次の知事選(いわて夏の陣)と無党派層の決定的な影響力。

8月20日告示、9月6日投票の岩手県知事選は、ここ最近の下馬評のとおり、現職の達増知事と平野参院議員による事実上の一騎打ちという展開になりました(共産党系候補も出馬されるとは思いますが)。

小沢氏の民主離党直後に行われ、小沢氏系が「民主vs生活」の構図となった平成24年冬の衆院選に引き続く、ポスト小沢氏時代の宿命の対決編第2幕というべき選挙で、ある意味、大本命同士の対決と言っても良いのではと思います。

で、さすがに現時点でこの選挙の当落予測をしているマスコミ(地元紙)はないと思いますし、私も軽々に物を申すつもりはないのですが、平成25年の参院選の際に、過去の国政選挙などの投票動向をプチ分析したことがあり、その結果をもとに考えると、両者の基礎票が概ね拮抗しており、無党派層の投票動向で結果が決まると言ってよいのではないかと強く感じました。

そして、そのこと(自分達の投票が結果を左右するということ)は、棄権率も高い無党派層に投票を呼びかけるという観点からも、広く認知されてよいのではないかと思い、記載内容に色々とご批判もあろうかとは思いますが、議論喚起の趣旨で、投稿させていただきました。

以下、上記の理由を述べますが、まず、平成23年9月の知事選における達増知事の得票率は68%となっており、対立候補である高橋博之氏)の得票率は25%となっています。

この選挙の当時、民主党の内紛が始まっていたものの、小沢氏はまだ民主党に在籍し、県内の小沢氏系勢力は未分裂の状態でした。そのため、高橋氏(県議)は、自身が所属する地元勢力「地域政党いわて」と自民党岩手県連の支持を受けて闘いましたが、知名度不足のほか、高橋氏自身が割とリベラルっぽいスタンスのためか、自民党支持者の支持を集めることができず、民主党=非自公・非共産勢力が概ね一丸の状態のまま対決を余儀なくされたので、震災直後の厭戦ムードも相俟って達増知事が大勝し、高橋氏は上記の得票率に止まったのではないかと思われます。

次に、平野氏については、民主党を離党して挑んだ2年前の平成25年の参院選での得票率を見ると、概ね40%になっています(民主党在籍時の平成19年選挙では達増知事と同じく6割の得票)。ただ、今回の知事選では自公勢力の全面支援が見込まれるところ、この参院選での自公系候補(田中真一氏)の得票率は26%なので、これを足せば66%となり、上記の達増知事の得票率と同程度となります。

そのため、各選挙での政治情勢の違いがあるとはいえ、達増知事・平野氏の両勢力の過去の得票率は、ほぼ拮抗すると言ってよいのではと思います。

ところで、平成25年の参院選では、平成24年冬の衆院選まで一丸であった小沢氏系勢力の得票が、「平野氏:関根敏伸氏(生活党候補):吉田晴美氏(民主党候補)」に三分割され、その得票率は、概ね60:25:15となっています。現在の報道では、民主党岩手県連は平野氏を敵視しており、達増知事の支援に廻る層が相当に出ると見られますが、その場合でも、平成25年の参院選の得票状況が再現されるのであれば、平野氏が勝利することになります。

もちろん、平成25年の参院選の生活党候補の方と達増知事とでは、旧小沢氏系勢力の内部はもちろん無党派層や自公など保守系勢力からの得票能力にも大きな差があるでしょうから、単純に平成25年参院選と同じ得票状況になるはずがありません。

平成25年の参院選については、下記に引用のとおり直後に簡単な分析記事を書いており、その中では、平野氏が得た40%の得票のうち、概ね15%程度が浮動票(無党派層の支持が流れ込んだもの)と判断したのですが、平野氏と達増知事では、現時点でどちらか一方のみが無党派層の支持を集めているという印象は受けません。
→ 参院選・岩手選挙区結果を過去の投票結果と比較したプチ分析(H25.7.22再掲)

そうした観点も踏まえると、大まかな感覚的判断としては、平野氏(保守系地域政党+自公系)も達増知事(小沢氏系+現民主の相当部分)も、概ね4:4の基礎票を持ち、残り2割のうち1割弱が共産系の予測票で、1割強が「平野氏か達増知事のどちらかに投票する無党派浮動層」ということになるのではないかと感じています。

それは、言い換えれば、次の知事選は、その無党派層の投票動向で選挙結果が決まるということでもあります。

これまでの岩手県知事選は、過去2回の達増知事は言うに及ばず、当時、政界の華であった小沢氏の支援のもと圧倒的な強さで登場し3期を務めた増田前知事、そして、それ以前(プレ小沢氏時代)は県政の中心であった自民党が擁立した方々が知事を歴任しており、昔々(二戸出身の農民知事こと国分謙吉翁が官僚出身者に勝利したとされる初代知事選)はいざ知らず、現在の岩手県民にとっては、選挙前から結果が見えていた知事選しか経験したことがありません。

そうした意味で、今回の知事選は、少なくとも現時点では、結果の予測が難しい=浮動層(無党派層)が実質的な選択権を持った、初めて(又は数十年ぶりの)知事選だと言えるのではないかと思います。

