保険金請求訴訟とモラルリスク

お世話になっている損保会社さんから、事故に伴う保険金請求の相談を受けている事案で、「故意による事故(自殺・自死など)の疑いがあるので、調査会社が調べた事実関係などを分析して、保険金請求の当否について意見書を提出して欲しい」と要請され、作成して提出したことがあります。

保険金請求を巡っては、被保険者・契約者・受取人などが意図的に保険金支払事由となる事故を生じさせた疑いがある事案(モラルリスク事案)の発生が避けられず、その主張立証責任に関する争いなども含めて、多数の判例等が生じています。

この点については、昨年に判例タイムズ1397号などに掲載された「保険金請求をめぐる諸問題(上・下)」が大いに参考になります。

この論考では、①傷害保険、②生命保険、③火災保険、④自動車保険の4類型について、最高裁判例などに基づく主張立証責任の構造が明らかにされた上で、多数の裁判例などをもとに、保険金請求の当否に関する考慮要素及びそれらに関する裁判所の考え方などが述べられ、現在のところ、基本文献と言ってよいのではないかと思います。

少し具体的に述べると、傷害保険については、偶然性など(偶然な外来の事故)について、保険金の請求者に主張立証責任があるとされ(但し、立証責任の軽減の問題はあります)、それ以外の保険類型では、請求者は保険事故の存在等を明らかにすれば良く、保険会社側が、故意重過失などの免責事由を主張立証しなければならないとされています。

傷害保険に関しては、自動車保険契約に付帯する人身傷害補償特約の保険金給付の当否を巡って問題となった裁判例が幾つか公表されています。

そして、「偶然性」や「故意・重過失」など、モラルリスク事案における保険金請求の当否に関する判断は、次の4項目を総合的に検討し判断すべきものとされています。

①事故の客観的状況(運転方法の異常性をはじめ事故態様などに偶発性を疑わせるだけの要素がどれだけ備わっているか、自殺の手段として合理性があるか、自殺以外の事故原因が指摘・説明できるか等)、

②被保険者等の動機、属性等(借金などの経済状態、疾病、精神状態、家庭状況など)、

③被保険者等の事故前後の言動等(事故直前の普段と異なる不審な行動や事故現場への不自然な接触、自殺等を仄めかす言動の有無等)、

④保険契約に関する事情(締結の経緯、時期や契約内容等にに関する不自然な事情の有無)

保険金を請求する側であれ、される側(保険会社)であれ、保険金請求の当否が問題となっている事案では、詳細な事実関係の調査がなされることを前提に、弁護士が過去の裁判例などを踏まえた適切な分析をすることで、よりよい解決を図ることができるケースが多数あるのではないかと思われます。

膨大な事実関係を丹念に検討するのが「地味で地道な仕事ぶりだけが取り柄?の町弁の持ち味」だと思っていますので、そうした事案に直面した方は、どちらの立場であれ当事務所にご相談いただければ幸いです。