する趣旨の委員会が行われ、先日、報告書が出されましたが、「県の対応は一概に不適切とまでは言い難い」等の検証結果に対し、県議会では検証不十分との批判の声があがったというの報道がなされています。http://www.nhk.or.jp/lnews/morioka/6045634511.html?t=1393991536424 http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/iwate/news/20140304-OYT8T01513.htm

「第三者検証」については、平成11年頃に発覚した岩手青森県境不法投棄事件の際、当時の増田知事の指示で県の対応を検証する第三者委員会が設けられており、これは、「第三者検証」としては初期に作成されたもの(恐らく、第三者検証がその後に流行するきっかけとなったものの一つ)と思われます。

その際は地元の大ベテランの弁護士の方が委員長となり、我が国の環境系の行政法学者の第一人者の一人である北村喜宣教授が委員の一人として大鉈を振るったとも聞いており、この事件では岩手県は被害者という色合いが強いものでありながら最後の時期の県の対応には権限行使(許可処分)について違法な点があったと断言するという点で、画期的と目された検証報告書が提出されています。

その後も岩手県では、競馬場問題など幾つかの県の政策課題で第三者検証委員会が行われていますが、私の知る限り、報道で大きく取り上げられたとか県政に相当な影響を及ぼしたという話は聞いたことはありません。

私は、県境事件の検証報告書のほか、その後に公表された幾つかの報告書も見ていますが、県境事件に比べると、あまり踏み込んだ検討をしていないという印象を受けた記憶があります(釜石の鵜住居センターの報告書はまだ拝見していませんが、相当に膨大なものだと聞いており、地元の気鋭の弁護士さんも関わっているため、例外に属するのかもしれません)。

全国的に見ても「第三者検証」が期待はずれと言われることも少なくないようで、現在は「第三者検証」ブームの廃れ?に伴い、検証に関する取組も、徐々に低調になっているように思われます。

今回の「りばぁねっとへの補助金の検証」では、過半数が県職員で、外部者は県内の大学の先生お二人だけとのことですが、その布陣に止まったのも、低調な潮流の流れの一環と理解した方が賢明なのかもしれません。

ちなみに、山田町による検証報告書(こちらも地元のベテランの弁護士の方が委員をされています)もネットで概要版が公表されていますが、実務家としては、「補助金受領者の対応の検証」や「行政対応の検証」を目的とするのであれば、個人名は伏せるにせよ、受領者や関係職員等の具体的な作為・不作為を抽出し、それらに関わる法令・規則等も明らかにして、前者が後者に抵触しないかについて具体的に論及するような内容にした方がよいのではと思わないでもありませんでした(それがないと、何となく、行政の政策や執行のあり方に関する抽象的な見解に述べているに過ぎないように見えてしまいます)。http://www.town.yamada.iwate.jp/osirase/daisansha-iinkai/houkoku-gaiyou.pdf

もちろん、関係者の法的責任の有無の解明を目的とするか否かという前提の問題はありますし、私自身、検証のあるべき姿についてさほど心得があるわけでもありませんので、個々の作業に関し偉そうなことを言うつもりはありませんが(なお、通常は検証結果をもとに職員に対する懲戒等の処分をするはずなので、少なくとも、行政の担当者の作為・不作為(法適用等)が関係法令に合致したものと言えるかについて具体的な検討をする内容でなければ、やる意味がないのではと思いますが、その点の実情はどうなのでしょうか)。

ところで、弁護士会には「弁政連」という政治家の方への陳情等を目的とした別働隊のような団体があり、私も、名ばかり(昼飯穀潰し要員)ですが入っています。

岩手では「日弁連の偉い方々が掲げている憲法や人権云々の大きな話(集団的自衛権反対など)について、岩手の代議士や県議に陳情せよ」との指令?に基づき、年に1回くらい、議員さん達と懇談会をして、そうした話をしています。

ただ、そうした事柄もいいのですが、個人的には、個々の弁護士にも議員さん達一人一人にもさほどの影響力がない上記のような「大きすぎる話」ばかりでなく、陳情する側もされる側も一定以上の影響力を直ちに行使できる地元固有の事柄に、もっと力を注いだ方がよいのではないかと思わざるを得ないところがあります。

例えば、県議さんに対し、「県内で起こった、税金(県税)の使い道に関する大きな事件・問題の検証については、県職員や学者さんばかりに任せるのではなく、事実の調査や分析等に研鑽を積んだ(又は積む意欲のある)地元の若い弁護士に機会を与えて欲しい。(りばぁ事件のニュースで)県の幹部の方に、『県議自身が、検証委員は県職員で良いと選んだのだから、報告書を見て検証委員が県職員だから身内に甘くてダメだなんでいうのは間違っている』と言われるくらいなら、その方がマシではないですか」といった陳情をしてもよいのでは、と思わないでもありません。

とはいうものの、私が余計なことを口にしても皆さんに嫌な顔をされるだけなのだろうなぁと思って、会議・会合の類では毎度ながら貝になってしまうのがお恥ずかしい現実です。

個人的には、可能なら、岩手県に絡んで作成された過去数年ないし十数年の第三者検証委員会報告書を全部集めて、法律家の立場から、それらの精度を検証するような(いわば第三者検証ランキングのような)レポートを、意欲のある弁護士が作成して公表してもよいのではと思わないでもありませんし、私もそうした試みに関わってみたいという気持ちがないわけではありません(まあ、岩手弁護士会については、以前に身内で起きた大事件の検証もしていないじゃないかと言われそうな気もしますが)。