この貴重な機会を岩手県民が生かすことができなければ、とても残念なことだと思いますし、それゆえに、今回の知事選を、政策の選択であれリーダーシップの選択であれ、大いに実りのある選挙にしていただきたいと願わずにはいられません。

そのような意味では、候補者や支援勢力の方々は言うに及ばず、マスコミやJCなど「選挙の意義を高めるための活動をしている方々」、ひいては無党派層の一般県民も含め、今こそ自分達の出番だという意識で、活動していただければと思っています。

かくいう私も、何で田舎の町弁がこんな文章を書いているのかと訝しく感じる方もおられるかもしれませんが、こうした構図の選挙で無党派層の関心を高めることこそ、日本国憲法が定める国民主権や住民自治の質を高めることに繋がるもので、それに資する取り組みを何らかの形で行うのが地元の法律家の責任の一つではないかという思いで、この文章を書いているつもりです(盛岡JCで公開討論会などを担当する委員会に在籍した関係?で、野次馬感覚が染み付いたことも影響しているかもですが)。

ところで、一時代を築いた小沢氏の勢力の栄枯盛衰という観点から見れば、小沢氏陣営が分裂して保元の乱のように相争った平成24年の冬の衆院選は、「いわて冬の陣」と呼ぶに相応しいものでしたが、今回の知事選は、小沢氏直系の本丸であり、失礼を承知で申せば小沢氏系の最後の大物とも表現することもできそうな達増知事が、生き残りを賭けて元同胞である平野氏と頂上決戦とも言うべき対決に及ぶものですので、「いわて夏の陣」と評しても良いかもしれません。

現職知事が再選出馬する場合、その選挙は信任投票の色合いを帯びますが、達増知事の場合、スキャンダルの類はもちろん、とりたてて知事個人の失政と呼ぶべきものも思い当たらず(土下座事件で物議を醸した競馬場問題は前知事やそれ以前の時代のツケでしょうし、大雪事件など幾つかの補助金問題も広義の監督責任はさておき知事個人が関与したものではないのでしょう)、震災後の対応も概ね堅実になさっていると感じたり過去の圧倒的勝利を覚えている県民も多いでしょうから、そうしたことは、今回の選挙でも有利な要素として大いに働くのではないかと思います。

他方、知事個人が震災対応に関し、華々しい成果を挙げたりリーダーシップを発揮したなどという話もあまり聞かないように思われ(マンガ政策云々も、票に結びつくかは懐疑的です。「そばっち」も知名度がないと思いますし)、「震災復興」に取り残された被災者や、それとは逆に、開発促進を希望する自公系の地元関係者などからは、批判票を受けることもあるかもしれません(その点は、復興相であった平野氏も同様かもしれませんが)。

また、達増知事に関しては、小沢氏全盛期には敵対する政治勢力への辛辣な言動が多く見られたと思いますし、平野氏の出馬表明に対しても、裏切りの政治だなどと敵意を露わにする言動をされていましたので、そうした敵味方を強い言葉で峻別する姿勢が「控え目な人柄」とされている岩手県民にどのように評価されるのかという点も、興味を感じます。

また、民主党陣営のうち階議員などの勢力は、達増知事とは岩手1区の選挙で対決した過去もあり、どのような対応をされるのか、興味深いところです。この点、知事選の直前(8月下旬)に予定されている盛岡市長選では、階議員の有力支援者である内舘茂氏が立候補を表明し、現職の谷藤市長(無所属ですが、地盤的には自公系と言ってよいと思います)と対決することが予定されており、市長選の動向が大きな影響を及ぼすことは確かでしょう。

素直に考えれば、谷藤市長が自公系である以上、平野氏とは手を組めないという前提で、達増氏陣営の支援を見込んで達増知事の支援に廻るという可能性が高いと見るべきなのだろうとは思います。

ただ、仮に、市長選の直前頃に出るかも知れない知事選の事前予測で平野氏優位の報道がなされた場合、それが市長選に影響する可能性もありますので、達増知事と命運を共にするという選択は、内舘氏にも大きな賭けになり、最良の策と言えるのかは私には分かりません(敢えて中立を保つことで、市長の若返り等を期待する若手保守層の得票を期待し谷藤氏陣営の切り崩しを狙うという高等?戦術もあってよいのかもしれません)。

全くの余談ですが、もしも、市長選が知事選よりも後に来るのであれば、敢えて平野氏が当選してくれた方が、「知事選は自公系を勝たせたので、市長選は民主系を勝たせる」という無党派市民のバランス感覚(投票動向)を期待するという高等?な選挙戦略もあり得たかもしれません。

裏を返せば、達増知事にとっては、盛岡市長選でどちらが当選するのが自身の得票にとってプラスになるのか悩ましい面はあると思われ、そうした微妙な論点・判断も、達増氏・階氏(内舘氏)の両陣営の動向に影響を与えるのではないかと思われます。

上述の理由から、盛岡や一関、被災地などの無党派層の動向が選挙結果を左右すると思われるだけに、政策論争もさることながら、そうした選挙関係者の利害得失の面も含めて、本年の岩手・盛岡の大型選挙の様相を興味深く見守っていきたいと思っています。

ともあれ、今回も大変な長文になってしまいましたが、ご覧いただいた皆様には御礼申し上げます。