北奥法律事務所

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交通事故

平成27年の取扱実績②交通事故等(賠償)、生活上の問題(消費者・契約)

前回に引き続き、平成27年の業務実績(従事ないし解決した紛争の概要)を守秘義務の範囲内で簡単にまとめました(全3回)。依頼先の弁護士を選定する際に参考にしていただければ幸いです。

(4) 事故等による被害の賠償等の請求や防御に関する支援

本年も、交通事故の被害者側での受任事件が多数あり、そのほとんどの方が、ご自身が加入する任意保険の弁護士費用特約により費用負担なく利用されています。

受任の内容も、過失割合(事故態様を巡る事実関係)が主な争点となる事案、物損の金額が争われる事案、むち打ち症(頚椎捻挫など)に基づく人身被害の賠償額の算定が中心となる事案のほか、過去には死亡事故や重度の後遺障害が生じて多様かつ多額の損害の算定が争われる事案も含め、幅広く取り扱っています。

また、学校で生じた生徒間の事故に伴う賠償事件など交通事故以外の人身被害に基づく賠償事件に従事する機会もありました。

他にも、福島第一原発の事故に基づく東京電力に対する賠償請求(県内の企業が受けた被害の賠償を求めるもの)を手掛ける機会あり、先般、原子力紛争解決センターに対するADRの申立を行っています。

現在のところ弁護士費用特約は保険料も低廉でご自身が被害を受けたときに弁護士への依頼の円滑さを確保する点で絶大な力を発揮しますので、必ず、この特約が付された任意保険に加入いただくよう、お願いいたします

(5) 個人(消費者)が交わす契約や社会生活を巡る法的問題の解決

不動産の賃貸借(契約終了時の貸主の目的物返還請求、借主の保証金返還請求など)や金銭貸借に関する紛争、不動産の登記に関する訴訟に関する紛争などを取り扱う機会がありました。

また、後述の震災無料相談制度を通じ多数の方々にご来所いただき、各種の消費者被害近隣トラブル労働事件など日常的に生活上の様々なトラブルに関するご相談に応じています。

本格訴訟としては、自宅建築目的で購入した土地で過去の所有者による不法投棄が判明し、証拠上、投棄への関与や監督責任があると認められる企業に賠償請求した事案を取り扱っています。相手企業側が強く争うことから投棄行為の立証のため様々な資料の提出を余儀なくされており、2年以上も続く難事件となっています。

その他にも、貸主側(貸主の相続人)の代理人として借主の賃料不払を理由に賃借物件の明渡請求をしたところ、借主側から、被相続人との間でその物件を購入する合意をしたとの反論があり、当否(売買契約の成否)が争われた事案(1審勝訴で相手方が控訴中)、数十年前に売買がなされた土地で、法務局に備え付けられている公図の表示などに問題があり、現在の登記などの状況では売却が困難であるため、当時の土地の使用状況や名義人の相続状況などを詳細に調査して取得時効による解決(移転登記請求)を図った事案(1審勝訴で完了)などを取り扱っています。

他にも、対人トラブルに起因する名誉毀損絡みの訴訟に関するご依頼もありました。

(以下、次号)

近時の交通事故事件に関する取扱や実績と営業活動の今昔

ここしばらく普段取り扱う仕事に関する投稿をしていませんでしたので、たまには触れてみたいと思います。

債務整理のご依頼がめっきり少なくなる一方で、今もコンスタントに一定のご依頼をいただいている分野の筆頭格が交通事故であり、基本的には被害者側でお引き受けするのが中心となっています(お世話になっている損保会社さんがあるため、加害者側での受任も若干はあります)。

5年以上前に比べてご依頼の件数が多くなっているのは、ネットでアクセスいただく方が年に何人かおられるということもありますが、弁護士費用特約の普及という面が大きいことは確かだと思います。

私の場合、平成12年に東京で就職した事務所が、タクシー共済(タクシーの事故の賠償問題に対応する共済)の顧問事務所だったので、独立までの4年半は概ね常時10件前後の事件に従事していたほか、岩手での開業後は主に被害者側の立場で様々な交通事故の事件を扱ってきました。

ですので、交通事故なら自分が岩手で一番などと虚偽?の吹聴をすることはできませんが、様々な事案・類型の取扱経験の質量という点では、この世代の弁護士としては有数といって良いのではと自負しているつもりです。

以前は、死亡事故や後遺症認定1~3級などの重度障害に関する事案も何度か取り扱いましたが、ここ1、2年はご縁がなく、神経症状が中心で治癒又は後遺障害が非該当のものや物損のみの事故が多く、14級や12級の事案が幾つか存するという程度です。

それでも、人身事故に関しては、加害者側の損保会社が最初に提示した額の倍以上(時に3倍くらい)で解決(示談又は訴訟上の和解)する例が珍しくありません。後遺障害が関係すると、その差は数百万円にも上ることがあり、昨年末に裁判所で和解勧告がなされた例や、先週に示談(訴訟前の交渉)で決着した事案なども、そのような形で解決しています。

