北奥法律事務所

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弁護士費用保険と弁護士業界の近未来

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~完結編

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第6回です。第5回の文章が長くなりすぎたので2つに分けましたが、今回は「あとがき」のような内容です。

10 現代を生きる法律実務家、そして利用者の夢と革命

ここまで述べてきたことについて、最も難点として感じる点を申せば、一連の話は、カネを中心とした事柄なので、人々(特に、若手弁護士を中心に今後、相当数発生し固定化するであろう低所得者層)を熱狂させるような夢がないように感じます。

やはり、社会が大きく変化したり、その変化をもたらすために我が身を捨てて死力を尽くす人が次々に登場するためには、金銭的・実利的な話だけではダメで、現状に不満を持つ人のツボに訴えかけると共に、その不満を正義の旗のもとに一挙に解消してくれるかのような話(大義名分)が伴わないと、人は動かないのだと思います。

この点は、以前にも少し書きましたが、幕末(維新回天)との比較で言えば、尊皇攘夷・倒幕思想のような「夢」(体制変革を正当化する物語)が欲しいということに尽きるでしょう。
→ 司法革命の前夜?

仮に、今回の話を幕末になぞらると、弁護士費用保険の普及・進化によって損保大手が法的サービス業界で強い存在感、影響力を持つようになれば、いわば、雄藩(薩長)として、経済面で「志士」(司法サービスのあり方の変革に取り組む弁護士)を支える役割を持ちうることになります。

他方で、カネだけで体制が動くはずもなく、体制自体を揺るがす事態(異国の脅威)はもちろん、志士に魂を吹き込む吉田松陰のような人物ないし思想が登場しないと、革命(体制転覆)が生じることはありません。

この点、弁護士大増員政策により、二割司法から八割司法の社会へと転換する可能性が高まっていますが、そのような転換を前提に、弁護士業界ないし司法制度のあり方に抜本的な変革を起こす原動力となる「思想」が何であるか、言い換えれば、日弁連(既存の弁護士制度)が実現できていない・できそうにない「八割司法を支える、現代の法律実務家の夢」とは、どのようなものであるのか、私もまだ分かりません。

ただ、「需給双方が満足できる低コストで適切なリーガルサービスを全国に普及させること」を、現代の法律家が実現すべき「夢」と捉えるのであれば、保険がその有力な手段になることは間違いないはずです。

そして、そのような普及云々の仕組みができる上では、どちらかと言えば、日弁連よりも保険業界側(及びそれと提携して上記のスキームを作り上げることができる弁護士)の方に、より大きな役割・存在感を発揮しうる潜在的な可能性が高いように思われます。

さらに言えば、そのこと(多くの紛争や社会的問題が司法システムを介して法的理念に基づき解決されること、解決されるべきとの国民的認識や主体的な実践が広く生じること)を通じて、本当の意味では今も我が国に実現しているとは言い難い、「日本国憲法の基本的な価値観を体現した、人権(個人の尊厳)と民主政治(人民の社会に対する意思決定の権限と責任)が調和する社会」を創出できるのであれば、それは、多くの人を惹きつける「夢」と言えるのかもしれません。

或いは、「政治家・元榮太一郎氏」は、次のステップとして、そのような潮流を主導することに野心ないし理想を抱いているのかもしれません(少なくとも、そのような方向に野心ないし理想を向けている「名のある弁護士」を、私は他に存じません。敢えて言えば、増員派の巨頭というべき久保利英明先生らも、法科大学院の粗製濫造ではなく、弁護士費用保険の推進にこそ力を注いでいただければ良かったのではと残念に感じます)。

また、上記のような流れが出来てきた場合に、現在のような「一人事務所=零細事業主が中心の弁護士業界」が存続できるのか、私のように昔ながらのスタイル(零細事業主)で仕事をしている身にとっては、不安を感じずにはいられません。

ただ、「弁護士の自治・自由」という制度ないし文化を個々の担い手が死守しようとするのであれば、零細事業主というスタイルが一番合っているとも言えるわけで、その限りでは、企業弁護士中心の弁護士業界という流れは考えにくいと思います。その意味で、「独立性の高い自立した専門職企業人について、かつてない新たな生き方が芽生えている業界」があれば、参考になるのかもしれません。

また、弁護士費用保険の普及に先だって、医療保険制度の運用に関し、医療従事者と保険制度の運営者(国家機関など)との力関係や依存度等の実情がどのようになっているか、弁護士業界は、改めて調べるべきではないかとも思われます。

生命保険については、ここ数年、ライフネット生命(ネット生保)のように業界の革新を感じさせる話題もありましたが、損保業界では、そうした話を聞くことがあまりないように思います。保険制度を通じて弁護士業界を手中に収めてやろうなどという野心、或いは、業界内部で実現できていない「需給双方が満足できる低コストで適切なリーガルサービスを保険の力で全国に普及させたい」という高い理想をもって取り組む事業家が出現しても良いのではと、他人事ながら?思わないでもありません。

それこそ、ハードボイルド小説家弁護士こと法坂一広先生に、上記の事柄もネタにした業界近未来小説でも作っていただければ、サイボーグ・フランキーとセニョールも喜ぶことでしょう。

