北奥法律事務所

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民事一般

水路や湖沼での転落事故と賠償問題

最近の判例時報で「飲酒酩酊した人がローソンの脇の側溝の水路に転落して死亡し、遺族が、水路を管理する自治体と水路脇の壁を管理するローソンに対し、水路や壁の設置管理の瑕疵等を理由に賠償請求したところ、自治体の責任は認めたものの8割の過失相殺をされ、ローソンへの請求は棄却された」という例が載っていました(富山地判H25.9.24判時2242-114)。

転落事故に関する国賠請求や工作物責任が問われた訴訟は多くの前例があり、解説には飲酒酩酊絡みでの歩行中の事故に関する前例などが紹介されています。

水路への転落ではありませんが、さきほど、秋田の八郎潟の水路でワカサギ釣りをしていた方が、氷が割れて湖水に転落したというニュースが出ていました。詳細は存じませんが、仮に、転落場所(水路)の管理者が、水面の状態などから転落等の危険があることを把握できたのに進入禁止など相当な措置を講じていなかったという事情でもあれば、国賠訴訟などに発展する可能性もあるかもしれません。

余談ながら、小学生の頃、丘の上の書道教室の帰りに凍結した沼(面積は学校のプール程度)に一人で入って遊んでいたところ、沼の中央で氷が割れて足下から沼に埋まり出られなくなったことがあります。幸い、30分~1時間ほどで救出され、事なきを得たのですが、水面が割れて氷の下に転落したという報道を目にすると、そのときのことを思い出さずにはいられないものがあります。

「自分は沼にも湖にも行かないよ」という方も、冒頭のような転落事故もありますので、お気を付け下さい。

名誉毀損のネット投稿に関する責任追及など

インターネット上で名誉毀損となる投稿がなされた場合、一般的には、サイトの運営者に対し投稿者のIPアドレス等の開示を求め、その開示を受けた後、IPアドレス等から把握できる「投稿者が契約しているプロバイダ(経由プロバイダ)」に対し、投稿者の住所氏名等の開示を求めるという方法を取るべきものとされています。

これは、いわゆるプロバイダ責任制限法に基づく手続なのですが、実際には、サイトの運営者が任意にIPアドレス等の開示請求に応じないことも多く、その場合には、裁判所に対し、その運営者を相手方として、IPアドレス等の開示を求める申立を行い、その命令をもとに強制的に開示させる以外には、手段がないと思われます。

ただ、その場合には、サイトの運営主体をどのように把握するか、その住所等(申立書の送達先)をどのように調査するか、管轄等はどうなるか、仮処分命令がなされたとして、運営者が現実に従うのか(従わないとして、強制的に開示させるには、どのような方法を講じることができるのか)といったハードルがあり、この制度も、決して万能ではありません。

そして、私の知る限り、この点が顕著な壁となって生じるのが、インターネット掲示板「2ちゃんねる」ではないかと思います。

5年以上前のことですが、2ちゃんねる上に名誉毀損の投稿をされたという方から、投稿者を特定して責任を問いたいという趣旨のご相談を受けたことがあります。それまで、この種の問題を扱ったことはありませんでしたが、当時、2ちゃんねるの投稿被害が社会的にも多いに問題となっており、盛岡に、その問題を専門的に扱う方がいるという話も聞いたことがありませんでしたので、お役に立てればとの思いで調査等をお引き受けして色々と調べるなどしたのですが、結局、上記の壁(ちょうど、2ちゃんねるの運営が創業者の西村氏からシンガポール国籍の会社に譲渡されたなどという報道が飛び交っている時期で、その点でも幾つかのハードルがありました)にぶち当たり、当方では対応困難として、お断りせざるをえませんでした。

その後、平成25年に2ちゃんねるなど各種の掲示板での名誉毀損の投稿に対する削除及び発信者情報開示請求の手続について詳細に記載した書籍が出版されており(中澤佑一「インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル」)、同書には、平成25年当時における2ちゃんねるへの発信者情報の取得のための仮処分の申立等の方法(シンガポール国籍の会社を相手方とする申立の方法や必要書類の取得方法など。なお、法務局に納付を要する供託金は30万円とされています)及び仮処分命令に基づく2ちゃんねるのサイトへの発信者情報の開示請求の手続などについて、詳細に説明がなされています。

ただ、さきほど、2ちゃんねるのサイトを確認したところ、現在、同サイトの管理会社として、上記会社とは別の会社(ネット情報では、フィリピン国籍と表示しているものもあります)が表示されており、現在も、2ちゃんねる絡みの投稿問題で発信者情報の開示請求を行う場合には、当事者の特定や所在などで厄介な論点が存するため、上記の問題を取り扱って成果をあげた、限られた弁護士でないと対応が困難ではないかと思われます。

