北奥法律事務所

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法テラス

日本語しかできない田舎の町弁が従事する、外国人相談の現状と本音~その1~

今回は、外国人向け相談に関する小話(前編)です。

数年前から弁護士会の某委員会と県庁の協定により外国人向けの無料相談会が県内でも年数回行われており、応募したところ、昨年は3回の配点を受けました。

最初に担当された方は、「相談の中身は交通事故とか日本人向け相談と大差ないものばかりだった、日本語も全面OKの方ばかりだった(ので、日本人の相談と何も差がなかった)」と豪語?していました。

ですので、語学能力も外国人向けに特化した法制度等の知識理解もさほど必要ないのかと安心して応募したのですが、

よくもそんなインチキ話をしてくれやがって

と言いたくなるほど、ズブズブの本格的な外国人相談ばかりでした。

1回目は、東南アジア出身の女性が日本人DV夫から子連れで脱出(シェルター保護)したので、これから離婚手続などをしたいというものでした。

事前に相談概要のメールが来たので、日本語が全く話せない外国人が調停などを行うための手法(現実的に利用可能な制度の有無など)について、(これまで経験がないので)あれこれ調べました。

結局、法テラスによる通訳利用などにも様々な限界があり、現状では、知人や大使館などを通じて外国人向け支援団体を探すか、最低でも、英語が堪能な弁護士さんに依頼すべきでは(当方は良好な対応が困難)と回答せざるを得ませんでした。

この点は、現在の法律実務の不備が大きいのではと思われ、少なくとも、日本語を使用できない外国人の離婚調停等に対応する通訳支援(税金等を含めた基金制度)と迅速解決の仕組みが整備されるべきと感じます。

***

2回目は「A国籍(西欧系。米国ではありません)の県内在住外国人(配偶者は日本人)が遺言作成の相談をしたいというもので、県庁担当からのメールには、

「遺言書は、日本語で書かないとダメだ(英語ではダメだ)と書いてあるサイトがあり、本人が不安になっているので、その点は分かるか」

などと書いてありました。

日本国内に資産を有する外国人の遺言という問題は、日本法と本国法のどちらが優先するかなど、外国人に特化した様々な制度や議論が複雑に絡み合うテーマですが、私自身は「外国人が遺言を作成する事案」の相談を受けた経験がありません。

やむなく、長年、事務所内で出番のなかった文献群を色々と調べ、次の内容をメールで書いて返信しました。

**

①外国人が外国語で自筆遺言証書を作成することは(民法の方式に適っているのであれば)可能・有効である

②但し、日本国籍ではない以上、本国=A国の法律の適用を受ける可能性がある。

一般論として、本国(A国)の財産は、本国法に従った遺言書の作成を要するが、日本国内の財産は、日本で作成した遺言書により処分できる(A国法が、日本法の適用を認める)ことが多いようである。

この点は、A国で渉外事務を扱う弁護士にも相談した方がよい(A国籍である以上、日本国内の資産の処分であっても、すべて日本の法律で大丈夫と思わない方がよい=同国弁護士にも相談すべき)

③日本国内の財産を遺言により確実に処分したいのなら、公証人役場で公正証書を作成すべきで、その場合は役場と相談の上、信頼できる通訳を交えるべき

なお、当職がWebで調べた限り、外国語で遺言ができないと書いたものは見ていない(上記と同趣旨のことを書いているものは確認した)。

以上の理由から、遺言の対象となる相続財産が日本国内のものであれば、通常の遺言事案とさほど変わらない説明ができるとは思われるが、本国等の財産であれば、当職が手も足も出ない=本国等の弁護士に相談し対処すべきで、その点を担当から確認していただきたい。

***

すると、当日になって・・・(以下、次号)

 

震災無料相談制度の終了(あと1日)と「駆け込み利用」に関するお知らせ

岩手では一般の県民にも最後まで知名度がありませんでしたが、「震災当時、岩手県民など(被災三県民及び隣接被災地民)であった方」なら誰でも利用できる無料相談制度が、明日(3月31日)、終了となります。

ただ、この制度、31日までに申込を行っていただければ、来所自体は4月末まででもOKとなっています。

というわけで「実は相談したかった」という岩手県民などの方がおられれば、31日の営業時間内にお電話いただければと思いますので、一応お知らせいたします。

まあ、こんなことを書いても、当事務所に電話が殺到することは微塵もなかろうかとは思いますが。

なお、限られた資産・収入しか有しない方のための無料相談制度(扶助相談等)は今後も従前同様の内容でご利用が可能ですので、該当する方は、ご遠慮なくお申し出ください。

本来は半年以上前から泉佐野市のように?「無料相談終わっちゃうよ、今のうちにおでんせ大キャンペーン」を行いたかったのですが、昨年前半頃から首が廻らない状態が延々と続き、残念ながら、何もできずに今日を迎えてしまいました。

当事務所(に相談いただいた方々)も、導入時から現在まで長年に亘りこの制度に大変お世話になり、導入や延長にご尽力いただいた皆様には、改めて感謝申し上げるところです。

震災相談制度などについては色々と述べたいこともありますが、またの機会にということで、本日は一旦ここまでとさせていただきます。

以上、当事務所からのお知らせでした。

 

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編②

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第4回です。

弁護士費用保険が普及すれば、弁護士業界が大きく変容していくのではないかという趣旨のことを述べた投稿の4回目です。今回は「顧客への品質保証などの観点から、保険会社と町弁側を繋ぐ役割を担う企業が業界内で大きな機能を果たし、影響力を増していくのではないか」というテーマについて書きました。