ともあれ、私のような、事務所の運転資金に汲々とする毎日のしがない田舎の町弁が、このような大きな話に関わることはあり得ないのでしょうから、さしあたっては、弁護士費用保険の制度維持の観点も含めて真っ当な業務に努めると共に、お世話になっている損保企業さんから取引停止される憂き目に遭わないよう、適正な仕事を誠心誠意、続けていきたいと思っています。

大変な長文になりましたが、最後までご覧いただいた方に御礼申し上げます。

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編③

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第5回です。全5回の予定でしたが、今回の文章(いわば本題部分)が長くなりすぎたので、あと1回(明日)で完結とさせていただきます。

9 損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日

ここまで、弁護士費用保険が普及すれば、顧客への品質保証などの観点から保険会社と町弁側を繋ぐ役割を担う企業が、業界内で大きな機能を果たし、影響力を増していくのではないか、それに伴って、弁護士業界も大きく変容していくのではないか、という趣旨のことを述べてきました。

自動車保険契約に関して弁護士費用特約が広く普及し、恐らく、特約を利用しない方が少数派と言ってよい状況になってきた現在、損保会社としては、単に、弁護士費用保険を事業(収支)として成り立たせるというだけでなく、この保険(を通じて弁護士が広く利用される現象が生じること)が、社会にどのような影響を及ぼしうるか、そして、そのことに、保険会社がどのような役割(アドバンテージ)を果たしうるかということを、研究しているのではないかと思います。

そもそも、弁護士費用保険が一般化することで、保険商品を開発、提供する企業(保険会社)は、契約者(依頼者)との関係では、法的サービスを供給する窓口としての役割を果たし、受任者(保険の利用に基づき保険会社から受任費用の支払を受ける弁護士)との関係では、仕事の実質的な供給者としての役割を果たすことになります。これが進化ないし深化していけば、保険会社は、法的サービスの需要と供給の双方をコントロールできる立場、いわば、サービスの上流と下流の人とカネの流れを制する立場になりうると評しても過言ではありません。

その点で、損保大手の本社担当者などは、弁護士費用保険の適用事案を大量に収集して分析したり、顧問弁護士や学者などとの共同研究を通じて、弁護士費用保険の普及により社会内に生じる影響や、そのことを見越した次の一手について、既に研究を始めているのではないかと推測せずにはいられません(私が社長であれば、そうした研究の指令を出したいところです)。

とりわけ、損保大手各社は、自動車事故の賠償問題を通じて、自社(加害者)側代理人の全国規模の広範なネットワークを有することはもちろん、相手方(被害者側代理人)についても、その気になれば十分な規模のデータを収集することができる立場にあり(恐らく、現在のプリベント社は言うに及ばず、生保各社も、そのようなインフラは持っていないと思います)、それを生かした形での弁護士費用保険の戦略的活用という発想を持つことは、至極自然なことのように思えます。

また、町弁の立場からすれば、報酬水準が抑えられている(また、各種書面の提出や審査などの使い勝手の悪さもある)法テラスより、(そのような制約が少ないとの前提で)弁護士費用保険が普及する方を期待するのではないかと思います。

もちろん、だからといって、弁護士も保険会社(損保業界)も、互いに依存、干渉の関係が深まるのを避けようとするとは思いますが、「弁護士費用保険が、町弁にとっての主要な受任ルート」という文化が形成された場合、保険会社(損保各社)と町弁(業界)の関係は、いわば「財務省と各省庁」とでも言うべき状態になりますので、顧客やカネの供給を通じて弁護士側に対し様々なコントロールを行うことができる立場になることは、確かなのだろうと思います。

そのような意味で、保険会社が町弁に対する仕事・カネなどの供給に関する基幹部分を担うことになった場合、日弁連そのものということはないせよ、それまで弁護士会が担っていた役割の一部(仕事等の供給機能、ひいては、その適正の確保のための監督機能なども?)を実質的に担うことになるとの展開は、十分にありうることと言わなければならないと思います。

また、保険業界にはそのような役割は無理又は不適切ということで、上記のように、弁護士の品質確保機能を担う別のアクターが登場したり、或いは、保険業界の上から行政が監督機能の出番を虎視眈々と、ということも、十分ありうることでしょう。

いずれにせよ、弁護士費用保険の広範な普及は、弁護士にとっての「カネ」のコントロールを保険会社(保険制度の設営者)が広く担うことになり、必然的に、個々の弁護士が、誰の顔を(どちらの方を)向いて仕事をするのかという点に大きな影響を生じさせることは、否定し難いと思います。

このような展開(可能性)を見据えると、単なる費用填補に止まらない内容(品質保証=斡旋等の機能)を備えた弁護士費用保険(保険商品)の販売を保険会社の側から大々的に行うというのは、弁護士会(業界側)から無用の不信、警戒心を招きますので、行うとすれば、一定数の規模を備えた事務所ないし弁護士グループが損保と提携するという流れをとるのかもしれません。少なくとも、そのような形を取るのであれば、日弁連等の側から阻止するのは困難と思われます(さらに言えば、ただでさえまとまり(統制力)のない業界だけに、「抜け駆け」が生じることで雪崩を打ってという展開も期待できるでしょう)。

