北奥法律事務所

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2016年

岩手県環境生活部との懇談会と県内の公害・環境分野の各種課題⑤質問事項その4(湿地・自然災害・ダム、化学物質など)

岩手弁護士会公害対策委員会と岩手県環境生活部との懇談会に関する投稿の5回目として、県に提出した質問事項のうち水環境に関するものなどを掲載します。

第5 水環境・需給政策などについて

○ 湿地・湿原の保全について

現在、県内の幾つかの湿地・湿原が面積減少ないし消滅の問題を抱えていると言われており、近時の報道では、山田町の船越半島にある小谷鳥湿地の農場(圃場)造成による消滅(岩手日報平成26年4月9日論壇)、春子谷地湿原の土砂流入による面積半減(朝日新聞本年1月8日)などが指摘されています。

湿地・湿原については、生物多様性をはじめ生活環境の保全等の見地から多くの重要な機能を営むものとして、ラムサール条約をはじめ世界的に保全を重視する傾向が見られ、沖縄県の泡瀬干潟のように開発を巡って訴訟が生じる例もありますが、本件では全国的に著名な湿原などが見られないせいか、湿地の保全や利活用等について話題になることは少なく、上記のように僅かに残る小規模な湿地群も多くが消滅等の危機に瀕しているように思われます。

湿地保護・保全に関する貴庁の対策に関し特に紹介できるものや法的な検討を要する論点などがありましたら、ご教示下さい。

○ 豪雨被害などに関する原因や対策について(開発行為などの問題)

平成25年夏に県央部で大規模な豪雨災害が生じるなど、近時は他県を含め、内陸部でも水に関する自然災害が生じていますが、平成26年に広島市で生じた土砂災害のように、もともと災害リスクが高い土地に宅地開発がなされたこと自体に問題があったのではと感じる例も見受けられ、訴訟等に至る例も生じるのではないかと思われます。

豪雨災害に限らず、先の震災を含む自然災害による被害に関し、開発行為などがなされたことで被害が拡大したと見られる例や、そのことを通じて開発行為の規制(による既存の自然環境などの保全)の必要性を感じた例、現に今、その教訓を生かして取り組んでいる例などがありましたら、ご教示下さい。

○ ダム開発(脱ダム問題など)について

我が国ではダム開発を巡り数十年に亘り多くの反対運動などが生じ、近年では八ッ場ダム建設などを巡って事業の不要性や公金支出の違法性を主張する住民訴訟が生じたほか、一部の県知事や民主党政権が「脱ダム」を唱えて中止等に及ぶ例もありました。

他方、本県ではそうした動きはほとんど見られず、気仙川流域の津付ダムが平成26年に中止の発表がされたのを除き、胆沢ダムや現在も工事中の簗川ダムなど、大きな反対運動や訴訟等が生じることなく粛々と開発や建設が進んだ(進んでいる)ように見受けられます。

他県と本県とでそうした違いが生じた原因・背景のほか、ダムをはじめとする周辺の自然環境などに大きな影響を生じさせる大規模な公共事業に関する現在の法制度について特に改善等を要すると感じた点がありましたら、ご教示下さい。

第6 化学物質・食品安全などについて 

○ 科学技術の発展に伴う新種の公害・環境被害について

かつて社会問題として注目されたシックウハウス症候群やアスベスト問題、近年に注目されている電磁波問題(携帯基地局周辺の被害申出)、風力発電やエコキュートなどに関し言及されている低周波騒音、農薬及び遺伝子組み換え食品など、科学技術の進展に伴い新たに開発される、化学物質をはじめとする身体に有害な影響を及ぼしうる物質等の利用に関して、県内で顕著な被害申告などが寄せられる例がありましたら、貴庁等で行われている対処、対策なども含めてご教示下さい。

岩手県環境生活部との懇談会と県内の公害・環境分野の各種課題④質問事項その3(自然保護、景観など)

岩手弁護士会公害対策委員会と岩手県環境生活部との懇談会に関する投稿の4回目として、県に提出した質問事項のうち、自然保護、景観に関するものなどを掲載します。

第3 自然保護(自然・生物保護、生態系、自然公園等、森林等の保全)について

○ シカ等の食害対策について

近時、五葉山や早池峰山などのシカ等の食害(農地や稀少植物の被害)が頻繁に報道され、狩猟従事者の減少や気候変化などが原因として指摘されているように見受けられます。野生生物保護と生態系や農林業被害の防止などの両立という観点から、現在の法制度などで特に改善等を要すると感じた点がありましたら、ご教示下さい。

第4 大気・都市環境・生活環境・アメニティなどについて

○ 防潮堤建設による弊害(景観の毀損など)について

現在、本県沿岸被災地の各所で高さ十数メートル規模のコンクリート製防潮堤の建設が進んでいますが、防災等の実効性の存否や海岸が視界から外れることなどによる弊害(防災意識、漁業関係者の不都合、生態系などへの影響のほか地元民の海と共に生きる意識の減衰など)、景観問題などについて住民等の議論や関心が喚起され、政策形成等における住民参加のあり方や、急ピッチで建設が進んでいることの原因の一つとされる国の補助金支出のあり方なども問われているように思われます。

防潮堤の建設問題に関する環境生活部の関わりと、防潮堤の建設等に関して環境の保全(環境基本法)や良好な景観形成の促進(景観法)などの観点から現在の法制度などで特に改善等を要すると感じた点がありましたら、ご教示下さい。