6 弁護士の斡旋(マッチング)サービスと医療界との比較

前回は、「弁護士費用保険の利用者は、弁護士のコストの無料・低廉化を求めるだけでなく、依頼のニーズに適合する弁護士の斡旋等の機能も、保険商品が果たすことを期待しているのではないか。そして、そのニーズに応えるため、町弁に関する幅広い情報提供や斡旋サービスを行う企業が、存在感を高めていくのではないか」という趣旨のことを書きました。

ところで、医療の世界に関しては、日本は国民皆保険制度になっていますので、私も含め、多くの方が、医療に関する公的保険の費用(税ないし保険料)を負担していますが、他方で、私が知る限り、少なくとも公的な医療保険には、ここまで述べてきた「自分の症状に対する適切な診断、治療を行ってくれるお医者さんの紹介」を担うようなサービスは無いのではと思います(いわゆる医療保険にはそのようなサービスがあるのか、勉強不足のため存じません)。

私自身、自分に一定の症状が生じた場合に、そもそも何科に行けばいいのかすら分からないことが多いので、そうしたサービスがあればと感じるところはあります。

反面、そのようなサービスが発生ないし普及しないのは、少なからぬ方が、まずは地元の診療所を利用し、それで対処し切れないと診断された場合には、地元の大学病院を紹介され、それでも対処し切れない(特別な対応が必要・相当だ)と診断された場合には、支払能力があることを前提に?国内の限られた一部の医療機関を紹介され、そのサービスを受けるという仕組みが、割と出来上がっている(その過程で医師から受ける診断やアドバイス等を信頼する文化がある)からなのかもしれません。

そのような観点からは、何らかの法的問題を感じた方が、「かかりつけ医」ならぬ「かかりつけ弁護士=最寄りの(かつ、自分と相性がよい)町弁」に相談し、その町弁では対処しきれない問題は、地元の大事務所や特殊な技能を持った弁護士さんに、という文化が存在すれば良いのではという観点もあるかもしれません。

ただ、弁護士業界に関しては、「大事務所」化している(それが機能している)のは、特定分野への専門特化が強く要求されている企業法務の世界が中心で、町弁の世界では、ある程度の人数がいると言っても、普通の町弁の寄せ集め(集合体)に過ぎないケースも多々ある(言い換えれば、お医者さんの世界に比べて、地元の小規模事務所で十分対処できる業務の方が、遥かに多い)ように思います。そのため、「大病院と町医者」という役割分担のシステムが適合しにくい業界であり、上記のような「町弁Aから専門弁護士Bへの紹介」という紹介システムが機能しにくい面が強いと思います。

また、医療の場合、国民皆保険なので、かえって医師の格付けや斡旋などの仕組みが作れない(横並び的性格が強まりやすい)のではという面もあるのではと思います(もし、保険廃止=自費負担が原則となれば、皆保険社会に比べて、医師間の競争が熾烈なものになりやすいのではと思います)。

この点は、米国の医療保険制度(における医師の斡旋等の仕組みの有無など)を、弁護士費用保険との比較などの観点から研究していただける方がおられればと思わないでもありません。

7 弁護士紹介・選別・格付け業者の台頭と斡旋報酬規制の撤廃?

これに対し、一定のサービスを付して保険商品として販売する方式であれば、競争原理が働き、「我が社の保険は良質な弁護士の斡旋サービスも伴っているので、他社商品より優れている」などと消費者に売り込む(かつ、その体制づくりをする)保険会社も、やがては登場するかもしれません。

ただ、前回述べたとおり、その斡旋機能を保険会社自身が適切に果たしうるか(果たすだけのシステムを作れるか、その意欲があるか)という点には疑問があり、弁護士の斡旋ができる(前提として、利用者のニーズを把握する質の高い相談機能と、そのニーズに合うだけの弁護士を紹介・マッチングできるだけの、業界・業界人への知見や人的ネットワーク等の機能を備えた)企業が、社会的なニーズとして求められてくるのではないかと思います。

そして、私の知る限り、現時点で、そのポジションに最も近い位置にある(かつ、他の追随を許していないと評しても過言でない)のは、「弁護士ドットコム」だと言ってよいのではと思います。

ただ、現時点で弁護士ドットコムが果たしている役割は、せいぜい弁護士の紹介機能(無料相談サイトによる能力紹介ないしマッチング的な機能を含め)に止まり、上記のような意味での斡旋機能を果たしているとは思われません。

また、弁護士ドットコムという企業が、ここまで述べてきたような「顧客のニーズに適った弁護士を紹介できる適正な斡旋」を果たしうる企業と言えるのかという点も、(同社の実情を把握しているわけではありませんが)現在の弁護士ドットコムのサイト情報など、公開されている情報を見る限り、まだまだ未知数だと思います。

このような機能・役割を果たすには、町弁が従事する基本的な諸業務及び基礎となる法制度などに通暁することを要すると共に、長年に亘り、弁護士業界(又はその周縁)に身を置いて、多くの弁護士の仕事ぶりや建前と本音、業界の理想と現実を見て、体系的に業界情報を収集、整理している方でないと、到底担えるものではありませんから、元榮氏が創業した新興企業というべき弁護士ドットコムが、現時点でそれだけの知見、ノウハウを企業として有しているか(短期間で備えうるかも含め)、懐疑的と言わざるを得ません。