この場合、現実的には、すでに損保各社と長年に亘り顧問等の関係を築き上げている全国各地の法律事務所(大物、中堅弁護士さん達)が提携先となるのでは(その形なら、既に相当に出来ているのでは)とも思います。

ただ、この形だと、各法律事務所間には横の繋がりはあまり(又はほとんど)ないと思いますし、それ以上に、その事務所同士が損保側の主導で経営統合などをするというのはまず考えにくいと思います(小規模な合併等ならありそうですが)。また、それらの事務所(先生方)は、業界環境の激変を好まない方のほうが圧倒的でしょうし、利用者サイドから見ても、「顧客が、地域内(時に地域外)の弁護士から自分が頼みたい人を広く選ぶことができるようにする」という弁護士費用保険(弁護士依頼保険)の理想型にはほど遠い展開になるため、面白みを欠くというか、それがゴールではないのではという感じがします。

この点に関し、いわゆる過払大手と呼ばれる事務所が、現在、交通事故業務にシフトしているものの、費用請求の適正を巡って損保会社と多くの紛争が生じているとの話を聞くことがありますが、場合によっては、このような紛争を経て、むしろ、過払大手が損保側の意向に沿う形で損保との結びつきを強めようとする展開もありうるのではと思います。

例えば、過払大手が経営難に陥ることがあれば、創業者を排除するなどして、損保会社や銀行等の主導で、損保側のコントロールが利き易い弁護士ないし法律事務所による救済・吸収合併のような措置を講じることも、あり得るかも知れません(それは、あたかも一代で巨大企業を築き上げた創業者が退場し、メインバンクが再生コンサルなどと組んで経営権を取得するような展開に似ています)。

もちろん、前回までに詳述したように、個々の法律事務所よりも、弁護士ドットコムのような、「弁護士の斡旋事業を営む(営みたい)企業」こそ、現在の弁護士費用保険に欠けている「品質保証機能」、さらには将来には価格コントロール(相場形成)機能なども含めて担う存在として、保険会社との結びつきを強めたがっているのではと感じます。

そして、損保会社としても、それなりに一世を風靡し社会的信用が認められている弁護士ドットコムであれば、提携相手として遜色ないと判断するのではないかと思いますし(経営者の方が国会議員となった場合の影響などは、私には分かりかねますが)、そうしたニーズを見越して、相当数の事業者の参入など新たな展開がありうるのではないかと思います。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編②

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第4回です。

弁護士費用保険が普及すれば、弁護士業界が大きく変容していくのではないかという趣旨のことを述べた投稿の4回目です。今回は「顧客への品質保証などの観点から、保険会社と町弁側を繋ぐ役割を担う企業が業界内で大きな機能を果たし、影響力を増していくのではないか」というテーマについて書きました。

6 弁護士の斡旋(マッチング)サービスと医療界との比較

前回は、「弁護士費用保険の利用者は、弁護士のコストの無料・低廉化を求めるだけでなく、依頼のニーズに適合する弁護士の斡旋等の機能も、保険商品が果たすことを期待しているのではないか。そして、そのニーズに応えるため、町弁に関する幅広い情報提供や斡旋サービスを行う企業が、存在感を高めていくのではないか」という趣旨のことを書きました。

ところで、医療の世界に関しては、日本は国民皆保険制度になっていますので、私も含め、多くの方が、医療に関する公的保険の費用(税ないし保険料)を負担していますが、他方で、私が知る限り、少なくとも公的な医療保険には、ここまで述べてきた「自分の症状に対する適切な診断、治療を行ってくれるお医者さんの紹介」を担うようなサービスは無いのではと思います(いわゆる医療保険にはそのようなサービスがあるのか、勉強不足のため存じません)。

私自身、自分に一定の症状が生じた場合に、そもそも何科に行けばいいのかすら分からないことが多いので、そうしたサービスがあればと感じるところはあります。

反面、そのようなサービスが発生ないし普及しないのは、少なからぬ方が、まずは地元の診療所を利用し、それで対処し切れないと診断された場合には、地元の大学病院を紹介され、それでも対処し切れない(特別な対応が必要・相当だ)と診断された場合には、支払能力があることを前提に?国内の限られた一部の医療機関を紹介され、そのサービスを受けるという仕組みが、割と出来上がっている(その過程で医師から受ける診断やアドバイス等を信頼する文化がある)からなのかもしれません。

そのような観点からは、何らかの法的問題を感じた方が、「かかりつけ医」ならぬ「かかりつけ弁護士=最寄りの(かつ、自分と相性がよい)町弁」に相談し、その町弁では対処しきれない問題は、地元の大事務所や特殊な技能を持った弁護士さんに、という文化が存在すれば良いのではという観点もあるかもしれません。