私に関しては、その後に2ちゃんねるの投稿問題に関しご相談を受ける機会はなく、社会的にも、2ちゃんねるに関しては、当時に比べれば沈静化した面はあるのではないかと思っていますが、違法行為(名誉毀損投稿)の温床になっている社会的存在(2ちゃんねる)が、当事者の特定や所在などという、法的責任を問うための事実調査のレベルで大きな困難を伴い、結果として権利保護(被害者から投稿者=加害者への責任追及)が困難になるというのは望ましくないことは明白で、上記の壁をクリアできるような、何らかの立法的解決を要するのではないかと思います。

例えば、名誉毀損投稿が頻発しているようなサイトについては、消費者庁が指定して、サイトの運営者は被害者から削除や発信者情報開示の請求がなされた場合には直ちにこれに応じることができるシステムを構築しなければならない(その認証等を受けなければ、サイトの閉鎖命令に応じなければならない)とするような特例法を考えてもよいのではないかと思っています。

「物議を醸す施設」の建設阻止(営業妨害)と関係者の責任

行政が、周辺住民などが反対する企業の進出を阻止するため、風営法などの立地規制を利用しようとして、その企業と賠償問題などの紛争になることがあります。

先日、その一例として、「パチンコ業者Xの出店を阻止するため、国分寺市Yが風営法の立地規制を利用する目的で、市立図書館条例を改正して隣接地に図書館を開設して出店を断念させたため、XがYに賠償請求し、3億円強が認容された例」(東京地判H25.7.19判例地方自治386-46)を少し勉強しました。

解説では、個室付浴場や高層マンションの建設を阻止する目的でなされた行政等の措置に関する国賠請求が認容された前例などが紹介されています。

この種の出店妨害は、同業者がライバル業者の出店を阻止する目的で、土地を取得し社会福祉法人などに寄付する方法でなされることもあり、最高裁の判決があるほか、盛岡でもこの種の裁判が提訴され巨額の賠償が命じられた例があります。

パチンコ等の業態に対する社会的な評価はさておき、設置規制などを、設置反対者の利益を図る目的で、法の趣旨に即しない形で活用(悪用?)したと裁判所が評価した場合には、厳しい判断がなされる可能性が濃厚ですので、それらの施設の建設を阻止したいということであれば、急進的な手法は通用しない可能性が高いとの認識のもと、遠回りでも、良好な景観形成などに関し、文化的なものから法的なものまで地道かつ多様な努力を積み重ねていただくほかないのではないかと思います。

ところで、上記の判決の認定によれは、市が条例の制定にあたり、顧問弁護士などに法的リスクについて諮問し、「リスクがあるが、●●の展開になれば賠償紛争を避けられるかも」などと回答していたようです。この種の相談を受ける弁護士としては、リスクを強調して依頼者が行おうとする行動を極力防ぐ方向で回答すべきか、何らかの手段がありうるとして依頼者の希望に沿う方向で回答すべきか、悩ましい面が色々とあると思いますが、少なくとも、前例などを調査し紹介するなどして、依頼者が適切な判断をできるように努める必要があります。

この事案では、顧問弁護士が諮問を受けたのが平成18年とのことですが、パチンコの出店妨害問題を巡っては、平成19年に最高裁の判決がなされているものの、それ以前に最高裁の判決はないようですので、当然に顧問弁護士の判断を違法(業務水準違反)と言うべきではないでしょうが、その種の紛争に関する下級審裁判例はそれなりに出ていたそうなので、それらを調査し市に提供することが求められていたというべきかもしれません。

この点に関し、景観保全のためマンション建設を巡る紛争が生じた国立市では、業者が市に賠償請求して認められ、住民訴訟により市長個人の賠償責任が問われ、責任を認める判決がなされており(東京地判H22.12.22)、上記の国分寺市の事件でも、市長その他の責任が問われる事態もありうるかもしれません。

その場合、事案次第では、事前に関与した弁護士も相被告として提訴される可能性もないとは言えないのでしょうし、今後は、自治体の権限強化(地方分権)が叫ばれることで、自治体の権限行使の適法性を問うような紛争は増えてくると思われます。

「周辺住民等から反対運動が生じる施設の建設等の阻止を巡って賠償問題が生じる例」は、風営法を利用したパチンコ施設の出店妨害の問題に限らず、廃棄物処理施設などでも生じており、そうした事案への対処も含め、研鑽を積んでいかなければと思っています。

弁護士の作成書面と礼節

弁護士が訴訟等で作成する書面は、争点を巡る当事者間の対立の度合いなどに応じて、時に、相手方への厳しい批判を伴うことがあります。ただ、度を過ぎると、名誉毀損などの問題を生じることもあり、賠償請求に関する裁判例も幾つか存在します。

現在、弁護士15年目にして、はじめて「弁護士を被告とする訴訟」をやっています。といっても、名誉毀損絡みではありませんし、原告が私でないことはもちろん、被告も岩手の先生ではなく、また、特異な経過を辿った事件で、典型的な「弁護過誤」などとは異なるタイプの事件です。

