北奥法律事務所

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弁護士費用(着手金・報酬・タイムチャージ等)

現状では少額しか認容されない長期困難訴訟(セクハラその他)に関する抜本的改善策(弁護士費用保険、短期審判+費用負担命令など)について

プロスポーツ選手(ガールズ競輪)の養成指導者がセクハラ行為をしたとの理由で提訴された訴訟で、450万円の請求に対し、指導者による一定のモラハラ行為が認定され賠償が命じられたものの、認容額が11万円であったとの報道を拝見しました(無料公開された限度でのみ)。

記事の事案そのもの(認容額や認定事実の当否)については具体的なことを何も存じませんので意見を述べる考えはありません。

が、事案から離れた一般論として述べると、11万円の認容額のために膨大な苦労と精神的負担を余儀なくされる訴訟を起こしたいと思う人はいませんし、弁護士も通常は受任できません。

この事件の審理状況などは存じませんが、熾烈な主張立証の応酬と複数の尋問を含むフルコース訴訟なら、弁護士費用保険(日弁連LAC)のタイムチャージ換算で50万円でも大赤字、100万円でトントンになるかどうかというレベルだと思います(当事務所の経費換算では)。

そして、裁判所が現在決めているこの認容額。これらの事情は、この種の相談を受ける都度、すべて私が相談者に説明している事柄であり、そのせいか、私はこの種の相談は時折受けているものの、訴訟を受任したことは一度もありません。

この訴訟の原告代理人がどれだけの費用をいただいているかは存じませんが、ご本人等が富裕層で認容額に関係なくタイムチャージどおり支払ってくれるなどという有り難いお話でなければ、恐らく(私も法テラス系など少なからぬ事件で経験しているように)限られた費用で大赤字に耐えて尽力されたものと思われます(事務所経費の負担があまりない低コスト弁護士さんもいますので、一概に言えないことですが)。

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もちろん、コミュニケーションのトラブルは、往々にして「どっちもどっち(お互いさま)」の要素が絡んでいることが珍しくなく、認容額が少額となっているのも、裁判所がそうした認識に立っていることの表れで、そのこと自体は多少やむを得ない面があると思います。

ただ、「自分は強い辱めを受けた、このままでは終われない、相手に一矢報いたい」という気持ちを抱えて生きることを余儀なくされた人達にとっては、こうした形で「今の社会では諦めるしかないんですよ」と扱われてしまうと、社会に希望を失い、やがて様々な形で社会に復讐することもあるのかもしれません。

そうしたリスクを抱えて人々の不満を抑圧する現在の社会を続けるか、敢えて不満と向き合い決着の場を支援する社会に切り替えるか、我々の選択が求められていると言えます。

結論として、軽微又は本人の非が大きい無理筋事案はさておき、現在の社会通念に照らして看過すべきでない、法廷に持ち込むべき価値のある事案については、弁護士費用保険などを強化して、本人の負担を大幅に軽減する形で真っ当な価格で弁護士に依頼できる仕組みを作るべきだと思います。

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例えば、モラハラ問題に限らず、解雇などを含む業務上のトラブルに関する紛争を対象とする弁護士費用保険を作り、保険料は所得に応じて年間数百円+α程度を源泉徴収しつつ、企業や自治体などが補助を出したり特約で保険料を上乗せすれば、タイムチャージの限度額を超えた対応も得られる(自己負担がなくて済む)、といった制度があれば、依頼する弁護士の費用負担は劇的に解消されるでしょう。

被保険者を同居家族とすれば、学校でのトラブルなども対象にできるかもしれませんし、自治体の援助内容次第で、住民獲得競争などにも影響するのかもしれません。

ただ、モラハラ申告などは交通事故と比べて無理筋相談が頻発せざるを得ないので、保険適用の可否を判断する事前審査が必要であり、その点も含めて保険会社や弁護士業界との協議が必要になると思います。現実には、事前審査で却下される例が多数生じるでしょうから、そこが事実上の第1審になるのかもしれませんが。

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また、弁護士費用以前の問題として、「もともと少額しか認容されない訴訟に膨大な手間や高額な経費が必要となること自体が間違っている=早期・簡易の紛争解決を可能とする仕組みを整備すべきでは、という点があります。

この点は、冒頭で述べた「フルコース訴訟」という展開になる前に、例えば、現在の労働審判のように、早ければ第1回又は第2回期日で裁判官が暫定的な心証を示して和解勧告し、なるべくその内容で和解を成立させる(尋問用陳述書や尋問など膨大な作業を当事者に強いるのを避ける)ことができれば、日弁連LACの基準(タイムチャージ30時間)の範囲内で大半の訴訟を決着できるはずです。

あくまで和解勧告ですので、形式的には双方に拒否権を与えますが、裁判所は拒否した当事者に対し、その後の判決等までの審理のために拒否された側が要した弁護士費用の実額(タイムチャージ制を前提とすれば、膨大な額になります)の全部又は大半を負担させる制度を作れば、事実上、勧告拒否に対する極めて強力な抑止力になり、大半の事件が和解勧告で終了することになります。

この種の訴訟は、被害者(請求)側だけでなく加害者(被請求)側も相応の事情があれば(不当・過大請求とか過失と評価できるなど)、弁護士費用保険が利用できるようにすべきだと思いますが、双方とも現行LACの30時間制で運用すべきで、かつ、勧告を拒否した場合は原則として以後の保険利用を不可とすれば、加害者(被請求)側の不当拒否への抑止だけでなく、被害者(請求)側の過大請求への抑止力としても十分に機能するはずです。

もちろん、相手方(敗訴者)負担に慎重な対応をとるべき事案もあるかとは思いますが、大半の事案では適切な運用が図られ、少額事件で膨大な時間と労力を当事者が強いられる(受任弁護士も大赤字を余儀なくされる)ことが大幅に減ると思われます。

その上で、裁判所や行政などが認定基準や慰謝料その他のガイドラインなどを作成・公表すれば、現在の小規模交通事故の大半のように、短期・簡明な解決が大きく促進されると思います。

十数年前、弁護士費用の敗訴者負担制度に関する議論が盛り上がった際には、環境系訴訟など「大企業相手に困難な訴訟に挑む、勝てないが社会的に意義のある訴訟」に従事する方々の猛烈な反対で頓挫したと認識しています。