ただ、弁護士業界に関しては、「大事務所」化している(それが機能している)のは、特定分野への専門特化が強く要求されている企業法務の世界が中心で、町弁の世界では、ある程度の人数がいると言っても、普通の町弁の寄せ集め(集合体)に過ぎないケースも多々ある(言い換えれば、お医者さんの世界に比べて、地元の小規模事務所で十分対処できる業務の方が、遥かに多い)ように思います。そのため、「大病院と町医者」という役割分担のシステムが適合しにくい業界であり、上記のような「町弁Aから専門弁護士Bへの紹介」という紹介システムが機能しにくい面が強いと思います。

また、医療の場合、国民皆保険なので、かえって医師の格付けや斡旋などの仕組みが作れない(横並び的性格が強まりやすい)のではという面もあるのではと思います(もし、保険廃止=自費負担が原則となれば、皆保険社会に比べて、医師間の競争が熾烈なものになりやすいのではと思います)。

この点は、米国の医療保険制度(における医師の斡旋等の仕組みの有無など)を、弁護士費用保険との比較などの観点から研究していただける方がおられればと思わないでもありません。

7 弁護士紹介・選別・格付け業者の台頭と斡旋報酬規制の撤廃?

これに対し、一定のサービスを付して保険商品として販売する方式であれば、競争原理が働き、「我が社の保険は良質な弁護士の斡旋サービスも伴っているので、他社商品より優れている」などと消費者に売り込む(かつ、その体制づくりをする)保険会社も、やがては登場するかもしれません。

ただ、前回述べたとおり、その斡旋機能を保険会社自身が適切に果たしうるか(果たすだけのシステムを作れるか、その意欲があるか)という点には疑問があり、弁護士の斡旋ができる(前提として、利用者のニーズを把握する質の高い相談機能と、そのニーズに合うだけの弁護士を紹介・マッチングできるだけの、業界・業界人への知見や人的ネットワーク等の機能を備えた)企業が、社会的なニーズとして求められてくるのではないかと思います。

そして、私の知る限り、現時点で、そのポジションに最も近い位置にある(かつ、他の追随を許していないと評しても過言でない)のは、「弁護士ドットコム」だと言ってよいのではと思います。

ただ、現時点で弁護士ドットコムが果たしている役割は、せいぜい弁護士の紹介機能(無料相談サイトによる能力紹介ないしマッチング的な機能を含め)に止まり、上記のような意味での斡旋機能を果たしているとは思われません。

また、弁護士ドットコムという企業が、ここまで述べてきたような「顧客のニーズに適った弁護士を紹介できる適正な斡旋」を果たしうる企業と言えるのかという点も、(同社の実情を把握しているわけではありませんが)現在の弁護士ドットコムのサイト情報など、公開されている情報を見る限り、まだまだ未知数だと思います。

このような機能・役割を果たすには、町弁が従事する基本的な諸業務及び基礎となる法制度などに通暁することを要すると共に、長年に亘り、弁護士業界(又はその周縁)に身を置いて、多くの弁護士の仕事ぶりや建前と本音、業界の理想と現実を見て、体系的に業界情報を収集、整理している方でないと、到底担えるものではありませんから、元榮氏が創業した新興企業というべき弁護士ドットコムが、現時点でそれだけの知見、ノウハウを企業として有しているか(短期間で備えうるかも含め)、懐疑的と言わざるを得ません。

敢えて言えば、現在、弁護士ドットコムが、一般向けのQ&Aなどの事業を盛んに行っている点は、それに参画している弁護士の情報を整理することで、ツールの一部として活用することができるのだろうとは思いますが、もちろんそれだけで足りるような話でもないでしょう(元榮氏が弁護士ドットコムの創業について記したご著書をまだ拝見していませんが、このような観点から読んでみれば、色々と分かることがあるのかもしれません)。

さらに言えば、そもそも、本格的に(業として)弁護士の斡旋を行おうとすれば、現行の弁護士法72条に明らかに違反しますので、そのような業務を営むこと自体が不可能です。そのため、現在、事実上の弁護士紹介(斡旋)サービスを行っている事業者は、基本的に、利用者ではなく弁護士から、広告料という形で、その対価を徴収するに止まり、個々の相談・委任希望者と個々の弁護士とのマッチングには従事していないはずです。

ただ、その結果として、「紹介するに相応しい弁護士」よりも、「仕事が欲しい弁護士」の方が、そのようなサービスを多く利用しているため、時には、我々(同業者)に言わせれば誇大広告ではないかと感じるような文言を掲げて宣伝しているのを見かけるという、「逆説的な供給サイドの都合優先じみた光景」が生じていると、言えないこともありません。

とりわけ、それら「宣伝熱心系」の弁護士(事務所)の中には、顧客に過大な報酬を請求・取得し、それを広告費用の原資にしているのではないかなどと業界内で白眼視されているものもありますので、なおのこと、弁護士の広告(一般向けの情報提供)のあり方を巡っては、現在の風潮のままでよいのかという印象を拭えません。

この点、元榮氏が次回の参院選に出馬されるとのことで、そのことと直ちに結びつくかどうか分かりませんが、将来的には、弁護士法72条のうち弁護士紹介業を禁止している部分は、現在の社会では合理性のない規制だとして規制緩和等の運動が起き、撤廃ないし修正をされる可能性が相当に出てきているのではないかと感じます。