ただ、被告たる弁護士の方の行動については、立場論だけではない、弁護士の仕事のあるべき姿という意味で、首を傾げざるを得ない面があり、対応に苦慮しています。

先日、被告側からある申立があり、すでに退けられているのですが、その中でも、「(私が、遠方にある被告の事務所に来ないから)無責任だ、軽率だ、怠慢だ、迷惑だ、不正義だ」などと不満の言葉ばかりを並べ立てた主張がありました(それを前提に、裁判所に特定の措置を講じて欲しいとの申立になっています)。

しかし、その事案の内容に照らしてもおよそ無理のある主張で、ただでさえ問題の多い事案なのにと、ため息ばかり積み重ねざるを得ませんでした。

もちろん、私も罵詈雑言を重ねたのでは同レベルに堕ちてしまいますので、相手方の主張の前提(当方に特殊な義務があるなどという主張)自体が根本的に誤っていると反論するに止めています。

係属中の事件であり、特殊な事情が多いこともありますので、これ以上、具体的なことを記載するのは差し控えますが、どのような事情があるにせよ、弁護士の作成する書面は礼節を弁えないと、一部に真っ当な主張が含まれていたとしても、主張全体が信用されないことになりやすいのではないかと思います。他山の石ということで、気を付けていきたいものです。

重大犯罪被害に関する支援費用と人身傷害補償保険

最近、殺人事件など痛ましい犯罪被害の報道がなされる際、被害者側(遺族など)が、代理人の弁護士を通じてコメントを公表する例が増えているように思います。

日弁連では、数年前から、犯罪被害者や遺族のための報道対応や刑事手続に関する支援活動という分野(業務)をPRしており、刑事手続に被害者等が参加するための法整備も一定程度はなされているため、賠償請求以外の場面でも弁護士の支援を受けることを希望する方が増えつつあるようです。

ただ、その「支援」も、相応の費用を要するとなれば尻込みする(或いは支払困難な)方も少なくないでしょうし、そもそも、犯罪被害に遭わなければ支援なるものも要しなかったわけで、できることなら加害者に支払って欲しいと思うのが人情ではないかと思います。

もちろん、弁護士側も、その種の活動に特殊な使命感等を持ってボランティア的に取り組んでいる方もおられるでしょうし、高額な賠償請求と回収が見込める事案であれば、賠償に関する受任費用で賄う(言うなればセット販売)という発想で、報道対応等については無償で対応するという例もあるのかもしれません。

ただ、基本的には弁護士も、業務(食い扶持)として仕事をしていますので、「支援」とか「寄り添う」などと美名?を称する場合でも、最終的には何らかの形で対価というものを考えざるを得ません。

私はその種の業務(重大犯罪被害者の報道対応や刑事手続参加等の支援業務)のご依頼を受けたことがないので詳細は存じませんが、聞くところでは、経営負担のない若手など一部の弁護士の方が、法テラスなどを通じ僅かな対価で取り組むことが多いようです。

この点に関し、「Y社が経営する学習塾内で塾講師Aが児童Bを殺害したため、両親XらがYに対し、使用者責任に基づき損害賠償請求し、その際に、賠償請求自体に伴う弁護士費用とは別に、遺族として報道や刑事裁判などの支援対応を受けたことによる弁護士費用として100万円を請求したところ、当該請求を裁判所が全面的に認めた例」があり(京都地判H22.3.31判時2091-69)、解説によれば、刑事支援費用の賠償を認めた(論点として扱った)例としては、唯一かもしれないとのことです。

判決によれば、受任した弁護士の方には相応に膨大な従事時間があったようで(但し、細かい立証がなされたわけでもないようですが)、そうしたことも考慮して上記の金額が認容された模様です。

ただ、このケースでは、Y社に十分な資力があるとか、Y社が加入している賠償責任保険が利用できるといった事情があるのであれば、Xや代理人弁護士としては問題ないものの、Y(加害者側)に支払能力がない場合であれば、本体的な損害賠償請求権と同じく、絵に描いた餅にしかなりません。

ここ数年も、ストーカー関連の殺人事件など理不尽で痛ましい重大犯罪被害が幾つも生じていますが、その多くが、加害者(賠償債務者)が無資力ゆえに賠償請求の回収が期待できない事案と目され、こうした問題は長年に亘り指摘されながらも、一向に改善の兆しが見えません。

この点、交通事故に関する自動車保険契約では、人身傷害補償特約が普及しており、加害者が無保険でも、被害者側で契約している任意保険から一定額の補償(保険金)を受けることができ、この特約は、犯罪被害にも対応する(或いは犯罪被害向けの特約も付して販売されている)例も少なくないようです。

そのため、こうした保険(特約)に加入している方であれば、加害者側が無視力でも民事上の被害回復を一定程度、図ることができることは確かだと思います。

ただ、人身傷害補償保険は実損ベースの算定とはされているものの、被害の全部を補償するわけではなく、約款により一定の限度額が設けられている上(私が関与した交通事故事件では、人傷保険金として給付された額が、総損害額の7割前後だったとの記憶です)、時には、「実損」の算定を巡っても保険会社と被害者(契約者)とで争いになることがあります。