○ まち並みや農山漁村の景観等の保全について

近年、城下町・宿場町・門前町など全国各地に残る歴史的な集落・町並みの保存や復元などが注目され、現在は農山漁村の自然及び文化的景観を含め、地域の文化的アイデンティティへの貢献や外国人観光者・移住者なども視野に入れた地域固有の景観等の保全や利活用が求められていますが、他方で、地域内の著名建築物などが道路開発により失われたりマンション等に建て替わるなど、個々の地域内では保全よりも喪失に関する話題も珍しくなく、被災地の防潮堤も同様の問題を孕んでいるように思われます。

まち並みや農山漁村の景観等の保全或いはこれと私権とを調整する観点から、現在の法制度などで特に改善等を要すると感じた点がありましたら、ご教示下さい。

○ 生活環境に関する新種の被害・紛争について

昨年は、大都市圏では住宅密集地に保育所を建設し近隣住民から騒音問題の苦情が出るなど、生活環境に関する紛争に関し、従前とは異なる新たな問題が取り上げられるようになってきたと思われます。

各種の生活環境(騒音、振動、悪臭、水質汚濁など水利用、土壌汚染など土地・地盤の利用ほか)に関し、ここ数年の貴庁の業務などを通じ、本県内で特に問題が生じていると感じる事項(分野・紛争類型)や現在の法制度などで特に改善等を要すると感じた点がありましたら、ご教示下さい。

 

岩手県環境生活部との懇談会と県内の公害・環境分野の各種課題③質問事項その2(廃棄物関連など)

岩手弁護士会公害対策委員会と岩手県環境生活部との懇談会に関する投稿の3回目として、県に提出した廃棄物関連などの質問事項を掲載します。

第2 資源循環・リサイクル・廃棄物関連について

○ 新クリーンセンターについて

昨年、いわてクリーンセンターの後継となる県の関与に基づく産業廃棄物最終処分場の設置について、八幡平市平舘地区を候補地とすることが定まったとのことですが、操業開始までに必要となる作業や権利関係の調整などに関し、法的な観点から、現在、貴庁が特に課題として把握又は認識されている点をご教示下さい。

○ 軽米町の産業廃棄物最終処分場問題について

軽米町で建設が計画され地元住民などの反対運動がなされている産業廃棄物最終処分場について、報道によれば、昨年末、事業者が貴庁に施設の設置許可の申請書を提出したととされています。

報道では、反対住民側は予定地が河川に隣接することなどを理由に設置又は維持管理に関する基準を満たさないと主張しているように見受けられますが、当該問題で貴庁が把握されている争点の概要などをご教示下さい。

○ 廃棄食品の転売問題と予防策について

先般、愛知県の産廃中間処理業者が大手カレーチェーン店から処理を受託した廃棄カツ類を処理せず他社に有価物と称して転売していたとされる事件が発覚していますが、本県内では同種事案を防ぐため実効性ある特別な取り組みがなされているのでしょうか。未然防止はもちろん、排出・生産抑制も含め、導入の必要があると考える制度などがありましたら、お聞かせ下さい。

この点に関し、日弁連では平成22年に本県で開催した人権擁護大会において、電子マニフェストを通じて廃棄物処理情報を追跡・把握するシステムの導入を提言していますが、そうした制度があれば、相当の期間内の最終処分業者への焼却灰の埋立委託の有無を委託主である排出事業者に報告する作業などを通じ、この種の偽装・横流し事件を防止できた可能性もあると思われます。併せてご意見をいただければ幸いです。

○ 処理未了の腐敗廃棄物を残して倒産する企業への対策について

平成26年に県内で家畜の死骸や動物性残渣などの処理を行っていた企業(東北油化㈱)が自己破産を申請し、事業所に残置されていた廃棄物の処理が問題となりました。報道によれば平成27年中に完了したとのことですが、仮に、処理費用を自ら賄うことができなかった場合、事業所の悪臭問題等の事情から行政代執行を余儀なくされる事態もあり得たのではないかと思われます(報道によれば、当初は、廃棄物処理の費用の捻出が可能かも危ぶまれていたように見受けられます)。

同種の問題の予防のほか処理業者の倒産による原状回復の公費転嫁の問題の対処として、現在、貴庁が取り組んでいることや制度或いは事業者側の実務の改善などを求めている点がありましたら、ご教示下さい。

○ 県境不法投棄事件の総括と跡地利用について

県境不法投棄事件については、廃棄物及び汚染土壌の撤去等については作業の大半を終えているとのことですが、産廃特措法に基づく特定支障除去事業の開始から現在まで、原状回復事業の遂行にあたり、法制度面で特に改善等を要すると感じた点がありましたら、ご教示下さい。

また、排出事業者への責任追及など同事件に関してこの10年強の間に貴庁が取り組まれてきたことで、現行法の不備ないし限界として特に改善を希望する点などがありましたら、お知らせ下さい。

また、不法投棄現場の跡地利活用については青森県では同県サイトや地元紙などで植樹祭などが紹介されているのに対し、当県では報道などで取り上げられることがほとんどないように思われます。この点に関し貴庁の方針や従前の取組みなどで、特筆すべき点がありましたらご教示下さい。

○ 震災(大津波)に伴う災害廃棄物の処理と広域移動について

東日本大震災津波により生じた災害廃棄物については、国の支援により仮設焼却炉が設置されたほか、一部の廃棄物が遠方に搬出される(広域処理)こともありました。他方、広域処理については、受入側の住民に原発被害に付随する非難のほか処理費用そのものも割高ではないかとか仮設焼却炉についても短期間で稼働を終了させることなどに税金の無駄ではないかと主張する意見もあったように思われます。