どの段階で弁護士に依頼するのが賢明かは一概には言えず、損保側の提示が出た段階で十分という例も多いとは感じていますが、やはり、提示がなされた段階で、一旦は、相応に交通事故実務の知見等を有する弁護士に相談なさった方がよいと思います。

特に、介護問題が伴う重度事案などでは、損害項目が多様・複雑になりやすいので、ご自身でも今後どのような出費等(損害)が生じるかご検討の上、相談先の弁護士がそれに応えるだけの十分な知見を有するかも見極めて、依頼先を選定いただくのが賢明でないかと思います。

その意味では、最近は事故直後からご依頼を希望されるケースも増えてきてはいるのですが、損保の提示がなされた時点で、複数の弁護士に損害の見積と説明を求めた上で依頼先を決めるというのも賢明な対応ではないかと考えています。

交通事故は、重篤後遺障害の事案でなくとも、被害者にとっては「鉄の塊に激しく衝突され、あと少し違っていれば、もっと深刻な被害があり得た」という強い被害者意識(トラウマ)を持ちやすく、加害者や損保会社に対して、強い不満感を抱いたり、相手方に邪悪な加害的意図があるかのように感じてしまう例も時にみられます。

そのように「強い不信感を抱かざるを得ないので加害者側と接点を持つことが気持ちの問題として苦しい」という方が、事故後間もない段階からご依頼を希望するというケースが多いように感じています。

この点は、相手に迎合する必要はないにせよ、相手の「立場」を見極めた方が賢明な場合があります。加害者本人は「高い保険料を払って任意保険を契約しているのだから、こうしたときこそ保険会社にきちんと対応して欲しい」と思うことが多いでしょうし、加害者の損保側も「少しでも賠償金を減額させ、そのことで自社の収益もさることながら加入者全体の保険料を抑制させたい」という立場的な事情に基づいて交渉しているのでしょうから、「先方は先方なりの立場がある」と割り切った上で、感情的にならず先方の対応に誤りがあれば淡々と正すような姿勢を大事にしていただければと思っています。

一般論として、弁護士が代理人として前面に登場した時点で、相手方が身構える(一種の戦闘モードになり警戒レベルが格段に上がる)面はありますし、ご本人が強く申し入れることで、時に法律上はあり得ない有利な条件が示されることもあるように感じますので、ある程度の段階までは弁護士が相談等の形で後方支援し、「ご本人が相対しているからこそ得られる譲歩や情報」が概ね得られた時点で代理人が登場するというのも時には賢明なやり方ではないかと感じることもあります。

結局は、当事者(被害者・加害者・損保担当者)の個性や被害の状況などに応じて異なってくるはずで、一義的な正解がないことが多いでしょうから、今後も悩みながらご相談やご依頼に誠実に相対していきたいと思っています。

余談ながら、先日、あるベテランの先生とお話をしていた際、「昔、交通事故の記事が出ると、記事に表示されていた住所をもとに手紙を送って自分への依頼を働きかけていた弁護士がいた。今も登録しているが老齢のため現在もそのようなことをしているかは分からない」とのお話を伺いました。

私の認識では、事故で被害を受けた方に弁護士がダイレクトメールを送付して勧誘するのは、いわゆる「アンビュランスチェイサー」として昔から弁護士倫理(弁護士職務基本規程)で禁止されている(規程10条、日弁連解説書21頁)と考えていますが、その「年配の弁護士の方」がそうしたことを本当に行っていたのか、行っていたとして、弁護士会などは知っていたのか(黙認していたのか)等、あれこれ考えてしまうところはあります。

詰まるところ、弁護士が少なく司法サービスが県民に行き届いていなかった時代では、そうしたことも黙認されていたのかもしれませんが、現時点ではアウトとして懲戒などの対象になる可能性が高いとは思います。

「岩手日報に重大な被害記事が出た途端に、県内どころか全国の弁護士達からDMが殺到する」などという類の事態は論外というべきですが、被害者の方が適切な形で弁護士のサービスにアクセスでき合理的な選択権も行使できるような実務慣行・文化も形成されるべきことは申すまでもありません。

現在ネットで氾濫する在京弁護士や実体も明らかでない団体等の宣伝サイトの類ではなく、法教育的なことも含め、より良質な「リーガルサービスに関する情報提供のあり方」について関係者の尽力を期待したいものです。

平成26年の業務実績②交通事故等(賠償)、生活上の問題(消費者・契約)

前回に引き続き、平成26年の業務実績(従事ないし解決した紛争の概要)を簡単ながらまとめました(全3回)。依頼先の弁護士を選定する際に参考にしていただければ幸いです。

(4) 事故等による被害の賠償等の請求や防御に関する支援

本年も、交通事故の被害者側での受任事件が多数あり、そのほとんどの方が、ご自身が加入する任意保険の弁護士費用特約により費用負担なく利用されています。

取扱う事例も、物損のみで過失割合(事故態様を巡る事実関係)が争点となる事案から死亡事故や高位の後遺障害が生じて多様かつ多額の損害の算定が論点となっている例まで、幅広く取り扱っています。

今も激しい医学論争が続いている「低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)」の発症の有無などが争点となった事例を取り扱う機会もありました。その件は、本年3月まで在籍した辻弁護士が、依頼主(被害者)の主治医から詳細に事情を伺うなどして詳細な主張立証を行いました。

