北奥法律事務所

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裁判

若手弁護士の尋問風景と反省の日々

少し前にあった民事訴訟の尋問の際、相手方代理人の当方依頼者に対する反対尋問で、若干驚かされた一幕がありました。

相手方代理人が、尋問の最後に、自身の依頼者が希望する和解案を述べた上で「貴方は受け入れるか」と言い出し、当方依頼者がそれに応じられないと返答すると「どうして受け入れないのか」と糾弾し始めたのです。

尋問は、自己の主張を基礎付ける事実や、相手方の主張の信用性を疑わせる事実を当事者の言葉や態度で語って貰うための場であって、尋問を受ける者に自己(質問者)の見解への同意を求めたり、証人が述べる意見が自分の意にそぐわない場合に自分の見解を前提にして証人の意見そのものを頭ごなしに糾弾することを認めるような場ではありません。

ですので、事案解明の性質上、やむを得ない場合を除き、証人に対立意見をぶつけるだけの尋問は異議の対象となり、裁判官に制止されます。当事者の主張が事実に反するとか不当だと考える場合には、その主張を支える事実の信用性を疑わせる事実関係を質問して認めさせるべきというのが、反対尋問のあるべき姿です。

そうした理由から、私自身は、反対尋問では、敵対証人(相手方本人)を厳しい口調で糾弾するのではなく、ニコニコと紳士的な態度で質問しながら、ご自分に都合の悪い(争点に関する自己の主張の信用性を自ら否定する)事実だけははっきりと述べて(認めて)いただく(或いは、都合の悪い質問に対する見苦しい悪あがきを裁判官に見ていただく)、というのが理想的な形だと思っています(だからこそ、質問そのものの質が問われるわけですが)。

ともあれ、私は、これまでの経験から、筋の悪い尋問に対しては、代理人が異議を連発するよりも裁判官の指揮に委ねた方が賢明と考えており、あまり異議を述べる方ではないのですが、さすがに今回は酷いと思って上記の糾弾を始めた時点で異議を述べ、裁判官もそんな尋問は駄目だと相手方代理人を制止しました。

結局、その事件は和解はせず判決を受ける方向で事前に協議していたこともあり、先方の要求には応じるつもりがないことだけは依頼者の口から語っていただき、それ以上の尋問はご容赦願いました。

もちろん、このようなやりとりは、尋問としては何の意義も見出せません(相手方代理人は、自分の提案を当方依頼者が承諾しないこと自体から、裁判官の当方への心証が悪くなるとでも考えたのでしょうか?)。

もともと、異議の対象となる尋問は、それ自体が、裁判官の心証を悪くするだけの逆効果にしかならないものであることが多く、そのような面も見越して敢えて異議を出さずに様子見とすることもありますし、さほど見かけるわけでもありません。

一般的に、尋問で異議をしなければならない(用心をすべき)のは、タチの悪い相手方代理人が、誤導尋問(誤った事実等を前提に証人を混乱・勘違いさせ、証人自身にとって本意ではない言葉を言わせようする、アンフェアな尋問)をする場合で、海千山千のベテラン弁護士の中には、そのような意地悪をする人もいるため、相手方代理人がそうした方のときは、割と注意するようにはしています。

ただ、今回は私よりもかなり若い(経験年数の少ない)代理人で、これまで若い代理人が相対したときには、尋問のルールは概ね遵守する人が多かった上、尋問の内容自体がある意味、あまりにも大胆な破り方という面もあって、いささか呆気にとられ、迅速に異議を出し損ねてしまいました。

その場では、あまり相手方代理人を責めずに穏当(気弱?)な対応で済ませてしまったのですが、後で考えたら、相手方代理人が尋問に名を借りて、当方依頼者に事件の決着方法そのものについて見解を問うたり意見を求めたりするのは、私(当方依頼者の代理人たる弁護士)を介さずに当事者本人と交渉しようとするもので、弁護士職務基本規程52条違反なのではないか?と思わざるを得ません(しかも、それを代理人の面前で行おうとするのですから、呆気にとられてしまう面があります)。

ですので、「和解案に応じないのか」という質問の時点で、「貴方がやろうとしていることは、尋問として不相当なばかりか懲戒請求ものだ、そのことを分かって質問しているのか」と相手方代理人に抗議して、質問自体を止めさせるべきだったと反省せざるを得ないというのが正直なところです(まあ、今回は結論がはっきりしていたからという面が大きかったのですが)。

また、少し前に携わった別の事件でも、別の若い代理人が、支払能力が問題となっている関係当事者(私の依頼者ではない方)に対し、「貴方は支払うと言っているが、どうやって支払うのか、支払原資(送金主)や調達時期を具体的に答えよ」と執拗に尋問するのを目にしたことがありました。

その事件では、事案の性質上、そのような尋問が出てくるのもやむを得ないと思いつつも、事件の争点に関する事実を尋ねる質問ではなく、そうした質問は財産開示手続ですべきもので、私のように尋問のルールに従順でありたいと思う小心者には躊躇されるなぁと感じるところがありました(反面、その件は、その方に支払能力があれば一挙に解決するため、判決を待たずに財産開示を簡易に求める制度があれば、私も気兼ねなく上記のような追及ができるのにとは思いましたが)。

以前は、変な尋問をするのはベテランの一部という思い込みがあったのですが、司法改革云々の影響か否はさておき、若い弁護士の尋問にも、およそ予想もしていない形態の、異議の対象とすべき尋問が飛び出してくる可能性があるということで、気をつけなければと思った次第です。

私は尋問に苦手意識が強く、今も尋問のたびに反省するような日々ですが、尋問の力が伸びないと書面作成の力も伸びず、一方だけで法律家として大成することはあり得ませんので、老若関係なく、他の弁護士の尋問も教師又は反面教師にしながら、今後も地道に研鑽を続けたいと思います。