一連の作業などを通じ、貴庁において特に制度改善を要すると感じた点、仮に同種災害が生じた場合に異なった運用を要すると感じた点などがありましたら、ご教示下さい。

○ リサイクル分野などに関する近時の論点について

その他、廃棄物処理、発生抑制、リサイクルなどの分野に関する県内の事業者の活動などについて、特に問題があると感じている例などがありましたら、お聞かせ下さい。近年は、食品廃棄物や家畜排泄物などからバイオマス発電等を行う事業なども開始されていますが、環境分野の法令との関係で問題となる事例や現行法制に改善を要すると感じる点などがあるようでしたら、併せてお聞かせ下さい。

岩手県環境生活部との懇談会と県内の公害・環境分野の各種課題②質問事項その1(エネルギー、原発事故被害など)

前回に続き、今回から県庁との懇談会で使用した質問事項を掲載します(少し表現を修正しています)。

質問事項は、当委員会で今後の課題として取組みを検討・希望している事項の一覧を列挙したものですが、当日の懇談事項として特に優先させたものにつき、◎を付しています。

今回の目的は、県庁の特定の活動に疑問等を呈して議論を挑むことではなく、現在の様々な課題に関する県の取り組みを拝聴しつつ、現行の法制度の内容や運用に関する問題意識(改善を要する点やそのあり方)を質問するということに重きを置きましたので、問いの仕方もそうしたコンセプトに基づくものとなっています。

ですので、個々の質問内容については、食いつきが足りないというご批判もあるかもしれませんが、それはそれとして、県内で公害・環境などの分野に関心を持って取り組んでおられる方々に参考にしていただき、弁護士会との連携なども検討していただければ幸いです。

第1 エネルギー問題と原発事故被害(汚染廃棄物問題を含む)

◎ 自治体の原子力紛争解決センターに対する賠償請求

原発事故の被害について、貴庁及び県内自治体が原子力紛争解決センターにこれまで申し立てたADRについて、損害発生や因果関係の認定に関し、特に問題となった点(東京電力が強く争ったものの和解案で認められたものや貴庁が強く勝ち取りたかったものの退けられた点など)がありましたら、ご教示下さい。

◎ 岩手県内の民間被害などに関する実情と県の把握

原発事故の被害については、平成25年に原子力損害賠償紛争審査会から風評被害に関する第三次追補が公表された際、貴庁の主催などにより県内の事業者向けの風評被害の賠償請求に関する説明会も開催されたものの、その後は賠償請求の問題については貴庁らのADRを除き報道で取り上げられることがほとんどなく、被害及び賠償請求等に関する実情を掴みかねるところがあります。

当会内でも、当委員会や被害対策弁護団などが窓口となって無料相談事業や事件受任を行っていますが、件数としては大きなものとなっていません。

被害状況や賠償等の実情の把握に関する貴庁の取り組みや今後の課題などに関し特筆すべき点がありましたら、お聞かせ下さい。また、県内の民間被害(事業者・個人、県民・避難者などを問わず)の把握に関し、何らかの調査(アンケート等を含む)を行っている場合は、その結果などをご教示下さい。

○ 汚染廃棄物の処理や保管について

放射性物質に汚染された廃棄物の処理などに関する問題について。本県では8000Bq/kgを超える指定廃棄物の量は環境省サイトによれば475t(焼却灰が200t弱、その他275t)とされ、宮城県などと異なり最終処分場の設置も予定されていません。他方、焼却時に8000Bq/kgを超えると見込まれる汚染稲わら、牧草について、他の廃棄物と混合焼却して焼却灰を埋め立てているとの報道がありますが、混焼については有害物質の拡散であるとして焼却も含めて批判し、線量減衰まで焼却せず長期保管すべきとの意見もあると聞いています。

また、日弁連の平成27年の報告資料(人権擁護大会第三分科会の基調報告書156頁)によれば、宮城県では8000Bq/kg超の稲わらでも指定廃棄物の指定申請をせず県が厳重に管理するものがある一方、基礎自治体が国の委託で保管している指定廃棄物についてビニールハウス内で仕切り板等のない状態で置かれている例もあるとされています。他にも、埼玉県は指定申請をせず全て県が保管しているとの報道(日経新聞平成26年9月29日)もあります。

県内における指定廃棄物の処理(埋立)や混焼、焼却前の汚染廃棄物の保管などに関し、以上を踏まえ、貴庁の取り組みとして特筆すべき点や法的な課題として把握・認識されている点がありましたら、ご教示下さい。

○ 太陽光や風力による発電施設の設置や維持管理について

現在、県内各地で太陽光発電施設(メガソーラー)の建築が進むほか、風力についても県北や北上高地などで大規模な設置計画が構想されているとの報道を多く目にします。他方、これらについては、安全面の不安や運営企業が倒産等した場合の将来の撤去等の確保、景観・反射光・低周波音など周辺環境及び近隣住民との調和など様々な課題も述べられるようになってきたと思われます。

当方もまだ不勉強ですが、これらの構築物に関し廃棄物処理法のような詳細な設置及び維持管理の規制があるのか(設けなくてよいのか)など様々な課題が未整備ではないかと感じているところです(Webで検索する限りでは、一定面積を超える施設につき自治体への許可申請を要する条例があるとか、山梨県が設置に関するガイドラインを策定したなどの記事を見かけます)。

メガソーラーや風力発電施設の設置や維持などに関する法的な課題として、現在、貴庁が特に課題として把握又は認識されている点をご教示下さい。

○ 地熱発電に関する施設の設置について

地熱発電については、盛岡市繋地区や雫石町(八幡平エリア)などで発電所の設置が検討されているとのことですが、周辺環境の保全ないし乱開発などに伴う被害の防止、温泉業者をはじめとする利害関係人との権利関係の調整など、法的な観点から、現在、貴庁が特に課題として把握又は認識されている点をご教示下さい。

