北奥法律事務所

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法テラス気仙の落日?と「被災地」無料相談事業の行方(後編)

前回の続きですが、今回は、「法テラスの無料相談事業」に力点を置いて書いてみようと思います。

法テラス気仙での相談はすべて無料ですが、岩手の多くの方がご存知のとおり、無料相談ができるのは法テラスだけではなく、岩手県内では当事務所をはじめ法テラスと契約している県内の全ての弁護士(法律事務所)が、原則30分の無料相談に対応しています。

法テラスは、本来は「低所得者などの支援のための公的機関(税金で運営する組織)」なので、無料相談等には一定の所得制限があるのですが、被災3県や青森県八戸市など幾つかの沿岸被災地域では、震災後に制定された法テラス特例法により、震災当時にこれら対象地域の居住者であった方なら、資力等を問わず、また対象事項を問わず(刑事を除く)、無料相談を受けることができるようになっています。

ちなみに、先般の熊本大地震でも、すでに同様の特例法が定められたと聞いています。

この制度は平成27年に延長され、現在は平成30年3月までとなっているのですが、この制度が再延長されるのかどうかも、被災県で活動する弁護士にとっては大きな関心事となっています。

ただ、確かな筋から伺ったところでは再延長の見込みは絶望的で、残念ながら平成30年で終了することが確実視されているようです。

この制度が導入される直前には、弁護士会(盛岡)の相談センター(有料)ですら閑古鳥が泣きそうな状況になっていましたし(これは、他の都道府県でも同様の現象と聞いています)、当事務所に来所いただく相談者の方々にとっても、無料で相談できるということで気軽にご利用いただいている面もあろうかと思います。

ですので、この制度が廃止された場合は、既に全国各地で生じている光景のように、有料に戻す=相談者が激減するリスクを負うか、完全無料(自腹)とするなど事務所の経営(存続)リスクを覚悟するか、選択を迫られることになりますが、いずれにせよ、町弁の事務所経営上は大きな打撃になることは間違いありません。

個人的には、いっそ発想を転換して法テラス無料相談(無条件30分)の制度を全国的に導入してはと思わないでもありませんが、その場合、現在とは比較にならぬ膨大な財源が必要になり、かつ、それを捻出する政治力を弁護士業界が有していないことも間違いないでしょう。

或いは、日弁連が法科大学院(LS)と決別し、LSへの国からの補助金を撤廃させ無料相談の財源に廻せとの運動をしてはいかがかと思ったりもしますが、「LSへの補助金のせいで司法修習生の給費制度が廃止されたので、補助金を撤廃するのなら給費制をこそ復活させるべき」と仰る方も少なくないようですので、遠からず、「国から弁護士業界に流れてくるお金(パイ)」の争奪を巡り醜い争いが生じたり、それに伴う業界の衰亡などという現象も生じることがあるのかもしれません。

そうした意味でも保険制度による費用問題の解決が何年も前から求められていたというべきなのですが、それを怠ってきたツケを、我が業界は今後ますます負っていくことになりそうで、ため息ばかりが増す有様です。

(写真は4月の担当日の際に撮影したものです)

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法テラス気仙の落日?と「被災地」無料相談事業の行方(前編)

平成24年頃から月1回の頻度で法テラス気仙(大船渡市)に通っていますが、今年になってから私の担当日には相談件数が一挙に減り、3月から7月まで、5回連続でゼロ件(6月に受任事件の関係者に私から頼んで来ていただいたものが1度あっただけ)、8月は当日に飛び込み1件のみという惨状が続きました。

片道2時間ほどかけ、丸一日潰して(拘束されて)通っていますので、相談者ゼロ件が延々と続くと、さすがに厭戦気分というか、担当から抜けられるものなら抜けたいという気持ちを抱かざるを得ません。

私に限らず、沿岸に開設された2つの法テラス事務所(気仙、大槌)とも、最近は弁護士への相談件数が大幅に減ってきたとの話を伝聞ですが聞いており、下手をすると今年度末には法テラス気仙が廃止されるのではないかという噂も聞いたことがあります。

ただ、司法書士さん(週1回の担当)への相談状況がどのようになっているかは聞いたことがなく、ひょっとしたら土地の区画整理・自治体買収などに伴う相続登記の関係などで閑古鳥の弁護士と異なり大盛況になっているのではと想像しないこともありません。

そうであれば、すぐにでも弁護士相談=原則週4回を減らして、司法書士の相談日を増やした方がよいと思いますが、司法書士さんの担当日の来客状況などを伺ったことがないので、よく分かりません(先日、某先生のFBで、今日は来客なしと仰っていたのを拝見したので、弁護士と同じような現象が生じているのかもしれません。弁護士と異なり?高台移転や区画整理などで登記手続などの需要は多いのではと思いますが・・)

昨年の段階から1回あたりの相談件数がかなり減ってきたので、今年の相談担当の更新の際は辞退するか悩んだのですが、現時点で沿岸被災地の関係で従事している「弁護士としての支援活動」が他に特段なく、縁を切るのも忍びないということで無為に続けているのが恥ずかしい実情です。

気仙地区に関しては、訴訟等が必要な場合、地裁の管轄が一関市(盛岡地裁一関支部)になるため、私のように盛岡から出張してくる弁護士に相談するよりも、端的に一関で執務する弁護士さんの事務所に相談に行くという方も少なくないのかもしれません(統計情報などがあれば、ぜひ見てみたいものですが、恐らく誰も調査などはしていないのでしょうね・・)。

そうした話に限らず、いわゆるアウトリーチ問題(法テラス自身が沿岸の自治体や団体・企業などに働きかけ、担当弁護士を相談日に事務所に置いておくのでなく、ミニ講義+プチ相談に派遣するなどの事業をしなくてよいのかという類のもの。「役所」の典型たる法テラスには期待し難いかもしれませんが)を含め、「沿岸被災地の無料相談事業の低迷」は、様々な要因が複合的に関わっているのでしょうから、幅広い視野での総合的な検討が必要でしょうが、そうしたものもほとんどなされない(或いは、私のような現場の末端には伝わらない)まま終わってしまうのかもしれません。

と、ここまで書いて9月下旬の担当日のあとにでも載せようと思っていたところ、9月には過去最高?の5件(飛び込みを含む)のご相談があり、開設時に戻ったかのような感じがしました。

或いは、法テラス気仙を廃止をさせてなるものかという「見えざる力」が働いたのかもしれません。

(写真は4月の担当日の際に撮影したものです)

