北奥法律事務所

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行政事件

区画整理を巡る訴訟と被災地の法的需要

先日、区画整理に関し、施行者たる自治体から特定の行政処分を受けた方が、その処分が違法であると主張し争う趣旨の手続の依頼を受け、行政不服審査請求に加え裁判所への取消訴訟提起と執行停止の申立を短期間で一気に行うという経験をしました。

区画整理に関しては、被災地の高台移転を始めとする様々な復興事業の関係で、沿岸部では大々的に行われているところですが、今回、お引き受けしたのはそのような事案ではなく県央部のもので、10年以上に亘る様々な事情を経て自治体側が事業の執行に動き出したところ、当方依頼主の権利、利益が蔑ろにされていると主張し、衝突に至ったという流れを辿っています。

ともあれ、照応の原則という区画整理では最も争いの対象になりやすい問題が主たるテーマになっていることなどから、事件自体は悪戦苦闘という面はあるものの、区画整理紛争の基本的な対応の仕方を学ぶという点で、色々と参考とさせていただいています。

そうした意味では、今後、被災地などで区画整理紛争が生じ、弁護士の支援が求められることがあれば、お役に立ちたいとの思いは持っています(ただ、費用対効果等との両立などで悩むことが多いかもしれませんが・・)。

ところで、前記のとおり、被災地では区画整理が大々的に行われているため、中には権利関係を巡って紛争等が生じている例もあるのではないかと思われますが(先日、大船渡に出張した際にも、紛争絡みと思われる立看板が国道に出ていました)、私の知る限り、訴訟に至った例はほとんどないのではないかと思われます。

震災直後の時期には、震災に起因して県内に様々な弁護士の仕事が生じるのではないかという憶測が流れており、例えば、いわゆる二重ローン問題などに起因して多数の企業倒産や個人破産等が生じるのではないかとか言われていましたが、実際には、そうした「特需」のようなものは、岩手では全くと言ってよいほど生じませんでした。

敢えて言えば、主として住宅ローンが残存する自宅等が被災した方のための「個人版私的整理ガイドライン」については、一定の需要がありましたが、これも、「多くの方が金融機関と借換を済ませてから制度が導入された」などと酷評されたように、実際の利用者は潜在的需要層のごく一部に止まったとされており、沿岸部で開業している先生方に多く配点されたことなども相俟って、当事務所での受任はごく数件で、現在はほぼ収束した状態と見られています。

区画整理や高台移転等にあたり複雑な相続問題を抱えて弁護士の対応が必要となる事案(相続人不存在や関係者多数・紛糾事案など)も多く存在するのではないかと言われてきましたが、私が見聞している限りでは、その方面の仕事が増えているという話も聞きません。

ここ最近、災害弔慰金絡みの訴訟や避難誘導に関する国賠訴訟(鵜住居事件など)が報道で取り上げられるようになっていますが、裏を返せば、報道で取り上げる程度の僅かな件数しか、この種の訴訟も生じていません。

現在、被災地で報道されている問題の一つに、労災の多発という問題があり、中には安全配慮義務違反で使用者側に賠償請求するに相応しい事案も幾つかあるのではないかと思われますが、これについても、訴訟等の話はほとんど聞いたことがありません。

現在、宮古支部に1件、訴訟事案を抱えていますが、その事件番号を見ても、宮古支部に継続している民事訴訟は、ごく僅か(過払紛争の華やかなりし頃に比べれば数分の1レベル?)と思われますし、岩手弁護士会が延々と続けている県庁主催の被災地相談に関する件数報告などを聞いても、内陸の若い弁護士さんが一日がかりで出張し「今日もゼロ件でした」などとMLに報告されているのを拝見するのが珍しくないという状態が続いています。

弁護士を必要としない、法的紛争のない幸せな社会なるものが出現しているのか、助力・支援を必要とする方への適切な情報提供や繋ぎ役(中間項)が欠如し、それを埋め合わせる営みが欠落した状態ばかりが続いているのか、或いは、あと数年もすれば、本当に需要なるものが顕在化するのか、未だに近未来の「被災地の法的需要」は見通せませんが、まずは、どのような事態が生じても、地元の弁護士として、お役に立つに相応しい事案で力を発揮できるよう力を養うと共に、沿岸・内陸を問わず、地域社会の行く末について、静かに見守っていきたいと思っています。