岩手県環境生活部との懇談会と県内の公害・環境分野の各種課題①前置など

先日、私が委員長をつとめている岩手弁護士会の公害対策環境保全委員会(以下「当委員会」といいます。)の企画で、岩手県庁(環境生活部)との懇談会を行いました。

県庁との初めての懇談企画ということもあり、岩手県内の様々な公害・環境問題などを中心に叩き台となる質問事項を作りましたが、私の準備不足等もさることながら1時間足らずの会合ということもあり、さほどの協議はできておらず、その点は残念でした。

せっかく作ったこともありますので、次回から計5回に分けて質問事項を掲載しますので、県内の公害・環境問題に関心のある方は、参考にしていただければ幸いです。

今回の企画は、当委員会の活動の一環として県内で生じている各種の公害・環境問題に関する実情やそれを行政がどのように把握しているかを調査し今後の具体的な活動の検討材料にする目的で行ったもので、特定の事件についての調査や提言などを目的としたものではありません。

また、当委員会は数年前に設置されたのですが、深刻な公害問題の発生や弁護士の関与が長年ほとんどなかった岩手の実情もあって、公害・環境問題が絡む訴訟を本格的に手掛けた者が委員にもほとんどなく、活動としては今も手探りの状態が続いています。

岩手弁護士会では、消費者問題や高齢者・障碍者対策の委員会は、県民生活センターや県の福祉センターと幅広い連携(相談会などを含む)をしており、私も相談担当などでお世話になっているのですが、公害・環境分野に関しては、行政に限らず各種団体との繋がりが今も皆無といって良い有様です。

そのため、活動の幅を拡げるための「挨拶廻り」の意味合いも兼ねて、まずは県庁(環境生活部)との意見交換の場を設けるべきではないかという話になったものです。

「懇談」の叩き台として質問事項書を作ることにしましたが、平成26年の県の環境報告書などを参考に県内の公害・環境に関する分野、問題を広く取り上げつつも個別テーマごとに突っ込んだ検討はせず、ざっくばらんな懇談のための素材として作成しました。

質問事項の構成は、県の報告書のほか日弁連の同系列の委員会の活動を参考に次のとおりとしました。

第1 エネルギー問題と原発事故被害
第2 資源循環・リサイクル・廃棄物関連
第3 自然保護(自然・生物保護、生態系、自然公園等、森林等の保全)
第4 大気・都市環境・生活環境・アメニティなど
第5 水環境・需給政策など
第6 化学物質・食品安全など
第7 その他、環境法全般(公害紛争、アセス、教育ほか)
第8 地球温暖化問題
第9 その他、環境が関連する問題(低周波騒音、対外関係、ILCなど)

個々の質問事項は次回に紹介しますが、当日は予定時間が1時間程度ということもあり、最初の質問項目である原発絡みで時間の半分以上を費やし、あとは廃棄物絡みの論点や県と弁護士会との連携のあり方について、幹部の方(県境不法投棄事件の発覚段階などで重要な役割を果たした方でした)からの要点的なご説明を踏まえ若干の懇談をしたという程度に止まりました。

内容面でも、原発被害に関する県庁の取り組みに関するご担当の説明を拝聴しているうちに時間切れになったという面は否めず、その点は説明を遮ってでも論点に切り込み議論すべきということで、当方の力不足も否めないとは思います。

それでも、地元の弁護士が、公害・環境に関する問題に幅広い関心を持ち県民ないし地域社会に役立とうとする意識を持っていることについて相応の理解は得られたと思われ、「公害・環境分野の人権保障等に関する弁護士会と行政との連携」について、今後に繋がる点はあったと思いたいところです。

次回から掲載する質問事項も、岩手の現在の公害・環境問題に関するちょっとした論点整理集という形で多少は参考していただけるのではと思いますし、この投稿のような形で対外的に発表して様々な方の関心を喚起したいという面も含め、そうしたものを今後に生かしていければと思っています。

近時の交通事故事件に関する取扱や実績と営業活動の今昔

ここしばらく普段取り扱う仕事に関する投稿をしていませんでしたので、たまには触れてみたいと思います。

債務整理のご依頼がめっきり少なくなる一方で、今もコンスタントに一定のご依頼をいただいている分野の筆頭格が交通事故であり、基本的には被害者側でお引き受けするのが中心となっています(お世話になっている損保会社さんがあるため、加害者側での受任も若干はあります)。

5年以上前に比べてご依頼の件数が多くなっているのは、ネットでアクセスいただく方が年に何人かおられるということもありますが、弁護士費用特約の普及という面が大きいことは確かだと思います。

私の場合、平成12年に東京で就職した事務所が、タクシー共済(タクシーの事故の賠償問題に対応する共済)の顧問事務所だったので、独立までの4年半は概ね常時10件前後の事件に従事していたほか、岩手での開業後は主に被害者側の立場で様々な交通事故の事件を扱ってきました。

ですので、交通事故なら自分が岩手で一番などと虚偽?の吹聴をすることはできませんが、様々な事案・類型の取扱経験の質量という点では、この世代の弁護士としては有数といって良いのではと自負しているつもりです。

以前は、死亡事故や後遺症認定1~3級などの重度障害に関する事案も何度か取り扱いましたが、ここ1、2年はご縁がなく、神経症状が中心で治癒又は後遺障害が非該当のものや物損のみの事故が多く、14級や12級の事案が幾つか存するという程度です。