が、そのような特殊事案には適用しないとの前提で「普通の少額事案を早期・簡明に終わらせるため(勧告拒否へのペナルティ=受諾のインセンティブ)としての「勧告拒否者の弁護士費用負担制度」を考えて良いのではと思っています。

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なお、「そもそも11万円では被害者が報われない」との点については、日本の裁判所が言葉の暴力への対処に冷淡な態度を続けてきたことが根底にあり、非常に根深く難しい問題です。

何より、裁判官は物理的暴力はしませんが(だからこそ、物理的暴力=事故のケガ等には高い慰謝料を命じる)、真綿でジワジワと首を締めるような言葉の暴力は大好きですので(弁護士や検察官も)、言葉の暴力にカネを払えというのは裁判官(法律家)の自己否定につながりかねず、容易に解決できることではありません。

(皆、膨大な勉強を続けて激しい知的対決を要する高ストレスの厳しい世界で生きている方々ですので、知的怠惰を感じた相手に厳しい態度を示すのは職業病としてやむを得ない面はあります。法律家に限らず医師など高学歴系職業に共通の性癖でしょうが)

結局のところ、人間の尊厳とは何か、総論と各論の議論をそれぞれ深めた上で、最終的には法律や各種GLなどで慰謝料増額要素の基準を明確化して裁判所に働きかけていくほかないのかもしれませんし、それは政治=国民に求められる役割だとも言うべきでしょう。

本当は、弁政連岩手支部などでも、地元の県議さんや市議さん達などと、こうした議論(ひいては議会決議などに繋げる)ができればよいのですが、万年窓際会員の身には、雑談や宴会の段取りばかりの光景を黙って拝聴する程度のことしかできず、非力さを嘆くばかりです。

・・・あっ、これも「言葉の暴力」ですかね・・かくて人類は不毛なりき。

 

秋田県・小坂町の「千葉の高濃度焼却灰の搬入埋立問題」に関する日弁連調査③住民訴訟の弁護士費用保険、焼却灰の過疎地埋立ほか

前回の投稿の続き(秋田調査の最終回)です。

1 住民訴訟支援のための弁護士費用保険

前回の投稿で、地元住民が現在(或いは過去に)、「本件で誰かに一矢報いるための手段はないのか」という観点から、廃棄物処理法絡みを中心に、訴訟手続について少し検討してみました。

ただ、そのような訴訟を起こしたいのだとしても、「降って湧いた災難に義憤で立ち向かう」という地域住民(有志)の立場からすれば、これに従事する弁護士の費用は誰も負担したくないでしょうし、(私自身は、その種の訴訟に従事した経験がありませんが)この種の紛争で住民支援に従事する先生方の大半が、そうした実情を理解し、「ゼロではないにせよ時給換算で超不採算」となる金額でやむなく受任しているのが通例ではないかと思います(この種の紛争は、真面目にやるのであれば事実関係から法制度まで膨大な調査、勉強が必要になりますので、採算を確保するのであれば相当な高額になることは必定です)。

そこで、最終処分場や中間処理施設の設置にあたり、適正処理などに関し問題が生じた際に、是正を求める法的手続を希望する地域住民が利用できる弁護士費用保険(保険商品)を作るべきではないかと思います。

そして、その保険契約は、施設側(許可を求める業者)が保険会社と契約し、保険料を施設側が負担とすると共に、そうした保険契約を締結していることを許可の条件の一つとして付け加え、その施設の稼働後、稼働内容に問題があると感じて訴訟提起等を希望する住民が保険会社に保険金利用を申告し、審査を受けるという形をとればよいのではないかと思います。

もちろん、保険会社は住民から申請があれば何でも認めるというのではなく、乱訴防止のため一定の審査をすることが前提になりますし、施設の稼働終了時(或いは埋立終了後の相当な監視期間の終了時)まで問題が生じなければ、保険料の多くが還付されるなど適正処理のインセンティブを高める優遇措置を講じるべきでしょうし、保険商品が複数ある(より住民の権利行使の支援が手厚いものと、そうでないもの)場合、より手厚い保険に加入している方に優良業者としての認証を付するといった考慮もあってよいと思います。

そうした保険制度・保険商品を、日弁連と保険業界が提携して開発し、環境省などに働きかけても良いのでは?と思いました。

もちろん、こうした発想(危険創出のリスクを担っている側が、そのリスクの潜在的被害者のために弁護士費用保険を負担する仕組み)は、廃棄物問題に限らず、有害物質などを扱う事業者(が設置されている地域)一般において応用されてしかるべき事柄だと思います。

そうした観点から弁護士費用保険を育てる観点を、関係各位に検討していただきたいところだと思っています。

また、上記のようなタイプの弁護士費用保険とは別に、住民訴訟一般で利用できるような「住民側が少額の保険料を負担し、訴訟などに相応しい事案で一定の弁護士費用を保険金拠出する保険商品」も、開発、販売して欲しいと思います。とりわけ、住民訴訟の場合、勝訴すれば相当な弁護士費用を行政に請求することも可能であり(地方自治法242条の2第12項)、談合などの巨額賠償が生じる事件では自治体から巨額の弁護士費用を回収する例もありますので、制度としても構築しやすい面があると思います。

そして、そうした動きが、やがては「国に対する住民訴訟(国の公金支出是正訴訟)」の創設に繋がっていけばよいのではというのが、司法手続を適切に利用し行政のあり方を民が是正していくことの必要性を感じている、多くの業界関係者の願いではないかと思います。

2 一般廃棄物(焼却灰)の広域移動(都会の灰が田舎に)という問題

ところで、今回の秋田調査で私が一番関心があったことは、「千葉から焼却灰が持ち込まれていること自体を、秋田の人々(地元民、地元行政、処理業者、県庁)はどのように受け止めているのか、そのこと自体に抵抗感ないし反感はないのか」ということでした。

そもそも、私自身は、今回の秋田調査の話が今年の6月に廃棄物部会に持ち込まれるまで、一般廃棄物(の焼却灰)が他県に広域処理されているなどという話は全く知らず、てっきり自県内(せいぜい関東・東北などの自圏内)で埋め立てられているものと考えていました(これに対して、産業廃棄物は昔から広域移動の問題があり、日弁連(廃棄物部会)の意見書・決議等でも取り上げています)。