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秋田県・小坂町の「千葉の高濃度焼却灰の搬入埋立問題」に関する日弁連調査③住民訴訟の弁護士費用保険、焼却灰の過疎地埋立ほか

前回の投稿の続き(秋田調査の最終回)です。

1 住民訴訟支援のための弁護士費用保険

前回の投稿で、地元住民が現在(或いは過去に)、「本件で誰かに一矢報いるための手段はないのか」という観点から、廃棄物処理法絡みを中心に、訴訟手続について少し検討してみました。

ただ、そのような訴訟を起こしたいのだとしても、「降って湧いた災難に義憤で立ち向かう」という地域住民(有志)の立場からすれば、これに従事する弁護士の費用は誰も負担したくないでしょうし、(私自身は、その種の訴訟に従事した経験がありませんが)この種の紛争で住民支援に従事する先生方の大半が、そうした実情を理解し、「ゼロではないにせよ時給換算で超不採算」となる金額でやむなく受任しているのが通例ではないかと思います(この種の紛争は、真面目にやるのであれば事実関係から法制度まで膨大な調査、勉強が必要になりますので、採算を確保するのであれば相当な高額になることは必定です)。

そこで、最終処分場や中間処理施設の設置にあたり、適正処理などに関し問題が生じた際に、是正を求める法的手続を希望する地域住民が利用できる弁護士費用保険(保険商品)を作るべきではないかと思います。

そして、その保険契約は、施設側(許可を求める業者)が保険会社と契約し、保険料を施設側が負担とすると共に、そうした保険契約を締結していることを許可の条件の一つとして付け加え、その施設の稼働後、稼働内容に問題があると感じて訴訟提起等を希望する住民が保険会社に保険金利用を申告し、審査を受けるという形をとればよいのではないかと思います。

もちろん、保険会社は住民から申請があれば何でも認めるというのではなく、乱訴防止のため一定の審査をすることが前提になりますし、施設の稼働終了時(或いは埋立終了後の相当な監視期間の終了時)まで問題が生じなければ、保険料の多くが還付されるなど適正処理のインセンティブを高める優遇措置を講じるべきでしょうし、保険商品が複数ある(より住民の権利行使の支援が手厚いものと、そうでないもの)場合、より手厚い保険に加入している方に優良業者としての認証を付するといった考慮もあってよいと思います。

そうした保険制度・保険商品を、日弁連と保険業界が提携して開発し、環境省などに働きかけても良いのでは?と思いました。

もちろん、こうした発想(危険創出のリスクを担っている側が、そのリスクの潜在的被害者のために弁護士費用保険を負担する仕組み)は、廃棄物問題に限らず、有害物質などを扱う事業者(が設置されている地域)一般において応用されてしかるべき事柄だと思います。

そうした観点から弁護士費用保険を育てる観点を、関係各位に検討していただきたいところだと思っています。

また、上記のようなタイプの弁護士費用保険とは別に、住民訴訟一般で利用できるような「住民側が少額の保険料を負担し、訴訟などに相応しい事案で一定の弁護士費用を保険金拠出する保険商品」も、開発、販売して欲しいと思います。とりわけ、住民訴訟の場合、勝訴すれば相当な弁護士費用を行政に請求することも可能であり(地方自治法242条の2第12項)、談合などの巨額賠償が生じる事件では自治体から巨額の弁護士費用を回収する例もありますので、制度としても構築しやすい面があると思います。

そして、そうした動きが、やがては「国に対する住民訴訟(国の公金支出是正訴訟)」の創設に繋がっていけばよいのではというのが、司法手続を適切に利用し行政のあり方を民が是正していくことの必要性を感じている、多くの業界関係者の願いではないかと思います。

2 一般廃棄物(焼却灰)の広域移動(都会の灰が田舎に)という問題

ところで、今回の秋田調査で私が一番関心があったことは、「千葉から焼却灰が持ち込まれていること自体を、秋田の人々(地元民、地元行政、処理業者、県庁)はどのように受け止めているのか、そのこと自体に抵抗感ないし反感はないのか」ということでした。

そもそも、私自身は、今回の秋田調査の話が今年の6月に廃棄物部会に持ち込まれるまで、一般廃棄物(の焼却灰)が他県に広域処理されているなどという話は全く知らず、てっきり自県内(せいぜい関東・東北などの自圏内)で埋め立てられているものと考えていました(これに対して、産業廃棄物は昔から広域移動の問題があり、日弁連(廃棄物部会)の意見書・決議等でも取り上げています)。

それが、6月の廃棄物部会の会合の際に、千葉で廃棄物処理の問題に取り組んでいる方から「秋田の方から本件の相談を受けている、ぜひ日弁連で取り上げて欲しい」とのお話をいただいた際、恥ずかしながら初めて千葉から秋田に灰が搬送されているという話を知り、それが現行法で何ら規制されていないことに些か驚くと共に、「自圏内の生活ゴミ」たる一般廃棄物は、自圏内処理されなくてよいのか(他圏なかんずく過疎地域に搬送するのは、そこに一定の対価が介在するにせよ、「都会の厄介払い(エゴの押しつけ)」という性格を帯びるのではないか)」と感じずにはいられませんでした。

とりわけ、私の場合、「廃棄物問題への関わり」の原点(他の事件に関わったことがありませんので、現在まで実質的に唯一の実体験)になっているのが、「都会の膨大なゴミ(産廃)がまるごと故郷の山奥に不法投棄され、莫大な撤去費用が被害県に押しつけられた」事件である岩手青森県境不法投棄事件であるだけに、余計に、千葉の焼却灰が秋田に埋め立てられているという話を聞いて、同様の「嫌な感じ」を受けた面があります(それが、長年に亘る「東北と中央政権の不幸な歴史」に繋がる話であることは、申すまでもありません)。

そこで、秋田調査に赴く前に廃棄物の広域移動に関して少しネットで調べてみたところ、環境省が廃棄物(一廃・産廃)の広域移動を調査した報告書を取り纏めているのを発見しました。
http://www.env.go.jp/recycle/report/h27-01/index.html

これによれば、一廃については、「関東→北日本(東北・北海道)」のみ膨大な焼却灰が搬入されていることを示す図太い流れがあり、他のエリアは全く広域移動がないという、ある意味、異様とも言える表示がなされています(但し、よく見ると東京は域外搬出がありません。奥多摩方面に大規模な処分場が建設された影響でしょうか)。他方、産廃の場合、東日本は中部以東は北日本、以西は九州・沖縄という太い流れが示されています。