それでも、人身事故に関しては、加害者側の損保会社が最初に提示した額の倍以上(時に3倍くらい)で解決(示談又は訴訟上の和解)する例が珍しくありません。後遺障害が関係すると、その差は数百万円にも上ることがあり、昨年末に裁判所で和解勧告がなされた例や、先週に示談(訴訟前の交渉)で決着した事案なども、そのような形で解決しています。

どの段階で弁護士に依頼するのが賢明かは一概には言えず、損保側の提示が出た段階で十分という例も多いとは感じていますが、やはり、提示がなされた段階で、一旦は、相応に交通事故実務の知見等を有する弁護士に相談なさった方がよいと思います。

特に、介護問題が伴う重度事案などでは、損害項目が多様・複雑になりやすいので、ご自身でも今後どのような出費等(損害)が生じるかご検討の上、相談先の弁護士がそれに応えるだけの十分な知見を有するかも見極めて、依頼先を選定いただくのが賢明でないかと思います。

その意味では、最近は事故直後からご依頼を希望されるケースも増えてきてはいるのですが、損保の提示がなされた時点で、複数の弁護士に損害の見積と説明を求めた上で依頼先を決めるというのも賢明な対応ではないかと考えています。

交通事故は、重篤後遺障害の事案でなくとも、被害者にとっては「鉄の塊に激しく衝突され、あと少し違っていれば、もっと深刻な被害があり得た」という強い被害者意識(トラウマ)を持ちやすく、加害者や損保会社に対して、強い不満感を抱いたり、相手方に邪悪な加害的意図があるかのように感じてしまう例も時にみられます。

そのように「強い不信感を抱かざるを得ないので加害者側と接点を持つことが気持ちの問題として苦しい」という方が、事故後間もない段階からご依頼を希望するというケースが多いように感じています。

この点は、相手に迎合する必要はないにせよ、相手の「立場」を見極めた方が賢明な場合があります。加害者本人は「高い保険料を払って任意保険を契約しているのだから、こうしたときこそ保険会社にきちんと対応して欲しい」と思うことが多いでしょうし、加害者の損保側も「少しでも賠償金を減額させ、そのことで自社の収益もさることながら加入者全体の保険料を抑制させたい」という立場的な事情に基づいて交渉しているのでしょうから、「先方は先方なりの立場がある」と割り切った上で、感情的にならず先方の対応に誤りがあれば淡々と正すような姿勢を大事にしていただければと思っています。

一般論として、弁護士が代理人として前面に登場した時点で、相手方が身構える(一種の戦闘モードになり警戒レベルが格段に上がる)面はありますし、ご本人が強く申し入れることで、時に法律上はあり得ない有利な条件が示されることもあるように感じますので、ある程度の段階までは弁護士が相談等の形で後方支援し、「ご本人が相対しているからこそ得られる譲歩や情報」が概ね得られた時点で代理人が登場するというのも時には賢明なやり方ではないかと感じることもあります。

結局は、当事者(被害者・加害者・損保担当者)の個性や被害の状況などに応じて異なってくるはずで、一義的な正解がないことが多いでしょうから、今後も悩みながらご相談やご依頼に誠実に相対していきたいと思っています。

余談ながら、先日、あるベテランの先生とお話をしていた際、「昔、交通事故の記事が出ると、記事に表示されていた住所をもとに手紙を送って自分への依頼を働きかけていた弁護士がいた。今も登録しているが老齢のため現在もそのようなことをしているかは分からない」とのお話を伺いました。

私の認識では、事故で被害を受けた方に弁護士がダイレクトメールを送付して勧誘するのは、いわゆる「アンビュランスチェイサー」として昔から弁護士倫理(弁護士職務基本規程)で禁止されている(規程10条、日弁連解説書21頁)と考えていますが、その「年配の弁護士の方」がそうしたことを本当に行っていたのか、行っていたとして、弁護士会などは知っていたのか(黙認していたのか)等、あれこれ考えてしまうところはあります。

詰まるところ、弁護士が少なく司法サービスが県民に行き届いていなかった時代では、そうしたことも黙認されていたのかもしれませんが、現時点ではアウトとして懲戒などの対象になる可能性が高いとは思います。

「岩手日報に重大な被害記事が出た途端に、県内どころか全国の弁護士達からDMが殺到する」などという類の事態は論外というべきですが、被害者の方が適切な形で弁護士のサービスにアクセスでき合理的な選択権も行使できるような実務慣行・文化も形成されるべきことは申すまでもありません。

現在ネットで氾濫する在京弁護士や実体も明らかでない団体等の宣伝サイトの類ではなく、法教育的なことも含め、より良質な「リーガルサービスに関する情報提供のあり方」について関係者の尽力を期待したいものです。

盛岡で生きる二戸人~I’m an legal alien in Morioka~

さきほど偶然ネットで、二戸市が盛岡と東京でUIJターンの促進等の見地から交流会を行う企画があるというのを発見しました。盛岡では本日開催とのことですが、私は40歳を超えており参加資格がなく、残念です。
https://www.city.ninohe.lg.jp/forms/info/info.aspx?info_id=4889

東京在住時に一度だけ東京二戸人会に誘っていただき参加したことがあるのですが、盛岡でもそうしたものがあればと思っています。

私の場合、中学卒業時に県外に出てしまった上、仲良しだった同級生仲間で盛岡に住んでいる人がほとんどいないこともあり、盛岡で10年以上生活していても、本業でもそれ以外でも、二戸出身の方や二戸在住の方に声をかけていただける機会がほとんどないという恥ずかしい有様です。

