北奥法律事務所

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誹謗中傷投稿

Web上の誹謗中傷に対処する制度の改善を巡る動きとIPアドレス開示等に関する4年半前の提言

現在、Web上の誹謗中傷が大きな問題となっている女子レスラーの方の件については番組等を拝見していないので詳細を存じませんが、そこまでの規模ではないものの、同種の問題については、数年に1度ほど、相談等を受けることがあります。

ただ、被害者から投稿者への責任追及となると、投稿者の特定のため最初に必要となるIPアドレスの把握(仮処分など)に時に容易ならざる面があることが災いしてか、未だにほとんど取扱経験がありません。

IPアドレス開示のための法的手続(仮処分)については、サイトによっては外国が絡んだりするなど色々とハードルや問題があり、現在も東京の限られた弁護士さんでないと対応が難しい面はあろうかと思います。

IPアドレスを通じて投稿者の契約先プロバイダさえ分かれば、その後の手続はフツーの町弁でも対応可能だと思っていますので、もし、今回の残念な事件を機に、制度の改善が図られるのであれば、この「入口」の件について、簡易迅速にサイト運営者側から開示を行うための法制度を講じていただきたいと思っています。

この点、5年近く前にツィッターのなりすまし被害の相談を受けた際、当該サイトは外国企業が運営している関係で法的措置に幾つかの難点があり、その克服のため次のような制度を導入してはどうかとブログで述べたことがあります

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①被害者が警察や弁護士などに適切な申告を行い、警察などがサイト運営者に開示するよう要請すれば、直ちに開示する仕組み・慣行を整備する

②他の方法として、被害者からサイト側にアドレス開示要請があれば、サイト側は特定の行政機関(消費者庁など)に投稿者のIPアドレスを直ちに通知するものとし、その上で、行政機関が被害者へのアドレス開示の是非を判断する(却下されれば、被害申告者は行政手続で開示を求める)。

サイト側が行政機関の要請に従わない(通知しない)ときは、行政機関はサイトの閉鎖命令ができる(ので、通知制度の実効性が担保される)。

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他方、投稿者の賠償責任についても、以前に投稿者側から相談を受けて色々と調べたことがありますが、判例検索で出てきたのは、かなり込み入った事情のある特殊性の強い案件が多く(そのため、高額になりがち)、この種の投稿の典型と思われる「ちょっとした私怨・不満を晴らしたくて、Web上で他者の悪口を書いた」とか「Web上で誹謗中傷が横行している人の件で便乗して自分も少しだけ悪口を書いてみた」というケースで、どの程度の金額が通常なのかという相場観が判然としないと感じました。

また、既述の理由から、現在の法的責任追及には高額な調査費用が避けて通れない面がありますが、その費用負担という問題もあります。

そのため、被害者側だけでなく、加害者側も落差が大きい(たまたま見つかった人だけが不相当に高額な賠償負担を負わせられやすい)面があるのではとも感じています。

不正投稿を行った人の全部又は大半に、社会通念上適切な法的責任を果たす仕組み(被害者が重い負担を負わなくとも加害者を特定しやすい仕組み)を整えると共に、それを前提に、実害が乏しく第三者から見れば軽率との非難で足りるようなケースでは加害者側の責任も過度に重くなりすぎないようにすること、また、早期・確実に責任が問われることの周知などを通じて肝心の抑止力を高めることが、求められているのではと思われます。

引用ブログは4年半前の投稿ですので、現在では通用しない(前提などが異なっている)記載もあるかもしれませんが、参考にしていただければ幸いです。

併せて、実名・匿名の区別のあり方(匿名投稿を誰もが自由に行うことができる現在の状況が良いのかどうか)、開示(ひいては賠償責任)を要する誹謗中傷と、そこまでの必要は認めがたい正当な批判や軽微な揶揄の類との線引きなどについても、議論が深められることを期待しています。

ツイッターのなりすまし被害と救済手続に関する現在の難点と改善策

先日、ツイッターのなりすまし被害(AがBの名前などを勝手に用いて自分をBと称して他者の誹謗中傷をするなどの方法でBの名誉を毀損するもの)の救済方法について勉強する機会がありました。

結論として、現在の法制度では、地方の一般的な弁護士がこれを手掛ける上では、初動段階で重大な問題(壁)があり、現状では東京などの一部の弁護士の方に依頼するか、その「壁」を警察に対処していただくか、どちらかを要するのではないか(但し、その「壁」を乗り越えることができれば、それに引き続く問題は、私にも問題なく対処可能)と感じています。

具体的には「ツイッター社に対し、なりすまし投稿者のIPアドレスを開示させる」という問題です。

そもそも、ツイッターに限らず「2ちゃんねる」や他の匿名掲示板であれ、インターネット上に名誉毀損やプライバシー侵害等にあたる投稿がなされた場合、被害者が投稿者を突き止めて賠償請求等を希望する場合、①第1段階として、当該投稿が表示されているサイトの運営者に、その投稿に関するIPアドレス等(アクセスログ)の開示を求める、②IPアドレス等の表示をもとに、その投稿が送られてきたプロバイダ会社(投稿者のアクセスプロバイダ)を確認し(基本的に確認可能とされています)、そのプロバイダに対し、投稿者に関する契約者情報(契約者≒投稿者の氏名、住所等)の開示を求めるという2段階の手順を踏むことが必要となっています。