そのため、そうした保険会社に請求する場合も含めて、かつ、賠償請求だけでなく上記のような報道対応等の支援に関する弁護士費用なども含む、被害者に生じた被害を全面的に填補する保険商品を販売する保険会社が現れるのを期待したいところです。

また、当然ながら、自動車を保有しない=自動車保険契約をしない世帯向けに、生命保険や損害保険などの特約として同種の保険商品を販売、購入する取り組みが広まって欲しいものです。

そして、究極的には、「掛け捨て」の特質として、保険事故=犯罪が減少すればするほど保険会社にとっては利益があるわけですから、保険会社が保険料を原資に相応の費用を投じて、行政が行き届かない犯罪予防のための様々な取り組みを行うようなことも、なされればよいのではと思います。

弁護士の立場では、「犯罪被害対応支援」は、現在のところ、労働に見合った十分な対価をいただくのが困難な分野と目されているようにも思われ、現状ではそのようにならざるを得ない構造的な制約もあります。

しかし、理不尽な重大犯罪被害のような問題は、追突などの交通事故と同じく、社会が存在する限りは誰かがババを引いてしまう面があるため、全員が広く薄く負担することで被害者に手厚くする仕組みが求められていると思われ、保険商品の設計のあり方なども含め、関係者の熟慮と行動を願うばかりです。

私自身は、この種の業務はタイムチャージとするのが適切と思いますが、事案によっては前記判決のように相当な額になるでしょうし、「過剰支援(要求)」などという問題も生じるでしょうから、保険給付のルールや類型ごとの上限、保険と自己負担の割合なども含めた費用のあり方についても、検討が深まればと思います。

契約書によって相手方に弁護士費用を負担させることは可能か

裁判のご依頼や相談を受ける際に、「自分が勝った場合に、自分が(私=受任弁護士に)支払う弁護士費用を、相手方に負担させることができないのか」という趣旨の質問を受けることが珍しくありません。これとは逆に、自分が負けた場合に、相手方が依頼した代理人(弁護士)の費用を自分が負担しなければならないのかという質問もしばしば受けます。

業界人にとっては常識ですが、現在の法制度には「弁護士費用の敗訴者負担制度」が存在しませんので、勝った側も負けた側も、ご自身が依頼する代理人(弁護士)の費用は自己負担というのが原則です。

ただ、不法行為(等)に基づく損害賠償請求については、他の損害(慰謝料、逸失利益など)の合計額の概ね1割相当の額を、加害者が負担すべき弁護士費用として被害者への賠償を命じるのが実務(判決)の通例ですので、その点は、全面的負担ではないとはいえ、一応の例外ということになります。

そのため、契約上のトラブル、例えば、売掛金の請求に関し、不払を続ける債務者に支払を求めるケースなどでは、自己負担を余儀なくされるわけですが、仮に、最初の契約時に、特約で「期限どおりに支払わない場合に、債権回収のため依頼した弁護士費用は、債務者が全面的に負担する」という趣旨の条項を契約書内に設けておけば、債権者は債務者に請求できるのではないかという話が出てくるのではないかと思われます。

この点は、私の知る限り、議論が深まっていない論点で、判例等もほとんど聞いたことがありません。ネットで少し検索しても、「敗訴者負担反対運動」が盛り上がった時期に、一部の弁護士会が、そのような定めを契約書に盛り込むべきでないなどと書いた意見書を公表した話が出てくる程度で、現在の実務の指針になるような解説を見つけることができませんでした。

ただ、先日、マンションの管理組合が管理費等を滞納した区分所有者に請求するにあたり、「弁護士費用を滞納者が負担する」との規約があることを理由に、滞納管理費とは別に、管理組合が依頼した代理人(弁護士)の委任費用を請求し、裁判所がこれを全面的に認めた例というのが掲載されていました(東京高判H26.4.16判時2226-26)。

この件では、未払管理費が約460万円、確定遅損金が約130万円で、それとは別に、管理組合の代理人費用(着手金・報酬金の合計)として100万円強を請求しており、1審は、代理人費用を50万円のみ認めましたが、控訴審は100万円強の全額を認めています。

判決は、規約に基づく「違約金としての弁護士費用」の法的性格について、区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているに過ぎないから、組合側が債権回収にあたり弁護士費用等の自己負担を余儀なくされるのは衡平の観点から問題であり、不払を自ら招いた滞納者が全部負担するのが相当だとして、違約金の性格は違約罰と解し、組合が余儀なくされた費用の全額を滞納者が負担すべきだとしています。

解説によれば、標準管理規約(マンションに関し国交省が作成しているもの)に同趣旨の条項が設けられているとのことですので、この判決の理に従えば、同じ規約を用いている分譲マンションに居住している方は、管理費を滞納した場合、特段の事由がない限り、同様に、管理組合側の代理人費用まで負担しなければならないということになるかもしれません。