残念ながら、当該論点のハードルの高さ(主要な裁判所で大半は退けられています)もあり、和解協議段階で裁判所から難色を示されたものの、単なる頚椎捻挫事案とは異なるとの判断を前提に、一定の加算を受けることができましたので、そうした形で立証努力が考慮されました。

現在のところ、弁護士費用特約は保険料も低廉で、ご自身が被害を受けたときに弁護士への依頼の円滑さを確保する点で絶大な力を発揮しますので、必ず、この特約が付された任意保険に加入いただくよう、お願いいたします。

(5) 個人(消費者)が交わす契約や社会生活を巡る法的問題の解決

賃貸借(主として貸主側)、不動産売買学校生活(生徒側)に関する紛争などを取り扱う機会がありました。消費者側代理人として勧誘業者からの接触等の拒否を申し入れるなど、紛争に至る以前の対処についてご相談を受けることもあります。また、後述(次回)の震災無料相談制度を通じ、多数の方々にご来所いただき、日常的に生活上の様々なトラブルに関するご相談に応じています。

本格訴訟としては、自宅建築目的で購入した土地で過去の所有者による不法投棄が判明し、証拠上、投棄の実行者又は責任者と思われる企業に賠償請求した事案を取り扱っており、相手企業側が強く争っているため、依頼主とも協力しながら投棄行為の立証のため様々な資料を提出すると共に、廃棄物処理法の知見なども生かして徹底的に闘っています(現在も訴訟が続いています)。

(以下、次号)

交通事故(損害賠償請求)の訴状提出と個人情報

私は、数年前から、交通事故の被害者側で訴状を作成して裁判所に提出する際は、事故証明書など、双方が共通認識を持つべき基本的な資料のみを提出し、それ以外の資料(特に、治療状況の詳細や被害者の収入等に関する資料)は、加害者の代理人弁護士が選任された後、その弁護士に送付することにしています。

そもそも、交通事故のような「不法行為等に基づく損害賠償請求訴訟」では、賠償請求の原因となる加害行為やそれに基づく損害の内容について、被害者が全面的に主張立証責任を負うのが原則ですので、訴訟でも、自己が支払を求める損害の内容等について、詳細に資料を提出して事情を説明しなければなりません。よって、人身傷害事故で治療費や休業損害などを請求する場合、診断書やレセプト、収入に関する資料などを色々と提出する必要があります。

ただ、これらは個人情報そのもの(特に、収入などは典型的なセンシティブ情報)なので、被害者にとっては社会生活上、無関係の相手というべき加害者に、それらの情報の開示を余儀なくされるというのは、疑問の余地がないわけではありません(人によっては二重被害だという見方もあるかもしれません)。

また、それらの資料は、裁判所が証明の程度を判断し事実認定をする上では必要なものですし、加害者の代理人や任意保険(損保会社)にとっても同様の判断や反論等をする上で必要なものですが、加害者本人にとっては、目にしなければならない資料という訳ではありません。

任意保険に加入せず代理人弁護士の選任もせず、加害者自ら訴訟に対応するというのであればやむを得ませんが、そのような例外的な場合でなければ、被害者側(被害者側代理人)にとっては、賠償請求のためとはいえ、加害者本人に被害者の個人情報が詳細に記載された資料を見せる必要は微塵もないと思います(滅多にあることではないと思いますが、加害者本人だと目的外使用の不安もないわけではありません)。

そこで、小手先レベルと言われるかもしれませんが、私の場合、せめてもの対応ということで、訴状では損害に関する事実関係の詳細を記載するものの、その裏付けとなる書証(治療や収入等に関する資料)を出さず、事故証明書や事故態様に関する書証のみを提出することとしています。そして、訴状等が加害者本人に送達され、それが損保会社を経由して同社の顧問又は特約店の弁護士に交付され、加害者の代理人として裁判所に届出がなされた後で、裁判所とその代理人弁護士に交付する形をとっています。

私の知る限り、加害者側代理人の場合、損保会社にはコピーを送りますが、加害者本人には送付しないことが通例と理解していますので、こうすれば、(殊更に損保会社が加害者本人にコピーを送るのでもない限り)被害者の様々な資料が加害者本人の目に触れることはありません。

もちろん、訴状には休業損害等の計算の関係で、収入額等を書かない訳にはいきませんので、訴状には提出予定書証の番号を書いています(裁判所に手持ち資料の存在を説明する点で、証拠説明書を添付するか留保するかは悩みますが)。

さほど沢山の件数を手掛けた訳ではないものの、今のところ、この方法で裁判所等からクレームを受けたことはありません。

これだけ個人情報保護(個人情報に関する資料等の取扱の慎重さ)が強く叫ばれるようになった時代なのに、「損害賠償請求訴訟」に限っては、「被害者が全面的に損害の主張立証責任を負う」とのお題目のもと、様々な自身のセンシティブ情報の開示を、(よりによって被害者が加害者に)強いられるというのは、かなり違和感を感じるところがあります(そうした意味では、究極的には民事訴訟法の改正なども視野に入るような話なのかもしれません)。