それが、6月の廃棄物部会の会合の際に、千葉で廃棄物処理の問題に取り組んでいる方から「秋田の方から本件の相談を受けている、ぜひ日弁連で取り上げて欲しい」とのお話をいただいた際、恥ずかしながら初めて千葉から秋田に灰が搬送されているという話を知り、それが現行法で何ら規制されていないことに些か驚くと共に、「自圏内の生活ゴミ」たる一般廃棄物は、自圏内処理されなくてよいのか(他圏なかんずく過疎地域に搬送するのは、そこに一定の対価が介在するにせよ、「都会の厄介払い(エゴの押しつけ)」という性格を帯びるのではないか)」と感じずにはいられませんでした。

とりわけ、私の場合、「廃棄物問題への関わり」の原点(他の事件に関わったことがありませんので、現在まで実質的に唯一の実体験)になっているのが、「都会の膨大なゴミ(産廃)がまるごと故郷の山奥に不法投棄され、莫大な撤去費用が被害県に押しつけられた」事件である岩手青森県境不法投棄事件であるだけに、余計に、千葉の焼却灰が秋田に埋め立てられているという話を聞いて、同様の「嫌な感じ」を受けた面があります(それが、長年に亘る「東北と中央政権の不幸な歴史」に繋がる話であることは、申すまでもありません)。

そこで、秋田調査に赴く前に廃棄物の広域移動に関して少しネットで調べてみたところ、環境省が廃棄物(一廃・産廃)の広域移動を調査した報告書を取り纏めているのを発見しました。
http://www.env.go.jp/recycle/report/h27-01/index.html

これによれば、一廃については、「関東→北日本(東北・北海道)」のみ膨大な焼却灰が搬入されていることを示す図太い流れがあり、他のエリアは全く広域移動がないという、ある意味、異様とも言える表示がなされています(但し、よく見ると東京は域外搬出がありません。奥多摩方面に大規模な処分場が建設された影響でしょうか)。他方、産廃の場合、東日本は中部以東は北日本、以西は九州・沖縄という太い流れが示されています。

要するに、現在の社会では、「首都圏の生活ゴミ(一廃)は、首都圏で焼却し、その灰を北日本などに埋め立てている」という実情があり、少なくとも、搬入・搬出の双方の住民などが、そのことについて知らなくて(問題意識を持たなくて)よいのかという点は、強調されてよいのではないかと思います。

もちろん、「廃棄物の広域処理の何が悪いのか。管理型処分場(遮水シート)は安全だ(汚染の外部流出は基本的にない)というのが国の説明じゃないか。現在の「廃棄物処理の市場」を前提とする相当な対価も払っているじゃないか。そもそも、廃棄(消費)の前提となった物自体が、都会で生産されたものではなく地方をはじめ全国・全世界で生産されたものなのだから、廃棄物も生産側に戻してよい=消費地を廃棄地とすべき理由もないじゃないか」といった主張も、一定の説得力がないわけではありません。

これに対し、処分場絡みの紛争に取り組んでいる方々は、「遮水シートは耐用年数や破損などの問題があり、万全では全くない。だからこそ、現在の処理費用も原発の電力料金のように破綻リスクを含まない不当廉価というべきだ(だから、排出者側は十分な責任をとってない)」という主張をしており、私自身、どちらの主張が正しいか軽々に判断できる立場にありません。

今回の秋田調査でも、上記に述べたようなことを住民の方に説明した際、問題意識を共有して下さる方もお見受けしましたが、そのような方は多くはなく、秋田県庁の方と話した際にも、「県議会で、そのような観点からの反発はあったようだ。もちろん、ゴミの搬入自体は県民の一人として嬉しい話では全くないが、業者自身(GF小坂)が現行法上は優良業者と評するに足るもので、地元の産業振興の観点(同和鉱業グループ及びこれに依存する地域住民の雇用の存続)からもやむを得ないのでは」といったコメントをいただいており、こうした感覚は、受入側の認識としては典型的なものではないかと思われます。

ただ、少なくとも、千葉県民は「地元のゴミ(焼却灰)を引き取って貰っている」ことについて何らかの謝意を秋田側に示すべきではないかと思いますし、そうしたことも含めて、資源循環システムの全体像のあるべき姿も視野に入れつつ、社会における物の生産、消費、廃棄のあり方などを、多くの方々に検討いただければというのが、何かと犠牲を強いられやすい「流入圏」側の住民の一人としての願いです。

3 おまけ(隗より始めよ)

私は、家庭都合(兼業主夫業)や資力(最近話題の「弁護士の貧困」に残念ながら当方も無縁ではありません)などの事情から、廃棄物部会の現地調査(全国各地への出張)に参加するのも久方ぶりだったのですが、宿泊先に歯ブラシを持参するのを失念したので、宿の「使い捨てブラシ」を利用し、そのまま持ち帰り、歯磨き粉ともども、最後まで使い切りました(今回のブラシは1回で駄目になるような品質のものでしたが)。

日弁連廃棄物部会が取り組んでいた不法投棄問題などの総括をした平成22年人権大会決議では、「廃棄物の発生抑制」の見地から宿泊施設の使い捨て商品の有料化など(使用抑制)を提言しており(理由第3の1)、そうした観点も含め、私自身の戒め(或いはケチ病)として、なるべく自宅から持参し、失念したときも上記のようにしているのですが、全国の弁護士でそうしたことをきちんと行っている人がどれだけいるのだろうと疑問を感じざるを得ない面もあります。

余談ながら、日弁連(公害環境委員会)の会合のため上京すると、ご自身は地球温暖化防止などと言いつつ、館内はとても寒くて厚着を要する設定温度になっていたり、洋式トイレには「地球温暖化防止のため蓋を閉めよ」と紙が入っているものの、いつも開けっ放しになっていたり(掃除の方がいつもそうしているのでしょうか?だったら、一声かければいいのに・・)、私のように事務所でほとんどエアコンを付けない人間からすれば(事務局エリアからの送風で足りるとしていますが、少し汗ばみます。ですが、それこそが夏というべきでしょう)、残念に感じてしまいます。