特に、この判決をなさった方が、弁護士費用をはじめ弁護士を巡る法律問題の泰斗とされている加藤新太郎判事なので、業界内での影響がありそうな気がします。

ところで、このように、規約に定めていれば弁護士費用を請求できるという判決が存在する以上、これはマンション限定と解釈しなければならない理由はなく、売買や請負(業務委託)、賃貸借など、他の契約でも、同様の特約を設けておけば、同様に契約に基づく代金や賃料等の支払を怠った側に請求をする際、弁護士費用を付して請求することができる可能性は十分にありうると思われます(判決はもちろん解説でも触れられていませんが)。

ただ、上記のように、「当然の義務を履行しない者のため、債権者が経費負担を余儀なくされるのが不当だという当事者の衡平」を重視するのであれば、議論の余地のない債務(一般的な賃料や、売掛金等の債権内容に争いがない場合)なら、債務者に負担させる特約が有効になりそうですが、相応の理由があって支払拒否に及ぶ場合などは、債務者に負担させることができないと判断される可能性があるかもしれません。

また、とりわけ事業者と消費者との契約に関しては、現時点では、そのような特約が消費者契約法違反として無効となる可能性は少なくないのではないかとも思われます。

ともあれ、経験上、支払義務に争いのない売掛金(特に、中小企業間の取引)について正当な理由のない支払拒否についてのご相談も多く接していますので、そうしたものについては、上記の判決の考え方からすれば、回収のため依頼した弁護士の費用を相手方(債務者)に請求する特約が有効と認められる可能性は大きいのではと思われます。

ですので、とりわけ、取引先からの売掛金の回収に日々苦労なさっている中小企業の方々などにおかれては、受注段階で適切な契約書を作成すると共に、正当な理由のない支払拒否のため弁護士への依頼を余儀なくされた場合には、その経費は債務者が負担する旨の特約を盛り込んでおくことを、強くお勧めしたいところです。

また、現在の我が国では非現実的かもしれませんが、将来的には、婚姻時に、「不貞など有責行為をしたため離婚を余儀なくされた場合には、財産分与その他の関連手続を含め、弁護士費用はすべて有責配偶者の負担とする」などという契約を締結し、離婚時に、その有効性や射程距離を法廷で争うようなご夫婦も登場するかもしれません。

ともあれ、この論点(契約に基づく弁護士費用の債務者負担やその程度)に関する議論(ひいては論点の知名度)がもっと深まってくれればと感じています。

 

学校等での不祥事(被害事件の発生)と被害者側への調査報告義務

「学校でいじめが生じて被害者(生徒・児童)が自死に及んだ後、遺族が加害者側や学校に対して賠償請求する例」は、判例雑誌などで時折見かけることがあります。

当事者(加害者)に社会通念上容認しがたい「いじめ行為」があったという具体的な事実が判明すれば、加害者本人はもとより、その親権者や学校側が監督責任としての賠償義務を負うことがあり、裏を返せば、そのような事実が解明できなかった場合には、立証不十分で遺族の請求は棄却される可能性が高いと言えます。

もとより、遺族には事件発生(子の自死)に至るまでの事実関係を解明するのは容易でなく、学校に対し事実の調査、解明を行って欲しいと期待するのは当然やむを得ないことと言えます。

そのため、学校が当初から不誠実な対応に終始するなど、事案の解明や報告に取り組まなかった場合には、いじめ行為への監督云々とは別に、それ自体(調査報告の懈怠)が違法行為(義務違反)に当たるとして、遺族への賠償義務がみとめられることがあります。

例えば、「私立中の生徒が自殺し両親が後になって全容解明を希望し徹底調査を求めたものの学校が拒否したケースで、学校に調査報告義務違反ありとし慰謝料の支払を命じた例」があります(高知地判H24.6.5判タ1384-246)。

事案と判旨は次のとおりです。

『Y1学園が経営する私立中の1年生Aが自殺した。両親Xらは当初、自殺の事実を伏せたいと考え、Y1もそれに沿う対応をしていたが、後日、Aがクラブ内・教室内でいじめ・嫌がらせを受けていた事実が判明したため、XらがY1に徹底調査を求めた。

ところが、Y1は、一部の者のみの簡易な聴き取りのみを行いXが求めた全校調査等を拒否したため、Xらは、「Y1は自殺の原因を調査しXらに報告すべき義務あるのに怠った」と主張し、クラス担任Y2及びクラブの顧問Y3を含め、総額800万円(Y1にX1・X2各250万円、Y1・Y2連帯でXら各100万円、Y1・Y3連帯でXら各50万円)を請求した。

