北奥法律事務所

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弁護士会のCM

弁護士会のCMから考える、弁護士と弁護士会の関係

前回に引き続き、弁護士の広告に関する投稿です。

私はほとんど拝見したことがないのですが、岩手弁護士会では、昨年頃からテレビCMを出しているそうで、今後も、CM等を行っていくのだそうです。ただ、その費用の一端を負担しているのであろう末端会員としては、費用対効果がどうなっているのか、何らかの形で説明等いただければと思っているのですが、残念ながらそうしたものをお見かけした記憶がありません。

そもそも、弁護士会は弁護士個々の雇用主ではなく同業者団体(互助組合)であり、地元の弁護士会が地域内でその存在をアピールすることで、個々の弁護士(会員)にとって直ちに具体的なメリット(利益)が生じるわけではありません(岩手県医師会が「医師会をよろしく」という広告を出したところで、県内の個々の病院に患者が行くわけではないのと同じことです)。

これに関しては、弁護士会は各種相談事業などを行っており、個々の会員もそれに参加することなどを通じて、依頼(業務)を得ていますので、その意味では、弁護士会の存在感が高まれば、会員の仕事も増えるのではと期待できる面があることは確かです。そして、弁護士会の事業には集客に苦戦しているものも幾つかあり、CMはその集客(テコ入れ)を意図して行っていると聞いています。

ただ、集客のテコ入れという趣旨で高額な経費をかけてCMをするのであれば、放送の前後で個々の事業の集客にどの程度の変化(増減)があるか、個々の担当者の受任状況やそれに基づく担当弁護士個々の売上の増減についてはどうか、というところまで調査していただきたいところではあります。

そして、相応の効果(経費に見合うだけの担当者個々の収益増進)があると言えるのであれば、今後もCM等を続けるとか、そうでなければ、CM等のあり方について再検討するといった作業が望ましいのではと思います。

しかし、そのような調査をするためには、「担当弁護士個々の(弁護士会主催の相談事業関連の)収支情報の把握(開示強制)」という、現在の弁護士会には難しいであろう作業が必要となるため、結局は、そのような費用対効果の分析はなされることなく、そうした曖昧さと対をなすように、広告等に関する残念な営みが今後も繰り返されるのだろうと思います。

また、私の知る限り、岩手には自らテレビCM等を行っている地元の弁護士の方は現時点で存在しませんが(広島?には、東京等の過払広告に対抗して「地元の仕事は地元の弁護士に」というメッセージを打ち出したCMを展開されている事務所があると聞いたことがあります)、そのような弁護士(事務所)にとっては、弁護士会のCMひいては相談事業そのものが、一種の商売敵(ライバル事業)ということになるはずで、その点も含め、地方の弁護士会(強制加入団体)としての広告のあり方などを考えるべきだと思います。

このように「弁護士会の広告」という問題は弁護士と弁護士会との関係のあり方と密接に関わることではないかと思われます。すなわち、会員等の会からの独立と会への依存・統制のどちらを重視するか、双方の要請をどのような形で調整すべきか、弁護士会が広く相談事業を行い会員に仕事を供給していくのと(大きな弁護士会)、その逆=会が独自事業をするのを極力差し控えて会員個々の自助努力に委ねるのと(小さな弁護士会)、どちらが適切なのかといった問題です。

弁護士ないし弁護士会の広告という事柄については、そうした論点も視野に入れて、議論が深まればと思っています。

日弁連CM問題と、今こそアピールすべき弁護士像を考える

私はTVで視たことがありませんが、日弁連が全国的に放映しているCMがあるのだそうで、業界内では何かと話題になっています。http://www.youtube.com/watch?v=8bVRpp18zAg

ネットで流布されている噂話?では、このCMに5000万円もの会費が使われているのだそうで、私に限らず、若い世代を中心に、いよいよ厳冬期に突入し始めた弁護士業界では、「金(会費)返せ」と怨嗟の声が巻き起こっているようです。

それはさておき、私は弁護士の本質は傭兵だと思っていますので、このような「フレンドリー路線」で弁護士という商品を売りだそうという考え方には、どうしてもついていけないものを感じてしまいます。

私自身は、弁護士の典型ないし理想像は、権力者はもちろん大衆にも媚を売ることなく叩き上げのスキルと専門家の根性で黙々と自分のやるべきことを孤独かつ無愛想にこなしていく「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」のようなものだと思っています。