すなわち、かつての「二割司法」の時代は、(当時の司法の状況なども踏まえ、弁護士であれば、誰に頼んでも、概ね問題ないサービスが受けられるという認識のもと)弁護士のサービスを利用できる層ないし事件が限られていたため、「弁護士を紹介・斡旋できること」自体に財産的価値が生じやすいという面があり、そのことで、「弁護士の支援を必要とする社会的弱者」から不当な暴利を貪る輩が存在したことから、それを禁圧する趣旨で、有料斡旋禁止の必要性(を基礎付ける立法事実)があったと言うことができます。

これに対し、弁護士数の激増に加え、町弁業界ですら一昔前に比べて様々な約束事が増え、弁護士なら誰でもこなせるわけではない仕事が増えている「八割司法」の時代になると、「希少種を紹介する対価として不当に暴利を貪る輩」が生じる可能性が相対的に低くなり、むしろ、自分が依頼したい業務をこなせる弁護士が誰か(どこにいるのか)等を把握したいというニーズに応えるべしとの声の方が高まるのではないかと思います(もちろん、そのように言えるかという立法事実の問題も、慎重な調査、検討が必要と言うべきでしょうが)。

そして、その結果、一定の条件(営業方法規制や弁護士の経営関与及び弁護士会の監督など?)を付して、有料紹介業を解禁するという展開が、少なくとも近未来の可能性としては、相当程度、出てきているのではないかと思います。

8 法テラスとの比較について

ところで、ここまで専ら「弁護士費用保険が普及した場合に(或いは普及の前提として)、弁護士を選別(マッチング)するシステムを、顧客(契約者)や設営者(保険会社)が求めてくるのではないか」という観点で書いてきましたが、同じことが法テラスについては生じないのかという検討は、あってよいと思います。法テラスも、報酬基準や立替制などの違いはあれ、「依頼の際に費用を支払わなくとも弁護士に依頼できる(受注側も依頼者の支払リスクを回避できる)システム」という点では、弁護士費用保険と同じ機能を有するからです。

とりわけ、法テラスが資力要件を撤廃した場合には、弁護士への依頼業務の多くが法テラス経由となるのではないかと見る向きもあると思います。

ただ、法テラスは立替=結局は自己負担であることに代わりありませんし、受注側にとっても、(低額報酬に相応しい簡易事案はともかく)すべての事案で法テラスの報酬基準が貫徹されると、経営維持が困難として忌避する傾向は大きいでしょうから、利用者・受任者双方にとって難点を抱えた(メジャーな存在になりにくい)補完的な制度としての色合いは否めないと思います。

震災無料相談制度の恩恵に浴している被災県の弁護士としては、現在の「30分までの無料相談業務」に関しては、資力基準や法人排除を撤廃して良いのではと思いますが、受任事件に関しては、資力基準を撤廃してからといって、法テラス方式が当然に普及するわけではない(その点は、保険制度と大きく異なる)と感じます。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編①

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第3回です。

弁護士費用保険が普及すれば、弁護士業界が大きく変容していくのではないか(その上で、弁護士側も、それを必要とせざるを得ないのではないか)という趣旨のことを述べた投稿の3回目(ここからが本題部分)です。

4 弁護士費用保険の普及と「弁護士の品質確保と選別・監督機能」

ところで、現在の弁護士費用保険(前回に述べたとおり、私はプリベント社の保険の実情を存じませんので、損保各社が展開している自動車保険の特約を前提に述べます)は、基本的には、契約者(利用者)自身が依頼する弁護士の費用を保険契約の範囲で補填するという定めをしているに止まり、弁護士の斡旋等を当然に含んでいるわけではありません。

もちろん、多くの損保社では、それぞれの地域に、顧問ないし特約店である弁護士(加害者側でその損保社の保険給付の必要が生じた場合に、損保社が加害者代理人として対応を依頼する弁護士)を抱えていますので、契約者ご本人のご希望があれば(或いは、保険商品の販売代理店から相談があれば)、その弁護士を被害者代理人として紹介するという例が多いのではないかと思います。かくいう私も、仕事でお世話になっている損保会社さんがあります。

ただ、利用者の立場で「弁護士のサービスを受ける保険」を突き詰めれば、それ(費用補填)だけで十分というのではなく様々なニースがあることは、優に想像できることです。

なんと言っても、利用者としては、弁護士の費用負担を免れれば(保険が払ってくれるのなら)それでよいというものではなく、依頼する弁護士が、利用者(依頼者)の依頼の趣旨に合致する仕事を適切に行ってくれること=そのような弁護士を斡旋すること(品質保証)も含めて、その保険商品に機能して欲しいと希望していると思います。

もちろん、10年ないし数年前までは「依頼する弁護士の質」というのが問題とされることは、町弁業界では滅多に無かったと思います。弁護士費用保険の有無などもさることながら、弁護士の絶対数や情報流通などの問題から、顕在化しなかったという面があるのではと思われます。