敢えて言えば、現在、弁護士ドットコムが、一般向けのQ&Aなどの事業を盛んに行っている点は、それに参画している弁護士の情報を整理することで、ツールの一部として活用することができるのだろうとは思いますが、もちろんそれだけで足りるような話でもないでしょう(元榮氏が弁護士ドットコムの創業について記したご著書をまだ拝見していませんが、このような観点から読んでみれば、色々と分かることがあるのかもしれません)。

さらに言えば、そもそも、本格的に(業として)弁護士の斡旋を行おうとすれば、現行の弁護士法72条に明らかに違反しますので、そのような業務を営むこと自体が不可能です。そのため、現在、事実上の弁護士紹介(斡旋)サービスを行っている事業者は、基本的に、利用者ではなく弁護士から、広告料という形で、その対価を徴収するに止まり、個々の相談・委任希望者と個々の弁護士とのマッチングには従事していないはずです。

ただ、その結果として、「紹介するに相応しい弁護士」よりも、「仕事が欲しい弁護士」の方が、そのようなサービスを多く利用しているため、時には、我々(同業者)に言わせれば誇大広告ではないかと感じるような文言を掲げて宣伝しているのを見かけるという、「逆説的な供給サイドの都合優先じみた光景」が生じていると、言えないこともありません。

とりわけ、それら「宣伝熱心系」の弁護士(事務所)の中には、顧客に過大な報酬を請求・取得し、それを広告費用の原資にしているのではないかなどと業界内で白眼視されているものもありますので、なおのこと、弁護士の広告(一般向けの情報提供)のあり方を巡っては、現在の風潮のままでよいのかという印象を拭えません。

この点、元榮氏が次回の参院選に出馬されるとのことで、そのことと直ちに結びつくかどうか分かりませんが、将来的には、弁護士法72条のうち弁護士紹介業を禁止している部分は、現在の社会では合理性のない規制だとして規制緩和等の運動が起き、撤廃ないし修正をされる可能性が相当に出てきているのではないかと感じます。

すなわち、かつての「二割司法」の時代は、(当時の司法の状況なども踏まえ、弁護士であれば、誰に頼んでも、概ね問題ないサービスが受けられるという認識のもと)弁護士のサービスを利用できる層ないし事件が限られていたため、「弁護士を紹介・斡旋できること」自体に財産的価値が生じやすいという面があり、そのことで、「弁護士の支援を必要とする社会的弱者」から不当な暴利を貪る輩が存在したことから、それを禁圧する趣旨で、有料斡旋禁止の必要性(を基礎付ける立法事実)があったと言うことができます。

これに対し、弁護士数の激増に加え、町弁業界ですら一昔前に比べて様々な約束事が増え、弁護士なら誰でもこなせるわけではない仕事が増えている「八割司法」の時代になると、「希少種を紹介する対価として不当に暴利を貪る輩」が生じる可能性が相対的に低くなり、むしろ、自分が依頼したい業務をこなせる弁護士が誰か(どこにいるのか)等を把握したいというニーズに応えるべしとの声の方が高まるのではないかと思います(もちろん、そのように言えるかという立法事実の問題も、慎重な調査、検討が必要と言うべきでしょうが)。

そして、その結果、一定の条件(営業方法規制や弁護士の経営関与及び弁護士会の監督など?)を付して、有料紹介業を解禁するという展開が、少なくとも近未来の可能性としては、相当程度、出てきているのではないかと思います。

8 法テラスとの比較について

ところで、ここまで専ら「弁護士費用保険が普及した場合に(或いは普及の前提として)、弁護士を選別(マッチング)するシステムを、顧客(契約者)や設営者(保険会社)が求めてくるのではないか」という観点で書いてきましたが、同じことが法テラスについては生じないのかという検討は、あってよいと思います。法テラスも、報酬基準や立替制などの違いはあれ、「依頼の際に費用を支払わなくとも弁護士に依頼できる(受注側も依頼者の支払リスクを回避できる)システム」という点では、弁護士費用保険と同じ機能を有するからです。

とりわけ、法テラスが資力要件を撤廃した場合には、弁護士への依頼業務の多くが法テラス経由となるのではないかと見る向きもあると思います。

ただ、法テラスは立替=結局は自己負担であることに代わりありませんし、受注側にとっても、(低額報酬に相応しい簡易事案はともかく)すべての事案で法テラスの報酬基準が貫徹されると、経営維持が困難として忌避する傾向は大きいでしょうから、利用者・受任者双方にとって難点を抱えた(メジャーな存在になりにくい)補完的な制度としての色合いは否めないと思います。

震災無料相談制度の恩恵に浴している被災県の弁護士としては、現在の「30分までの無料相談業務」に関しては、資力基準や法人排除を撤廃して良いのではと思いますが、受任事件に関しては、資力基準を撤廃してからといって、法テラス方式が当然に普及するわけではない(その点は、保険制度と大きく異なる)と感じます。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編①

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第3回です。

弁護士費用保険が普及すれば、弁護士業界が大きく変容していくのではないか(弁護士側も、それを必要とせざるを得ないのではないか)という趣旨のことを述べた投稿の3回目(ここからが本題部分)です。

4 弁護士費用保険の普及と「弁護士の品質確保と選別・監督機能」

ところで、現在の弁護士費用保険(前回に述べたとおり、私はプリベント社の保険の実情を存じませんので、損保各社が展開している自動車保険の特約を前提に述べます)は、基本的には、契約者(利用者)自身が依頼する弁護士の費用を保険契約の範囲で補填するという定めをしているに止まり、弁護士の斡旋等を当然に含んでいるわけではありません。