なので、仮に、私がCM制作に携わる立場なら、今回の日弁連CMとは真逆の作品を作ろうとすると思います。例えば、こんな感じです。

①最初に、人々が無惨に殺される戦争や昔の酷い暴力などのシーン。

②場面が変わり、スーツ姿の弁護士が「異議あり!」などと宣言し、厳しい論調で相手方を問いつめ、誤りを認めさせる(堺雅人氏を起用?)。

③そして、「私達の社会は武器を捨てた。しかし、理不尽な仕打ちが社会からなくなったわけではない。それと闘うために、法と弁護士があります」などといった趣旨の言葉をナレーション。

④場面が変わって、現代の、理不尽な目に遭わされている弱者を大きくクローズアップするシーンを出す(例えば、夫に蹴飛ばされる妻(或いは上司と部下)とか?逆の方が今どきかもしれませんが)

⑤最後に、「理不尽に負けるな!私達は、貴方と正義のために闘います」との文字を表示してCM終わり。

ニコニコするだけなら、他士業でも、それ以外の人でも、誰にでもできます。しかし、依頼者の権利と法の正義のためにどこまでも闘うことは、我々にしかできません。

弁護士は敷居が高い、と言う人はこれまで沢山いました。このようなCMが出てくる背景にも、そうした主張があるのかもしれません。

しかし、「弁護士が敷居が高い」との主張は、正しい事実を描いたものとは言えません。

多くの日本人にとって本当に敷居が高かったのは、弁護士という職業ではなく、まして個々の弁護士そのもの(例えばこの男、小保内義和)でもありません(目つきの悪いベテラン方が沢山いるとの話はさておき)。

敷居が高かったのは、闘うことそのものだと思います。

これまでは、自分の権利、自分の正義を守るため、闘うことには躊躇する人、或いは、そこまで追い詰められていない(と感じる)人の方が圧倒的に多かったと思います。だから、傭兵である弁護士と関わることに、得体の知れぬ異形の文化と接するような違和感を持っていたのであり、それと「保険のないオーダーメイド傭兵」ゆえの費用の高さなども相俟って、「敷居が高い」と形容していたに過ぎません。

今、その前提自体が、様々な面(闘うための法制度の整備、コスト、闘争を余儀なくされる場面の増加、そして人々の気質等)で、着実に変わりつつあると思います。

だからこそ、人々が、他者と利害が衝突したとき、自身の正しさを世に問うことを諦め衝突現場から退くことを是とするのではなく、自己の正しさを主張し闘うことを鼓舞すること、そして、弁護士の数が大量に増えた今こそ、それを適切に補佐する専門職として、これまで以上にその役割が果たせるのだと喧伝することが「日弁連の広告」に求められているものではないかと思うのですが、いかがでしょう。

ちなみに、この点は、日弁連評論家で有名な小林正啓先生のブログを参考にしています。 http://hanamizukilaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-76f3.html

このような、ある意味、「和の国」に相応しくない存在として弁護士を考えていく観点からは、キャッチコピーだって、あんな「ニコニコしまくり」みたいな雰囲気とは、真逆のものを用いるべきだと思います。

例えば、こんなものはどうでしょう。

“貴方に嫌われたっていい。貴方の役に立ったのであれば。”
“社会に嫌われたっていい。明日の社会を守ったのであれば。”

それこそ、弁護士が依頼者に色々と面倒な準備作業を要求するものの、それが奏功して裁判官が良い心証を示すような「妙薬は口に苦しバージョンのCM」もいいのではと思います。

さらに言ってしまえば、「ニコニコのアピールをしようとする弁護士(ガッキー氏?)が最初に出てきて、それを『そんなのはダメだ』と押しのけて、闘うことをアピールする弁護士(堺雅人氏?)が出てくるようなCM」というのも、話題性という点では面白いかもしれません。

とまあ、いつも誰かに嫌われている?僻み根性たっぷりの私としては、ニコニコだらけのCMを見ていると、このようなことしか考えつかないのでした。

ま、ここに書いている程度のことは、日弁連のお偉いさん方や優秀な広告代理店の方なら重々承知のはずで、それでも深慮遠謀があって、今回のようなCMを作っているのだろうと解釈しています。例えば、社会が、揺り戻しの時代に向かっているからこそ、弁護士という、ある意味では西洋的近代化を象徴する側面のある存在が社会から排撃されないよう、慎重な対応をとっているという見方もあるのかもしれません。

ですので、このCMの反響も含め、この種の「フレンドリー路線」がどのような帰結をもたらすか、片隅で見守っていこうと思っています。