北奥法律事務所

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旧県立軽米病院事件

岩手県立病院の跡地群での医療系廃棄物の大量埋設問題に関する県民への問題提起

前回も投稿しましたが、私が受任中の事件に関連して県民の皆さんに知っていただきたい問題がありますので、お時間のある方はご一読下さい。

具体的には、約50年ほど前、県内各地の旧県立病院に当時、医療系廃棄物が大量?に埋設され、現在も大半の跡地で未調査・未解決(放置されたまま)と思われる、という問題です。

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私が受任している事件は、数十年前にK町中心部で操業していた旧県立病院が、当時、住民からの借地である敷地内に膨大な病院廃棄物を埋設した件で、約3年前に判明した後も、県側(医療局)が撤去や費用負担などを事実上全面拒否したため、やむなく提訴に至ったものです。

訴訟では、出土時まで放置したことへの県の責任も論点となっていますが、同種事件は平成20年前後に少なくとも3箇所の旧県立病院で発覚しており、本件は、いわば4件目(但し、借地案件では唯一)となります。

これまで、県庁(医療局)は他の3件では全て県費で埋設物撤去や費用支払をしており、本件に限って対応を拒否しているのは、他の案件が県の所有地だった(ので売買時に瑕疵担保責任を負う)のに対し、本件は借地なので瑕疵担保責任がないから埋設行為に法的責任がない、との主張に基づくものです。

埋設行為は廃棄物処理法の制定前(旧清掃法)で、県は「当時は埋設しても清掃法違反でないから原状回復義務がない(埋めて放置しても貸主に対し責任は生じない)」と主張しており、そのこと(清掃法違反の当否や公法と私法の区別など)も大きな争点となっています。

当方=貸主から土地を買い受けた者(地元自治体)は「撤去だけで数千万円を要する膨大な廃棄物を埋設した借主は当時であっても民法上の原状回復責任を負うはずだ、自分の土地(県有地)に埋設したときは撤去するのに、借地なら放置しても良いというのは非常識だ」などと主張し、大きく3つの法的構成に基づき撤去費用等の支払を県庁に求めています。

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以上が前置きで、ここからが本題なのですが、本件で埋設行為が行われたとみられる昭和20~40年代前半頃の時点で、岩手県には現在と同じく20箇所以上の県立病院があったようです。

現時点で、埋設問題が発覚したのが本件を含む4件(うち1件は小規模?で、他の3件は億規模の諸費用を要した事案)ですが、果たして、二十数箇所の旧病院のうち、埋設問題があるのは「この4件だけ」と言えるでしょうか?

ほかならぬ県庁自身が「当時は、敷地内に埋設するのが当然だ(その結果、数千万円の撤去費用を要する結果を借地に生じさせ3年前に発覚するまで放置し続けても、知ったことか)」と主張しているのに、です。

実際、近年も一関や山田町の県立病院跡地で、県の負担で土壌汚染対策工事がなされているようです(K病院だけが、借地だからという理由で負担拒否の姿勢が続いています)。

オガール紫波の岡崎さんは、本件で訴訟提起した際の私の投稿をご覧になり、「県知事選の争点にしても良い問題だ」と仰っていました。

これは、本件裁判の当否などという(誤解を恐れずに言えば)小さな話ではなく、二十数カ所の旧県立病院の跡地の大半で、森友学園もビックリの医療系廃棄物の大規模埋設問題が未解決となっている可能性はないか、その危険を放置して次の世代に押しつけてよいのか(むしろ、それを適切に対処した上で土地の価値を高める開発をすべきだ)、と提起されたものと認識しています。

とりわけ、この問題が本格的に発覚した(他の大事件が判明した)平成20年代半ばの時点で県庁が全件の埋設調査などに取り組んでいれば、本件で撤去費用以外に生じた多くの損害の発生が回避できたはずで、そのことは訴訟で問題提起し、裁判所も関心を示しています。

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私はこの裁判の期日のたび、地元記者達の囲み取材を受けており、これまで何度かその話を記者達に伝え、他の旧県立病院跡地群の実情がどうなっているか、調べたり記事で問題提起いただけないかとお願いしました。

が、残念ながら、今のところ、その問題が取り上げられた報道を見たことがありません。県議会の記事などで取り上げられているのも見たことがなく、残念に感じています(本件に触れたNHKの特集番組の制作者の方は問題意識を共有いただいたものの、番組で取り上げられるには至りませんでした)。

本日の期日で提出した当方の書面では、他の病院跡地への対応がどうなっているか回答して欲しいと県に要請しており、そのことは自身の選挙区に旧病院跡地を抱えている県議や県民の方々にも関心を持っていただければと思っています。