 

アイスバケツとALS関連訴訟

最近、アイス・バケツ・チャレンジなる運動(イベント?)が盛り上がっており、本来の趣旨は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究を支援するための寄附を募る運動なのだそうです。

氷水をかぶること自体には、あまり意義を感じませんが、難病支援の運動であれば、盛んにやっていただいてよいのではと思います。

ところで、ALSが裁判のテーマとして取り扱われることはほとんど聞いたことがありませんが、先般、同症の罹患者への介護給付費の算定方法が問題となった裁判例が公刊されており、せっかく、アイスバケツを機にALSに関心を持ったという方がおられれば、こうした話題にも目を向けていただければと思います。

事案と判旨の概要は以下のとおり(和歌山地判H24.4.25)。

昭和11生まれの男性Xは、身体障害者1級を認定され、障害者自立支援法・介護保険法に基づく介護認定を受けている筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者であり、平成19年3月頃からは、Y(和歌山)市内の自宅で妻Aと2名の訪問介護員による24時間介護を受けている。

Y福祉事務所長は重度訪問介護の支給量を1月268時間(1日8時間+緊急対応20時間)とする介護給付費支給決定(H22・H23決定)をした。

Xは、24時間の公的介護を要し1月651時間(1日21時間)を下回らない決定をしないことが裁量の逸脱・濫用だと主張して、Yに対し、本件各決定の取消しと当該義務付けを求め提訴。

裁判所は、結論として、X(筋萎縮性側索硬化症の患者)に関する介護給付費で「1月支給量が542.5時間を下回らない決定をしないこと」が裁量逸脱・濫用とし、決定の一部を取消し、上記時間の限度で、介護給付費支給決定の命令(義務づけ判決。行訴法37の3)を行いました。

判例タイムズの解説によれば、本件は、障害者自立支援法に基づく介護給付費につき、支給決定を義務付けた初めての事例とのことです。

Xは、本件訴訟の提起時に仮の義務付け命令を申し立て、支給量を1月511.5時間とする決定の仮の義務付け命令を得ており、Xの代理人をされている方は障害者支援の分野では著名な先生で、福祉関係者とも連携し、緻密な主張立証をなさったものと思われます。

福祉分野に関しては、私も本格的な紛争の相談を受けることは滅多にありませんが、以前、母子手当に関し行政から納得のいかない判断を示されたというご相談を受けたことがあります。

その際には、市側の対応が筋の通らないものと判断しましたので、ご本人の主張を書面に要約して市役所に提出して下さいとお渡ししたところ、後日、市役所から希望どおり手当を受給できることになったとのお話をいただきました。

福祉関連は、弁護士にとっては超不採算仕事になるのが通例で、経営者にとっては「業務」として受任できるか悩ましさが伴い、いわゆる市民団体等の支援が得られない普通の弁護士にとっては、持続可能性等の関係で受任してよいのか悩む面はあると思います。

ただ、行政が明らかに筋の通らない対応をしていると確信できる案件などに巡り会った際には、そうしたものを糾すのも町弁の職責と腹を括って、できる限りのことをしていきたいとは思っています。

 

学校等での不祥事(被害事件の発生)と被害者側への調査報告義務

「学校でいじめが生じて被害者(生徒・児童)が自死に及んだ後、遺族が加害者側や学校に対して賠償請求する例」は、判例雑誌などで時折見かけることがあります。

当事者(加害者)に社会通念上容認しがたい「いじめ行為」があったという具体的な事実が判明すれば、加害者本人はもとより、その親権者や学校側が監督責任としての賠償義務を負うことがあり、裏を返せば、そのような事実が解明できなかった場合には、立証不十分で遺族の請求は棄却される可能性が高いと言えます。

もとより、遺族には事件発生(子の自死)に至るまでの事実関係を解明するのは容易でなく、学校に対し事実の調査、解明を行って欲しいと期待するのは当然やむを得ないことと言えます。