これに対し、現在では、町弁の絶対数の増加に伴い、供給者側の問題(研鑽の度合いなどに関する一定のばらつき)はもちろん、利用者側も弁護士を選択、選別できる権利ないし利益があるという意識が高まっていることは確かだと思います。また、レアケースとはいえ、近時は不祥事などで突然死(事業停止)する弁護士も出現していますので、そうした理由で、依頼先の弁護士(法律事務所)の健全性に対する関心も生じていると思います。

言い換えれば、現在の弁護士費用保険制度は、「弁護士を原則として無料(保険料のみ)で利用できる」という低コスト利用の要請については概ね満たしていると思われますが、品質保証(保険を利用して依頼する弁護士が、対象となる業務を、実務水準や顧客の資質・個性などに照らし適正に遂行できること、ひいては、そのような弁護士を紹介・斡旋すること)という面では、十分に機能しているとは言えないと思います。

まして、保険を利用して依頼する個々の弁護士の業務に対する監視・監督や、上記の業務停止等によるトラブルの防止策(経営状況の監視・監督)や被害補填などという点では、およそ機能していないと言ってもよいのではないでしょうか。この点は、加害者側であれば、保険会社が自ら賠償金の支払をする関係で、方針の策定段階から全面的に保険会社が主導し、誤解を恐れずに言えば、弁護士は「損保の意向を忖度して行動する手足」として仕事をするに過ぎない(その意味で、依頼者から弁護士への業務監督機能が貫徹されている)ことや、継続的な委嘱等を通じて、委嘱先の弁護士への情報収集などが行われている(のでしょう)ことと、大きく異なっていると言えます。

また、利用者サイドの事情だけでなく、供給者(弁護士)側の状況も、かつてとは大きく異なっています。端的に言えば、事務所(弁護士としての自分)の存続のため、弁護士費用保険を利用した事件の受任を必要とする弁護士が、かつてなく増えていることは確かだと思います。

その上、町弁の仕事・研鑽は大半がOJTという性格が強いことから、町弁の多くが、弁護士費用保険を通じた事件受任に依存する面が強まれば、そのことは、研鑽等の機会も保険に依存する面が強くなるということになりますし、何らかの形で損保会社から業務上ひいては経営上の監視・監督を求められることも受け入れていかざるを得なくなるのではと思います(この点は、法テラスも同様ですが)。

要するに、弁護士費用保険の課題ないし未来像として、低コスト利用機能のほか、品質保証などの機能も果たすことが期待・要請され、これを果たそうとすれば、利用者サイドのニーズに応える形で、保険会社が町弁の業務への関与・干渉を深める方向に舵を切っていくことが予測されるということです。

5 弁護士の格付けや依頼者のニーズに即した斡旋を行う企業

ただ、弁護士費用保険を販売する損保各社が、近いうちにそうした機能を果たすことができるかと言われれば、少なくとも現時点ではそのような能力も意欲もない(今のところは、最近話題の不正・過大請求を抑止し、トータルで黒字事業を営むことができれば十分と考えている)と感じます。

一般論としても、損保各社が弁護士の各種能力や経営その他に関する詳細なデータを集めて、それをもとに保険契約者に弁護士を斡旋等するというのも、現実的ではないと思われます(ただ、保険利用にあたり会社の同意を求めるという約款を用いて、各社の地域拠点ごとに存在する顧問などの弁護士に事実上、集約させていくという手法を採用する会社は生じてくるかもしれません。その社は日弁連LACには加入しないのでしょうし、それがその損保会社にとって賢明な選択と言えるのかどうかまでは分かりませんが)。

そこで、保険会社に代わって、弁護士の各種能力に関する情報を収集、集積し、利用者のニーズ(簡易案件か困難案件かなどの判断も含む)や個性などに応じて、そのニーズに適合するような弁護士を抽出して紹介・マッチングするような、一種の「弁護士の格付け・斡旋企業」が求められてくるのではないかと考えます。

また、その企業が、不正・過大請求をするような弁護士を排除して良質な業務を低コストで提供する弁護士を中心に紹介等するのであれば、利用者サイドだけでなく、保険会社側にも必要・有益な存在として歓迎されるでしょうし(約款の定め方などにも影響しそうです)、そのような斡旋等のサービスが弁護士費用保険の対象外の事案でも利用できるのであれば、その役割(町弁業界におけるプレゼンス)は、著しく向上するのだろうと思います。

もちろん、そのような「格付け・斡旋企業」なるものが、一朝一夕にできるわけもなく、現時点では夢想の域を出ないかもしれませんが(法規制の問題もありますし)、仮に、我が国で、そのようなサービスが本格的に生じうるとすれば、現在のところ、元榮太一郎氏が率いる「弁護士ドットコム」が、その最右翼と言えるのではないかと思います。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~前置編②

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第2回です。今回も、前置き部分(業界の現状説明)なので、業界関係者は読み飛ばしていただいてよいと思います。

