悪徳弁護士商法と送金詐欺の根絶のために本当に必要なこと

クローズアップ現代で「ロマンス詐欺など(回収困難案件)に関する悪徳弁護士の詐欺的着手金ビジネス(回収不能と分かっているはずなのに高額な着手金を支払わせ、しかも、ほとんど何もやらずに済ませる連中の商法)」の特集が放送されていました。
弁護士にだまされる? 追跡!“着手金トラブル” – クローズアップ現代 – NHK

ゲスト出演されていた弁護士の方をはじめ、出演者の方々は「こういう広告に気をつけろ」とか「弁護士本人との面談が大事だ」などと、昔から散々言われる通り一遍の=悪く言えばつまらない注意喚起を繰り返していました。

が、こう言ってはなんですが、ロマンス詐欺などに引っかかってしまう残念な方々に悪質広告に引っかからないように気をつけろと言っても砂漠に水をまくようなものではとの印象は否めませんし、ろくでなし弁護士が悪徳広告会社と結託して悪徳ビジネスをしている以上、ろくでなし弁護士と面談したからといって抜本的な解決=残念委任の防止になるかは疑問です。

インチキ事務員のがっかり電話トークだけで、儚い期待を抱いて多額の費用を投じて依頼する残念な方々(焦燥感や被害感情云々から、あたかもオレオレの送金直前のような残念な精神状態に陥ってしまった方々)なら、ろくでなし弁護士と面談しても「ワシに任せよ、ガハハ」という程度のろくでなし説明だけで「弁護士が会って話をしてるんだから大丈夫だ」などと自身に都合のよい方向に話が進むだろうと幻想を抱いて委任=支払してしまうだけのことでしょう。

結局、こうした残念な判断力しか有しない方々が悪徳業者の被害(二次被害)に遭わないようにさせるためには、ろくでなしとの出会いの機会自体を禁圧するしかないはずです。

結論として、弁護士広告の許可制(消費者庁?が許可した者だけが弁護士事務所の広告を取り扱えるようにすること。審査業務には日弁連などが支援・関与することが前提)こそが、この問題を解決できる抜本的な処方箋だと考えます。

憲法訴訟になるような厳格な許可制にする必要はなく、当面は、「どう考えてもヤバいだろ」と言えるような弁護士の広告を行う得体の知れない業者の排除だけを行う抑制的な運用に止めるだけでも、所定の目的は十分に達成できるはずです。

もとより、ロマンス詐欺云々だけでなく、かつて全国で派手に広告した末に過払金の巨額不払倒産=横領に至った東京ミネルヴァ法律事務所のような連中の排斥=予防も目的とするものですし、あの事件も「ろくでなし広告会社が法律事務所を乗っ取り全国の膨大な多重債務者(過払金債権者)を食い物にした」事案であることは、弁護士なら誰でも知っているはずです。

が、私の知る限り、そうした提言(広告許可制)をしている人を聞いたことがありません。

行政による規制と闘いたいのが弁護士会のサガだから?でも、他ならぬ日弁連自身が平成12年まで弁護士の広告禁止をしていたのに消費者保護のための規制に反対するなんて、おかしな話です。

或いは、そうした規制を通じて弁護士自治(行政介入の排除)が脅かされると感じているのでしょうか?

でも、許可(や取消)の審査としての調査活動(消費者庁による報告徴求権)の実働中核部隊を実質的に日弁連(が推薦等する委嘱弁護士)が担えば、実質的に「行政組織を利用して現状よりも遙かに効果的な日弁連によるモンダイ弁護士への監督活動や非弁対策」が可能となり、弁護士会云々の社会的信用にも繋がるはずです。

少なくとも、実効性ある予防や被害回復手段をとらず無為無策に終始しているように見える日弁連に任せるくらいなら、お役人達(中核は検察官や裁判官と事務官組織?)に監督させた方がいい、という世論の声が出てくることだってあるはずで、そうしたことも含め、日弁連云々は何をやっているのやらと言わざるを得ないでしょう。