そのため、学校が当初から不誠実な対応に終始するなど、事案の解明や報告に取り組まなかった場合には、いじめ行為への監督云々とは別に、それ自体(調査報告の懈怠)が違法行為(義務違反)に当たるとして、遺族への賠償義務がみとめられることがあります。

例えば、「私立中の生徒が自殺し両親が後になって全容解明を希望し徹底調査を求めたものの学校が拒否したケースで、学校に調査報告義務違反ありとし慰謝料の支払を命じた例」があります(高知地判H24.6.5判タ1384-246)。

事案と判旨は次のとおりです。

『Y1学園が経営する私立中の1年生Aが自殺した。両親Xらは当初、自殺の事実を伏せたいと考え、Y1もそれに沿う対応をしていたが、後日、Aがクラブ内・教室内でいじめ・嫌がらせを受けていた事実が判明したため、XらがY1に徹底調査を求めた。

ところが、Y1は、一部の者のみの簡易な聴き取りのみを行いXが求めた全校調査等を拒否したため、Xらは、「Y1は自殺の原因を調査しXらに報告すべき義務あるのに怠った」と主張し、クラス担任Y2及びクラブの顧問Y3を含め、総額800万円(Y1にX1・X2各250万円、Y1・Y2連帯でXら各100万円、Y1・Y3連帯でXら各50万円)を請求した。

判決は、Y1にXらに各80万円、Y1・Y2に連帯でXらに各15万円の支払を命じ、Y3への請求は棄却(総額190万円を認容)。

裁判所は、Y1が、本件自殺が学校生活上の問題に起因する疑いがあることを真摯に受け止め原因が構内にあるか調査しXらに報告すべき必要性は相当程度高かったのに、消極的な姿勢でその調査等を行わなかったと判断し、自殺から2年以上が経過した判決時には当該解明は事実上不可能になってしまったことなどを重視し、義務違反を認めた。但し、Yに有利となる事情も斟酌し、賠償は上記の金額に止めた。』

また、「いじめ」以外でも、小学5年生の児童が自死した件で、遺族が担任の指導(学校内での接し方)に問題がある(児童へのパワハラ的な行為があった)と主張し、学校に調査、報告を求めたのに、学校がこれを怠ったとして賠償請求した件で、担任の指導に違法な点はなかったものの、学校に調査、報告義務違反があるとして、その点を理由とする賠償請求が認容(総額110万円)された例もあります(札幌地判H25.6.3判時2202-82)。

このように、「生徒・児童に深刻な被害が生じた場合に、学校生活にその原因となる事情が存すると疑われる相当な理由がある場合には、本人・家族の求めにより学校が相当な調査、報告をする義務を負い、これを果たさないと賠償の対象となる」ということは、裁判所の一般的な認識として、認められているということができるのではないかと思います。

そして、このような考え方は、一定の応用が利くのではないかとも思われます。すなわち、企業に勤務している方に深刻な被害(例えば過労や職場内のいじめ等による自死など)が生じた場合に、その原因が企業での勤務状況にあると疑われる相当な理由がある場合には、本人・家族の求めにより勤務先が相当な調査・報告をする義務を負い、これを果たさないと賠償の対象となる(被害そのものに責任がなかったとしても、判明後の対応の不備を理由に慰謝料等を賠償しなければならない場合がある)」と考えることができるのではないでしょうか。

また、こうした話は、労働契約に限らず、介護施設を利用している方に関し自死や重大な事故が生じた場合(入院中の事故など医療機関を含む)など、様々な形で応用範囲が広がってくる可能性があります。

この点、上記の札幌地裁判決では、調査・報告義務の根拠を就学契約に求めているとのことで、生徒・児童の「利用者」という面を強調するのであれば、労働契約のような場合には応用の範囲は限られてくるかもしれませんが、それでも、こうした視点を持っておくことは、利用者(従事者)等と企業側の双方にとって、重要なことではないかと考えます。

とりわけ「見える化」などという言葉が広く用いられるなど、説明義務的な発想を広く認め、そのことにより社会の透明性や様々な意識(職業意識や規範意識など)の向上を図っていくことが現在の社会の潮流になってきていると思われ、そうした面も意識する必要があると考えます。

