北奥法律事務所

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弁護士の品質保証

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編②

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第4回です。

弁護士費用保険が普及すれば、弁護士業界が大きく変容していくのではないかという趣旨のことを述べた投稿の4回目です。今回は「顧客への品質保証などの観点から、保険会社と町弁側を繋ぐ役割を担う企業が業界内で大きな機能を果たし、影響力を増していくのではないか」というテーマについて書きました。

6 弁護士の斡旋(マッチング)サービスと医療界との比較

前回は、「弁護士費用保険の利用者は、弁護士のコストの無料・低廉化を求めるだけでなく、依頼のニーズに適合する弁護士の斡旋等の機能も、保険商品が果たすことを期待しているのではないか。そして、そのニーズに応えるため、町弁に関する幅広い情報提供や斡旋サービスを行う企業が、存在感を高めていくのではないか」という趣旨のことを書きました。

ところで、医療の世界に関しては、日本は国民皆保険制度になっていますので、私も含め、多くの方が、医療に関する公的保険の費用(税ないし保険料)を負担していますが、他方で、私が知る限り、少なくとも公的な医療保険には、ここまで述べてきた「自分の症状に対する適切な診断、治療を行ってくれるお医者さんの紹介」を担うようなサービスは無いのではと思います(いわゆる医療保険にはそのようなサービスがあるのか、勉強不足のため存じません)。

私自身、自分に一定の症状が生じた場合に、そもそも何科に行けばいいのかすら分からないことが多いので、そうしたサービスがあればと感じるところはあります。

反面、そのようなサービスが発生ないし普及しないのは、少なからぬ方が、まずは地元の診療所を利用し、それで対処し切れないと診断された場合には、地元の大学病院を紹介され、それでも対処し切れない(特別な対応が必要・相当だ)と診断された場合には、支払能力があることを前提に?国内の限られた一部の医療機関を紹介され、そのサービスを受けるという仕組みが、割と出来上がっている(その過程で医師から受ける診断やアドバイス等を信頼する文化がある)からなのかもしれません。

そのような観点からは、何らかの法的問題を感じた方が、「かかりつけ医」ならぬ「かかりつけ弁護士=最寄りの(かつ、自分と相性がよい)町弁」に相談し、その町弁では対処しきれない問題は、地元の大事務所や特殊な技能を持った弁護士さんに、という文化が存在すれば良いのではという観点もあるかもしれません。

ただ、弁護士業界に関しては、「大事務所」化している(それが機能している)のは、特定分野への専門特化が強く要求されている企業法務の世界が中心で、町弁の世界では、ある程度の人数がいると言っても、普通の町弁の寄せ集め(集合体)に過ぎないケースも多々ある(言い換えれば、お医者さんの世界に比べて、地元の小規模事務所で十分対処できる業務の方が、遥かに多い)ように思います。そのため、「大病院と町医者」という役割分担のシステムが適合しにくい業界であり、上記のような「町弁Aから専門弁護士Bへの紹介」という紹介システムが機能しにくい面が強いと思います。

また、医療の場合、国民皆保険なので、かえって医師の格付けや斡旋などの仕組みが作れない(横並び的性格が強まりやすい)のではという面もあるのではと思います(もし、保険廃止=自費負担が原則となれば、皆保険社会に比べて、医師間の競争が熾烈なものになりやすいのではと思います)。

この点は、米国の医療保険制度(における医師の斡旋等の仕組みの有無など)を、弁護士費用保険との比較などの観点から研究していただける方がおられればと思わないでもありません。

7 弁護士紹介・選別・格付け業者の台頭と斡旋報酬規制の撤廃?

これに対し、一定のサービスを付して保険商品として販売する方式であれば、競争原理が働き、「我が社の保険は良質な弁護士の斡旋サービスも伴っているので、他社商品より優れている」などと消費者に売り込む(かつ、その体制づくりをする)保険会社も、やがては登場するかもしれません。

ただ、前回述べたとおり、その斡旋機能を保険会社自身が適切に果たしうるか(果たすだけのシステムを作れるか、その意欲があるか)という点には疑問があり、弁護士の斡旋ができる(前提として、利用者のニーズを把握する質の高い相談機能と、そのニーズに合うだけの弁護士を紹介・マッチングできるだけの、業界・業界人への知見や人的ネットワーク等の機能を備えた)企業が、社会的なニーズとして求められてくるのではないかと思います。