あと、悪徳業者に呑み込まれる残念弁護士は、経営難などの事情で個人事業主として全うできない者であることが大半ですので、そうした方々が国民に迷惑を掛けることなく足抜けするための「退場支援」に日弁連などはもっと取り組まなければならないはずですが、それに関する実効性ある取組も現在はほとんど存しない(議論が始まったばかり)ことも間違いありません。

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もう一つ、この番組を通じて残念に感じたのは、「ロマンス詐欺などを防いだり、残念ながら引っかかってしまった人がマトモな弁護士のマトモな仕事を通じて被害回復できるようにするには=現行制度の不備を解決するにはどうしたらよいか」という視点・メッセージを全く伴っていなかった点です。

根本的には「被害者が賠償請求権を有すること自体は間違いないが、現行法の不備が大きすぎて回収が難しい(権利成否の無理筋ではなく制度不備に伴う回収の無理筋)」というのがこの問題の出発点であり、かつて一世を風靡した大手サラ金への過払金請求と比較すれば、違いがよく分かるはずです。

裏を返せば、(私のような?)マトモな弁護士がマトモな仕事で回収できることが通常だ、と言えるようになれば、全国の多数の弁護士が受任し他の分野と同様に概ねマトモな回収ができるようになる=それが、モンダイ弁護士(被害)の駆逐のための、もう一つの抜本的な解決策のはずです。

が、そうしたことも、番組に限らず、誰も述べているのを聞いたことがありません。

例えば、オレオレの類は(聞くだけで辟易しますが)送金直後?に本物の親族やら警察やらとやりとりをして被害に気づくケースが多いようですが、そうであれば、送金先口座から犯人側が直ちに払戻等を行うのに、何らかの制約を設けることができれば、「タイムラグ」の最中に被害が発覚し口座凍結→回収が一挙に楽になるはずです(口座名義人さえ分かれば、訴訟等は可能であることは間違いないはず)。

そこで、例えば、口座開設名義人以外の個人から数百万円などの送金がされた場合、それを払戻等するためには、原則として数日程度の期間を置かないと無理(即時の払戻等したければ、銀行窓口などで厳重な本人確認や払戻の正当性などの証明を要する)という「預金取引(払戻等)規制」がもし可能なのであれば、オレオレ等の抑圧にかなり役立つのではないかと思われるのですが、どうでしょう。

簡単ではないでしょうが、AI云々の力を借りればできない話でもないように思います。

そうした「被害者本人(や銀行の善意)に依存しない、がっかり詐欺被害(犯人の収奪)の阻止」が簡単にできる仕組を作れないか、議論すべきではないかと思うのですが、どうして誰もやらないのだろうかと残念に感じます。

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私は、この種の事案の相談を受ける機会はそう多くはありませんが、大体は「現行制度にあまりにも不備が多く回収は極めて困難=費用倒れのリスク大。それでも頼みたいですか」と、上記と全く逆の意味で残念な説明をするのが通例で、そのせいか、その種の事件を受任したことは、ほぼ(多分全く)ありません。

現状では、そのように応対する弁護士が大半でしょうし、だからこそ「残念すぎる当事者」が、マトモな(フツーの)弁護士等のサービスを利用する(できる)ことなく、儚い幻想を抱いてさらなる残念な選択肢に飛びついて数次被害を拡大させていく(そうした人が、数千人やら数万人規模で存在する)というのが現在の日本の光景なのだろうと思います。

そうした、「ドツボの光景のままでいいのかニッポン!」ということこそ、国民多数が視聴するクローズアップ現代で訴えて欲しかったというのが、私の印象です。

まあ、岩手弁護士会きっての窓際族の身が何を言っても致し方なく、「マトモな弁護士も中にはいるんだね」と思っていただけるよう地道に仕事に勤しむほかないのでしょうね・・

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このテーマでは、8年前も似たような文章を載せていました(が、この間も被害が多数生じ続けたことは本文のとおり)。
見ず知らずの遠方の弁護士に仕事を頼むリスクと専門性を謳う広告だけによる弁護士選びの怖さ | 北奥法律事務所

今回の投稿も、Webの片隅に消えていくだけの運命なのでしょうが、溜息ばかりついても仕方ありませんので、今できる仕事だけはきちんとやっていこうと思います。