ただ、上記の「調査報告義務違反」で認められる金額は大きなものではなく、それのためだけに裁判を行うというのは、受任する弁護士に相当な費用を要する可能性が高い(その種の事案の性質上、膨大な作業を必要とする可能性が高いため)ことに照らせば、被害者側の権利行使の機会(利益)の保護という面からは、なお不十分という印象は否めません。

そのため、こうした問題を射程に入れた弁護士費用保険の開発や普及(適切な運用や審査制度等も含め)が求められるところだと思っています。

東京電力と「放射性廃棄物」の処理に関する措置命令

産廃処理ないし原発事故絡みの廃棄物処理に関心のある方向けの投稿です。

先日から、「福島の製材会社が、放射性汚染のため、東電の賠償金を原資として木くずの廃棄処理を業者に委託したところ、その業者が滋賀県などに不法投棄したという事案」のニュースが流れています。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014040402000128.html

この点、廃棄物処理法の一般原則からは、不法投棄の実行者たる処理業者及びその関係者が撤去責任を負う(法19条の5。具体的には、投棄先の都道府県を管轄する知事等が撤去措置命令を行う)ことはもちろん、委託した排出事業者(製材業者)に、その処理業者が不法投棄を行うことについて過失がある(投棄を予測し得ただけの事情がある)場合には、その排出事業者も措置命令の対象となります(19条の6。但し、伝家の宝刀的な規定で、未だ発出例がありません)。

その上で、仮に、この事件で、製材業者ではなく(だけでなく)東電にも、処理業者が不法投棄を行うことについて過失が認められる場合(例えば、処理業者の選定などについて東電が深く関与し、かつその業者の処理対応能力について疑義を持ちうるだけの事情がある場合など)には、木くずを廃棄処理せざるを得ない原因を作り出した東電にこそ、法19条の6に基づく撤去責任を認めるべきではないかという立論が成り立つように思われます。

また、仮に、この廃棄物が「汚染対処特措法」の指定廃棄物(1㎏あたり8000ベクレル超)に該当するのであれば、廃棄物処理法ではなく同法の適用対象になるのではないか、その場合は、同法51条に基づき国(環境大臣)が東電その他に措置命令を出すのか(できるのか)など、さらなる論点が生じてきそうな気もします。

少し調べてみたところ、この件では、処理業者とは別の業者が撤去作業を実施したとのネット投稿を見かけたので(双方の関係などは不明です)、東電の責任云々の出番はなさそうですが、膨大な量の「放射性廃棄物」の発生に照らせば、今後も似たような事件が生じる可能性もあります。

私は、県境不法投棄事件をきっかけに、廃棄物処理法の措置命令について少し勉強したことがあったので、今後もこの種の問題の報道に関心をもって見守っていこうと思っています。

 

子を虐待した親が、その子の死亡で巨額賠償を得た判決と立法論

子Aが、両親Xらに虐待されている疑いがあるとして、Aの入院先の病院Y1の通告により、一時保護のため児童相談所に入所した後、児相職員のミスでアレルギー物質を含む食べ物を口にした直後に死亡した場合に、両親が児相を運営する市Y2にXの損害等として数千万円の賠償請求を認めた裁判例を少し勉強しました。
横浜地裁平成24年10月30日判決・判タ1388-139です(Y2市が控訴中とのこと)。

事案と判決の概要は次のとおり。

X1・X2の子であり当時3歳のAは、H18.6当時、Y1(独法・国立成育医療研究センター)が開設する病院に入通院して治療を受けていた。

Y1は、XらがAに適切な栄養を与えておらず必要な治療等を受けさせていない(いわゆるネグレクト)として、Y2(横浜市)が設置する児童相談所(以下「児相」)に対し、児童福…祉法25条に基づく通告をした。

児相の長は、7月にAを一時保護する決定(同法33条)をした。
Aは、卵アレルギーを有していたが、保護先の児相職員が約3週間後、Aに対し誤って卵を含むチクワを食べさせてしまい、Aはその日に死亡した。

