病院でのストライキに関する労働者と企業や利用者の利害調整

病院の従事者(看護師など)が組織する労働組合が予告したストライキの差止を求める仮処分を行った病院が、労働組合から不法行為を理由に賠償請求をされ、その訴えが認められた例津地判H26.2.28判時2235-102)について少し勉強しました。

事案の概要等は次のとおり。

従業員148名の大半が労働組合X1の組合員となっている内科・精神科の病院Yで、非組合員への規定外の手当支給(いわゆるヤミ手当)が発覚した。そこで、X1が上部組織X2と共に団体交渉を要求したところ、Yから納得いく回答が得られないとして、Xらがスト決行を通告した。これに対し、Yがストの差止を求める仮処分の申立をしたところ、無審尋で認容された。そのため、Xらはこれに従いストを中止した上で、Yの仮処分申立が不法行為に該当するとして、計1100万円をYに請求した

裁判所は、ストライキ実施に至る経緯(Yが義務的団交事項にあたる各問題についてXらとの団交で虚偽の返答を繰り返したと認定)やスト通告の態様(Xらが保安要員の提供を申し出るなど患者の安全確保に相応の配慮を示したこと)を理由に、Yにはストの差止請求権は認められない=仮処分申立は違法と判断しました。その上で、Yの過失が推認される(上記の増額支給問題の追及を封じる目的の申立だと推認)として、計330万円(X1・X2に各165万円)を認容しました(但し、控訴中)。

何年も前ですが、私も医療機関における労働紛争に企業側代理人として関与したことがあり、その事件では、私が介入する数年前に、組合が徹夜に及ぶ団交の紛糾を理由に経営側にストを通告したものの、経営側が組合の要求の多くを受け入れてストが回避されるという出来事があり、その際に高齢の経営陣が多大な心労を負ったという話を伺ったことがありました。

その件では、経営サイドの方は「組合は保安要員の提供を拒否した」と説明しており、これが相違ないのであれば、上記事件と異なり、仮処分の申立をしても違法とは言えないとされるかもしれません。ただ、当方がその件を指摘したところ、組合側は提供拒否はしていないなどと主張して事実関係を争っていたような記憶もあり、その種の問題が生じた事案では、そうした紛争の決め手になった「肝」にあたる問題については、何らかの形で事実経過に関する証拠を残しておくべきということになるでしょう。

本件のように、労使の見解が鋭く対立した結果、本体的な労使紛争に派生して法的紛争が生じることもありますが、労使紛争の態様・経緯など(本体の紛争でどれだけ正当性があるか)が大きく影響することは確かでしょうから、紛争対応を受任する弁護士としては、事実関係の把握と評価に誤りがないよう、心がけていきたいと思います。