そして、私の知る限り、現時点で、そのポジションに最も近い位置にある(かつ、他の追随を許していないと評しても過言でない)のは、「弁護士ドットコム」だと言ってよいのではと思います。

ただ、現時点で弁護士ドットコムが果たしている役割は、せいぜい弁護士の紹介機能(無料相談サイトによる能力紹介ないしマッチング的な機能を含め)に止まり、上記のような意味での斡旋機能を果たしているとは思われません。

また、弁護士ドットコムという企業が、ここまで述べてきたような「顧客のニーズに適った弁護士を紹介できる適正な斡旋」を果たしうる企業と言えるのかという点も、(同社の実情を把握しているわけではありませんが)現在の弁護士ドットコムのサイト情報など、公開されている情報を見る限り、まだまだ未知数だと思います。

このような機能・役割を果たすには、町弁が従事する基本的な諸業務及び基礎となる法制度などに通暁することを要すると共に、長年に亘り、弁護士業界(又はその周縁)に身を置いて、多くの弁護士の仕事ぶりや建前と本音、業界の理想と現実を見て、体系的に業界情報を収集、整理している方でないと、到底担えるものではありませんから、元榮氏が創業した新興企業というべき弁護士ドットコムが、現時点でそれだけの知見、ノウハウを企業として有しているか(短期間で備えうるかも含め)、懐疑的と言わざるを得ません。

敢えて言えば、現在、弁護士ドットコムが、一般向けのQ&Aなどの事業を盛んに行っている点は、それに参画している弁護士の情報を整理することで、ツールの一部として活用することができるのだろうとは思いますが、もちろんそれだけで足りるような話でもないでしょう(元榮氏が弁護士ドットコムの創業について記したご著書をまだ拝見していませんが、このような観点から読んでみれば、色々と分かることがあるのかもしれません)。

さらに言えば、そもそも、本格的に(業として)弁護士の斡旋を行おうとすれば、現行の弁護士法72条に明らかに違反しますので、そのような業務を営むこと自体が不可能です。そのため、現在、事実上の弁護士紹介(斡旋)サービスを行っている事業者は、基本的に、利用者ではなく弁護士から、広告料という形で、その対価を徴収するに止まり、個々の相談・委任希望者と個々の弁護士とのマッチングには従事していないはずです。

ただ、その結果として、「紹介するに相応しい弁護士」よりも、「仕事が欲しい弁護士」の方が、そのようなサービスを多く利用しているため、時には、我々(同業者)に言わせれば誇大広告ではないかと感じるような文言を掲げて宣伝しているのを見かけるという、「逆説的な供給サイドの都合優先じみた光景」が生じていると、言えないこともありません。

とりわけ、それら「宣伝熱心系」の弁護士(事務所)の中には、顧客に過大な報酬を請求・取得し、それを広告費用の原資にしているのではないかなどと業界内で白眼視されているものもありますので、なおのこと、弁護士の広告(一般向けの情報提供)のあり方を巡っては、現在の風潮のままでよいのかという印象を拭えません。

この点、元榮氏が次回の参院選に出馬されるとのことで、そのことと直ちに結びつくかどうか分かりませんが、将来的には、弁護士法72条のうち弁護士紹介業を禁止している部分は、現在の社会では合理性のない規制だとして規制緩和等の運動が起き、撤廃ないし修正をされる可能性が相当に出てきているのではないかと感じます。

すなわち、かつての「二割司法」の時代は、(当時の司法の状況なども踏まえ、弁護士であれば、誰に頼んでも、概ね問題ないサービスが受けられるという認識のもと)弁護士のサービスを利用できる層ないし事件が限られていたため、「弁護士を紹介・斡旋できること」自体に財産的価値が生じやすいという面があり、そのことで、「弁護士の支援を必要とする社会的弱者」から不当な暴利を貪る輩が存在したことから、それを禁圧する趣旨で、有料斡旋禁止の必要性(を基礎付ける立法事実)があったと言うことができます。

これに対し、弁護士数の激増に加え、町弁業界ですら一昔前に比べて様々な約束事が増え、弁護士なら誰でもこなせるわけではない仕事が増えている「八割司法」の時代になると、「希少種を紹介する対価として不当に暴利を貪る輩」が生じる可能性が相対的に低くなり、むしろ、自分が依頼したい業務をこなせる弁護士が誰か(どこにいるのか)等を把握したいというニーズに応えるべしとの声の方が高まるのではないかと思います(もちろん、そのように言えるかという立法事実の問題も、慎重な調査、検討が必要と言うべきでしょうが)。