もちろん、多くの損保社では、それぞれの地域に、顧問ないし特約店である弁護士(加害者側でその損保社の保険給付の必要が生じた場合に、損保社が加害者代理人として対応を依頼する弁護士)を抱えていますので、契約者ご本人のご希望があれば(或いは、保険商品の販売代理店から相談があれば)、その弁護士を被害者代理人として紹介するという例が多いのではないかと思います。かくいう私も、仕事でお世話になっている損保会社さんがあります。

ただ、利用者の立場で「弁護士のサービスを受ける保険」を突き詰めれば、それ(費用補填)だけで十分というのではなく様々なニースがあることは、優に想像できることです。

なんと言っても、利用者としては、弁護士の費用負担を免れれば(保険が払ってくれるのなら)それでよいというものではなく、依頼する弁護士が、利用者(依頼者)の依頼の趣旨に合致する仕事を適切に行ってくれること=そのような弁護士を斡旋すること(品質保証)も含めて、その保険商品に機能して欲しいと希望していると思います。

もちろん、10年ないし数年前までは「依頼する弁護士の質」というのが問題とされることは、町弁業界では滅多に無かったと思います。弁護士費用保険の有無などもさることながら、弁護士の絶対数や情報流通などの問題から、顕在化しなかったという面があるのではと思われます。

これに対し、現在では、町弁の絶対数の増加に伴い、供給者側の問題(研鑽の度合いなどに関する一定のばらつき)はもちろん、利用者側も弁護士を選択、選別できる権利ないし利益があるという意識が高まっていることは確かだと思います。また、レアケースとはいえ、近時は不祥事などで突然死(事業停止)する弁護士も出現していますので、そうした理由で、依頼先の弁護士(法律事務所)の健全性に対する関心も生じていると思います。

言い換えれば、現在の弁護士費用保険制度は、「弁護士を原則として無料(保険料のみ)で利用できる」という低コスト利用の要請については概ね満たしていると思われますが、品質保証(保険を利用して依頼する弁護士が、対象となる業務を、実務水準や顧客の資質・個性などに照らし適正に遂行できること、ひいては、そのような弁護士を紹介・斡旋すること)という面では、十分に機能しているとは言えないと思います。

まして、保険を利用して依頼する個々の弁護士の業務に対する監視・監督や、上記の業務停止等によるトラブルの防止策(経営状況の監視・監督)や被害補填などという点では、およそ機能していないと言ってもよいのではないでしょうか。この点は、加害者側であれば、保険会社が自ら賠償金の支払をする関係で、方針の策定段階から全面的に保険会社が主導し、誤解を恐れずに言えば、弁護士は「損保の意向を忖度して行動する手足」として仕事をするに過ぎない(その意味で、依頼者から弁護士への業務監督機能が貫徹されている)ことや、継続的な委嘱等を通じて、委嘱先の弁護士への情報収集などが行われている(のでしょう)ことと、大きく異なっていると言えます。

また、利用者サイドの事情だけでなく、供給者(弁護士)側の状況も、かつてとは大きく異なっています。端的に言えば、事務所(弁護士としての自分)の存続のため、弁護士費用保険を利用した事件の受任を必要とする弁護士が、かつてなく増えていることは確かだと思います。

その上、町弁の仕事・研鑽は大半がOJTという性格が強いことから、町弁の多くが、弁護士費用保険を通じた事件受任に依存する面が強まれば、そのことは、研鑽等の機会も保険に依存する面が強くなるということになりますし、何らかの形で損保会社から業務上ひいては経営上の監視・監督を求められることも受け入れていかざるを得なくなるのではと思います(この点は、法テラスも同様ですが)。

要するに、弁護士費用保険の課題ないし未来像として、低コスト利用機能のほか、品質保証などの機能も果たすことが期待・要請され、これを果たそうとすれば、利用者サイドのニーズに応える形で、保険会社が町弁の業務への関与・干渉を深める方向に舵を切っていくことが予測されるということです。

5 弁護士の格付けや依頼者のニーズに即した斡旋を行う企業

ただ、弁護士費用保険を販売する損保各社が、近いうちにそうした機能を果たすことができるかと言われれば、少なくとも現時点ではそのような能力も意欲もない(今のところは、最近話題の不正・過大請求を抑止し、トータルで黒字事業を営むことができれば十分と考えている)と感じます。

一般論としても、損保各社が弁護士の各種能力や経営その他に関する詳細なデータを集めて、それをもとに保険契約者に弁護士を斡旋等するというのも、現実的ではないと思われます(ただ、保険利用にあたり会社の同意を求めるという約款を用いて、各社の地域拠点ごとに存在する顧問などの弁護士に事実上、集約させていくという手法を採用する会社は生じてくるかもしれません。その社は日弁連LACには加入しないのでしょうし、それがその損保会社にとって賢明な選択と言えるのかどうかまでは分かりませんが)。

そこで、保険会社に代わって、弁護士の各種能力に関する情報を収集、集積し、利用者のニーズ(簡易案件か困難案件かなどの判断も含む)や個性などに応じて、そのニーズに適合するような弁護士を抽出して紹介・マッチングするような、一種の「弁護士の格付け・斡旋企業」が求められてくるのではないかと考えます。

また、その企業が、不正・過大請求をするような弁護士を排除して良質な業務を低コストで提供する弁護士を中心に紹介等するのであれば、利用者サイドだけでなく、保険会社側にも必要・有益な存在として歓迎されるでしょうし(約款の定め方などにも影響しそうです)、そのような斡旋等のサービスが弁護士費用保険の対象外の事案でも利用できるのであれば、その役割(町弁業界におけるプレゼンス)は、著しく向上するのだろうと思います。