要するに、現在の社会では、「首都圏の生活ゴミ(一廃)は、首都圏で焼却し、その灰を北日本などに埋め立てている」という実情があり、少なくとも、搬入・搬出の双方の住民などが、そのことについて知らなくて(問題意識を持たなくて)よいのかという点は、強調されてよいのではないかと思います。

もちろん、「廃棄物の広域処理の何が悪いのか。管理型処分場(遮水シート)は安全だ(汚染の外部流出は基本的にない)というのが国の説明じゃないか。現在の「廃棄物処理の市場」を前提とする相当な対価も払っているじゃないか。そもそも、廃棄(消費)の前提となった物自体が、都会で生産されたものではなく地方をはじめ全国・全世界で生産されたものなのだから、廃棄物も生産側に戻してよい=消費地を廃棄地とすべき理由もないじゃないか」といった主張も、一定の説得力がないわけではありません。

これに対し、処分場絡みの紛争に取り組んでいる方々は、「遮水シートは耐用年数や破損などの問題があり、万全では全くない。だからこそ、現在の処理費用も原発の電力料金のように破綻リスクを含まない不当廉価というべきだ(だから、排出者側は十分な責任をとってない)」という主張をしており、私自身、どちらの主張が正しいか軽々に判断できる立場にありません。

今回の秋田調査でも、上記に述べたようなことを住民の方に説明した際、問題意識を共有して下さる方もお見受けしましたが、そのような方は多くはなく、秋田県庁の方と話した際にも、「県議会で、そのような観点からの反発はあったようだ。もちろん、ゴミの搬入自体は県民の一人として嬉しい話では全くないが、業者自身(GF小坂)が現行法上は優良業者と評するに足るもので、地元の産業振興の観点(同和鉱業グループ及びこれに依存する地域住民の雇用の存続)からもやむを得ないのでは」といったコメントをいただいており、こうした感覚は、受入側の認識としては典型的なものではないかと思われます。

ただ、少なくとも、千葉県民は「地元のゴミ(焼却灰)を引き取って貰っている」ことについて何らかの謝意を秋田側に示すべきではないかと思いますし、そうしたことも含めて、資源循環システムの全体像のあるべき姿も視野に入れつつ、社会における物の生産、消費、廃棄のあり方などを、多くの方々に検討いただければというのが、何かと犠牲を強いられやすい「流入圏」側の住民の一人としての願いです。

3 おまけ(隗より始めよ)

私は、家庭都合(兼業主夫業)や資力(最近話題の「弁護士の貧困」に残念ながら当方も無縁ではありません)などの事情から、廃棄物部会の現地調査(全国各地への出張)に参加するのも久方ぶりだったのですが、宿泊先に歯ブラシを持参するのを失念したので、宿の「使い捨てブラシ」を利用し、そのまま持ち帰り、歯磨き粉ともども、最後まで使い切りました(今回のブラシは1回で駄目になるような品質のものでしたが)。

日弁連廃棄物部会が取り組んでいた不法投棄問題などの総括をした平成22年人権大会決議では、「廃棄物の発生抑制」の見地から宿泊施設の使い捨て商品の有料化など(使用抑制)を提言しており(理由第3の1)、そうした観点も含め、私自身の戒め(或いはケチ病)として、なるべく自宅から持参し、失念したときも上記のようにしているのですが、全国の弁護士でそうしたことをきちんと行っている人がどれだけいるのだろうと疑問を感じざるを得ない面もあります。

余談ながら、日弁連(公害環境委員会)の会合のため上京すると、ご自身は地球温暖化防止などと言いつつ、館内はとても寒くて厚着を要する設定温度になっていたり、洋式トイレには「地球温暖化防止のため蓋を閉めよ」と紙が入っているものの、いつも開けっ放しになっていたり(掃除の方がいつもそうしているのでしょうか?だったら、一声かければいいのに・・)、私のように事務所でほとんどエアコンを付けない人間からすれば(事務局エリアからの送風で足りるとしていますが、少し汗ばみます。ですが、それこそが夏というべきでしょう)、残念に感じてしまいます。

上記に限らず、日弁連が社会一般に向けて何らかの意見を出していても、それに即した実践を会員個々に率先して求めるという話を聞いたことがなく、例えば、脱原発を標榜するなら日弁連会館はエアコン禁止(送風のみ)、エレベーターは原則として4階以上の移動のみOK(3フロア分までの移動は階段で歩きなさい)とするなど、「脱電力(浪費)」を率先して会員に強制する姿勢があって然るべきではないかと思います。

震災直後に平成23年4月に東京に行ったときにも似たようなことを思いましたが、日弁連に限らず、夏の東京の建物はどこに行っても岩手より寒い感じで、「おさんぽ怪獣」ことシン・ゴジラに放射能をまき散らして貰わないと「東京(ひいては日本社会)というエゴの塊」は何も変われないのかも知れません。

秋田県・小坂町の「千葉の高濃度焼却灰の搬入埋立問題」に関する日弁連調査②地域住民が執り得る法的手段に関する一考察

前回の投稿の続きです。

秋田県庁で解散した帰路で「このままでは単なるやられっぱなしで納得できない、何か一矢報いたい」という住民団体(米代川流域連絡会)の方の言葉を思い返し、現在、或いは発覚当時、彼らが何をできたのか(すべきだったのか)について少し考えていました。

で、現時点で認容されるかどうかはさておき、本件で地域住民の主要な関心事につき取り得る(取り得た)手段としては、「行政は現場でボーリング調査をすべき(グリーンフィル小坂にさせるべき)」という義務づけ訴訟(行政事件訴訟法)を軸とした手続ということになるのではと思いました。

以下、基礎となる事情や制度を踏まえつつ、想定される訴訟のあり方などを少し検討しましたので、何かの参考になれば幸いです(手控えレベルの文章ですのでさほど正確性の検証をしていないことはご了解ください)。

まず、本件では、1万ベクレル超の焼却灰が発覚した際、行政(小坂町ないし秋田県)が処理業者側に事情説明を求めていますが、そのことは法律上の権限という観点から見れば、廃棄物処理法18条(報告徴収)に関わることだと思います。

その上で、同条に基づく権限行使のあり方としては、

①秋田県庁は、本件一般廃棄物(一廃)処分場の許可権者として、一廃処分場の設置者(たるGF)に対し、法違反となる「放射性物質に汚染された焼却灰の埋立(後日に制定された特措法の基準値も超過しており、発覚時は言うに及ばず、事後的に見ても、埋立時には管理型処分場への埋立が許されない違法な焼却灰)」により施設の維持管理(法8条の3)に関する基準に反する事態が生じた(そのおそれがある)として、適正管理ができるのか報告を求める