この点、加害者が任意保険に加入している方であれば、加害者ではなく損保会社に対し訴訟提起するという方法も考えられますが、この方法の当否については議論もあるようですし、やはり、加害者本人の責任を明らかにしたいというのが一般的な被害者の心情ではないかと思います。

裁判制度を巡る様々な現代的課題の中では、ごく些細な事柄というべきなのかもしれませんが、業界関係者には思考の片隅に置いていただいてもよいのではと感じています。

自転車の保険義務化条例と後遺障害認定

先日、兵庫県議会で、自転車の使用者に保険加入を義務づける趣旨の条例が可決されたとの報道がなされていました。

私自身は、自転車が加害者となる事故(以下「自転車事故」といいます。)の処理を受任したことはありませんが、10年ほど前、岩手県民生活センターの交通事故相談員を務めていた際、自転車同士の衝突事故について相談を受けたことがあります。

その事故では、相談者である被害者の方に一定の後遺障害が残る事故でしたが、加害者は事故の賠償責任を対象とする任意保険に加入しておらず、支払能力も無いと思われる方で、回収困難と見込まれました。

他方で、当事者間では事故態様や過失割合に争いがあり、被害者の方は訴訟などを行ってでも相手の責任を問いたいとの希望はあったのですが、被害者の方も、ご自身の被害を填補する保険(人身傷害補償特約付きの自動車保険契約など)に加入しておらず、まして、訴訟費用等の支給を受けることができる保険(弁護士費用特約付の保険契約)にも加入されていませんでした。

そのため、相談者の方は、それらの事情が難点になり加害者に訴訟等の手段で賠償請求をすることを断念したと記憶しており、その際、自転車にもせめて現在の自賠責(自動車)並みの責任保険を強制する法律又は条例(まずは購入時の上乗せから始めたり任意保険加入者は免除するなど、引用ニュースの条例と同じようなもの)を制定すべきではないかと強く感じたのですが、センターの専属相談員の方に考えを伝えた程度で、他に働きかける機会等もないまま終わってしまいました。

その後、ここ10年で自転車事故がクローズアップされるようになり、引用の条例をどこかが制定するのも時間の問題だと数年前から思っていました。

ただ、このニュースを見る限りでは、保険加入の義務付けしか記載がないのですが、適正な賠償を実現するための手続という点では、賠償実務に携わる者の目から見れば、それだけでは不十分です。

最大の問題は、自転車事故での後遺障害の認定制度の不存在です。

すなわち、自動車が加害者となる事故の場合、後遺障害の可能性があれば、自賠責保険(損害保険料率算出機構、自賠責損害調査事務所)を通じて後遺障害の有無や等級について審査を受け、認定を受けることができます。この審査は、所定の診断書の提出などを別とすれば、費用負担がありません。

民事訴訟(賠償請求訴訟)では、裁判所は特殊な例を除き原則として自賠責の後遺障害認定等級を尊重しますので、被害者にとっては自賠責の後遺障害認定を受けることは、立証の負担という点で強い力を発揮します。逆に言えば、自賠責の認定制度がなければ、被害者は後遺障害の有無や程度について重い立証負担を負い、適正な認定を受けることができないリスクが高くなると言えます。

そのため、自動車以外の被害でも、自賠責の後遺障害認定制度を利用できる仕組みの整備が急務だと考えます。この点は、上記の算出機構を動かす必要がありますので、自治体の条例だけでは対応が困難で、法律改正が望ましいのですが、迅速な導入が困難ということであれば、例えば、熱意のある自治体が損保会社などの支援を得て機構と協定を結ぶような仕組みがあれば良いのではと考えます。

後遺障害認定の問題は、自転車事故に限らず、他の事故や暴力事件など後遺障害が生じる被害一般に当てはまる問題であり、訴訟外の方法で簡易に認定を受けることができる仕組みが広く求められていると考えます。

また、被害救済(賠償)の確保という点では、自転車では加害者・被害者とも保険加入していない人が多いでしょうから、加害者が任意保険に加入していない事案でも、重大な後遺障害が生じた場合などの被害者の最低限の救済として、自賠責に準ずる一定額の保険金が支出される仕組みを作るべきだと思います。

ネットで検索したところ、東京都が自転車にナンバープレート(登録制)の導入を検討しているとの記事を見ましたが、登録時に一定の金額を徴収すれば、そうした保険金の原資となるでしょうし、また、ナンバー制度を設けることで、警察が事故証明書を作成する際に人違い(や虚偽申告等による責任逃れ)を防止でき、また、車両の所有者を特定し事故ないし賠償責任の当事者を特定することが容易になりますので、私自身は導入に賛成です。

また、自転車事故は、事故態様(過失割合)を巡って当事者間で事実関係の説明が強く争われ易く、事故直後に第三者(端的に言えば、警察官)の協力を得て実況見分を行い、調書を作成しておく必要があります。この点は、私自身が自転車事故についてさほど相談等を受けたことがないため実務の実情を存じませんが、自転車事故が原則として過失致傷罪(罰金のみ)に止まることを理由に実況見分がほとんど行われていないのだとすれば、改める必要があると思われ、まずは警察実務の実情を把握したいところです。