もちろん、そのような「格付け・斡旋企業」なるものが、一朝一夕にできるわけもなく、現時点では夢想の域を出ないかもしれませんが(法規制の問題もありますし)、仮に、我が国で、そのようなサービスが本格的に生じうるとすれば、現在のところ、元榮太一郎氏が率いる「弁護士ドットコム」が、その最右翼と言えるのではないかと思います。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~前置編②

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第2回です。今回も、前置き部分(業界の現状説明)なので、業界関係者は読み飛ばしていただいてよいと思います。

2 前置き②弁護士報酬を低額化することの困難さ

弁護士の年間供給数を巡って何年も議論が繰り返されていますが、「弁護士が増えても需要が増えない」と増員反対派の方が主張する根拠として一番強調しているのは、弁護士への委任費用が高額であり、それを負担できる方は限られているから、多少の紛争や相談ごとはあっても、弁護士に依頼しない形で処理・解決を図らざるを得ない方が多く(断念を含め)、社会(国民)の弁護士の利用頻度は、限られたものとならざるを得ない(「二割司法」は克服すべきだとしても、五割以上まで司法が社会生活上のプレゼンスを持つのは費用面で無理)という点ではないかと思います。

また、所得や資産が大きくない方は、法テラスの立替制度を利用でき、かつ、法テラスの報酬基準は弁護士会の報酬会規等よりも低いことが多いのですが、それでも少額とは言えない額ですし、毎月の返済が原則ですので、利用者自身の負担が小さいわけではありません。

他方、受任者側にとっては、多くの手間と労力を要する事案であれば、それに見合う費用なのかという問題に直面せざるを得ず、結局、法テラス案件は、低コスト経営ができている弁護士や、事務局に事務処理の多くを任せることができる事件(事案が単純で定型処理が可能なもの)、或いは低賃金で優秀な職員を擁する事務所などでない限り、他に収入源がないと、持続可能性に不安を感じる部分があることは確かです。

刑事に限らず(刑事以上に)多くの民事手続が「精密司法」(大雑把に言えば、ロクに勉強せずイージーな仕事をしていると、裁判所に色々と難癖を付けられて裁判手続を進めて貰えなかったり、相手方の争い方などにより論点が次々に増えて事務作業が嵩んでいく)という面があります。

もちろん、さほど手間を要しない仕事も無いわけではありませんが(典型は、争いのない競売手続などの特別代理人)、そうしたものは、遥か昔から低コスト(低報酬)化されています。

また、特需期の個人の債務整理のように、ある程度は定型化が可能な業務が一度に大量受注できる事態になれば、事務局を習熟させることで多くの業務を任せることができ、その結果、低コスト化を実現できます。

ただ、債務整理も「よく聞いてみると、意外な問題が潜んでいた」というケースも相応にありますので、それに適切に対応するのであれば(それが弁護士として当たり前ですが)、一人の弁護士が何人も事務員を採用し丸投げするなどということはあり得ず、価格破壊といっても限度があります(尤も、東京などではそうしたモンダイ弁護士も存在し(今も?)、仕事を丸投げして安易に高額報酬を貪っていたなどと言われています)。

ともあれ、上記の理由から、弁護士業務の多くが「短期決戦(お手軽勝利)が難しいオーダーメイド戦争(に従事する傭兵)」という性格を持たざるを得ないため、多大な手間を要する受任業務が中心となる現在の司法制度では、弁護士の受任費用を低額化させるには、かなりの困難が伴います。

3 弁護士費用保険による上記の諸問題の解決

このような事情から、現在、普及している交通事故(自動車保険の特約)に限らず、社会・家庭生活や企業活動の多くの場面・紛争で適用されるような弁護士費用保険が普及すれば、医療保険と同様、高額な費用を薄く広く負担いただくことで、利用者自身の負担軽減による受任者が了解可能な報酬額での利用促進(Win-Win)が可能になります。

これにより、激増した「零細事務所を経営(又は勤務)する町弁」達に「食える仕事」を供給できることはもちろん、利用者にとっても、費用負担からの解放はもちろん、依頼する弁護士に、赤字仕事を嫌々というのではなく、ペイする仕事をやり甲斐を持って引き受けて貰うことが可能になり、良質なリーガルサービスの享受という意味でも、メリットが生じることになります。

少なくとも、現在の交通事故実務では、少額事案(物損のみの過失割合紛争が典型)を、「(大企業向けの先生方には笑われる額かもしれませんが)町弁としてはペイする単価」のタイムチャージ形式で受任することが通例ないし普及しており、私自身を含め、多くの弁護士が、かつてのように「大赤字となる少額の報酬でため息をつきながら仕事をする」ということは、ほとんど無くなっているのではないかと思います(その一方で、高額事案の受任件数も「パイの奪い合い」的な形で減っているわけですが)。

反面、損保会社によれば、現在の弁護士費用保険を巡っては一部に不正請求の疑いがある例がある(大規模な事務所ぐるみで行う例もある?)とのことで、後述のとおり、解決策の構築が待たれると共に、業界のあり方に激変を加える要因になるのではと思っています。

ですので、現在のところあまり大きな声を聞くことがないのですが、弁護士費用保険の発展・普及を一番望んでいるのは、ベテランであれ新人であれ、こうした伝統的な町弁スタイルをとっている弁護士達ではないかと思いますし、そのことは、診療所をはじめ一般の医療機関(お医者さん達)が現在の医療保険制度を支持し、医師会の政治力?(もちろん国民の支持を含め)でこれを維持していることとパラレルではないかと思います。