②鹿角広域行政組合(管理者・鹿角市長)は、GF小坂の一廃処理業の許可権者として、最終処分業者たるGFに対し、法違反となる焼却灰の処分がなされた経緯や事後防止措置について説明を求める(地方自治法291条の2?広域連合について勉強したことがないので正確には分かりません)

という構図になるのではないかと思います(広域連合が許可権者となる場合、構成団体たる小坂町は当該権限を行使できる立場にないということになるのでしょうか。そうだとすれば、小坂町長によるGFへの関わりは組合の副管理者の立場からということになるのでしょうか。その点は不勉強のため分かりません)。

そうした前提で、次の2つの条件、すなわち

①現地に埋め立てられた焼却灰が、仮に、現在でも1万ベクレルを大きく上回る(ので、かなり先まで8000Bqを下回らない)のであれば、そのような埋立は、汚染対処特措法(事後法)によっても正当化されない=当該焼却灰(の管理型処分場への埋立)」は、生活環境の保全上の支障がある(又はその恐れがある)

②現時点までにGFが行った措置(コンクリートを被せる等)はその支障の除去に不十分である(重大な損害のおそれあり)

の2点を証明できれば、鹿角組合はGFに対し、撤去措置命令(法19条の4)をすべき義務がある(義務づけ訴訟が認容される。或いは、重大な損害のおそれ要件は満たさなくとも、措置命令の要件は満たす)ことになります。

そこで、地域住民としては、鹿角組合はその点を明らかにするために、立入調査権(法19条)の一貫として、ボーリング調査をすべきだとして、調査権発動の義務づけ訴訟の提起と仮の義務付けの申立を行うということになるのかもしれません(住民が原告、組合が被告)。

また、秋田県庁も、措置命令の主体ではないと思われますが(一廃処分業の許可権者ではないから?)、維持管理に関する改善命令(法9条の2)やその前提としての立入調査(法19条)を行う権限(責務)があると言えます。

そこで、住民は県に対しても、上記調査権(裁量)の一貫としてボーリング調査をすべきだとして、義務付けの訴訟提起等をするということができるかもしれません。

その上で、②については、組合や県(GFも補助参加するかもしれません)は、本件で現に行われたコンクリート敷設等の措置につき、「秋田県が、環境省から上記方法での現地封じ込めOKとの回答を得て?(或いは、H23.8.31環廃産発110831001通知2~4頁に基づく適法な処理のあり方として判断をして)、それをGFに伝えて行わせたものである。よって、生活環境上の支障除去の措置としては十分(現時点で撤去命令の必要も義務もない)」と主張するのでしょうから、裁判では、その判断の当否(環境省通知の解釈・当てはめの問題)が問われるのではないかと思います。

この点については、私自身がまだ十分に勉強、検討できているわけではありませんが、上記の環境省通知をざっと見る限りでは、本件事案を前提にコンクリートを被せればよいとは書いていないように見えますが、隔離層を設置する方法での対処に関する記載があるので、県はこれに基づきコンクリートを被せる等すれば十分と判断したものと思われます。

よって、それがダメだというのであれば、最終的には環境省通知そのものを敵に回して「こんなやり方はダメだ」という「放射性物質汚染焼却灰の処分のあり方に関する科学技術論争」が必要になるのかもしれず、そうなれば苦心惨憺の大訴訟を覚悟しなければならないかもしれません。

ただ、上記はあくまで撤去の要否に関する論点のように思われますので、住民団体の方々が最も切望している「現在の埋設物の線量調査(8000ベクレルを下回っているのか、実は数万もあるのか等)」自体の義務づけについては、もっと別な観点から緩やかな基準で認められてもよいのではと思わないでもありません。

あと、その種の訴訟の宿命として、原告適格の有無なども争点となるのかもしれません。

他にも考えられるのは、鹿角組合や秋田県庁に何らかの権限不行使等の違法があり、それにより組合・県が違法に損害を被ったとして、その賠償を責任者に求める住民訴訟かもしれませんが、住民側にしてみれば、小坂町(鹿角組合)も秋田県も共に「被害者仲間」なわけで、仲間内で賠償の訴訟をするのは本意ではないでしょう。

同様に、住民がGFを相手に訴訟することも考えられないわけではないものの、「高濃度焼却灰の搬入(による環境汚染)を知りながら意図的に埋め立てた」などという異常な事実が存在する(立証できる)のでもない限り、現実的には厳しいのではと思われます。

或いは、一部住民の本意としては、「千葉から焼却灰が搬入されること(都会のゴミを埋め立てること)自体を止めさせたい」という思いがあるかもしれませんが、これも現時点では立法論と言わざるを得ない(現行法令そのものから逸脱した処理がなされているなどの特段の事情がない限り訴訟としては成り立たない)と思われます(この点は、次回で少し触れます)。

また、以上は「現時点」での手段(の当否)ということになり、それゆえに様々な点で(特に、すでに覆土が進んでいる点で?)ハードルの高さを感じざるを得ないところがありますが、仮に、発覚時たる平成23年7月=環境省通知の前(せめて直後)に上記訴訟と仮の義務付けの申立を行っていれば、まだ違う展開があり得たのかもしれないとも思われます。

住民による「不作為(発覚時にGFにボーリング調査をさせなかったこと)の違法確認請求」といったものもできないのだろうかと思いましたが、行政事件訴訟法には不作為の違法確認訴訟制度があるものの、処分(調査命令)の申請権のない地域住民が過去の調査の当否を問題とするようなことまでは認められていませんので(法3条4項、37条等)、その点は、立法論でしかない(日弁連が意見書を出すかどうかはさておき)と思います。

そういえば、廃棄物問題に関する日弁連の平成16年意見書や平成22年人権大会決議(これらは、私が作成に大きく関わっているものです)では、住民による行政への権限発動の申立権云々という意見もしていました。(決議理由第4の2)。

とりあえず、「措置命令の当否を明らかにするための調査権発動」という観点から考えてみましたので、間違っている点などがありましたら、ご教示いただければ幸いです。

秋田県・小坂町の「千葉の高濃度焼却灰の搬入埋立問題」に関する日弁連調査①事件と調査の概要

9月上旬に、私が所属している日弁連公害対策環境保全委員会・廃棄物部会の企画で、秋田県小坂町にある廃棄物最終処分場の視察や関係先への聴取を中心とする調査に参加してきました。