上記に限らず、日弁連が社会一般に向けて何らかの意見を出していても、それに即した実践を会員個々に率先して求めるという話を聞いたことがなく、例えば、脱原発を標榜するなら日弁連会館はエアコン禁止(送風のみ)、エレベーターは原則として4階以上の移動のみOK(3フロア分までの移動は階段で歩きなさい)とするなど、「脱電力(浪費)」を率先して会員に強制する姿勢があって然るべきではないかと思います。

震災直後に平成23年4月に東京に行ったときにも似たようなことを思いましたが、日弁連に限らず、夏の東京の建物はどこに行っても岩手より寒い感じで、「おさんぽ怪獣」ことシン・ゴジラに放射能をまき散らして貰わないと「東京(ひいては日本社会)というエゴの塊」は何も変われないのかも知れません。

報酬の算定をめぐって弁護士がクヨクヨするとき、しないとき

先日、交渉段階で大きな成果を勝ち取り示談で終了した賠償請求事件で、依頼主に当方が希望する成果報酬をお伝えしたところ無事に快諾いただきましたが、依頼主からは「その3、4倍の額を請求されると思ってました」と、当方がお願いした額が想像よりも大幅に安かったので驚いたというコメントをいただきました。

その件は弁護士会の基本的な報酬会規をもとにした計算(獲得利益ベース。但し、回収額ではなく受任前提示額との差額に基づく)を前提に、短期間で成果をあげて完了したことや、依頼主と顧問契約をしており割引もした上で計算したため通例の報酬基準よりも相当に低い額になったのですが、さすがに、「3、4倍の額を請求され支払うものだと思っていた」などと言われると、もっと高額なお支払をお願いすればよかったなどとトホホ的な軽口を思い浮かべないでもありません。

私には良くも悪くもその場で瞬時に「言い間違えました。本当の請求額はこれです!」などと言いくるめるような聡明さ?は微塵もありませんので、口頭やメールで算定根拠の補足説明をして、その件は終了とさせていただきました。

恥ずかしながら、数年前までの「殺人的なスケジュールと引き換えに経済的には恵まれた時代」と違い、現在は運転資金に喘ぎつつどうにか経営している有様ですので、たまには利益率の大きい仕事(報酬)をいただかないと事務所が保たないという気持ちもあり、どうしようかと迷いつつ、結局、僅かな時間で成果をあげた事案では割引しないと罰が当たるとの強迫観念から逃げられなかった小心者というのが率直な実情なのかもしれません。

記憶の限りでは、幸い、私はこれまで依頼主と報酬を巡り揉めた記憶がなく、少なくとも成果報酬については、一旦提示した額を依頼主の対応を見て増額するなどということはもちろん、減額した(要求された)こともなかったと思います。

ただ、最近は法テラスの立替事案や交通事故の弁護士費用特約に基づくタイムチャージ事案など、当方に実質的な金額算定権のない受任事案が多いため、昔のことを思い出せないだけかもしれません。

ただ、弁護士費用特約に基づく受任事案に関しては、数年前に保険者たる某大手損保に請求したところ不当拒絶?されたので、その件では、会規よりも減額した請求をしており、それにもかかわらず拒否するなら訴訟も辞さずという通知をしたところ了解いただいたという経験が1度だけあります。

その際は、改めて、この損保さん(相手方として対峙することが多い)は何でも値切らないと気が済まないのだろうかと感じたものでした。

着手金については相談当初では幅のある数字で示すことも多いので、結果として依頼主の反応を見て修正することもあるかもしれませんが、やはり揉めたという記憶がなく、結局のところ、私と揉めるようなタイプの方とは最初から信頼関係を築くことができず、相談段階で終了になることが多いように思います。

もちろん、町弁の宿命として事案の性質上やむを得ない(ご本人の負担としてはこの程度に止めざるを得ない)受任費用に比して膨大すぎる作業量になる超不採算案件の受任も、法テラスでないものも含めて幾つかあり、中には相手方というより依頼主の個性に起因すると感じるものもないわけではありませんが、これも修行と思って腹をくくる方が精神衛生のためだと割り切るようにしています。

近年、刑事弁護に関して同業者の目からすれば異様とも取れるような高額な費用設定を堂々と掲げる事務所とか、同業者はおろか社会一般からも顰蹙を買うような宣伝を行う事務所などが話題になっており、最近では業界では過払等で急成長したことで著名な事務所が消費者庁から広告に関し景品等表示法違反で処分を受けたという報道もありました。

そうした事務所が多数の弁護士を擁し派手な宣伝を行い自らの規模を誇っている様子を見ると、一定のあざとさ、悪どさがないと、今後の弁護士業界では生き残れないのだろうかと悲しくなることもないではありません。

しかし、報酬の適正は業務の適正と並んで業界の命綱であり、誠実さと正直が最も大事という点は、少なくとも15年前から弁護士をしている私の世代では業界の常識でしたし、今後もそうした常識が生き続ける業界であるために、自身の持ち場でできるだけの最善を尽くしていきたいと思っています。

弁護士業務における時間簿作成の必要性

私は、当サイトにも表示しているとおり、経済的利益による報酬算定に馴染まないタイプの事案では、タイムチャージに準ずる方法で当方の受任費用をご負担いただいています。

また、タイムチャージではない受任形態(着手金・報酬金制や広義の手数料制)でも、ほぼ全件、時間簿(業務従事簿)を作成しています。これは、私の時間報酬単価(1時間2万円)が、当事務所の経営上は採算ラインを形成していることから、事件ごとの採算性を確認して今後の業務の質の改善に繋げるためであったり、成果報酬の金額算定の資料とすることを目的としています。

ところで、弁護士報酬の金額算定を巡って争われた裁判は、過去に多数存在し(私自身は提訴等の経験はありませんが)、最高裁が一般的、抽象的な基準(弁護士会の旧報酬会規のパーセンテージに基づく経済的利益の額に応じた算定のほか事件の難易や争いの程度、労力の程度などの総合判断)を示しているため、裁判所は、これに沿って相当額を算定することになっています。

そのため、裁判になること自体は滅多にないにせよ、報酬の額を巡って議論になる場合には、従事時間の記録を取っておくことは、適正な算定をする上で、意義があることと言えます。