なお、現在の自動車保険に関する弁護士費用特約は、非常に大雑把な作りになっており、また、利用者の自己負担がないなど、医療保険とは立て付けが大きくことなり、その弊害も様々な形で噴出しており、早晩、一定の変容を余儀なくされると思います。

この点=現在の交通事故の弁護士費用特約を巡る諸論点と改善策も、書きたいことは山ほどありますが、今回は省略します。少なくとも、事案の性質に応じ一定の自己負担が必要となる設計の保険でなければ普及しないでしょうし、その場合には、保険給付の程度(勝訴の見込みの程度など)を審査する能力を有する第三者(弁護士等)が必要になるのではと考えています。

また、数年前に、丸山議員(弁護士)が広告塔をなさっていることで有名な「交通事故以外にも広く適用される弁護士費用保険」が、プリベント社という会社さんから発売されています。

私はこの保険の契約者の方から事件受任をした経験がないので、詳細(保険商品として適切に設計されているかなど)を存じないのですが、少なくとも、交通事故以外の紛争(特に、事故被害をはじめ、自身の努力のみでは防ぎにくい被害の賠償問題など)の代理人費用を給付する保険については、同社に限らず、速やかに同種の保険を普及させていただければと思っています。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~前置編①

弁護士業界の近未来(業界が変容する姿の予測)に関し、少し前に投稿した2つの文章の延長線で、次のような光景を考えてみました。

要約すると、「現在の弁護士供給数でも町弁業界が健全性を維持できるようにするには、弁護士費用保険の普及が必要不可欠だが、その場合、費用拠出者である保険会社(ひいては監督官庁)が、弁護士の業務態勢や経営面などに広範に関与(監視・監督)することが不可避である。また、その点で保険会社を補佐する「弁護士業界に精通した組織」が必要になるところ、それは日弁連とは異なる存在が担うことになる(現在のところ、弁護士ドットコムがその最有力候補になる)のではないか」というのが論旨となります。

また、長くなってしまったので、計6回に分けました。業界状況をご存知の方は、第3回(本題編)からご覧いただければ十分でしょうから、適宜、読み飛ばして下さい。

1 前置き①町弁業界の大競争時代(と零落?)

約20年前まで、我が国の司法試験合格者の数は、年間500人に絞られていましたが、司法制度改革により、約10年前に1000人になり、数年前に2000人まで増えました。その中で裁判官・検察官となる(採用される)方は今も昔も年間150人(~200人弱)程度に絞られていますので、弁護士の年間供給数は、昔なら350人、今では1850人程度(昔の5倍以上)ということになります。

ただ、町弁業界の不況のため、(企業や役所などに就職する方はさておき)新人弁護士の一般的な路線=既存の弁護士の事務所(大半は零細企業規模)に就職することが困難である(新人全員を受け入れるだけの勤務弁護士≒従業員としての求人がない)ことなどから、新人の就職難やこれに伴う業界全体の混乱を回避する見地から、当面、1500人に減員することになりました。

ちなみに、業界の「不況」については、債務整理特需(俗にいう過払バブル。実需としての性格はありますので、バブルという表現は適切ではなく、特需と表現するのが正しいです)の終焉に加え、裁判所の統計によれば訴訟手続全般の新受件数も低落傾向にあること、企業倒産も史上有数の減少傾向が続いていることなどが要因(内訳)となっており、田舎の町弁の一人である私の実感も、概ねこれに沿うものとなっています。

他方、町弁が暇を持て余しているかといえば、必ずしもそうではなく、家事事件(主に、法テラス経由)を中心に、業界人の感覚では、業務量に比して報酬が大きくない、言い換えれば、相応の報酬はいただくものの、次から次へと細々した事務処理が必要になるため、時給換算で赤字計算になる仕事が多くなっている(それでも、仕事を選り好みする贅沢ができないので、研鑽の機会も兼ねて、受任して処理していかざるを得ない)のではないかと思います。

建設業の倒産が多かった時代(小泉内閣の頃)に私が管財人として携わった事件の記録(代表者の陳述書)に、破産に至る経緯として「不況なので採算割れする仕事も次々に受注し、ますます経営が悪化した」などと書いてあるのをよく見かけましたが、今や我が業界が、その様相を呈しつつあるのではと感じるところがあります。

もちろん、今は、町弁業界でも多人数のパートナー形式など僅かな経費負担で事務所経営をする若い弁護士さんも多く、私のようにイソ弁もいないのに一人で町弁2人分の運転資金を抱えるなどという人間は少数でしょうが、全体として、町弁(特に、若い世代)の所得水準が大幅に低下していることは間違いないと思います。

そんなわけで、私も、何年も前から、事務所の存続のため、若干でも経費を負担いただけるパートナーの加入を切望しているのですが、運の悪さか人徳の無さか、そうした出逢いに恵まれず、現在に至っています。平成20年前後には、新人を容易に雇用できるだけの売上があったので、その頃に良い出会いがあれば、今頃はパートナーに昇格して支えていただくという道もあったのでしょうが、様々な理由から人材獲得の努力をせず運を天に任せてしまいましたので、幸運の女神に後ろ髪はないというほかないのでしょう。なお、その頃の収益は、税金と住宅ローンの前倒し返済に消えました。

(以下、次号)

弁護士会費の近未来と「大きな政府、小さな政府」

いわゆる司法改革に伴う弁護士の大増員政策については、肯否様々な評価があるところですが、若い弁護士が大量に増える一方で、全員が以前と同様の収入を得ることができるだけの仕事が確保されているわけではないということで、弁護士一人一人の仕事の質量も平均年収(所得)も下がっていることは、間違いないのではないかと思います。