この事件は、秋田県小坂町で明治初期から巨大鉱山を営む同和鉱業(現・DOWAホールディングス)の関連会社(グリーンフィル小坂。以下「GF小坂」)が営む廃棄物最終処分場に、1万強Bq/kg(以下「ベクレル」)の焼却灰約40トンが千葉県松戸市から搬入され埋め立てられていたことが判明したため、その対処や再発防止などが問題となったものです。

この処分場は、鉱山の操業停止などに伴い環境関連事業に業態転換を図っている同和鉱業(DOWAグループ)が、平成17年から稼働させ、自社グループの事業で生じた焼却灰(産業廃棄物)のほか、関東圏などの自治体が運営する一般廃棄物(生活ゴミ等)の焼却場(中間処理施設)で生じた焼却灰を受け入れている最終処分場(焼却灰専門の埋立場)です。施設の設置や産廃の処理業は秋田県の許可、一廃の処理業は小坂町と鹿角市により構成される広域事務組合の許可を得て操業しています。
http://www.dowa-eco.co.jp/business/waste/finish/

そして、平成23年7月(震災から間もない時期)、環境省が震災に伴う福島第一原発の事故を踏まえて首都圏などの自治体に対し、埋立(搬出)前の一廃の焼却灰の検査を求めたところ、前記のとおり、松戸市がGF小坂に搬出していた焼却灰から1万ベクレルを超える線量が検出された上、それが松戸市から小坂町に連絡された時点で、すでに40トンの焼却灰が現地で埋め立てられており、それらの事態にどのように対処すべきか(掘り返して搬出するのか埋め立てたままにするのか、前者なら松戸に返すのか(返せるのか)、後者なら汚染拡散対策などをどのようにするのかなど)が問題になりました。

結局、発覚後、一旦は千葉県からの焼却灰の搬入が停止され、GF社や小坂町が秋田県に対応を照会し、秋田県は環境省に対応を照会するという「環境省頼み」の展開になった後、環境省が平成28年8月31日に、8000~10万ベクレルの焼却灰の処分などの方法(推奨)に関する通知を出し、そこでは、雨水浸入の防止措置を講じるのなら管理型処分場でも埋立可とし、防止措置のあり方としては、埋立箇所の上部にコンクリートを敷設するような方法でも構わないという趣旨のことが書かれていました。
https://www.env.go.jp/jishin/attach/no110831001.pdf

そこで、秋田県はGF小坂に対し、上記の方法を講じさえすれば埋立済みの焼却灰の撤去(掘り返し)等は不要と回答し、GFも当該措置を講じたことから、問題となった「高濃度焼却灰」はそのまま現地に残され、その後は、GF側と小坂町との協議で、受入焼却灰の線量上限(4000ベクレル)や線量検査、埋立後の防水措置などの方法について協定がされ、それをもとに関東圏からの搬入も再開され、「問題となった焼却灰」の上に新たな焼却灰の埋立もなされている(ので、地表=現在の処分場の地上部から数十m?の奥深くに眠った状態になっている)という状況になっています。

要するに、「環境省通知に基づく汚染拡散防止対策をした」ので、県や自治体、事業者としては問題なし(解決済み)として焼却灰の受入が再開されているというのが現状ということになります。

こうした展開を辿ったことに対し、放射性物質汚染などを危惧する地域住民の一部は、「本件焼却灰の汚染発覚は、埋立後に松戸市から搬入した焼却灰と同じ場所で焼却された灰から1万強ベクレルの線量が検出されたとの通報があったことで判明したものである。よって、埋設された焼却灰そのものについて線量検査がなされたわけではなく、実際の埋立灰には1万を大きく超える線量があるかもしれないという不安がある。それなのに、県や施設側は、現物の線量検査=ボーリング調査(掘削)をすることなく、コンクリートを敷設しただけで足りるとしてしまった(但し、浸出水の線量検査などは従前から行われており、特段の異常値は出ていない模様)。それでは納得できないので、ボーリング調査を求めたい。」などと反発しています。

そして、本年6月頃に、支援者の方を通じて住民団体から日弁連(当部会)に視察調査の要請があり、当部会も震災から数年間に亘って「放射性物質に汚染された廃棄物の処理問題」を中心テーマとして取り組んでいたことから、すぐにこれに応じるとの方針になりました。

かくして、①住民団体、②小坂町役場、③GF小坂(処理業者)、④秋田県庁から事情聴取することと、併せて処分場など現地の関連施設を視察することとし、関係先に要請して実施してきたという次第です。

といっても、私自身は、日々の仕事と生活に精一杯のためか?放射能問題が絡む廃棄物処理の処理についてさほど知見を深めているわけではありませんので、難しい話は他の先生方にお任せして、小坂町が主要な目的地なので、運転手(盛岡駅から出発し、秋田県庁で解散となりました)兼宿泊先の手配係(大湯温泉に初めて泊まりました)というお気楽な役回りとさせていただきました。

部会では、今後は、本件の「決め手」になった環境省通知の内容や本件での関係者(搬出元たる松戸市、受入主たるGF、監督権者たる鹿角組合=小坂町や秋田県)がとってきた対応の是非などについて意見交換を検討しているとのことです。

私自身は、この事件について今年6月に説明を受けるまで、一般廃棄物の焼却灰は地元の(排出=焼却を実施した)自治体ないし都道府県内で埋立がなされているものと思い込んでいましたので、一廃(焼却灰)が首都圏から北東北まで広域移動(広域処理)されているなどという話は今回はじめて知りました。

もちろん、「首都圏の膨大なゴミ(有害性の強いものを含む)が、そのままの状態で山中に大規模不法投棄された」という岩手青森県境不法投棄事件とは異なり、あくまで焼却(中間処理)を実施した上で、現行法・現行実務上は「適法」に搬出・搬入されているものですから、単純に悪者視はできないでしょうけれど、それでも、「都会のゴミが、過疎地たる北東北に持ち込まれている」ことには変わりませんので、受入圏民としては、あまり好ましいこととは思えません。

廃棄物の広域移動については、「災害廃棄物の受入(広域処理)問題」で一時は脚光を浴びましたが、その後は(その前も)全く話題になっていませんので、ネットで少し調べたところ、環境省が廃棄物(一廃・産廃)の広域移動を調査した報告書を取り纏めており、首都圏の焼却灰が東北などに大規模に搬出されていることが分かりました(後日に再度、取り上げます)。
http://www.env.go.jp/recycle/report/h27-01/index.html

そうしたことの当否や、こうした出来事への「反対派(抗議派)」はもちろん、業者側(操業サイド)で働く地元民や、同和鉱業グループという「地域の圧倒的ガリバー企業(の今後の社会での生き残り戦略)」に様々な形で依存し支援せざるを得ない小坂町や秋田県などの難しい立場なども視野に入れつつ、色々なことを考えさせられながら帰途についたという次第です。