判決は、Y1にXらに各80万円、Y1・Y2に連帯でXらに各15万円の支払を命じ、Y3への請求は棄却(総額190万円を認容)。

裁判所は、Y1が、本件自殺が学校生活上の問題に起因する疑いがあることを真摯に受け止め原因が構内にあるか調査しXらに報告すべき必要性は相当程度高かったのに、消極的な姿勢でその調査等を行わなかったと判断し、自殺から2年以上が経過した判決時には当該解明は事実上不可能になってしまったことなどを重視し、義務違反を認めた。但し、Yに有利となる事情も斟酌し、賠償は上記の金額に止めた。』

また、「いじめ」以外でも、小学5年生の児童が自死した件で、遺族が担任の指導(学校内での接し方)に問題がある(児童へのパワハラ的な行為があった)と主張し、学校に調査、報告を求めたのに、学校がこれを怠ったとして賠償請求した件で、担任の指導に違法な点はなかったものの、学校に調査、報告義務違反があるとして、その点を理由とする賠償請求が認容(総額110万円)された例もあります(札幌地判H25.6.3判時2202-82)。

このように、「生徒・児童に深刻な被害が生じた場合に、学校生活にその原因となる事情が存すると疑われる相当な理由がある場合には、本人・家族の求めにより学校が相当な調査、報告をする義務を負い、これを果たさないと賠償の対象となる」ということは、裁判所の一般的な認識として、認められているということができるのではないかと思います。

そして、このような考え方は、一定の応用が利くのではないかとも思われます。すなわち、企業に勤務している方に深刻な被害(例えば過労や職場内のいじめ等による自死など)が生じた場合に、その原因が企業での勤務状況にあると疑われる相当な理由がある場合には、本人・家族の求めにより勤務先が相当な調査・報告をする義務を負い、これを果たさないと賠償の対象となる(被害そのものに責任がなかったとしても、判明後の対応の不備を理由に慰謝料等を賠償しなければならない場合がある)」と考えることができるのではないでしょうか。

また、こうした話は、労働契約に限らず、介護施設を利用している方に関し自死や重大な事故が生じた場合(入院中の事故など医療機関を含む)など、様々な形で応用範囲が広がってくる可能性があります。

この点、上記の札幌地裁判決では、調査・報告義務の根拠を就学契約に求めているとのことで、生徒・児童の「利用者」という面を強調するのであれば、労働契約のような場合には応用の範囲は限られてくるかもしれませんが、それでも、こうした視点を持っておくことは、利用者(従事者)等と企業側の双方にとって、重要なことではないかと考えます。

とりわけ「見える化」などという言葉が広く用いられるなど、説明義務的な発想を広く認め、そのことにより社会の透明性や様々な意識(職業意識や規範意識など)の向上を図っていくことが現在の社会の潮流になってきていると思われ、そうした面も意識する必要があると考えます。

ただ、上記の「調査報告義務違反」で認められる金額は大きなものではなく、それのためだけに裁判を行うというのは、受任する弁護士に相当な費用を要する可能性が高い(その種の事案の性質上、膨大な作業を必要とする可能性が高いため)ことに照らせば、被害者側の権利行使の機会(利益)の保護という面からは、なお不十分という印象は否めません。

そのため、こうした問題を射程に入れた弁護士費用保険の開発や普及(適切な運用や審査制度等も含め)が求められるところだと思っています。

震災復興と労災問題

最近、震災の復旧・復興工事に関し、労災事故が増えているという報道を見かけることが多くなっています。
http://www.nhk.or.jp/lnews/morioka/6043313301.html?t=1397818123649

いわゆる労働災害(就労や通勤に関連して生じた事故や疾病等による被害)については、労災保険の給付対象になるか(労働者災害補償保険法に定める業務上の負傷、疾病等に該当するか)という問題と、雇用主等の企業に安全配慮義務違反を理由とする損害賠償責任が成立するかという問題があります。

これは、交通事故における「自賠責保険上の給付と民事上の責任(任意保険からの支払)」との関係に似ており、被害者や遺族は、労災保険の給付(療養補償給付=治療費、休業補償給付=休業損害など)を受けると共に、企業側に悪質な対応がある場合には、企業に対し、安全配慮義務違反を理由とする賠償請求(労災保険に含まれない慰謝料など)をすることが考えられます。

ちなみに、公務員の場合には、国家公務員・地方公務員それぞれに災害補償法が定められており、公務災害として認められれば、上記と同様の枠組みに従って、保険給付や賠償を受けることができます(被災自治体の公務員の超過労働が問題となっていますが、公務災害に該当する例も多々あるのではと思われます)。

ここ数年の判例雑誌を勉強していると、業務起因性(又は公務起因性)や安全配慮義務違反が争われる事案は時折みかけており、特に、長時間労働を余儀なくされた方が、くも膜下出血等で死亡又は重大な後遺障害を負った場合の業務起因性等が認められるかが争点となる事案が多いように思われます。

安全配慮義務違反に関しては、アスベスト関連の判例が多く取り上げられており、国家賠償請求などが絡んで複雑な様相を呈するものも少なくありません。

労働災害の疑いがある事故や疾病等について、雇用主側から納得のいかない対応を受けた場合や、労災の不支給決定を受けた場合に疑義があると感じている方などは、ご相談をご検討いただければと思います。