XらはY1に対し、自分達は虐待していないのにY1が虚偽の通告をしたとして、慰謝料等各275万円を請求した。

また、Xらは、Y2に対し、①本件一時保護決定等が違法であり、Aに面会等させなかったことを理由に慰謝料各150万円、②Aの死亡に関し、死亡の原因が卵アレルギーによるアナフィラキシーショックによるもので、チクワを食べさせた児相職員に過失があるとして、Aの損害約6400万円の相続及びXら固有の慰謝料各500万円などの支払を請求した。

Yらは、Xらに虐待行為があったので、Y1のY2への通告やY1の一時保護等は適法と主張し、Aの死亡についても、アナフィラキシーショックではない他の原因によるものとして、因果関係を争った。

判決は、XらのY2に対する請求は計5000万円強(1人2500万円強)を認容し、Xらの対Y1請求は棄却した。

まず、Y1のY2への通告(が違法か)については、XらがAに必要な栄養を与えておらず、Aにくる病(栄養不足等による乳幼児の骨格異常)を発症させ、適切な時期に必要な治療等を受けさせていなかったと認定し、通告は必要かつ合理的で適法とし、対Y1請求を棄却。

次に、Y2の一時保護決定等についても、上記事実関係やY1の医師がAの検査等をしようとしてもXらが同意せず治療等をさせなかったとして、同様に適法とした。

他方、Aの死亡(卵入りチクワの提供)については、本件では、摂取から発症・死亡までの時間が通常よりも多少の開きがあるが、発症までの時間はアレルギー物質が吸収される時点によっても異なり、本件では吸収が相当程度遅くなった可能性があるとして、Aの死因が当該チクワの摂取によるアナフィラキシーショックによるもので、Y2職員の過失も認められるとして、Y2にXへの賠償責任があるとした。

損害額については、近親者慰謝料(Xら各200万円)を含め、上記の金額の限度で賠償を認めた。

判例タイムズの解説には、一時保護決定に関する議論や学校給食でアレルギー物質を含む食事を採った子が死亡した事案などが紹介されています。

が、反面、「虐待親が、虐待に起因して行われた児童相談所への一時保護の際に生じた事故に基づく賠償金を自ら取得することの当否」については、何ら触れられていません。この裁判の中でも、権利濫用等の主張はなされていないようです。

Xらの相続権について考えてみましたが、ざっと関連条文を見た限りでは、Xら自身がAを殺害したわけでないので、相続欠格事由(民法891①等)にはあたらないと思われます。また、被相続人(A)を相続人(Xら)が虐待した場合には、相続人から廃除することができますが(民892条)、その申立は、被相続人(A)のみができるとされ、本件のような場合にはおよそ実効性がありません。

また、Xらの請求を権利濫用と評価する余地があったとしても、Y2の過失そのものは否定しがたく、これを理由にY2の責任を否定するというのも疑問です(Xらも悪いがY2職員も過失があり、前者を理由に後者を免責すべきではありません)。但し、本件ではY2が死亡原因が他にあるとして因果関係を争っており、それが認められれば、賠償額は大幅に減額されますが。

このように考えると、「自ら悪質な虐待行為をしてAの死亡の遠因を作った本件Xらが、Aの死亡で巨額の賠償金を手にするのは不当だから阻止すべき」という価値判断を実現するには、「親の虐待に起因して子が死亡した場合には、公的機関の請求により、親の相続権を制限できる」といった法律を制定するないのではないかと思われますが、どうなのでしょう。

ちなみに、虐待親の親権を制限する趣旨の法改正が昨年に行われていますが、親権の制限は相続権の剥奪とは関係がないと思われ(相続権にまで手をつけた改正にはなっていないのではないかと思われます)、本件のような例でその改正を活かすことも難しいのではと思われます(但し、24年改正はまだ不勉強なので、そうでないとの話がありましたら、ご教示いただければ幸いです)。

なお、虐待親が自ら子を殺害したのに等しい場合は、全部の相続権を剥奪すべきでしょうが、そこまでに至らない場合や親側にも酌むべき事情がある場合には、全部廃除でなく部分的には相続権を認めてもよいのではと思われ、そうした判断は、家裁の審判に向いていると考えます。