余談ながら、解散後に一人さみしく立ち寄った「道の駅協和」でウサギ肉が売っていましたので、土産に買って帰りました。マタギ文化?の関係で販売しているようですが、鶏肉のような味でした。

次回は、本件について「住民が執り得る(執り得た)手段」について幾つか考えましたので、こうした問題に関心のある方はご覧いただければ幸いです。

また、放射性物質に汚染された廃棄物の処理のあり方や、原発敷地からの汚染水対策(最近も話題になっている凍土壁問題)、健康被害対策の問題などに関心のある方は、昨年の日弁連人権大会決議もご覧いただければと思います。

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知られざる増田県政の金字塔と都知事選の本当の争点

巷の話題を席巻している東京都知事選ですが、私たち岩手県民は、都民や他府県民の方とは違った感慨や視点で眺める面があります。

増田県政については、県の借金を二倍にしたなどと批判する報道はよく目にしますが、知事の功績として大きく評価されるべきものがあることは、ほとんど知られていません。

それは、「岩手と青森の県境で生じた巨大不法投棄事件(以下、県境不法投棄事件と言います)で、率先して全量撤去と関係者への責任追及の姿勢を示し、特例法の制定に繋げて曲がりなりにも県民の費用負担を大きく減らす形で地域の環境を回復させたこと」です。

県境不法投棄事件とは、青森県田子町の山中(岩手県二戸市との県境)に産業廃棄物の施設を設置していた業者が、県境の谷間や山林に膨大な量の廃棄物を不法投棄した事件です。

この事件では、主犯格たる青森の業者と首都圏を中心に全国各地から産廃を集めて現地に送り込んだ埼玉の業者が摘発されたものの、発覚時点でほぼ倒産状態にあり、両県併せて最終的に1000億円近くに及ぶ原状回復費用を負担するのは不可能でした。

そのため、巨額負担が当初から予測された青森県は、廃棄物を撤去するか否か明言せず、遮水壁を作って放置(封じ込め)をするのではないかとの疑念が強く寄せられ、地元住民・田子町との間で大きな軋轢が生じていました。

これに対し、岩手県側では、増田知事が非常に早い段階で「有害性が強い物が多数含まれており、必ず全量撤去する」との強い姿勢を表明し、それと共に岩手県独自で処理業者の財産に仮差押を行い2億円以上の確保に成功する快挙を成し遂げています。

県境事件の岩手側は人里から遠く離れていた上、撤去費用に関し国の補助などが得られるのかも不透明でしたが、「首都圏など全国のゴミが違法に持ち込まれて捨てられた」という事件の性質が、岩手が背負う中央政権に虐げられた蝦夷などの歴史と重なり、知事の判断は、県民の強い支持を受けることになりました。

そして、青森県もこの動きに影響を受け、重い腰を上げるような形で全量撤去を表明し、国が費用の約6割を補助する産廃特措法が制定され、約10年かけて両県の撤去作業が行われました。

この法律は、悪質な大規模不法投棄が判明した県境不法投棄事件と香川県豊島の不法投棄事件の2つを主に救済するため制定されたのですが、仮に、増田知事や青森県知事が現地封じ込めの選択肢をとった場合、地元住民は、豊島住民が中坊公平弁護士らの支援のもと香川県を相手に公害調停などを行った事件のように、長く苦しい闘いを強いられる展開になったことは間違いありません。

そのような苦難を地域住民に強いることなく率先して全量撤去を打ち出し、撤去費用に国の多額の補助を確保したことは、増田県政の金字塔と呼んで遜色ないと思います。

実際、両県は、原状回復作業に並行して、産廃業者に委託した全国の事業者の幾つかに、廃棄物処理法上の違反があったとして自社が排出した廃棄物の撤去費用を支払わせるなど、首都圏の排出者側との闘いを地道に続けました。

ただ、増田知事にとって一つ心残りがありました。それは、主犯格たる埼玉の処理業者を指導すべき立場にあった埼玉県の廃棄物行政の責任を問うことができなかったこと、そして、首都圏をはじめ全国各地の排出事業者に対し適正な処理委託をするよう指導する立場にあった排出者側の自治体(東京都など)に、純然たる被害県としての岩手県が強いられた80億円程度の自己負担に対し何らかの形で肩代わり(支援)を求めることができなかったことなのです

要するに、首都圏をはじめとする排出側の行政の責任を問うことが、県境事件ひいては増田知事の大きな宿題として残りました。

私は平成16年前後に日弁連の委員会活動を通じて岩手県職員の方からお話を伺う機会があり、増田知事も解決のため一定の模索をしていたことは間違いありません。

だからこそ、そのときの増田知事を知る岩手県民は、都知事選にあたり「時に、首都圏のエゴの犠牲を強いられた、地方の悲しみ、苦しさを東京の人達に伝えることを忘れないでいただきたい、地方を知る者として、地方と東京がよりよい関係を築くため、東京のあり方を大きく変え、日本全体を改善する姿勢や手法(政策)を強く打ち出していただきたい」と願っていることは確かなのです。

そうした期待を背負っている増田氏に打ち出していただきたい言葉が、小泉首相に倣えば、「(地方の立場から)東京(のエゴ)をぶっ潰す」であることは、申すまでもありません。

この一言を増田候補が絶叫していただければ、全国の多くの地方住民が賛同し、ほどなく、その真意を知った東京都民も、これまでの東京のあり方を問い直し再構築してくれる指導者として増田氏を支持するに至るということも、十分に期待できるのではないでしょうか。

それだけに、ある意味、「ぶっ潰す」対象の一つと感じられないこともない、自民党都連などの勢力が増田氏を担いでいるという構図や、増田氏が上記の思いを今も感じておられるのかあまり伝わってこない選挙報道を眺めていると、岩手県民としては残念というか、寂しいものを感じ、どなたか(ご自身を含め)、増田氏を解き放っていただきたいと感じる面はあります。

また、このように考えれば、都民が小池氏に求めるものも、より鮮明になると思います。

増田氏が「東京的なるものとの対決」を掲げる責任(歴史)を背負っているのだとすれば、小池氏は、現在の都議会(自民党都連)との対決に象徴されるように、政界を渡り歩き、小沢氏や小泉首相など既存の政治の中心勢力と対決する道を選んだ大物に従い、何らかの形で旧勢力と闘ってきた人と言えます。