余談ながら、最近は弁護士費用保険の普及で、少額事案を含め、物損のみの事故に関する賠償請求訴訟が増えていますが、この種の事案では事故態様や過失割合に関する紛争が生じるものの、物損事故では実況見分が行われないため、正確な事実関係の把握に難儀することが少なくありません。

そういう意味では、物損事故でも、警察が当事者の希望で有料で実況見分を行うものとし、その料金は任意保険加入者であれば保険で賄うことができるという仕組みを作っても良いのではないかと思います。

ちなみに、物損事故では損保会社の依頼で調査会社が実況見分調書に類する図面を作成することがありますが、事故から大幅に期間を経過した後に一方当事者の主張のみに基づき作成されることが通例なので、誰が作るにせよ、なるべく事故直後に双方立会の上で作成されるのが望ましいと考えます。

ともあれ、私自身も自転車は日常的に使用していますし、いざという場合に備えてご自身やご家族が自転車を使用できるようにするためにも、加害者向けの賠償責任保険はもちろん、被害者向けの人身傷害補償特約や弁護士費用特約が付された保険契約には、ぜひ加入していただきたいところです。

また、それと共に、自転車が少しでも歩行者や車両との事故のリスクを軽減し、当たり前の運転方法で安心して走行できるための道路づくりや交通法規のルールを整備していただきたいところです。

高速道路の事故と責任

先日、岩手県内の高速道路上で走行中の車両の炎上事故があり、乗車中のご家族が死傷するという大変残念なニュースがありました。

特異な事故で、当初はタイヤの破裂の影響を仄めかす記事だったと思いますが、その後、他の車両の部品がガソリンタンクに刺さっているのが分かり、それが摩擦で発火したのではないかという報道があり、恐らくは、どのような経緯でその部品が刺さったのか(道路上に落ちていたのを踏んだのか、他の原因か)を警察が調べている最中なのではないかと思います。

事情が全く分かりませんので憶測で物は言えませんが、前方を進行する車両が物を落として、その直後にそれを踏んだということであれば、内容次第では、その車両の責任を検討すべき余地があるでしょうし、一定時間、危険な状態で路上に放置されていた部品を避けきれずに踏んだということであれば、道路の設置管理の瑕疵を理由とする高速道路の運営企業への責任追及という論点もありうるのかもしれません。被害車両に部品が積まれていた可能性もあるとの記事ないし投稿も読んだ記憶があり、いずれにせよ事実関係の解明が待たれるところだと思います。

ところで、全くの余談になりますが、1年ほど前に、高速道路を走行中に、進路前方に突如、布団を巻いたような物体が出現したことがあり、避けきれずに正面衝突してしまったことがあります。

その際には、第2車線を走行中に進路前方の車両が突如、進路変更をしたところ、目の前(視界)に上記の布団が突如出現し、私も第1車線に進路変更したかったのですが、併走している車両がいた上、第2車線のすぐ後方にも走行中の車両がおり、いわば逃げ場のない状態で、避けきれずに布団に衝突してしまいました。

幸い、視界に入った範囲では、布団に人が入っているなどという事情はないと思われ、また、跳ねた布団はそのまま第1車線と第2車線の間で止まったように見えましたので、その後は、他の車両に迷惑をかけることもなく、高速道路の管理会社側で撤去したのではいかと思われます。

恐らく、引越等のため布団を巻いて運んでいる方が走行中に落としたのではないかと思われますが、当時は、「ヤクザ等が、関係者を轢死させるためグルグル巻きにして高速道路上(の後続車が避けきれない混雑状態の場所)で路上に放り投げたなどという話でもあったらどうしよう」と、少し不安がないこともありませんでした。幸い、報道の類は一切なく、杞憂だったのではないかと思われます(そう信じたいです)。

高速道路上の事故を含む大半の事故類型では、裁判所が刊行する過失割合の基準(別冊判例タイムズと呼ばれる書籍)をもとに、責任や過失の程度に関する判断を行うことになります。

今回の被害者の方もそうですが、高速道路上の事故は、県外の方が当事者となることも多いせいか、私自身はあまりご縁がない(受任するのは一般道や駐車場等の事故が圧倒的で、高速道路上の事故は過去に1、2件程度かもしれません)のですが、大きな被害が生じる事故では、賠償額算定上の論点が多数生じますので、残念ながら被害に遭われた方は必ず相応の力量を持った弁護士に相談等していただければと思います。

重大犯罪被害に関する支援費用と人身傷害補償保険

最近、殺人事件など痛ましい犯罪被害の報道がなされる際、被害者側(遺族など)が、代理人の弁護士を通じてコメントを公表する例が増えているように思います。

日弁連では、数年前から、犯罪被害者や遺族のための報道対応や刑事手続に関する支援活動という分野(業務)をPRしており、刑事手続に被害者等が参加するための法整備も一定程度はなされているため、賠償請求以外の場面でも弁護士の支援を受けることを希望する方が増えつつあるようです。

ただ、その「支援」も、相応の費用を要するとなれば尻込みする(或いは支払困難な)方も少なくないでしょうし、そもそも、犯罪被害に遭わなければ支援なるものも要しなかったわけで、できることなら加害者に支払って欲しいと思うのが人情ではないかと思います。