ちなみに、「増員」について詳しくない方のため基礎的な情報を挙げておくと、平成2年頃までの司法試験の年間合格者(定員)は500名で、私が合格した平成9年は約750名、平成16年頃から1500名、平成20年頃から2000名前後となっています。

そして、裁判官・検察官の増員はほとんどなされていませんので、合格者が増えた分は、ほぼそのまま弁護士の増員につながっています。

弁護士の全体数も、平成12年に1万7000人だったものが、現在は約3万人ということで、上記の合格者数の急増から、老壮青の比率も相当にバランスが悪い(大雑把に言えば、45歳くらいが分水嶺で、それ以上の年齢層と40歳未満の年齢層で、大きな人数差がある)と言ってよいと思われます(少なくとも岩手に関しては、完全にそうした傾向があります。弁護士の性質上、年齢と経験年数が必ずしも噛み合わないという点にも留意すべきですが)。

ともあれ、弁護士数が急増した一方で、平成20年頃まで町弁業界では凄まじい需要があった債務整理問題は、一連の最高裁判決と立法改正等に伴い社会問題としては収束し、これに代わる特需等もないため、業界に一種の不況風が吹いており、弁護士の平均年収も大きく下がっていることは、確かだと思います(特需の一時期は、分相応を超えた年収になった人もそれなりにいたはずですので、その点は割り引いて考えるべきだとは思いますが)。

そして、日弁連をはじめ、業界内には、合格者数=新規弁護士数の抑制を求める声が力を増しており、こうした弁護士業界の魅力(収入的な)の低下や法科大学院政策の失敗ないし不人気(濫造と学費負担)などもあって、実質的な司法試験受験者数(或いは質)も減少・低下していくのではと思われますが、弁護士人口自体が急激な減少となることはないだろうと思われます。

そこで、「飢えた弁護士」達の標的の最有力候補とも目されているのが、月額で6万円以上が通例とされている(岩手も同様)、弁護士会費の減額問題です。

ただ、この件も、ブログの類では盛んに語られるものの、具体的に会費減額を旗印に会内の選挙云々(投票行動等)に取り組むという話(それこそ米国の茶会党のような話)は、不思議なほど聞いたことがありません。

そもそも、ブログ等で積極的に発言している方は、往々にしてアグレッシブ=弁護士として稼ぐ力を持っている方が多いので、問題を取り上げているご本人が、減額運動に精を出さなければならないほど窮迫していない(或いは暇でもない)ということなのかもしれません。

と同時に、「稼げない弁護士が弁護士会費の減額を求める」という図式が単純に成り立つのか、考えてみる必要があるように思います。

すなわち、弁護士にとって「稼ぐ力」とは、真っ当な力量を発揮すれば勝訴等の成果をあげて相応の成果・成功報酬をいただけるような、良質な仕事を継続的に獲得できる力を指すはずで、個人差はあるものの、専ら地上戦(人脈ネットワーク)で獲得する方もいれば、ネットなど(空中戦)を活用して顧客拡大を図る方もいるでしょう。

他方、こうした顧客獲得能力は、誰もが有するものではなく、人脈もないしHPなど独自宣伝する力もない、という弁護士にとっては、弁護士会の相談事業などに受注獲得のルートを依存せざるを得ず、そうした弁護士にとっては、事業体としての弁護士会自体が様々な事業を行って地域内で強大な顧客吸引能力を有する方が都合がいい、ということになると思われます。

そして、比較的所得が低い(その点で、会費減額にインセンティブがある)弁護士の層が、独力で顧客開拓を図る意欲等のある側か、逆=弁護士会等に依存したい側か、どちらが多いかと考えると、案外、後者の方が多いのかもしれないと思いますし、そうした弁護士にとっては、弁護士会が相応に会費を徴収し盛んに法律相談事業などを行って相談担当=受注獲得の機会を与えてくれた方がよい(その利益を失ってまで、会費減額=弁護士会の役割縮小を求めない)ということになると思います。

要するに、弁護士会の会費は、単に「増員したから会費を減らして欲しい」というほど単純な比例関係には立たず、むしろ、競争社会が本格的に生じているからこそ、「弱者たる弁護士を庇護=業務を供給する大きな弁護士会」を求める声も相応に出てくるであろうということで、事業体としての弁護士会の路線対立(大きな政府か小さな政府か)という問題と関わってくる事柄ではないかと思います。

そういう意味で、会費減額を主張される方の多くは、弁護士会に依存しなくとも弁護士としての生存ないし成功を収める力を持つ、弁護士会の役割縮小(小さな政府)を指向する方々ではないかという印象を受けるところがあります。

また、このような意味で弱者的立場にある若手の多くは、若いうちは自らは会費を負担せず勤務先が庇護する(或いは、会費自体は自己負担だったとしても、それに代替する形で所属先事務所等から何らかの経済的便宜を受ける)ことが多いでしょうから、なおのこと、「小さな政府よりも大きな政府」を指向しやすいのではないかと感じるところはあります。

ただ、仮に、そのような見立てが正しい=結果として弁護士会の会費が維持されたままという流れになるのであれば、なおのこと、相談事業などについては、その質(弁護士側にとっては顧客吸収力、利用者にとっては担当弁護士の力量等)が問われることになるでしょうが、この点は、少なくとも田舎弁護士たる私の認識としては、まだまだ発展途上という印象が否めません。