また、県立病院だけでなく、県内で昭和20年代~40年代前半頃に操業していた別の大規模な病院でも、同種の土壌汚染が発見された例があります。

そして「数十年前に借地上に大規模事業所が設けられ、人体に危険を及ぼすリスクのある物質を扱っていた」例は、病院に限らず岩手に限らず幾らでもありうると思います。

「廃掃法制定前(清掃法の時代)なら、借地には、どんな危険なゴミでも、どれほど膨大な量でも捨て放題(埋設者の責任は一切問えない)」との主張が罷り通るのでは、膨大な撤去費用という貧乏くじを引かされる現在の所有者は浄化を諦めて放置せざるを得ないでしょうし、本件のように何らかの事情で税金の負担により浄化せざるを得なくなった場合も、納税者=住民・国民等は納得できないはずです。

私は訴状などで「自ら汚染した者が法の不備を理由に責任を免れ、率先して大地の浄化に尽力する者が酷い目に遭う社会は絶対に間違っている。何より、県庁自身が、その気持ちで県境不法投棄事件の解決に取り組んでいたはずだ」と書きました。

この気持ちを、裁判所は言うに及ばず、県庁の方々も共有いただけることを願って、被害者(請求者)側代理人の立場で今後もできることに努めていきたいと思います。

 

岩手県庁の桜と大地の涙

1ヶ月前の石割桜の時期に、受任事件の閉廷後に盛岡東警察署に赴いた際、折角ということで、途中にある盛岡城址・亀が池周辺の桜を拝見しました。

岩手県庁をバックに桜が美しい姿を見せていますが、私は現在、岩手県庁を被告とする訴訟(旧県立K病院が借地である敷地内に埋めた膨大なゴミの撤去費用等を請求する訴訟)の原告代理人を務めており、ちょうど、県側の主張への反論書面に悪戦苦闘していました。

というわけで、折角の桜を見ても、庁舎が目に入ると、恨み言のように?余計な一首しか浮かんできません。

花愛でる言葉の裏で地の底に
ゴミ捨て片付けせぬ岩手県

この恥を県民なにも言わずとも
天が大地が花が見ている

ガン、ガン、ガン、ガンラ~イザ~♪(苦笑)

この頃はまさに締切に負われている最中で、先方が

「当時の病棟をK町(基礎自治体)が作って県立病院に運営委託しており、町は県に業務報告を求めることができるので、病院(受託者)のゴミの埋設を町(委託者)が知っていたと擬制される(ので、土地の買主たるK町は県に責任追及ができない)」

などと主張書面に書いているのを見ると

「その理屈なら、県知事自身が、報告徴収権を有する各種事業者(廃棄物処理業者、病院など)の違法行為に対し、何ら責任追及できなくなってしまうじゃないか。そんな主張を県庁が自らするなんて、正気か?」

などと(言葉を選んで)書かずにはいられないのですが、県政を巡る重大事件であることは間違いなく、こうしたやりとりに限らず、事件の内容について報道等で県民に伝えられるべきでは・・と思ったりもします。

報道対象になる事件を受任する都度、記者さん達の長時間に亘る取材要請に応じて精根尽きるほど?説明することが何度もありましたが、記事を見ると「この人、訴状提出してました」程度のことしか書いてくれず、何のために当方を消耗させるほどあれこれ聞いてきたのだろう、と残念に思うことが多いのです。

それはさておき、このエリア(亀が池)の景観自体は、病院廃棄物・・・ではなく周囲の電線を地中に埋めた方が、もっと映えるかもしれません。

(以下、次号)

廃棄物の大量埋設事件たちが語る、大地の尊厳と回復負担の適正公平への道

先日(12月9日)、「岩手青森県境不法投棄事件を総括しつつ、現在も県内で生じている廃棄物大量埋設事件に関する訴訟(旧県立軽米病院事件)を紹介し、一連の問題への県民意識の喚起を図ること」を目的とした、NHKの特集番組(いわチャン「希望郷の廃棄物」)が放送されました。

次の日曜(12月18日)も再放送されるそうなので、見逃した県民の方などはご覧いただければ幸いです。

番組は著名声優さんの語りで県境事件の概要や費用負担を巡る論点及び県庁(環境生活部)の取り組みなどが紹介され、ドキュメンタリーとして綺麗に出来上がっていました。

が、県境事件の総括の途中で突如、軽米事件がニュースをそのまま入れ込んだような形で出てきたため、唐突感というか、番組編集的に若干苦笑する面はありました。

ちょうど放送の前日頃に訴訟の第1回期日があり、進行中の事件の取り上げ方(しかも、県庁vs地元自治体という異例訴訟)の難しさも相俟って、NHK内でも様々な議論や苦慮があったものと察しています。