また、虐待親の相続権を制限した場合に、回収された賠償金は、同種事故の防止や虐待児の福祉など使途を特定した基金とすれば良いのではないかと考えます。

もちろん、このような考え方自体が、財産権に対する重大な制約だとして反対する立場の方も、我が業界には相応におられるかもしれませんが。

我ながら価値判断ありきのことを書いている気もしますので、あくまで議論の叩き台になっていただければ十分ですが、お気の毒なお子さんの犠牲を粗末に扱わないためにも、こうした事件から、現行法や実務のあり方などに関心や議論が深まればよいのではないかと思っています。

H26.2.12追記

この件の控訴審は、Aの死因がアナフィラキシーショックによるものと断定できず、Y2が主張する他の死因(右心室に繊維化した異常部位が混在していることに起因する致死的不整脈による突然死)の可能性も否定できないので、本件食物の摂取とAの死亡との間に相当因果関係を認めることができないとして、Y2に対する認容判決を取り消し、Xを全面敗訴させています(判例時報2204号)。

豪雨災害による個人の損害と裁判

ここ数年いわゆるゲリラ豪雨等による災害や大規模冠水などのニュースが珍しくありませんが、こうした災害で損害を被った方が誰かに賠償を求めて裁判を起こしたという話は、滅多にないのではないかと思います。

先日、判例雑誌で「豪雨による冠水で車両が走行不能(全損)になったため、所有者が自治体に対し、道路の設置管理に瑕疵があると主張し、車両の賠償を請求した事件」を見つけました。

この件では、降雨量が「記録的短時間大雨情報」に遥かに及ばないもので、自治体に予測可能なものであったことや自治体が通行止めの措置をするのが遅れたことなどを理由に道路管理の瑕疵が認められていますが、過失相殺が7割とされ、認容額は僅か11万円に止まりました(津地裁四日市支判H23.10.21判例地方自治371-74)。

車両の損害だけだと請求額も大きくはなりませんので、このような訴訟は勝っても費用倒れのリスクが高いのではないかと思いますが、自動車が絡む話なので、もしかすると、弁護士費用特約を利用して費用負担無しで裁判ができたのかもしれません。

ただ、準備等の手間を考えれば、11万円しか得られないとなると経済的には割に合わず、勝訴による被害感情の充足そのものを目的とする意識が強くなければ、精神的に挫けてしまいそうな気がします。

岩手では、8月に県央部で豪雨による大災害が生じていますが、この件では「記録的短時間大雨情報」が発令されているようなので、道路の管理などについて上記の「瑕疵」が認められるのは容易ではない(ハードルが高い)のかもしれません。

ただ、予想困難な災害でも、自治体など被害防止に関し一定の措置を講ずべき法的責任を負っている立場の者(大雑把な言い方ですが)が、あまりにも不適切な措置しか講じておらず、そのせいで被害が発生ないし拡大したというケースであれば、賠償請求が認められる余地は十分にあると思います(具体的な立証等は、至難を極めるかもしれませんが)。

私の知る限り、岩手では、震災に関しても、この種の裁判(自治体に天災への備えが十分ではなかったから過失等があると主張して賠償請求する趣旨の訴訟)は起きていないようです。

勝訴のハードルなどの問題もさることながら、多数の被害者が生じていることが、逆に足枷になる(他にも被害者がいるのに自分だけ請求することの抵抗感)ことも、あるのかもしれません。

そうした意味では、この種のケースでも、集団訴訟や代位訴訟的なものを考えるべきなのかもしれませんが、言うは易しなのでしょうね・・

 

情報公開請求に関し、多くの点で不開示情報該当性が認められた例

先日、情報公開請求の可否(個人等の識別可能部分に関する不開示情報の該当性)に関するご相談を受けたのですが、ちょうど勉強していた裁判例で、まさにこれが問題となった事例(大阪高判H24.11.29)を判例時報で見つけました。

この事件は、労災事故が生じた事業場に関する国の情報公開法に基づく情報の開示請求の当否が争点となり、同法5条1号、2号、6号の該当性などが問題となった例ですが、自治体の情報公開条例も、この条文と大半の部分で同じ文言、体裁となっているため、自治体における開示請求でも応用が利く面が大きいと思います。