例えば、このブログでも何度か触れたことがありますが、震災後、岩手では、被災地出張相談や弁護士会の電話相談などが多数行われているところ、その全部がという訳でないものの、ほとんど相談者がない状態が続いているのに延々と続けられているというものも幾つか見られます。

担当弁護士の日当も低く抑えられているので、予算の垂れ流しというほどでもないと思いますが、それでも、会計検査院のようなところが監査をすれば、クレームが出るのではと思う事業もありますし、金銭面以上に、「往復4、5時間をかけて内陸から沿岸に相談に行ったのに、ゼロ~1件程度の相談件数のみだった」という話が延々続くと、震災の数年前位までは、8~10件の相談を矢継ぎ早にこなす(そのことで弁護士としての力を付けていく)のが当たり前という光景を知っている身としては、担当する若い弁護士さん達の心を何らかの形で蝕むのではないかと不安に感じるところがあります。

余談ながら、私も現在は月1回、法テラス気仙に行っていますが、こちらは法テラスの宣伝力(税金ですよね)の賜物か、平均3~4件の相談(来客)があり、もう少し開催頻度(担当者数)を減らしてもよいのではと思わないでもありませんが、まぁ許容範囲だとは思っています(受任件数はごく僅かですので、私にとっては大赤字事業ですが、これはやむを得ないというべきなのでしょう)。

ともあれ、そうした観点からも、今後も高額な会費を維持し続けるのであれば、岩手会のような規模では無理かもしれませんが、相応の規模の弁護士会などでは、相談事業などをマネジメントする専門家を採用又は業務委託するなどして、弁護士会の事業のレベルアップを図っていただきたいと思います。

以上に対し、東京などでは、弁護士会に依存せずCM等で顧客を大量に獲得し、若い弁護士を大量に採用し仕事を供給し、地方にまで触手を拡げている事務所も生じており、中には、内実も伴わずに専門性を標榜しているのではなどと批判されているところもあります。

仮に、そうした事務所が力をつけ、弁護士会に依存せずとも適正に仕事を供給するルートとして若い弁護士に認知・支持されるような事態にでもなれば、「小さな弁護士会」を指向する大きな力が働くということもあるかもしれません。

ただ、そのような展開になる前に、そうした事務所自体が今後も維持できるのかという話もありうるのかもしれませんが。

また、社会人・他業経験者など、相応の経験・年齢を積んだ後に弁護士となった方なども、ご自身が積み上げたルートによる顧客獲得の力をお持ちでしょうから、そうした方が今後どれだけ増えるのかという点にも注目してよいのかもしれません。

さらに言えば、企業・団体に就職する方など、自営業ではない(法律相談事業の参加など受注獲得等を弁護士会に依存する必要が微塵もない)弁護士が増えてくれば、会費の減額圧力が強まることは確かではないかと思います。

ただ、このような「新たな弁護士像」路線に進む方々にとっては、社会内での弁護士会のプレゼンスの拡大が望ましいという面もあるはずで、自身の会費負担の減額のみ求める=会費の細分化=相談事業や裁判所受託業務の配点(さらには委員会等の参加資格)などの別料金制を主張することになるのではと思いますが。

ともあれ、どのような形になるかはともかく、ここ10~20年のうちに弁護士会という組織が何らかの大きな変容ないし揺さぶりを経験することになることだけは、間違いないだろうと思います。

その際、「大きな政府(弁護士会)か小さな政府か」と、「分権(各地弁護士会の割拠独立の維持)か集権(日弁連や大規模会等への実質的な権限集中)か」というのが、基本的な視点の一つになるでしょうから(他にも、「弁護士会が人権云々を標榜して行う、政治的・党派的色彩を伴う活動を多額の資金(会費)を投じて行うことの当否」という論点があることは申すまでもありませんが)、そうしたことも踏まえて、物事の成り行きを静かに見守っていきたいと思っています。

被災地等に対する広報を通じた弁護士の関わり方について

先日、法テラス気仙の相談担当で大船渡に行きましたが、予約ゼロで当日飛び込みの簡単なご相談が1件あっただけで、ほぼ一日、内職等に潰して終わりました。

法テラス気仙には約1年前から月1回の頻度で通っており、毎回4名前後の方が来所していたので、このような経験は初めてでした。

ただ、法テラスは国?の資金で強力な宣伝活動を行っているので、ゼロ件となるのは滅多にないのですが、弁護士会や県(沿岸の出先機関)が主催の被災者向け相談事業などでは、宣伝力の格差のせいか、ゼロ件になることが以前から珍しくありませんでした。

集客できないなら規模縮小すればよいのにと思わないでもないのですが、仕事を減らせと安易に口にするわけにもいかず、集客等につなげる工夫をもっとできないのだろうかといつも思ってしまいます。

例えば、全戸配布される各自治体の広報やタウン誌、或いは地域内の業界団体等の広報などに簡単な連載コーナーを設けていただくことはできないでしょうか。

そして、被災関係に限らず、地域で取り上げるべき法的トピックについて、弁護士が執筆して説明したり、読者のアンケート等で要望があったテーマも積極的に取り上げつつ、記事の末尾で地元の窓口も紹介すれば、多少は集客力も向上するのでは?と思うのですが。

私は、岩手弁護士会の原発被害賠償に関する支援活動に関与しているのですが、この件も同様に集客力(相談等のアクセス)のなさに喘いできたので、可能なら岩手日報などで他の震災関連も含めた連載などの企画を採用していただければと思ったりもします。

他県の取り組みなどはまったく存じませんので、そうしたものが行われている例などご存知の方がおられれば、ご紹介いただければ幸いです。