ともあれ、当方の主張の核心部分(汚染者が責任を問われず原状回復を負担することなく、大地の浄化を引き受ける地元民がしわ寄せを受け虐げられる社会は、間違っていること)には共感いただいた内容だと認識しており、制作サイドの熱意を含め、そのメッセージが行間から伝わる番組になっていたと思います。

私は軽米事件の相談を受けたときから、県境事件との繋がりや落差を強く感じていたため、そのことは訴状に書いたほか、提訴時の記者会見でも記者クラブ向け説明資料で特に指摘し、訴訟での立場等に関係なく、県民の関心を高める報道をお願いしたいと伝えていました。

が、記者クラブの参加者からは全く反応がなく、地元紙などで取り上げた話も聞きませんでしたので、残念に思っていたところ、しばらく経って、その際に同席していなかったNHKの方から、二つの事件をテーマにした番組を作りたいとの申出を受けたため、私と同じ問題意識をもってくれる人がいるんだと感動し、感謝の気持ちで可能な限りの協力をさせていただきました。

裁判自体は裁判官が判断すべきものですので、世論誘導が目的ではありませんが(そんな力もありません)、この問題は広く関心が持たれるべきで、可能なら、県民世論からも適正・円満解決を求める後押しがあればと願っていますので、今後も、訴訟自体に限らず、できる限りのことはしていきたいと思っています。

皆さんも、こうした番組を通じて、口先だけではない「美しい県土を守る」とはどのようなことなのか、考えていただければ幸いです。

私と岩手県庁の20年、そしてその先にある事件

19年前、私は、岩手・青森両県庁などのご協力のもと、全国の廃棄物問題の凄腕弁護士さん達を連れて、岩手青森県境不法投棄事件の現場に行きました。第二の豊島事件になるかもしれないと思われたこの事件は、増田知事の全面撤去の決断を機に、弁護士の出番を必要とすることなく決着しました。

14年前、岩手・青森の海の境界紛争と呼ぶべき「なべ漁場事件」が勃発し、私は、岩手県庁(水産振興課)の全面支援のもと多数の岩手県漁業者の代理人として、青森県庁と闘いました。数十年前から続いていた漁業紛争にケリを付けるため始まった事件は、苦心惨憺の末、実質勝訴と言える和解で終了しました。

7年前、長年の岩手のサケ産業システムに不満を持つ一部の岩手県漁業者による「サケ刺網訴訟」が勃発し、私は岩手県庁(水産振興課)の代理人として原告漁業者らと闘いました。この件も苦心惨憺の末、3年後に全面勝訴で終了しました。

ただ、岩手のサケ産業の現状に照らせば、ある意味、勝者なき闘いだったのかもしれません。彼らが数十年続けた闘争を終わらせるために起こしたのではと感じた訴訟は、裁判で語られたことの意義が世間に伝わることもなく、些か不毛さを残すものでした。

あくまで単発的なご依頼であり「地元の大物センセイ」でもありませんので、県庁の顧問などにご縁はありませんでした。

そして今、数十年前に行われた廃棄物の大量埋設事件で、被害者代理人として、岩手県庁(医療局)を訴える側の代理人として訴訟を提起しました。

自治体と関わる地元弁護士は数多あれど、こうした形で地元県庁と様々な関わりを持った弁護士は、珍しい部類に入るかもしれません。

提訴自体は、当日は地元TVで全局一斉に取り上げられたほか、国内向けWeb記事でも表示されていました。
軽米町が県を提訴 病院跡の廃棄物めぐり 総額1億9000万円の損害賠償請求<岩手県>|FNNプライムオンライン

反面、翌日の岩手日報では紙面の片隅に小さな記事が載っているだけでした。新聞には、訴訟の概要や事件の問題点などについて、提供資料などをもとにTVでは対応できない腰を据えた詳細な記事を書いていただければと願っていたのですが、その点は残念です。

ともあれ、この事件は数十年前に埋設された膨大な廃棄物の撤去費用などの賠償を埋設行為者に請求する事件ですが、以前に投稿した「あなたの街の森友学園事件」のとおり、全国に膨大な数の同種被害が潜在していると危惧されます。

とりわけ、数十年前とはいえ県庁が運営していた施設が起こした事件であることは関係証拠から間違いなく、県庁が県民から借りた土地に、現時点で1億強もの原状回復費用を要する投棄行為を行い放置し続けたことの当否を問うことは、県民にとっての県庁という存在の意味=信頼も問うことに他ならないと思っています。

本件自体の解決もさることながら、将来発覚する同種の事件で適切な対処がなされるようにするためにも、全力を尽くしていきたいと思います。

事件の適正解決のため、県民など多くの方々のご理解・ご協力も賜れれば幸いです。