そして、その結果、一定の条件(営業方法規制や弁護士の経営関与及び弁護士会の監督など?)を付して、有料紹介業を解禁するという展開が、少なくとも近未来の可能性としては、相当程度、出てきているのではないかと思います。

8 法テラスとの比較について

ところで、ここまで専ら「弁護士費用保険が普及した場合に(或いは普及の前提として)、弁護士を選別(マッチング)するシステムを、顧客(契約者)や設営者(保険会社)が求めてくるのではないか」という観点で書いてきましたが、同じことが法テラスについては生じないのかという検討は、あってよいと思います。法テラスも、報酬基準や立替制などの違いはあれ、「依頼の際に費用を支払わなくとも弁護士に依頼できる(受注側も依頼者の支払リスクを回避できる)システム」という点では、弁護士費用保険と同じ機能を有するからです。

とりわけ、法テラスが資力要件を撤廃した場合には、弁護士への依頼業務の多くが法テラス経由となるのではないかと見る向きもあると思います。

ただ、法テラスは立替=結局は自己負担であることに代わりありませんし、受注側にとっても、(低額報酬に相応しい簡易事案はともかく)すべての事案で法テラスの報酬基準が貫徹されると、経営維持が困難として忌避する傾向は大きいでしょうから、利用者・受任者双方にとって難点を抱えた(メジャーな存在になりにくい)補完的な制度としての色合いは否めないと思います。

震災無料相談制度の恩恵に浴している被災県の弁護士としては、現在の「30分までの無料相談業務」に関しては、資力基準や法人排除を撤廃して良いのではと思いますが、受任事件に関しては、資力基準を撤廃してからといって、法テラス方式が当然に普及するわけではない(その点は、保険制度と大きく異なる)と感じます。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編①

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第3回です。

弁護士費用保険が普及すれば、弁護士業界が大きく変容していくのではないか(その上で、弁護士側も、それを必要とせざるを得ないのではないか)という趣旨のことを述べた投稿の3回目(ここからが本題部分)です。

4 弁護士費用保険の普及と「弁護士の品質確保と選別・監督機能」

ところで、現在の弁護士費用保険(前回に述べたとおり、私はプリベント社の保険の実情を存じませんので、損保各社が展開している自動車保険の特約を前提に述べます)は、基本的には、契約者(利用者)自身が依頼する弁護士の費用を保険契約の範囲で補填するという定めをしているに止まり、弁護士の斡旋等を当然に含んでいるわけではありません。

もちろん、多くの損保社では、それぞれの地域に、顧問ないし特約店である弁護士(加害者側でその損保社の保険給付の必要が生じた場合に、損保社が加害者代理人として対応を依頼する弁護士)を抱えていますので、契約者ご本人のご希望があれば(或いは、保険商品の販売代理店から相談があれば)、その弁護士を被害者代理人として紹介するという例が多いのではないかと思います。かくいう私も、仕事でお世話になっている損保会社さんがあります。

ただ、利用者の立場で「弁護士のサービスを受ける保険」を突き詰めれば、それ(費用補填)だけで十分というのではなく様々なニースがあることは、優に想像できることです。

なんと言っても、利用者としては、弁護士の費用負担を免れれば(保険が払ってくれるのなら)それでよいというものではなく、依頼する弁護士が、利用者(依頼者)の依頼の趣旨に合致する仕事を適切に行ってくれること=そのような弁護士を斡旋すること(品質保証)も含めて、その保険商品に機能して欲しいと希望していると思います。

もちろん、10年ないし数年前までは「依頼する弁護士の質」というのが問題とされることは、町弁業界では滅多に無かったと思います。弁護士費用保険の有無などもさることながら、弁護士の絶対数や情報流通などの問題から、顕在化しなかったという面があるのではと思われます。

これに対し、現在では、町弁の絶対数の増加に伴い、供給者側の問題(研鑽の度合いなどに関する一定のばらつき)はもちろん、利用者側も弁護士を選択、選別できる権利ないし利益があるという意識が高まっていることは確かだと思います。また、レアケースとはいえ、近時は不祥事などで突然死(事業停止)する弁護士も出現していますので、そうした理由で、依頼先の弁護士(法律事務所)の健全性に対する関心も生じていると思います。