幸い、戻ってきて間もない頃に、二戸の方からご相談やご依頼等をいただいたことは何件かありますし、今も、稀に、相談者の方から「HPを見ましたけど二戸出身なんですってね。自分の家族もそうなんですよ」とのコメントをいただくことはありますが、もっと二戸出身或いは二戸在住の方と関わることができればと思いながらも、「忘れられた二戸人」の悲哀を託っているというのが正直なところです。

もちろん、声をかけていただけるのを待っているのでなく私自身が知り合いの有無に関係なく色々な場所に顔を出して声を上げていかなければならないのでしょうし、そろそろ兼業主夫業にも一つの目処が付きそうな感じもありますので、いつまでも引っ込み思案のままでいるわけにもいかないだろうと、自分に言い聞かせようと思っています。

これまでも、「盛岡という異邦(仇敵の都)の地で生きる二戸人」としての自分のあり方、役割や責任を考えながら生きてきたつもりですが、十分に実践できているというにはほど遠く、人生の折り返し地点を過ぎたこともあり、できることを少しずつでも増やしていきたいと思っています。

日弁連が「ヤメ弁」の支援に乗り出す日と「弁護士の独立」の終焉?

全国有数の暴力団問題を抱えた地域と目されている福岡県が、暴力団を離脱し一般企業に就職、更生したいと希望する人(ヤメ暴)の支援策として就労先企業に給付金を支払う制度を導入したとの記事が出ていました。
http://news.yahoo.co.jp/pickup/6190244

それを読んでいて、今後、ヤメ暴ならぬヤメ弁の支援が必要になってくるのではと思ったのですが、以前は、こういった報道が出ると、日弁連評論家として高名な小林正啓先生がブログで「弁護士近未来小説」と題するパロディ記事を出されていました。

残念ながら、ここしばらく小林先生がそうした投稿をなさっていないので、愛読者の一人として、復活を願って次のように少し真似して書いてみました。私では小林先生の切れ味には遠く及びませんが、御大のご復活が遅くなるようでしたら、今後も似たような復活祈願記事を書くこともあるかもしれません。

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【虚構新報いわて支部速報】

新人激増と景気低迷の影響で弁護士の就職難や事務所の経営難が囁かれる中、業界から離脱する「ヤメ弁」を雇った企業に、日弁連と所属弁護士会が最高70万円の奨励金を給付する制度を4月から始めることが関係者への取材で分かった。当面は、事務所経営者たる弁護士(一定額以上の経費を分担するパートナーを含む)が円満に廃業するケースが対象。

さらに、「ヤメ弁」を雇用後、元依頼者とのトラブルが起きた場合、損害の状況に応じ、雇用主に最高200万円の見舞金を支給する「身元保証制度」も同時に実施する。弁護士の業務については各人が加入する賠償保険を通じて支払う例はあるが、日弁連による直接の支援は初めてという。

これまでも日弁連は弁護士の企業就職を斡旋するなどしてきたが、新卒者重視の我が国の雇用文化の影響で、10年以上の業務経験を有する弁護士の就職を受け入れる企業はほとんどなく、大手事務所から官公庁への任期付職員となり数年後に弁護士に戻る例が大半となっている。

日弁連は、昨年から、小規模な法律事務所を経営する弁護士(町弁)が行き詰まった際に、預かり金の横領に手を染めることなく「ハッピーリタイア」を迎えることができるための施策の強化に乗り出しており、新制度を通じて、激増で淘汰された弁護士の円満な退場と就労先の拡大・業界の新陳代謝を狙う。

町弁業界に少し詳しいオボナイ弁護士「新人が私の頃の3~4倍も増えたのだから、外部に払うお金があるなら先に会費の減額をして下さい。おかしいだろ、これ」

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ところで、昨日に日弁連の会長選挙があり、当選された新会長さんは、報道では、弁護士による預かり金の横領被害への補償制度の導入を強調されていました。

以前、岩手(盛岡)で生じた弁護士の横領事件に関し長大な投稿を載せた際、「横領被害に対する補填制度を導入するのであれば、補償金の担い手の理解を得るために、各弁護士への業務監査(監視)制度の強化は絶対に避けられない。誰がその監視・監督を担うのか次第で、伝統的な弁護士自治は大きく変容するかもしれない」という趣旨のことを書いたことがあります。

日弁連会長選を巡っては、近年は、新旧の窮乏町弁層の声を代弁して会費の大幅減額などを掲げる新勢力が登場するのではという憶測がなされていますが、今年も昔ながらの対決構図(いわゆる主流派の方と歴戦の少数派候補である高山弁護士)に止まり、個人的には残念に思いました。

再就職の支援であれ横領被害の補填であれ、近時は、日弁連が組織としての業務を拡大し、激増する会員から徴収した多額のお金を支出する「大きな政府」を指向する話が中心で、これと逆の指向(会費減と弁護士会の規模縮小=小さな政府)を主張する「弁護士業界の統治の担い手となりうる政治勢力」が出現しないことに、私自身は些か残念に感じています。

先日、「弁護士激増で日弁連が肥大化し、地方の弁護士会は「地域の法務の大企業」となって、町弁達は地元の弁護士会に依存・従属する傾向を強めるのではないか」という趣旨のことを書いたことがありますが、自民党政権が続く日本政治に限らず、「大きな政府派、小さな政府派」といった、社会にとって必要な政治理念同士の対立を前提とした政権交代可能な政治勢力による対決と均衡・分担といった形が、弁護士業界でも生じてくれればと思わないでもありません。