また、最近は、弁護士が、直接的な依頼者以外の方に報酬を請求する制度が導入されています。住民訴訟で住民が勝訴し相手方から自治体に被害回復がなされた場合の住民側代理人たる弁護士から自治体への報酬請求(地方自治法242条の2)と、株主代表訴訟で同様に株主側が勝訴等した場合(会社法852条)が典型ですが、今後は、いわゆる弁護士費用保険を巡っても、受任弁護士と請求先の保険会社との間の紛争が生じてくるのではと思われます。

住民訴訟の報酬請求に関しては、平成21年に重要な最高裁判決が出ており、前記のとおり経済的利益のほか受任弁護士の労力や時間の程度などを斟酌して定めることになっており、訴訟行為はもちろん、打合せ、調査、書面作成等に要した時間、補助者の労務費なども記録しておくことが望ましいとされています(判例地方自治390号9頁)。

逆に言えば、「極端に経済的利益が大きいものの、さほど争いもなくさほどの労力を要しない事案」などでは、依頼者側からも、受任者に対し、時間制での受任を求めたり、委任時に時間簿の作成を求め、経済的利益に基づく算定額が時間単価に換算してあまりにも高額になる場合などは値引き交渉の材料とするといったことも、今後は考えてよいのではないかと思います。

ただ、業界不況に喘ぐ現在のしがない田舎の町弁の側の立場で申せば、上記の時間単価を大幅に下回る不採算仕事の受注を余儀なくされることが珍しくなく、たまに利益率の大きい仕事にも従事させていただくことで、何とか事務所を維持しているという面もありますので、相応の成果が出ている事案では、ある程度の金額は大目に見ていただきたいものです。

弁護士による暴利行為の被害に遭わないために

最近の判例雑誌に、「交通事故の賠償手続などを受任した弁護士が依頼者から受領した金額が、受任業務の内容等に比して高額に過ぎる(暴利行為として公序良俗違反である)と認められ、一部の返還請求が認められた例」が載っていました(東京地判H25.9.11判時2219-73。要旨は以下のとおり)。

Xらは、子Aが交通事故で死亡し、XらはY弁護士に加害者への賠償請求等を依頼し、①相談料として5万円、②刑事告訴として100万円、③損賠請求の着手金として100万円、④自賠責請求報酬として255万円、以上の合計460万円を支払った。

その後、Yが提訴に難色を示したため、XらはYを解任し、上記の支払が暴利行為だとしてYに返還を求め、併せて慰謝料を請求した。Yは、Aの死亡が自殺(ゆえ、加害者への賠償請求が奏功しない)との疑いがあることなどが提訴に難色を示したもので、事故態様に争いがあることなどから既払金が不当に高額とは言えないとして請求を争った。

以上に対し、1審は④の自賠責報酬につき、100万円を超える部分を暴利行為として残金155万円の返還を認め、他の部分については棄却した。Xらの控訴に対し、2審は、③についてもYが訴訟提起に至っていないことから、50万円を超える部分を暴利とし、上記④を含め205万円の返還を命じた。

この事件はさておき、近時、噂話の類として、「東京などには、プロ(弁護士)の目から見れば、さしたる労力を投入しなくとも一定の成果が確実視されるなど、ごく簡単な事案なのに、あたかも成果獲得が非常に困難であり、それを、当該弁護士に依頼すれば実現させてあげるなどと吹聴して高額な報酬を請求する弁護士がおり、特に、刑事事件や交通事故、債務整理などに、その傾向が顕著である。そして、最近では、そうした弁護士が、広告宣伝などを通じて岩手など地方にも触手を伸ばしている」などと幾つかの方面から聞くことがあります。

具体的な紛争事案や問題事案を聞いたわけではなく、最近の業界の競争激化に伴う流言飛語の類もあり得るかもしれませんが、ここ数年の弁護士の激増に伴い、弁護士と依頼者との紛争が増えていることは間違いないと思います。

紹介した事件では、Yの主張によれば、Aの死亡に自殺の疑いがかけられ、それに起因して?Xらは警察等の対応に強い不満を持ち、Yに賠償請求だけでなく刑事告訴の委任もしているという事情があり、単純に「プロ(弁護士)の目から見れば、さほど手間のかからない簡単な案件」というわけではなく、むしろ、Y弁護士と依頼者Xとの間の意思疎通や争点への考え方の相違などに紛争の芽があったようです。

判決を見る限り、有効とされた部分の金額も決して少額とは言えませんが、裁判所は、そうした以上も考慮し、上記の判断に止めたものと思われます。

ただ、「ぼったくり事案」であれ「方針等を巡るトラブル事案」であれ、結局は、依頼者と弁護士との間に適切な意思疎通や信頼関係の構築がなされていないことが、紛争の根底にあることは間違いありません。

常にそこまで必要かはともかく、とりわけ、一般的には難易度が高いと見られる訴訟等を依頼するケースや、高額な金銭の授受が行われる(或いは想定される)ケースなどでは、相談・依頼先の弁護士に対し、適切に事実関係を説明し資料を提供することを前提に、見通しに関する丁寧な説明を受ける(求める)ことはもちろん、見通しや信頼関係の構築、費用の相当性などに多少なりとも不安を感じる点があれば、複数の弁護士に相談するなどして、相性的なことも含め、「自分が真に頼みたいと思える適切な弁護士を選ぶ」という姿勢を大切にしていただきたいと思います。

少なくとも、司法改革による弁護士の激増により、多くの方にとって、弁護士の選択権が増えた(これは、数年前までは、とりわけ地方では、ほとんど考えられなかったと言っても過言ではありません)ことは確かであり、そうした「チャンス」を上手に活かしていただきたいと思います。

 

月額3000円(税別)の顧問契約に関するコンセプト

平成23年に月額3000円の顧問契約(Aコース)を設けた際に投稿した文章を微修正したものです。利用頻度に応じた顧問契約の定め方に関心のある方は、ご覧いただければ幸いです。

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平成23年から、顧問契約に関する新機軸(Aコース)を打ち出すことにしました。個人・法人を問わず、月額3000円(消費税別)で顧問契約(顧問弁護士)を導入できるというもので、弁護士会の報酬会規の法人顧問料が月額5万円(岩手・盛岡では、月額3万円が多いとも聞いています)ですので、相場より大幅に値引きした価格ということになります。