2 前置き②弁護士報酬を低額化することの困難さ

弁護士の年間供給数を巡って何年も議論が繰り返されていますが、「弁護士が増えても需要が増えない」と増員反対派の方が主張する根拠として一番強調しているのは、弁護士への委任費用が高額であり、それを負担できる方は限られているから、多少の紛争や相談ごとはあっても、弁護士に依頼しない形で処理・解決を図らざるを得ない方が多く(断念を含め)、社会(国民)の弁護士の利用頻度は、限られたものとならざるを得ない(「二割司法」は克服すべきだとしても、五割以上まで司法が社会生活上のプレゼンスを持つのは費用面で無理)という点ではないかと思います。

また、所得や資産が大きくない方は、法テラスの立替制度を利用でき、かつ、法テラスの報酬基準は弁護士会の報酬会規等よりも低いことが多いのですが、それでも少額とは言えない額ですし、毎月の返済が原則ですので、利用者自身の負担が小さいわけではありません。

他方、受任者側にとっては、多くの手間と労力を要する事案であれば、それに見合う費用なのかという問題に直面せざるを得ず、結局、法テラス案件は、低コスト経営ができている弁護士や、事務局に事務処理の多くを任せることができる事件(事案が単純で定型処理が可能なもの)、或いは低賃金で優秀な職員を擁する事務所などでない限り、他に収入源がないと、持続可能性に不安を感じる部分があることは確かです。

刑事に限らず(刑事以上に)多くの民事手続が「精密司法」(大雑把に言えば、ロクに勉強せずイージーな仕事をしていると、裁判所に色々と難癖を付けられて裁判手続を進めて貰えなかったり、相手方の争い方などにより論点が次々に増えて事務作業が嵩んでいく)という面があります。

もちろん、さほど手間を要しない仕事も無いわけではありませんが(典型は、争いのない競売手続などの特別代理人)、そうしたものは、遥か昔から低コスト(低報酬)化されています。

また、特需期の個人の債務整理のように、ある程度は定型化が可能な業務が一度に大量受注できる事態になれば、事務局を習熟させることで多くの業務を任せることができ、その結果、低コスト化を実現できます。

ただ、債務整理も「よく聞いてみると、意外な問題が潜んでいた」というケースも相応にありますので、それに適切に対応するのであれば(それが弁護士として当たり前ですが)、一人の弁護士が何人も事務員を採用し丸投げするなどということはあり得ず、価格破壊といっても限度があります(尤も、東京などではそうしたモンダイ弁護士も存在し(今も?)、仕事を丸投げして安易に高額報酬を貪っていたなどと言われています)。

ともあれ、上記の理由から、弁護士業務の多くが「短期決戦(お手軽勝利)が難しいオーダーメイド戦争(に従事する傭兵)」という性格を持たざるを得ないため、多大な手間を要する受任業務が中心となる現在の司法制度では、弁護士の受任費用を低額化させるには、かなりの困難が伴います。

3 弁護士費用保険による上記の諸問題の解決

このような事情から、現在、普及している交通事故(自動車保険の特約)に限らず、社会・家庭生活や企業活動の多くの場面・紛争で適用されるような弁護士費用保険が普及すれば、医療保険と同様、高額な費用を薄く広く負担いただくことで、利用者自身の負担軽減による受任者が了解可能な報酬額での利用促進(Win-Win)が可能になります。

これにより、激増した「零細事務所を経営(又は勤務)する町弁」達に「食える仕事」を供給できることはもちろん、利用者にとっても、費用負担からの解放はもちろん、依頼する弁護士に、赤字仕事を嫌々というのではなく、ペイする仕事をやり甲斐を持って引き受けて貰うことが可能になり、良質なリーガルサービスの享受という意味でも、メリットが生じることになります。

少なくとも、現在の交通事故実務では、少額事案(物損のみの過失割合紛争が典型)を、「(大企業向けの先生方には笑われる額かもしれませんが)町弁としてはペイする単価」のタイムチャージ形式で受任することが通例ないし普及しており、私自身を含め、多くの弁護士が、かつてのように「大赤字となる少額の報酬でため息をつきながら仕事をする」ということは、ほとんど無くなっているのではないかと思います(その一方で、高額事案の受任件数も「パイの奪い合い」的な形で減っているわけですが)。

反面、損保会社によれば、現在の弁護士費用保険を巡っては一部に不正請求の疑いがある例がある(大規模な事務所ぐるみで行う例もある?)とのことで、後述のとおり、解決策の構築が待たれると共に、業界のあり方に激変を加える要因になるのではと思っています。

ですので、現在のところあまり大きな声を聞くことがないのですが、弁護士費用保険の発展・普及を一番望んでいるのは、ベテランであれ新人であれ、こうした伝統的な町弁スタイルをとっている弁護士達ではないかと思いますし、そのことは、診療所をはじめ一般の医療機関(お医者さん達)が現在の医療保険制度を支持し、医師会の政治力?(もちろん国民の支持を含め)でこれを維持していることとパラレルではないかと思います。

なお、現在の自動車保険に関する弁護士費用特約は、非常に大雑把な作りになっており、また、利用者の自己負担がないなど、医療保険とは立て付けが大きくことなり、その弊害も様々な形で噴出しており、早晩、一定の変容を余儀なくされると思います。