そして、②については、国内の企業(今ならソネット、ぷらら、ニフティなど)が行っているが通例でしょうから、訴訟手続(発信者情報開示請求)は決して困難なものではないのですが(多分)、①については海外の企業が開設者(運営窓口)になっているサイトがあり、この場合には、基本的にその国を巻き込んだ手続が必要になり、英語絡みの仕事をしていない大半の「普通の町弁」には、対処困難になっています。

例えば、ツイッターの場合、ネットや文献によれば、日本法人に対処能力がなく米国ツイッター社を相手に①の手続をする必要があるとされ、原則として、同社の本社がある米国の特定の州に提訴すべきところ、東京地裁でも提訴可能(逆に、日本で行うなら東京地裁でなければダメ)とされています(根拠は民事訴訟法3条の3第5号、同4条4項、5項、民事訴訟規則6条などのようです)。

この点は、中澤佑一弁護士の著作「インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル」71頁以下に詳細な説明があります。

さらに、裁判の基本ルールとして、相手方の登記事項証明書を取得する必要があり、米国に申請する必要があるため、その種の作業を行うノウハウ(語学力)のある方を通じないと入手は困難と思われます。この点については「ツイッター 登記事項証明」などと入力して検索して発見した、次のサイトが参考になるかもしれません。

また、開示を求める仮処分申立書も米国の住所等を表示しなければならないのでしょうから、そうした点や手続内で生じる様々な論点に英語(時には当該国の法律)で対処することも含め、残念ながら現状では「英語で仕事ができる弁護士」でないと(少なくとも後方支援がないと)対処が容易でない面が強いと思われます。

一般的にIPアドレスの保存期間が3ヶ月とされていることなども考えると、「IPアドレスの開示の仮処分」の申立を希望される方は、すでに実績を挙げている(と宣伝している)きちんとした東京の法律事務所か、上記の問題を十分にクリアできるだけの体制を備えた弁護士の方に依頼するほかないと言わざるを得ないように思われます。

ところで、こうした「名誉毀損投稿の受け皿サイトに外国企業が介在し権利行使の壁が大きくなるという問題」は、「2ちゃんねる」でも生じています。

私は、10年近く前に「2ちゃんねる」の誹謗中傷投稿について相談を受けたことがあるのですが、当時、「2ちゃんねる」の創設者たる西村氏が、事業をシンガポール国籍の企業に売却したとなどという話があったので、「2ちゃんねる」への投稿者のIPアドレスを開示させる手続(仮処分)も、同様の壁をクリアしなければならないので、地方の一般的な町弁では対処困難とお伝えし、実績を宣伝している東京の事務所をご紹介したことがあります。

ただ、この種の訴訟で支払が命じられる金額は必ずしも多くはありませんし、回収の問題もありますので、上記の手続を賄うに足りるだけの賠償金を得ることができるかは、慎重な判断が必要と思われますし、そのせいか、この種の問題(2ちゃんねるなどを含め)で訴訟等の手続がなされることは滅多にないように感じます。

それだけに、「違法投稿者の発信者情報の開示」については、名誉毀損等の刑事事件であるとの前提で、被害者の地元警察など(できれば弁護士一般も)が管理先企業に照会し即日に開示するような実務慣行ないし仕組みを直ちに作っていただければと強く思います。

少なくとも、いわゆるオレオレ詐欺やヤミ金融などで用いられた銀行口座の凍結については、被害者が警察等を通じて口座開設先の金融機関に申告すれば直ちに凍結される仕組みが出来上がっていましたので(私は利用する機会がありませんでしたが、10年ほど前から弁護士も所定書式を提出すれば凍結される仕組みになったはずです)、関係機関がその気になれば、法改正などを要せずとも十分に可能と思われます。

そもそも、一般人を対象とするなりすまし投稿のようなものは、以前に社会を震撼させた遠隔操作事件のような特異な例を別とすれば、被害者の身近な関係にある人(学校なら同級生など在学生・学校関係者、会社なら同僚、社会人なら「ママ友」のような知人など)が行うことが多いと言ってよいはずで、それだけに、事件の本質は近隣関係者による理不尽な加害行為であり、地元の警察など司法機関が解決のため活用されるべきですし、その前提で、当たり前の仕事を行う際に支障(壁)になる実務上の問題があれば、それを除去する工夫が必要だと思います。

そうした意味で、「IPアドレスの開示のため外国企業を訴えなければならず、一般的な実務家では対処困難な壁がある」というのは明らかに不適切な状態になっているというべきで、至急の改善を要すると思います。

被害者の立場からすれば、上記のように、警察等に被害申告をすれば直ちにIPアドレスを開示する制度が一番望ましいですが、それが困難ということであれば、例えば、社会内で一定以上のユーザーが生じているなど違法投稿が問題となる(なりうる)サイトについては、消費者庁の指定制度を作るなどして指定されたサイトを運営する外国企業は違法投稿の被害申告があればIPアドレスを即日に特定の行政部門に開示するものとし(これに応じなければ営業停止=サイト閉鎖などの処分の対象とする)、被害者は開示情報を保管する行政庁に被害状況などを証明して開示申立をし、行政がその適正を迅速に確認して開示の当否を判断するというような「被害者がIPアドレスの開示に関し企業を相手に訴訟手続等をしなくともよい(他の機関で代替可能とする)仕組み」を作るべきだと思います。

せっかく弁護士が激増しているので、日弁連をはじめ、そうした立法運動を盛んに行っていただける方がおられればと思われ、なおのこと残念に感じてしまいます。