以下、このコースの設定の経緯、意図等について、ここで概略を説明いたします。なお、金額の表示はすべて税抜としています。

1 Aコース設定の経緯

私は、零細企業経営者の子弟のはしくれであると共に、真っ当なビジネスをする企業が盛んに活動することが社会を成り立たせる基本と考えていますので、弁護士として中小・零細企業の経営を支援する仕事には相応の意欲を持って取り組んでいます。

東京時代には勤務先に様々な顧問先企業がありましたので、そうした意欲を充足できる多くの仕事に巡り会いましたが、岩手に戻った後は、私が盛岡に地縁・血縁がないに等しく、依頼事件の多くは弁護士会や市町村などの相談会でお会いする方々の個人的な問題ばかりで、企業活動をサポートする仕事をご依頼いただく機会はめっきり減ってしまいました。

幸い、全くご依頼がなかったわけではありませんが、多くは他の先生(弁護士など)から紹介いただいたり、弁護士会の相談センター等で偶然お会いした方ばかりで、企業の方が直接にアクセスされてきたことは、滅多になかったと感じています。

現在、当事務所と顧問契約を結んでいただいている企業さんの数も、恐らくは私と同等の実務経験(約20年)を有する弁護士の平均値を遥かに下回る数と言わざるを得ないでしょう(人脈云々以前に、カリスマ性の欠如が最大の要因かもしれませんが)。

JC(青年会議所)などで多少とも垣間見る限りの印象ですが、盛岡・岩手でも、少なからぬ企業さんが県内又は仙台・東京の弁護士と何らかの繋がりを持っていたり、弁護士の紹介を受けることができるルート・人脈等をお持ちのようで、インターネット(Webサイトを掲げる事務所)を弁護士探しの主たるツールとして活用しようという方は、あまり多くはないようです(意思決定を司っている社長さんなどが、ご高齢という事情もあるかもしれませんが)。

そのため、企業(とりわけ、地元に広範な人脈を持ち従前から弁護士を利用してきた企業)の方々から依頼を得ることは、岩手に戻って10年以上を経た今でも、容易ならざるという印象を受けています。

また、私のように地縁・血縁のない人間が異業種の方々との人脈を作るには、例えばJCのような様々な業界の方が集まる夜の会合などに参加する必要があるかとは思いますが、極度の残業体質の上、家庭の事情で夜間に身体を空けるのが難しいという事情もありました。

もちろん、純然たる個人向けの仕事が嫌というわけでは全くなく、今後も多くの力を注いでいくことは間違いありません。ただ、弁護士の活動を通じて地域社会の全体に貢献するとの初志からは、個人向けの仕事ばかりに比重が強くなるのは望ましくなく、個人向け・企業団体向け双方の業務をバランスよく受注できる事務所であるべきだと思っています。また、一方の仕事を経験することが他方の業務にも大いに生きてくることは当然です。

というわけで、夜の会合以外の方法で人脈を作ったりご依頼をいただく機会を作ることができないか模索してきましが、名案も浮かばず、「この弁護士は色々な仕事を手がけているから、話だけでも聞いてみようか」と関心を持って頂けるような内容にしようと、事務所サイトで「取扱実績」欄を増設するなどしていました。が、それを理由にに依頼いただくこともなく、暗中模索の日々が続きました。

そんな中、平成23年当時、たまたま手にしたビジネス誌で、東京の若い弁護士さん達が経営している事務所(ベリーベスト法律事務所)が「月額3980円(消費税込み)の顧問契約を導入した」として、大きく取り上げられていたのを目にしました。

私自身、以前から「実際のご利用があまり多くはない企業から月額で数万円の顧問料をいただくのは、弁護士の不労所得に等しく合理的ではないし、そのような契約は長続きしない。ただ、来所相談をする必要は滅多になくとも簡易な相談を気軽にできる顧問弁護士は欲しいというニーズはあるはずで、それに対応するサービスを提供できないだろうか」との思いがあり、当方も導入すべきと考えました。

以上の経緯で、従前から設定していた顧問契約とは別に「月額3000円+受任時の1割引」というプランを新設した次第です。

ネットでざっと調べた限りでは、平成23年当時、ベリーベスト法律事務所の「3980円」よりも低い単価で顧問契約を謳っている事務所はなく、当時「日本で一番安い値段で顧問契約を引き受ける弁護士」だったかもしれません(その後は調べていません)。

2 新コースの目的

新コースの主たる目的は、サイトに表示したように、たまには弁護士に電話やメールで聞きたいことがあるという方が、従前よりも安価な値段(顧問料)で気軽に問い合わせ等ができるようにしたいとのニーズにお応えする点にあります。

また、簡易なやりとりであっても、法的なアドバイスを通じて、本格的な弁護士の出番を要しない形で紛争を予防したり交渉相手からのアドバンテージの獲得につなげていただいたり、中には、ご自身が気づいていない問題を指摘し、すぐに本格的な事件として動き出すべきだ、とお伝えすべきこともあると思います。

早期のご相談→合理的タイミングでの事件依頼→手遅れの防止というサイクルで考えていますので、来所相談の必要がある場合に支障なくご来所いただける方(岩手の方や盛岡へのアクセスに難がない隣県などの方)を顧客層として想定しており、基本的に「全国展開」するようなサービスではないと考えています。

また、過去の経験等から「町弁の採算に関するデッドライン(基準単価)は時給2万円」と考えており、月額3000円(年額3万6000円)という価格は「年間2時間弱(月に平均1回、1回あたり電話・メール等で10分程度)のご利用」に相当すると位置づけています。そのため、それ以上のご利用が多く生じる場合、原則として追加料金をお願いするか他の契約類型への切替をお勧めすることになると思います。

この程度のご利用なら、普段なかなか弁護士に相談することはないという中小・零細企業や個人の方でも一定の実需はあるのではないかと考えての設定です。

3 伝統的な顧問契約との異同など

伝統的な顧問契約の相場よりも遥かに低い値段ですが、従前の顧問契約の価格破壊を目的とするものではありません。むしろ、来所相談等は割引とはいえ有料とさせていただきますので、「顧問先の相談は無料」という契約類型とは、異種のものと言えます(従来型の顧問契約もタイムチャージと組み合わせる方式でお引き受けしています)。

敢えて言えば、「毎月、数万円を払って顧問契約をしているが、さして利用がなく、契約に疑問を抱いている企業」にとっては、いざというときに弁護士への迅速なアクセスを確保するため顧問契約だけはしておきたいとのニーズをリーズナブルなコストで確保しうる点で、価格破壊的要素はあるかもしれません。