この点=現在の交通事故の弁護士費用特約を巡る諸論点と改善策も、書きたいことは山ほどありますが、今回は省略します。少なくとも、事案の性質に応じ一定の自己負担が必要となる設計の保険でなければ普及しないでしょうし、その場合には、保険給付の程度(勝訴の見込みの程度など)を審査する能力を有する第三者(弁護士等)が必要になるのではと考えています。

また、数年前に、丸山議員(弁護士)が広告塔をなさっていることで有名な「交通事故以外にも広く適用される弁護士費用保険」が、プリベント社という会社さんから発売されています。

私はこの保険の契約者の方から事件受任をした経験がないので、詳細(保険商品として適切に設計されているかなど)を存じないのですが、少なくとも、交通事故以外の紛争(特に、事故被害をはじめ、自身の努力のみでは防ぎにくい被害の賠償問題など)の代理人費用を給付する保険については、同社に限らず、速やかに同種の保険を普及させていただければと思っています。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~前置編①

弁護士業界の近未来(業界が変容する姿の予測)に関し、少し前に投稿した2つの文章の延長線で、次のような光景を考えてみました。

要約すると、「現在の弁護士供給数でも町弁業界が健全性を維持できるようにするには、弁護士費用保険の普及が必要不可欠だが、その場合、費用拠出者である保険会社(ひいては監督官庁)が、弁護士の業務態勢や経営面などに広範に関与(監視・監督)することが不可避である。また、その点で保険会社を補佐する「弁護士業界に精通した組織」が必要になるところ、それは日弁連とは異なる存在が担うことになる(現在のところ、弁護士ドットコムがその最有力候補になる)のではないか」というのが論旨となります。

また、長くなってしまったので、計6回に分けました。業界状況をご存知の方は、第3回(本題編)からご覧いただければ十分でしょうから、適宜、読み飛ばして下さい。

1 前置き①町弁業界の大競争時代(と零落?)

約20年前まで、我が国の司法試験合格者の数は、年間500人に絞られていましたが、司法制度改革により、約10年前に1000人になり、数年前に2000人まで増えました。その中で裁判官・検察官となる(採用される)方は今も昔も年間150人(~200人弱)程度に絞られていますので、弁護士の年間供給数は、昔なら350人、今では1850人程度(昔の5倍以上)ということになります。

ただ、町弁業界の不況のため、(企業や役所などに就職する方はさておき)新人弁護士の一般的な路線=既存の弁護士の事務所(大半は零細企業規模)に就職することが困難である(新人全員を受け入れるだけの勤務弁護士≒従業員としての求人がない)ことなどから、新人の就職難やこれに伴う業界全体の混乱を回避する見地から、当面、1500人に減員することになりました。

ちなみに、業界の「不況」については、債務整理特需(俗にいう過払バブル。実需としての性格はありますので、バブルという表現は適切ではなく、特需と表現するのが正しいです)の終焉に加え、裁判所の統計によれば訴訟手続全般の新受件数も低落傾向にあること、企業倒産も史上有数の減少傾向が続いていることなどが要因(内訳)となっており、田舎の町弁の一人である私の実感も、概ねこれに沿うものとなっています。

他方、町弁が暇を持て余しているかといえば、必ずしもそうではなく、家事事件(主に、法テラス経由)を中心に、業界人の感覚では、業務量に比して報酬が大きくない、言い換えれば、相応の報酬はいただくものの、次から次へと細々した事務処理が必要になるため、時給換算で赤字計算になる仕事が多くなっている(それでも、仕事を選り好みする贅沢ができないので、研鑽の機会も兼ねて、受任して処理していかざるを得ない)のではないかと思います。

建設業の倒産が多かった時代(小泉内閣の頃)に私が管財人として携わった事件の記録(代表者の陳述書)に、破産に至る経緯として「不況なので採算割れする仕事も次々に受注し、ますます経営が悪化した」などと書いてあるのをよく見かけましたが、今や我が業界が、その様相を呈しつつあるのではと感じるところがあります。

もちろん、今は、町弁業界でも多人数のパートナー形式など僅かな経費負担で事務所経営をする若い弁護士さんも多く、私のようにイソ弁もいないのに一人で町弁2人分の運転資金を抱えるなどという人間は少数でしょうが、全体として、町弁(特に、若い世代)の所得水準が大幅に低下していることは間違いないと思います。

そんなわけで、私も、何年も前から、事務所の存続のため、若干でも経費を負担いただけるパートナーの加入を切望しているのですが、運の悪さか人徳の無さか、そうした出逢いに恵まれず、現在に至っています。平成20年前後には、新人を容易に雇用できるだけの売上があったので、その頃に良い出会いがあれば、今頃はパートナーに昇格して支えていただくという道もあったのでしょうが、様々な理由から人材獲得の努力をせず運を天に任せてしまいましたので、幸運の女神に後ろ髪はないというほかないのでしょう。なお、その頃の収益は、税金と住宅ローンの前倒し返済に消えました。

(以下、次号)