小池氏を支持する方々は、政治を壟断している(自分達の影響力の確保を優先させて社会に閉塞感を与えている)と感じる旧勢力と同氏が闘うのを期待しているでしょうし、そうであればこそ、小池氏には「大物都議や自民党都連との対決」という対人的な話に矮小化させず、日本の都道府県議会制度そのものについて「問題の本質」を指摘し、変革を呼びかけることが求められており、それは、兵庫県議会の事件に象徴されるように国民全体が期待していることと言えるでしょう。

橋下市長や維新の会が一定の成功を納めたのは、行政機構(ひいては住民に不信感を抱かれていた行政の実情など)の変革を旗印にして、それに取り組んだことが庶民の喝采を浴びたからだと思います。

小池氏が都庁や都議会の改変に取り組んで成果を挙げ、官庁や国会の変革も促す動きも見せるなら、裾野の広い政治勢力を構築し、小池氏が全盛期の小沢氏や小泉首相の後継者のような地位を獲得していくことも、不可能ではありません。

先日の参院選で自民党を大勝させた民意は、「憲法改正(立法や行政の見直し)に向けた議論は期待するが、自民の改憲案(人権規定の改変)は支持しない」ものであることは、多くの国民が感じているところだと思います。

だからこそ、その民意に応える形で、小池氏には「東京から日本(の閉塞的な政治文化)をぶっ壊す」と叫んでいただければと感じています。

増田氏か小池氏かという選択は、地方との関係性を重視した東京の変革か、国家との関係性(自民党など国側への影響)を重視した東京の変革か、どちらを志向するかという見方ができ、そうした観点から議論が深まればと願っています。

地方の町弁が「事件に呼ばれる」ということ

尊属殺違憲判決事件は、大学ではじめて法律や裁判を勉強する学生が最初に教わる判例の一つであり、かつ講義を受けたときの衝撃を忘れ難く感じる事件の代表格でもあると思います。

その事件に従事された弁護人の方については、さきほど、下記の記事を拝見するまで全く存じなかったのですが、どうやら地方都市の一般的な町弁の方のようで、業界人的には、金字塔というか雲の上のような方だと思う一方、片田舎でしがない町弁をしている身には、それだけで親近感が沸いてしまいます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/120100058/120200001/?P=1

私自身は、こうした業界で語り継がれる事件に関わることはないと思いますが、「特殊な事情から意気に感じるところがあり、限られた報酬で膨大な作業量を伴う大赤字仕事を手弁当感覚で従事する」経験をしていないわけではなく、本日、その典型のような事件(全国的に注目された、震災に絡む某事件から派生した民事訴訟。ちなみに「出会い」は有り難くないことに国選弁護人から始まってます)の1審判決がありました。

判決を受け取ったばかりなので深く読み込んでないのですが、主要な争点で当方の勝訴となっており、そのこと自体は感謝というほかないものの、相手方が控訴すれば、依頼主は控訴費用の負担が不可能と見込まれるため、手弁当=自己負担で控訴審(仙台高裁への新幹線代)に対応せざるを得ず、その点はトホホ感満載の状態です(東京と違って巨額の事件にはご縁がほとんどありませんので、1審勝訴の際は、いつも高裁の書記官に2審も陳述擬制=不出頭+初回から電話会議にして欲しいと愚痴を言ってます)。

控訴審で、当方の主張(要望)に基づく勝訴的和解ができればよいのですが、(尊属殺事件のように)万が一、2審逆転敗訴になったら大泣きですので、そうした展開にならないよう祈るばかりです。

ちなみに、尊属殺事件の引用記事の中に、「原則論で闘っても勝ち目は薄い、それより事案の特殊性にとことん言及すべきだ」という下りがありますが、私の受任事件も色々と特殊性のあるケースで、そうしたことに言及しつつ常識的な解決のあり方を強調する主張を尽くしており、その点が(判決での言及の有無はさておき)結論に影響したのではと思わないでもありません。

正直、敗訴の可能性も覚悟しており、本音を言えば「ここで負けたら、ようやくこの事件から解放される・・」との気持ちもあったのですが、お前はまだ修行が足らん、もっと精進せよと仰る影が、背中に立っているのかもしれません。

この事件は、最初の段階で、昨年まで当事務所に在籍していた辻先生が少しだけ関わっており、そうしたことも含め、世の中には見えない力が確実に働いているというか、多くの弁護士が時折感じる「この事件に呼ばれた」感を、抱かずにはいられないところがあります。

ちなみに、尊属殺事件を担当された大貫先生に関心のある方は、こちらの記事もご覧になってよいのではと思われます。
http://ameblo.jp/spacelaw/entry-10907208061.html

私も、ある意味、この事件で一番の犠牲になったとも言える依頼主の尊厳ないし意地が多少とも回復できるような解決を実現し、その上で「私ごと忘れてしまいなさい」と言えるような終局を迎えることができるよう、もう一踏ん張り、二踏ん張りしなければと思っています。

「環境の日・くらしの法律相談会」(6月3日)のお知らせ

岩手弁護士会の公害対策・環境保全委員会では、6月3日(金)に、弁護士会(の法律相談センター。サンビル2階)において、標題の企画名で無料相談会を行うことになりました。

私も担当者の一人として、昼過ぎから午後3時まで弁護士会で待機します。

詳細は下記のとおりですので、相談すべき事柄のある方、関心のある方などは、ぜひご利用いただければと思います。弁護士会のHP(お知らせ)にも一応載っています。
http://www.iwateba.jp/

正直なところ、ほとんど宣伝ツールを利用できておらず(聞くところでは、弁護士会の相談事業について県庁・市役所の広報に依頼しても載せてくれないのだそうです。民間業者の自主企画扱いだからでしょうか・・)、来客はほとんど期待できないのではと覚悟していますので、冷やかしでも問い合わせをいただければ幸いです。

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環 境 の 日 ・ く ら し の 法 律 相 談 会

6月5日は,環境基本法で「環境の日」と定められています。岩手弁護士会では,下記のとおり,「環境の日・くらしの法律相談会」として無料法律相談を実施します(ただし,電話相談の場合,通話料金は相談者の負担となります。)。

「環境の日・くらしの法律相談会」では,騒音,振動,悪臭,大気汚染,土壌汚染,水質汚染,地盤沈下という典型的な公害問題に関する相談をはじめとして,不法投棄,景観の悪化,日照に関する被害,原発事故に伴う被害の問題など,県民の暮らしに影響のある環境などの法律問題について,幅広く相談を受け付けます。