もちろん、企業サイドからのご相談等もお引き受けしておりますので、不相当な請求を受けて困惑しているとか、被害等の事前防止の観点も含めた対処のあり方などについて弁護士の支援を受けたいとお考えの方は、ぜひご利用いただけばと思っています。

なお、長時間労働や様々な業務上の事情が積み重なって労働災害が生じたと見込まれるケースなどでは事実関係の把握が大切ですので、時系列表の作成など、事案の概要を説明するための資料を予めご準備の上、相談の場に臨んでいただくよう、ご理解のほどお願いいたします。

外国人の研修生・技能実習生に関する労働問題

現在、生産年齢人口の減少などに起因して、外国人労働者の受入を促進すべきだという議論が活発化しており、最近では、安部首相が「外国人女性の家事労働への進出促進を」と述べた(で、批判された?)などという報道も見かけました。

外国人労働者を巡っては、何年も前から、研修制度の形で実質的には労働者と変わらない待遇で就労に従事させているという話があり、中には、工場で劣悪な条件で就労させているのではないかとして、問題になったケースも幾つかあったと記憶しています。

この点に関し、先般、「技能実習生(中国人女性)Xら5名が研修先のA社で就労していた件で、A社の役員がXらを劣悪な環境で就労させて様々な違法行為を行ったとして、A社及び役員のほか、A社を監督すべき立場にあった協同組合とその役員、Xら(実習生)のサポートを担当していた企業とその役員にも賠償責任を認めた例」を見かけました(長崎地判H25.3.4判時2207-99)。

中国人女性Xらは、H21出管法改正前の外国人研修・技能実習制度に基づき入国し、第一次受入機関たる雲仙アパレル協同組合Y3の傘下企業(第二次受入機関)であるA社で研修(縫製作業)をしていました。

が、Xらは、「A社(役員)は、長時間残業など労基法違反の環境でXらを就労させ、旅券・通帳等を違法に管理し、セクハラ・暴行をしており、その上、最低賃金法の定めを下回る賃金しか支払っていない」と主張して、関係者に賠償請求する趣旨の訴訟を起こしました。

法律構成としては、①A社役員Y1・Y2に対し、民法709条・同719条(共同不法行為)・会社法429条等(A社は審理中に破産)、②Y3と役員Y4に対し、民法719条・中小企業協同組合法38条の3(役員の賠償責任)・一般社団・財団法人法78条(法人の賠償責任)、③来日実習生のサポートを担当するY5社と役員Y6に対し、719・会社法429条(役員の賠償責任)・上記法人法78条、④公益財団法人国際研修協力機構Y7に対し、719条(調査義務違反)を理由に賠償請求しています。

裁判所は、Y7に対する請求のみ棄却し(Y7に義務違反にあたる事実なし)、他はすべて一部認容しており、金額はXら5名につき、一人あたり170~225万円ほどになっています。

判決では、Xらを労基法9条・最低賃金法の適用対象たる「労働者」と認め、Xら主張のY1・Y2による違法行為に加え、Y4・Y6がこれを幇助していたとの事実関係を認めたようです。また、破産手続済のY1に対する請求権は「悪意で加えた不法行為に基づく請求権」(破産法253条1項2号)に該当する非免責債権と認定しています。

この事件は長崎県の縫製工場を舞台としたもののようですが、岩手県北エリアも縫製工場が多いそうで(高級衣類を担当する質の高い縫製で評判らしいです)、現在と異なり企業倒産が非常に多かった10年近く前には、沿岸北部の縫製工場が倒産し、私が破産管財人を担当したことがあります。

幸い、その企業に関しては上記のような問題を耳にすることはありませんでしたが(未払賃金があったものの、労働者健康福祉機構による立替払+財団債権としての配当により、大部分をお支払いしたはずです。反面、それで原資が尽き、一般債権者には一切配当できませんでしたが)、申立以前に外国人の方(実習生?)も従事していたという話を聞いたような記憶があり、当時すでにこの問題が話題になっていたことから、そのような問題がなければと思ったことを覚えています。

好むと好まざるとに関わらず、被災地などの労働者(生産人口)不足に伴い、外国人労働者等の何らかの形での受入の増大は高まらざるを得ないのではと思われます。

このような事件が起こらないよう、また、職場でのトラブル等があれば、大事になる前に企業外部を含む関係者が早期に適切な対処ができるよう、このような判例などをもとに勉強したり、弁護士等のサポートを受けていただければと思っています。

 

民事執行制度の強化を巡る議論と展望

交通事故などの事故・事件の被害者や知人に頼まれ大金を貸して返済を受けられないままの方など(債権者)が、支払義務を負う者(債務者)に対して裁判を起こし、苦心して支払を命じる判決を受けたものの、債務者の財産がまったく分からず、ちっとも債権を回収できないというケースは、我が国では珍しくありません。