ただ、それは、従前の顧問契約(弁護士)に、実働を伴わない顧問により不労所得を得ている面があったこと自体が間違っているというだけのことであり、「あるべき価格を不当にダンピングする」という意味での安値競争とは異なるものです。

もとより、顧問契約を締結している多くの弁護士が不労所得を貪っているというわけではありません。ネット上で検索いただければすぐにお分かりのとおり、伝統的に、一般的な弁護士の顧問契約が「月数万円の顧問料を支払えば相談等の時間は原則として無制限」となっているため、相当量のご利用があれば元が取れるようになっており、そうした利用をされている方も沢山おられると思います。

しかし、この仕組みだと、盛んに利用(相談等)をした方とそうでない方とで実質的に大きな不公平が生じてしまいます。さりとて、伝統的にドンブリ勘定体質を持つ弁護士業界で「利用実績のない顧問先には顧問料を返金」などといった手法が普及するとも思えません。

毎月、帳簿類の精査という明確な実働が伴う税理士さんと異なり、弁護士の顧問業務は相談等の実需がないと機能しにくい面があることは否定できません。そのため、利用の有無に関係なく頂戴する顧問料の部分はなるべく減額し、それと共に、多くのご利用のある顧問先には顧問契約をせずに利用される依頼者よりもメリットがある(割引サービス)という形で顧問契約を再構成していくのが、これからの顧問弁護士に関する望ましい姿ではないかと考えます。

「定期的に顧問先企業を訪問して相談等を行う」など、顧問税理士のように定期的な実働を伴うケースなら、低額の顧問契約を導入しなくとも、実働に応じた相当の顧問料を定めればよいと思います。しかし、法務部門が各部門のリーガルリスク等を定期的にチェックし顧問弁護士に定期的に相談する仕組みを作りやすい大企業ならともかく、現在の我が国の中小・零細企業にはそうした実需は滅多にない(掘り起こしも難しい)という印象です。

また、Aコースのような顧問契約については、学校の同級生など個人的に親しい関係の弁護士がいるという方なら「ちょっとした相談程度なら、その弁護士に電話等でサクッと聞けばいいから敢えて顧問契約なんてする必要はない」ことになるかもしれません。

ただ、そうした人脈を持たない方や、あったとしても一種のフリーライダーになりたくないという方にとっては、簡易な相談を遠慮なく受け付けること自体を目的とした低額の顧問契約は相応に利用価値があると思われます。

私自身、今は概ね(至って?)健康のため必要はないものの、いずれ病気がちになった場合は、町医者の方に低料金で自分の身体に関する些細なことについて遠慮なく電話・メールで相談できる顧問契約のようなものがあればと思わないではありません。

個人的に、仕事上お世話になっている医師の先生や遠方の病院で活躍している高校の親友もいないわけではありませんが、逆に、おいそれとは相談できず、よほどの事情がなければと腰が引けてしまう面があり、料金のやりとりをするビジネスライク?な関わりの方が、案外、料金などの範囲内で遠慮無く物事を聞きやすいような気もします。

4 料金

月額3000円の設定の根拠は、3980円(消費税込み)のベリーベスト法律事務所(の方々)に比べ、経験年数では上回るものの規模では遥かに見劣りすることから、同事務所より若干低めの値段としたものです。

また、あまりに低くするのもどうかと思いましたので「今どきの顧問弁護士=高額なランチ一食分」と考え、「高級食材を扱うが、リーズナブルな価格で提供しているレストランで、ランチを月1回利用すればディナーが1割引になる」イメージで考えてみました。

ちなみに「無料」というのは、他の顧客等へのしわ寄せを不可避とするものですので、震災のように臨時的な場面以外は多用すべきでないと思っています。そうした理由で、私は巷で流行する「債務整理等の無料相談」はしていませんが、反面、直ちにお引き受けする場合などは相談料は頂戴しない(又は、相談料分を定額料金から差し引く)などの方法でバランスをとっています。

昔、ある大物弁護士の方が「社長さんに顧問弁護士(月5万円)を勧める際は、社長さんが月1回、高級料亭かクラブで飲食するのを控えれば済む値段ですよ、それで会社が守れるのだから、安いものではありませんかと説明している」と仰っている文章を読んだことがあります。

しかし、このご時世や現在の私の身分では、高級料亭やクラブに入り浸るような社長さんと接点を持つことは到底期待できません(イソ弁時代は少々お会いする機会もありましたが、今となっては昔のことです)。

他方「頑張った自分へのご褒美で、月に1回くらいは贅沢なランチを食べたい」という方なら、幾らでも知り合う機会はありそうですし、コストパフォーマンスを真剣に考えて選んでいただく方が、実りあるお付き合いになるのではないかという期待もあります。

月3000円という価格も実需のない方には十分に高額ですので(少なくとも私のような一般人から見れば)、「顧問弁護士」という一種のブランド価値をダンピングしているということも言えないでしょう。

5 見通し

ただ、「このコースが対象として想定している潜在顧客層」が、このような金額・コンセプトでの顧問契約に対する実需(利用価値があるとの理解を含め)がなければ、実際に申込みを受けることもないでしょう。

私自身は、弁護士が希少種である時代には「顧問弁護士」は金持ち企業のステイタスのようなものだったが、その時代は終わった。タイムチャージ等と組み合わせたリーズナブルな料金での契約が新しい時代に求められる町弁の顧問契約ではないか、と考えているのですが、皆さんのご意見をお尋ねしてみたいところです。

事務所サイトで小さく表示するだけの扱いですので、導入から2年半を経過した平成26年2月現在も、実際に申込を頂戴した企業様はごく数件に留まっています(もちろん、お申し込みいただいた皆様には大変有り難く思っています)

(追記・令和2年改定時には、幸い従前よりはかなり増えています。それでも十数社ですので、他の先生方に及ぶべくもありませんが・・)。

私自身が華やかな宣伝に向いている人間ではありませんので、サイトをご覧いただく方を別とすれば、個人的に聞かれた際「ウチではこういうこともやっています」とご説明する程度のことしかできないのだろうと思います。