もちろん、弁護士側も、その種の活動に特殊な使命感等を持ってボランティア的に取り組んでいる方もおられるでしょうし、高額な賠償請求と回収が見込める事案であれば、賠償に関する受任費用で賄う(言うなればセット販売)という発想で、報道対応等については無償で対応するという例もあるのかもしれません。

ただ、基本的には弁護士も、業務(食い扶持)として仕事をしていますので、「支援」とか「寄り添う」などと美名?を称する場合でも、最終的には何らかの形で対価というものを考えざるを得ません。

私はその種の業務(重大犯罪被害者の報道対応や刑事手続参加等の支援業務)のご依頼を受けたことがないので詳細は存じませんが、聞くところでは、経営負担のない若手など一部の弁護士の方が、法テラスなどを通じ僅かな対価で取り組むことが多いようです。

この点に関し、「Y社が経営する学習塾内で塾講師Aが児童Bを殺害したため、両親XらがYに対し、使用者責任に基づき損害賠償請求し、その際に、賠償請求自体に伴う弁護士費用とは別に、遺族として報道や刑事裁判などの支援対応を受けたことによる弁護士費用として100万円を請求したところ、当該請求を裁判所が全面的に認めた例」があり(京都地判H22.3.31判時2091-69)、解説によれば、刑事支援費用の賠償を認めた(論点として扱った)例としては、唯一かもしれないとのことです。

判決によれば、受任した弁護士の方には相応に膨大な従事時間があったようで(但し、細かい立証がなされたわけでもないようですが)、そうしたことも考慮して上記の金額が認容された模様です。

ただ、このケースでは、Y社に十分な資力があるとか、Y社が加入している賠償責任保険が利用できるといった事情があるのであれば、Xや代理人弁護士としては問題ないものの、Y(加害者側)に支払能力がない場合であれば、本体的な損害賠償請求権と同じく、絵に描いた餅にしかなりません。

ここ数年も、ストーカー関連の殺人事件など理不尽で痛ましい重大犯罪被害が幾つも生じていますが、その多くが、加害者(賠償債務者)が無資力ゆえに賠償請求の回収が期待できない事案と目され、こうした問題は長年に亘り指摘されながらも、一向に改善の兆しが見えません。

この点、交通事故に関する自動車保険契約では、人身傷害補償特約が普及しており、加害者が無保険でも、被害者側で契約している任意保険から一定額の補償(保険金)を受けることができ、この特約は、犯罪被害にも対応する(或いは犯罪被害向けの特約も付して販売されている)例も少なくないようです。

そのため、こうした保険(特約)に加入している方であれば、加害者側が無視力でも民事上の被害回復を一定程度、図ることができることは確かだと思います。

ただ、人身傷害補償保険は実損ベースの算定とはされているものの、被害の全部を補償するわけではなく、約款により一定の限度額が設けられている上(私が関与した交通事故事件では、人傷保険金として給付された額が、総損害額の7割前後だったとの記憶です)、時には、「実損」の算定を巡っても保険会社と被害者(契約者)とで争いになることがあります。

そのため、そうした保険会社に請求する場合も含めて、かつ、賠償請求だけでなく上記のような報道対応等の支援に関する弁護士費用なども含む、被害者に生じた被害を全面的に填補する保険商品を販売する保険会社が現れるのを期待したいところです。

また、当然ながら、自動車を保有しない=自動車保険契約をしない世帯向けに、生命保険や損害保険などの特約として同種の保険商品を販売、購入する取り組みが広まって欲しいものです。

そして、究極的には、「掛け捨て」の特質として、保険事故=犯罪が減少すればするほど保険会社にとっては利益があるわけですから、保険会社が保険料を原資に相応の費用を投じて、行政が行き届かない犯罪予防のための様々な取り組みを行うようなことも、なされればよいのではと思います。

弁護士の立場では、「犯罪被害対応支援」は、現在のところ、労働に見合った十分な対価をいただくのが困難な分野と目されているようにも思われ、現状ではそのようにならざるを得ない構造的な制約もあります。

しかし、理不尽な重大犯罪被害のような問題は、追突などの交通事故と同じく、社会が存在する限りは誰かがババを引いてしまう面があるため、全員が広く薄く負担することで被害者に手厚くする仕組みが求められていると思われ、保険商品の設計のあり方なども含め、関係者の熟慮と行動を願うばかりです。

私自身は、この種の業務はタイムチャージとするのが適切と思いますが、事案によっては前記判決のように相当な額になるでしょうし、「過剰支援(要求)」などという問題も生じるでしょうから、保険給付のルールや類型ごとの上限、保険と自己負担の割合なども含めた費用のあり方についても、検討が深まればと思います。

交通事故による若年重度後遺障害者の将来介護費等に関する定期金賠償

2歳7ヶ月の幼児が交通事故で重傷を負い、両下肢完全麻痺等の重篤な後遺障害を負い、等級1級1号が認定された件で、介護費等に関する将来発生分について、一時金ではなく定期金(毎月又は毎年など、一定期間ごとに支払う方法)による賠償が命じられた例について、少々勉強しました(福岡地判H25.7.4判時2229-41)。

