北奥法律事務所

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弁護士費用

契約書によって相手方に弁護士費用を負担させることは可能か

裁判のご依頼や相談を受ける際に、「自分が勝った場合に、自分が(私=受任弁護士に)支払う弁護士費用を、相手方に負担させることができないのか」という趣旨の質問を受けることが珍しくありません。これとは逆に、自分が負けた場合に、相手方が依頼した代理人(弁護士)の費用を自分が負担しなければならないのかという質問もしばしば受けます。

業界人にとっては常識ですが、現在の法制度には「弁護士費用の敗訴者負担制度」が存在しませんので、勝った側も負けた側も、ご自身が依頼する代理人(弁護士)の費用は自己負担というのが原則です。

ただ、不法行為(等)に基づく損害賠償請求については、他の損害(慰謝料、逸失利益など)の合計額の概ね1割相当の額を、加害者が負担すべき弁護士費用として被害者への賠償を命じるのが実務(判決)の通例ですので、その点は、全面的負担ではないとはいえ、一応の例外ということになります。

そのため、契約上のトラブル、例えば、売掛金の請求に関し、不払を続ける債務者に支払を求めるケースなどでは、自己負担を余儀なくされるわけですが、仮に、最初の契約時に、特約で「期限どおりに支払わない場合に、債権回収のため依頼した弁護士費用は、債務者が全面的に負担する」という趣旨の条項を契約書内に設けておけば、債権者は債務者に請求できるのではないかという話が出てくるのではないかと思われます。

この点は、私の知る限り、議論が深まっていない論点で、判例等もほとんど聞いたことがありません。ネットで少し検索しても、「敗訴者負担反対運動」が盛り上がった時期に、一部の弁護士会が、そのような定めを契約書に盛り込むべきでないなどと書いた意見書を公表した話が出てくる程度で、現在の実務の指針になるような解説を見つけることができませんでした。

ただ、先日、マンションの管理組合が管理費等を滞納した区分所有者に請求するにあたり、「弁護士費用を滞納者が負担する」との規約があることを理由に、滞納管理費とは別に、管理組合が依頼した代理人(弁護士)の委任費用を請求し、裁判所がこれを全面的に認めた例というのが掲載されていました(東京高判H26.4.16判時2226-26)。

この件では、未払管理費が約460万円、確定遅損金が約130万円で、それとは別に、管理組合の代理人費用(着手金・報酬金の合計)として100万円強を請求しており、1審は、代理人費用を50万円のみ認めましたが、控訴審は100万円強の全額を認めています。

判決は、規約に基づく「違約金としての弁護士費用」の法的性格について、区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているに過ぎないから、組合側が債権回収にあたり弁護士費用等の自己負担を余儀なくされるのは衡平の観点から問題であり、不払を自ら招いた滞納者が全部負担するのが相当だとして、違約金の性格は違約罰と解し、組合が余儀なくされた費用の全額を滞納者が負担すべきだとしています。

解説によれば、標準管理規約(マンションに関し国交省が作成しているもの)に同趣旨の条項が設けられているとのことですので、この判決の理に従えば、同じ規約を用いている分譲マンションに居住している方は、管理費を滞納した場合、特段の事由がない限り、同様に、管理組合側の代理人費用まで負担しなければならないということになるかもしれません。

特に、この判決をなさった方が、弁護士費用をはじめ弁護士を巡る法律問題の泰斗とされている加藤新太郎判事なので、業界内での影響がありそうな気がします。

ところで、このように、規約に定めていれば弁護士費用を請求できるという判決が存在する以上、これはマンション限定と解釈しなければならない理由はなく、売買や請負(業務委託)、賃貸借など、他の契約でも、同様の特約を設けておけば、同様に契約に基づく代金や賃料等の支払を怠った側に請求をする際、弁護士費用を付して請求することができる可能性は十分にありうると思われます(判決はもちろん解説でも触れられていませんが)。

ただ、上記のように、「当然の義務を履行しない者のため、債権者が経費負担を余儀なくされるのが不当だという当事者の衡平」を重視するのであれば、議論の余地のない債務(一般的な賃料や、売掛金等の債権内容に争いがない場合)なら、債務者に負担させる特約が有効になりそうですが、相応の理由があって支払拒否に及ぶ場合などは、債務者に負担させることができないと判断される可能性があるかもしれません。

また、とりわけ事業者と消費者との契約に関しては、現時点では、そのような特約が消費者契約法違反として無効となる可能性は少なくないのではないかとも思われます。

ともあれ、経験上、支払義務に争いのない売掛金(特に、中小企業間の取引)について正当な理由のない支払拒否についてのご相談も多く接していますので、そうしたものについては、上記の判決の考え方からすれば、回収のため依頼した弁護士の費用を相手方(債務者)に請求する特約が有効と認められる可能性は大きいのではと思われます。