ともあれ、当事務所自身が淘汰の対象にならないよう、まずは現在ご依頼いただいている皆様のため、最大限お応えしていきたいと思っています。

自民党政権と鎌倉幕府の類似性を踏まえて日本国憲法の未来を論ぜよ

購読中の日経新聞が3ヶ月以上の積ん読状態になり、先日まで10月のものを読んでいました。10月19日の紙面には、安倍首相が党内の重鎮や若手の支持を集めてライバルを押さえ込み強固な政権基盤を形成しているという話の解説記事が出ていました。

最近は甘利経財相が突如失脚するという事態も起きましたが、こうした記事を気楽に読んでいると、今後の政権の担い手や政治の形はどうなるのだろうと、何となく考えてしまいます。

現在の社会について考える際、過去の歴史に学ぶというのは基本的な話ですが、戦後数十年の「自民党一党支配下の派閥政治→小選挙区制後の政権陥落と復活を通じた総裁・首相の権力強化」という流れについて、日本史の中で近いものがないかと考えると、鎌倉時代が割と近いのではと思いました。

鎌倉幕府の場合、成立時こそ源頼朝(源氏)の存在感が大きかったとはいえ、ほどなく有力御家人らの合議的な体制に移行し、激しい内部抗争に北条氏が勝ち残り、承久の乱と元寇を通じて得宗専制が確立するという流れを辿ったと一般的には言われています。

そのような流れが、派閥の抗争の上に短命首相の交代が繰り返されていた中選挙区時代から、有力派閥(経世会など)の影響力低下と党本部・内閣府の強化(総理・総裁の主導権)に至る現在の自民党政権の経過に多少とも通じる面があると感じました。

鎌倉幕府は大まかに言えば承久の乱までが御家人合議制で、その後は得宗専制への移行期になりますので、承久の乱と北条氏の勝利は民主党の政権交代と自民党復権に匹敵すると言えるかも知れません。

その上で、現在の「習近平の中国」の強大化やこれに伴う日本との摩擦は、あたかも現代の元寇のようなものと考えれば、中国への脅威への対抗のための結束や政治の安定のニーズという国民意識が安倍首相の支持率を相当部分を支えていることに鑑みても、類似性を感じる面があります。

そう考えた上で、「その後」がどうなるかを鎌倉幕府になぞらえて考えると、色々と興味深い点が出てくるのではないかと思います。

教科書的に言えば、鎌倉幕府は元寇の負担で生じた御家人の窮乏について、幕府が賢明な対応をとることができなかったので、御家人の支持を失い統制力が弱まった挙げ句、後醍醐天皇の倒幕軍に足利尊氏・新田義貞らが呼応し裏切ったので滅亡したと言われてます。

元寇は要するに国家防衛戦争ですが、軍役とこれに伴う出費を幕府が丸ごと負担するのではなく地域の封建領主である御家人各自の負担とされたので、御家人が生活に窮乏し借金が増大し、一旦は徳政令=借金の強制免除がなされたものの、その後は金融業者から追加借入ができなくなり?さらに窮乏したと言われることが多いと思います。

破産免責の実務に携わる者から見れば「一旦は借金免除を受けた者が、ほどなく追加借入をせずにはいられなくなる事態」は滅多に生じるものではないとの認識ですので、当時の御家人達(幕府を奉ずる武士)に追加借入を必要とするだけの事情があったのか、その点は興味深く感じますが、よく分かりません。現代も免責から7~10年もすれば追加借入をする方も出てきますので、中長期の視点では鎌倉末期と同じ問題が生じうるかもしれませんが。

ともあれ、近い将来そうした類の光景=自民党政権の混乱と滅亡という事態が現代でも生じるのか、そうであれば、どのような事態が生じた際に自民党政権が衰退するのか、また、その前提として、自民党の支持層が政府の政策とその前提となる事象により大きく窮乏するような事態が生じるのか、あるとすれば、どのような事態か、色々と想像を巡らせるのも面白いかもしれません。

財政上の理由で従前の支持層に手厚くしていた分野(公共工事=建設業界、福祉・医療=医療業界など)への税金配分や年金等の大幅減ということなら、近い未来に相応に生じそうな気もしますが、その際に時の総理が改革の必要性を説いてその判断を支持する層を新たな支持者として取り込むのであれば、政権転覆という事態は生じそうにありません。

元寇のように「政府が自らの責任・負担で行うのが望ましい分野」について、政府の支持層に無理な自己負担を強いて困窮させた挙げ句、杜撰な対策で混乱が生じて支持層をさらに追い詰めるという事態があれば、無為無策の責任が問われて転覆まで行き着くような気がしますが、現在それにあたる分野があるかと言われると、すぐには思いつきません。

ただ、自民党政治が、御恩と奉公に類する「戦後の経済成長で生じた正(プラスの資産)の分配」を基本として成り立ってきたことは確かでしょうから、今後に本格化すると言われる「負の分配」=既得権の剥奪や社会各層への負担・不利益の分配への説得・強制に耐えるような政治体制に刷新できなければ、政権の維持に脆弱さを抱えることは確かだと思います。

実際、小泉首相が専制政治家として公共事業削減などを断行したのに比べると、民主党政権前夜(第一次安倍政権~麻生政権)までは、専制色が乏しく合議的な色合いの強い政権だったように感じますし、そのことも、政権陥落に影響したのかもしれません。

民主党政権も公共事業削減や財政再建など様々な負の分配に取り組んだような気がするのですが、総理(党代表)が権力を掌握できず合議制のような様相を呈したことが、テーマ(負の分配)に耐えうる政治体制でない(要するに未熟である)と国民に審判されたのではという感じもします。