日本の裁判所は、将来、確実に発生すると見込まれる損害についても、一時金=判決時(遅延損害金の起算点は事故時)の一括払を命じるのが原則ですが、逸失利益など将来発生する損害には中間利息(ライプニッツ係数による計算が大原則)の控除を行うため、実際に要する費用よりも少ない金員しか受け取れないことになってしまう(中間利息控除による減額は、決して小さなものではありません)として、15年ほど前から定期金請求の当否が裁判上争われるようになっています。

で、逸失利益などについては、一時金とする(定期金請求を認めない)運用がほぼ確立したと思われますが、介護費など実損的なものについては、定期金請求を認める例も多く、事故以外の事情で長期の生存に疑問符が付く方が被害者となった場合などは、加害者側が支払の抑制のため(実際に短期間で死亡した場合などを想定すれば一時金賠償だと割高の支払になる)定期金での賠償を求める例もあります。

上記の例では、裁判所は、被害者の年齢(長期の介護等を要する)や両親の希望等を重視して介護費等に関する定期金請求を認め、介護費につき月額45万円強、車椅子等につき年額150万円弱等、車両等につき数年おき100万円等の定期金賠償を命じています。

なお、一時金については、慰謝料(多額のリハビリ費用が訴訟上請求されていないことを理由に、本人分だけで3000万円を認めています)や逸失利益等について7600万円強、それとは別にご両親の慰謝料として各440万円を認容しています。

他にも、2歳児をジュニアシートに座らせたことで過失相殺になるか、常時介護か随時介護か、労働能力喪失率(100%か否か)なども争点になりましたが、いずれも被害者側の主張が容れられています。

私も、平成15年頃(東京時代)に、1級の後遺障害を負った方の賠償請求に関する訴訟に携わったことがあり、介護費や自宅改造費など様々な将来損害の請求を行い、ご自宅や勤務先を訪問し伺った内容を陳述書にまとめるなど、色々と主張立証を検討、準備したことを覚えています(その事件は、途中で岩手に戻ることになったので、兄弁が引き継ぎ、穏当な内容の和解で決着したと聞いています)。

余談ながら、その事件では、被害者の方が、最初に依頼していた弁護士の方の仕事ぶりに不信感を抱き、交渉(裁判外調停)が決裂し訴訟になるという時点で私の勤務先に依頼されてきたという事案で、前代理人(調停手続で提示された内容を前提に成功報酬を請求していました)との関係解消のための処理も余儀なくされました。

前代理人の方は、請求内容などの整理については特に問題のない仕事をしていましたが、依頼主に対する態度ないし説得姿勢などに問題があったそうで、互いに言い分のある話なのかもしれませんが、重大な被害を理不尽に負わされた方々(なお、被害者に過失がない事故でした)との接し方という点で、色々と考えさせられるところはありました。

重篤な後遺障害事案などでは、介護等の関係で様々な損害が発生し、それらを整理して請求することが求められるほか、一時金か定期金かという論点をはじめ、介護費の金額等を巡り様々な議論が必要になるなど、一定の熟練を要する面がある上、上記の例に見られるように、被害者の様々な心情に配慮した代理人活動を必要とすることもあり、弁護士なら誰でもできるような類の仕事ではないことは確かです。

万が一、そのような深刻な被害を受けてしまった方々におかれては、加害者への賠償請求や弁護士の相談・選択等の段階でも、十分な調査・検討を行っていただき、一種の二重被害に陥るようなことだけはないように、留意いただければと思いますし、当方も、そうした事案に適切にお応えできるだけの研鑽を今後も重ねていきたいと思います。

田舎の町弁のリンカーン物語

弁護士時代のリンカーンの有名な逸話で、「敵対証人が、その日は月夜の晩で犯人の顔がよく見えたと主張したのに対し、その日は実際は曇りで月が見えなかったと述べて、その証言は信用できないと弾劾した」という物語は、多くの方がご存知だと思います。

この種の「気象ネタによる絵に描いたような弾劾」は、滅多にあるものではありませんが、先日、それに類する経験をする機会に恵まれました。

ある交通事故の事件で、過失割合(の評価の前提となる事故態様)に関し、当事者間に大きな争いがあり、当方が当日の路面状況などを主張したところ、相手方から、それとは全く異なる事実の主張がありました。

少し具体的に述べると、相手方は「前日からの悪天候で路面に積雪が多く、凍結もあり、雪のせいで道幅が非常に狭かった」と主張してきました。

これに対し、当方(依頼主)は「前夜を含め当日に降雪はなく、路面に積雪はなく、かなり前の雪に基づく除雪の山で道路脇に積雪があるものの、道幅を狭めるほどではなかった」と主張していました。

その事故では、実況見分調書が作成されておらず当日の現場写真もないなど、事故当日の路面状況を正しく記載した記録がありませんでした。

そのため、どうしようかと考えあぐねていたのですが、気象庁のHPを調べたところ、自治体ごとの気象情報が詳細に乗っており、それを見る限りでは、当方依頼主の言い分に即した気象経過であることが判明しました。