ただ、私自身、今や業界不況の真っ直中のせいか、事務所の運転資金のための労働と兼業主夫業で精一杯というお寒い現実があり、大言壮語を吐く資格が微塵もない有様で、ただただ嘆くほかありません。

少なくとも、「第三者検証なんて何の意味もないね、やっぱり警察に捕まえて貰うしかないじゃないか」という形で世論がまとまるのであれば、民主主義を標榜する社会としては寂しい限りというほかなく、関係者の奮起と国民・住民一般の後押しを期待したいところです。

追記(3/6)

この投稿をfacebookで紹介したところ、「友達の友達」である学者の先生から、預り金の信託に関する判例(最判H14.1.17及び最判H15.6.12)の紹介がありました。

私自身、十分に咀嚼できていませんが、例えば、自治体(金員交付者)がNPO法人(金員受領者)と信託契約を締結し、交付金を他の財産と区別して管理させる(特定の口座に預金させ目的外の預金払戻等もさせない)ことを徹底しておけば、仮に、法人が倒産しても、その交付金(預金)が特定され保全されていれば、破産の効果(総債権者による差押)が及ばず(信託法23条?)、取戻権のように全額を自治体が返還請求できるということもありうるかもしれません(後者の判決の補足意見参照)。ただ、信託は残念ながらご縁がなくほとんど勉強もしていませんので、まだ思いつきレベルです。

まあ、今回(りばぁ事件)は、自治体側の監視等の不行届が著しそうなので、そのような話をする前提すら欠いているということになるかもしれませんが、少なくとも、自治体が補助金を交付する例に限らず、預り金なども含め、返還の可能性を伴う高額な前払金を交付する場合には、信託的手法の活用も意識すべきことになるのかもしれません。

 

岩手における「政弁交流」と復興法制に関する議論の様子

岩手弁護士会では、数年前から年1回ほど?の頻度で地元選出の国会議員さんや県議さんとの懇談会を行っています。都合の付かない方などを別とすれば、毎回、全政党・党派の方々がいらしています。

私自身は下っ端の一人として末席で協議を拝見するだけなのですが、一応は主催団体(弁政連岩手支部)の会員である上、今回は震災絡みの話題が豊富であることや、政官ならぬ「政と弁」のコミュニケーション自体には関心がありますので、なるべく参加することにしています。

で、先日、その会合があったのですが、時間の大半を震災問題、とりわけ高台移転などの土地収用・区画整理の問題に費やしていました。例えば、「相続人が膨大で事務作業が進まない事案が多い」などといった、問題点の報告がなされていました。

ただ、まだ実務の動きが進まないせいか、具体的な処方箋(大量相続人の事案で、例えば、不動産の遺産分割手続を省略し、行政主導による相続分の換価供託で済ませるような特別法など)について、あまり議論が煮詰まっている印象は受けませんでした。

まあ、私自身が、その種の議論と縁が薄く、話の中身を理解できていないだけなのかもしれませんが。

個人的に、強く印象を受けたのは、被災地で執務する方(弁護士)の報告として、現在の仕組みは、被災地の復興を担う主力となるべき、ある程度の収入、稼働力、資力のある40代前後の世代に対し冷たい仕組みになっているという話でした。

具体的には、その類型にあたる人は、住宅等の被災でローンが残存しても、ある程度の高収入があるので私的整理GLで救済(減免)が拒否されてしまうとか、その世代は一刻も早く自宅を再建したいのに、前提というべき高台移転等が整わないので、建てたくとも建てられず、さらに生活再建支援法に基づく加算支援金の期限も迫っているなどの点が挙げられていました。

そして、要するに、現在の被災地に適用される法や実務スキームが、勤労の意欲と能力のある復興の主力担い手層に冷たい形になっており、これでは、この層が次々に内陸に移住せざるを得ないのではという指摘がなされていました。

また、ある議員さんから土地の境界問題の迅速解決の必要性が強く述べられていましたが、その点について、現在の状況や処方箋などを述べる方がいなかったことが、少し気になりました。

私は筆界特定制度が導入された10年近く前、少しだけ筆界調査委員をやらせていただいたことがあり、その際、筆界特定制度の有用性(境界確定訴訟と比べた使い勝手の良さ)を感じる一方、法務局の方々が多くの手間をかけて非常に厳密な調査をしており、これを大量にこなすことは無理だろうと感じたことがありました。

思いつきレベルですが、筆界特定に関する特区制度のようなものを設けて、法務局や筆界調査委員の主導で、通常よりも簡易迅速な方法で筆界を定めて、不服がある者は自己の費用負担で通常型の処理を申し立てることができるといった制度を設けてもよいのではと感じました。

これと上記の未分割不動産の簡易買取制度をセットにすれば、境界及び相続未確定の不動産の区画整理などは、ある程度、迅速に行えるのではないかと思いますが、どうでしょうか。

この点は被災地における実務の実情を踏まえた判断になるでしょうから、詳しく調査、レポートする学者さん?などが登場いただければと思ったりもします。

ともあれ、このような政弁交流に限らず、ここ1、2年は、岩手弁護士会と県庁の方が協議することも頻繁に行われているそうで、これも震災前にはほとんど見られなかったことです。

私自身は、今や事務所の運転資金を稼ぐことに汲々とする身のため、そうした営みに参加する余力が乏しく、残念に思っているところですが、具体的に実働の出番が必要となれば、いつでも取り組めるようアンテナだけは張っておきたいと思っています。