まだ、このような顧問契約の新しいプラン(類型)を作ったことが成功と言えるのかそうでないのか、結論が出ていませんが、こうした試みが社会に受け入れていくのか否か、しばらくは様子を見てみたいと思います。

刑事弁護とタイムチャージ

近年、私選で刑事事件を受任させていただく機会が増えています。被疑者国選の導入により、そのような機会が減少するかとも思ったのですが、被疑者国選を利用できない50万円以上の預貯金のある方や、ご本人が対象となる場合でも、ご家族からご依頼いただき受任しています。

私は、数年前から、私選の刑事事件は、原則として1時間2万円(税別)を基準額とするタイムチャージを基本とする方式(準時間報酬制)で受任する取扱とさせていただいています。ちなみに、この単価は交通事故の弁護士費用保険(日弁連LACの少額事件基準)と同じ額で、一般的な町弁にとっては、「儲からないが事務所の経費くらいは賄える程度の額」です。

米国などと異なり我が国の町弁業界ではタイムチャージは普及していないため、恐らく地方では非常に珍しく、タイムチャージで刑事事件を扱う弁護士は、もしかすると岩手では唯一なのかもしれません。

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過去の経験からすれば、とりわけ、捜査段階で決着できる(起訴されずに済む)事件では、濃密な対応が必要とされる特殊事例を別とすれば、10~30万円(5~15時間の従事)の範囲で収まることがほとんどです。頻繁に接見したり関係各所への連絡など様々な対応が要求される事件を別とすれば、国選事件と大差ない金額に止まることも珍しくありません。

実際、被疑者国選も、1回の接見に対し、1~2万円程度の報酬を算定しているようです。但し、遠方の警察署への移動時間や関係者への連絡、裁判所や検察庁への申立、申入れなど接見以外の作業については原則として報酬がありませんので、その種の作業が多い事件では、赤字リスクが高くなります。

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刑事事件は、民事訴訟で賠償や金銭等の請求をするような「特定の経済的利益の実現」を目的とするものではなく、犯罪の成否(有罪か無罪か)を巡って厳しく対立するタイプの事件も滅多にありませんので、成功報酬というものに馴染みにくい面があります。

また、刑事事件では、事件ごとで必要な作業のばらつきも大きく、「働いた分だけ報酬をいただく」というのに馴染みやすい面があると思っています。

少なくとも、弁護士が大したことをしなくとも、検察庁の取扱基準の問題として公判請求を免れる場合は珍しくありません。そのような場合に、実務の実情に詳しくない依頼主に、あたかも自分の功であるかのように吹聴して高額な成功報酬なるものを請求する弁護士がいれば、それは詐欺とか消費者被害とか言うべきものだと思います。

もちろん、弁護人の努力で一定の成果が生じた場合には、成果報酬的要素が加味されてよいとは思いますし、高度な知見を必要とする特殊な弁護活動をして相応の成果を挙げたり、献身的な努力で早期釈放を実現するなどした場合には、相当の加算がなされるべきと思います。ただ、その場合でも、時間給換算で極端な高給になるのは疑問ですが。

聞くところでは、米国では、刑事弁護(私選)はタイムチャージとするのが通例であり、また、(上記のような成功報酬に馴染む事件を別とすれば)弁護人が成功報酬の名目で高額な金員を請求するのは間違っているという考えが強いのだそうです。

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幾つかの事務所(とりわけ「刑事専門」を謳うものなど)のサイトでは、1件あたり一律に数十万円の報酬を掲げるものが少なくありません。

もちろん、無罪を獲得するため膨大な弁護活動に明け暮れるような事件では、そのような金額で問題ない(やむを得ない)と思います。タイムチャージでも、まさにそのようなタイプの事件では、原則として、相当に高額な報酬をご負担いただく点は変わりありません。

しかし、「事実を争っておらず、大がかりな被害弁償等も要せず、接見やご家族等との連絡調整の頻度も高くないため、全部で10時間に満たない仕事しかしない」程度の事件でも、何十万円もの報酬を当事者に負担させているのであれば、同業者の目で見ても暴利と感じます。

上記のようなケースでも、何か問題が生じたときにきちんと動いて貰えるよう、念のため私選弁護人を選任しておきたいとの申出を受けることはあり、その場合、危惧された事態が生じず限られた従事時間で終了した場合には、それに相応しい低額の報酬に止めるべきだと思います。

タイムチャージでなく、弁護士の裁量で決めている方々も、その点はわきまえを持って対応されているのではないかと思いますが、少なくとも時間簿を作成しておけば、算定に変に頭を悩ませることもなく、依頼主にも安心して説明できる面があると思います。

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もちろん、刑事事件に限らず、「依頼主のご予算に限りがあるものの、事件の性質上、正しい解決を得るため無理をしてでも弁護士が奮起して励まなければならないケース」は多々あります。

そのような場合には、(一部の弁護士或いは事案等を別とすれば)弁護士が、上限を超えた部分の請求は差し控えるという形で、経済的には泣きを見ざるを得ないことが珍しくなく、その点は、タイムチャージ形式でも代わりありません。

だからこそ、短時間で相当な経済的成果など適正な利益を依頼主にもたらした場合には、少なくともタイムチャージ単価を控え目な額に設定しているのであれば、相応の成果加算がされるべきだと思いますし、それは、結局は、依頼主との信頼関係を前提とした弁護士の裁量判断を尊重していただかざるを得ない面があります。

結局、タイムチャージ(を基本とする準時間報酬制)という試みは、これまでドンブリ勘定で行っていた報酬算定に関する作業を、より合理的、客観的にしようとする様々な営みの一つという位置づけになるのだと思います。

少なくとも、「1回の手術と1週間の入院で済んだ人」と「半年以上の入院をして何度も難しい手術を受けた人」が、「手術を要した」というだけの理由で同一の金額を請求されるというのであれば、それは明らかに違和感があり、前者に過大な請求をして、後者の赤字を補填しようとしているのではという疑念を禁じ得ません。

弁護士業界における費用の算定は、これまでそのような傾向がなきにしもあらずで、弁護士費用を巡る価値観の違いなどの問題もあって、それを完全に克服することは困難だとは思います。

タイムチャージに限らず、費用に関する議論をもっとオープンにすることで、合理的な費用のあり方について、理解や実践が深まっていけばと思っています。