ですので、とりわけ、取引先からの売掛金の回収に日々苦労なさっている中小企業の方々などにおかれては、受注段階で適切な契約書を作成すると共に、正当な理由のない支払拒否のため弁護士への依頼を余儀なくされた場合には、その経費は債務者が負担する旨の特約を盛り込んでおくことを、強くお勧めしたいところです。

また、現在の我が国では非現実的かもしれませんが、将来的には、婚姻時に、「不貞など有責行為をしたため離婚を余儀なくされた場合には、財産分与その他の関連手続を含め、弁護士費用はすべて有責配偶者の負担とする」などという契約を締結し、離婚時に、その有効性や射程距離を法廷で争うようなご夫婦も登場するかもしれません。

ともあれ、この論点(契約に基づく弁護士費用の債務者負担やその程度)に関する議論(ひいては論点の知名度)がもっと深まってくれればと感じています。

 

弁護士による暴利行為の被害に遭わないために

最近の判例雑誌に、「交通事故の賠償手続などを受任した弁護士が依頼者から受領した金額が、受任業務の内容等に比して高額に過ぎる(暴利行為として公序良俗違反である)と認められ、一部の返還請求が認められた例」が載っていました(東京地判H25.9.11判時2219-73。要旨は以下のとおり)。

Xらは、子Aが交通事故で死亡し、XらはY弁護士に加害者への賠償請求等を依頼し、①相談料として5万円、②刑事告訴として100万円、③損賠請求の着手金として100万円、④自賠責請求報酬として255万円、以上の合計460万円を支払った。

その後、Yが提訴に難色を示したため、XらはYを解任し、上記の支払が暴利行為だとしてYに返還を求め、併せて慰謝料を請求した。Yは、Aの死亡が自殺(ゆえ、加害者への賠償請求が奏功しない)との疑いがあることなどが提訴に難色を示したもので、事故態様に争いがあることなどから既払金が不当に高額とは言えないとして請求を争った。

以上に対し、1審は④の自賠責報酬につき、100万円を超える部分を暴利行為として残金155万円の返還を認め、他の部分については棄却した。Xらの控訴に対し、2審は、③についてもYが訴訟提起に至っていないことから、50万円を超える部分を暴利とし、上記④を含め205万円の返還を命じた。

この事件はさておき、近時、噂話の類として、「東京などには、プロ(弁護士)の目から見れば、さしたる労力を投入しなくとも一定の成果が確実視されるなど、ごく簡単な事案なのに、あたかも成果獲得が非常に困難であり、それを、当該弁護士に依頼すれば実現させてあげるなどと吹聴して高額な報酬を請求する弁護士がおり、特に、刑事事件や交通事故、債務整理などに、その傾向が顕著である。そして、最近では、そうした弁護士が、広告宣伝などを通じて岩手など地方にも触手を伸ばしている」などと幾つかの方面から聞くことがあります。

具体的な紛争事案や問題事案を聞いたわけではなく、最近の業界の競争激化に伴う流言飛語の類もあり得るかもしれませんが、ここ数年の弁護士の激増に伴い、弁護士と依頼者との紛争が増えていることは間違いないと思います。

紹介した事件では、Yの主張によれば、Aの死亡に自殺の疑いがかけられ、それに起因して?Xらは警察等の対応に強い不満を持ち、Yに賠償請求だけでなく刑事告訴の委任もしているという事情があり、単純に「プロ(弁護士)の目から見れば、さほど手間のかからない簡単な案件」というわけではなく、むしろ、Y弁護士と依頼者Xとの間の意思疎通や争点への考え方の相違などに紛争の芽があったようです。

判決を見る限り、有効とされた部分の金額も決して少額とは言えませんが、裁判所は、そうした以上も考慮し、上記の判断に止めたものと思われます。

ただ、「ぼったくり事案」であれ「方針等を巡るトラブル事案」であれ、結局は、依頼者と弁護士との間に適切な意思疎通や信頼関係の構築がなされていないことが、紛争の根底にあることは間違いありません。

常にそこまで必要かはともかく、とりわけ、一般的には難易度が高いと見られる訴訟等を依頼するケースや、高額な金銭の授受が行われる(或いは想定される)ケースなどでは、相談・依頼先の弁護士に対し、適切に事実関係を説明し資料を提供することを前提に、見通しに関する丁寧な説明を受ける(求める)ことはもちろん、見通しや信頼関係の構築、費用の相当性などに多少なりとも不安を感じる点があれば、複数の弁護士に相談するなどして、相性的なことも含め、「自分が真に頼みたいと思える適切な弁護士を選ぶ」という姿勢を大切にしていただきたいと思います。

少なくとも、司法改革による弁護士の激増により、多くの方にとって、弁護士の選択権が増えた(これは、数年前までは、とりわけ地方では、ほとんど考えられなかったと言っても過言ではありません)ことは確かであり、そうした「チャンス」を上手に活かしていただきたいと思います。