また,個人の方からのご相談に限らず,公害・環境の被害の問題に直面している方であれば,事業者・法人などのご相談も広く受け付けます。

相談方法は,面談もしくは電話(専用回線)です。当日,盛岡市にお越しになれない方は,ぜひ電話相談をご活用ください。

事前の予約は不要です。

日  時:平成28年6月3日午前10時~午後3時

面談場所:岩手弁護士会

盛岡市大通一丁目2番1号

岩手県産業会館本館(サンビル)2階

相談電話:019-622-1751

問合せ先:岩手弁護士会(019-651-5095)

 

春の気仙みち~H28版~

ここしばらく諸事に追われ、ブログの更新が滞ってしまいました。この間も、メモ的なものは書いているのですが、文章として仕上げる時間が取れず、ネタがやや古いものもありますが、その点はご容赦いただければと思います。

2週間以上前の話で恐縮ですが、4月12日に毎月1回の法テラスの担当日で、大船渡に行きました。が、4年ほど担当してきて初めて「予約もなく当日の飛び込み相談もない」という完全ゼロの日になりました。

反面、桜がすでに開花しており一部は満開状態でしたので、昼の時間を少し長めに外出し、碁石海岸まで足を伸ばしてレストハウス周辺の桜や「乱暴谷(らんぼうや)」の写真を撮って戻りました。

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帰途も三陸道経由で陸前高田の竹駒地区などを廻って盛岡に戻りましたが、こちらも週末~翌週に満開になるのではと思われます(っていうか、この投稿の時点ですでに葉桜ですが)。

以前に投稿しましたが、私は震災があった平成23年の4月下旬頃(5年前の今頃)に大船渡や陸前高田の避難所を廻って「被災者向けの押しかけ無料相談会」をしたことがあり、津波被害による凄惨な光景の傍らで満開の桜を目にしていたことをよく覚えています。

それだけに、この時期に気仙地方(とりわけ、大船渡の盛~末崎半島、陸前高田の中心部や竹駒地区)に来て桜を見ると、震災直後の光景を思い出さずにはいられない面があります。

震災直後(3月上~中旬)は花の咲いていない季節であり、地元(被災者)の方々にとって、震災から1ヶ月を経過した4月は、避難所生活などで疲労が蓄積する一方で、はじめての「自然からの癒やし」として梅や桜に接したという方が多いのではないかと思います。

そうした意味で、まちを彩る草木が地域に存することの意義、価値を改めて感じさせられる面がありました。

そんなわけで、久々の一句

「あの街」の記憶を癒やす 気仙桜

4月14日には熊本で大地震があり、その後も余震が続くなど深刻な被害が生じていますが、九州も桜の代わりに様々な花の季節を迎えているでしょうから、人命救助や各種の被災者支援等に止まらず、そうしたものにも目を向けていただければと思います。

昨年の4月に法テラス気仙に出張した際は、散り際の桜の花弁をカモメに見立てた一句を作りましたので、こちらもご覧いただければ幸いです。
→春の気仙みちと桃源郷

「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の第一印象

本日、弁護士会から標題のガイドライン(以下「被災者債務整理GL」といいます。)が日弁連や銀行業界などの協議により策定されたとの告知がありました。

全銀協のサイトなどからも確認できますが、おって、実際に激甚災害が生じた場合に当該GLに基づき債務整理の作業を行う担当弁護士の登録に関する募集がなされるものと思われます。

岩手では、東日本大震災(平成三陸大津波)により住宅ローン返済中の自宅の被災などで生活の基盤を大きく奪われた沿岸の方々を対象に「個人版私的整理ガイドライン」が策定され、私も平成23年から26年頃にかけて計6件ほどの配点を受けて、破産手続に依らない債務の減免に関する業務を行ってきました。

このGLに関する業務は、沿岸で執務する弁護士さんを中心に配点したようで、私への配点は多くありませんでしたが、様々な論点が生じたという話は聞いていましたし、私が配点された業務でも悩ましい論点が幾つかあったと記憶しています。

上記のGLが、上記の「震災に関するGL」の業務がほぼ収束したことを踏まえて策定されたものであることは間違いないと思われます。ただ、ざっと見た限りでは、弁済を要せず手元に残すことができる自由財産の程度(算定)のようなデリケートな(肝の)部分については、あまりきちんと触れていないのではと感じました。

この種の問題を抱えた方については、全く資産のないような方ばかりでなく、中には数百万円規模の資産を有しつつ、それを遥かに上回る債務(数千万円規模の金融機関の借入や連帯保証など)があるため債務整理を余儀なくされる方も少なくなく、そうした方にとっては、どれだけ手元に資産を残すことができるか(特に、居住場所の確保などの関係で)が重要な関心事で、とりわけ「天災」などで唐突に債務問題が現実化してしまった方は、被害者意識もあり一定の配慮を求めたいところではないかと思います。

そうした点については震災GLの際にもかなり議論がされており、それらの知見を生かしたり当事者の窮状に配慮する形での解決が深められればと思っています。

ただ、今回の被災者債務整理GLの策定に携わった方々(「研究会」メンバー)の顔ぶれをみると、震災GLの策定に従事された方々を多くお見受けするものの、その方々は、企業倒産の処理に関する大家の弁護士さんであるとか、銀行など金融機関の利害を代弁する立場の方(銀行等の関係者や、銀行側の代理人として従事している大企業専門の弁護士の方)などが中心で、例えば、日弁連の災害対策委員会などで「被災者側の利害を代弁する立場」で活動しているという弁護士さんやその他の関係者を全く見かけることができません。

これでは、「裁判外の手続での解決」といっても、金融機関などの利害を重視して策定されたもので、被災状況を重視してドラスティックな債務免除を行うような類の解決は期待できないのではという印象は拭えません。

このことは、裏を返せば、そうした「日弁連の災害族」とでも言うべき被災者サイドの立場・利害を鮮明にして活動している「人権派」的な方々(岩手でも、そうした方が被災地等で尽力されているという話は色々と耳に入ってきます)の「政治力」の低さ(或いは、債権者側との協議を困難とする「断絶」の深さや信頼関係等の希薄さ)を示すものというべきなのかもしれず、その点も含めて残念に感じます。

末端の現場で様々な利害に直面しながら調整を図ることになる「ちっぽけな実務家」の立場としては、できることなら債権者側と債務者側の双方の利益代弁者のほか、中立的な一歩引いた立場で救済のあり方を考えることができる方々などを交えた形で、債務免除や自由財産の保持のあり方などを個別の実情に照らして弾力的に定めることができるルール作りがなされてくれればよかったのではと思わざるを得ないところはあります。