債務者に関して言えば、次のようなパターン(類型)があるかと思います。

①相当額の財産を有している可能性が十分あるものの、債務者の所在が不明or広域で活動しているなど、どこに財産を持っているかの手がかりを掴むのが難しいもの。

②債務者の所在等は分かっているが、居住地等に不動産を所有しておらず、居住地付近の金融機関に預金の差押をしても奏功せず(口座がないか、あっても残高がほとんどない)、他に財産の所在等が分からないもの。

③そもそも、その債務者の所有資産が皆無に等しいと考えざるを得ないもの。

この点、我が国では、判決を有する債権者などの照会に応じて債務者のあらゆる金融機関の口座情報などを一括して回答する仕組みは現時点で存在していません(生命保険の契約情報については一括照会制度はあるものの、債務者の同意がない限り保険会社が回答を拒否する例もあります)。

そのため、債権者が少なくない経費と手間をかけて、債務者の居住地を管轄する幾つかの金融機関(支店)に債権額を割り付けて差押申立を行うことがありますが、大概は、前記②のように「預金がないか、あっても僅少」との回答を受けておしまいというケースが少なくありません。

債権者によっては、深刻な事故の被害者でご自身に過失がほとんどない場合のように、非常にお気の毒な方もおられますので、そのようなケースに直面すると、法の不備があると思わずにはいられない面があります。

反面、本当に財産のない(かつ、形成できる能力も乏しい)人について強制収容所のようなものを作って収容し強制労働の賃金で返済させるなどという法制度が我が国で採用されるはずもなく、「救済(支払確保)の必要が高いのに回収が困難な債権者」の方にお会いすると、ただただ残念な気持ちばかりが募ってしまいます。

せめて、強制執行等の対象となりうる債務者の財産の有無を簡易かつ確実に把握できる制度があれば、「財産がない」と判明する場合も含め、債権者にとっては気持ちの整理ができる面がありますが、それとて、上記のとおり金融機関の照会制度の不備や回答拒否など、我が国では必ずしも機能しているとは言い難い面があります。

この点に関し、現在の民事執行法には、「財産開示手続」という債務者に自己の財産状況を開示するよう命ずる制度があるのですが、この制度も、債務者が期日に出頭せず流会で終わることが多く、十分に機能を果たしていないとして、「債務不履行者名簿」を作って閲覧等できるようにしたり信用情報登録制度とリンクさせるなど(不払者にとっては強いプレッシャーになり得ます)、制度をより強化すべきだと主張されることも少なくありません。

ちなみに、昨年に判例タイムズに掲載された論文(1382号等)は、そうした立場をとっており、韓国の制度がそのようなものになっているということで、それを取り入れることを提案する内容になっていたはずです。

これに対し、今年の2月に奈良地裁の今井輝幸裁判官が公表した論文「韓国の財産開示制度の現状」という論文(判例時報2207号)は、執行制度の基礎をなしている様々な法文化や制度に違いがあるとして、慎重な立場をとっています。

思いつきレベルですが、双方の立場の違いは、「司法積極主義と司法消極主義」という我が国の司法に関する大きな路線対立の問題(いわば、理念重視派と国情重視派の対立といってよいのかもしれません)とも繋がりがあるように感じられ、そうした視野からこの論点を考えてみるのも興味深いのではと感じたりもします。

それはさておき、15年も実務の世界で生きていると、我が国では、「払えない人」を強く追いつめるような制度ないし実務はなじまないと考える方がほとんどで、その種のケースで取立を強化する法制はあまり期待できないと思われます。

そうした点では、交通事故における人身傷害保険のように、相手方が無資力の場合に不良債権の填補を受けられるような自己防衛的な保険等の制度を、様々な形で普及させていく方が現実的なのかもしれませんし、人身傷害保険や弁護士費用保険が普及しているように、実損填補型の保険等に関する潜在需要は我が国には十分あると言ってもよいのではと感じています。

また、財産開示制度の改正の要否はさておき、少なくとも、一定の条件を備えた債権者については、弁護士法23条に基づく照会制度ないし照会先の受け皿の強化(情報集約システムの整備)など、債務者の資産などに関する情報収集の制度をより強化していただきたいと思っています。

余談ながら、今井裁判官は私が修習生時代にお世話になった方で、数年前から韓国法の専門家として刑事法などでお名前をお聞きすることがありましたが、当時から大変勉強家の方で、今回の論文も韓国の法制や法文化などに対する造詣の深さを強く感じさせられました。

私は、平成22年に日弁連の行事(人権擁護大会)の企画で数日だけ訪韓し、韓国の廃棄物法制(不法投棄対策など)や実務に関するお話を伺うなどしたものの、恥ずかしながら「チラ見」レベルで終わってしまったということがあり、外国法に限らず、今井さんを見習って、もっと努力を積み重ねなければと恥じ入るばかりです。