少なくとも、専制型の政権運営は、既得権の剥奪には役立つことは確かで、そうした事情が現在の「総理・総裁の権限強化」を支えているのでしょうが、一部の者への優遇が鮮明になるなど不公平感が目立つようなら、鎌倉幕府の滅亡がまさにそのようなものであったように、専制が崩壊して一気に混乱に陥るリスクも内包していると思います。

その場合、現体制を転覆させて新体制(建武の新政?)を作るための旗印となる理念や制度はどのようなものか、運動の象徴になる存在(後醍醐天皇)やそれを補佐する「現体制では疎外された存在」(楠木正成ら「悪党」)は誰か、転覆後の混乱に勝ち残って次の体制を担う存在(足利幕府)は誰・どのようなものになるのかといったことも考えてみたくなります。

ただ、現代でこれにあたるものが誰か・何かと言われれば、すぐに「これだ」と言えるものがあるか、私もピンと来ません。

在野で強烈な個性を持つ専制指向型のリーダーと言えば、誰しも引退?した橋下市長を思い浮かべるでしょうが、安倍首相と意気投合しているようにも見える橋下前市長が「後醍醐天皇」のようになるのかと言われれば、違和感を覚える方の方が多いと思います。

ただ、安倍首相や自民党が希望する改憲案が、安全保障(9条)と人権保障(個人主義)の修正を指向すると一般的には考えられているのに対し、橋下氏が指向する改憲論は大阪都構想に見られるように統治機構制度に向けられており、9条や人権規定に手を加えたがっているという印象は、私の感覚の範囲では、あまり受けません。

これに対し、自民党の改憲案は、私もきちんと勉強したわけではありませんが、国会・議院内閣制の分野については、さしたる改正を求めていないように思われ、少なくとも、現在の立法・行政の枠組みの大幅な変革を企図していないことは確かだと思いますから、安部首相ないし自民党の改憲案と橋下氏らの改憲?案は、関心のある分野が大きく異なっていると思います。

その上で、国会などを巡る現在のあり方に国民が満足しているかと言えば、現在の選挙や国会ひいては様々な議会や議員の制度(選挙と議会のシステム=立法府や代表民主制の全般)に不満や不信感・閉塞感を抱いている国民の割合は非常に多く、憲法も含めて「政治家」に関する制度を変えて欲しいというニーズは十分に高いのではないかと感じています。

現在、ちきりんさんのブログで勧められていた「フェルドマン博士の日本経済最新講義」を読んでいるのですが、同書でも、選挙制度改革は、現在の日本社会が改革を必要としていながら安倍政権の取り組みが最も手薄になっている分野だと厳しく批判されています。

現在の小選挙区制では従前以上に自民党の万年与党という流れが定着しそうなことや訴訟が繰り返されて「煮詰まった」状態にある定数是正の問題なども視野に入れれば、立法府(選挙・議会・政治家)の大改革は、程なく近未来の大きなテーマとして意識されるのではないか、だからこそ、それに率先して取り組む勢力があれば、アドバンテージを取ることができるのではないか(橋下氏はそれを見越して準備しているのではないか?)と感じています。

ちなみに、フェルドマン博士は、株主総会(資本多数決主義)に倣って「人口比で議決権を配分する制度を導入すべきだ」と提言していますが、私自身は、そのような制度は「生身の人間」たる議員の政治的意思決定権に関する平等の建前を重視する日本の国民感情に馴染まないので、議員を二段階に分け、1段目議員を大増員・廉価報酬とし、2段目議員を1段目議員の互選による少数精鋭(狭義の国会議員)とする間接選挙型の仕組みにすればよいとのではと考えています(この点は後日にまた書くつもりです)。

ともあれ、自民党政権が戦後の政治システム(現在の代表民主制)に非常に馴染んでいる政治権力だからこそ、そのあり方を大きく改変する提言をする政治勢力が国民から一定の支持を受けるようであれば、そのときが鎌倉幕府の滅亡ならぬ自民党政権の終焉に繋がるのではないかと妄想しているところです。

日本社会は、昔から源氏・陸軍・国内派(縄張り重視の封建的集団主義)と平家・海軍・国際派(市場経済・競争重視の個人主義)の路線対立があり、これまでの自民党政権が前者の面が強かった一方で、近時は後者的な性格を強めつつあることも、来るべき動乱?の前兆のような気もしないでもありません。

余談ながら、地方の弁護士業界もこれまでは前者の典型のような面がありましたが、急速に後者の面が強まっている感もあり、そうした身近な世界で生じている激動との関係も考えながら、遠くの他人はさておき我が身は滅ぼすことなく社会の成り行きを見て行ければと願っています。

それはさておき、鎌倉幕府の滅亡について大河ドラマで取り上げられたのは「太平記」だけだろうと思いますが、NHKも視聴率に臆せず蛮勇を奮ってまた取り上げていただきたいものです。

まぼろしのT

週末の午後に事務所で一人で書類仕事をしていたところ、ブラインドに影でT字の模様が浮かび上がっているのを見つけました。

非常用進入口の▽シールへの陽の当たり方の関係で、このようなT字が出現する現象が生じたようですが、昨年に物議を醸した末に露と消えた某五輪のエンブレムを彷彿とさせます。

Tの影も五輪と同じように?数分ほどで儚く消えてしまいましたが、当事務所はしぶとく、しっかりと地域に根を張って末永く皆様のお役に立てるよう精進して参りたいと思います。