言い換えれば、現在の弁護士費用保険制度は、「弁護士を原則として無料(保険料のみ)で利用できる」という低コスト利用の要請については概ね満たしていると思われますが、品質保証(保険を利用して依頼する弁護士が、対象となる業務を、実務水準や顧客の資質・個性などに照らし適正に遂行できること、ひいては、そのような弁護士を紹介・斡旋すること)という面では、十分に機能しているとは言えないと思います。

まして、保険を利用して依頼する個々の弁護士の業務に対する監視・監督や、上記の業務停止等によるトラブルの防止策(経営状況の監視・監督)や被害補填などという点では、およそ機能していないと言ってもよいのではないでしょうか。この点は、加害者側であれば、保険会社が自ら賠償金の支払をする関係で、方針の策定段階から全面的に保険会社が主導し、誤解を恐れずに言えば、弁護士は「損保の意向を忖度して行動する手足」として仕事をするに過ぎない(その意味で、依頼者から弁護士への業務監督機能が貫徹されている)ことや、継続的な委嘱等を通じて、委嘱先の弁護士への情報収集などが行われている(のでしょう)ことと、大きく異なっていると言えます。

また、利用者サイドの事情だけでなく、供給者(弁護士)側の状況も、かつてとは大きく異なっています。端的に言えば、事務所(弁護士としての自分)の存続のため、弁護士費用保険を利用した事件の受任を必要とする弁護士が、かつてなく増えていることは確かだと思います。

その上、町弁の仕事・研鑽は大半がOJTという性格が強いことから、町弁の多くが、弁護士費用保険を通じた事件受任に依存する面が強まれば、そのことは、研鑽等の機会も保険に依存する面が強くなるということになりますし、何らかの形で損保会社から業務上ひいては経営上の監視・監督を求められることも受け入れていかざるを得なくなるのではと思います(この点は、法テラスも同様ですが)。

要するに、弁護士費用保険の課題ないし未来像として、低コスト利用機能のほか、品質保証などの機能も果たすことが期待・要請され、これを果たそうとすれば、利用者サイドのニーズに応える形で、保険会社が町弁の業務への関与・干渉を深める方向に舵を切っていくことが予測されるということです。

5 弁護士の格付けや依頼者のニーズに即した斡旋を行う企業

ただ、弁護士費用保険を販売する損保各社が、近いうちにそうした機能を果たすことができるかと言われれば、少なくとも現時点ではそのような能力も意欲もない(今のところは、最近話題の不正・過大請求を抑止し、トータルで黒字事業を営むことができれば十分と考えている)と感じます。

一般論としても、損保各社が弁護士の各種能力や経営その他に関する詳細なデータを集めて、それをもとに保険契約者に弁護士を斡旋等するというのも、現実的ではないと思われます(ただ、保険利用にあたり会社の同意を求めるという約款を用いて、各社の地域拠点ごとに存在する顧問などの弁護士に事実上、集約させていくという手法を採用する会社は生じてくるかもしれません。その社は日弁連LACには加入しないのでしょうし、それがその損保会社にとって賢明な選択と言えるのかどうかまでは分かりませんが)。

そこで、保険会社に代わって、弁護士の各種能力に関する情報を収集、集積し、利用者のニーズ(簡易案件か困難案件かなどの判断も含む)や個性などに応じて、そのニーズに適合するような弁護士を抽出して紹介・マッチングするような、一種の「弁護士の格付け・斡旋企業」が求められてくるのではないかと考えます。

また、その企業が、不正・過大請求をするような弁護士を排除して良質な業務を低コストで提供する弁護士を中心に紹介等するのであれば、利用者サイドだけでなく、保険会社側にも必要・有益な存在として歓迎されるでしょうし(約款の定め方などにも影響しそうです)、そのような斡旋等のサービスが弁護士費用保険の対象外の事案でも利用できるのであれば、その役割(町弁業界におけるプレゼンス)は、著しく向上するのだろうと思います。

もちろん、そのような「格付け・斡旋企業」なるものが、一朝一夕にできるわけもなく、現時点では夢想の域を出ないかもしれませんが(法規制の問題もありますし)、仮に、我が国で、そのようなサービスが本格的に生じうるとすれば、現在のところ、元榮太一郎氏が率いる「弁護士ドットコム」が、その最右翼と言えるのではないかと思います。

(以下、次号)