そこで、それらの資料をDLして提出したところ、裁判官から、路面状況については当方の主張どおりとする旨の心証が示されました。

過失割合については、事故態様を巡る他の論点や全体の評価などから、必ずしも当方の勝利というわけではなかったものの、言い分を尽くした上で相応の和解案が示されたため、依頼主もやむなしということで、和解成立で終了しました。

新人時代、弁護士会で配布された模擬裁判の資料にも、この種の「気象ネタによる反対尋問」のシナリオが付されていましたが、そのシナリオでは、当日の気象状態については弁護士法23条照会で気象庁に確認したという設定になっていました。それに比べると、インターネットでこの種の情報が無償・容易に入手できるようになったという点で、時代の流れを感じさせるものがあります。

ともあれ、気象ネタに限らず、事実関係を巡って当事者双方の主張事実が相反した場合には、各人の主張を基礎付ける証拠の有無や内容を丹念に検討、調査する作業が必要であることは間違いありません。

鮮やかに弾劾できることは滅多にありませんが、確たる根拠のない相手方の主張に一定の疑問符を付す程度なら、知恵と努力次第で一定の成果を挙げることは珍しくありませんので、今後も研鑽に努めていきたいと思います。

内実の伴わない?「専門」標榜事務所に対する裁判所の認識

先日、ある交通事故(被害が甚大で請求額も大きく、過失相殺なども絡んで争いのある金額が大きかった事件)で、裁判所から概ね当方の主張に沿う内容・金額の和解勧告をいただき、無事に和解が成立して解決しました。

特に、依頼主(被害者)には最も抵抗があった過失相殺の是非の論点で当方の過失をゼロとする勧告(判断)をいただいた点で、満足いただけるものとなったと自負しています。

和解が成立した期日で、裁判官と雑談する時間があり、その際、「東京では、現在、交通事故専門を謳ってCM等で大々的に宣伝している事務所があり、最近、東京地裁でその事務所が被害者代理人として提訴してくる案件が増えている。しかし、現実には、十分なスキルを持たず、裁判所から見れば杜撰な仕事となっている例が散見される。裁判所の指示には大人しく従うので(具体的に明示されませんでしたが、恐らく、裁判所が不合理だと判断した請求・主張の撤回などを指すと思われます)、裁判官としてはやりにくいわけではないが、当事者(被害者)にとって、これでよいのかと思うこともある」という趣旨のコメントをなさっていました。

このブログでは特定の事務所を批判する意図はありませんので具体的な名称等は差し控えますが、この事務所に関しては業界内での評判が芳しくないとの話をよく聞かされていたため、裁判所からも、こうした話が出てくるのだなぁと思わずにはいられませんでした。

それはともかく、この事務所に限らず、内実を必ずしも備えていないのに専門性を標榜ないし強調して顧客の勧誘をしている「看板に偽りあり」的な話は、現在の弁護士業界が抱える問題の1つと言ってよいのではないかと思います。

そもそも、「その仕事を、どのような弁護士に依頼するのが適切か」を決めるにあたって最も重要なことは、「その弁護士が、対象事件(の適正解決のため必要となる法律事務)を遂行するため、法律家として業界水準に照らし一般的以上の実力を備えているか否か」という点(その見極め)だと思いますが、対象事件を「専門」としているか(標榜しているか)は、その見極めにおいて、必ずしも決定的な役割を果たすわけではありません。

前提として「(弁護士の)専門」自体が、極めて曖昧、恣意的に用いられ易い言葉であり、例えば「その弁護士が、現に従事する時間総量の8割以上が、その事件類型に関する処理に占められている」のであれば、その類型を専門としていると評価してよいのではないかとは思います。

ただ、だからといって、様々な高度な論点が含まれ法律家としての総合的な実力が要求される複雑な事件を誰に依頼するかということを考えた場合に、「交通事故以外は一切受任しないと標榜しているが、経験や実績も不足し研鑽の端緒についたばかりの新人の弁護士」と、「交通事故に限らず、高度、複雑な論点を含む様々な事件を手がけて実績を挙げてきた、法律家としての実力の高いベテランの弁護士」とで、どちらが選ばれるかを考えれば、上記の意味での「専門」を問うことにどれだけの意味があるのかということは明らかだと思います。

とりわけ、弁護士(町弁)の業務は、様々な法律問題が背後で繋がっていることが多いなどの事情から、一部の分野を除き「専門」を過度に強調するのは適切ではありませんし、交渉技術など「分野に関係なく必要となる力」も多くあります。

私も、今も昔も、我が業界への知見の詳しくない方から「貴方の専門は何ですか」と聞かれることは多いのですが、「専門」を重視する必要がある事案は実際には限られている(或いは、他にも考慮すべき要素が多々ある)ということは、利用者サイドの健全な認識として、大事にしていただきたいと思います。

結論として、「この分野に経験、知見が深いのか知りたい」というものがあるのでしたら端的にその分野を明示して尋ねる方が賢明だと思います。

そうでなければ、現時点で取扱の多い分野だとか「売り」にしている、又は特に力を入れている分野があるかとか、特に実績や成果を上げた事件・分野としてどのようなものがあるかなどという形で聞いていただければよいのではと思います。